JP4289756B2 - 高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、清浄度が高く、結晶粒の微細が必要な高強度ステンレス鋼に関わり、更に詳しくは、例えば高強度ばね用ステンレス線材や鋼線(以下、本明細書において単に鋼線という場合がある)の伸線加工後の冷間加工割れ防止技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ばね用等のステンレス鋼線においては軽量化のニーズが高まっており、高強度化が要望されるようになってきた。この種の材料としてSUS304,SUS301,SUS302等のオーステナイト系ステンレス線材を強伸線加工した鋼線が使用されてきた。
【0003】
しかしながら、これらの鋼は強伸線加工を施すと伸線加工時および伸線加工後に縦方向に冷間加工割れ(時効割れ)が発生する場合があった。そのため、一部の伸線縦割れ材の判別のために多大な労力を要し、生産性を著しく低下させていた。
【0004】
また近年、この冷間加工割れ(縦割れ)に対して、成分,水素量や加工誘起マルテンサイト量を規制して防止する技術が提案されている(特開平10−121208号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来技術には、高清浄化と結晶粒の微細化による防止は検討されていない。
本発明の目的は、これらの鋼の冷間加工割れ(時効割れ)を高清浄化と結晶粒微細化の観点から抑制し、高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材を安定して提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材において、マトリックスの成分を限定し、かつ微細な酸化物の組成を限定することで、清浄度が高く、結晶粒微細化が容易で加工性に優れる高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材を安定して得ることを見い出した。本発明はこの知見に基づいてなされた。
【0007】
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、
Si:0.3〜3.0%、 Al:0.01%以下、
O :0.001〜0.005%、 C :0.03〜0.15%、
Mn:0.1〜3.0%、 P :0.05%以下、
S :0.01%以下、 Ni:6.0〜10.0%、
Cr:15.0〜20.0%、 N :0.15%以下
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、0.5〜2μmの酸化物の平均組成のCr濃度が20〜50質量%であり、鋼表層部の平均結晶粒径が50μm以下であることを特徴とする高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材。
(2)さらに質量%で、
Cu:0.1〜4%、 Mo:0.1〜3%
のうちの1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)に記載の高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材。
(3)鋳造後、分塊圧延せずに、直接、熱間圧延をしてなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材。
【0008】
【発明の実施の形態】
次に本発明で特定した非金属介在物のサイズとその組成について説明する。
鋼中の2次脱酸生成物である微細な酸化物中のSi酸化物は、熱処理により分解し、Cr酸化物へと置換する。この微細なSi酸化物の分解・Cr酸化物への超微細再析出によりオーステナイト粒界のピンニング力が増大し、溶体化処理で結晶粒が粗大化し難くなる。この時、Si,Mn,Al,Oの含有量を制限し、0.5〜2μmの酸化物の平均組成のCr濃度(微細粒酸化物中のCr濃度)を20%〜50質量%にすると、熱処理時の分解・再析出により、特に結晶粒が微細化することを見いだした。
【0009】
