JP3542228B2 - 鋼材の焼入れ方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は,鋼材を焼入れによって高硬度化すると共に,焼入れに伴う残留応力を制御する方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来,鋼材の表面硬度を高くし,耐摩耗性や疲労強度等を向上させるために,いわゆる焼入れ処理が行われている。
かかる焼入れ処理は,鋼材をオーステナイト変態点以上の温度に加熱し,次いで急冷することにより,オーステナイト相をマルテンサイト相に変態させる。このマルテンサイトは,非常に硬く,鋼材の硬度を高めるのに非常に効果的である。
【0003】
一方,鋼材の表面層を急速に焼入れ処理する方法として,例えば,高密度エネルギービームを照射して鋼材の表面層を急激に加熱し,次いで急冷する方法が提案されている(特願平7−345160号)。そして,この提案においては,上記加熱を,鋼材の表層が溶融するほどの高いエネルギーを用いて行えば,非常に優れた焼入れ効果が得られることが示されている。
【0004】
即ち,鋼材をその表層が溶融する温度以上の温度で加熱し,その後急冷することにより,表層の溶融部分だけでなく,その下層部分が比較的深い範囲でマルテンサイト化され,高硬度の焼入れ硬化層を比較的深く形成することができる。そのため,極めて優れた硬度向上効果が得られる。
【0005】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記焼入れ方法においては,次の問題がある。
即ち,上記鋼材の溶融温度以上に加熱後急冷して焼入れする方法(以下,適宜溶融焼入れという)によれば,優れた焼入れ効果が得られる一方,表層の溶融層の再凝固時に引張残留応力が発生する。
【0006】
この引張残留応力は,焼入れ歪みを発生させる原因となるだけでなく,焼き割れや破損等を引き起こしやすく,有害である。
この対策として,上記加熱を鋼材のオーステナイト変態点以上で溶融温度以下の温度で行いその後急冷する方法(以下,適宜,非溶融焼入れという)に変更することが考えられる。
【0007】
しかし,この非溶融焼入れの場合には,表層部分における引張残留応力は解消するが,逆に,通常のオーステナイトからマルテンサイトへの変態による体積膨張によって,表層に圧縮応力が発生してしまう。また,溶融焼入れの場合よりも焼入れ硬化層が浅くなり,硬度向上効果も減少してしまう。
【0008】
本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,焼入れによる硬度向上効果を維持し,かつ,残留応力を制御することができる,鋼材の焼入れ方法を提供しようとするものである。
【0009】
【課題の解決手段】
請求項1の発明は,鋼材に対して,第1加熱と,これよりも高い温度の第2加熱とをそれぞれ部分的に互いに隣接させて実施し,その後急冷する鋼材の焼入れ方法であって,
上記第1加熱は,鋼材のオーステナイト変態点以上で鋼材の溶融温度以下の温度で行い,
一方上記第2加熱は,鋼材の表層が溶融する溶融温度以上の温度で行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法にある。
【0010】
本発明において最も注目すべきことは,上記第1加熱と上記第2加熱とをそれぞれ部分的に互いに隣接させて実施することである。即ち,鋼材のオーステナイト変態点以上で鋼材の溶融温度以下の温度による第1加熱を行った後急冷する,いわば「非溶融焼入れ」した部分と,鋼材の表層が溶融する溶融温度以上の温度による第2加熱を行った後急冷する,いわば「溶融焼入れ」部分とを,鋼材上に互いに隣接して形成することである。
【0011】
本発明において対象とする鋼材としては,例えば,S50C,S23C,S10C等の炭素鋼,SNCM,SCR,SCM等の合金鋼,SK,SKD,SKH,SKS等の工具鋼など,焼入れ調質を行うものである。
【0012】
上記第1加熱は,上記のごとく鋼材のオーステナイト変態点以上で鋼材の溶融温度以下の温度で行う。即ち,第1加熱温度は,後述する図3に示した鉄−炭素系平衡状態図における,γ(オーステナイト)領域内の温度である。なお,δ(非溶融)領域内の温度もこれに含める。具体的には例えば組成がLの場合には,PからPまでの温度で行う。
