JP3485737B2 - 低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法 - Google Patents

低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は低温靭性が必要とさ
れる構造部材に用いられる厚鋼板の製造方法に関するも
のである。この方法で製造した鋼材は、例えば、海洋構
造物、圧力容器、造船、橋梁、建築物、ラインパイプな
どの溶接鋼構造物一般に用いることができるが、特に低
温靭性を必要とする海洋構造物、造船等の構造物用鋼板
として有用である。また、その他、構造部材として用い
られ、低温靭性が要求される鋼管素材、あるいは形鋼に
も適用可能である。
【0002】
【従来の技術】厚鋼板は構造物用鋼として用いられるこ
とが多いため、構造物の安全性確保の観点から低温靭性
を要求される。厚鋼板において、低温靭性を向上させる
方法は種々提案されているが、Niのような高価な合金
元素を用いずに、他の特性劣化を生じることなく低温靭
性を向上させる方法としては、フェライト(以下αと称
す)粒径の微細化が代表的である。
【0003】α粒径の微細化方法として、従来から種々
の方法が提案されている。代表的な方法としては、例え
ば、特公昭49−7291号公報、特公昭57−210
07号公報、特公昭59−14535号公報等に示され
ているように、オーステナイト(以下γと称す)の未再
結晶温度域において制御圧延を行い、引き続いて加速冷
却を行うことによるγからαへの変態時にαを微細化す
る方法が提案されている。
【0004】これらのような、γからαへの変態を利用
する方法では、γが粗大な場合は未再結晶域圧延の有効
活用によりγ/α変換比(変態前γ粒径/変態後α粒
径)を高めてαを微細化することが可能であるが、γ粒
径が微細な場合は、γ/α変換比は1に近づくため、α
の微細化は飽和してしまう。従って、γからαへの変態
を介したαの微細化による方法では、その程度はγの微
細化の程度に規制されるため、α粒径の飛躍的な微細化
は望めない。
【0005】これを解決するために、制御圧延の温度域
をγ/α二相域にまで拡大したいわゆる二相域圧延によ
る強度・靭性改善技術も提案されている。例えば、特公
昭58−5967号公報にあるように、成分や圧下条件
の工夫等により二相域圧延により靭性向上を図る技術が
提示されている。しかし、これら従来の二相域圧延技術
ではα粒径は制御圧延で得られるα粒径と同程度であ
り、実質的には、セパレーションと呼ばれる主として集
合組織に起因して破壊時に鋼板表面に平行に生じる層状
割れの発生による3軸応力の低減効果を用いて靭性向上
が図られている。しかし、セパレーションはシャルピー
試験の破面遷移温度の低下には有効ではあるが、吸収エ
ネルギーの低下を招くため、その利用には限界がある。
【0006】また、圧延等の熱間加工によらずに熱処理
によってα粒径の微細化を図る方法も示されている。例
えば、「鉄と鋼」(第77年、第1号、1991、第1
71〜178頁)に示されているように、V、Nを通常
よりも多量に添加することによりγの微細化を図るとと
もに、変態時のγ/α変換比を増大させて、焼きならし
処理で微細なα組織とする方法が開発されている。
【0007】さらに、「材料とプロセス」(第3年、第
6号、1990、第1796頁)において、γ/α変態
の繰り返しを含む複雑な加工熱処理により粒径が3μm
以下の超細粒鋼を得る方法が開示されている。この方法
は、制御圧延後、加速冷却を行い、500℃程度で加速
冷却を停止した後、室温まで冷却することなく900℃
に再加熱し、所定の温度で熱間圧延を行うことにより超
細粒鋼を得るものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来か
ら、種々細粒化の試みはなされているが、「鉄と鋼」
(第77年、第1号、1991、第171〜178頁)
に示されているような、V、Nを通常よりも多量に添加
することによりγの微細化を図るとともに、変態時のγ
/α変換比を増大させて、焼きならし処理で微細なα組
織とする方法で微細なα組織を得るためにはVを0.1
%以上、Nも0.01%以上添加する必要があり、到達
できるα粒径も5μm程度である。
【0009】あるいは、「材料とプロセス」(第3年、
第6号、1990、第1796頁)において、γ/α変
