JP3539955B2 - 加水分解縮重合デンプン、その製造方法および加水分解縮重合デンプンからなる成形品 - Google Patents

加水分解縮重合デンプン、その製造方法および加水分解縮重合デンプンからなる成形品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、加水分解縮重合デンプン、その製造方法、ならびに、前記加水分解縮重合デンプンからなる繊維製品、フィルムまたはシート成形品およびモールド成形品に関する。本発明の加水分解縮重合デンプンは、たとえば、化粧品用増粘剤、食品用増粘剤、オブラート、可食性材料、ならびに、繊維製品、フィルム、シート、パイプ、棒などの押出成形品、モールド成形品および射出成形品の原料として有用である。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性を有しないデンプンは経済的なポリマーであるが、一般的なポリマーの用途、例えばフィルム、繊維、成形品などには使用することができない。デンプンを使用し、熱可塑性製品を製造する提案が既に数多くされている。
【0003】
このような変成されたデンプンとしては、ヒドロキシアルキルデンプン、アセチルデンプンまたはカルバメートデンプンなどがある。これらは、デンプンのメチルヒドロキシル基に、尿素、アルキレンオキシド、カルバメートもしくはイソシアネート形成物質などを反応させることにより製造される。しかし、このような変成工程で生産される化工デンプンは経済的に不利であり、前記のような用途に一般には使用されていない。
【0004】
デンプンはアミロペクチンによる分岐があり、巨大なポリマーであるため熱可塑性を示さない。またメチルヒドロキシル基間の水素結合などにより、熱可塑性になることを阻害している。デンプンのメチルヒドロキシル基を反応させて、変性することにより、水素結合力がなくなり、デンプンが熱可塑性を示すようになる。
【0005】
一方、アルファー化デンプンはデンプンを加熱すると生成し、冷えるとベーター化デンプンに戻る。片栗粉は、デンプンが水の存在下、加熱されることにより糊状になり、外観上熱可塑性を示すよい例である。特公平7−74241号公報には、デンプンに水を加え、高温で加水分解デンプンを製造し、乾燥調整した溶融体を製造することが記載されている。しかし、加水分解後、引き続き縮重合することは記載されていない。
【0006】
また、特公平7−57827号公報にデンプンと生分解性樹脂とを混合する方法が記載されている。デンプンに水を加え、高温で加水分解デンプンを製造し、乾燥調整した溶融体を製造する方法である。
【0007】
すなわち、デンプンを加水加水分解し、加水分解デンプンを製造する。この加水分解デンプンは熱可塑性を示すと記載されている。また、加水分解デンプンの分子量が初期の1/2から1/5000に低下し、熱可塑性を示すと記載されている。これは分子量の絶対値を規定していないため技術的に疑問が残る。
【0008】
また、この加水分解デンプンに18重量%吸湿させ、他の樹脂を混合し、ダンベル試験片を射出成形機を使用して試作したことが記載されている。この試験片は、吸湿による変形が小さいと記載されている。しかし、通常のプラスチックと比較すると、18重量%は著しく大きい値であり、一般的ではない。
【0009】
デンプンを炭酸ガス・水系の超臨界状態でタンク内で加水分解する方法は既に数多く報告されている。たとえば特開平11−92501号公報には「高密度化流体中での多糖類の変性」が提案されている。しかし、この提案はデンプンの巨大高分子をオリゴマー以下の低分子に炭酸ガス・水系の超臨界状態下、タンク中で加水分解する方法を開示しているのみで、如何に低分子化合物に効率よく加水分解できるかが主要な課題である。従って、高分子であるデンプンを加水分解し、得られた低分子を再度連続して縮重合する方法は記載されていない。
【0010】
また、特開2001−253967公報に「架橋高分子材料の再生方法」が提案されている。この中に架橋高分子材料および水を1軸または2軸押出し機に供給し、前記水が前記押出し機内で超臨界水または亜臨界水となる条件で加水分解し、架橋部分を切断する方法が記載されている。この中には炭酸ガス・水系の炭酸ガスの超臨界または亜臨界を利用する方法は記載されていない。また、切断された架橋部分を再度縮重合する方法は記載されていない。
【0011】
一般に熱可塑性高分子は軟化点以上の高温では融着しやすい性質をもっている。従って、この膠着を防止するため、通常、クエンチを行なう。たとえばナイロン、ポリエステルなどのペレットを製造する際に溶融したポリマーをノズルからガット状に押出し、水冷でクエンチを行ない、温度を軟化点以下に下げてからカッターでカットし、ペレットの膠着を防止することは公知である。しかし、水冷することにより、再度溶融する前に乾燥する必要があり経済的に不利である。熱可塑性樹脂の軟化点以上で膠着を防止する方法は未だ報告されていない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、新規な加水分解縮重合デンプンおよびその廉価な製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の目的は、熱可塑性、柔軟性および実用的に充分な機械的物性を有し、かつ、廉価な加水分解縮重合デンプンおよびその製造方法、特に軟化点以上でも膠着しにくい加水分解縮重合デンプンおよびその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の目的は、充分な使用特性を有し、かつ、廉価であり、しかも生分解性を有する繊維製品、フィルムおよびシート成形品およびモールド成形品を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、デンプンの主鎖中の一部に式(1):−O−(C=O)−O−で表わされる基、式(2):−((O−R1x−(O−(C=O)−R2ym−Oz−で表わされる基および式(3):−CH2−(C=O)−CHR3−O−で表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を導入してなる加水分解縮重合デンプンにかかわる。R1は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基を示す。R2は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基を示す。xは0または1を示す。yは0または1を示す。x+yは1または2である。mは1〜3100の整数を示す。zは1または2を示す。R3は、水素原子、炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基または炭素数1以上のアルコキシ基を示す。
【0016】
本発明は、架橋されている前記の加水分解縮重合デンプンにかかわる。
【0017】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、好ましくは、温度20℃、相対湿度60%の条件下で24時間放置することにより、実質的に恒量平衡に達した水分率が1〜6重量%である。本発明の加水分解縮重合デンプンは、好ましくは、温度25℃の水中に1時間浸漬後の膨潤率が150〜400%である。本発明の加水分解縮重合デンプンは、好ましくは、チキソトロピー性を示す。
【0018】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、たとえば、デンプンと、式(1)で表わされる基を形成する化合物、式(2)で表わされる基を形成する化合物および式(3)で表わされる基を形成する化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物とを、水の存在下、100〜350℃で、反応させること、または、水および炭酸ガスの存在下、炭酸ガスが超臨界状態または亜臨界状態となる条件下で、反応させることにより製造することができる。
【0019】
本発明の加水分解縮重合デンプンの製造方法においては、好ましくは、デンプンと、式(1)で表わされる基を形成する化合物、式(2)で表わされる基を形成する化合物および式(3)で表わされる基を形成する化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物との反応に、押出し機を使用し、100〜250kg/cm2(=9.8〜24.5MPa)のノズル前圧力で押出す。
【0020】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、繊維製品、フィルムまたはシート成形品、およびモールド成形品を形成する材料として有用である。
