JP3473289B2 - 低温靱性に優れた溶接金属 - Google Patents
低温靱性に優れた溶接金属Info
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Description
鋼,耐火鋼,耐熱鋼等として用いられる低合金鋼を構造
材とした圧力容器,船舶,建築,海洋構造物あるいはパ
イプライン等の溶接構造物”の製造や組み立ての際に形
成させるところの、優れた低温靱性を有する溶接金属に
関するものである。
構造物や寒冷地向けのラインパイプあるいは船舶,LN
Gタンク等といった大型構造物に供される溶接用高張力
鋼では材質特性向上に対する要求が厳しくなってきてお
り、使用目的に応じた十分な強度が要求されることは勿
論のこと、“溶接金属”及び“溶接金属に接する母材の
溶接熱影響部(HAZ)”の靱性改善に関する要望が著
しく高まっている。
ては、従来から“オ−ステナイト結晶粒径",“変態組
織”並びに“微細硬化相の析出状態”が大きな影響を及
ぼすことが知られており、これを踏まえた種々のHAZ
靱性改善策が提案されてきた。例えば、オ−ステナイト
結晶粒径や変態組織を改善する方策としては「Ti添加に
よるTiNやTiOといった析出物を活用して組織を微細化
する方法」等が提案されており、また微細硬化相の析出
状態を改善する方策としては「鋼板の低炭素当量化やSi
及びAlを低減することにより硬化相の析出を抑制する方
法」等が提案されている。
パイプ等)の溶接金属に関しては、アシキュラ−フェラ
イト(粒内フェライト)と呼ばれる微細組織の生成が溶
接金属の靱性改善に好ましいとの報告を受けて、溶接金
属中へTi−Bの添加を行うことでアシキュラ−フェライ
トの生成を図る方策が採られてきた。
性改善策では十分に安定した効果を得ることは難しく、
特にHAZ靱性の向上を図るべく前記提案の如くに成分
調整した母材鋼が適用される溶接構造物ではこの傾向が
強くて、形成される溶接金属の靱性値が目論んだレベル
に達しない場合が生じがちであった。
のは、低合金鋼溶接構造物の製造や組み立ての際に形成
される溶接金属に優れた低温靱性を安定して確保できる
手立てを提供することである。
を達成すべく鋭意研究を行ったところ、以下のような知
見を得ることができた。確かに“溶接金属中へのTi−B
添加”は溶接金属の靱性改善をもたらすアシキュラ−フ
ェライトの生成を促す手段となるものであるが、この場
合、アシキュラ−フェライトの生成にはTi及びBの添加
量調整が重要であることは勿論であるものの、それだけ
ではなく、溶接金属中に含まれるAl,Ti,B,O及びN
量等のバランスも微妙にかつ大きく影響する。しかる
に、Ti,B等の含有量を調整した溶加材(ワイヤ−等)
を用いて溶接を行ったとしても、実際には溶融した母材
による成分の希釈(母材希釈)が生じるので溶接金属を
構成する多くの成分のバランスを狙い通りに制御するこ
とは非常に難しく、これがアシキュラ−フェライトの生
成に悪影響を及ぼす。そして、このことが溶接金属靱性
を良好レベルに安定して保てない大きな原因となってい
る。
提案の如く成分調整を行った鋼では特にこの傾向が著し
く、例えば低Al鋼板(通常の数十ppm 程度よりもAl含有
量を低減した鋼板)を母材として溶接を行った場合に
は、母材希釈により溶接金属中へのAl供給量が減少する
ために成分バランスが崩れがちとなり、溶接金属靱性の
低下を招きやすい。