態の繰り返しを含む複雑な加工熱処理により粒径が3μ
m以下の超細粒鋼を得る方法が開示されている。この方
法は、制御圧延後、加速冷却を行い、500℃程度で加
速冷却を停止した後、室温まで冷却することなく900
℃に再加熱し、所定の温度で熱間圧延を行うことにより
超細粒鋼を得る方法においては、α粒径は冷却停止温度
の影響を強く受け、冷却停止温度が500℃のごく近傍
以外では粒径が3μm以下の超細粒αは得られておら
ず、工業的に安定して製造することは困難であると考え
られる。
【0010】従って、上記の従来の方法では、いずれも
生産性の劣化や熱処理工程の増加、さらには合金元素の
増加等、コスト高が避けられない。また、安定して得ら
れるα粒径は一部の実験的手法を除けば10μm程度、
厳密に制御された複雑な工程によっても5μm程度が限
界であり、5μm未満のαの微細化は工業的に実現され
ていない。
【0011】本発明は、高価な合金元素の添加や、生産
性の劣る複雑な熱間加工あるいは熱処理工程を必要とせ
ず、平均α粒径が3μm以下でかつ混粒度が小さい整粒
の超細粒α組織を有し、2mmVノッチシャルピー衝撃
特性だけでなく、脆性き裂の伝播停止特性にも優れた、
低温靭性の優れた厚鋼板及びその製造方法を提供するも
のである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、従来の代表的
細粒化方法であるオーステナイト(γ)/フェライト
(α)変態では限界があることから、今回初めてαの熱
間加工によるαの回復・再結晶を利用する方法に注目
し、αの熱間加工挙動を詳細に調査することによりαの
超細粒化のための手段を見いだし発明するに至ったもの
である。本発明者らは、すでに、特願平6−19882
9号公報で、γ域及びγ/α二相域における熱間圧延条
件の最適化によりαの加工・再結晶粒径を超微細化する
手段を開示しているが、本発明は、αの加工・再結晶の
ための圧延に入る前の組織微細化の新たな手段を発明し
たものであり、その要旨とする所は、 (1)重量%で、 C:0.01〜0.20% Si:0.01〜1.0% Mn:0.30〜2.0% Al:0.002〜0.1% N:0.001〜0.01% を含有し、不純物としてのP、Sの含有量が、 P:0.02%以下 S:0.01%以下 で、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼片をAC3
態点以上、1050℃以下の温度に加熱し、0.5〜2
0℃/sの冷却速度で500℃以下まで冷却した後、
(AC1変態点+50℃)〜(AC3変態点−10℃)の
温度に再加熱し、累積圧下率が50〜90%の圧延を6
50℃以上、800℃以下で終了することを特徴とする
低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
【0013】(2)重量%で、 C:0.01〜0.20% Si:0.01〜1.0% Mn:0.30〜2.0% Al:0.002〜0.1% N:0.001〜0.01% を含有し、不純物としてのP、Sの含有量が、 P:0.02%以下 S:0.01%以下 で、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼片をAC3
態点以上、1150℃以下の温度に加熱した後、累積圧
下率が20〜50%の圧延を900℃〜700℃で終了
し、0.5〜20℃/sの冷却速度で500℃以下まで
冷却した後、(AC1変態点+50℃)〜(AC3変態点
−10℃)の温度に再加熱し、累積圧下率が50〜90
%の圧延を650℃以上、800℃以下で終了すること
を特徴とする低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
【0014】(3)最終の圧延終了後の鋼板を5〜40
℃/sの冷却速度で20℃〜600℃まで加速冷却する
ことを特徴とする前記(1)または前記(2)記載の低
温靭性に優れた厚鋼板の製造方法 (4)450℃〜650℃で焼戻しを行うことを特徴と
する前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の低温靭
性に優れた厚鋼板の製造方法。