【0021】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、熱可塑性であり、軟化点以上の温度でも膠着しにくく、好ましくはチキソトロピー性を示す。本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンの主鎖中の一部に式(1)、式(2)または式(3)で表わされる柔軟な線状有機基を有することにより、吸湿性が著しく大きいというデンプンの欠点が改良されており、熱可塑性であり、柔軟性を有するものと考えられる。すなわち、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基の導入により、剛直なグルコース連鎖からなるデンプンの主鎖中の一部に蝶番のような柔軟な部分が存在することになり、主鎖が柔軟になる。柔軟性を増した主鎖は、小さな糸毬状になりやすい。糸毬状になった主鎖は他の主鎖との絡みが少なくなり、結果として主鎖間の滑りがよくなる。この現象が、本発明の加水分解縮重合デンプンの熱可塑性として現れるものと考えられる。
【0022】
デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを、前記のような条件下で、反応させることにより、デンプンが加水分解反応され、加水分解されたデンプンが、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物と脱水縮重合し、本発明の加水分解縮重合デンプンが生成するものと考えられる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンの主鎖中の一部に式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を導入した構造を有する。本発明の加水分解縮重合デンプンは、式(10):−G−Mn−で表わされる繰返し単位を有する。Gは、グルコースの1位および4位の水酸基を除去した2価の基を示す。Mは、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を示す。nは1以上の整数を示す。nが2上の整数の場合、複数のMは相互に同一であっても異なってもよい。
【0024】
式(2)中のR1としては、たとえば、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基などの炭素数1以上(通常は12以下)の直鎖状のアルキレン基;フェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニレンアルキレン基(たとえば、ビフェニレンメチレン基、2,2−ビフェニレンプロピレン基)などの炭素数6以上(通常は15以下)のアリーレン基がある。
【0025】
式(2)中のR2としては、たとえば、1,1−エチレン基、1,1−プロピレン基、1,2−プロピレン基、1,1−ブチレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基などの炭素数1以上(通常は12以下)のアルキル基を有するアルキレン基;フェニレン基、ビフェニレンアルキレン基(たとえば、ビフェニレンメチレン基、2,2−ビフェニレンプロピレン基)などの炭素数6以上(通常は15以下)のアリーレン基がある。
【0026】
2がアリーレン基である加水分解縮重合デンプンより、アルキレン基である加水分解縮重合デンプンの方が、柔軟性および生分解性が高い傾向がある。
【0027】
式(2)で表わされる基としては、式(4):−(O−(C=O)−R2m−で表わされる基(x=0、y=1、z=0)、式(5):−(O−(C=O)−R2m−O−で表わされる基(x=0、y=1、z=1)、式(6):−(O−R1m−で表わされる基(x=1、y=0、z=0)、式(7):−(O−R1−O−(C=O)−R2m−で表わされる基(x=1、y=1、z=0)、式(8):−(O−R1m−O−で表わされる基(x=1、y=0、z=1)および式(9):−(O−R1−O−(C=O)−R2m−O−で表わされる基(x=1、y=1、z=1)がある。
【0028】
式(4)で表わされる基としては、脂肪族エステル基(R2がアルキレン基)、芳香族エステル基(R2がアリーレン基)があり、モノエステル基(m=1)、ジエステル基(m=2)、トリエステル基(m=3)、ポリエステル基(mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)がある。
【0029】
式(5)で表わされる基としては、脂肪族エステルエーテル基(R2がアルキレン基)、芳香族エステルエーテル基(R2がアリーレン基)があり、モノエステルエーテル基(m=1)、ジエステルエーテル基(m=2)、トリエステルエーテル基(m=3)、ポリエステルエーテル基(mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)がある。
【0030】
式(6)で表わされる基としては、モノアルキルエーテル基(R1がアルキレン基、m=1)、ジアルキルエーテル基(R1がアルキレン基、m=2)、トリアルキルエーテル基(R1がアルキレン基、m=3)、ポリアルキルエーテル基(R1がアルキレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)、モノアリールエーテル基(R1がアリーレン基、m=1)、ジアリールエーテル基(R1がアリーレン基、m=2)、トリアリールエーテル基(R1がアリーレン基、m=3)、ポリアリールエーテル基(R1がアリーレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数の場合)がある。
【0031】
式(7)で表わされる基としては、モノアルキレンエステル基(R1がアルキレン基、m=1)、ジアルキレンエステル基(R1がアルキレン基、m=2)、トリアルキレンエステル基(R1がアルキレン基、m=3)、ポリアルキレンエステル基(R1がアルキレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数の場合)、モノアリーレンエステル基(R1がアリーレン基、m=1)、ジアリーレンエステル基(R1がアリーレン基、m=2)、トリアリーレンエステル基(R1がアリーレン基、m=3)、ポリアリーレンエステル基(R1がアリーレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数の場合)がある。
【0032】
式(8)で表わされる基としては、モノアルキルジエーテル基(R1がアルキレン基、m=1)、ジアルキルジエーテル基(R1がアルキレン基、m=2)、トリアルキルジエーテル基(R1がアルキレン基、m=3)、ポリアルキルジエーテル基(R1がアルキレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)、モノアリールジエーテル基(R1がアリーレン基、m=1)、ジアリールジエーテル基(R1がアリーレン基、m=2)、トリアリールジエーテル基(R1がアリーレン基、m=3)、ポリアリールジエーテル基(R1がアリーレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)がある。
【0033】
式(9)で表わされる基としては、モノアルキレンエステルエーテル基(R1がアルキレン基、m=1)、ジアルキレンエステルエーテル基(R1がアルキレン基、m=2)、トリアルキレンエステルエーテル基(R1がアルキレン基、m=3)、ポリアルキレンエステルエーテル基(R1がアルキレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)、モノアリーレンエステルエーテル基(R1がアリーレン基、m=1)、ジアリーレンエステルエーテル基(R1がアリーレン基、m=2)、トリアリーレンエステルエーテル基(R1がアリーレン基、m=3)、ポリアリーレンエステルエーテル基(R1がアリーレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数の場合)などがある。
【0034】
式(3)中のR3としては、たとえば、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などの炭素数1以上(通常は3以下)のアルキル基;フェニル基などの炭素数6以上(通常は8以下)のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1以上(通常は3以下)のアルコキシ基がある。式(3)で表わされる基としては、たとえば、ジメチルケトン基(R3が水素原子)、エチルメチルケトン基(R3がメチル基)、メチルメトキシメチルケトン基(R3がメトキシ基)がある。
