JP3496048B2 - 金属イオン捕捉剤及び土壌の浄化方法 - Google Patents

金属イオン捕捉剤及び土壌の浄化方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生分解性を有し、
生物に対して高い安全性を有する金属イオン捕捉剤及び
それを用いる土壌の浄化方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自然環境保全の観点から、土壌中に存在
する有害重金属を除去することが強く要望されている。
このような土壌中の有害重金属を除去するための方法と
しては、金属イオン捕捉剤を用いる方法が考えられる
が、従来の一般的金属イオン捕捉剤は非水溶性であり、
土壌中の重金属を捕捉除去するためには適用することが
できない。また、従来の金属イオン捕捉剤は、生分解性
の点でも問題があり、自然環境に放出されたときに、環
境汚染の原因ともなる。このような欠点を解消するため
に、本発明者らは先にトチノキ科の果実から得られる3
個の糖基と1個のカルボキル基を有するサポニン(エス
シン)からなる金属イオン捕捉剤を提案した(特開平1
0−130623号;特許第2835442号)。この
金属捕捉剤は、水溶性を示しかつ生分解性を示すことか
ら、自然環境に放出されたときに、公害を生じることが
ないといった利点を有するものであるが、その後の本発
明者らの研究によれば、水に対する溶解度がやや低く、
このためカドミウムや鉛との反応性が未だ十分でなく、
また除去対象となる金属種が少ない等といった問題点が
あることが判明した。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明はカドミウムや
鉛の捕捉率に優れていると共に数多くの金属種に対して
も充分な捕捉効果を示し、しかも水溶性でかつ生分解性
の金属イオン捕捉剤と、これを用いる土壌の浄化方法を
提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題
を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成する
に至った。即ち、本発明によれば、第一に、キラヤ樹皮
から得られる10個の糖基と1個のカルボキシル基を有
するサポニン及び/又は茶の種子から得られる4個の糖
基と1個のカルボキシル基を有するサポニンからなる金
属イオン捕捉剤が提供される。第二に、重金属で汚染さ
れた土壌の浄化方法において、該土壌に対し、上記第一
に記載の金属イオン捕捉剤の水溶液を接触させ、該土壌
中に含まれる重金属を該水溶液中に移行させることを特
徴とする土壌の浄化方法が提供される。第三に、使用済
み金属イオン捕捉剤をアルカリ処理して該金属イオン捕
捉剤を回収再使用すると共に該重金属を分離回収するこ
とを特徴とする上記第二に記載の土壌の浄化方法が提供
される。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明で用いる前記キラヤ樹皮か
ら得られるサポニンは、キラヤの木(学名 Quillaia sa
ponaria Mol. バラ科)の樹皮に含まれ、その樹皮から
抽出分離することにより、容易に入手することができ
る。前記キラヤの木には南米のチリ、ボリビア、ペルー
地域に自生するキラヤの木が包含される。本明細書にお
いては、以下においてこのサポニンをキラヤサポニンと
呼称する。
【0006】キラヤサポニンは従来公知の常温固体の物
質であり、その化学構造は10個の糖基と1個のカルボ
キシル基を有し、キラヤ酸をアグリコンとするトリテル
ペン系配糖体である。即ち、キラヤサポニンはキラヤ酸
骨格を親油基とし、配糖体の糖基部分を親水基とする界
面活性剤であり、10個の糖基がキラヤ酸の3の位置と2
8の位置に分かれて付加し、また3の位置に付加してい
る糖のうちひとつが1個のカルボキシル基を持つグルク
ロン酸であることを特徴としている。その元素組成は炭
素43.5%、水素6.0%であり、残りはほとんど酸
素であると推定される。
【0007】本発明で使用する茶の種子から得られるサ