【0015】(5)重量%で、 Cr:0.01〜1.0% Ni:0.01〜4.0% Mo:0.01〜1.0% Cu:0.01〜1.5% Ti:0.003〜0.10% V:0.005〜0.50% Nb:0.003〜0.10% Zr:0.003〜0.10% Ta:0.005〜0.20% W:0.01〜2.0% B:0.0003〜0.0020% の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記
(1)〜(4)のいずれか1項に記載の低温靭性に優れ
た厚鋼板の製造方法。
【0016】(6)重量%で、 Mg:0.0005〜0.01% Ca:0.0005〜0.01% REM:0.005〜0.10% のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする
前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の低温靭性に
優れた厚鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】以下に本発明について詳細に説明
する。
【0018】本発明は従来達成レベルを凌駕するαの細
粒化の手段として、初めて加工αの回復・再結晶による
方法を用いている点に特徴を有する。即ち、従来の二相
域圧延技術では、二相域圧延によりαに導入された歪は
集合組織の発達及び強化に働いているが、αの細粒化に
対しては積極的には用いられていなかったのに対して、
本発明では、γ/α二相域圧延で導入される加工歪によ
り加工αの回復・再結晶を極限的に図りαの超細粒化を
図る。生産性を阻害せず、かつ均一な整細粒とする観点
から、加工後のαの回復・再結晶は従来の再加熱処理の
ような方法ではなく、圧延後の冷却中、好ましくは圧延
中あるいは直後に生じさせる方が有利となる。
【0019】本発明者らは圧延によるαの超細粒化条件
を検討し、変態前のγ粒径を50μm以下とした上で、
二相域圧延時のαの割合を50%以上確保することで平
均粒径が3μm以下の超細粒組織が達成できることを知
見した(特願平6−198829号公報)。
【0020】ただし、γ粒径の微細化のためにγ域での
累積圧下率を大きくし、未再結晶域圧延を施す必要が生
じ、板厚や生産性にいくつかの制約が生じることがあっ
た。そこで、αの超細粒化の別の新たな手段を検討した
結果、熱間圧延前の再加熱温度をγ/αの二相域温度と
することで生産性の向上と均一な超細粒組織の達成とが
両立できること、ただし二相域加熱・圧延でαを超細粒
化するためには二相域温度加熱前の組織の微細化を徹底
する必要があることを見いだした。
【0021】即ち、αの超細粒化のためには、αの割合
が多い状態から二相域圧延を開始することが必須要件と
なり、該二相域圧延における加工αの回復・再結晶によ
りαを超細粒化するためには、加工前のαを微細化して
おくことが重要である。一般に行われるように、γ単相
域に再加熱した後、γ域での圧延を適正化し、さらにα
変態がある程度進んだ段階で一定以上の累積圧下率の二
相域〜α域圧延を行うことによっても達成可能である
が、この方法ではγ域での圧延により変態前のγ粒径を
微細化する必要があり、かつ二相域〜α域圧延の圧下率
も大きくする必要があることから板厚が限定され、ま
た、圧延前のαの割合を確保するために二相域〜α域圧
延の温度はかなり低くする必要があるため、生産性に若
干の問題がある。
【0022】αの超細粒化のための必須要件は加工前α
の微細化と加工時のαの一定以上の割合を確保すること
であるが、本発明は、これらの要件を達成するための手
段を従来の製造プロセスにこだわることなく、より均一
な超細粒を得られかつ、生産性を阻害しないための方法
を鋭意検討した結果、知見したものである。即ち、本発
明はγ単相域に再加熱することなく、再加熱温度をγ/
α二相域とすることにより、加工時のα量を確保するこ
とを要点とするものである。再加熱温度をγ/α二相域
とすることにより一旦γ化する場合に比べて、γ域での
圧延をする必要がないため、圧下の全てをαの加工に用
いることが可能である点と、α加工前の組織微細化のた
めの低温γ域圧延、あるいはγ域圧延とγ/α二相域圧
延との間の温度低下待ち時間が長いことによる生産性の
低下を防げる点とで有利となることを見いだした。ただ
し、凝固ままの鋼片を単にγ/α二相域に再加熱した場
合には、凝固ままの組織が極めて粗大であるため、圧下
率の大きい圧延を施してもαの回復・再結晶が容易でな