【0035】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンの主鎖中の一部に式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基の1種または2種以上を導入されてなることができる。式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基の2種以上を導入されてなる加水分解縮重合デンプンとしては、式(1)で表わされる基と式(2)または式(3)で表わされる基とを有する加水分解縮重合デンプン;式(2)で表わされる基と式(3)で表わされる基とを有する加水分解縮重合デンプン;式(2)で表わされる2種以上の基を有する加水分解縮重合デンプン;式(3)で表わされる2種以上の基を有する加水分解縮重合デンプン;式(1)で表わされる基、式(2)で表わされる基および式(3)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプンがある。
【0036】
デンプンの主鎖中の一部に式(1)で表わされる基が導入されたことは、赤外分光光度計による測定において、デンプンには認められない炭酸基に特有のCO伸縮振動による1,745〜1,755cm-1の吸収帯が測定されることにより、確認することができる。
【0037】
デンプンの主鎖中の一部に式(4)、式(5)、式(7)および式(9)で表わされる基(y=1)が導入されたことは、得られた加水分解縮重合デンプンから、溶媒(たとえば、オルトクレゾール)で、未反応の式(4)、式(5)、式(7)および式(9)で表わされる基を形成する化合物(たとえば、ポリ乳酸)を抽出したのち、赤外分光光度計による測定において、デンプンには認められないエステル基に特有のCO伸縮振動による1,730〜1,740cm-1の吸収帯が測定されることにより、確認することができる。また、R3が1,1−エチレン基である場合(たとえば、前記式(5)で表わされる基を形成する化合物としてポリα−オキシプロピオン酸を使用する場合)には、得られた加水分解縮重合デンプンから、未反応のポリα−オキシプロピオン酸を抽出したのち、NMR測定において、ポリα−オキシプロピオン酸のメチル基に特有のピークが測定されることにより、確認することができる。
【0038】
デンプンの主鎖中の一部に式(6)、式(7)、式(8)または式(9)で表わされる基(x=1)が導入されたことは、得られた加水分解縮重合デンプンから、溶媒(たとえば、沸騰水)で、未反応の式(6)、式(7)、式(8)および式(9)で表わされる基を形成する化合物(たとえば、n−プロピルアルコール)を抽出したのち、NMR測定において、たとえば、R1が1,3−プロピレン基である場合には、デンプンには認められないプロピルアルコールのメチレン基に特有のピークが測定されることにより、確認することができる。
【0039】
デンプンの主鎖中の一部に式(3)で表わされる基が導入されたことは、赤外分光光度計による測定において、式(3)で表わされる基に特有のCO伸縮振動による1,715〜1,725cm-1の吸収帯が測定されることにより、確認することができる。この吸収帯はデンプンおよび式(3)で表わされる基を形成する化合物(たとえば、グリセリン)には認められない。
【0040】
加水分解縮重合デンプンの熱可塑性の点より、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基は、デンプンのグルコース単位100モルに対して、合計の化学式量で、50〜100、とりわけ70〜100となる割合で導入することが好ましい。式(1)、式(2)および式(3)で表わされる基の導入量が少ないと、加水分解縮重合デンプンの熱可塑性が低く、多いと最終製品から式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物がブリードアウトする場合がある。
【0041】
加水分解縮重合デンプンの主鎖中への式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基の導入量が、赤外分光光度計で僅かに観察される量、すなわち、数%でも、その効果が現れる。感度の低い光度計ではショルダーとして観察されることもある。式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基の主鎖中への導入量が多くなるに従い、加水分解縮重合デンプンの熱可塑性が向上する。式(1)、式(2)および式(3)で表わされる基の導入量が少ないと、加水分解縮重合デンプンが硬くなり、多いと柔らかくなる傾向がある。
【0042】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンと、式(1)で表わされる基を形成する化合物、式(2)で表わされる基を形成する化合物(式(4)、式(5)、式(6)、式(7)、式(8)または式(9)で表わされる基を形成する化合物)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを、反応させることにより製造することができる。
【0043】
主原料デンプンとしては、一般に使用されるデンプンを使用することができる。たとえば、大麦、ライ麦、カラス麦、小麦、米およびとうもろこしのような穀類、じゃがいもならびにタピオカなどのいも類から生産されている。本発明では、原料デンプンの種類を特には限定しない。しかし、とうもろこしデンプンは経済性に優れる点で好ましい。
【0044】
デンプンの分子量はたとえば約20,000,000と非常に巨大で、種類により異なる。
【0045】
式(1)で表わされる基、すなわち、炭酸基を形成する化合物としては、炭酸ガス、または、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウムなどの加熱されることにより炭酸ガスを放出する炭酸化物などを使用することができる。
【0046】
式(4)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(11):H−(C=O)−R3−(O−(C=O)−R3m-1−OHで表わされる化合物がある。
【0047】
式(4)で表わされる基のうち、脂肪族モノエステル基(R3がアルキレン基、m=1)を形成する化合物としては、たとえば、ヒドロキシアセトアルデヒド、ヒドロキシエチルアルデヒド、ヒドロキシブチルアルデヒド、グリセルアルデヒドなどのヒドロキシアルキルアルデヒドがある。式(4)で表わされる基のうち、芳香族モノエステル基(R3がアリーレン基、m=1)を形成する化合物としては、たとえば、ヒドロキシメチルベンジルアルデヒド、ヒドロキシエチルベンジルアルデヒド、ヒドロキシプロピルベンジルアルデヒドなどのヒドロキシアルキルアリールアルデヒドがある。
【0048】
式(4)で表わされる基のうち、ジエステル基(m=2)、トリエステル基(m=3)、ポリエステル基(mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数)などを形成する化合物としては、たとえば、ヒドロキシアセトアルデヒドモノ乳酸エステル、ヒドロキシアセトアルデヒドジ乳酸エステル、ヒドロキシアセトアルデヒドトリ乳酸エステル、ヒドロキシアセトアルデヒドポリ乳酸エステルなどのヒドロキシアルキルアルデヒドと脂肪族カルボン酸とのエステルがある。
【0049】
式(5)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(12):H−(O−(C=O)−R3m−OHで表わされる化合物がある。式(5)で表わされる基のうち、脂肪族エステルエーテル基(R2がアルキレン基)を形成する化合物としては、たとえば、α−オキシプロピオン酸(乳酸)、β−オキシプロピオン酸、α−オキシブタノイック酸、β−オキシブタノイック酸、γ−オキシブタノイック酸などのヒドロキシアルキルカルボン酸およびその重縮重合物(たとえば、ポリα−オキシプロピオン酸)がある。式(5)で表わされる基のうち、芳香族モノエステルエーテル基(R3がアリーレン基)を形成する化合物としては、たとえば、ヒドロキシメチルベンジルカルボン酸、ヒドロキシエチルベンジルカルボン酸、ヒドロキシプロピルベンジルカルボン酸などのヒドロキシアルキルアリールカルボン酸がある。
【0050】
式(6)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(13):H−(O−R1m−Hで表わされる化合物がある。式(6)で表わされる基のうち、アルキルエーテル基(R1がアルキレン基、m=1)を形成する化合物としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコールなどのアルコールがある。
【0051】
