JP3542239B2 - 耐伸線縦割れ性に優れた高強度ステンレス線材及びその鋼線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高強度ステンレス鋼線材及びその鋼線に関わり、さらに詳しくは伸線加工時の縦割れを防止した高強度オーステナイト系ステンレス鋼線材及びその鋼線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ばね用等のステンレス鋼線においては軽量化のニーズが高まっており、高強度化が要望されるようになってきた。すなわち、引張強さで1900N/mm2 以上が要求される。この種の材料としてSUS301等のステンレス鋼線材を強伸線加工した鋼線が使用されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの鋼の線材は強伸線加工を施すと伸線加工時に縦割れが生じる可能性があった。そのため、一部の伸線縦割れ材の判別のため、多大な労力を要し、生産性を著しく低下させていた。
本発明の目的は、前記線材の伸線加工時における縦割れを抑制し、耐伸線縦割れ性に優れた高強度ステンレス鋼線材及びその鋼線を安定して提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、ステンレス鋼線材及びその鋼線において、強度を確保しつつ、伸線加工時の加工誘起マルテンサイト量を制御するよう成分を限定することで、耐伸線縦割れ性に優れた伸線加工用高強度ステンレス鋼線材及び伸線縦割れのない高強度ステンレス鋼線を得ることができることを見出だした。本発明は、この知見に基づいてなされた。
【0005】
(1)本発明の耐伸線縦割れ性に優れた伸線加工用高強度ステンレス鋼線材は、質量%で、
C :0.07〜0.14%、 Si:0.1〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%、 Ni:6.0〜9.0%、
Cr:15.0〜19.0%、 N :0.005〜0.15%、
水素:1.5ppm 以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、前記(1)式で表されるTの値が0.18〜0.30(%)、前記(2)式で表されるMd30の値が0(℃)〜35(℃)で、伸線加工後の強度が1900N/mm2 以上、加工誘起マルテンサイト量が30〜80%であることを特徴とする。
(2)また、本発明の伸線縦割れ性に優れた伸線加工用高強度ステンレス鋼線材は、前記(1)の記載に加えて、質量%で、P:0.015%以下、又はMo:0.2〜2.0%を含有することを特徴とする。
(3)本発明の伸線縦割れのない高強度ステンレス鋼線は、質量%で、
C :0.07〜0.14%、 Si:0.1〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%、 Ni:6.0〜9.0%、
Cr:15.0〜19.0% N :0.005〜0.15%、
水素:1.5ppm 以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、前記(1)式で表されるTの値が0.18〜0.30(%)、前記(2)式で表されるMd30の値が0(℃)〜35(℃)で、伸線加工後の強度が1900N/mm2 以上、加工誘起マルテンサイト量が30〜80%
であることを特徴とする。
(4)また、本発明の伸線縦割れのない高強度ステンレス鋼線は、前記(3)の記載に加えて、質量%で、P:0.015%以下、又はMo:0.2〜2.0%を含有することを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明のステンレス鋼線材及びその鋼線の成分範囲について説明する。Cは伸線加工後の強度を1900N/mm2 以上にするために質量%で0.07%以上(以下、成分含有量は全て質量%)添加する。しかし、0.14%を超えて添加すると、粒界に炭化物が析出し、縦割れ感受性を高めることから0.14%以下とした。
【0007】
Siは脱酸のため0.1%以上添加する。しかし、3.0%を超えて添加するとその効果は飽和するばかりか、靱性が劣化し、Md30の値が0(℃)未満になり、伸線加工後の強度が低下するため、3.0%以下とした。
Mnは脱酸のため0.1%以上添加する。しかし、3.0%を超えて添加するとMd30の値が0(℃)未満になり、伸線加工後の強度が低下するため、3.0%以下とした。
【0008】
Niは伸線加工後の靱性を確保し、また、Md30の値を35(℃)以下にするため、6.0%以上添加する。しかし、9.0%を超えて添加するとMd30の値が0(℃)未満になり、伸線加工後の強度が低下するため、9.0%以下とした。
