JP3449838B2 - 能動形騒音制御装置 - Google Patents

能動形騒音制御装置

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JP3449838B2
JP3449838B2 JP26327695A JP26327695A JP3449838B2 JP 3449838 B2 JP3449838 B2 JP 3449838B2 JP 26327695 A JP26327695 A JP 26327695A JP 26327695 A JP26327695 A JP 26327695A JP 3449838 B2 JP3449838 B2 JP 3449838B2
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  • Filters That Use Time-Delay Elements (AREA)
  • Cable Transmission Systems, Equalization Of Radio And Reduction Of Echo (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両に搭載したエ
ンジンの回転に同期して発生する車室内のエンジン騒音
のように、周期性を有する騒音に対して、同振幅、逆位
相の制御音を生成して、騒音に干渉させることにより、
能動的な消音を行なう装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車室内に発生する騒音として、エンジン
音、ロードノイズ音、エアコンファン音、風切音等の各
種の騒音が考えられる。
【0003】このうち、エンジン騒音は、エンジン回転
によって発生した加振力が、車体に伝達されて、フロア
パネルの一部を加振することによって発生する振動放射
音であることから、エンジンの回転数に同期した、顕著
な周期性を有する騒音である場合が多い。
【0004】例えば、車両に搭載されるエンジンの種類
が、4サイクル4気筒エンジンである場合には、エンジ
ンの回転数の2倍の周波数を有する、回転2次成分と称
される騒音が多く発生する。
【0005】これは、1/2回転ごとに起こるガス燃焼
によるガストルク変動(クランクシャフト系に対するト
ルクの変動)と、クランクシャフト系のモーメントのア
ンバランスによって発生する慣性トルク変動とにより加
振振動が発生し、発生した振動は、車室内に伝搬されて
騒音として発生される。
【0006】この回転2次成分が、車体の空洞共鳴周波
数と一致した場合、特に大きな騒音が車室内に発生し、
通常、このような騒音は「こもり音」と称されている。
【0007】また、車両の加速時には、大きなエンジン
出力が必要であるため、燃焼ガストルクの増大にともな
って、各気筒間のトルク変動の大きさのバラツキも大き
くなるため、ハーフ次数成分、即ち、回転0.5次成分、
および、その高調波成分(1.5次、2.5次、3.5次、…)の
振動が増大する。この振動は、加振力となり、エンジン
クランクシャフト系に備えられる、フライホイールやク
ランクプーリと共振し、加速時騒音、あるいは、ランブ
リングノイズと称される騒音が発生する。
【0008】これらのエンジン回転に伴う騒音は、例え
ば、ロードノイズのような、比較的広い周波数帯域にス
ペクトルが分布している、ブロードバンドのランダムノ
イズとは異なり、鋭い、単一のピークを有するスペクト
ル形状を呈している。
【0009】そして、エンジン回転数や加速/減速等の
運転モードと、車体固有の車体空洞共鳴モードの関係か
ら定まる、複数本のスペクトルからなる騒音が励起され
る。
【0010】即ち、エンジン騒音は、単一周波数のピー
クスペクトルが複数本集まった、いわば、マルチスペク
トル騒音であることが特徴となっている。
【0011】ところで、これらの騒音に対する手段とし
て、車体の構造変更や、遮音材を用いた対策等、いわゆ
る「受動的(パッシブ)」な方法に替えて、発生する騒
音に対し、逆位相の2次音を人工的に生成し、「能動的
(アクティブ)」に音を消す能動騒音制御技術が注目さ
れている。
【0012】この能動騒音制御に関する基本的なアイデ
ィアは、1930年代に、Luegによって行われた先
駆的な研究以降、1950年代には、Olson、Co
nver等によって研究が行われてきているが、実際に
製品化の検討がされるようになったのは、比較的最近の
ことである。
【0013】これは、ディジタルシグナルプロセッサ
(DSP)等の能動的制御を行なうための高速演算処理
機能を有するデバイスの出現によるところが大きいが、
制御アルゴリズムに関する理論面の整備が進んできてい
ることも挙げられる。
【0014】例えば、能動騒音制御技術に関する最近の
注目すべき研究例としては、G.B.B.Chapli
nによるもの(例えば特開昭56−501062号公
報)と、P.A.Nelson/S.J.Elliot
によるもの(例えば、特開平1−501344号公報)
の2例を挙げることができる。
【0015】両者の制御方法の違いは、前者の制御が、
対象とする騒音に周期性があることを前提として「繰返
し制御」を行なっているのに対して、後者の制御方法で
は、最急降下法の一種である、LMS(Least Mean Squ
are)アルゴリズムを用いた適応制御処理を行っている
点にあり、この方法では、制御対象となる騒音は、必ず
しも周期性を有することを要しない。
【0016】このLMS適応制御アルゴリズムは、B.Wi
drowによって1960年代までに体系化された方法であ
り、例えば「B.Widrow/P.A.Mantey/B.B.Goode "Adaptiv
e Antenna Systems, PROCEEDING OF THE IEEE, Vol.55
NO.12, DEC 1967 」において、その方法が開示されてい
る。
【0017】このアルゴリズムは汎用性に富むため、能
動騒音制御に関する最近の研究例は殆どこの制御アルゴ
リズムに依っている。本発明で開示される制御アルゴリ
ズムも、基本的にはこのLMSアルゴリズムをベースと
したものであり、周期性騒音のみに制御対象を絞って、
さらに、単一スペクトルのみでなく複数スペクトル成分
よりなる「マルチスペクトル騒音」の制御演算量低減の
ため、前記アルゴリズムに改良を加えたものと言うこと
ができる。
【0018】まず、前述の特開平1−501344号公
報(P.A.Nelson/S.J.Elliot)を
例に取って、従来技術の説明を行う。
【0019】図36は、前述の公開特許に記載されてい
る、複数の、ラウドスピーカおよびマイクロフォンによ
って、自動車の車室内等の特定の密閉空間内の消音制御
を能動的に行なう能動形騒音制御装置を示している。
【0020】これは、密閉空間内での所定位置の音圧を
測定する3個のマイクロフォン12と、各マイクロフォ
ン位置で被制御音(騒音)と制御音を干渉させて騒音低減
を行なうための制御音を出力する2個のラウドスピーカ
11、エンジン2の回転信号16に同期した信号4を発
生する基準信号発生器15、基準信号を位相、振幅変調
してラウドスピーカを駆動する信号3を出力、ラウドス
ピーカを駆動するための、1対の適応形フィルタ14を
備える制御回路13を有して構成されている。
【0021】また、基準信号発生器15へは、エンジン
回転信号16(例えば、点火タイミング信号、クランク
角センサの信号等)が入力されており、基準信号発生器
15は、時々刻々変化するエンジン回転周期の整数倍に
比例した周期を有する正弦波信号を生成している。
【0022】特開平1−501344号公報においても
開示されている、フィルタードXLMS適応制御アルゴ
リズムは、前記アルゴリズムを音響系に適応するために
修正したアルゴリズムの一種である。
【0023】このアルゴリズムの内容について以下説明
する。
【0024】まず、nサンプリング時(n番目のサンプ
リングを意味する)の基準信号をx(n)、適応フィルタ
係数をwmi(n)(m=0,1、i=0,1)とするとき、ラウドスピ
ーカから所定の音を出力させるための制御音信号ym(n)
(m=0,1)は、次式の数1で表される。ここで、mは、ラウ
ドスピーカ、iは、タップを表す。
【0025】
【数1】
【0026】一方、適応フィルタ係数wmi(n)は時々刻
々と更新されていくが、その更新は、各マイクロフォン
12の音圧信号をel(n)(l=0〜2)としたとき、次式で示
す評価関数J(n)が最小値となるように更新される。
【0027】
【数2】
【0028】すなわち、マイクロフォン12で検出する
音圧信号el(n)5の二乗総和値と、制御音信号ym(n)3
の二乗総和値との加算値を評価関数とした場合、この値
が最小になるということは、最小の制御音の出力で、検
出される音圧を最小にするような適応フィルタを生成す
るように、適応フィルタ係数が更新されていくことを意
味する。
【0029】ここで、a、bは係数であり、各項の影響
の度合いを調整するための係数である。例えば、aが相
対的に大きい場合には、制御音信号ym(n)が多少大きく
なっても音圧信号el(n)がより小さくなるように調整さ
れる。
【0030】この更新式は、評価関数Jをフィルタ係数
miで偏微分することにより求められ、次式で得られ
る。
【0031】
【数3】
【0032】上式で音圧信号(エラ−信号)el(n)は、制
御音dcl(n)と被制御音dol(n)の和
【0033】
【数4】
【0034】で表される。ここで、制御音dclは、各ラ
ウドスピーカへの出力の和
【0035】
【数5】
【0036】であり、数1のymの式と合わせて次式が
得られる。
【0037】
【数6】
【0038】但し、c∧lmjは、m番目スピ−カとl番
目マイクロフォン間の音響伝達系のインパルスレスポン
ス関数で、タップJ個のFIRフィルタで表現されてい
る。
【0039】次に、LMS適応制御アルゴリズムでの適
応フィルタ更新の一般式、即ち、
【0040】
【数7】
【0041】(μは係数)を用いると次式を得る。
【0042】
【数8】
【0043】ここで、α=2aμ、β=−2bμであ
る。
【0044】ここで、r(n)は、フィルタ−ドX信号で
あり、αは収束係数、βは抑制係数とも呼ばれ、各々適
応フィルタの成長を進める、および、抑える作用の度合
いを調節するための係数である。
【0045】制御音と被制御音がうまく干渉しあって、
騒音低減を行なうためには、基準信号、もしくは、その
基になる参照信号の中に、被制御音に対して充分相関性
が高い成分が含まれていなければならない。
【0046】通常、2つの信号間の相関性の度合を表す
指標として「コヒーレンス」と称される、0〜1の間の
値を取る無次元量が定義されている。厳密な理論解析の
結果から、LMS適応制御アルゴリズムに基づく能動騒
音制御システムによる騒音低減量は、このコヒーレンス
の値で決定されることが分かっている。
【0047】図36に示すような、自動車の車室内に設
けた能動騒音制御装置100においては、エンジンの回
転振動に伴う騒音が制御対象になっており、エンジン回
転信号を参照信号として供給し、これに同期した正弦波
信号を生成することにより、エンジン騒音成分に対して
コヒーレンスの高い基準信号を得ている。
【0048】従って、例えば、前述の回転2次騒音に対
して、能動騒音制御を行なうことは、タコパルス信号
(クランク角180度ごとの回転信号等)やクランク角セ
ンサの出力信号等を参照信号として供給させることによ
り可能となる。
【0049】ところで、数5および数6に示した音響空
間伝達系のインパルスレスポンスc^lmjは、能動騒音
制御を実行する以前に、通常は「同定」と称される手順
に従い求められる。この同定は、通常は、制御対象とな
る騒音が存在しないか、存在しても小さくて無視できる
ような音環境下(車両においては、アイドリング時等)に
おいて、ラウドスピーカより制御対象周波数域を成分と
して有する同定音(通常は、ランダム音)を出力して行わ
れる。
【0050】同定のアルゴリズムは、適応フィルタ制御
と同様のアルゴリズムで実現される。
【0051】その手順として、まず、出力同定音をマイ
クロフォンで測定して得た音圧信号dl1と、同定音を模
擬するため制御回路内部で作成した音圧信号dl2との加
算値el=dl1+dl2(l=0,…,L-1)を求める。
【0052】次に、音圧信号dl2は、出力同定音の基に
なる基準信号xとc^lmjとの畳込み演算により得られ
るが、dl1との加算値であるel1の二乗値el2が最小に
なるように、dl2が生成されていくように、c^lmj
適応的に求めていく。
【0053】このときの適応的に更新を行なうための式
は、次式で与えられる。
【0054】
【数9】
【0055】但し、αDは、同定時収束係数であり、c
lmjは、生成の速さを調整する係数である。
【0056】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前述したよ
うな能動騒音制御装置では、通常1ないし2本程度の次
数成分のみ消音制御対象としている。これに対して、例
えば、加振力の大きいディーゼルエンジンでは、制御対
象となる次数成分は多数存在する。一例を図37に示す
が、ピークスペクトルは、低周波領域において主なもの
でも十数本以上存在している。
【0057】今、ピークスペクトルの本数がK個あり、
これらの全てを消音するシステムの実現を想定した場
合、各次数成分に対応したK個の基準信号xk(n)(k=0,
…,K-1)を用意し、各基準信号に対して、数1、数2に
示す畳込み演算を実施する必要がある。
【0058】さらに、これらのマルチピークスペクトル
は、エンジン回転数の変化に同期して動き、これらのう
ちのあるピーク(回転次数)が車室内の共鳴周波数に接
近する際に大きくなる現象がおこるため、励起される回
転次数成分、即ち、スペクトルの本数は、エンジン回転
数に応じて大きく変化する。
【0059】それゆえ、前述の方法で、全てのエンジン
回転数領域において消音制御を実施することを想定した
とき、各回転数で励起が予測される全ての回転次数成分