鋼,溶加材)及び溶接条件を種々に変化させた数多くの
溶接試験を行い、溶接金属中に多量のアシキュラ−フェ
ライトが生成するものを選び出してその詳細な調査を実
施した。その結果、多量のアシキュラ−フェライトを生
成している溶接金属では特にMn,Al,Tiを主成分として
特定割合で含有する複合酸化物が分散して存在すること
を見出し、これがアシキュラ−フェライトの生成核とな
っていることを解明した。
なっている前記複合酸化物粒子中には種々の組成比率を
有するMn−Al−Ti系酸化物相が複雑に複合して存在して
いたので、アシキュラ−フェライトの生成に有効な酸化
物相の結晶構造を特定すべく“電解抽出法により採取し
た残渣”を用いたX線回折を行ったが、この調査によっ
て、該複合酸化物は“立方晶系のM3 O4 型結晶構造を
有する酸化物”を主体とするものであることが明らかと
なった。ところで、“立方晶系でM3 O4 型の酸化物”
は一般には「スピネル型」あるいは「逆スピネル型」と
称される酸化物相であり、このうちMn,Al,Tiを含有す
る結晶相としては MnAl2O4, MnTi2O4, Mn2AlO4, Mn2
TiO4 等が知られているが、前述した複合酸化物中のA
l,Mn,Tiの組成比は必ずしも整数倍とはなっておら
ず、そのため MnAl2O4, MnTi2O4, Mn2AlO4 等におい
てAl,Mn,Tiが互いに置換しているものと考える。
ュラ−フェライトの析出を促進する前記複合酸化物の形
成条件について更なる研究を続けたが、その結果、この
複合酸化物の形成は溶接金属中のMn,Ti,Al,Oの含有
量に影響されるものの、特にAl及びOの含有割合に著し
く左右され、溶接金属中におけるAlとOの含有量比率が
「Al/O=0.20〜1.125 」の範囲となったときに安定生
成されて良好な溶接金属靱性をもたらすことが分かっ
た。つまり、Mn,Ti,Al,Oを含む溶接金属の組成を
「Al/O=0.20〜1.125 」となるように調整することに
よって、他の成分バランスにそれほど大きく影響される
ことなく該溶接金属中に“立方晶系のM3 O4 型結晶構
造を有する特定割合のAl,Mn,Tiを主体とした複合酸化
物”を微細に分散させることができ、これによってアシ
キュラ−フェライトの析出が促進されて低温靱性が改善
された溶接金属を安定して実現できることを知見したの
である。
されたもので、次の溶接金属を提供するものである。 (1) C:0.03〜 0.2%(以降、 成分割合は断りがない限
り重量%とする), Si:0.02〜 0.5%, Mn: 0.6〜 2.0%, Ti:0.05%以下, Al:0.01〜0.05%, O:0.01〜0.05% を含有すると共に残部がFe及び不可避的不純物であっ
て、かつ含まれるAlとOの比率が Al/O=0.20〜1.125 を満たすと同時に、不可避的不純物中のP及びSがそれ
ぞれ P: 0.030%以下, S: 0.030%以下 に規制された化学組成を有し、しかも Mn:5〜50at%, (Al+Ti):50〜95at% を含む立方晶系のM3 O4 型結晶構造を持つ酸化物の分
散相を有して成ることを特徴とする、低合金鋼溶接構造
物の低温靱性に優れた溶接金属。 (2) Cu: 1.5%以下, Ni: 1.5%以下, Cr: 1.0%以下, Mo: 1.0%以下, V: 0.2%以下, Nb: 0.2%以下 の1種以上を含有して成る、前記 (1)項記載の低合金鋼