図1に、18%Cr−8%Ni−1.0%Mn−0.5%Si−0.004%O系の1100℃で溶体化処理した鋼線において、0.5〜2μmサイズの微細酸化物の平均Cr濃度(%)と結晶粒径の関係を示す。微細酸化物中のCrの平均組成が約20%以上になると特に粒微細化しているのがわかる。そのため、0.5〜2μmの酸化物の平均組成のCr濃度を20〜50%に限定した。
ここで、酸化物の平均組成は、非金属介在物中のSとCu元素(硫化物)を除いて質量%で換算して求めた値である。
微細化に影響を及ぼすのは、主に鋼の鋳造時に生じるサイズが約0.5〜2μmの範囲にある2次脱酸生成物であるため、本発明では規定する微細酸化物のサイズを0.5〜2μmに限定した。
【0010】
鋳造後の熱処理・熱間圧延等でマトリックス中に超微細酸化物を微細析出させるには、請求項1に記載したようにマトリックス中のSi量を0.3%以上,O濃度を0.005%以下,Al量を0.01%以下にして、鋳造時にSiリッチな2次脱酸生成物を微細晶出させることが有効である。
また、本発明では、鋼の加工性を維持して高強度化するために製品のオーステナイト粒を50μm以下に限定した。前述の介在物制御を行うことでオーステナイト粒は50μm以下になるが、好ましくは特に30μm以下である。
【0011】
次に、請求項3の鋳造後、直接、熱間圧延してなるものについての限定理由を説明する。
従来行われてきた分塊圧延を施すと、その熱履歴によりSiO2 系の介在物が比較的粗大なCr2 O3 に変化するため、粒界のピンニング力が低下し、本発明の効果が薄れる。従って、請求項1、2に規定した成分を含有する本発明鋼を、安価に製造できる直接−熱間圧延により製造される鋼に適用することが、その効果が特に優れる。そのため、請求項3では鋳造後、直接、熱間圧延してなる鋼線材に限定した。
【0012】
次に、本発明請求項1、2のマトリックスの鋼の成分範囲について述べる。
Siは脱酸のため、また微細なオーステナイト粒の原因となるSiO2 系の微細酸化物の生成を助長させるため0.3%以上添加する。しかしながら3.0%を超えて添加すると、その効果は飽和するばかりか靱性が劣化し、加工性を劣化させる。そのため上限を3.0%に限定した。
【0013】
Alは脱酸元素であるが、0.01%を超えて添加すると、オーステナイト粒を微細化させる微細SiO2 系の酸化物の生成を抑制するため、上限を0.01%に限定した。
【0014】
Oは微細オーステナイト粒の原因となるSiO2 系の微細酸化物(2次脱酸生成物)の生成を助長させるため、0.005%以下とした。一方、Oが0.005%を超えると脱酸生成物が粗大なCr2 O3 系になり、オーステナイト粒のピンニング効果が小さくなる。そのため上限を0.005%とした。しかしながら、Oが0.001%未満になるとピンニングする微細な酸化物量が少なくなり、微細粒にならないばかりか不経済である。そのため下限を0.001%にした。
【0015】
Cは冷間加工後の強度を得るために0.03%以上添加する。しかし、0.15%を超えて添加すると粒界に炭化物が析出し、加工割れ性を高めることから0.15%以下とした。
【0016】
Mnは脱酸のため0.1%以上添加する。しかし、3.0%を超えて添加するとその効果は飽和するし、経済的でない。そのため上限を3.0%に限定した。
【0017】
Sは加工性を劣化させ、また、耐時効割れ性を劣化させる元素であるため、0.01%以下に限定した。
Pは加工性を劣化させる元素であるため、0.05%以下に限定した。
【0018】
Niは冷間加工時の靱性を確保し、加工性を向上させるため、6%以上添加する。しかし、10.0%超添加するとその効果は飽和するし、経済的でない。そのため上限を10.0%に限定した。
【0019】
Crは耐食性確保のために15%以上添加する。しかし、20%を超えて添加してもその効果は飽和するし、経済的でない。そのため上限を20%に限定した。
【0020】
Nは冷間加工後の強度を確保するために添加するが、質量%で0.15%を超えると、鋼中への固溶量を超えて気泡を生成するばかりか粒界に窒化物が析出し、時効割れ性を高めることから、上限を0.15%に限定した。
【0021】