ポニンは、茶の種子をヘキサンで脱脂したのち、エタノ
ールで還流抽出することにより、容易に入手することが
できる。本明細書においては、以下においてこのサポニ
ンを茶種子サポニンと呼称する。
【0008】茶種子サポニンは従来公知の常温固体の物
質であり、その化学構造はキラヤサポニンと同様トリテ
ルペン系配糖体であり、4個の糖基が非糖部の3の位置
に付加し、糖のうちひとつが1個のカルボキシル基を持
つグルクロン酸であることを特徴としている。その元素
組成は炭素49.2%、水素6.9%であり、残りはほ
とんど酸素であると推定される。
【0009】このキラヤサポニン及び茶種子サポニンは
表面張力低下作用の大きい界面活性作用を示し、水にも
透明に溶解する親水性の高い界面活性剤である。そし
て、これらのサポニンは特許第2835442の金属イ
オン捕捉剤であるエスシンと比べて、親水性の糖基をよ
り多く含有するため、水に対する溶解度が高く、そのた
め種々の重金属との反応性に富み特にカドミウムや鉛と
の反応性が著しく高いため、カドミウム及び鉛の捕捉率
に優れたものである。また、前記サポニンは、生体の代
謝物であり、生分解性を示し、かつ生体に対して高い安
全性を示す。このものは自然環境に排出されると容易に
分解してその界面活性を失い、自然界に戻される。
【0010】本発明においては、上記サポニンは、金属
イオン捕捉剤として用いられ、水中に溶存している各種
金属イオンを捕捉する。この場合の金属イオンとして
は、Cd、Pb、Zn、Cu、Ca、Mg、Ba、A
l、Fe、Ni、Cr等の金属イオンが挙げられる。ま
た、これらのサポニンは、非水溶性の金属化合物を水中
に分散化させる作用を有し、分散剤として用いることが
できる。従って、上記サポニンを用いることにより、有
害重金属、特に、Cd、Pb、Zn、Cu等の重金属で
汚染された土壌を効率よく浄化することができる。
【0011】本発明において、有害重金属で汚染された
土壌を浄化するには、その土壌に対して、上記サポニン
を含む水溶液を接触させればよい。この場合の水溶液中
のサポニン濃度は、浄化処理の経済性向上のために、で
きるだけ低濃度にすることが望ましく、1〜10重量
%、好ましくは1〜3重量%とするのが良い。
【0012】サポニンを含む水溶液のpHは、土壌の損
傷を最小限にするには、中性付近のpH領域で行うこと
が望ましいが、重金属の加水分解による溶出率の低下を
防止するためには、酸性の処理条件が好ましいことか
ら、pH5.5〜6.0の弱酸性pH領域とするのが適
当である。
【0013】土壌に対してサポニンの水溶液を接触させ
る方法としては、サポニン水溶液中で土壌を撹拌する方
法、土壌中にサポニン水溶液を透過させる方法、土壌の
水性スラリー液にサポニン又はその水溶液を混合する方
法等がある。
【0014】このような接触方法においては、土壌中の
重金属イオンは、水溶液中のサポニンに捕捉され、ま
た、非水溶性金属化合物は水溶液中に分散化されて、水
溶液に移行する。次に、重金属を含むサポニン水溶液を
土壌から分離し、回収する。回収された重金属を含む使
用済みサポニン水溶液を、水酸化ナトリウム等のアルカ
リで処理すれば重金属が沈殿分離し、サポニンが回収さ
れる。この分離回収されたサポニンは、金属イオン捕捉
能を有し、再使用することができる。
【0015】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明
する。なお、キラヤサポニン及び茶種子サポニンとして
は、何れも市販されている市販品(キラヤサポニン;シ
グマケミカルズ社製、茶種子サポニン;和光純薬工業株
式会社製)を用いた。
【0016】参考例1(モデル汚染土壌の調製) 茨城県土浦市において採集した黒ボク土または岡山県岡
山市において採集した非固結岩屑土(以下マサ土と呼称
する)を風乾したのち、標準ふるいで粒径2mm以下の
土壌をふるい分けた。その2.0kgを5l容塩化ビニ
ル製容器にとり、20mMの硝酸カドミウム、硝酸銅、
硝酸鉛、硝酸亜鉛を含む水溶液3.5lを加え、pHを
約5に調整し、しんとうしながら3カ月間処理して汚染