【0013】
この第1加熱温度に加熱することにより,鋼材の組成がオーステナイトとなり,これを急冷することにより,オーステナイトがマルテンサイトに変態し,焼入れ硬化層となる。一方オーステナイト変態点以下の温度(例えば上記P未満の温度)の場合には,加熱によるオーステナイト変態が不完全であるため,急冷によるマルテンサイト変態も不完全となる。
【0014】
また,上記第2加熱は,上記のごとく第1加熱よりも高い温度であって,鋼材の表層が溶融する溶融温度以上の温度で行う。即ち,第2加熱温度は,これも後述する図3に示した鉄−炭素系平衡状態図において説明すると,鋼材の表層がγ相領域を超える温度である。
【0015】
具体的には,例えば組成がLの場合には,表層がP点以上の温度となるように加熱する。ただし,あくまでも溶融する領域は,鋼材の表層部分のみである。鋼材が全体的に溶融した場合には,全体の形状等を維持することができないという問題がある。
【0016】
次に,本発明の作用につき説明する。
本発明の鋼材の焼入れ方法においては,上記第1加熱と第2加熱とをそれぞれ部分的に互いに隣接させて実施する。そのため,鋼材上には,上記溶融焼入れ部分と非溶融焼入れ部分がそれぞれ部分的に互いに隣接して形成される。
【0017】
ここで,上記非溶融焼入れ部分は,上記第1加熱により溶融することなく処理されている。そのため,オーステナイトからマルテンサイトへの変態による体積膨張によって表層に圧縮残留応力が発生している。
一方,上記溶融焼入れ部分は,上記第2加熱により鋼材の表層が溶融するように処理されている。そのため,溶融焼入れ部分の表層には,凝固収縮による引張残留応力が発生している。
【0018】
即ち,鋼材上には,圧縮残留応力部分と引張残留応力部分とが,互いに隣接して形成される。そのため,焼入れ処理された鋼材全体でみれば,圧縮残留応力と引張残留応力とが互いに緩和しあい,実質上残留応力はほとんど解消される。
それ故,残留応力に起因する歪みの発生や,焼入れ後の置き割れ等の不具合を十分に回避することができる。
【0019】
また上記第2加熱は,溶融する表層の下層に,上記第1加熱の場合よりも深い範囲までオーステナイト相を形成する。そのため,第2加熱後急冷することにより,上記第1加熱の場合に比べて深い範囲までマルテンサイト化された焼入れ硬化層が形成される。即ち,第2加熱による溶融焼入れの場合には,第1加熱による非溶融焼入れの場合に比べて表面から深いところまで焼入れ硬化層が形成され,硬度向上効果が非常に高くなる。
【0020】
そして,本発明においては溶融焼入れ部分を非溶融焼入れ部分と混在させて隣接配置する。そのため,鋼材全体を非溶融焼入れする場合に比べて,硬度向上効果を高く維持することができる。
それ故,高い硬度向上効果を維持しつつ,上記残留応力の制御を図ることができる。
【0021】
次に,請求項2の発明のように,上記第1加熱と上記第2加熱とは,鋼材における調質所望部分のみに対して行うことができる。ここでいう調質所望部分とは,焼入れにより硬化したい部分をいう。これにより,製品の種類等に応じて,必要部分のみを硬化し,他の部分には例えば比較的軟らかく粘り強い性質の部分を残すことができる。
【0022】
また,請求項3の発明のように,上記第1加熱及び上記第2加熱は,高密度エネルギーを用いて行うことが好ましい。これにより,上記第1加熱及び第2加熱をレスポンス良く,効率良く行うことができる。そのため,高い生産性と安定した品質が得られる。この高密度エネルギーによる方法は,上記調質所望部分のみを部分的に焼入れしたい場合に,特にその効果が大きい。
【0023】
上記高密度エネルギーとしては,例えば電子ビーム,レーザビーム等の高密度エネルギービーム,また,ビームではないが高周波加熱などの高密度エネルギーがある上記電子ビームは電子ビームガンに高電圧を印加することにより発生させる。また,レーザ光は,レーザ発振器に高電圧を印加することにより発生させる。
また,請求項4の発明のように,上記高密度エネルギーは高密度エネルギービームであり、該高密度エネルギービームを上記鋼材に照射することにより上記第1加熱及び上記第2加熱を行うことが特に好ましい。
【0024】
次に,請求項の発明のように,上記高密度エネルギービームの照射は,上記第1加熱を行う第1加熱用ビームと,上記第2加熱を行う第2加熱用ビームとを用いて,上記第1加熱用ビームによる第1加熱と,上記第2加熱用ビームによる第2加熱とを同時に行う方法がある。