く、また、再結晶したとしても再結晶前の組織が粗大で
あるため、均一な超細粒化は不可能であり、γ/α二相
域に直接再加熱する場合には何らかの手段によりあらか
じめ鋼片の組織微細化を図る必要があることが要件であ
ることも知見した。γ/α二相域再加熱前の組織微細化
の条件、γ/α二相域再加熱条件及び圧延条件は詳細な
実験に基づいて、以下に詳細を述べるように限定する必
要がある。
【0023】先ず、超細粒化のための二相域加熱・二相
域圧延工程の前の鋼片の組織を微細化するために必要な
製造条件の限定理由を述べる。
【0024】鋼片の組織微細化のためには、超細粒化の
ための二相域加熱・二相域圧延工程の前に、鋼片をAC
3変態点以上、1050℃以下の温度に加熱し、圧延を
行わずに、0.5〜20℃/sの冷却速度で500℃以
下まで冷却するか、圧延を行う場合には、鋼片をAC3
変態点以上、1150℃以下の温度に加熱した後、累積
圧下率が20〜50%の圧延を900℃〜700℃で終
了し、0.5〜20℃/sの冷却速度で500℃以下ま
で冷却する。圧延を行う方が前組織の微細化には有利で
あるが、そのかわり最終板厚によっては後続の二相域加
熱・圧延の際の圧下率が大きくとれない。また、再加熱
後の冷却を本発明の条件に従って行えば、圧延を行う
か、行わないかによる鋼片組織の微細化程度にそれほど
大きな差は生じないため、鋼片の組織微細化の工程にお
いて圧延を行うか行わないかは、製造設備や仕上げ板厚
の大小等によって選択可能な条件である。
【0025】鋼片の再加熱温度は、粗大な凝固組織を解
消する目的から、Ac3変態点以上とする必要がある。
また、再加熱温度が高すぎると、再加熱後の冷却の如何
によらず組織が微細化し難くなるため、上限温度を10
50℃に限定する。この上限温度以下であれば、本発明
の化学組成の鋼において再加熱時のγ粒径が極端に粗大
化して最終組織の微細化を阻害することはない。なお、
再加熱後、鋼片に本発明で規定した圧延を施す場合は圧
延再結晶によるγ粒の微細化が図られるため、再加熱温
度の上限は緩和することが可能であることから、圧延を
行なわない場合の再加熱温度の上限でのγ粒径が得られ
る上限温度として、圧延を行う場合の再加熱温度の上限
は1150℃とする。
【0026】鋼片を再加熱後、圧延を行う場合は、累積
圧下率が20〜50%の圧延を900℃〜700℃で終
了する必要がある。累積圧下率、圧延終了温度とも鋼片
の組織微細化のために限定が必要である。
【0027】累積圧下率に関しては、20%未満ではγ
粒径の微細化や導入される歪の量が少なく圧延の効果が
小さいため最終組織の微細化に効果が明確に生じない。
累積圧下率は大きいほど鋼片の最終組織微細化には有利
であるが、この段階での累積圧下率を大きくすると、超
細粒化のための二相域再加熱・二相域圧延での圧下率が
十分確保できなくなるため、圧延の効果が十分で、二相
域圧延における必要な圧下率確保を可能とする範囲とし
て、上限を60%に制限する。
【0028】二相域再加熱・二相域圧延前の鋼片の組織
微細化のためには、以上の累積圧下率の限定に加えて、
圧延の効果を十分発揮させるために、その圧延を終了す
る温度も限定する必要がある。即ち、圧延の終了温度が
高すぎると、圧延により細粒化したγが粒成長して圧延
の効果が解消されてしまう。圧延によるγの細粒化、導
入転位の保存のためには圧延終了温度は低い方が好まし
いが、圧延終了温度が低くなると圧延反力の増大による
圧延機への過大な負荷や生産性の低下を生じるため、圧
延の効果が確保され、かつ、これらの問題が顕在化しな
い範囲として、圧延終了温度は900℃〜700℃に限
定する。
【0029】鋼片の最終組織微細化のためには鋼片の再
加熱後、圧延の有無によらず、0.5〜20℃/sの冷
却速度で500℃以下まで冷却する必要がある。これ
は、加熱温度の限定あるいは、さらに、圧延によりγの
微細化を図ることは組織の微細化のための前提条件とな
るが、冷却変態時の冷却速度が過小であると、γがいか
に微細化されていても粗大なαが生成するため、前組織
の微細化が図られない。二相域加熱・圧延において均一
にαの超細粒化のために必要な冷却速度の範囲は詳細な
実験により決定された。即ち、本発明の化学組成範囲、
鋼片の再加熱、圧延条件範囲において、その後の二相域
加熱・圧延によるαの超細粒化を達成するためにはα変
態が確実に完了する温度として500℃以下まで、0.
5℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。αの超
細粒化のためには該冷却速度は大きい方が有利である
が、冷却速度が大きくなってベイナイト変態するように
なると、それ以上冷却速度を高めても前組織の微細化が
飽和傾向にあることと、二相域圧延前の厚い鋼片を急速
冷却することは実用的に困難を伴うことから、鋼片の冷
却速度の上限は組織の微細化に明確な効果がある下限の
温度から20℃/sに限定する。
【0030】以上が、αの回復・再結晶による超細粒化
を図る工程である二相域加熱・圧延に入る前の鋼片組織
の微細化に関する製造条件の限定理由であるが、次に、
αの超細粒化を図る二相域加熱・圧延工程の製造条件に
関する要件を述べる。
【0031】本発明においては、加工時の必要量のα量
確保のために、γ/α二相域に再加熱することを重要な
要件のひとつとしているが、該二相域再加熱温度は(A
1変態点+50℃)〜(AC3変態点−10℃)の間に
ある必要がある。再加熱温度が低いほど、αの割合が多
い点では有利であるが、超細粒化のためには加工段階か
らその後の冷却段階の間にαが十分回復・再結晶する必
要がある。その下限温度は鋼の組成によって変化する
が、実験結果によれば、AC1変態点との関係で統一的
に規定でき、αが十分回復・再結晶するために必要な条
件として、再加熱温度は(AC1変態点+50℃)以上
とする。
【0032】一方、再加熱温度が高くなればαの回復・
再結晶に対しては有利であるが、γの割合が増加してく
る。γから変態するαの比率が多くなりすぎるとαの超
細粒化は達成されなくなるため、再加熱温度の上限は圧
延前及び圧延中のαの比率を十分確保できるか否かの観
点で決定される。ただし、再加熱時のαの比率に対し
て、圧延中には圧延のエネルギーによりαは増加してく
るため、再加熱時のα比率が必ずしも支配的である必要
はない。再加熱時に一定量のαがあれば圧延中にαが増
加して必要なα比率に達する。しかし、再加熱温度がγ
単相域となるとγが安定化してしまい、圧延による顕著
なαの増加は望めない。従って、本発明においては圧延
中に確実にαが生成するに必要な条件から再加熱温度の
上限を(AC3変態点−10℃)とする。
【0033】(AC1変態点+50℃)〜(AC3変態点
−10℃)の温度に再加熱した後、累積圧下率が50〜
90%の圧延を650℃以上、800℃以下で終了する
ことによりαは超細粒化する。超細粒化は加工αの回復
・再結晶により達成されるが、回復・再結晶を十分生じ
させるためには、αの高温域で一定上の累積圧下率の圧
延を行う必要がある。累積圧下率が50%未満では圧延
の温度域によらず回復・再結晶が十分でなく、また、回
復・再結晶後のα粒径も3μm以下にならないため、累
積圧下率の下限は50%とする。累積圧下率は大きけれ
ば大きいほど超細粒化には有利であるが、90%を超え
る圧延を行っても超細粒化の程度は飽和する一方で、累
積圧下率が90%超では製造できる鋼片厚や最終板厚の
範囲が非常に限定され実用的でないため、本発明では累
積圧下率の上限を90%に限定する。
【0034】以上のように二相域圧延の累積圧下率を限
定した上で、さらにその圧延の温度条件、特に圧延終了
温度を適正に制御する必要がある。即ち、再加熱温度は
二相域温度であるため、圧延の開始温度は限定する必要
はないが、二相域での圧延を全てαの超細粒化に役立て
るためには、圧延終了温度を限定する必要がある。圧延
終了温度が650℃未満であると、圧延により伸張した
ままの未回復のα粒が残存するようになり、このような
加工αがあると靭性を劣化させるため、好ましくない。
一方、圧延終了温度が800℃超であると、一旦形成さ
れた超細粒αが圧延後の冷却中に成長して粗大粒が混在
した混粒組織となり、同様に靭性劣化要因となる。従っ
て、圧延終了温度は650℃以上、800℃以下の範囲
に限定する。
【0035】以上に二相域圧延の後の冷却としては所望
の強度・靭性レベルに応じて、そのまま放冷しても、ま
た5〜40℃/sの冷却速度で20℃〜600℃まで加
速冷却してもよい。さらに、放冷あるいは加速冷却後の
鋼板を450℃〜650℃で焼戻しを行ってもよい。圧
延の終了温度を650℃〜800℃の範囲内としておけ
ば、その後の冷却条件や焼戻しの如何によらず超細粒α
の形態は保存される。
【0036】加速冷却する場合の冷却速度は5〜40℃
/sに限定するが、このように限定したのは、5℃/s
未満では加速冷却による組織の変化が明確でなく、確実
な強度、靭性の向上が期待できないためであり、40℃
/s超では表層と内部との組織あるいは特性の差が大き
く生じて好ましくないためである。また、該冷却速度で
の加速冷却は鋼板の所望の強度、靭性に応じて20℃〜
600℃で停止する。加速冷却の停止温度を20℃未満
とすることは材質を制御する上でなんら効果がなく、単
に製造コストの上昇を招くだけで意味がない。逆に加速
冷却を600℃超で停止すると、加速冷却による強度向