に対応する基準信号を用意しておく必要がある。例え
ば、励起される回転次数が0.5次刻みで、回転10次
までとすると、基準信号は20個必要になる。
【0060】このことは、相当量の演算量、および、装
置が備えるメモリの容量の増加につながり、装置を実現
するためにディジタル・シグナル・プロセッサもまた高
性能機種が求められるため、コスト増大を招く原因とな
る。
【0061】さらに、エンジンの回転数の変化によっ
て、各次数成分のスペクトルのピーク値も急激に変化す
るため、収束係数等の制御パラメータや制御に関する各
種設定値を、回転数の変化に併せて、各次数成分ごとに
変更する必要があり、これらの設定値の調整すなわちパ
ラメータマッチングが重要な課題になる。
【0062】その他にも、数1、数2でのディジタル信
号のサンプリング周波数は、一定の値で行われている
が、マルチスペクトル騒音では、最低次数と最高次数で
周波数の差が大きく、検出精度(正弦波の1周期を何回
サンプリングするか)が異なることから、最低次数と最
高次数での制御の効果に違いが生じる等の問題があっ
た。
【0063】さらに、このようなシステムにおいては、
制御中に何らかの原因により制御系が不安定になった場
合に備えて、制御を抑制もしくは一時停止させる等の措
置を取りえるように、いわゆるフェールセーフ機能を有
するシステムを構築しておくことが不可欠となるが、こ
のような点については、従来技術においては、ほとんど
考慮されていなかった。
【0064】そこで、本発明は、少ない演算量で、制御
対象とする回転次数成分を有する騒音信号を能動的に制
御し、かつ、種々の運転条件にフレキシブルに対応可能
で、システムの異常の際でも、十分対処可能なフェール
セーフ機能を有する手段を提供することを目的とする。
【0065】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に、以下の手段がある。
【0066】即ち、所定位置に配置され、当該位置にお
ける音圧信号を検出する音圧検出手段と、周期性のある
騒音(周期性騒音)を被制御音とし、これを打ち消す制
御音を出力する制御音出力手段と、前記周期性騒音の周
期を検出し、これに同期した信号である同期信号を生成
する同期信号生成手段と、前記同期信号に同期し、か
つ、その周期が前記同期信号の有する周期と所定の関係
にある信号である基準信号を、少なくとも1以上生成す
る基準信号生成手段と、前記所定位置における音圧信号
が最小になるように、前記制御音出力手段から出力され
る制御音の、振幅および位相の調整を行なう制御音調整
信号を、前記基準信号、前記音圧信号、および、前記制
御音出力手段と前記音圧検出手段の間の伝達関数を参照
し、更新されていくフィルタ係数を用いて生成する処理
を行なう適応フィルタ制御手段とを備える。
【0067】そして、前記適応フィルタ制御手段は、前
記基準信号生成手段が生成した基準信号の1周期(36
0度)において、4ms個の(msは、自然数)検出点を設定
し、かつ、ms個(90度)離れた2つの検出点の組ごと
に、前記制御音調整信号の生成およびフィルタ係数の更
新を行う装置である。
【0068】さらに、本発明の他の態様として、以下の
装置もある。
【0069】即ち、所定位置に配置され、当該位置にお
ける音圧信号を検出する音圧検出手段と、周期性のある
騒音(周期性騒音)を被制御音とし、これを打ち消す制
御音を出力する制御音出力手段と、前記周期性騒音の周
期を検出し、これに同期した信号である同期信号を生成
する同期信号生成手段と、前記同期信号に同期し、か
つ、その周期が前記同期信号の有する周期と所定の関係
にある信号である基準信号を、少なくとも1以上生成す
る基準信号生成手段と、前記所定位置における音圧信号
が最小になるように、前記制御音出力手段から出力され
る制御音の、振幅および位相の調整を行なう制御音調整
信号を、前記基準信号、前記音圧信号、および、前記制
御音出力手段と前記音圧検出手段の間の伝達関数を参照
し、更新されていくフィルタ係数を用いて生成する処理
を行なう適応フィルタ制御手段とを備える。
【0070】そして、該適応フィルタ制御手段は、前記
基準信号生成手段が生成した基準信号に対して、基準信
号の1/4周期(90度)ごとのタイミングで、フィル
タ係数を切り換えながら、切り換えたフィルタ係数を用
いて制御音調整信号を生成することを、基準信号ごとに
行なう装置である。
【0071】なお、本発明にかかる装置の動作は、以下
のようになる。
【0072】所定位置に配置された音圧検出手段によっ
て、当該位置における音圧信号を検出する。
【0073】また、制御音出力手段によって、周期性の
ある騒音(周期性騒音)を被制御音)とし、これを打ち
消す制御音を出力する。
【0074】一方、同期信号生成手段は、前記周期性騒
音の周期を検出し、これに同期した信号である同期信号
を生成し、また、基準信号生成手段は、前記同期信号に
同期し、かつ、その周期が前記同期信号の有する周期と
所定の関係にある信号である基準信号を、少なくとも1
以上生成する。
【0075】そして、適応フィルタ制御手段は、検出し
た音圧信号が最小になるように、前記制御音出力手段か
ら出力される制御音の、振幅および位相の調整を行なう
制御信号である制御音調整信号を、前記基準信号、前記
音圧信号、および、前記制御音出力手段と前記音圧検出
手段の間の伝達関数を参照し、更新されていくフィルタ
係数を用いて生成する。
【0076】この際、適応フィルタ制御手段は、基準信
号生成手段が生成した基準信号の1周期(360度)に
おいて、4ms個の(msは、自然数)検出点を設定し、か
つ、ms個(90度)離れた2つの検出点の組ごとに、前記
制御音調整信号の生成およびフィルタ係数の更新を行う 特に、ms=1の場合には、基準信号の1/4周期(90
度)ごとのタイミングで、フィルタ係数を切り換えなが
ら、切り換えたフィルタ係数をそのまま用いて、制御音
調整信号を生成することを、基準信号ごとに行なう。
【0077】
【発明の実施の形態】以下、本発明にかかる実施の形態
について図面を参照して説明する。
【0078】図1は、本発明にかかる一実施形態であ
り、適応フィルタによる騒音制御を行なう能動形騒音制
御装置の全体構成を示す構成図である。
【0079】ここでは、一例として「4サイクル4気筒
エンジン」を搭載する車両の車室内における、エンジン
回転によって発生する騒音であるエンジン騒音の制御を
行なう、実施形態について説明する。
【0080】図1に示す能動形騒音制御装置において
は、車室内の所定位置の音圧を測定する4個のマイクロ
フォン1と、各々のマイクロフォンの配置位置で、エン
ジン騒音(なお以下、エンジン騒音を適宜「被制御音」
や「騒音」と記す)と干渉させ、消音制御を行なうため
の制御音を出力する2個のラウドスピーカ2と、エンジ
ンの点火タイミング信号(いわゆる「タコパルス信号」
を参照信号もしくは同期信号として入力し、入力された
信号に基づいて、制御音信号を生成して、ラウドスピー
カ2から、所望の制御音が発せられるように、ラウドス
ピーカ2に信号供給を行なう制御回路3と、を備えた構
成になっている。
【0081】さらに、制御回路3は、タコパルス信号1
01を波形整形して、搭載されているエンジンのエンジ
ン回転に同期した矩形波信号102を生成する波形整形
回路4と、矩形波信号102を入力して、入力した矩形
波信号102の有する周期から、エンジン回転(例え
ば、クランク軸の回転)の回転次数成分(回転次数成
分:エンジン回転の周波数を基本周波数と仮定すると、
そのn倍(nは、自然数や0.5の整数倍等の数)の周波
数を有する信号)に応じた周期タイミングを有する信号
である「基準信号」を生成する基準信号発生器5と、該基
準信号発生器5が生成した基準信号を用いて、適応フィ
ルタにより位相・振幅変調を行なって所望の制御音10
5を発生させるための制御音調整信号104を生成する
適応制御器6と、生成した制御音調整信号をデジタル・
アナログ変換するD/A変換器(D/A)と、デジタル
変換された信号の低周波成分104を通過させるローパ
スフィルタ(LPF)と、信号104を増幅して、増幅
信号を各ラウドスピーカ2に供給するパワーアンプ7
と、各マイクロフォン1にて得られた信号の低周波成分
を通過させるローパスフィルタ(LPF)と、該ローパ
スフィルタを通過した信号をアナログ・デジタル変換す
るA/D変換器(A/D)と、を有して構成されてい
る。
【0082】また、前記タコパルス信号101は、例え
ば、クランクシャフトの角度を検出するクランク角セン
サによって検出可能である。
【0083】さらに、制御回路3を構成する各構成要素
は、例えば、各種CMOS論理ゲート、CPU、RO
M、RAM等の電子デバイスにて実現可能である。
【0084】なお、基準信号発生器5と、適応制御器6
とは別個の構成要素として示されている。これは、マイ
クロプロセッサ10の他に信号処理専用のプロセッサを
新たに設けるか、マイクロプロセッサ10自体の内部
に、一連の処理を行なうプログラムを内蔵した構成とし
て実現すれば良い。
【0085】ラウドスピーカー2より実際に出力される
制御音105は、各マイクロフォン1の装着位置におい
て、被制御音であるエンジン騒音106と音響的に合成
されるため、かかる合成音が、各マイクロフォン1によ
り音圧信号107として検出され、適応制御器6へと入
力される。なお、音圧信号107は、ローパスフィルタ
を介して、その低周波成分のみが通過し、さらに、アナ
ログ・デジタル変換されて、適応制御器6へと入力され
る。
【0086】ここで、適応制御器6内に構築しておく制
御プログラムは、所定時間内における、4個のマイクロ
フォン1からの音圧信号107の振幅の2乗の総和値が
最小となるように、適応制御器6に予めプログラム化し
て内蔵されている適応フィルタの、特性を定める係数で
あるフィルタ係数を時々刻々更新する処理を行なわせる
ためのプログラムである。
【0087】かかるプログラムの作成に使用されるアル
ゴリズムは、前記エンジン騒音が、エンジン回転に同期
した周期を有するという、一種の周期性を有する周期騒
音であることに着目して、前述したフィルタードXLM
Sアルゴリズムを、いわゆるノッチ形適応フィルタに適
用可能なように改良したアルゴリズムである。
【0088】これは、前記基準信号発生器5によって生
成される基準信号のタイミングに同期して、基準信号に
おいて、90゜位相が変化する毎にサンプリングする、
一種の可変サンプリング方法を提案するものであり、か
かる方法により、制御動作を実現するために行なう、大
容量の演算量を著しく低減することが可能となる。
【0089】さて、以下に、かかる制御の具体的手順に
ついて説明する。
【0090】なお、説明および理解の容易化のため、制
御装置が、1個のスピーカと1個のマイクロフォンを備
え、制御対象となるエンジン騒音の有する回転次数成分
が単一、即ち、周波数軸上に1本のスペクトルが存在す
るような状態を想定することにする。
【0091】ところで、周期信号の一種である正弦波
は、高々2つのタップ(2タップ)を備える適応フィル
タによって、任意の位相、振幅を有した信号(周波数は
同一である)へと変形することが可能である。
【0092】まず、このことについて若干説明する。
【0093】最初に、前述の数1において、参照信号x
(n)は、正弦波であると仮定する。
【0094】
【数10】
【0095】ここで、nは、サンプルの時系列信号(即
ち、サンプル順番)、fは、周波数、Tは、サンプル周
期を表す。参照信号x(n)と1サンプル前のx(n-1)に対
して、2個のフィルタ係数w0、w1を用いて積和演算を
行うと、
【0096】
【数11】
【0097】ここで「atan」は、逆正接関数を示し、以
下、逆正接関数をこのように表記する。
【0098】これより、2個の適応フィルタ係数w0
1の設定次第で、制御音調整信号(以下、適宜、単に
「制御音信号」と称する)y(n)の振幅、位相を任意に
変更できることが、わかる。
【0099】次に、サンプル周期Tを、T=1/(4・f)、
即ち、正弦波の90°の位相変化に相当する時間とする
と、2πfT=π/2となる。
【0100】このとき、数4より、x(n-1)=−A・cos
(2πfT・n+φ)となるため、数1から次式が導かれる。
【0101】
【数12】
【0102】この場合、2個のフィルタ係数w0、w1
設定による、参照信号x(n)を用いての制御音信号y(n)の
位相、振幅の変換式の生成において、係数と、位相、振
幅との関係が簡素化されるため、制御系を簡易な式で表
現しうるようになる。これが、適応ノッチフィルタの基
本形である。
【0103】上述した関係は、サンプル周期が90゜より
細かい場合であっても、90゜間隔を有する2点でのサン
プル(90゜間隔を有する2検出点を考える)を行なう場
合に対して、一般化できる。すなわち、参照信号の1周
期(360゜)を、4ms個(msは、自然数)のポイントでサ
ンプルし、msポイント離れた2点(これは、90゜の間隔
となる)を用いて、制御音信号y(n)を生成することを考
えると、次式が成立する。
【0104】
【数13】
【0105】このように、参照信号の1周期(360゜)
を、4ms個(msは、自然数)のポイントでサンプルし、
msポイント離れた2点(これは、90゜の間隔となる)の
サンプリング点の組でのサンプリングを、サンプリング
総数が4ms個になるまで行なうことによって、簡素な制
御系を実現できる。
【0106】次に、y(n)によって、実際に音がスピー
カから出力されて、マイクロフォン装着位置で、マイク
ロフォンによって、制御音d(n)として検出される場合
を考える。
【0107】スピーカとマイクロフォン間の音響伝達関
数は、線形関係を有し、単に入出力信号の位相と振幅が
異なるだけであるから、適応フィルタ同様、2タップの
フィルタ係数c0、c1を用いて次式で関係付けられる。
【0108】
【数14】
【0109】ここで、x(n)=A・sin(2πfT・n+φ)、x
(n-1)=−A・cos(2πfT・n+φ)、x(n-2)=−A・sin(2
πfT・n+φ)=−x(n)を代入すると、
【0110】
【数15】