この場合には,上記第1加熱と第2加熱とを同時に行うことができるため,トータルの処理時間を短くして,サイクルタイムを短縮することができる。
【0025】
また,請求項の発明にように,上記高密度エネルギービームは,1箇所のビーム発生源から発射されたビームを,複数箇所に分配して照射することができる。
この場合には,1本の高密度エネルギービームを偏向制御装置等により複数に分割する。これにより,1本の高密度エネルギービームを,鋼材における所望する複数部分に,同時に分配照射することができ,照射設備を小型化することができる。
【0026】
また,請求項の発明のように,上記急冷は,103℃/分以上の速度で行うことが好ましい。上記103℃/分未満では,低炭素鋼ではマルテンサイト変態が十分におこなわれないという問題がある。なお,その上限は,速いほど良いが,鋼の熱伝導率により限定されるものである。
【0027】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
本発明の実施形態例にかかる鋼材の焼入れ方法につき,図1〜図5を用いて説明する。
即ち,本例の鋼材の焼入れ方法は,図1(a)に示すごとく,被処理材としての鋼材2(図2)に対して,第1加熱(A)と,これよりも高い温度の第2加熱(B)とをそれぞれ部分的に互いに隣接させて行い,その後急冷する。
【0028】
上記第1加熱は,鋼材のオーステナイト変態点以上で鋼材の溶融温度以下の温度で行う。即ち,図3に示した鉄−炭素系平衡状態図において,例えば組成をLとすると,表層の温度がL線上におけるT点になるまで加熱する。
一方,第2加熱は,鋼材の表層が溶融する溶融温度以上の温度で加熱する。即ち,例えば,図3において,表層の温度がL線上におけるT点になるまで加熱する。なお,部分的溶融のT′点までの加熱もこの中に含まれる。
【0029】
なお,ここでは簡単の為,鉄−炭素2元系平衡状態図で説明するが,これらの変態温度は鋼の成分によって異なるばかりでなく,急速な加熱では変態温度は高温側へ,急速な冷却では変態温度は低温側へ移行することが知られており,具体的に鋼の変態温度の数値を図3に示すごとく限定するものではない。
【0030】
上記第1加熱を行った部分は,図1,図5に示すごとく,その後の急冷により,ある程度の焼入れ硬化層29を有する非溶融焼入れ部分Aとなり,上記第2加熱を行った部分は,その後の急冷により,非溶融焼入れ部分Aよりも深い焼入れ硬化層29を有する溶融焼入れ部分Bとなる。
【0031】
また,本例における上記第1加熱及び第2加熱は,図2に示すごとく,鋼材2の調質所望部分20に対して,高密度エネルギービーム11,12を照射することにより行っている。つまり,図2(a)に示すごとく,高密度エネルギービーム発生源1より,発射した高密度エネルギービーム10を2種類の出力のビーム11,12に順次切り換えながら,これを鋼材2の調質所望部分20に照射する。
【0032】
上記2種類の出力の高密度エネルギービーム11,12は,第1加熱用ビーム11と第2加熱用ビーム12の2種類であって,これらは,一定時間間隔で切り換えるようにしてある。また,図2に示すごとく,両ビーム11,12の照射は,鋼材2を,同図の矢印方向へ移動させながら行う。
【0033】
これにより,図1,図2に示すごとく,上記第1加熱用ビーム11によって加熱された部分が,その後の急冷によって非溶融焼入れ部分Aとなり,第2加熱用ビーム12によって加熱された部分がその後の急冷によって溶融焼入れ部分Bとなる。また,これらの急冷は,上記加熱が表層部だけであるため,加熱完了後の自己放冷によって十分に速い冷却速度で行うことができる。
【0034】
上記のごとく,本例においては,非溶融焼入れ部分Aと溶融焼入れ部分Bとが互いに隣接して交互に形成される。そのため,図4に示すごとく,この焼入れによる調質を行った部分の残留応力状態は,非溶融焼入れ部分Aが圧縮残留応力状態81(図4(a)),溶融焼入れ部分Bが引張残留応力状態82(図4(b))となり,連続的にみれば,これらが交互に存在してサインカーブ状83(図4(c))になっている。
【0035】
即ち,焼入れを施した調質部分は,全体的にみれば残留応力がほぼ解消した状態が実現する。