式(7)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(14):H−(R1−O−(C=O)−R3m−OHで表わされる化合物がある。
【0052】
式(7)で表わされる基のうち、アルキルエステルエーテル基(R1がアルキレン基、m=1)、ジアルキルエステルエーテル基(R1がアルキレン基、m=2)、トリアルキルエステルエーテル基(R1がアルキレン基、m=3)、ポリアルキルエステルエーテル基(R1がアルキレン基、mが2〜3100の整数、とりわけ4〜3100の整数の場合)としては、たとえば、乳酸エチルエステル、ジ乳酸エチルエステル、トリ乳酸エチルエステル、ポリ乳酸エチルエステル、乳酸プロピルエステル、ジ乳酸プロピルエステル、トリ乳酸プロピルエステル、ポリ乳酸プロピルエステル、乳酸ブチルエステル、ジ乳酸ブチルエステル、トリ乳酸ブチルエステル、ポリ乳酸ブチルエステル、α−ヒドロキシブタノイック酸エチルエステル、ジα−ヒドロキシブタノイック酸エチルエステル、トリα−ヒドロキシブタノイック酸エチルエステル、ポリα−ヒドロキシブタノイック酸エチルエステル、α−ヒドロキシブタノイック酸プロピルエステル、ジα−ヒドロキシブタノイック酸プロピルエステル、トリα−ヒドロキシブタノイック酸プロピルエステル、ポリα−ヒドロキシブタノイック酸プロピルエステル、α−ヒドロキシブタノイック酸ブチルエステル、ジα−ヒドロキシブタノイック酸ブチルエステル、トリα−ヒドロキシブタノイック酸ブチルエステル、ポリα−ヒドロキシブタノイック酸ブチルエステルなどのヒドロキシ酸のアルキルエステルがある。
【0053】
式(8)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(15):H−R4−(C=O)−OHで表わされる化合物、式(16):H−(O−R1m−OHがある。−R4−CH2−がR1に相当する。式(8)で表わされる基、すなわち、アルキルエーテル基を形成する化合物としては、たとえばプロピオン酸、ブタノイック酸(酪酸、イソ酪酸)、ペンタノイック酸、ヘキサノイック酸、ラウリル酸、オレイル酸、ステアリル酸などの脂肪族カルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコールコポリマーがある。
【0054】
式(9)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(17):H−R1−O−(C=O)−R5−(C=O)−O−Hで表わされる化合物がある。R5は、−R5−CH2−が式(2)中のR3に相当する。式(9)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノプロピルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、コハク酸エチルエステル、コハク酸プロピルエステル、コハク酸ブチルエステル、フマール酸エチルエステル、コハク酸プロピルエステル、フマール酸ブチルエステル、アジピン酸エチルエステル、アジピン酸プロピルエステル、アジピン酸ブチルエステルなどのジカルボン酸アルキルエステルがある。
【0055】
式(3)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、式(18):X−O−CH2−CH(OH)−CHR3−O−Yで表わされる化合物(XおよびYは、それぞれ、水素原子またはアシル基を示す)がある。式(3)で表わされる基を形成する化合物としては、たとえば、グリセリン、1−メチルグリセリンなどの1−アルキルグリセリン、1−メトキシグリセリンなどの1−アルコキシグリセリン、または、これらのエステルがある。グリセリンまたはそのエステルは、デンプンの主鎖中に一部に導入されてジメチルケトン基(式(3)中のR3が水素原子)を形成する。1−アルキルグリセリンおよびそのエステルは、デンプンの主鎖中に導入されてα−アルキルメチルケトン基(式(3)中のR3がアルキル基)を形成する。1−アルコキシグリセリンおよびそのエステルは、デンプンの主鎖中に導入されてアルコキシメチルメチルケトン基(式(3)中のR3がアルコキシ基)を形成する。エステルとしては、たとえば、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪族有機酸などのグリセリド(モノグリセリド、ジグリセリドなど)がある。エステルを使用する場合、反応により遊離する有機酸(とくに低分子量の有機酸)が、最終製品の特性に悪影響を与えないように配慮することが好ましい。
【0056】
式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物として、天然食品中にも存在する成分を使用することにより、安全性に優れ、環境的にも優れた加水分解縮重合デンプンを得ることができる。
【0057】
デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを、水の存在下、100〜350℃、好ましくは135〜155℃で、反応させることにより、デンプンの主鎖中の一部に式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を導入することができる。反応温度が低すぎると、反応率が低下し、高すぎると、得られる加水分解縮重合デンプンが着色し、分子量が著しく低下、脆化する場合がある。
【0058】
デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを、水および炭酸ガスの存在下、炭酸ガスが超臨界状態または亜臨界状態となる条件下(たとえば、温度100〜350℃、好ましくは135〜155℃、反応最高圧力7.48〜29.4MPa、好ましくは15.7〜23.5MPaの条件下)で、反応させることにより、デンプンの主鎖中の一部に式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を導入することができる。存在させる炭酸ガスは、式(1)で表わされる基を形成する化合物としても作用する。炭酸ガスは、温度31.1℃以上、圧力7.48MPa以上の条件下で超臨界状態となり、温度31.1℃以上、圧力7.48MPa未満の条件下および温度31.1℃未満、圧力7.48MPa以上の条件下で亜臨界状態となる。超臨界状態または亜臨界状態の炭酸ガスは、デンプンの加水分解反応を促進するとともに、加水分解したデンプンと式(1)で表わされる基を形成する化合物として脱水縮重合反応に寄与し、また、架橋剤として架橋反応にも寄与する。炭酸ガスの使用量は、水を基準として、たとえば、好ましくは0.1〜3重量%とすることができる。炭酸ガスは、デンプンの分解反応の際、触媒的に作用するので、微量でも効果を発揮する。
【0059】
反応最高圧力は、たとえば、76〜300kg/cm2(=7.5〜29.4MPa)、好ましくは160〜240kg/cm2(=15.7〜23.5MPa)とすることができる。低圧すぎると、反応率が低下する。高圧すぎると、得られる加水分解縮重合デンプンが着色し、分子量が著しく低下、脆化する場合がある。反応時間は、たとえば1〜10分間、好ましくは3〜5分間とすることができる。長時間すぎると、得られる加水分解縮重合デンプンが着色し、分子量が著しく低下、脆化する場合がある。短時間すぎると反応率が低下し、充分な性能を有する加水分解縮重合デンプンが得られない場合がある。
【0060】
水の使用量は、たとえばデンプン100重量部(水分を除く)に対してデンプン中に含まれる水分(通常12〜13重量%)と併せて30〜80重量部、好ましくは50〜70重量部とする。水の使用量が少ないとデンプンの反応率が低下する。水の使用量が多すぎると脱水縮重合反応率が低下し、分子量の回復が少なくなり、得られる加水分解縮重合デンプンの分子量が低下する傾向がある。また、加水分解縮重合デンプンを回収するための脱水に必要なエネルギーが大きくなり経済的に好ましくない。
【0061】
デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを、前記各条件下で反応させることによって、デンプンの主鎖の加水分解反応と、加水分解されたデンプンと式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物との脱水縮重合とが、連続しておこり、デンプンの主鎖中の一部に式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基が導入される。デンプンの主鎖の加水分解反応とともに、デンプンの分岐が切断されて、デンプンの分子量が減少するとともに、デンプンが直鎖状に近くなり、さらに式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基が導入されることにより、疎水性と柔軟性が付与され、加水分解縮重合デンプンが熱可塑性を示すものと考えられる。