させた。水相をろ別し、残渣を風乾して、汚染黒ボク土
及び汚染マサ土を得た。それぞれの汚染土壌の特性は表
1に示すとおりである。
【0017】
【0018】参考例2(土壌浄化実験) 35ml容ポリカーボネート製遠心沈殿管に参考例1で
調製した汚染黒ボク土または汚染マサ土1.0gとキラ
ヤサポニンまたは茶種子サポニン水溶液25mlを入
れ、20℃に保持した恒温槽中でしんとう器にて横方向
(振幅10cm)に24時間しんとうした。ついで、冷
凍機付き高速遠心機を用いて9000rpmで20分間
遠心分離し、分離した上澄液を孔径0.45μmのメン
ブレンフィルタでろ過した。得られたろ液について、p
Hを測定すると共に、カドミウム、銅、鉛、亜鉛の濃度
を高周波誘導プラズマ発光分析装置(ICP−AES)
を用いて定量した。
【0019】実施例1 キラヤサポニンまたは茶種子サポニンの最終濃度が3.
0%、最終pHが約3〜7になるように調製した水溶液
25mlを、35ml容ポリカーボネート製遠心沈殿管
に入れ、参考例1の汚染黒ボク土1.0gを加えた。参
考例2に従って土壌浄化実験を行った。その結果を以下
に示す。なお、水相の重金属溶出量の未処理土壌中の重
金属量に対する割合を除去率として表した。 [カドミウムの除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポ
ニンによる浄化処理により、汚染黒ボク土から水相に移
行するカドミウムの量は、最終pHの低下と共に顕著に
増加した。キラヤサポニンでは最終pH3.2で87.
5%、茶種子サポニンでは最終pH3.2で90.2%
のカドミウムが除去された。これは、前記特許第283
5442の金属イオン捕捉剤のエスシンを同じ汚染黒ボ
ク土に適用した場合、最終pH2.8で32.0%のカ
ドミウムが除去されたのと比べて、約3倍の高いカドミ
ウム除去率である。 [銅の除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポニンによ
る浄化処理により、汚染黒ボク土から水相に移行する銅
の量は、最終pHの低下と共に緩やかに増加した。キラ
ヤサポニンでは最終pH3.2で42.5%、茶種子サ
ポニンでは最終pH3.2で35.7%の銅が除去され
た。 [鉛の除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポニンによ
る浄化処理により、汚染黒ボク土から水相に移行する鉛
の量は、中性pH領域では4%以下であったが、最終p
Hの低下と共に緩やかに増加した。キラヤサポニンでは
最終pH3.2で24.5%、茶種子サポニンでは最終
pH3.2で33.2%の鉛が除去された。これは前記
特許第2835442の金属イオン捕捉剤のエスシンを
用いた場合、最終pH2.8で25.0%の鉛が除去さ
れたのと比べて、キラヤサポニンではほぼ同程度の除去
率であり、茶種子サポニンではより高い除去率である。 [亜鉛の除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポニンに
よる浄化処理により、汚染黒ボク土から水相に移行する
亜鉛の量は、中性pH領域では11%以下であったが、
最終pHの低下と共に顕著に増加した。キラヤサポニン
では最終pH3.2で89.8%、茶種子サポニンでは
最終pH3.2で84.8%の亜鉛が除去された。
【0020】実施例2 実施例1において、汚染黒ボク土のかわりに、汚染マサ
土を用いた土壌浄化実験を行った。その結果を以下に示
す。 [カドミウムの除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポ
ニンによる浄化処理により、汚染マサ土から水相に移行
するカドミウムの量は、最終pHの低下と共に顕著に増
加した。キラヤサポニンでは最終pH3.1で100
%、茶種子サポニンでは最終pH3.0で98.7%の
カドミウムが除去された。これは、実施例1の汚染黒ボ
ク土についての除去率よりも高いものである。 [銅の除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポニンによ
る浄化処理により、汚染マサ土から水相に移行する銅の
量は、最終pHの低下と共に増加した。キラヤサポニン
では最終pH3.1で62.5%、茶種子サポニンでは
最終pH3.0で70.0%の銅が除去された。これ
は、実施例1の汚染黒ボク土についての除去率よりも高
いものである。 [鉛の除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポニンによ
る浄化処理により、汚染マサ土から水相に移行する鉛の
量は、最終pHの低下と共に緩やかに増加した。キラヤ
サポニンでは最終pH3.1で56.6%、茶種子サポ
ニンでは最終pH3.0で48.1%が除去された。こ
れは、実施例1の汚染黒ボク土についての除去率よりも
高いものである。 [亜鉛の除去]キラヤサポニンまたは茶種子サポニンに
よる浄化処理により、汚染マサ土から水相に移行する亜
鉛の量は、最終pHの低下と共に顕著に増加した。キラ
ヤサポニンでは最終pH3.1で96.2%、茶種子サ
ポニンでは最終pH3.0で82.6%が除去された。
これは、実施例1の汚染黒ボク土についての除去率より
も高いものである。なお、汚染マサ土に対して汚染黒ボ
ク土よりも高い重金属除去率が得られたのは、表1に示
すように、マサ土の粒度分布が砂質側に偏り、また比表
面積が小さいために重金属が弱く土壌粒子に保持されて
いるためと考えられる。
【0021】実施例3 実施例1の濃度3.0%の浄化実験で得られた使用済み
茶種子サポニン処理液に1規定水酸化ナトリウムを加え
てpHを10以上に調節した。このとき90%以上のカ
ドミウム、銅、鉛、亜鉛が水酸化物の沈殿として回収さ
れた。分離された茶種子サポニンは再び土壌浄化処理に
再使用できた。
【0022】
【発明の効果】本発明の金属イオン捕捉剤はカドミウム
や鉛の捕捉率に優れていると共に数多くの金属種に対し
ても充分な捕捉効果を示すことから、これらの有害重金
属等で汚染された土壌を効率的に浄化することができ
る。また、本発明の金属イオン捕捉剤は、水溶性を示し
かつ生分解性を示すことから、自然環境に放出されたと
きに、公害を生じることはない。本発明の金属イオン捕
捉剤は、土壌の浄化剤として使用される他、金属イオン
捕捉剤の要望される他の分野、例えば、化粧品分野や、
食品分野等においても有利に利用される。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平10−130623(JP,A) 特開 平7−328677(JP,A) 特開 平9−295000(JP,A) 特開 平7−24454(JP,A) 特開 平9−241637(JP,A) 特開 平9−100147(JP,A) 特開 平10−324893(JP,A) 特開 平2−122232(JP,A) 特開 平10−15568(JP,A) 特開 平10−269462(JP,A) 特開 平4−145028(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C09K 3/00 108 B09C 1/02 B09C 1/08 C09K 17/32 ZAB

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】キラヤ樹皮から得られる10個の糖基と1
    個のカルボキシル基を有するサポニン及び/又は茶の種
    子から得られる4個の糖基と1個のカルボキキル基を有
    するサポニンからなる金属イオン捕捉剤。
  2. 【請求項2】重金属で汚染された土壌の浄化方法におい
    て、該土壌に対し、請求項1の金属イオン捕捉剤の水溶
    液を接触させ、該土壌中に含まれる重金属を該水溶液中
    に移行させることを特徴とする土壌の浄化方法。
  3. 【請求項3】使用済み金属イオン捕捉剤をアルカリ処理
    して該金属イオン捕捉剤を回収再使用すると共に該重金
    属を分離回収することを特徴とする請求項2の土壌の浄
    化方法。
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