【0111】これより、制御音d(n)と参照信号x(n)と
の関係式は、制御音信号y(n)と参照信号x(n)との関係
式と同様になることがわかる。
【0112】ところで、ここで用いられているc0、c1
は、数3で用いられているスピ−カ〜マイクロフォン間
のインパルスレスポンス(時間応答)を表現したclmj^
(j=0,…,J-1)とは異なるもので、理論的にはclmj^を
離散フ−リエ変換(もしくはフーリエ級数展開)したとき
の、各フーリエ係数に関係付けられていることがわかっ
ている。
【0113】ここでは、c0、c1を便宜的にノッチ形伝
達関数と呼ぶことにする。
【0114】このノッチ形伝達関数c0、c1を用いて、
数4のフィルタ更新式を書き替えると、次式のようにな
る。
【0115】
【数16】
【0116】ここで、参照信号x(n)を、エンジン回転
信号に同期して基準信号発生器5が生成する基準信号と
して、A=1、φ=0とおくことにする。1周期におい
て4ms個のサンプリングの場合を考えると、数16のフ
ィルタ更新式は、次のように書き直される。
【0117】
【数17】
【0118】1周期において、4ms個のサンプリングを
行なう場合、ms個のサンプリング点(検出点)おきの、
フィルタ更新を行なえば、更新式はより簡単化される。
すなわち、以下のようになる。
【0119】
【数18】
【0120】ただし、2πfT=(π/2)/msであることを用
いて、以下のようになる。
【0121】
【数19】
【0122】ここで、ms=1、即ち、1周期4サンプル
の場合を考えると、x(n)=sin(πn/2)であるから、x
(0)=0、x(1)=1、x(2)=0、x(3)=−1となる。
即ち、基準信号x(n)は、時系列的に、0,+1,0,
−1,0,+1,0,…,と、そのとる値が、0,±1
の3値を周期的に繰り返す信号となる。このような基準
信号を用いる制御アルゴリズムを構築すると、制御動作
を行なうために必要な種々の演算式を大幅に簡単化でき
ることになる。
【0123】以下、演算式について詳述する。
【0124】最初に、x(n)が、90°の位相変化ごとに
値が変化することを容易にイメ−ジできるように、以下
に示す数20のような表記を行なう。なお、このような
表記は、以下、適宜、90°の位相変化ごとに、値が変化
する変数や式に対しても用いて、理解の容易化を図るも
のとする。
【0125】
【数20】
【0126】この表記を用いると、基準信号x(n)およ
びx(n-1)は、次式のようになる。
【0127】
【数21】
【0128】このとき、制御音信号y(n)(=w0・x(n)
+w1・x(n-1))は、次式のようになる。
【0129】
【数22】
【0130】次に、適応フィルタの更新式は、数4よ
り、以下のようになる。
【0131】
【数23】
【0132】ここで、αは収束係数、また、βは、抑制
係数と称される係数である。
【0133】また、r(n)、q(n)は、次式で表される。
【0134】
【数24】
【0135】上式、数24に、数21を代入し、r
(n)、r(n-1)、q(n)、q(n-1)が90度の位相変化ごと
に変化する様子を表すと以下のようになる。
【0136】
【数25】
【0137】数23に数25を代入すると、適応フィル
タの更新式、即ち、w0(n+1)、w1(n+1)は、以下のよ
うに表現される。
【0138】
【数26】
【0139】ここで、λ=1−β、g0=α・c0、g1
α・c1とおけば、上式を簡略化した次式が得られる。
【0140】
【数27】
【0141】ここで、λ(≦1)は、リーキーパラメー
タと称され、抑制係数βと同様に、時々刻々更新され、
成長していく適応フィルタの成長を抑制するためのパラ
メーータである。また、g0、g1は、伝達関数に収束係
数を乗じた値であり、ここでは、これらを修正伝達関数
と称する。
【0142】以上求めてきた式を参照すると、結果とし
て以下のことが分かる。
【0143】即ち、適応制御器6が90度毎に行なう演
算は、制御音信号104に関しては、数22に示すとお
りであり、また適応フィルタの更新に関しては、数27
に示すとおりである。
【0144】このように、非常に簡単な演算のみで、適
応フィルタを用いた、適応制御を行なうことが可能とな
る。
【0145】以上の議論においては、参照信号である基
準信号x(n)は、最初、x(n)=sin(2πfT・n)とおき、その
後に議論を展開したが、これに対して、最初、符号を逆
にして、x(n)=−sin(2πfT・n+φ)、あるいは、余弦波
を採用して、x(n)=±cos(2πfT・n+φ)としても、係数
が異なるのみで、同様の関係式が成立し、2個のフィル
タ係数w0、w1を用いて、制御音信号y(n)の振幅、位
相の調整、および、フィルタ係数の更新を行うことがで
きる。逆符号の場合には、数9〜数27での数式の符号
が入れ替わるだけである。
【0146】ここでは、参照信号となる基準信号x(n)
を、最初に余弦波とした場合について考え、式のみを記
すと、以下のようになる。
【0147】余弦波基準信号x(n)は、以下のようにな
る。
【0148】
【数28】
【0149】また、制御音信号y(n)は、以下のように
なる。
【0150】
【数29】
【0151】基準信号x(n)の1周期において、4ms個
のポイントでサンプリングを行ない、msポイント離れ
た2点(90゜間隔)を用いて、制御音信号y(n)の生成式
を求めると、以下のようになる。
【0152】
【数30】
【0153】A=1、φ=0として、フィルタ更新式
は、以下のようになる。
【0154】
【数31】
【0155】また、msサンプルおきの、フィルタ更新式
は、以下のようになる。
【0156】
【数32】
【0157】となる。ただし、
【0158】
【数33】
【0159】1周期4サンプル(ms=1)の場合、90°の
位相変化ごとに値が変化する式に対して、基準信号x
(n)およびx(n-1)は、次式のようになる。
【0160】
【数34】
【0161】制御音信号y(n)は、次式のようになる。
【0162】
【数35】
【0163】適応フィルタの更新式は、次式36、37
のようになる。
【0164】
【数36】
【0165】および
【0166】
【数37】
【0167】ところで、ノッチ形伝達関数の係数c0
1は、スピ−カ〜マイクロフォン間のインパルスレス
ポンス(時間応答)をフーリエ級数展開したときの、フー
リエ係数に関係付けられていることを前述したが、基準
信号x(n)として余弦波cos(2πfT・n)を採用したと
き、c0、c1は、各フーリエ係数そのものとなる。すな
わち、音圧信号d(n)を周波数f0の周期信号を基本次数
成分として、その高次成分の重ね合わせであるとしてフ
ーリエ級数展開したとき、次式が成立する。
【0168】
【数38】
【0169】すなわち、フーリエ係数ak、bkは、周波
数f=kf0での制御音信号y(n)から制御音d(n)までの伝
達関数の係数c0、c1に等しい。
【0170】なお、同様に、適応フィルタの係数(w0
1)は、基準信号x(n)から制御音信号y(n)までの伝
達関数である。
【0171】さて、図2に、以上の解析結果をもとに構
築した、能動形騒音制御装置の動作を説明するためのブ
ロック図を示す。但し、ここでは説明および理解の容易
化等のため、1個のスピーカと1個のマイクロフォンを
設けたシステムを想定し、エンジン回転の「0.5・N
次」(Nは、整数)成分のエンジン騒音を制御対象と
し、1回転4パルス(ms=1)の制御で、基準信号として、
正弦波を採用した場合について考えることにする。
【0172】以下、図2を参照して、動作について説明
する。
【0173】まず、エンジン回転に対応して得られるタ
コパルス信号101に基づいて、基準信号発生器5は、
0.5・4N次に同期した信号であるタイミング信号
(0.5・N次成分を有する信号を、90度毎に変化さ
せた信号に相当する。即ち、360度/90度=4よ
り、0.5・N次の4倍の次数となる)を発生し、発生
したタイミング信号で適応制御器6を駆動させる。
【0174】図2中のスイッチ51は、この発生したタ
イミング信号に基づいて、90度ごとにオン、オフし、
所定のタイミングで、各部を動作させる機能を有する。
【0175】制御音発生器61は、スイッチ51の動作
に基づいて、位相変化が90度変化する毎のタイミング
で、その時点での制御音信号y(n)を、数22にしたが
ってスピーカ2に与え、スピーカーから制御音を発生さ
せる。
【0176】一方、破線で囲んで示した部分、即ち、6
0は、適応フィルタ内の適応フィルタ更新器である。適
応フィルタ更新器60は、マイク1で得られた音圧信号
e(n)107等を用いて、数27に示す更新演算を実行
する。
【0177】これについて、さらに詳細に説明する。
【0178】更新器62は、数27に示した更新式の第
2項を決定する値であって、音圧信号e(n)に乗ずる修
正伝達関数gの値を、スイッチ51の動作により切り換
え出力する処理を行なう。なお、g0、g1の値は、予め
定めておく。
【0179】また、抑制器63は、数27に示した更新
式の一部の第1項を決定する値であってw0、w1に乗ず
る値である、リーキーパラメータλを、スイッチ51の
動作により切り換え出力する処理を行ない、適応フィル
タの成長を抑制する機能を有する。なお、リーキーパラ
メータλの値は、予め定めておく。
【0180】ここで、あるタイミングにおけるフィルタ
の更新は、数27にしたがい、更新器62の出力と音圧
信号e(n)の積であるr0と、抑制器63の出力に現在の
を乗じた値uとの和である「r0+u0」を求め、
これを新たなw0とすることによって行なわれる。な
お、90度遅延(即ち、1サンプルずらすことを意味す
る)させて得られた更新器62の出力と音圧信号e(n)
の積であるr0と、同じく90度遅延させて得られた抑
制器63の出力に現在のw1を乗じた値u1との和である
「r1+u1」を求め、これを新たなw1とすることも行
う。そして、w0、w1の更新値は、随時、制御御発生器
61の出力に反映されるように動作する。
【0181】なお、図2に示した、動作説明のためのブ
ロック図は、システムの動作をハードウエアのイメージ
で表現したものであるが、実際には、基準信号発生器5
とスイッチ51、適応制御器60、および、制御音発生
器61の動作は全て、マイクロプロセッサ10によって
実行される処理によって行なわれると考えることができ
る。なお、かかるマイクロプロセッサ10によって実行
される処理は、予めROM内に内蔵したソフトウエアに
もとづいて行なわれることになり、図示しないが、RO
Mの内容をアクセス可能なように、ROMをマイクロプ
ロセッサ10に接続した構成にしておけば良い。
【0182】図3は、このような一連の処理を行なうソ
フトウエアによって行なわれる、処理の手順を記載した
フローチャートである。
【0183】制御動作が開始されると、まず、ステップ
201にて初期設定が行なわれる。
【0184】具体的には、修正伝達関数g0、g1、リー
キーパラメータλ等の予め設定しておくことが必要な変
数等の設定を行なう。なお、設定は、ROMに内蔵して
ある値を読み出し、マイクロプロセッサ10内の記憶エ
リアに格納しておけば良い。
【0185】前述のように、波形整形器4は、入力信号
を整形した信号(矩形波信号)を出力する。
【0186】そこで、マイクロプロセッサ10は、波形
整形器4の出力信号を常時監視し、例えば、信号の立上
りがあればタコパルス割込み信号発生と判断する。そし
て、タコパルス割込み信号が検出された場合には、ステ
ップ203に、検出されない場合には、ステップ205
にブランチする。
【0187】ステップ203では、マイクロプロセッサ
10に内蔵してあるタイマを使用して、タコパルスの割
込み信号が検出された時間を記憶する。そして、前回の
処理で記憶している、タコパルス割込み信号を検出され
た時刻と、今回の時刻との差から、タコパルス信号の周
期Tを求める処理を行なう。
【0188】ここで、例えば、エンジンが4気筒である
とすると、タコパルス信号(例えば、点火信号を考える
と理解が図れる)は、クランク軸1回転につき2回発生
し、したがって回転2次成分に同期した信号となる。
【0189】これは、回転0.5次成分を有する信号
が、90度の位相変化毎に変化することを想定した信号
と同等の信号となる。
【0190】したがって、「回転0.5・N(Nは、次
数を表す整数)」次成分を有する信号が、90度の位相
変化毎に変化することを想定した信号の周期(時間)
は、「T/4N(Nは、次数を表す整数)」を計算して
求められる。
【0191】すなわち、「T/N」を「次数周期」と称
するとすると、次数周期の90度位相変化毎の時間「T
/(4N)」を求める(ステップ204)。
【0192】分母に「4」がある、即ち、4で除するの
は、90度の位相変化毎の時間を求めるためである。
【0193】次に、ステップ205において、次数周期
の90度毎の割込み信号が発生しているか否かを判定
し、割込み信号が発生していれば、ステップ206に、
割込み信号が発生していなければ、ステップ202に、
それぞれブランチする。
【0194】ところで、次数周期の90度毎の割込み信
号は、タコパルス割込み信号の発生時には必ず検出され
るが、それ以降は、ステップ203において、タイマに
よって測定した今回の時刻tpに、ステップ204にお
いて計算した、次数周期の90度位相変化ごとの時間
「T/(4N)」を加えた値、即ち、tN=tp+T/
(4N)を、次回の、次数周期の90度毎の割込み信号
とする。
【0195】このような、次数周期の90度毎の割込み
信号の設定は、ステップ206において行なう。なお、
初回の処理に対しては、予め定めておいた、次数周期の
90度毎の割込み信号を採用するようにすれば良い。
【0196】次に、制御音信号y(n)(104)を出力
する(ステップ207)。なお、90度毎に、更新、出
力される信号であるため、y(θ)と表記すると、y(θ)
は、次式のように表される。なお、90度ごとに変化す
る、w0、w1、e等の他の変数も、角度を引き数とし
て、適宜表記する。
【0197】
【数39】