それ故,焼入れ処理後に残留応力に起因する歪みの発生や置き割れ等の不具合を防止することができる。
【0036】
また,図5(c)に示すごとく,本例において得られた焼入れ硬化層29は,浅い部分と深い部分とが交互に存在する。即ち,上記非溶融焼入れ部分Aは焼入れ硬化層29が浅く(図5(a)),溶融焼入れ部分Bは焼入れ硬化層29が深く(図5(b)),これらが交互に配置されている(図5(c))。この溶融焼入れ部分Bにおける深い焼入れ硬化層29の存在により,鋼材2の硬度を非常に高いレベルに維持することができる。
【0037】
実施形態例2
本例においては,図6に示すごとく,実施形態例1と同様の焼入れ装置及び方法によって,鋼材2の調質所望部分20に,非溶融焼入れ部分Aと溶融焼入れ部分Bとを縦横に互いに隣接配置し,全体的に市松模様状に設けた。
【0038】
この場合には,実施形態例1における高密度エネルギービーム11,12の照射を,鋼材2に対して複数列順次実施する。
得られた調質部分は,縦横いずれの方向においても,上述した図4(c)に示すような残留応力状態と,図5(c)に示すような焼入れ硬化層29の分布が得られる。
そのため,実施形態例1における効果を一層向上させることができる。
【0039】
実施形態例3
本例は,図7,図8に示すごとく,上記実施形態例1に示した鋼材の焼入れ方法において,鋼材2を回転させながら,該鋼材2におけるリング状の調質所望部分20(図8)に対して,高密度エネルギービーム11,12を連続的に照射する熱処理装置及び方法を示すものである。
【0040】
本例における,被処理材としての鋼材2は,トルクコンバータ用部品のロックアップクラッチピストンである。このピストンは皿状をなしている(図7,図10参照)。そして,その一部分にリング状の焼入れ調質を施す(図8)。
上記熱処理装置は,図7に示すごとく,鋼材2を入れる加工室19と,該加工室19内に上記高密度エネルギービーム10を照射するビーム発生源1と,該ビーム発生源1からの高密度エネルギービーム10を,第1加熱用ビーム11と第2加熱ビーム12とに切り換える偏向コイル111,112とを有する。
【0041】
また,加工室19内を減圧する真空排気装置16と,上記偏向コイル111,112における高密度エネルギービームの高速偏向制御装置110とを有する。上記偏向コイル111,112に流す電流の周波数及び波形を変えることにより,高密度エネルギービーム10の出力を任意に変更し,第1加熱用ビーム11と第2加熱用ビーム12とに切り換えることができる。また,上記加工室19の下部には,上記鋼材2の載置台15を回転させるための回転モータ150を有する。
これらの装置は,総合制御装置17によりコントロールされる。
【0042】
そして,上記熱処理装置により,鋼材の焼入れを実施するに当たっては,まず上記回転モータ150を駆動させて,上記鋼材2を図8の矢印方向に約8m/分の速度で回転させておく。また,真空排気装置16により,加工室19内を真空状態にする。
【0043】
そして,図7,図8に示すごとく,鋼材2に対してまず高密度エネルギービーム10を第1加熱用ビーム11(1.0KW)として0.5秒間照射し,次いで,高密度エネルギービーム10の出力を上げて第2加熱用ビーム12(3.0KW)として1.5秒間照射する。さらに同一サイクルで,第1加熱用ビーム11による照射と第2加熱用ビーム12による照射を連続して切り換えながら行う。
【0044】
上記高密度エネルギービーム11,12の照射を受けた部分は,照射完了後,自己放冷により即座に急冷される。つまり,図9(a)に示すごとく,第1加熱用ビーム11を受けた部分の表層は,オーステナイト変態点T以上で融点T以下の温度31に急速に加熱後,マルテンサイト変態点T以下に急冷されるというヒートパターンとなる。
一方,図9(b)に示すごとく,第2加熱用ビーム12を受けた部分の表層は,融点T以上の温度32に急速に加熱後,マルテンサイト変態点T以下に急冷されるというヒートパターンとなる。
【0045】
このように,交互に第1加熱と第2加熱を繰り返しながら,鋼材2が1回転した時点で,リング状の焼入れ処理が完了する。即ち,鋼材2には,図8に示すごとく,非溶融焼入れ部分Aと溶融焼入れ部分Bとが互いに隣接してリング状に形成される。
したがって,本例においても,実施形態例1と同様の効果が得られる。
【0046】
実施形態例4