【0062】
式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物の一部は、グルコース単位の水酸基、とりわけヒドロキシメチル基の水酸基と脱水反応し、側鎖を形成し、加水分解縮重合デンプンの熱可塑性を向上させる。
【0063】
デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物との反応率は、加水分解縮重合デンプンのTGA・DSC分析によって測定される減量率および水分含有量から、未反応の式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物の量を算出することにより、推測することができる。
【0064】
デンプンは水の存在下で、高圧かつ高せん断力下、加熱することにより加水分解させることができる。デンプンの加水分解を高圧で短時間に行なわせ、その後引き続き脱水縮重合反応を行なわせるために、デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物との反応には、脱水用ベント付き押出し機形式の連続反応機を使用することが好ましい。反応機としては、押出し機、たとえば、2ベント付き押出し機、または3ベント付き押出し機を使用することが好ましい。使用するスクリューは、好ましくは、供給部のみ食い込みをよくするため2軸とし、この後からダイまでは1軸で構成される。たとえば、3ベント付き押出し機は、好ましくは、スクリュー供給部、せん断混練り圧縮部、解放ベント部、混練り圧縮部、真空ポンプ吸引ベント部、混練り圧縮部、真空ポンプ吸引ベント部、混練り圧縮部から構成される。
【0065】
反応機として押出し機を使用する場合、たとえば、100〜250kg/cm2(=9.8〜24.5MPa)のノズル前圧力で押出すことが好ましい。
【0066】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、架橋剤により架橋されていることができる。加水分解縮重合デンプンのヒドロキシメチル基間を架橋することにより、水膨潤性を抑制し、耐水性を向上させることができる。架橋の程度は僅かでも充分な水膨潤抑制効果を示す。架橋が増加するに従い水膨潤性が低下する。水膨潤率は、たとえば、常温(たとえば、25℃)の水中に1時間浸漬して膨潤させた前後の重量測定と絶乾重量から算出することができる。
【0067】
架橋剤としては、たとえば、リン酸類、多価カルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、エポキシ、酸無水物、イソシアネート、シラン化物などを使用することができる。架橋剤としては、たとえば、トリポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩;シュウ酸、マレイン酸、アジピン酸、フタル酸、コハク酸などの多価カルボン酸;アジピン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、フタル酸カルシウム、コハク酸カルシウムなどの多価カルボン酸塩;乳酸などのヒドロキシカルボン酸;乳酸カルシウムなどのヒドロキシカルボン酸塩;炭酸ガス;重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウムなどの重炭酸塩;モノグリシジルエーテルなどのエポキシ;無水コハク酸、無水マレイン酸などの酸無水物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエン2,4−ジイソシアネートなどのイソシアネート;ビニルトリメチルシランなどのシラン化物;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリスアクリロイル−s−トリアジンがある。架橋剤は、1種を単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
【0068】
加水分解縮重合デンプンに架橋剤を添加し、加熱(たとえば100〜180℃)して混練することにより、加水分解縮重合デンプンを架橋することができる。架橋剤の添加量は、架橋する前の加水分解縮重合デンプンを基準として、0.01〜3重量%が好ましい。架橋剤の添加量が少ないと、加水分解縮重合デンプンの水膨潤性を抑制し、耐水性を向上させる効果が小さい傾向があり、加水分解縮重合デンプンが水に溶解してしまい、水膨潤性が無限大となる場合がある。架橋剤の添加量が多すぎると、加水分解縮重合デンプンの熱可塑性および流動性が低下し、加工性が低下する場合がある。
【0069】
押出し機を使用し、デンプンと、式(1)で表わされる基を形成する化合物(たとえば、炭酸ガス)とを、水の存在下で反応させる場合、ならびに、デンプンと、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを、水および炭酸ガスの存在下で反応させる場合、たとえば、ノズル前圧力を160kg/cm2(=15.7MPa)以上に維持し、大気中に瞬時に押出して急激な脱水を起こさせることにより、グルコース単位のヒドロキシメチル基間に炭酸ガスの架橋を一部起こさせることができる。この部分的な炭酸架橋により、充分な架橋密度を有し、軟化点以上でチキソトロピー性を示す加水分解縮重合デンプンを得ることができる。この架橋反応は、ヒドロキシメチル基間における脱水による架橋反応であるため、より急激に脱水されるほど、すなわち、より高圧からより急激に減圧されるほど、加水分解縮重合デンプンの架橋密度が高くなり、水膨潤性が低く、耐水性が高くなり、加水分解縮重合デンプンが膠着しにくくなる。
【0070】
たとえば、押出し機のダイスに接触するホットカッターにより切断して得られる架橋された加水分解縮重合デンプンのペレットは、若干の空気を吹き付けられながら落下して、たとえば1m下に設置された受け皿に留まった状態でも、膠着しないので、そのまま圧送エジェクターにより搬送することができる。また、このペレットを使用し、インフレーション装置により、製膜中に、たとえばダイスから1m後方の風船状フィルムを両側から加圧密着させても、膠着しない。架橋された加水分解縮重合デンプンが、膠着しにくいのは、架橋により、可逆的チキソトロピー性を有するようになったためと考えられる。
【0071】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、たとえば、重量平均分子量が30000〜500000、好ましくは50000〜200000であることができる。分子量が低い加水分解縮重合デンプンは、機械的物性が低い傾向があり、高い加水分解縮重合デンプンは、流動性が低く、成形しにくい場合がある。
【0072】
加水分解縮重合デンプンの分子量は、デンプンと、式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物とを反応させる際の反応温度を高くすることにより、または、反応圧力を高くすることにより、低くなる傾向がある。
【0073】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、温度20℃、相対湿度60%の条件下で24時間放置することにより、実質的に恒量平衡に達した水分率が1〜6重量%であることが好ましい。
【0074】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、25℃の水中に1時間浸漬後の膨潤率が150〜400%であることが好ましい。前記膨潤率が高すぎる加水分解縮重合デンプンは耐水性が低く、また、ペレットが膠着しやすい傾向があり、低すぎる加水分解縮重合デンプンは、流動性が低い傾向がある。前記膨潤率は、たとえば、加水分解縮重合デンプンのグルコース単位のヒドロキシメチル基間を架橋することにより、低くすることができる。
【0075】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、チキソトロピー性を有することが好ましい。たとえば、架橋された加水分解縮重合デンプンは可逆的チキソトロピー性を示す。架橋された加水分解縮重合デンプンは、単に軟化点以上に加熱しただけでは、架橋が切れないので、表面張力を小さくするために球状になるということがなく、原形を維持するが、この状態で僅かな荷重を加えると容易に流動、変形する。変形は荷重を取り除くと維持され、可逆的チキソトロピー性を示す。