【0198】即ち、y(θ)のその時点における出力値
は、前回(90度前)に設定された、w0、w1の値が用
いられている。
【0199】次に、ステップ208において、適応フィ
ルタの更新処理が行なわれる。
【0200】これについて表記すると、以下のようにな
る。
【0201】
【数40】
【0202】次に、適応フィルタの更新処理後、θに9
0度を加える(ステップ209)。
【0203】そして、θの値が、360度以上になった
とき、θ=0として、ステップ202に戻る(ステップ
210、ステップ211)。
【0204】以上の図2、図3に開示した実施形態は、
1回転4パルス(ms=1)の制御を行なう場合であって、基
準信号として正弦波を採用した場合であるが、基準信号
を余弦波とした場合やパルス数を多くした場合でも同様
に、本発明を適用できる。
【0205】基準信号を余弦波とした場合については、
図2の制御音発生器61での制御音信号y(n)の式を、
数22から数35とし、さらに、更新器62及び抑制器
63においては、数27に示した更新式の第2項及び第
1項にかわり、数37に示した更新式の第2項及び第1
項を採用するように設定する。このようにした場合の実
施形態を図4に示す。
【0206】図4を参照して分かるように、61、6
2、63の夫々から出力される、制御音信号y、係数
g、リーキーパラメータλの値が、図1と比較して変更
されていることが分かる。
【0207】また、基準信号を逆符号とした場合には、
符号を入れ替えるのみであるので、ここでは図示しての
説明は省略する。
【0208】さらに、パルス数を多くした場合(ms>1)
も基本的には同様な構成で制御装置を構築できる。すな
わち、図2における制御音発生器61の制御音信号を、
数13や数30によって定め、また、更新器62及び抑
制器63において、数27にかえて、数17、19ある
いは数31、32を参照して、出力する値を切替るよう
に構成すればよい。ただし、スイッチ51は、90゜タ
イミングの動作を行なわせるための手段ではなく、(3
60/(4ms))゜動作になる等、細部が若干異なるが、
全体の構成に大きな変更はない。
【0209】以上の実施形態は、1個のスピーカと1個
のマイクを設けたシステムによって、単一の次数成分を
有する騒音を制御するための動作例について、示したも
のである。
【0210】もちろん、本発明においては、スピーカお
よびマイクを複数個設けたシステムへの応用が可能であ
り、全く同様なアルゴリズムにより騒音制御を行なえ
る。
【0211】今、M個のスピーカと、L個のマイクを設
けたシステムで1周期4パルス、正弦波基準信号として
制御した場合を考える。
【0212】そして、M個のスピーカのうち、m番目
(0≦m≦M-1)のスピーカの出力ym(n)、および、適
応フィルタwmi(n+1)(i=0,1)の更新式は、数22、
数27にしたがって、以下に示すように一般化できる。
【0213】
【数41】
【0214】および、
【0215】
【数42】
【0216】但し、スピーカ番号mは、m=0、…、M-1で
あり、Σlは、マイク番号l=0、…、L-1についての総
和を意味する。
【0217】図5に、スピーカおよびマイクを複数個設
けたシステムのブロック図を示す。
【0218】この実施例では、数20、21において、
M=3,L=4の場合である。
【0219】したがって、図に示すようにスピーカ2は
3個、マイク1は4個設けてある。
【0220】スイッチ510は、図2におけるスイッチ
51と同一の機能を有する手段である。なお、、、
は、3つの制御系を識別するための表記である。
【0221】図中A、B、Cは、それぞれの制御系、
、において、制御音を供給するための手段であり、
各々、図2の61に相当する。
【0222】適応フィルタ更新器600は、3つの適応
フィルタにおける更新処理を行なうための、3つの同様
なハードウエア(もしくはソフトウエアモジュール)を
有しており、表記、、によって区別している。
【0223】一例として、制御系に対する構成につい
て説明すると、図中、Dは、図2における63と同一の
機能を有する手段であり、Eは、図2の62を含む更新
処理部が行なう処理を行なう。
【0224】各ブロックが行なう動作は、適応フィルタ
更新器600において、修正伝達関数glmiと4個のス
ピーカで検出した音圧信号el(n)との間の積和演算を行
ない、演算量が若干増加することを除いては、図2と異
なるところがないので再度説明することは省略する。
【0225】なお、図5までで説明してきた実施形態に
おいては、制御対象となる騒音は単一の次数成分を有す
る信号であった。
【0226】これに対して、図6に示すシステムは、1
個のスピーカと1個のマイクを設けたシステム(スピー
カおよびマイクを複数設けても、適用可能である)であ
り、K=3個の次数成分の騒音を消音制御するための動
作を説明するブロック図を示す。
【0227】複数の次数成分を有する騒音を消音制御す
るためには、各次数成分に対して異なるタイミングで制
御動作を行なう必要がある。すなわち、制御音信号の発
生タイミング等を、次数成分毎にその次数周期に合わせ
る必要がある。
【0228】制御音発生器610は、全ての次数成分に
対する制御音信号を加算した加算信号をスピーカ2に供
給する機能を有する。
【0229】なお、F、G、Hは、各次数成分のタイミ
ング発生器、スイッチで生成されたタイミングで、出力
する制御音信号を切り換えて、制御音発生器610に与
える。
【0230】なお、各次数成分のタイミング発生器、ス
イッチは、図2に示す5、51と変わるところがない。
ここでの表記、、は、3種類の次数成分を識別す
るための表記である。
【0231】なお、制御音発生器610は、全ての次数
成分に対する制御音信号を加算した加算信号をスピーカ
2に供給するが、ここでは、制御音信号は、その時点で
検出、演算される次数kの制御音信号に変化があったか
否かについて着目し、変化があった場合にのみ、当該次
数に対する制御音信号を、制御音信号y(n)に足し込む
ようにすることを考える。
【0232】即ち、k次の次数成分の制御音信号yk(n)
が更新された(変化した)場合には、制御音信号y(n)
を、次式のように修正する。
【0233】
【数43】
【0234】数43に、数22の関係式および表記法を
用いると次式が得られる。
【0235】
【数44】
【0236】図6においては、タコパルス信号に基づい
て、k0、k1、k2次の3種類の次数に対する基準信号を発
生し、さらに、各基準信号において90度の位相変化毎
に、所定の部分に所定の動作を行なわせるためのタイミ
ング信号を発生させる。そして、制御音発生器610
は、タイミング信号にしたがって各次数成分に対して生
成された制御音信号の加算処理を、数42、43にした
がって行ない、スピーカ2に供給するように動作する。
【0237】なお、各次数成分に対して設けた適応フィ
ルタの更新処理を行なう手段を設けているが、その動作
内容は図2で説明した適応フィルタ更新器60が行なう
処理と変わるところがないため、再度説明することは避
ける。また、基準信号を余弦波とした場合や1周期の制
御パルス数を増やした場合なども同様であるので再度の
説明は避ける。
【0238】次に、図7は、このような、各次数の成分
の加算を行なうタイミングを説明するための図面であ
る。横軸に時間をとったタイムチャートとして表現して
いる。
【0239】本図では、一例として、k0=1次、k1=
3次、k2=1.5次としている。
【0240】一番上には、タコパルス信号の1周期分の
信号を示している。始めの、タコパルス信号入力時(立
上り時:割込み信号発生時)には、全ての次数のタイミ
ング信号が発生し、k0、k1、k2の各次数成分の出力
が全て加算されるが、それ以外の次数割込みタイミング
発生時(各次数に対し、タイミング信号が90度の位相
変化を生じる毎)には、k1のみの出力・更新、k1およ
びk2の出力・更新というように、次数割込みタイミン
グ発生時ごとに行なわれる出力・更新は、毎回異なって
いることがわかる。
【0241】次に、図8に、ある周波数を有する周期性
を持つ騒音に対して、図2で示したような能動形騒音制
御(1周期4パルス)を実行した場合の、制御結果を示し
ている。
【0242】具体的に、図8(a)は、制御対象となる騒
音であって、マイク位置で観測される音である被制御音
の波形と、制御音生成器61の出力である制御音信号と
を示している。
【0243】制御音生成器61が順次、所定のタイミン
グで切り換えて出力する制御音信号y(n)は、D/A変
換器、ローパスフィルタ104、パワーアンプ7、およ
び、スピーカを介して、制御音として、車室内空間に放
射される。そして、前記騒音(被制御音)と制御音とが
合成された音圧波形である合成音波形が、マイク位置で
観測される(図8(b))。
【0244】騒音波形がかなり減衰して合成音波形とな
り、消音制御の効果が得られているのが分かる。
【0245】一方、図8(c)は、被制御音、被制御音と
制御音との合成音のスペクトル分布を示した図である。
横軸には、音の周波数、縦軸には、音圧をとり、スペク
トル分布を示した図である。図8(c)を見て分かるよ
うに、制御前に比べて制御後では、制御対象とした騒音
の有する周波数成分(これを基本1次成分にとる)は、
大きく抑圧されているものの、新たに、基本1次成分の
3倍の周波数成分を有する高調波成分が発生しているこ
とが分かる。これは、図8(a)に示す制御信号が矩形
形状であるため、奇数次(例えば「3、5、…、2k-1(k
は、2以上の整数)」)の高調波成分を有していることに
起因する。これらの高調波成分は、図1に示したシステ
ムにおけるローパスフィルタによって、ある程度減衰さ
せることは可能である。
【0246】しかしながら、この高調波成分が有する周
波数が、システムの制御対象としている周波数帯域に含
まれる場合、例えば、前記周波数帯域が100〜500(Hz)
であり、基本1次周波数が150(Hz)の場合には、3次
高調波成分は、450(Hz)であり、この周波数は、シス
テムの制御対象としている周波数帯域に含まれる。
【0247】ローパスフィルタのカットオフ周波数は、
この場合、通常、500(Hz)より高い周波数に設定さ
れ、制御のために不要である3次高調波成分は、そのま
ま制御音の信号に含まれてしまうという問題が発生す
る。
【0248】この問題を解決方法として、2通りの方法
が考えられる。
【0249】第1の方法は、単純に、消音制御を行なう
ためのパルスである制御パルスの数を多くすることであ
り、図9(a)、(b)は、図3で示したようにして、1周期
8パルス(ms=2)の能動形騒音制御を実行した場合の制御
結果を示している。
【0250】図9(a)は、1周期8パルス(ms=2)の騒音
制御を行なうための8パルス制御波形、図9(b)は、8
パルス制御による消音効果を示した図である。
【0251】図8(a)〜(c)と比べてみると、制御信号波
形が細かい分、騒音波形がより抑圧され、3次、5次の
高調波成分が発生していないことがわかる。しかしなが
ら、7次以上の高調波成分が発生していることがわか
る。
【0252】このような高調波成分については、1周期
12(ms=3)、16パルス(ms=4)と、さらに、制御パルス
数を増やしていくことにより、抑圧することが可能であ
るが、当然のことながら、消音制御に要する演算負荷の
増大を招いてしまう。これを避けるために、システムの
制御周波数帯域のうちで、低周波側に存在する制御次数
については、制御パルス数を増やし、より高次まで高調
波成分の発生を抑えつつ、高周波側に制御次数が存在す
る場合にのみ、少ない制御パルス数で消音制御を行なう
ことが考えられる。
【0253】図10は、この方法を実現する形態とし
て、システムの制御対象周波数帯域を100〜500(Hz)、
ローパスフィルタのカットオフ周波数を500(Hz)とし
たとき、100〜200(Hz)に存在する制御次数について
は、8パルス制御、200〜500(Hz)に存在する制御次数
ついては、4パルス制御を行なうように設定したシステ
ム例である。
【0254】このシステムは、4パルス制御部と8パル
ス制御部と、基準信号発生器5と、制御音を発生する車
室内スピーカと、騒音を検出するマイクロフォン1とを
有して構成される。
【0255】基準信号発生器5は、制御次数の存在する
周波数を考慮して、8パルス制御を行なうときには8パ
ルス制御部に、また、4パルス制御を行なうときには4
パルス制御部にタイミング信号を供給する。そして、4
パルス制御部、8パルス制御部は、夫々、1周期、4パ
ルス、8パルスの制御パルスを用いて消音制御を行な
う。なお、スピーカ1が検出した信号は、駆動されてい
る、8パルス制御部または4パルス制御部が入力し、消
音制御を行う。
【0256】このシステムでは、制御次数の現時点の周
波数を計算し、200(Hz)より上であるか下であるかを
判断し、これの判断結果に応じて8パルス制御系または
4パルス制御系のいずれかへの切り替えが行なわれる。
200(Hz)の3次成分は、600(Hz)であるので、500(H
z)のカットオフ周波数を有するローパスフィルタによっ
て騒音を十分減衰させれば、これより高い周波数に存在
する制御次数に対しては、4パルス制御で対応できる。
前述の例では、制御対象の基本1次成分が150(Hz)で
あり、200(Hz)以下の周波数であるので、8パルス制
御系が選択されている。制御次数の周波数が変化して、
制御パルス数が変化した時には、4パルス制御から8パ
ルス制御への変化に対しては、パルスの補間等の処理、
8パルス制御から4パルス制御への変化に対しては、2
パルス毎の平均値を取り1つのパルスを生成する等の方
法により対処すればよい。
【0257】次に、高調波成分の発生を抑制する第2の
方法として考えられるのは、基本1次成分に対する制御
に加えて、高調波成分に対する制御を並列処理的に行な
い、高調波成分の発生を防ぐ処理方法である。すなわ
ち、基本1次成分の3倍の周波数が、システムの制御対
象としている周波数帯域に含まれる場合、または、該周
波数帯域より高い周波数成分を有する信号であって、該
周波数成分が、ローパスフィルタのカットオフ周波数に