Crは耐銹性を確保するために15.0%以上添加する。しかし、19.0%を超えて添加するとMd30の値が0(℃)未満になり、伸線加工後の強度が低下するため、19.0%以下とした。
【0009】
Nは伸線加工後の強度を確保するために0.005%以上添加する。しかし、0.15%を超えて添加すると、鋼中への固溶量を超えて気泡を生成するばかりか、粒界に窒化物が析出し、縦割れ感受性を高めることから、0.15%以下とした。
Pは伸線縦割れを助長する元素であるため、低減する必要がある。特に加工誘起マルテンサイトが高い領域では縦割れ感受性が高くなるため、0.015%以下が好ましい。
【0010】
Moは耐銹性確保または、P化物生成により伸線縦割れを抑制するのに有効であるため、0.2%以上添加するのが好ましい。しかし、2.0%を超えて添加するとMd30の値が0(℃)未満になり、伸線加工後の強度が低下するため、2.0%以下とするのが好ましい。水素は伸線縦割れ感受性を高める元素であり、特に加工誘起マルテンサイト量が高い領域では水素含有量が1.5ppm を超えると縦割れ感受性が高くなることから、1.5ppm 以下とすることが必要である。
【0011】
次に本発明で特定した伸線加工後の強度及び加工誘起マルテンサイト量について説明する。伸線加工後の強度が1900N/mm2 未満の場合、伸線縦割れ感受性が低いため、本発明の如く成分等を限定する必要がない。それに対し伸線加工後の強度が1900N/mm2 以上の超高強度の場合、伸線縦割れ感受性が高くなるため、本発明の如く成分等を限定する必要がある。そのため伸線加工後の強度を1900N/mm2 以上とした。伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が30%未満の場合、この成分系では強度が1900N/mm2 未満になる。そのため、加工誘起マルテンサイト量を30%以上に限定した。一方、伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が80%を超えると伸線縦割れ感受性が高くなる。また、水素を1.5 ppm 以下に低減した場合や、Pを0.015%以下に低減した場合、Moを0.2〜2.0%添加した場合には、縦割れ感受性が低減できるため加工誘起マルテンサイト量の上限を80%以下とした。
【0012】
次に本発明で特定した(1)式、および(2)式について説明する。(1)式のTは母材中の引張強さに及ぼすC、Nの影響を調査した結果得られたものである。伸線加工後の引張強さを1900N/mm2 以上確保するためTの値を0.18(%)以上にする。しかし、0.30(%)を超えると伸線縦割れ感受性が高くなるため、0.30(%)以下とした。(2)式のMd30は伸線加工した後の母材中の加工誘起マルテンサイト量に及ぼす各元素の影響を調査した結果得られたもので、加工誘起マルテンサイト量に対し、効果のある元素と影響度を示すものである。Md30の値が0(℃)未満になると伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が30%未満になる可能性が高くなり、引張強さが1900N/mm2 未満になることから0(℃)以上とした。また、Md30の値が35(℃)以上になると伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が80%を超える可能性が高くなり伸線縦割れ感受性を高めるため、Md30の値を35(℃)以下とした。
【0013】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
表1に供試鋼の成分を示す。
【0014】
【表1】
【0015】
以上の供試鋼を通常のステンレス鋼線材の製造工程で溶製し、熱間で直径6.0mmまで線材圧延を行い、1000℃で圧延を終了した。得られた線材を約1050℃の3min の熱処理を施し、水冷した。その後供試鋼B,N,W,X,Zの半分を大気中で300℃×24hの脱水素処理した。引き続き、全供試鋼について減面率で65%の冷間伸線加工を施し、直径3.5mmの鋼線にした。また、供試鋼B,N,W,X,Zでは減面率75%の冷間伸線加工も施し、直径3.0mmの鋼線にした。
【0016】
次に該製品の水素量、加工誘起マルテンサイト量、引張強さ、縦割れの有無を得るための試験を行った。
水素量は伸線後の鋼線から試料を取り出し、不活性ガス溶融−熱伝導測定法により測定した。本発明例で脱水素処理を行ったものは水素量が1.5ppm 以下であった。
加工誘起マルテンサイト量は伸線後の鋼線を直流式のBHトレーサーにて測定した。本発明例の加工誘起マルテンサイト量は水素量が1.5ppm 以下、Pが0.015%以下の材料では30〜80%の範囲、その他は30〜75%の範囲内にあった。