【0076】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンが粒子として存在しないため、透明性に優れている。本発明の加水分解縮重合デンプンは、たとえば、ホットプレスにより作成した1mm厚さのシートについて分光光度計により求められるヘイズが30以下と優れた値を示す。ヘイズは、たとえば、スガ試験機(株)製 HGM−2DPにより、Tt(全光線透過率(%))およびTd(拡散透過率(%))を測定し、ヘイズ(%)=Td÷Tt×100として算出することができる。本発明の加水分解縮重合デンプンのシートは、水中に浸漬すると、部分的な膨潤性の差により、屈折率の部分差が生じ、光散乱を起こし、徐々に白濁してくるが、乾燥することにより、屈折率の局部差がなくなり、再度透明となる。
【0077】
本発明の加水分解縮重合デンプンには、一般に使用されるポリマー用添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、たとえば、着色剤(顔料、染料)、抗菌剤、防臭剤、防腐剤、防虫剤、静電防止剤、耐光剤、耐熱剤、ブロッキング防止剤などの添加剤が挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用することができ、または、2種以上を併用することもできる。これらの添加剤の使用に関しては用途により、食品としての特性、薬品としての特性、廃棄時の生分解性などに悪影響のないように配慮すべきである。
【0078】
本発明の加水分解縮重合デンプンに脂肪族有機酸およびそのグリセリドなどの可塑剤を加えることにより、熱可塑性を向上させることができる。可塑剤の配合量を増加させることにより、さらに熱可塑性を向上させることができる。
【0079】
式(1)、式(2)または式(3)で表わされる基を形成する化合物の反応率は、得られた加水分解縮重合デンプンのTGA・DSC分析によって測定される減量から推測することができる。一例として、70重量%のデンプンおよび30重量%のグリセリンを配合し、製造した加水分解縮重合デンプンについて、分解開始温度(270℃近辺)まで一定の速度で定率減量を行なった。この減量率が水分減量率を含め、約15重量%であった。加水分解縮重合デンプンの恒量平衡に達した水分含有率が4〜5重量%であることから、約10重量%の未反応のグリセリンが残存し、残りの約20重量%のグリセリンが反応し、デンプンの主鎖中の一部に導入されるか、または、側鎖を形成したものと推測される。
【0080】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、繊維からなる乾式不織布、湿式不織布、熱融着不織布、ケミカルボンド不織布などの不織布および布帛などの繊維製品、フィルム、シート、パイプ、棒などの押出成形品、モールド成形品および射出成形品の原料として使用することができる。
【0081】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、たとえば、溶融紡糸によって、紡糸することができる。すなわち、加水分解縮重合デンプンを押出し機で溶融、混練し、ギアポンプで計量しつつ、ノズルから紡出し、オイリングしたのち、巻取ることによって、フィラメントを得ることができる。このフィラメントを、さらに延伸したり、他の繊維と混繊したり、仮撚り加工をしたり、交撚などの加工をすることにより、各種の繊維製品を得ることができる。
【0082】
溶融紡糸するための材料としては、溶融粘度が100〜500、とりわけ200〜400の加水分解縮重合デンプンが好ましい。加水分解縮重合デンプンの溶融粘度は、温度190℃、荷重2.16kgの条件下における2mm径のノズルからの10分間の流出量(g)で規定することができる。溶融粘度が100未満、または500を超える加水分解縮重合デンプンでは、繊維製品を製造する際の可紡性が低い。
【0083】
たとえば、紡出された糸を、整流された気流(空気)により冷却する場合、急速に冷却するよりも、緩やかに冷却した方が可紡性がよくなる傾向がある。気流により加水分解縮重合デンプンに含まれた水分が除去される。紡糸と同時または紡糸後に延伸を行なってもよい。未延伸糸の引張破断強度は、たとえば0.2g/d程度であり、引張破断伸度は、たとえば530%程度である。未延伸糸を延伸することにより、繊維強度を向上させることができる。繊維強度を向上させる点から、加水分解縮重合デンプンのガラス転移点以上の温度で、未延伸糸を延伸することが好ましい。未延伸糸を延伸することにより、たとえば引張破断強度が2g/d以上、延伸条件によっては3g/d以上の繊維を得ることができる。
【0084】
本発明の加水分解縮重合デンプンを紡糸したのち、集束して繊維束とし、熱延伸したのち、オイリング、クリンピングおよびカットすることにより、ステープル(短繊維)を得ることができる。カットすることにより得られたステープルは、通常、カットしたのち、すぐに梱包される。ステープルは、混紡により、他の繊維と混合して用いることができる。
【0085】
本発明の加水分解縮重合デンプンの繊維を用いた紡績糸は、他の糸と交撚したり、引き揃えをして用いることもできる。本発明の加水分解縮重合デンプンの繊維は、一般的なフィラメントまたは紡績糸と同様にして、編織物を製造するために用いることができる。本発明の加水分解縮重合デンプンのステープルは、一般的なステープルと同様にして、ニードルパンチング法、エアレイ法、スパンレース法、抄紙法により、不織布を製造するために使用することができる。
【0086】
本発明の加水分解縮重合デンプンを用いて、フィルムおよびシート成形品を製造することができる。たとえば、本発明の加水分解縮重合デンプンをTダイ法により押出し成形することにより、フィルムおよびシートを製造することができる。Tダイ法でフィルムまたはシートを製造する場合、得られるフィルムまたはシートの厚さは、押出し量と引き取り速度とを調節することにより、制御することができる。本発明の加水分解縮重合デンプンのフィルムおよびシートは、インフレーション法によっても製造することができる。インフレーション法によってフィルムまたはシートを製造する場合には、操業上、粘度が、MI値で1〜10、とりわけ1〜5の加水分解縮重合デンプンを用いることが好ましい。
【0087】
本発明の加水分解縮重合デンプンのフィルムまたはシートを製造する場合、加水分解縮重合デンプンの押出し温度は、加水分解縮重合デンプンの融点の上下20℃以内の範囲とすることが好ましく、たとえば、140〜180℃とすることが好ましい。
【0088】
Tダイ法またはインフレーション法で得られた本発明の加水分解縮重合デンプンのフィルムまたはシートを、延伸することにより、延伸フィルムまたは延伸シートを製造することができる。本発明の加水分解縮重合デンプンのフィルムおよびシートを延伸する際の温度は、ガラス転位点以上、その30℃上までの範囲とすることが好ましい。
【0089】
本発明の加水分解縮重合デンプンの未延伸シートを、たとえば、真空モールド成形することにより、モールド成形品を製造することができる。たとえば、厚さ0.2〜2mmのシートを赤外線ヒーターなどでガラス転位点以上に加熱し、真空モールド成形金型の上に移動し、金型から吸引することによりシートを金型の形に成形することができる。
【0090】
広く知られている生分解性樹脂であるポリ乳酸は、未延伸状態における引張破断伸度が常温で2〜3%と非常に小さく脆弱で実用に耐えず、また、真空モールド成形しても、変形の大きい部分は延伸されるが、金型の縁の部分は殆ど延伸されないため、未延伸部分が残り、この部分が脆弱で実用に耐えない。これに対して、本発明の加水分解縮重合デンプンの未延伸シートは、引張破断伸度が常温(たとえば25℃)で20%以上あり、未延伸部分も実用に供しても問題のない機械的物性を有する。
【0091】
以下、本発明の詳細を実施例にて説明する。
【0092】
実施例1:式(3)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
とうもろこしデンプン100重量部、デンプン中に含まれる通常12〜13重量%の水分と併せてイオン交換水70重量部およびグリセリン50重量部、ブタンジオール10重量部を混合し、45mmトリプルベント付き1軸押出し機に供給した。ベント口から開放、水封ポンプ、油拡散ポンプで脱水した。押出し機のスクリューは、供給、混練り、圧縮、ベントからの脱水、混練り、ベントからの脱水、混練り、ベントからの脱水、圧縮の過程を経るように設計し、通常の2軸押出し機に劣らない混練り効果を得られるようにした。
【0093】
スクリューの混練り効果は、無色透明ポリプロピレン100重量部にカーボンブラック含有ポリエチレン2重量部を混合し、混練り後、顕微鏡観察によりカーボンブラックの存在部分を比較することにより確認した。ポリエチレンはポリプロピレン中に約30ミクロン程度の大きさでほぼ均一に分散されていることが光学顕微鏡観察により確認された。
【0094】