本例は,実施形態例1及び3に示した鋼材の焼入れ方法及び装置を用いた具体例である。
即ち,本例における被処理品としての鋼材は,図10に示すごとく,トルクコンバータに用いるロックアップクラッチピストン41である。
【0047】
このロックアップクラッチピストン41は,トルクコンバータにおいて,伝達トルクの変動を吸収するためのダンパ装置に部分的にかしめ固定されるものである。なお,同図の符号43は取付用穴である。
そして,上記ダンパ装置は,図10に示すごとく,タービンライナと一体に回転させられるドリブンプレート51及びスプリング52,53等からなる。
【0048】
ここで,図10に示すごとくスプリング52はロックアップクラッチピストン41の円周方向における8箇所に配設された第1ステージ用のものであり,またスプリング53はロックアップクラッチピストン41の円周方向における4箇所に配設された第2ステージ用のものであって,このスプリング53はスプリング52内に一つ置きに配設される。なお,前記スプリング53はスプリング52より径が小さく,かつ短く設定され,スプリング52の捩れ角が設定値になって伝達トルクが屈曲点トルクに到達した後に撓み始める。
【0049】
従って,フロントカバーから摩擦材を介して伝達された回転は前記ダンパ装置を介してタービンハブに伝達されるが,この際,スプリング52,53が収縮して回転伝達時における伝達トルクの変動を吸収する。また,“エンジンの出力トルクの急激な変動”が図示しない変速装置に伝達されることによって起きる振動,騒音等を防止する役目を担っている。
【0050】
ところで,前記ロックアップクラッチピストン41の正駆動時(ロックアップクラッチ装置が係合状態に置かれてロックアップクラッチピストン41が図10における反時計回り方向に回転する時)及び逆駆動時(エンジンブレーキ時等でロックアップクラッチピストン41が図10における時計回り方向に回転する時)には前記スプリング52が圧縮されるので,このスプリング52がロックアップクラッチピストン41の平板部411と繰り返し摺動しがちとなる。
【0051】
そのため,ロックアップクラッチピストン41の平板部411にはスプリング52との摺動による摩擦が生じるという問題がある。
そして,ロックアップクラッチピストン41は上記スプリング52と接触するドーナツ状のスプリング受け40の部分(図10のハッチング部分)を有している。
【0052】
このロックアップクラッチピストンのスプリング受け40は,耐摩耗性等が要求される。そのため,そのスプリング受け部分(厚み3mm)に,部分的に焼入れ処理を施す必要がある。
上記部品の材質は,S23Cである。
【0053】
また,焼入れ処理を行うに当たっては,上記第1加熱,第2加熱には実施形態例1,3に示した高密度エネルギービームとしての電子ビームを用いた。
上記電子ビーム発生装置は,最大5KWの出力を有し,第1加熱用ビームとしての1.0KWの電子ビームと第2加熱用ビームとしての3.0KWの電子ビームとを交互に切り換えて出力することができる。この切り換えはパワーのレベルを制御又はパルス制御することにより行う。
【0054】
そして,上記部品は,10rpmにて回転させ,その半径127mmの位置に実施形態例1,3に示すごとく,第1加熱用ビーム11と第2加熱用ビーム12とを交互に照射した。即ち,電子ビームの照射は,約8m/分の送り速度で行った。
【0055】
また,第1加熱用ビーム11と第2加熱用ビーム12との切り換えタイミングは,第1加熱用ビーム11の照射時間を0.5秒,第2加熱用ビーム12の照射時間を1.5秒として,これを順次繰り返した。
上記第1加熱用ビーム11及び第2加熱用ビーム12は,図11に示すごとく,ともにその偏向軌跡はX方向5mm,Y方向10mmである。そして,部品の回転によって,電子ビームの軌跡は矢印H方向に移動する。
【0056】
このように加熱された部分は,加熱直後に鋼材2の自己放冷により十分に急冷され,焼入れられる。
その結果,上記部品は,上記のスプリング受け部分がリング状に焼入れられたマルテンサイトの焼入れ硬化層を有し,一方,他の部分はフェライト・パーライト組成のままの状態であった。さらに,上記焼入れ硬化層は,上記第1加熱部と第2加熱部とに対応して交互に焼入れ深さが変化していると共に,残留応力も引張残留応力と圧縮残留応力が交互に分布していた。
【0057】
実施形態例5