近く、ローパスフィルタによって十分に減衰されていな
い場合等には、基本1次成分に対する制御に加えて、3
次高調波成分に対する制御を並列的に行なえば、高調波
成分の発生を抑圧できることになる。
【0258】前述の例では、基本1次成分である150(H
z)と、3次高調波成分である450(Hz)に対する制御ルー
プを並列に設けて、各制御ループの固有のタイミング
で、図2に示したような、消音制御を行なうようにシス
テム構成を行なう。なお、このとき、450(Hz)に対す
る制御ループを用いた制御でも、これを基本1次成分と
する3次高調波成分、即ち、1350(Hz)の周波数成分を
有する高調波成分が発生するが、これは、前述の例でい
えば、システムの制御対象の周波数帯域の上限値500(H
z)(さらに、500(Hz)をローパスフィルタのカットオ
フ周波数にしている)より十分高い周波数であり、フィ
ルタの減衰作用等により、制御音信号に含まれてしまう
ことはない。
【0259】このような、並列的な制御処理を行なうた
め、図6に示したように、各周波数成分に対する制御ル
ープを並列的に設けて対処しても良いが、この3次成分
は、本来騒音中に存在するものではなく、基本1次成分
の制御音信号が出力される前に、3次成分に対する制御
ループによって、これを除去すればよい。
【0260】図11は、このような動作を行なう際の動
作説明を行なうためのブロック図である。
【0261】図11において、基本1次成分、3次高調
波成分の夫々に対する、タイミング信号発生器501、
502、適応フィルタ更新器601、602、制御音信
号の切り換え部611、612の動作は、図6にて説明
した動作と同じ動作を行ない、制御音加算器620は、
数43、数44にしたがって制御音の加算処理を行な
う。
【0262】しかしながら、基本1次成分の適応フィル
タ更新器601へは、マイクロフォン1からの音圧信号
107が入力されているのに対して、3次成分の適応フ
ィルタ更新器602へは、制御音加算器620の出力信
号108が入力されている。
【0263】この3次成分の制御音を、基本1次成分の
制御音に足し込むことにより、基本1次成分の制御音信
号に含まれている3次成分を抑圧し、3次成分の制御音
信号がスピーカ2に供給されないようにすることができ
る。
【0264】図12は、この時の各種の制御信号のタイ
ミングチャートを、図示したものである。
【0265】基本1次成分に対する制御音信号を切り替
えるタイミングを生成する制御信号と、3次成分に対す
る制御音信号を切り替えるタイミングを生成する制御信
号とを加え合わせることにより、結果として、制御信号
の形状を、より正弦波に近ずけた波形としている。
【0266】さて、これまで能動形騒音制御の制御アル
ゴリズムについて詳しく説明してきたが、これは、数1
4に示した、ノッチ形伝達関数の係数c0、c1の値が既
知であるという前提条件が必要となっている。
【0267】ある周波数でのc0、c1の値は、スピーカ
〜マイクロフォン間での、前記ある周波数での周期音の
音響伝達特性を表現するものであり、従来技術で説明し
たように、c0、c1の値は、制御対象の騒音が存在しな
いか、比較的小さい音環境下(車両の場合でいえばアイ
ドリング時など)において、同定アルゴリズムにしたが
った処理を実行することによって得られる。ここで、c
0、c1を定めることを、「同定」と称することにする。
【0268】但し、c0、c1は、各周波数に対して定め
られる値であるから、同定するための音である同定音と
しては、従来のようにランダム音ではなく、周期音を用
いる。
【0269】同定するための信号である同定信号とし
て、同定基準信号xD(n)を用いた場合、数9に示した同
定アルゴリズムの更新式は、次式のようになる。
【0270】
【数45】
【0271】但し、γは、同定時収束係数、eD(n)は、
マイクロフォンにより検出された同定音信号である。
【0272】1周期4msパルスとし、msパルスおきの更
新を行なった場合、同定アルゴリズムの更新式は、次式
のようになる。
【0273】
【数46】
【0274】次に、同定基準信号xD(n)として、正弦波
信号xD(n)=A・sin(2πfT・n+φ)を採用し、1周期4ms
パルスとした場合、msパルスおきの同定の更新式は、次
式のようになる。
【0275】
【数47】
【0276】但し、xD(n)=sin(πn/2ms)、xD(n-ms)=-
cos(πn/2ms)、(A=1,φ=0) ここで、数20以降に導いた制御アルゴリズム同様に、
1周期4パルスのサンプリング周期として、正弦波信号
xD(n)の90゜の位相変化を表す周期にとり、φ=0とす
ると、xD(n)は、数21での基準信号x(n)と同様に、
±1、0の3値のみになる。
【0277】そこで、20と同様の表記法を用いれば、
次式のように表現できる。
【0278】
【数48】
【0279】
【数49】
【0280】同定音の出力のサンプリング周期も90゜位
相変化の間隔であるとき、同定音自体もxD(n)=0,+
1,0,−1,…の矩形波状の信号となる。
【0281】前述したように、この矩形波状の出力信号
は、基本次数の(2k-1)次の高調波成分を有し、これらは
マイクロフォン検出信号eD(n)としてフィードバックさ
れ、同定音推定信号yD(n)に足し合わされて、同定エラ
−信号e(n)となり、数49に示した更新式に含まれて
しまう。結果として、同定されたc0、c1によって、音響
伝達系の位相、振幅は、基本次数の他にその高調波成分
によっても影響を受けることになる。
【0282】この問題は、制御時と同様、同定時におい
ても、1周期中の制御パルス数を増やすことにより避け
ることができる。基本的には、図11の実施形態で述べ
た制御と同様に、高調波成分の発生が問題となる低周波
数域では制御パルス数を多くして、高周波数域において
は、4パルス同定に切り替えればよい。実際には、高調
波成分の振幅自体は、通常、基本次数成分に比べて小さ
く(基本次数成分の1/(2k-1))、また後述するように、
c0、c1の値は、かなりのロバスト性を有し、ある程度大
きな誤差を有することを許容できることが分かっている
ため、大きな問題にはならない。
【0283】ここで、騒音制御の場合と同様に、c0、c1
を同定するための同定信号xD(n)として、余弦波基準信
号xD(n)=cos(πn/2ms)を採用しても、同様の式の展開
が可能であり、数47の更新式は、次のように書き直さ
れる。
【0284】
【数50】
【0285】但し、x(n)=cos(2π・n/ms)、x(n-ms)=si
n(2π・n/ms)である。
【0286】1周期4パルス、即ち、90゜毎の更新を
行なう場合には、更新式は簡単化され、数20と同様の
表記法を用いれば、次式のように表現できる。
【0287】
【数51】
【0288】
【数52】
【0289】図13は、数48、数49の演算式に基づ
いて同定を行なうための構成を示した同定ブロック図で
ある。
【0290】まず、求めたい周波数の90゜周期のタイミ
ング信号を、同定タイミング信号発生器265により発
生させる。そして、同定基準信号発生器260は、この
タイミングに同期して、基準信号xD(n)=0,1,0,-
1,…を生成する。
【0291】この基準信号は、ラウドスピーカ2から、
そのまま出力されて同定音となり、マイクロフォン1で
検出されて同定音信号eD(n)(207)として、制御回路
にフィードバックされる。
【0292】一方、タイミング信号に同期して、同定音
推定器261を動作させ、同定音推定器261は、数4
8に従って、同定音推定信号yD(n)(204)を出力す
る。
【0293】また、同定音信号204と同定音推定信号
207は、ディジタル信号として加算されて、エラー信
号e(n)(=eD(n)+yD(n))(208)を生成し、適応更
新器262において、数49に従って、c0、c1の更新
が行なわれる。
【0294】同様に、同定信号として余弦波を用いた場
合でも、数48、数49の演算式を、数51、数52と
入れ替えるだけで、同様なシステムを構成できるので、
ここではその説明を省略する。
【0295】この同定処理の周期は、基本的には、マイ
クロプロセッサに内蔵してあるクロック信号を用いて発
生させることができるが、制御同様に、エンジンのタコ
パルス信号を用いてもよい。
【0296】即ち、エンジンのタコパルス信号の周期を
計測して、該周期に対する周波数を求め、c0、c1を求
める対象である周波数との比(次数比)を計算する。この
場合、次数比は必ずしも整数であるとは限らない。
【0297】次に、タコパルス信号をもとに計算された
次数比に対応する高調波タイミング信号を発生させ、こ
れをもとに、図13に示した同定ブロック図に示した動
作を実行すれば良い。
【0298】同定は、例えば、車両のアイドリング時等
において、同定用アルゴリズムを実行させるためのスイ
ッチの操作により、実行させる構成としておけば良い。
【0299】ところで、エンジン回転数の変化、あるい
は、複数の回転次数を有する騒音を制御する場合等は、
制御対象の全ての周波数で(実際には、所定の周波数間
隔ごとに)音響伝達関数の係数(音響伝達係数)c0、c
1を同定する必要がある。
【0300】このための方法としては、ある周波数の同
定音を、所定時間出力してc0、c1を同定してから、他
の周波数に切り替えて、順次同定を進める方法が考えら
れるが、複数の周波数の同定音を同時に出力して、各同
定音の周期に対応した同定音推定器/適応更新器を並列
に接続して、同定を迅速に行なう構成にしても良い。
【0301】図14に、複数の周波数の同定を同時に行
う手段の動作を表すブロック図を示す。図14では、3
個の周波数f0、f1、f2について、同時に同定する場
合を示している。
【0302】まず、各周波数に対応した同定音発生器3
60、460、560により、各周波数の4倍の周波数
(即ち、90゜周期)で、同定音(基準信号)xD=
0,1,0,−1,…を発生させて合成し、ラウドスピ
ーカ2に供給する。
【0303】この同定音を、マイクロフォン1により検
出し、音圧信号307として制御回路にフィードバック
する。
【0304】一方、制御回路内部で、同定音推定器36
1、461、561により、各周波数に対応した同定音
推定信号304、404、504を生成して合成し、前
記音圧信号307に加算する。なお、同定音推定器36
1、461、561の動作は、図14に示す261の動
作と同じである。
【0305】加算して得たエラー信号308を、各適応
更新器362、462、562に、フィードバックし、
各々エラー信号308が最小になるように、伝達関数c
0(f)、c1(f)の値を更新する。
【0306】なお、各適応更新器362、462、56
2の動作は、図14に示す262の動作と同じであり、
詳細構成も同じである。
【0307】ここで、前述したように1周期4パルスの
同定では、フィードバックされる同定音信号eD(n)(3
07)の中には、出力した同定音の周波数の(2k-1)次の
高調波が含まれている。
【0308】したがって、図11で示した制御の場合と
同じように、システムの同定を行う周波数帯域(制御対
象とする周波数帯域)に応じて、1周期中の同定パルス
数を切り替えて同定するのが好ましい。
【0309】図15は、システムの同定対象周波数域を
100〜500(Hz)とし、200Hzを境に、8パルス/4パルス
の同定ブロックを切り替えるようにした、同定パルス数
の切り替えに関するシステム実施形態である。本システ
ムは、4パルス同定部と8パルス同定部と、同定信号タ
イミング発生部265と、制御音を発生する車室内スピ
ーカ2と、騒音を検出するマイクロフォン1とを有して
構成される。
【0310】同定信号タイミング発生部26は、制御次
数の存在する周波数を考慮して、8パルス同定を行なう
ときには8パルス同定部に、また、4パルス同定を行な
うときには4パルス同定部にタイミング信号を供給す
る。そして、4パルス同定部、8パルス同定部は、夫
々、1周期において、4パルス、8パルスを用いて消音
制御を行なう。なお、スピーカ1が検出した信号は、駆
動されている、8パルス同定部または4パルス同定部が
入力し、同定処理を行う。
【0311】同定は、周波数帯域中をある周波数間隔ご
とに分割して(この間隔は一定でもよいし、また、周波
数帯を異なる複数の周波数幅をもつように分割しても良
い)、各分割領域ごとに、当該領域に存在する周波数に
対して行われ、当該分割領域中では、その周波数におけ
る同定値を代表値とするように行なわれる。
【0312】同定は、基本的に、ある周波数に対して所
定時間行なわれ、同定値が確定した後に、他の周波数に
対する同定処理が順次行なわれる。例えば、高周波数領
域から同定を実行した場合、同定周波数が200Hzを超え
ている間は、4パルス同定部を用い、200Hz以下では、
8パルス同定部が用いられ、同定が実行される。全ての
周波数ポイントでの同定が終了すると、同定処理の結果
として、音響伝達関数c0(f)、c1(f)のデータが、RA
M等へ保存される。
【0313】ここで、同定は、2つの周波数が整数倍の
関係にある場合(例えば、150Hzとその3次高調波成分
の450Hz等)を除いて、複数の周波数で、同時に実行する
こともできる。これは、後述する「同期加算平均」の考え
方により明らかにされている。
【0314】すなわち、ある周波数に同期したタイミン
グで信号を加算していくと、その信号に含まれる周波
数、および、その整数倍成分のみが残り、他の成分は
「0」に近づくことがわかっているが、同定更新式の数
47、49も、一種の同期加算を行っているからであ
る。
【0315】以上のように、本発明によれば、エンジン
回転振動等により励起される複数の高調波次数の騒音成
分に対して能動騒音制御を実施する際に、従来方法に比
べて大幅に計算量を少なくすることができ、コストを低
減したシステムや、小型化したシステムの構築が可能と
なる。
【0316】次に、本発明にかかる、他の実施形態につ
いて図面を参照しつつ説明していく。
【0317】さて、これまでの説明では、各周波数fに