溶接構造物の低温靱性に優れた溶接金属。 (3) 低合金鋼溶接構造物が、 C:0.03〜 0.3%, Si:0.02〜 0.6%, Mn: 0.6〜 3.0%, P: 0.030%以下, S: 0.030%以下, Cu: 5.0%以下, Ni: 5.0%以下, Cr: 2.0%以下, Mo: 2.0%以下, V: 1.0%以下, Nb: 1.0%以下, O:0.01%以下, Al:0.01%以下 を含有すると共に残部がFe及び不可避的不純物から成る
低Al鋼板を母材とした溶接構造物である、前記 (1)項又
は (2)項に記載の低合金鋼溶接構造物の低温靱性に優れ
た溶接金属。
造物の溶接金属に関して、そのC,Si,Mn,Ti,Al,
O,P及びSの含有量を特定範囲に調整すると共に、特
にそのAlとOの含有量比率を「Al/O=0.20〜1.125 」
とするといった非常に制御の容易な手段によって“立方
晶系のM3 O4 型結晶構造を有する主にAl,Mn,Tiから
なる複合酸化物”が微細に分散されるようにしてアシキ
ュラ−フェライトの析出を促進し、低温靱性を改善した
点を骨子とするものであるが、以下、本発明において溶
接金属の化学組成及び分散酸化物の化学組成、更には適
用効果の大きい母材鋼板の化学組成を前記の如くに限定
した理由をその作用と共に説明する。
必要な強度を確保するために欠かせない成分であり、そ
のためには0.03%以上の割合で含有されていることが必
要である。一方、 0.2%を超えてCを含有させると溶接
金属の靱性が損なわれる。従って、C含有量は0.03〜
0.2%と定めた。
その含有量が0.02%未満では溶接金属にブロ−ホ−ル等
の欠陥が生じがちとなる。更に、Siは強度確保の観点か
らも有効な成分であるが、 0.5%を超えて含有させると
溶接金属の靱性劣化が目立つようになる。従って、Si含
有量は0.02〜 0.5%と定めた。
保するのに欠かせない成分があるが、特に本発明におい
てはフェライトの析出核となる複合酸化物の構成元素と
しても必須の元素である。そして、このためには 0.6%
以上のMn含有量を確保する必要があるが、 2.0%を超え
る過剰な添加は溶接金属靱性の低下を招くので、Mn含有
量は 0.6〜 2.0%と定めた。
出核となる複合酸化物の構成元素として必須の成分であ
るが、複合酸化物形成に必要なTi量は分析限界に近く、
そのため特に下限は限定しない。一方、過剰なTiの添加
はかえって溶接金属の靱性に有害であるため、Ti含有量
については0.05%以下と定めた。
出核となる複合酸化物の構成元素として必須の成分であ
る。そして、このためには0.01%以上のAl含有量を確保
する必要があるが、0.05%を超える過剰な添加はかえっ
て複合酸化物の形成を困難にし溶接金属の靱性劣化を招
くことから、Al含有量は0.01〜0.05%と定めた。
核となる複合酸化物の構成元素として必須の成分であ
り、溶接金属中に0.01%以上のOが含有されておれば複
合酸化物の形成は可能であるが、0.05%を超えて過剰に
Oが含有されると逆に溶接金属の靱性が損なわれるの
で、O含有量については0.01〜0.05%と定めた。
%, (Al+Ti):50〜95at%を含む立方晶系のM3 O4 型
結晶構造を持つ酸化物の分散相(介在物)」を生成させ
るためには、溶接金属中の「Al/O重量比」を調整する
必要がある。即ち、「Al/O比」が 1.125を超えると殆
どの介在物が Al2O3 となり、一方、「Al/O比」が0.