本例は,図12に示すごとく,実施形態例4における部品に対して,上記非溶融焼入れ部分Aと溶融焼入れ部分Bとを縦横に交互に設けて市松模様状に配置した。この場合の高密度エネルギービームは,実施形態例3に示した電子ビーム発生装置により発生させ,上記偏向コイル111,112によって,2つの電子ビーム101,102に分配した。
【0058】
分配された電子ビーム101,102は,それぞれ,一定間隔毎に低出力の第1加熱用ビームと高出力の第2加熱用ビームとに切り替わるようにしてある。即ち,一方の電子ビーム101が第1加熱用ビームとして低出力状態にある場合には,他方の電子ビーム102はその間高出力の第2加熱用ビームとして高出力状態になっている。次いで,一方の電子ビーム101が第2加熱用ビームとしての高出力に切り替わったとき,他方の電子ビーム102は第1加熱用ビームとしての低出力に切り替わる。
【0059】
本例においては,上記第1加熱用ビームの出力は1.0KW,第2加熱用ビームの出力は3.0KWとし,それぞれ1秒ごとに切り換えた。
この場合,図12に示すごとく,部品には,その1回転によって,2列の焼入れ部分が一度に形成される。そして,その隣の外周側にもう1回転焼入れ部分を形成する。その結果,図12に示すごとく,横方向4列のリング状調質部が形成され非溶融焼入れ部分Aと溶融焼入れ部分Bとが縦横に交互に分布して市松模様状に配置された。
【0060】
尚,本例においては,上記2つの電子ビームをそれぞれ隣接して照射したが,これを離して行うことにより,2箇所の調質所望部分を同時に焼入れ処理することもできる。更に電子ビームは3つ以上であっても良い。この場合には,トータルの処理時間を短縮することができる。
【0061】
実施形態例6
本例は,実施形態例5における2つの電子ビーム101,102を照射する場合の,電子ビームの照射軌跡の1例を図13に示す。
本例では,電子ビームは,2つの円偏向軌跡C,Cに従って照射される。この場合,各円偏向軌跡C,Cによってそれぞれ被熱処理領域25,26に電子ビームが照射され,その間中,被熱処理部材はその中心軸回りに回転させられる。従って,被熱処理領域25.26における電子ビームの軌跡は矢印H方向に移動する。
【0062】
なお,各円偏向軌跡C,Cは,x軸方向及びy軸方向において正弦波の偏向波形を発生させ,その偏向の組合せによって形成される。また,各円偏向軌跡C,Cを切り換え,隣接する被熱処理領域25,26において交互に電子ビームを照射するために,図14のような偏向波形wが発生させられ,該偏向波形wと前記y軸方向における偏向波形とが重ねられる。
【0063】
従って,電圧Vが正の値を採る時間tの間に被熱処理領域25に電子ビームが照射され,電圧Vが負の値を採る時間tの間に被熱処理領域26に電子ビームが照射される。
また,前記偏向波形wの時間t,tの長さを調整することにより,各被熱処理領域25,26への照射エネルギーを調整することができる。
【0064】
実施形態例7
本例は,図15に示すごとく,被熱処理領域27,28へ電子ビームを照射する場合の別例を示している。
この場合には,二つの面偏向軌跡C,Cによって電子ビームが照射される。つまり,各面偏向軌跡C,Cによってそれぞれ被熱処理領域27,28に電子ビームが照射され,その間中,被処理部材はその中心軸回りに回転させられる。従って,この場合も被熱処理領域27,28における電子ビームの軌跡は矢印H方向に移動する。
【0065】
なお,各面偏向軌跡C,Cはx軸方向及びy軸方向において三角波の偏向電圧を発生させることによって形成される。また,各面偏向軌跡C,Cを切り換え,被熱処理領域27,28において電子ビームを照射するために,図16に示すような偏向波形wと前記x軸方向及びy軸方向における三角波とが重ねられる。
勿論,円偏向と面偏向とを組み合わせたり,線,楕円等の軌跡をたどるように電子ビームを偏向させることもできる。その他は,実施形態例6と同様である。
【0066】
ところで,上記実施形態例ではトルクコンバータのロックアップクラッチピストンを処理する例を説明したが,その外,例えば多板摩擦係合装置におけるプレート摺動部,部材同士又はスナップリング等による結合部,オイルポンププレート,シールリング等,表層部を全部又は部分的に硬化させる必要がある鋼部材であれば,いずれのものであっても本発明を適用することができる。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば,焼入れによる硬度向上効果を維持し,かつ,残留応力を制御することができる,鋼材の焼入れ方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,(a)焼入れパターン,(b)残留応力パターンを示す説明図。