またCuは、オーステナイト系ステンレス鋼の冷間加工性を向上させるため、必要に応じて0.1%以上添加する。しかしながら、4%を超えて添加するとその効果は飽和するばかりか、Cu偏析により熱間での製造性を著しく劣化させる。そのため上限を4%に限定した。
【0022】
Moはオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を向上させるため、必要に応じて0.1%以上添加する。しかしながら、3.0%を超えて添加するとその効果は飽和し不経済であるばかりか、冷間加工性を劣化させる。そのため上限を3.0%に限定した。
【0023】
なお、本発明鋼は結晶粒の微細化を目的としているが、炭窒化物のピン止め効果により、溶体化処理時の結晶粒微細化を引き起こすため、Ti,Nb,V,W,Ta等を必要に応じて添加することができる。
【0024】
【実施例】
以下に本発明の実施例について説明する。
表1に本発明鋼A〜Nと、表2に比較鋼O〜Z,AA〜AEの成分を示す。
本発明鋼A〜Cと比較鋼O〜Sは、0.08%C−1%Mn−8%Ni−18%Cr−0.02%Nを基本成分として、酸化物の状態を大きく変化させるSi量(%),Al量(%),O量(%)を変化させたものである。
【0025】
本発明鋼A,D〜Fと比較鋼T〜Vは、0.6%Si−1.0%Mn−8%Ni−18%Crを基本成分として加工硬化を大きくし、冷間加工性に寄与するC量(%),N量(%)を変化させたものである。
【0026】
本発明鋼A,G,Hと比較鋼W〜Yは、0.08%C−0.6%Si−18%Cr−0.02%Nを基本成分として、オーステナイト組織を安定させるNi量(%),Mn量(%)を変化させたものである。
【0027】
本発明鋼A,I,Jと比較鋼Z,AAは、0.08%C−0.6%Si−1%Mn−8%Ni−18%Cr−0.02%Nを基本成分として、冷間加工性を劣化させる偏析元素であるP,Sを変化させたものである。
【0028】
本発明鋼A,K,Lと比較鋼AB〜ADは、0.08%C−0.6%Si−1%Mn−8%Ni−0.02%Nを基本成分として耐食性を向上させ、また冷間加工性を劣化させるCr量(%),Mo量(%)を変化させたものである。
【0029】
本発明鋼A,M,Nと比較鋼AEは、0.6%Si−1%Mn−8%Ni−18%Cr−0.02%Nを基本成分として、冷間加工性を向上させるCuを変化させたものである。
【0030】
これらの鋼は、線材の微細な酸化物の組成を変化させるために、製鋼段階で以下の処理を行った。すなわち精錬炉にて酸化物精錬時に生成したクロム酸化物を含むスラグの還元剤としてSi,またはAl含有物質を用いて、還元精錬後のスラグ組成を調整し、鋳造を行った。
比較鋼R,Sは、0.5〜2μmの酸化物介在物の平均組成のCr濃度を低くするためにAl還元を行い、鋳造を行ったものである。その他の鋼はSi脱酸を行い、鋳造を行ったものである。
【0031】
以上の鋳片はステンレス線材の製造工程で、連続鋳造された鋳片を、分塊圧延無しに1200℃まで加熱して、φ5.5mmまで熱間で線材圧延を行い、1000℃で熱延を終了した。
ここで、本発明鋼A〜Cは、前述の直接熱間圧延に加え、分塊圧延の効果を確認するために鋳片を1280℃加熱で分塊圧延し、その後、前述と同様な条件でφ5.5mmまで線材圧延を行った。得られた熱延材を1080℃で焼鈍し、酸洗を行って、φ4.0mmまで冷間で1次伸線加工を施し、1100℃でストランド焼鈍を施した。
ここで、微細な酸化物の組成をEDS分析により測定、およびオーステナイト粒径を実施した。続いて約70〜90%の減面率で、引張強さで1800〜2000N/mm2 の引張強さを狙って冷間で2次伸線加工を施し、加工割れの有無を評価した。
【0032】
微細な酸化物は、鋼線を#500研磨仕上げし、その試料を陽極として、10%無水マレイン酸+2%塩化テトラメチルアンモニウム+メタノール溶液中で約1200クーロン/cm2 の電流を流して、約0.5g溶解し、メッシュサイズが0.2μmのポリカーボネイトのろ紙でろ過して、微細な非金属介在物を抽出した。その後、ビームサイズが約1μmのSEM・EDS分析により、0.5〜2μmサイズの非金属介在物の組成を任意に10個測定し、その平均値で微細な酸化物組成とした。ここで、酸化物は硫化物と複合体となっているため、酸化物の組成を算出する時は、SとCu元素を除いて質量%で換算した。本発明の微細な酸化物中の組成はCr濃度が20%〜50%とした。