引張試験はJIS Z2241により製品の引張強さを測定した。本発明例の鋼線の引張強さはいずれも1900N/mm2 以上であった。
縦割れの有無は各供試材よりランダムに10箇所を長さ100mmをサンプリングし、横断面に埋め込み・鏡面研磨した。その後、顕微鏡観察にて縦割れ有無の判定を行った。この時の縦割れ発生率を縦割れの評価とした。本発明例の縦割れ発生率は0%であり、縦割れは発生しなかった。
以上の試験結果を表2(本発明例、比較例)に示す。
【0017】
【表2】
【0018】
各表から明らかなように、本発明例は全て1900N/mm2 以上を満足し、全てにおいて縦割れが観察されず、耐伸線縦割れ性に優れていた。
【0019】
しかし、比較例No.5は伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているため、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.9はC量(2C+N量)が高く、粒界炭化物が析出するために、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.10はC量が低く、2C+N量が低いために強度が低いばかりか伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているため、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.11はN量(%)が高いため、ブローホールを発生し、製造性が悪く、評価不可であった。
比較例No.15はSi量(%)が高く、Md30の値が0℃未満であり、伸線加工後の強度に劣っていた。
比較例No.20は伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているため、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.21はMd30の値が35℃を超えており、伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているため、耐伸線縦割れ性に劣っていた。比較例No.22はMn量(%)が高く、Md30の値が0℃未満であり、伸線加工後の強度に劣っていた。
比較例No.23はNi量(%)が低く、Md30の値が35℃を超えており、伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているため、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.24はNi量(%)が高く、Md30の値が0℃未満であり、伸線加工後の強度に劣っていた。
比較例No.25はMd30の値が35℃を超えており、伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているため、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.27はCr量(%)が低く、Md30の値が35℃を超えており、耐伸線縦割れ性に劣っていた。
比較例No.28はCr量(%)が高く、Md30の値が0℃未満であり、伸線加工後の強度に劣っていた。
比較例No.37はMo量(%)が高く、Md30の値が0℃未満であり、伸線加工後の強度に劣っていた。
【0020】
ここで、本発明例No.39は加工誘起マルテンサイト量が75%を超えているが、脱水素処理により水素を1.5ppm 以下にしているため伸線縦割れが観察されておらず、耐伸線縦割れ性が向上した。以上の実施例から分かるように本発明の線材及びその鋼線の優位性が明らかである。
【0021】
【発明の効果】
本発明の耐伸線縦割れ性に優れた高強度ステンレス線材及びその鋼線によれば、線材の成分を調整してMd30を0〜35℃、2C+N量を0.18〜0.30%に制御して、伸線後の加工誘起マルテンサイト量を30〜80%に制御し、また、線材の水素を1.5ppm 以下にすると伸線加工後の伸線縦割れを抑制でき、伸線縦割れ無しに強度で1900N/mm2 以上の高強度ステンレス鋼線を安定して得ることができる。
Claims (4)
- 請求項1に記載の成分に加えて、
質量%で、P:0.015%以下、又はMo:0.2〜2.0%
を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐伸線縦割れ性に優れた伸線加工用高強度ステンレス鋼線材。 - 請求項3に記載の成分に加えて、質量%で、
P:0.015%以下、又はMo:0.2〜2.0%
を含有することを特徴とする請求項3に記載の伸線縦割れのない高強度ステンレス鋼線。
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