【図2】実施形態例1における,高密度エネルギービームの照射状態を示す,(a)側面図,(b)平面図。
【図3】鉄−炭素系平衡状態図,及び第1加熱,第2加熱温度を示す説明図。
【図4】実施形態例1における,(a)非溶融焼入れ部分,(b)溶融焼入れ部分,(c)全体,の残留応力状態を示す説明図。
【図5】実施形態例1における,(a)非溶融焼入れ部分,(b)溶融焼入れ部分,(c)全体,の焼入れ硬化層の形成状態を示す説明図。
【図6】実施形態例2における,焼入れパターンを示す説明図。
【図7】実施形態例3における,熱処理装置の説明図。
【図8】実施形態例3における,高密度エネルギービームの照射状態を示す説明図。
【図9】実施形態例3における,(a)非溶融焼入れ部分,(b)溶融焼入れ部分,のヒートパターンを示す説明図。
【図10】実施形態例4における,ロックアップクラッチピストンの説明図。
【図11】実施形態例4における,電子ビームの照射部の軌跡の一例を示す説明図。
【図12】実施形態例5における,高密度エネルギービームの照射状態を示す説明図。
【図13】実施形態例6における,電子ビームの照射部の軌跡の一例を示す説明図。
【図14】実施形態例6における,電子ビーム照射の偏向波形例を示す説明図。
【図15】実施形態例7における,電子ビームの照射部の軌跡の他の例を示す説明図。
【図16】実施形態例7における,電子ビーム照射の偏向波形例を示す説明図。
【符号の説明】
1...高密度エネルギービームの発生源,
10...高密度エネルギービーム,
11...第1加熱用ビーム,
12...第2加熱用ビーム,
2...鋼材,
20...調質所望部分,
29...焼入れ硬化層,
A...非溶融焼入れ部分(第1加熱部分),
B...溶融焼入れ部分(第2加熱部分),

Claims (7)

  1. 鋼材に対して,第1加熱と,これよりも高い温度の第2加熱とをそれぞれ部分的に互いに隣接させて実施し,その後急冷する鋼材の焼入れ方法であって,
    上記第1加熱は,鋼材のオーステナイト変態点以上で鋼材の溶融温度以下の温度で行い,
    一方上記第2加熱は,鋼材の表層が溶融する溶融温度以上の温度で行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
  2. 請求項1において,上記第1加熱と上記第2加熱とは,鋼材における調質所望部分のみに対して行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
  3. 請求項1又は2において,上記第1加熱及び上記第2加熱は,高密度エネルギーを用いて行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
  4. 請求項3において、上記高密度エネルギーは高密度エネルギービームであり、該高密度エネルギービームを上記鋼材に照射することにより上記第1加熱及び上記第2加熱を行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
  5. 請求項において,上記高密度エネルギービームの照射は,上記第1加熱を行う第1加熱用ビームと,上記第2加熱を行う第2加熱用ビームとを用いて,
    上記第1加熱用ビームによる第1加熱と,上記第2加熱用ビームによる第2加熱とを同時に行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
  6. 請求項4又は5において,上記高密度エネルギービームは,1箇所のビーム発生源から発射されたビームを,複数箇所に分配して照射することを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項において,上記急冷は,103 ℃/分以上の速度で行うことを特徴とする鋼材の焼入れ方法。
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