【0033】
オーステナイト粒径は、鋼線縦断面中心を鏡面研磨後、硝酸電解エッチし、倍率が100倍で光学顕微鏡観察を行い、切断法により平均結晶粒径を求めた。本発明の平均オーステナイト粒径は50μm以下とした。
【0034】
2次伸線後の加工割れは、伸線後の製品の断面を20カ所切断し、横断面に埋込み研磨し、その断面内の割れの有無で評価した。本発明の冷間加工性の評価は加工割れが無いこととした。
【0035】
以上の試験結果を本発明例として表3,比較例として表4に示す。
表3で明らかなように、本発明例は全て上記特性ランクを満足しているのに対し、表4の比較例No.15は結晶粒は微細でないが、O量(%)が低く、経済性に劣っていた。No.16はO量(%)が高く、粒粗大なため加工割れ性に劣っていた。No.17はSi量(%)が低く、粒粗大を示すため加工割れ性に劣っていた。No.18,19はAl量(%)が高く、粒粗大を示すため加工割れ性に劣っていた。
【0036】
No.20はC量(%)が低いため、伸線加工を施しても狙いの強度レベルにならず、本発明の目的でない。No.21はC量が高いため、加工割れ性に劣っていた。No.22はN量(%)が高く、気泡発生のため製造性不可であった。
【0037】
No.23はMn量(%)が高いため不経済である。No.24はNi量(%)が低いため加工割れ性に劣っていた。No.25はNi量(%)が高いため、伸線加工を施しても狙いの強度レベルにならず、本発明の目的を達成していない。
【0038】
No.26はP量(%)が高いため加工割れ性に劣っていた。No.27はS量(%)が高いため加工割れ性に劣っていた。
【0039】
No.28はMo量(%)が高いため、不経済であるばかりか断線が発生し、冷間加工性が劣化した。No.29はCr量(%)が低いため、加工性は良好であるが耐食性が劣っていた。No.30はCr量(%)が高いため不経済である。
No.31はCu量(%)が高いため熱間加工性が悪く、線材の製造性が不可であった。
【0040】
次に、鋳片を分塊圧延した場合の試験結果を表5に示す。本発明例No.32〜34は本発明例No.1〜3と比較して、分塊圧延を行うことで結晶粒径が大きくなっており、分塊圧延を行った製品に対しては、本発明の結晶粒微細化の効果が小さくなっているのがわかる。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明により溶体化処理後に微細化が必要な高強度準安定オーステナイト系ステンレス製品、例えばばね用高強度ステンレス線材および鋼線を安価に、且つ安定して提供することが可能であり、産業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】18%Cr−8%Ni−1%Mn鋼の微細酸化物中のCr濃度と1100℃溶体化処理後の結晶粒径の関係を示す図。
Claims (3)
- 質量%で、
Si:0.3〜3.0%、
Al:0.01%以下、
O :0.001〜0.005%、
C :0.03〜0.15%、
Mn:0.1〜3.0%、
P :0.05%以下、
S :0.01%以下、
Ni:6.0〜10.0%、
Cr:15.0〜20.0%、
N :0.15%以下
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、0.5〜2μmの酸化物の平均組成のCr濃度が20〜50質量%であり、鋼表層部の平均結晶粒径が50μm以下であることを特徴とする高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材。 - さらに質量%で、
Cu:0.1〜4%、
Mo:0.1〜3%
のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材。 - 鋳造後、分塊圧延せずに、直接、熱間圧延をしてなることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼線材。
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