上や靭性向上効果が明確に生ぜず、これも加速冷却工程
を施す意味がない。
【0037】放冷あるいは加速冷却後の鋼板に対して、
強度調整、靭性向上、形状改善の目的で、さらに焼戻し
処理を施すことも可能である。その場合には、形成され
た超細粒組織を損なわないことが必須要件となる。本発
明では焼戻し温度を450℃〜650℃の範囲に限定す
るが、これは、450℃未満では焼戻しの効果が明確で
はなく、650℃超では表層部の超細粒組織の形態を損
なう恐れがあるためである。なお、該焼戻し温度範囲に
おいて、焼戻しの加熱保持時間は工業的な範囲であれば
任意であるが、表層部の超細粒組織保存の観点からは、
保持時間は5h以内であることが好ましい。
【0038】以上が、本発明の製造方法に関する要件の
限定理由であるが、構造部材として必要な強度を確保
し、かつ、低温靭性を確保するためには製造方法だけで
なく、化学成分も適正範囲内とする必要がある。以下
に、本発明における化学成分の限定理由を述べる。
【0039】先ず、Cは鋼の強度を向上させる有効な成
分として添加するもので、0.01%未満では構造用鋼
に必要な強度の確保が困難であり、また、0.20%を
超える過剰の添加は一様伸び及び靭性、さらに耐溶接割
れ性などを著しく低下させるので、0.01〜0.20
%の範囲とした。
【0040】次に、Siは脱酸元素として、また、母材
の強度確保に有効な元素であるため、0.01%以上添
加させる必要がある。逆に1.0%を超える過剰の添加
は粗大な酸化物を形成して延性や靭性劣化を招く。そこ
で、Siの範囲は0.01〜1.0%とした。
【0041】また、Mnは母材の強度、靭性の確保に必
要な元素であり、最低限0.30%以上添加する必要が
あるが、溶接部の靭性、割れ性など材質上許容できる範
囲で上限を2.0%とした。
【0042】Alは脱酸、γ粒径の細粒化等に有効な元
素であり、効果を発揮するためには0.002%以上含
有する必要があるが、0.1%を超えて過剰に添加する
と、粗大な酸化物を形成して延性を極端に劣化させるた
め、0.002%〜0.1%の範囲に限定する必要があ
る。
【0043】NはAlやTiと結びついてγ粒微細化に
有効に働き、強度、靭性向上に有効であるが、その効果
が明確になるためには0.001%以上含有させる必要
がある。一方、過剰に添加すると固溶Nが増加して靭性
に悪影響を及ぼす。許容できる範囲として上限を0.0
1%とする。
【0044】P、Sは不純物元素として極力低減するこ
とが好ましいが、不必要に低減することは製鋼工程に負
荷をかけるため、靭性、延性の低下や溶接性の劣化を招
かない許容できる量として、Pは0.02%以下、Sは
0.01%以下に制限する。
【0045】以上が本発明鋼の基本成分であるが、所望
の強度レベルに応じて、母材強度の上昇の目的で、必要
に応じてCr、Ni、Mo、Cu、Ti、V、Nb、Z
r、Ta、W、Bの1種または2種以上を、さらに、延
性向上の目的で、Mg、Ca、REMの1種または2種
以上を含有することができる。
【0046】先ず、Cr及びMoはいずれも母材の強度
向上に有効な元素であるが、明瞭な効果を生じるために
は0.01%以上必要であり、一方、1.0%を超えて
添加すると、靭性が劣化する傾向を有するため、0.0
1〜1.0%の範囲とする。
【0047】また、Niは母材の強度と靭性を同時に向
上でき、非常に有効な元素であるが、効果を発揮させる
ためには0.01%以上含有させる必要がある。含有量
が多くなると強度、靭性は向上するが4.0%を超えて
添加しても効果が飽和する一方で、溶接性が劣化するた
め、上限を4.0%とする。
【0048】次に、CuもほぼNiと同様の効果を有す
るが、1.5%超では熱間加工性に問題を生じるため、
0.01〜1.5%の範囲に限定する。
【0049】Tiは析出強化により母材強度向上に寄与
するとともに、TiNの形成によりγ粒微細化にも有効
な元素であるが、効果を発揮できるためには0.003
%以上の添加が必要である。一方、0.10%を超える
と、Alと同様、粗大な酸化物を形成して靭性や延性を
劣化させるため、上限を0.10%とする。
【0050】V及びNbはいずれも主として析出強化に
より母材の強度向上に寄与するが、過剰の添加で延性や
靭性が劣化する。従って、延性、靭性の劣化を招かず
に、効果を発揮できる範囲として、Vは0.005〜
0.50%、Nbは0.003〜0.10%とする。
【0051】Zr、TaもV、Nbと同様に主として析
出強化により母材の強度向上に寄与するが、過剰の添加
で延性や靭性が劣化する。従って、延性、靭性の劣化を
招かずに、効果を発揮できる範囲として、Zrは0.0
03〜0.10%、Taは0.005〜0.20%とす
る。
【0052】Wは固溶強化及び析出強化により母材強度
の上昇に有効であるが、効果を発揮するためには0.0
1%以上必要である。一方、2.0%を超えて過剰に含
有すると、靭性劣化が顕著となるため、上限を2.0%
とする。
【0053】Bは0.0003%以上のごく微量添加で