20未満の場合には介在物組成はMnリッチな相になってし
まうため、何れの場合も目標とする化学組成の介在物が
実現されず、アシキュラ−フェライトの有効生成核とは
ならないからである。これに対して、溶接金属中の「Al
/O比」を0.20〜 1.125の範囲に制御した場合には、
「Mn:5〜50at%, (Al+Ti):50〜95at%を含む組成とな
る介在物」が安定生成し、アシキュラ−フェライトの生
成核として有効に働くことを実験により確認したことか
ら、本発明では「Al/O比」を0.20〜 1.125の範囲に規
制することと定めた。
的に含まれる不純物元素であり、何れも溶接金属の靱性
を劣化させることからこれらの含有量は低いほど好まし
いが、経済性との兼ね併せから両者の含有量の上限をそ
れぞれ 0.030%と定めた。しかし、溶接金属の更なる靱
性向上が望まれる場合には、P及びSの含有量を何れも
0.01%以下に制限するのが好ましい。
は、溶接金属の焼入れ性を増してその強度と靱性を更に
高める作用を有しているので必要に応じて1種以上含有
させるのが有利であるが、過剰の添加は逆に溶接金属の
靱性劣化を招く。従って、これらの含有量は、Cu又はNi
の場合には 1.5%以下、Cr又はMoの場合には 1.0%以
下、V又はNbの場合には 0.2%以下とそれぞれ定めた。
散相 本発明に係る溶接金属は、立方晶系のM3 O4 型結晶構
造を持つ酸化物相を含有するところの主にAl,Mn及びTi
からなる複合酸化物の微細分散相を有していることを特
徴としており、これによってアシキュラ−フェライトの
析出が促進され優れた低温靱性を示すようになる。この
複合酸化物がアシキュラ−フェライトの析出を促進する
理由については明らかでないが、立方晶系のM3 O4 型
の結晶構造は優れた結晶学上の対称性を有していてフェ
ライトとの結晶整合性が非常に優れることから、これが
アシキュラ−フェライトの生成核として有効に機能する
ものと考えられる。
の組成によって格子定数が変化するが、Mn割合が5〜50
at%で(Al+Ti)の割合が50〜95at%という組成域を外
れるとフェライトとの整合性が悪くなり、アシキュラ−
フェライトの生成核とはならない。つまり、フェライト
との結晶整合性が高く、溶接金属中でアシキュラ−フェ
ライトの生成核として機能する立方晶系のM3 O4 型酸
化物は、Mn,Al及びTiを Mn:5〜50at%, (Al+Ti) : 50〜95at% の割合で含むものであり、このような組成相の存在はE
DX等により確認が可能である。
には種々の組成を有する相が複合して存在しており、そ
れぞれの相は酸化物だけでなく窒化物,硫化物等種々の
化合物である場合もあるが、このような分散介在物中の
酸化物相のみを抽出して組成を定量化する技術は現状で
は存在しない。ただ、分散介在物中に前記組成のAl−Ti
−Mn系酸化物相の存在が確認され、かつその分散介在物
が立方晶系のM3 O4型酸化物であることが確認されさ
えすれば前述した所望の効果(アシキュラ−フェライト
の生成核となる効果)を得られることが確かめられてお
り、従って実際にはその酸化物相の総量や分散数を限定
する必要は特にない。ここで、前記組成のAl−Ti−Mn系
酸化物相の存在はEDX等により確認することができ、
また酸化物の結晶構造の確認は電解抽出法により採取し
た残渣のX線回折等により確認が可能であることは、既
に述べた通りである。
成及び結晶構造を満たす分散介在物(酸化物粒子)が存
在する溶接金属において粒子の分散個数が1mm2 当り4
個未満の場合には組織改善効果が十分に現れずに溶接金
属靱性が改善されないので大きさ1〜10μmの粒子が1
mm2 当り4個以上分散していることが望ましいこと」を
究明したが、本発明で規定する溶接金属の酸素レベルで
は介在物は十分に分散する(1mm2 当り4個以上の割合
に分散する)ことから、分散個数については特に限定す
る必要はないと結論された。
相)の生成は、溶接金属中におけるSi,Mn,Ti,Al及び
Oの含有量を特定範囲に調整すると共に、特にそのAlと
Oの含有量比率を「Al/O=0.20〜1.125 」に規制する
ことによって可能であることは前述の通りである。
C,Si,Mn,Ti,Al,O,P及びSの含有量を調整する
と共に、そのAlとOの含有量比率を「Al/O=0.20〜1.