おいて同定された伝達関数c(f)={c0(f)、c1(f)}を
使用することによって、各次数成分に対応する適応フィ
ルタの更新動作を行なう方法について述べてきた。
【0318】ところで、車両を一例とすると、同一の車
両の車室内であれば、該車室内において、特に大きな騒
音として感じられる騒音の周波数は、通常、ほぼ決まっ
た値になっているのが経験的事実の示すところである。
【0319】このことは、車室内で騒音レベルを増大さ
せる騒音が有する周波数である、いわゆるピーク周波数
は、車室空間の体積、サイズ等によって決定されてしま
い、上述した騒音レベルの増大は、ピーク周波数を有す
る騒音の、車室内における空洞共鳴現象によってもたら
されるからである。
【0320】これに対して、騒音加振源となるエンジン
の加振成分は、エンジン回転に同期した回転次数成分、
すなわち、エンジン回転の周波数成分の高調波成分であ
り、エンジンの回転数の変化にともなって、回転次数成
分に対応する周波数も変化する。
【0321】今、例えば、エンジンの回転数が上昇する
とき、低次から高次へと(低周波数から高周波数)、エ
ンジン回転次数成分が、次々と、ある車両に対して定ま
っている共鳴周波数を含む周波数帯を通過していくとと
もに、共鳴周波数と、エンジン回転次数成分とが一致す
れば、該エンジン回転次数成分による騒音のレベルが、
特に増大する。
【0322】したがって、全ての回転次数成分に対し
て、増大した騒音レベルを低減するための能動的制御を
行うことが理想であるが、例えば、制御システムが備え
るプロセッサの計算能力が、全ての回転次数成分に対す
る制御演算を行なうだけのものでない場合には、エンジ
ン回転数のとりうる値等を考慮して、特に騒音を増大さ
せてしまう、回転次数成分を選択し、選択した回転次数
成分(単に、次数とも記す)を用いて制御する方法が考
えられる。
【0323】そこで、図16を参照して、このような方
法の実施形態について説明する。
【0324】図16は、エンジン回転数がとりうる値
を、複数の領域に分けて、各領域において、予め定めて
おいた高調波次数を選択し、騒音の制御動作を行なう場
合の実施形態について説明するための図面である。
【0325】図16では、車両に搭載されるエンジンと
して、4気筒のディ−ゼルエンジンを想定しており、そ
の常用回転域(エンジン回転数が、通常とりうる値の範
囲)は、600(rpm)〜3000(rpm)までとしている。
【0326】600(rpm)〜3000(rpm)までのエンジン
回転数に対して、600(rpm)ごとの4つの領域
((I)、(II)、(III)、(IV))を分割設
定し、各領域において、回転0.5×N次(Nは、自然
数)の次数成分のうち、任意の3つの次数成分を選択
し、予め設定しておき、これを用いて制御を行なう。
【0327】図16に示すように、例えば、領域(I)
に対しては、予め3つの次数成分、k0(1)、k1
(1)、k2(1)を選択し、設定しておき、実際のエ
ンジンの回転数が1200(rpm)以下であるとき、これら
の次数成分を用いた制御が行なわれる。
【0328】図16に示す実施例の構成は、基準信号発
生器5と、メモリ74と、タイミング発生器500と、
各次数制御御発生器605と、適応フィルタ更新器60
0と、制御音生成器610とを備えている。
【0329】なお、スピーカ2は、制御音生成器610
から供給される信号に基づき駆動される。また、マイク
ロフォン1は、騒音を検出し、検出信号を適応フィルタ
更新器600に供給している。
【0330】さらに、メモリ74には、前述した領域の
各々に対して、とり得るエンジン回転数と、予め設定し
た次数成分とが対応するように、記憶されている。な
お、メモリ74は、RAM、ROM、フラッシュメモリ
等で実現されうる。必要に応じて、その内容を書替え可
能な構成にしておくのが好ましい。
【0331】さて、このような装置構成における動作に
ついて、説明する。なお、以下の動作は、例えば、基準
信号発生器5が備えるCPUが主として行なうように、
構成しておけば良い。
【0332】エンジンから出力されるタコパルス信号1
01が、基準信号発生器5に入力される。
【0333】基準信号発生器5は、タコパルス信号10
1の周期に基づいて、エンジン回転数を求め、エンジン
回転数の値に応じて、メモリ74の内容を読み出し、エ
ンジン回転数に対応する領域が選択される。そして、選
択された領域に対応して、予め設定されている3個の次
数成分を選択し、各次数成分に対応する周期の90゜ごと
の信号を、タイミング信号111、121、131と
し、各タイミング信号に基づいて、制御音信号を生成し
て制御を行う。
【0334】図16に示すように、例えば、搭載された
エンジンが4気筒であり、エンジン回転数が「1800〜21
00(rpm)」の領域に存在するとき、回転数領域とし
て、領域IIIが選択され、k0(3)、k1(3)、k2(3)な
る次数成分に対応する周期の90°ごとに生成される信号
であるタイミング信号が、タイミング発生器500にセ
ットされる。
【0335】タイミング発生器500にセットされたタ
イミング信号は、各次数制御音信号生成器605に供給
され、各タイミング信号に同期して、各制御音信号yk0
(n)、yk1(n)、yk2(n)が、各次数制御音信号生成器6
05によって生成される。
【0336】そして、各制御音信号は、制御音生成器6
10によって合成されて、スピーカ2から、制御音とし
て出力される。
【0337】さらに、マイクロフォン1により検出され
たエラー信号107が、適応フィルタ更新器600に入
力されることによって、前述したアルゴリズムに従っ
て、フィルタ係数の更新動作が行なわれる。
【0338】このように、複数の領域を設定し、領域ご
とに制御対象を選択することによって、より精度の高い
制御動作が行なわれることになる。
【0339】なお、このような次数成分(「制御次数」
と同意語:制御対象となる次数)の選択については、エ
ンジン回転数によって設定された領域ごとに、車両固有
の共鳴周波数に極力近い周波数を有する次数成分を設定
しておくことが適切であるが、実際に搭載されるエンジ
ンにおいては、通常、次数成分ごとに加振力の大きさに
違いがあり、例えば、直列4気筒エンジンでは、エンジ
ン回転数の2倍、即ち、回転2次成分が特に大きく、現
実的にはこの2次成分とこの高調波、すなわち回転4
次、6次、8次、10次成分などがエンジン騒音成分の
中で支配的であることが多い。
【0340】そして、回転2次、4次成分などは広い回
転域で大きな騒音成分として存在している。このような
場合については、複数の領域において制御しうるよう
に、制御次数の初期設定を行なっておけば良い。
【0341】ところで、制御次数の初期設定のために、
特に大きい騒音を発生させる回転次数を特定することが
必要である。この場合には、エンジン回転信号をトラッ
キング信号として入力し、騒音の時間波形に対するFF
T(高速フーリエ変換)解析を行い、得られたスペクトル
分布のうちで、ピーク状の極大値をとる騒音周波数の存
在位置に基づいて求める方法が、一般的な方法として考
えられるが、このことを、リアルタイムで実行するに
は、かなりの演算容量になってしまう。
【0342】そこで、ここでは、数47、49のよう
な、同定のための更新式の説明において述べたように、
騒音成分を、特定の周波数に同期して平均化することに
より、騒音の周波数成分を抽出する方法を使用して、ピ
−ク騒音を検出する方法について説明する。
【0343】今、元の騒音信号をd、基本次数の周波数
をfとして、元の騒音信号dは、基本次数の高調波成分
の重ね合わせであるとして、フーリエ級数展開すると次
式を得る。
【0344】
【数53】
【0345】ここで、nは、サンプリング番号、fk
は、k次の次数の周波数、すなわち、fk=k・fである。
また、Tはサンプリング周期、ds(n)、dc(n)は、各々
d(n)の正弦波成分および余弦波成分であり、さらに、
dsk、dckは、各々、d(n)の正弦波成分、余弦波成分
の、k次成分の振幅である。また、Σkは、kについて
の総和(k=1,…,K)をとることを意味する。
【0346】今、数53に対して、ある周波数fkの正
弦波および余弦波を乗じ、時間平均をとることとする。
dsk、dckが、平均をとる時間間隔内で、一定の値をと
るものとすれば、正弦波と余弦波の積の平均値は
「0」、また、正弦波と正弦波、余弦波と余弦波、の積
の平均においても、同一周波数成分以外は、総て「0」
になるので、次式が得られることになる。
【0347】
【数54】
【0348】但し、「<>」は、時間平均を表し、<si
n(2πfkTn)2>=<cos(2πfTn)2>=1/2を用いた。
【0349】また、数53は、次式のようにも表現され
うる。
【0350】
【数55】
【0351】ここで、dk、αkは、それぞれ、騒音d
(n)の振幅、位相である。
【0352】さて、数54より、以下に示す数56が得
られる。
【0353】
【数56】
【0354】さて、当該次数成分が、制御システムによ
って制御されていない状態ならば、マイクロフォン1に
より検出される音圧信号e(n)107を、当該次数成分
kの周期の、90°のタイミングでサンプルして、数5
3と同様に、<e(n)・sin(2πfkT・n)>、および、<e(n)
・cos(2πfkT・n)>なる値を求めたとき、当該次数成分以
外は、「0」になるため、演算結果は、数54に等しく
なる。
【0355】すなわち、騒音d(n)のk次の次数成分の
ピークの大きさは、次式の演算を行なうことで求められ
る。
【0356】
【数57】
【0357】次に、k次の基準信号(次数kに対する基
準信号)を、正弦波xk(n)=sin(2πfkT・n)として、サ
ンプリング周期を、1周期4パルスすなわち基準信号の
90゜ごとの時間とすると、数20以降の式と同様、以下
のような数式の展開が可能となる。
【0358】
【数58】
【0359】上述した数54を書き直し、k次成分の正
弦波振幅dskおよび余弦波振幅dckは、次式のように得
られる。
【0360】
【数59】
【0361】ここで、サンプル番号mを、次数周期の1
回転に対応するものとし、M回転目までの平均操作によ
り得られた、k次振幅dkは、次式で求められる。
【0362】
【数60】
【0363】ここで、e(m,θ)は、m回転時の角度θで
のエラー信号である。この場合、制御音は存在しないの
で、e(m,θ)=d(m,θ)である。サンプルを平均する周
期を、様々な値に変化させることによって、エンジン回
転周期に対する、全ての次数成分の振幅dk(kが非整数
(例えば、0.5の奇数倍)の場合をも含む)が、推定可能と
なる。
【0364】ところで、今まで説明してきた、回転次数
の推定処理は、能動騒音制御を行なっていない、すなわ
ち、制御音を供給していない場合における処理である。
【0365】一方、能動騒音制御状態にある場合(制御
次数を実際に用いて能動制御を行なっている場合)、マ
イクロフォンにより検出される信号は、騒音(被制御音)
と制御音とが合成されているので、これらを分離する必
要がある。
【0366】このためのには、次のような方法が採用さ
れる。
【0367】マイクロフォン検出信号e(n)を、被制御
音do(n)と制御音dc(n)とにわけると、以下のように表
現できる。
【0368】
【数61】
【0369】ここで、制御音dc(n)が、k次の次数の出
力音であるとすると、dC(n)は、音響伝達関数のフィル
タ係数c0、c1と制御音信号yk(n)を用いて、
【0370】
【数62】
【0371】なる式で与えられる。また、制御音信号y
k(n)は、k次基準信号xk(n)を用いて、
【0372】
【数63】
【0373】なる式で表現される。これらをまとめて整
理すると、次式が得られる。
【0374】
【数64】
【0375】そこで、数59と同様の演算操作を行う
と、
【0376】
【数65】
【0377】なる式が得られる。
【0378】ここで、数20を使用すると、次式が成立
することになる。
【0379】
【数66】
【0380】ここで、数20、数66を、数65に代入
して、次式を得る。
【0381】
【数67】
【0382】また、被制御音do(n)のk次成分の振幅d
okは、数56と同様な式、すなわち、
【0383】
【数68】
【0384】が成立するので、数67の関係式を用い
て、制御音を分離した被制御音の大きさの推定が可能と
なる。
【0385】なお、数67について、数60と同様の表
記を行なえば、次式が得られる。
【0386】
【数69】
【0387】これらは、1周期4パルス(90゜に相当
する)として、回転次数の推定を行う方法についての式
の展開である。この場合も、消音制御の場合と同様に、
推定対象次数の(2k-1)次成分の影響を大きく受けるの
で、低周波数領域等では、推定のためのパルス数を増や
すことが好ましい。このとき、数56または数65をそ
のまま実行することにより、対応できる。
【0388】なお、この場合においても、推定の基準信
号xk(n)を余弦波xk(n)=cos(2πfkT・n)としても、同
様に推定式を展開できる、符号等の変更のみが生じるだ
けであるため、説明を省略する。以上のようにして、制
御次数の初期設定を行なっておけば良い。
【0389】さて、これまで説明してきた各次数騒音成
分の推定は、この他に、いわゆる「同期加算法」と称さ
れる方法を用いても行うことができる。この同期加算法
は、抽出したい次数に対する周期ごとにおける同一の角
度(位相)の検出点でのサンプリング値、よって、ある
位相を有する検出点での、360゜ごとのサンプル値を
次々に加算していき、1周期中の各角度ごとの加算平均
値を求めていく方法である。
【0390】この方法の原理は単純で、ある周波数の周
期信号は、その1周期を360゜の角度でみたとき、毎
回同一の角度では同じ値をとり、他の角度では異なる値
をとるという事実に基づいている。ある周波数の基準信
号に同期したタイミングで、360゜ごとの加算平均を
とれば、他の周波数の周期成分は、毎回種々の値をと
り、加算平均すれば「0」に漸近していき、最終的にそ
の周期成分のみ抽出されることを利用しているわけであ