鋼材の焼入性を高めて強度上昇に非常に有効であるが、
過剰に添加するとBNを形成して、逆に焼入性を落とし
たり、靭性を大きく劣化させるため、上限を0.002
0%とする。
【0054】Mg、Ca、REMはいずれも硫化物の熱
間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効である。
酸化物を微細化させて継手靭性の向上にも有効に働く。
その効果を発揮するための下限の含有量は、Mg及びC
aは0.0005%、REMは0.005%である。一
方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生
じ、延性、靭性の劣化を招くため、上限を各々、Mg、
Caは0.01%、REMは0.10%とする。
【0055】次に、本発明の効果を実施例によってさら
に具体的に述べる。
【0056】
【実施例】実施例に用いた供試鋼の化学成分を表1に示
す。各供試鋼は造塊後、分塊圧延により、あるいは連続
鋳造により鋼片となしたものである。表1の内、鋼番1
〜15は本発明の化学組成範囲を満足しており、鋼番1
6〜21は本発明の化学組成範囲を満足していない。
【0057】
【表1】 表1の化学成分の鋼片を表2−1に示す条件により鋼板
に製造し、室温の強度、2mmVノッチシャルピー衝撃
特性、さらに、脆性き裂の伝播停止特性としてESSO
特性を調査した。試験片は全て板厚中心部から圧延方向
に直角(C方向)に採取した。シャルピー衝撃特性は5
0%破面遷移温度(vTrs)で、また、脆性き裂の伝
播停止特性はESSO試験で測定したKca値が400
kgf・mm-3/2となる温度(TKca400)でそれぞれ評
価した。強度、靭性の試験結果も表2−2に示す。な
お、平均α粒径は倍率2000倍の走査型電子顕微鏡写
真を用いて切断法により求め、20視野の平均値を表2
−2に示した。
【0058】表2−1及び表2−2において、試験N
o.A1〜A20はいずれも本発明の化学組成の鋼片を
本発明の要件に従って製造した鋼板であり、全て最終的
に得られたα組織は整粒でかつ平均粒径は2μm以下と
なっており、本発明者等が特願平6−198829号公
報で示した方法で達成したよりも、一層の超細粒組織が
達成された。靭性値はvTrsで−120℃以下、で−
Kca400で95℃以下が達成されており、本発明により
脆性破壊の発生特性だけでなく伝播停止特性も併せて極
めて優れた低温靭性が得られることが明白である。
【0059】一方、試験No.B1〜B12は比較例で
あり、いずれかの条件が本発明の限定範囲を外れている
ため、本発明例に比べてシャルピー衝撃特性、ESSO
特性ともはるかに劣る。
【0060】即ち、試験No.B1はCが過剰なため、
シャルピー衝撃特性、ESSO特性とも劣る。
【0061】試験No.B2はMn量が過剰なため、良
好なシャルピー特性、ESSO特性が得られていない。
【0062】試験No.B3はCr量が過剰で鋼の焼入
性が高くなりすぎたため、加工中でのαの生成も抑制さ
れ、回復・再結晶が十分生じておらず、α組織の超細粒
化が図られていない。さらに、粗大な炭化物が生成され
いるため、シャルピー衝撃特性、ESSO特性とも顕著
に劣化する。
【0063】試験No.B4は不純物としてのPが過剰
なため、また、No.B5はSが過剰なためにシャルピ
ー衝撃特性、ESSO特性が劣る。
【0064】試験No.B6はCr、Niがともに過剰
であり、試験No.B3と同様の理由のために、シャル
ピー衝撃特性、ESSO特性とも顕著に劣化する。
【0065】試験No.B7〜B12は本発明の化学組
成は満足しているものの、製造条件が本発明に従ってい
ないために良好なシャルピー衝撃特性、ESSO特性が
得られていないものである。
【0066】即ち、試験No.B7は二相域加熱・圧延
に入る前の鋼片の組織微細化がなされていないため、鋼
片の粗大な組織が二相域加熱段階まで持ち来たされ、二
相域圧延による超細粒化が図られず、粗大な伸張α組織
となって、シャルピー衝撃特性、ESSO特性とも顕著
に劣化する。
【0067】
【0068】試験No.B9鋼片の組織微細化のため
の要件が満足されていない。即ち、加熱温度は本発明を
満足しているが、加熱後の冷却速度が本発明範囲を逸脱
して遅いため、鋼片組織の微細化が十分でなく、その結
果、二相域加熱・圧延による超細粒化も十分でない。
【0069】試験No.B10〜B12は、いずれも鋼
片組織の微細化は行われているが、その後の加熱・圧延
条件が本発明の要件を満足しておらず、超細粒化が達成
されていない例である。
【0070】試験No.B10は鋼片組織微細化処理工
程の後の加熱温度が高すぎてγ単相域に再加熱されてい
るため、かなり細粒化されたいるものの、本発明例に比
べてその粒径や整粒の程度が不十分であり、得られる低
温靭性も本発明例よりも一段劣るものとなっている。
【0071】試験No.B11は逆に二相域圧延段階で
の加熱温度が低すぎるため、圧延段階でのαの回復・再
結晶が十分進行せず、伸張粒のままとなるため、超細粒