125 」とすることにより“立方晶系のM3 O4 型結晶構
造を有する特定組成のMn−Al−Ti系複合酸化物”を生成
させて溶接金属の高靱化を図るが、そのため、溶接時に
は特に鋼材(母材)中のAl量と使用する溶加材(溶接ワ
イヤ−)中のAl量や、溶接金属のO含有量に影響する溶
接方法,フラックスの塩基度,雰囲気ガスの成分等につ
いて留意しなければならない。即ち、溶接金属の化学組
成が本発明の規定範囲内となるように鋼材,溶加材,溶
接方法,フラックス,雰囲気ガス等を選択する必要があ
る。
有量については、母材希釈率(α:通常は約60%前後
の値となる)を用いた α×(鋼材中Al量)+(1−α)×(溶加材中Al量) なる式によって計算することができ。また、同じく厳密
な把握を要する溶接金属中のO含有量については、溶接
方法により異なるものの、例えばSAWの場合には使用
するフラックスの塩基度、MAG溶接の場合には使用す
るガス成分(ArとCO2 の混合比)等から推定可能であ
る。従って、これらの推定方法や、あるいは更に実験結
果より得られる補正係数を加味することによって、形成
される溶接金属の「Al/O比」を的確に推定することが
できるので本発明に係る高靱性溶接金属の形成が可能で
ある。
従来の“溶接金属中へのTi−B添加策”では十分な溶接
金属靱性改善効果を得にくかった「低Al鋼板を母材とす
る溶接」においても、前述のように的確な把握が比較的
容易な“溶接金属のAl/O比”の制御を行う本発明によ
ると優れた低温靱性を示す溶接金属の安定形成が可能で
あるので、本発明は、例えばHAZ靱性改善のために低
Al化した低合金鋼溶接構造物に対して優れた性能を安定
して付与することができるという効果を発揮する。
あるいはパイプライン等の溶接構造物として必要な強
度,HAZ靱性を確保する上からは C:0.03〜 0.3%, Si:0.02〜 0.6%, Mn: 0.6〜 3.0%, P: 0.030%以下, S: 0.030%以下, Cu: 5.0%以下, Ni: 5.0%以下, Cr: 2.0%以下, Mo: 2.0%以下, V: 1.0%以下, Nb: 1.0%以下, O:0.01%以下, Al:0.01%以下 を含有すると共に残部がFe及び不可避的不純物からなる
低Al鋼板を母材とすることが好ましいが、この場合でも
溶接時の母材希釈率を40〜60%と推定してこれに適
合するようにAl含有量を調整した溶接材料を使用すれ
ば、容易に本発明に係る溶接金属を形成することができ
るので、優れた性能を有する溶接構造物を従来以上に容
易かつ安定に製造することが可能となる。従って、上記
化学組成の低Al鋼板は、本発明を適用する上で非常に好
ましい母材の1つであると言える。
る。
板(母材鋼)及びMAG溶接ワイヤ−を使用した。な
お、使用した母材鋼の成分を表1に、また使用したワイ
ヤ−の成分を表2に示す。
変えて溶接を行うことにより溶接金属中のAl等の成分を
変化させることが可能であるので、表3に示す母材鋼と
ワイヤ−の組み合わせでもってMAG溶接(入熱3.0KJ/
mm)を実施した。
化物系介在物の分析を行うと共に、溶接金属のシャルピ
−衝撃試験を実施した。ここで、酸化物の分析では、1
〜10μmの粒子をSEM−EDX装置にて観察して組成
比率を各相毎に同定することにより、本発明で規定する
組成の酸化物相の存在の有無を確認した。また、酸化物
の結晶構造の同定は、定電流電解法により得た抽出残渣
を用いてX線回折法により行った。これらの結果を表3
に併せて示した。
属1〜10は、本発明で規定する組成相を有する介在物
(酸化物)を有し、その結果として良好な低温靱性を示
している。また、更に鋼板中のAl添加量が少ないもの
(母材鋼B)を使用して溶接を行った場合、比較例16の
ようにワイヤ−中のAl量が低いとAl/Oが低下し目標と
する介在物が得られないが、本発明例6のように溶接金
属中のAl/Oを制御することにより目標とする介在物の
生成及び良好な靱性を有する溶接金属の生成が可能であ
る。
接金属は、それぞれSi,Mn,Ti,Alの各成分が本発明で