る。
【0391】しかしながら、騒音成分の中に、検出周期
の整数倍の高調波成分が含まれている場合、これも推定
値の中に含まれるという問題がある。これは、整数倍の
成分も、基本次数の周期における同一の角度では、同じ
値をとるからである。例えば、回転4次成分に同期して
加算平均を行った場合、回転8次(2倍)、12次(3
倍)等の騒音成分は、推定値の中に含まれる。これに対
し、例えば6次(1.5倍)、10次(2.5倍)、あるい
は2次(0.5倍)等の高調波成分は、これらが存在して
いても、回転4次の同期加算推定によって、「0」とな
ってしまい、その影響を受けることはない。
【0392】図17は、複数の回転次数騒音を含むよう
な車両騒音に対して、回転4次成分に同期して加算平均
を行った結果を、スペクトルとして示している。図17
(a)は、車室内の騒音スペクトルの例であり、図17
(b)は、回転4次同期加算の結果を示しており、いず
れも、スペクトル分布として表示している。
【0393】図17を参照すると、同期加算の結果、所
望の4次成分と、その倍成分である8次成分のみが抽出
されていることが分かる。ただし、ここではフーリエ解
析を行うために、1周期中のサンプル数を1024点と
した。
【0394】したがって、所望の成分である4次成分の
みを抽出するためには、同時に、8次成分の同期加算推
定を行ない(この場合、その整数倍成分である16次、
24次成分等がローパスフィルタにより十分減衰される
等により存在しないことが条件である)、得られた推定
値を、8次成分の同期加算推定値より差し引くことによ
って、4次騒音成分を推定することになる。ただし、こ
のためには、各次数成分の振幅、位相を求める必要があ
り、原理的には可能であるが、安価なプロセッサを用い
て行う推定方法としては現実的でない。したがって、こ
の「同期加算平均」は、その整数倍の高調波成分が問題に
ならない高周波制御領域での使用するのが好ましい。
【0395】推定する次数騒音の振幅は、基本的に、1
周期中の90°離れた2点でサンプリングすれば求めるこ
とが可能である。今、次数kの一周期中のサンプル数を
4msとし、推定するエラ−信号ek(n)を
【0396】
【数70】
【0397】としたとき、
【0398】
【数71】
【0399】であるので、その振幅値Aは、次式で示す
ようになる。
【0400】
【数72】
【0401】図17(a)に示すように、複数の回転次数
騒音を含むような車両騒音に対して行う同期加算平均に
よる騒音推定は、回転8次成分のように、その高次成分
(16、24次成分等)が存在しない次数の騒音に対して
実施可能である。なお、制御中の騒音(被制御音)と制
御音の分離方法については、前述した方法と同じである
のでここでは説明を省略する。
【0402】次に本発明にかかる、さらに、他の実施形
態について説明する。
【0403】さて、今までに導出してきた数式に基づい
て、騒音能動制御時および騒音能動非制御時に、各エン
ジン回転数領域において、特に大きな騒音(被制御音)を
推定し、この推定結果を反映するために、制御すべき回
転次数(制御次数)の選択、および、各領域に対して設
定されている制御次数の「書替え」、を行う場合の制御手
順を、図18のフローチャートで示す。
【0404】図18では、各エンジン回転数領域におい
て、0.5×N次の高調波成分のうち、3個の次数(kc0、
kc1、kc2)を用いて能動騒音制御を行っている場合に
ついて示している。もちろん、処理のスタート時には、
各エンジン回転数領域において、図16に示す場合と同
様に、制御次数が初期設定されている。
【0405】以下、図18のフローチャートについて説
明する。
【0406】なお、以下の処理は、例えば、基準信号発
生器5が備えるCPUが、主として行なうように構成し
ておけば良い。
【0407】まず、ステップ701において、エンジン
から出力されるタコパルス信号101を検出し、タコパ
ルス信号の周期Tに基づいて、現在のエンジン回転数N
を測定する。
【0408】エンジン回転数Nが測定された結果を用
い、メモリ74の格納内容を参照することによって、エ
ンジン回転数Nに対応する回転数領域を判別、選択す
る。
【0409】なお、エンジン回転数Nの変化に伴って選
択される回転数領域は、エンジン回転数Nが変化するた
め常に切り替わって行くが、能動騒音制御での制御対象
となる制御周波数領域は、プロセッサの演算能力(特
に、高周波数側の演算性能で演算能力が決定される)、
スピーカの再生能力(特に、低周波数側の出力性能で再
生能力が決定される)により、一定となる。
【0410】このため、回転数領域ごとに制御対象、す
なわち、推定の対象となる、「0.5×N次」の高調波成分
の本数、次数は異なる。
【0411】次に、ステップ702においては、選択し
た回転数領域に対応する周波数と領域の関係から、推定
の対象となるI個(Iは、自然数)の0.5×N次の高調波成
分を決定している。
【0412】例えば、ある領域の回転数範囲が1800〜21
00(rpm)、これに対する制御対象周波数が100〜400(Hz)
であるとすると、制御対象となる0.5×N次の高調波成分
は、制御対象周波数の下限値である、100(Hz)に対して
回転3.5次(エンジン回転数を回転1次とする。)が、180
0(rpm)で105(Hz)(即ち、1800(rpm)÷60(s)=30(Hz)、30
(Hz)×3.5次=105(Hz))、制御対象周波数の上限値であ
る、400(Hz)に対して回転11.0次が、2100(rpm)で385(H
z)となり、回転3.5次から回転11.0次までの16本(I=16)
が、推定対象の次数ki(i=0〜I-1)に設定される。
【0413】ところで、推定対象となる次数ki(i=0〜I
-1)のうち、いくつかの次数は現在制御中の次数であ
る。ここで、同時に制御する次数は、3種類であるとし
て、次数kc0、kc1、kc2が、初期設定されてメモリに
格納されているものとする。
【0414】さて、ステップ703では、初期設定され
ている、これらの制御次数kc0、kc1、kc2の読み出し
を行う。
【0415】さらに、変数iをリセット、即ち、i=0
とする。
【0416】次に、ステップ704では、i=0から順
に、次数kiの周期に同期した被制御音の推定を実行す
るが、推定次数kiが、制御中の次数か否かを判定し
て、場合分けを行う。
【0417】そして、制御を行なっていない次数につい
ては、ステップ705、制御中の次数については、ステ
ップ706に、おける処理を実行させる。ここで、ステ
ップ705における処理は、基本的には数57に示す演
算処理であり、ステップ706における処理は、被制御
音を求めるため、エラー信号から、制御中の次数である
として制御音部分を差し引く、数65プラス数68に示
す演算処理である。
【0418】ただし、次数の周波数から判断して、4パ
ルスで推定可能である場合には、数57の代わりに数5
9若しくは60、数67プラス数68、もしくは数69
に示す演算処理を実行する。あるいは、一部の高周波数
領域の次数については、前述の「同期加算平均」による
推定演算を実行することもできる。
【0419】次に、ステップ705、706での推定演
算により、k次の被制御音の振幅dkiが求められた後
で、変数iをインクリメントとし、i=i+1とする。
【0420】iがIより小さい間は、ステップ704に
戻り、同様の推定演算を実行する(ステッフ゜707)。
【0421】そして、上述した例の場合、i≧I=16と
なり、16種類、総ての次数について推定演算が完了し
たならば、ステップ708に移る。
【0422】ステップ708では、推定演算の結果得ら
れたdkiのうち、振幅の大きい上位3個の次数(ki)
を選定する。
【0423】次に、この選定された次数ki(i=0〜I-1)
と、初期設定された制御次数kci(=kc0、kc1、kc2)
とを比較し、値が異なっているものが存在すれば、そ
の、値が異なっている次数について、制御次数の「書替
え」、すなわち、選定された次数を、新たに、該当する
回転数領域での制御次数として設定する処理を行う(ス
テップ709)。
【0424】ステップ709での処理を、より具体的に
説明すると以下のようになる。
【0425】例えば、現在制御中の制御次数kci(=kc
0、kc1、kc2)において、kc2を、別の次数kc3へ「書
替え」する必要がある場合、まず、次数kc2に対応する
適応フィルタ係数wkc20、wkc21の値を「0」とおき、制
御音の出力を停止させる。
【0426】次に、基準信号発生器5およびタイミング
信号発生器500によって生成するタイミング信号の周
期を、次数kc2のタイミング周期から、次数kc3のタイ
ミング周期に変更する。そして、次数kc3の周期のタイ
ミング信号を、新たに発生させる。
【0427】そして、新しい次数に対するタイミング信
号によって、制御音生成器610および適応フィルタ更
新器600を動作させる。その結果、新しい適応フィル
タ係数wkc30、wkc31が成長することになる。
【0428】この書替えによる音圧変化が急激であり、
違和感を与えるような場合には、例えば、前述した収束
係数αを小さくするか、「0」にし、あるいは、リーキ
ーパラメータλ(≦1)の値を、通常より小さい値にし
て、適応フィルタ係数wkc20、wkc21を徐々に減衰させ
る。
【0429】同時に、新しい適応フィルタ係数wkc30、
wkc31に対応する収束係数αを大きくとり、成長速度を
大きくする等の方法を使用しても良い。
【0430】エンジン回転数の値が変化して、対応する
回転数領域が、別の回転数領域に移行した場合には、ス
テップ701において、新しいエンジン回転数に対する
周期Tを検出し、ステップ701〜709に示す処理
を、新たな回転数領域に対して実行する。
【0431】これらの一連の処理は、各次数に対応し
た、タイミング信号(1周期4パルスの場合ではある次
数に対す信号の周期を想定した時、その周期の1/4、即
ち、90゜毎にタイミングを与える信号)によって行わ
れ、M回転(M周期)分の推定演算により行っている。
【0432】しかしながら、これらの推定処理には問題
点がある。すなわち、実際の車両運転時には、通常、エ
ンジン回転数は頻繁に変化するため、ステップ709ま
での処理が完了する前に、エンジン回転数が急激に変化
してしまい、回転数領域が、別の回転数領域に移行して
しまう場合が頻繁に発生すると考えられる。
【0433】図19は、このような場合への対応も考慮
した推定演算処理を行うため、総ての回転数領域に対し
て推定演算を行う回数である「次数推定回数Mk(あるい
は、次数推定時間Tkでも良い)」を設定し、Mk(あるい
は、Tk)を上回る推定回数(あるいは、推定時間)に達
したとき、推定演算処理を終了し、新しい次数の設定、
および、該次数を用いた制御を行う、手順を示すフロー
チャートである。
【0434】ここで、図19中では、推定演算処理のた
めに、多くの変数および設定パラメータが用いられてい
るので、最初に、これらの内容について説明する。
【0435】まず、Anは、複数設定した回転数領域の
中で、n番目の領域を意味し、本実施例では、An=A0
〜A7の8つの領域に分割されている。そして、回転数
領域A0〜A7の各々に対して、各々、J0〜J7個の制御次
数が設定されている。
【0436】すなわち、A0に対しては「J0個」、…、
7に対しては「J7個」である。
【0437】また、JJ、jj(j0〜j7の値をとりうる)
は、変数であり、n番目回転数領域An(制御次数JJ個)
のうちのjj番目の次数が、現在推定中の次数kn(jj)で
あるように、用いられている。すなわち、回転数領域A
n=A0〜A7に対して、jj=j0〜j7の変数が各々対応し
ている。なお、j0=0〜J0、…、j7=0〜J7の関係が成立し
ている。
【0438】また、次数推定回数Mkは、回転数領域A0
〜A7に存在する、全ての次数kn(jj)について、同一の
値が設定されているが、実際には、各領域における推定
処理回数は異なる。
【0439】そこで、現在までに、次数kn(jj)につい
て行われた推定処理回数を示す変数を、m(jj)とする。
【0440】次に、図19を参照して、実行される処理
の内容について説明する。
【0441】まず、ステップ711において、推定処理
に必要な変数の初期値として、jj=j0〜j7=0、m(jj)
=m(j0)〜m(j7)=0を設定する。
【0442】次に、ステップ712において、エンジン
から出力されるタコパルス信号を検出することによっ
て、その周期を求め、エンジン回転数Nを求める。
【0443】ここで、本実施形態では、次数騒音の推定
にあたって、例えば、急加速時等のエンジン回転数が急
激に変化する場合等の過渡的な状態を除外して、推定を
行うことを考えている。
【0444】そこで、次のステップ713においては、
1サンプル前のエンジン回転数NをNFとして記憶して
おき、今回の測定値であるエンジン回転数Nとの差分の
絶対値、ΔN=|N−NF|を計算する。なお、この計算
後に、今回測定したNを、新たなNFとしておく。
【0445】そして、ステップ714において、前述し
たΔNと、予め定めている閾値ΔNTHの値とを比較し、
ΔN>ΔNTHであるときには、ステップ712に戻り、
逆に、ΔN≦ΔNTHであるときには、次数推定処理を行
うようにしている。
【0446】さて、ΔN≦ΔNTHであると判定されたと
きには、ステップ715にブランチし、対応する回転数
領域Anが選択される。ここで、各回転数領域Anでの次
数kn(jj)に関するデータは、メモリ75内に、マップ
化された状態で格納されている。
【0447】ステップ716では、メモリ75の格納内
容を参照し、変数j0〜j7、および、設定値J0〜J7に対し
て、当該Anでの値としての、変数jjおよび変数JJの値
が設定される。
【0448】これを、具体例にて説明する。
【0449】例えば、図18を参照して説明した場合の
ように、現在の回転数領域「1800〜2100(rpm)」、制
御対象周波数「100〜400(Hz)」であれば、回転数領域
A4が選択され、J4=16、j4=0〜15となり、k4(0)=3.