化が達成されない。
【0072】試験No.B12も、加熱温度は本発明の
範囲内ではあるが、圧延温度終了温度が低すぎるため、
同様に超細粒化が達成されない。
【0073】以上、実施例からも、本発明により安定し
て超細粒組織が達成され、それにより非常に良好な低温
靭性が得られることが明白である。
【0074】
【表2−1】
【0075】
【表2−2】
【0076】
【発明の効果】本発明は、高価な合金元素の添加や、生
産性の劣る複雑な熱間加工あるいは熱処理工程を必要と
せずに、平均α粒径が3μm以下でかつ混粒度が小さい
整粒の超細粒α組織を得ることにより、低温靭性の良好
な厚鋼板を製造できる画期的な方法であり、製造コスト
の低減、構造物としての安全性の向上等、産業上の効果
は極めて大きい。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 地主 修一 大分市大字西ノ洲1番地 新日本製鐵株 式会社 大分製鐵所内 (56)参考文献 特開 平8−60239(JP,A) 特開 平7−126797(JP,A) 特開 平5−148542(JP,A) 特開 平9−41077(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 8/00 - 8/10 C22C 38/00 - 38/60

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、 C:0.01〜0.20% Si:0.01〜1.0% Mn:0.30〜2.0% Al:0.002〜0.1% N:0.001〜0.01% を含有し、不純物としてのP、Sの含有量が、 P:0.02%以下 S:0.01%以下 で、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼片をAC3
    態点以上、1050℃以下の温度に加熱し、0.5〜2
    0℃/sの冷却速度で500℃以下まで冷却した後、
    (AC1変態点+50℃)〜(AC3変態点−10℃)の
    温度に再加熱し、累積圧下率が50〜90%の圧延を6
    50℃以上、800℃以下で終了することを特徴とする
    低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】 重量%で、 C:0.01〜0.20% Si:0.01〜1.0% Mn:0.30〜2.0% Al:0.002〜0.1% N:0.001〜0.01% を含有し、不純物としてのP、Sの含有量が、 P:0.02%以下 S:0.01%以下 で、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼片をAC3
    態点以上、1150℃以下の温度に加熱した後、累積圧
    下率が20〜50%の圧延を900℃〜700℃で終了
    し、0.5〜20℃/sの冷却速度で500℃以下まで
    冷却した後、(AC1変態点+50℃)〜(AC3変態点
    −10℃)の温度に再加熱し、累積圧下率が50〜90
    %の圧延を650℃以上、800℃以下で終了すること
    を特徴とする低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
  3. 【請求項3】 最終の圧延終了後の鋼板を5〜40℃/
    sの冷却速度で20℃〜600℃まで加速冷却すること
    を特徴とする請求項1または2記載の低温靭性に優れた
    厚鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】 450℃〜650℃で焼戻しを行うこと
    を特徴とする請求項1から3の内のいずれかに記載の低
    温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 重量%で、 Cr:0.01〜1.0% Ni:0.01〜4.0% Mo:0.01〜1.0% Cu:0.01〜1.5% Ti:0.003〜0.10% V:0.005〜0.50% Nb:0.003〜0.10% Zr:0.003〜0.10% Ta:0.005〜0.20% W:0.01〜2.0% B:0.0003〜0.0020% の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求
    項1から4の内のいずれかに記載の低温靭性に優れた厚
    鋼板の製造方法。
  6. 【請求項6】 重量%で、 Mg:0.0005〜0.01% Ca:0.0005〜0.01% REM:0.005〜0.10% のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする
    請求項1から5の内のいずれかに記載の低温靭性に優れ
    た厚鋼板の製造方法。
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