規定する上限を超えたものである。これらの元素は何れ
も介在物(酸化物)に影響を及ぼすため、表3に示すよ
うに目標とする組成の酸化物が得られず、靱性が劣化し
ている。更に、比較例18〜19に係る溶接金属は、何れも
溶接金属中のAl/Oが本発明の規定範囲外となってい
る。そして、Al/Oが本発明の上限を超える比較例18に
係る溶接金属ではAl主体介在物が生成し、一方、Al/O
が本発明の下限を下回る比較例19に係る溶接金属ではMn
主体の介在物が生成し、何れもM3 O4 型の結晶構造と
ならないために目標とする介在物(酸化物)が得られな
いので、結果として靱性が劣化している。
の供試材として板厚20mmの鋼板(母材鋼)及びMAG
溶接ワイヤ−を使用した。この実施例で使用した母材鋼
の成分を表4に、また使用したワイヤ−の成分を表5に
示す。そして、これらの母材鋼とワイヤ−を表6に示す
組み合わせで使用し、MAG溶接(入熱3.0KJ/mm)を実
施した。
化物系介在物の分析を行うと共に、溶接金属のシャルピ
−衝撃試験を実施した。なお、酸化物の分析及び酸化物
の結晶構造の同定は実施例1の場合と同様の方法で行っ
た。この溶接金属の成分分析結果は表6に併せて示し、
介在物分析及びシャルピ−試験の結果は表7に示した。
なお、この例で示すのは、溶接金属中のAl量を調整して
目標とする介在物(酸化物)が得られたもののみに絞っ
たものである。
何れも本発明の規定条件を満たしていて良好な低温靱性
を有している。これに対して、比較例29〜37に係る溶接
金属は、Cu,Ni,Cr,Mo,V,Nbの含有量が本発明で規
定する上限を超えるために焼入れ性が増加し過ぎ、何れ
も溶接金属靱性が劣化している。特に、比較例33及び34
に係る溶接金属の場合には、過剰添加による溶接金属靱
性の劣化傾向が強いNb又はVが本発明で規定する上限量
を超えているため、Cu,Ni,Cr,Mo,V及びNbのグル−
プの総含有量がそれほど高くないにもかかわらず溶接金
属靱性の劣化が目立つ結果となっている。
ば、低合金鋼溶接構造物を構成する母材鋼の種類に影響
されることなく優れた低温靱性を示す溶接金属を形成さ
せることができ、低合金鋼溶接構造物の高性能化,性能
安定化に大きく寄与し得るなど、産業上有用な効果がも
たらされる。
Claims (3)
- 【請求項1】 重量割合にて C:0.03〜 0.2%, Si:0.02〜 0.5%, Mn: 0.6〜 2.0%, Ti:0.05%以下, Al:0.01〜0.05%, O:0.01〜0.05% を含有すると共に残部がFe及び不可避的不純物であっ
て、かつ含まれるAlとOの比率が Al/O=0.20〜1.125 を満たすと同時に、不可避的不純物中のP及びSがそれ
ぞれ P: 0.030%以下, S: 0.030%以下 に規制された化学組成を有し、しかも Mn:5〜50at%, (Al+Ti):50〜95at% を含む立方晶系のM3 O4 型結晶構造を持つ酸化物の分
散相を有して成ることを特徴とする、低合金鋼溶接構造
物の低温靱性に優れた溶接金属。 - 【請求項2】 重量割合で更に Cu: 1.5%以下, Ni: 1.5%以下, Cr: 1.0%以下, Mo: 1.0%以下, V: 0.2%以下, Nb: 0.2%以下 の1種以上を含有して成る、請求項1記載の低合金鋼溶
接構造物の低温靱性に優れた溶接金属。 - 【請求項3】 低合金鋼溶接構造物が、重量割合にて C:0.03〜 0.3%, Si:0.02〜 0.6%, Mn: 0.6〜 3.0%, P: 0.030%以下, S: 0.030%以下, Cu: 5.0%以下, Ni: 5.0%以下, Cr: 2.0%以下, Mo: 2.0%以下, V: 1.0%以下, Nb: 1.0%以下, O:0.01%以下, Al:0.01%以下 を含有すると共に残部がFe及び不可避的不純物から成る
低Al鋼板を母材とした溶接構造物である、請求項1又は
2に記載の低合金鋼溶接構造物の低温靱性に優れた溶接
金属。
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