加熱最高温度150℃、圧力230kg/cm2(=22.5MPa)でデンプンを加水分解し、加水分解されたデンプンとグリセリンとを、引き続き、急激に開放し脱水縮重合させた。全滞留時間を3分、原料の供給速度を50kg/時間とした。生成した加水分解縮重合デンプンを100メッシュのフィルターで濾過後、直径1mmのノズルから押出し、ホットカッターでペレットに成形した。得られた加水分解縮重合デンプンぺレットは、MI値(180℃)が5と良好な熱可塑性を示した。
【0095】
得られた加水分解縮重合デンプンペレットよりフィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光光度計によるFT−IR測定を行なったところ、デンプンには認められない式(3)で表わされる基特有のCO伸縮振動による1,724.9cm-1の吸収帯が確認された。赤外分光光度計によるFT−IR測定の測定結果を図1に示す。比較のため得られた加水分解縮重合デンプンの赤外分光光度計によるFT−IR測定の測定結果と原料として使用したとうもろこしデンプンのフーリエ変換赤外分光光度計によるFT−IR測定の測定結果とを図2に対比して示す。
【0096】
図1および図2中、加水分解縮重合デンプンの3294cm-1の吸収は水素結合したO−H、2929cm-1の吸収はCH2基のC−H、1724.9cm-1の吸収はジメチルケトン基のC=O、1646cm-1の吸収は結晶水の存在を示す。図2中、とうもろこしデンプンの3295cm-1の吸収は水素結合したO−H、2929cm-1の吸収はCH2基のC−H、1645cm-1の吸収は結晶水の存在を示す。とうもろこしデンプンでは、ジメチルケトン基のC=Oの存在を示す1724.9cm-1付近の吸収はない。
【0097】
FT−IR測定には、パーキンエルマー社製フーリエ変換赤外分光光度計を使用した。
【0098】
実施例2および3:式(3)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
滞留時間を3分(実施例2)および5分(実施例3)としたほかは実施例1と同様にして、ペレットを成形したところ、実施例1と同様に、熱可塑性を有する式(3)で表わされる基が導入された加水分解縮重合デンプンであることが確認された。
【0099】
<シートの成形>
スリット0.5mmのTダイ押出し装置を使用してダイ温度160℃で押出し、膜厚約400ミクロンの未延伸シートを製造した。得られたシートの引張破断強度および引張破断伸度は、以下の通りであり、実用に耐えられる強度を示した。温度20℃、相対湿度60%で24時間放置したのちの恒量水分率は、以下の通りであった。
【0100】
Figure 0003539955
【0101】
<フィルムの成形>
実施例3の未延伸シートを90℃のチャンバー温度で4倍延伸し、膜厚100ミクロンの1軸延伸フィルムを製造した。得られたフィルムの引張破断強度は9.9N/mm2、引張破断伸度は25%で実用に耐えられる強度を示した。
【0102】
実施例4:式(1)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
グリセリンの代りに炭酸ガスを発生する重炭酸ソーダ10重量部を用いて反応させたほかは、実施例1と同様にした。得られた加水分解縮重合デンプンは、赤外分光光度計による測定において、炭酸基特有のCO伸縮振動による1,745〜1,755cm-1の吸収帯が新たに発現することより、デンプンの主鎖中の一部に式(1):−O−(C=O)−O−で表わされる基が導入されたことを確認することができた。この吸収帯は、デンプンには認められない。得られた加水分解縮重合デンプンのMI値は23であった。
【0103】
実施例5:式(5)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
グリセリンの代りに、モノマーユニットに換算して同モル相当のポリα−オキシプロピロン酸を使用して反応させたほかは実施例1と同様にした。得られた加水分解縮重合デンプンからオルトクレゾールで未反応のポリα−オキシプロピオン酸を抽出したのち、赤外分光光度計による測定において、エステル基特有のCO伸縮振動による1,730〜1,740cm-1の吸収帯が新たに発現したことにより、デンプンの主鎖中の一部に(O−(C=O)−CH(CH3))m−O−で表わされる基が導入されたことを確認することができた。この吸収帯はデンプンには認められない。また、得られた加水分解縮重合デンプンから未反応のポリα−オキシプロピオン酸を抽出したのちのNMR分析により、ポリα−オキシプロピオン酸のメチル基の存在を示すピークが検出された。
【0104】
実施例6:式(6)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
グリセリンの代りに、同モルのn−プロピルアルコールを使用して反応させたほかは実施例1と同様にした。得られた加水分解縮重合デンプンから沸騰水で未反応のn−プロピルアルコールを抽出したのち、NMR分析により、デンプンには認められないn−プロピルアルコールのメチレン基の存在を示すピークが検出され、デンプンの主鎖中の一部にO−CH2−CH2−CH2−で表わされる基が導入されたことを確認することができた。
【0105】
実施例7:式(5)および式(6)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
グリセリンの代りに、半分のモル数のn−プロピルアルコールと、モノマーユニットに換算して半分のモル数に相当するポリα−オキシプロピオン酸を使用して反応させたほかは実施例1と同様にした。得られた加水分解縮重合デンプンから沸騰水で未反応のn−プロピルアルコールを抽出し、つぎにオルトクレゾールで未反応のポリα−オキシプロピオン酸を抽出したのち、NMR分析により、デンプンには認められないn−プロピルアルコールのメチレン基の存在を示すピークが検出され、デンプンの主鎖中の一部にO−CH2−CH2−CH2−で表わされる基が導入されたことを確認することができた。また、得られた加水分解縮重合デンプンは、赤外分光光度計による測定において、エステル基特有のCO伸縮振動による1,730〜1,740cm-1の吸収帯が新たに発現したことより、デンプンの主鎖中の一部に(O−(C=O)−CH(CH3))m−O−で表わされる基が導入されていることを確認することができた。
【0106】
実施例8〜11:架橋
実施例1で製造した加水分解縮重合デンプンに、トリポリリン酸ナトリウムを添加量を変えて添加し、1軸混練押出し機を使用し、130℃で混練し、ドライカッターでペレットを製造した。製造したペレットの水膨潤性を測定した結果は次の通りであった。水膨潤性の小さいペレット程,ホットカッターで造粒した際も膠着することがなかった。また、実施例1と同様にしてシートを製造した。
【0107】
Figure 0003539955
【0108】
<モールド成形品の製造>
実施例8の加水分解縮重合デンプンを使用して厚さ1mmの未延伸シートを製造し、赤外線ヒーターで90℃(ガラス点移転以上)に加熱したのち、常温の真空モールド成形金型の上に移動し、金型の底部から真空ポンプで吸引することにより、シートを金型通りの形に成形し、刃付き金型でトリミングし、モールド成形品を製造した。金型の形状は底辺および開口部の陵のRは5mm、開口面が一辺5cm、底辺が一辺3cmの正方形で、深さを、それぞれ、2cm、4cmおよび6cmとした3個の金型が1cm間隔で並んだ金型を使用し、深さの違いにより絞りがうまくいくかいかないかを目視判定したところ、いずれの深さでも。このシートが破れたり、極端な肉薄部分が発生したりすることもなく、良好であった。
【0109】
実施例12:式(8)で表わされる基を有する加水分解縮重合デンプン
実施例1と同様にして、グリセリンの代りに、同モル数のn−ブタンジオールを使用して反応させたほかは実施例1と同様にした。得られた加水分解縮重合デンプンから沸騰水で未反応のn−ブタンジオールを抽出し、NMR分析により、デンプンには認められないn−ブタンジオールのメチレン基の存在を示すピークが検出され、デンプンの主鎖中の一部にO−CH2−CH2−CH2−CH2−O−で表わされる基が導入されたことを確認することができた。
【0110】
<軟化点、破壊温度>
実施例1〜12により得られた各加水分解縮重合デンプンを、セイコー電子(株)製DSC6200およびセイコー電子(株)製SSC5200により分析した結果、軟化点は42〜80℃、破壊温度は278〜299℃であった。
【0111】
<生分解性>
実施例1〜12で得られたシートを、市販の家庭用コンポスト機に投入し、8時間毎に定期的に一部サンプリングし、サンプルの減量を測定した。この減量率で、シートの生分解性を評価した。コンポスト処理温度を40〜50℃に保持し、コンポストの種菌用栄養分に小麦粉を使用した。いずれのサンプルについても、48時間後には、加水分解縮重合デンプンのサンプリングが不能となり、良好な生分解性を示した。
【0112】
実施例13:繊維製品の製造
実施例12で製造したMI値32の加水分解縮重合デンプンを押出し機で溶融し、ギヤポンプで計量しながら、丸型通常口金を用いてノズル温度180℃で紡糸し、オイリングし、円形の未延伸糸を製造した。紡糸時に水分の蒸発が観察されたが、紡糸に悪影響はなかった。つぎに延伸倍率4.4倍、ヒータープレート温度90℃で本発明の繊維250D/16Fの延伸糸を製造した。この繊維は、チッ素雰囲気中でのDSC測定による融点を示さなかった。この繊維の引張破断強度は1.8g/d、引張破断伸度は22%であった。
【0113】
【発明の効果】
本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンと異なり、熱可塑性を有するので、従来の熱可塑性樹脂の代替材料として、たとえば、各種成形品を製造するための材料として、使用することができる。本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプンと異なり、各種成形品を製造するための材料として使用する際に乾燥する必要がないので、経済的である。本発明の加水分解縮重合デンプンは、デンプン同様に、生分解性を有するので、コンポスト中で容易に生分解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1で製造した加水分解縮重合デンプンのフーリエ変換赤外分光光度計による測定結果を示すチャートである。
【図2】本発明の実施例1で製造した加水分解縮重合デンプンおよび原料として使用したとうもろこしデンプンのフーリエ変換赤外分光光度計による測定結果を示すチャートである。

Claims (19)

  1. デンプンの主鎖中の一部に式(1):−O−(C=O)−O−で表わされる基、式(2):−((O−R1x−(O−(C=O)−R2ym−Oz−で表わされる基および式(3):−CH2−(C=O)−CHR3−O−で表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を導入してなる加水分解縮重合デンプン(式(2)中、R1は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基;R2は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基;xは0または1;yは0または1;x+yは1または2;mは1〜3100の整数;zは0または1を示し、式(3)中、R3は、水素原子、炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基または炭素数1以上のアルコキシ基を示す)。
  2. 式(1)で表わされる基を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  3. 式(2)で表わされる基として、式(4):−(O−(C=O)−R2m−で表わされる基(式(2)中のxが0、yが1、zが0のとき)を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  4. 式(2)で表わされる基として、式(5):−(O−(C=O)−R2m−O−で表わされる基(式(2)中のxが0、yが1、zが1のとき)を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  5. 式(2)で表わされる基として、式(6):−(O−R1m−で表わされる基(式(2)中のxが1、yが0、zが0のとき)を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  6. 式(2)で表わされる基として、式(7):−(O−R1−O−(C=O)−R2m−で表わされる基(式(2)中のxが1、yが1、zが0のとき)を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  7. 式(2)で表わされる基として、式(8):−(O−R1m−O−で表わされる基(式(2)中のxが1、yが0、zが1のとき)を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  8. 式(2)で表わされる基として、式(9):−(O−R1−O−(C=O)−R2m−O−で表わされる基(式(2)中のxが1、yが1、zが1のとき)を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  9. 式(3)で表わされる基を導入してなる請求項1記載の加水分解縮重合デンプン。
  10. 架橋されている請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の加水分解縮重合デンプン。
  11. 温度20℃、相対湿度60%の条件下で24時間放置することにより、実質的に恒量平衡に達した水分率が1〜6重量%である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の加水分解縮重合デンプン。
  12. 温度25℃の水中に1時間浸漬後の膨潤率が150〜400%である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11記載の加水分解縮重合デンプン。
  13. チキソトロピー性を示す請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12記載の加水分解縮重合デンプン。
  14. デンプンと、式(1):−O−(C=O)−O−で表わされる基を形成する化合物、式(2):−((O−R1x−(O−(C=O)−R2ym−Oz−で表わされる基を形成する化合物および式(3):−CH2−(C=O)−CHR3−O−で表わされる基を形成する化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物とを、水の存在下、100〜350℃で、反応させる加水分解縮重合デンプンの製造方法(式(2)中、R1は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基;R2は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基;xは0または1;yは0または1;x+yは1または2;mは1〜3100の整数;zは0または1を示し、式(3)中、R3は、水素原子、炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基または炭素数1以上のアルコキシ基を示す)。
  15. デンプンと、式(1):−O−(C=O)−O−で表わされる基を形成する化合物、式(2):−((O−R1x−(O−(C=O)−R2ym−Oz−で表わされる基を形成する化合物および式(3):−CH2−(C=O)−CHR3−O−で表わされる基を形成する化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物とを、水および炭酸ガスの存在下、炭酸ガスが超臨界状態または亜臨界状態となる条件下で、反応させる加水分解縮重合デンプンの製造方法(式(2)中、R1は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基;R2は、炭素数1以上のアルキレン基または炭素数6以上のアリーレン基;xは0または1;yは0または1;x+yは1または2;mは1〜3100の整数;zは0または1を示し、式(3)中、R3は、水素原子、炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基または炭素数1以上のアルコキシ基を示す)。
  16. デンプンと、式(1)で表わされる基を形成する化合物、式(2)で表わされる基を形成する化合物および式(3)で表わされる基を形成する化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物との反応に押出し機を使用し、100〜250kg/cm2のノズル前圧力で押出す請求項1または1記載の加水分解縮重合デンプンの製造方法。
  17. 請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13記載の加水分解縮重合デンプンからなる繊維製品。
  18. 請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13記載の加水分解縮重合デンプンからなるフィルムまたはシート成形品。
  19. 請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13記載の加水分解縮重合デンプンからなるモールド成形品。
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