5次からk4(15)=11次までの、0.5次刻みの次数が、推
定対象となる。そして、このなかでkc0、kc1、kc2の
次数が、初期設定された制御次数になっており、推定対
象の次数16個のうち、制御中の次数は3個、非制御の
次数は13個となっている。
【0450】さて、変数jjは、1個分の制御次数の推定
が終了するごとに、その値がインクリメントされていく
が、jj>JJとなったときには、当該領域の推定が既に完
了したことを意味しており、この場合には推定処理を行
わず、ステップ712に戻る。
【0451】一方、jj≦JJであるときは、回転数領域A
nでの次数推定処理は、未だ終了しておらず、この処理
をさらに継続するために、次のステップへと進む(ステ
ップ717)。そして、ステップ718では、推定対象
の制御次数kn(jj)の値を、メモリ75から読み出し、
これをkjとしてセットする。
【0452】次に、図20に、図19処理の続きを示
す。
【0453】なお、両図面間にまたがる処理は、コネク
タAによって接続されるように記載している。
【0454】まず、ステップ719では、kjが制御中の
次数であるか否かを判別し、制御中の次数である場合に
は、ステップ720、制御中の次数でない場合には、ス
テップ721、の内容を各々実行する。
【0455】ステップ720、ステップ721は、それ
ぞれ、数65プラス数68、数57(1周期4パルスの
場合、数67または数69、数59)に示すように、演
算処理を行なうステップであるが、このステップを通過
するごとに、推定演算が1サンプル分実行されることに
なる。1周期4パルスの場合、1サンプルは、次数に対
応する信号の有する周期の1/4、即ち、90°周期に相
当し、推定演算としては、0°と180°のときは、余弦
波成分dckを、90°と270°のときには、正弦波成分ds
kを、それぞれ更新することになる。
【0456】ステップ720およびステップ721の推
定演算が1サンプル終了すると、次にステップ722に
進み、その回転数領域での演算回数の変数m(jj)が、イ
ンクリメントされる。
【0457】次に、ステップ723では、この1サンプ
ルの推定演算の終了後の次回、すなわち、90°後の角度
が、タコパルス信号の検出を行なうべき角度であるか否
かが判断される。ここで、タコパルス信号検出角度か否
かの判断は、推定中の次数と回転数との関係から、容易
に把握できる。例えば、次数が4次であれば、次数90°
のサンプル周期16回(90°×16/360°=4)で、次回
のタコパルス信号検出角度位置になる。
【0458】次回の推定演算が、タコパルス信号の検出
と重なる場合には、ステップ712に戻りタコパルス信
号を検出し、前回と今回のタコパルス信号検出の時間間
隔を測定して、回転数の算出、現在の回転数領域の判別
がなされる。ここで、ステップ712に戻る際には、こ
の時推定中であった次数のデータ、各種変数を、メモリ
に一時ストアしておくことにより、次回、同一の回転数
領域での推定が行なわれるときに、再度使用することが
できる。
【0459】一方、次回タコパルス信号が検出されない
場合には、ステップ724に進み、推定演算回数m(jj)
が、Mkを超えているか否かが判定される。
【0460】超えていない場合には、ステップ719に
戻り、推定演算がMkを超えるまで継続される。超えた
場合には、当該次数に関する推定は終了したとして、ス
テップ725に進み、当該次数の振幅dkjを、図示して
あるように、正弦波振幅dskjおよび余弦波振幅dckjに
より計算する。
【0461】なお、タコパルス信号の検出は、常に、ス
テップ723の後に行われるとは限らない。実際には、
エンジンの回転数の変化と、プロセッサがその時点で受
け持つ演算量の変動により、ステップ712〜ステップ
722の間で、エンジン回転数の急激な変化が発生する
場合も往々にしてありうる。このような場合には、(図
示しないが)推定演算を途中で中止し、即座にステップ
712に戻るよう処理を行なうようにすればよい。
【0462】次に、図21に、図20の続きの処理を示
すフローチャートを記載する。
【0463】なお、両図面間にまたがる処理は、コネク
タBによって接続されるように、記載している。まず、
ステップ726において、変数jjがインクリメントさ
れ、ステップ727に進む。
【0464】そして、ステップ727では、変数jj(j0
〜j7)が、設定値JJ(J0〜J7)を超えているか否かにつ
いて判断され、変数jjが設定値JJを超えていない場合に
は、ステップ712に戻る。
【0465】一方、変数jjが設定値JJを超えた場合に
は、当該回転数領域での設定次数の推定は、総て終了し
たとして、ステップ728に進み、上位Kc個の、次数
振幅dkk(kk=0,…,Kc-1)を有する次数の選択を行う。
【0466】そして、ステップ729において、回転数
領域Anに対して選定された次数のうち、初期設定され
た次数と異なっているものについて、「書替え」を行う。
【0467】さらに、ステップ730において、この時
の変数jjの値を、対応する領域の変数(j0〜j7のいずれ
か)の値とし、メモリ75の内容を更新する。
【0468】そして、各回転数領域ごとに、各jj(j0〜
j7)の値について、JJ(J0〜J7)の値と、各々比較を行
い、各jjに対して、対応する設定値JJの値を超えている
ならば、全ての回転数領域での「推定/書替え処理」は
終了したと判断し、このルーチンによる処理は、完了す
る(ステップ731〜732)。
【0469】以上説明してきた、図18、図19〜図2
1に示した実施形態では、例えば、初期設定された制御
次数が適切でない、すなわち、他の次数成分中に、より
大きい騒音のピークが存在する場合であっても、前述し
た次数推定演算および「書替え」処理を行うことによっ
て、より適切な制御次数を用いた制御が行なわれるよう
になる。
【0470】ところで、ある次数によって制御中の騒音
の大きさは、適応フィルタ係数w0、w1の値からも、あ
る程度推定することが可能である。これは、その次数の
騒音が大きければ、(かつ、その騒音がエンジン回転に
基づいたもので、いわゆるコヒーレンスが大きいもので
あれば)、適応フィルタは成長し、そのフィルタ係数
0、w1の値、および、これに基づく制御出力である制
御音yが大きくなるからである。
【0471】ここで、制御音出力の1周期当たりの制御
出力のパワーを想定した場合、本制御方法では、基準信
号xは、正弦波もしくは余弦波であり、|x|≦1であ
るから、適応フィルタ係数w0、w1の2乗(すなわち、
フィルタパワー)を、制御出力のパワーとみなすことが
できる。このとき、n回転目のフィルタパワーwp2(n)
は、次式で求めることができる。
【0472】
【数73】
【0473】図22は、数73で定義されたフィルタパ
ワーwp2に対して、ある閾値を設定し、フィルタパワー
wp2が、閾値(WPTH2)以下である場合には、その次数に
対して、制御の中止を行うようにした実施形態である。
【0474】なお、以下の処理は、例えば、基準信号発
生器が備えるCPUが、行なうように構成しておけば良
い。
【0475】まず、ステップ750において、エンジン
回転数Nを検出する。
【0476】ここで、エンジン回転数Nの変化に対する
対応は、図19〜図21の実施形態と変わるところは無
いので、本実施形態に関しては、回転数Nは一定の値で
あると想定し、フィルタパワーwp2の値に基づいて、あ
る制御中の次数に対する制御の中止を行う部分のみにつ
いて、その処理内容を記載することにする。
【0477】次に、ステップ751において、検出され
た回転数Nに対応する回転数領域Anを選択し、対応す
る制御次数kcn(i)(i=0,…,Iー1)を、メモリ75より
読み出す。
【0478】次に、カウント変数iをi=0とし、ステ
ップ752において、1周期分のフィルタパワーを、数
73に基づいて計算して求める。
【0479】そして、ステップ753において、i番目
の次数のフィルタパワーwpi2を、対応する閾値であっ
て、予め定めている値WPTHi2と比較し、「wpi2<WPT
Hi2」である場合には、i番目の制御次数kcn(i)につい
ては、制御を中止する。
【0480】そして、ステップ754において変数iを
インクリメントし、i≦Iの間は、ステップ752〜7
55の処理を繰り返す。
【0481】そして、i>Iとなった時点で、領域An
での制御次数の更新は全て終了し、ステップ750に戻
る(ステップ755)。
【0482】以上の処理によって、フィルタパワーの値
を使用して、制御の中止を行うことを可能にする、構成
が簡単な装置を提供できる。
【0483】さらに、実際の車両の運転モードには、加
速時のシフトダウン等の変速ギヤの位置(オートマティ
ックトランスミッションとマニュアルトランスミッショ
ン車でも異なる)に様々な態様が考えられ、各ケースに
よって、採用すべき制御次数が異なるので、場合に応じ
て「次数推定/書替え/設定」を適宜行なうように、プ
ログラミングしておいても良い。
【0484】そこで、図23は、一例として、エンジン
回転数、加速度、およびシフト位置を考慮に入れて、次
数推定/書替え/設定を行うために、次数を設定可能な
領域を、3次元で概念的に示した図面である。このとき
の領域は、考慮するパラメータが3種類であるため、3
次元的に配置される。なお、使用するCPUが、十分な
演算処理能力やメモリ容量を備えている場合には、この
ように、より極め細かい制御を行なうことが可能にな
る。
【0485】以上説明してきた実施例では、エンジンの
クランク軸回転の0.5次の整数倍に同期した高調波騒音
の次数成分の推定/設定を行う場合について述べてき
た。
【0486】全く同様に、エンジン回転に同期している
が、0.5次の整数倍ではない高調波次数成分について
の、騒音次数の推定/設定を行うことも可能である。こ
れは、図17において基準信号発生器5の発生するタイ
ミング信号を、エンジン回転数の任意の倍数に同期した
基準信号を生成するよう構成しておけば良い。
【0487】これらの、次数の推定および初期設定は、
騒音制御に先立って実行される、同定処理によって求め
られる、各周波数でのc0、c1の値に基づいて行うこと
も可能である。その理由は、車室内固有の空洞共鳴周波
数の近傍では、スピーカで同一の大きさの制御音出力を
行なっているにもかかわらず、マイクロフォンで検出さ
れる音圧レベルは増大するため、相対的に、スピーカ〜
マイクロフォン間の音響伝達関数のフィルタ係数c0
1の値は、大きくなるからである。
【0488】そこで、図24に、同定処理の実行後、各
周波数帯域において得られたフィルタパワー「cp(f)2
=c0(f)2+c1(f)2」(fは、周波数)に基づいて、初期
設定する次数を決定する処理を説明するためのフローチ
ャートを示す。
【0489】図24に示すように、まず、ステップ80
1において、同定を実行し、各周波数帯域での音響伝達
関数のフィルタ係数c0(kf)、c1(kf)(kf=0,…,Kf-
1)を求める。ただし、ここでは、制御対象とする周波
数領域を、Kf個に分割して、Δfk(Hz)ごとに、同定を
実行して、同定を実行する周波数でのフィルタ係数を求
めている。
【0490】次に、ステップ802にて、次式74にし
たがって、各kfでのフィルタパワーを求める。
【0491】
【数74】
【0492】この結果、仮に、図25に示すようなグラ
フが得られたとする。
【0493】このグラフは、横軸に周波数を、縦軸にフ
ィルタパワーをとっている。
【0494】図中、「〇印」にて示したフィルタパワー
の極大点は、音響伝達関数のゲインが極大になるピーク
位置であり、この位置に対応する周波数により、共鳴が
発生するということができる。
【0495】次に、ステップ803において、最も大き
いものから上位I個のフィルタパワーcpi(kf)2に対応
する、周波数fi(i=0,…,I-1)を選択する。
【0496】次に、各エンジン回転数領域An(n=0,…,
N-1)に対して、制御次数kcn(i)(i=0,…,I-1)を設定
する。
【0497】まず、ステップ804において、変数n、
iを、n=0、i=0に初期設定し、さらに、ステップ
805において、メモリ76から、各回転数領域Anで
設定されている代表回転数Nnに対応する代表周波数fN
nと、前記選択された極大点の周波数fiの比、RNi=f
i/fNnを求める。なお、各回転数領域Anにおいて、
代表回転数Nnと、これに対応する代表周波数fNnと
を、予め定めておき、メモリ76に格納しておけば良
い。
【0498】そして、ステップ806において、得られ
たRNiの値に最も近い、(0.5×n)次の次数を制御次
数として、メモリ75に初期設定していく。例えば、A
4:1800〜2100(rpm)の領域で、その中心回転数を代表
回転数として、N4=1950(rpm):fN4=32.5(Hz)とし
たとき、第1の極大周波数がf0=140(Hz)であるなら
ば、その比、RN0=140/32.5=4.3となるので、これに
近い回転4.5次、あるいは、加振力の大きさを考慮し
て、回転4次、あるいは、回転4次と4.5次の双方が選
択される。
【0499】変数nおよびiは、制御次数kcn(i)の設
定が終わる度に、インクリメントされて、n≧N、か
つ、i≧Iとなった時点で、全ての領域での次数設定が
終了する。(ステップ807〜ステップ812) 本実施形態では、マイクロフォンおよびスピーカが1個
の場合について説明してきたが、これらが複数個存在す
る場合には、各マイクロフォン-スピーカ間の音響伝達
関数が、各々存在することになる。したがって、この場
合には、各々の音響伝達関数に対するフィルタパワーを
求め、各々のフィルタパワーについて、極大点となる周
波数を求め、前述の各領域の代表周波数との比を参照し
て、最も適切な、制御次数を求める処理を行なうように
構成しておけば良い。
【0500】これらを総て、制御を行なうために初期設
定する、制御次数として採用しても良いが、次のような
方法も考えられる。
【0501】L個(Lは、任意の自然数)のマイクロフ
ォン(番号l=0,…,L-1)と、M個(Mは、任意の自然
数)のスピーカ(番号m=0,…,M-1)とを有するシステ
ムを構築した場合、l番目マイクロフォン−m番目スピー
カ間の音響伝達関数の、kf番目のフィルタパワーclmp
(kf)2を算出していき、フィルタパワーが最も大きくな
る、l、mの値を判定し、このl、mに対応するフィル
タパワーを、各領域での、フィルタパワーの代表値cp
(kf)2とする。そして、このフィルタパワーの代表値に
ついて、極大点となる周波数を求め、各領域の代表周波
数との比を参照して、最も適切な、制御次数を求める処
理を行なうことも考えられる。
【0502】この方法を採用する理由は、kfに対応する
周波数fkにおいて、ある一つのマイクロフォンの配置
位置が、定在波の節の位置にあたり、共鳴周波数である
にもかかわらず低い音圧しか得られない場合、結果とし
て、そのスピーカ〜マイクロフォン間の音響伝達関数c
lm0(kf)、clm1(kf)は、小さな値となる。しかしなが
ら、他のマイクロフォンの配置位置が、定在波の節の位
置から外れておれば、一定の大きさの音響伝達関数clm
0(kf)、clm1(kf)が得られることにより、ある大きさの
フィルタパワーclmp(kf)2となり、制御動作を行なうた
めに、初期設定する次数を選択する際に、反映させるこ
とができるからである。
【0503】以上説明してきたように、同定処理の実行
後、各周波数帯域において得られたフィルタパワーに基
づいて、初期設定する次数を容易に決定することも可能
である。
【0504】次に、音圧信号を検出するマイクロフォン
と、騒音を打ち消すための制御音を出力するラウドスピ
ーカを、夫々2個以上備えているシステムを考えること
にする。
【0505】通常の能動形騒音制御システムにおいて
は、ラウドスピーカの個数は、マイクロフォンの個数よ
り1個以上多いか、少なくとも等しい個数だけ設けてお
くことが望ましい。マイクロフォン、ラウドスピーカが
複数個設けられている場合、ある特定のマイクロフォン
によって検出される音圧信号の中には、実際の騒音成分
の他に、全てのラウドスピーカからの制御音が入力さ
れ、これらの合成音によって、マイクロフォン位置での
騒音の抑制音場が形成されている。そして、各ラウドス
ピーカから出力される制御音は、システム内の総てのマ
イクロフォンの位置で、音圧が最小になるよう最適化さ
れる。
【0506】ここで、仮に、ある特定のマイクロフォン
に対して、ある特定のラウドスピーカが、他のラウドス
ピーカと比較して、最もべ近い位置に存在し、音響伝達
関数c^の周波数特性がフラットで、伝達ゲインも大き
いものとする。このような場合、前記ある特定のマイク
ロフォンに対しては、前記ある特定の1個のラウドスピ
ーカの出力のみで、適応制御を行なうと、効率的かつ効
果的に消音できる。何故ならば、あるラウドスピーカ
と、その他のラウドスピーカとの間の音響伝達系に反共
振点(ディップ)が存在すれば、反共振点に対応する周波
数では、消音制御不能(音がでない)となり、適応制御自
体が非効率的となってしまうからである。
【0507】一般に、他のラウドスピーカからの制御音
は騒音成分となるが、当然のことながら、1マイクロフ
ォン−1ラウドスピーカの、適応フィルタ制御系による
消音効果が極めて大きい場合には、ラウドスピーカを複
数設ける必要がなく、上述したような問題はない。しか
しながら、ラウドスピーカを複数設けたシステムにおい
ては、特に波長が長い低周波数領域で、他のラウドスピ
ーカからの制御音の影響が、その適応フィルタ制御系に
対して干渉し、制御動作を不安定化させる要因となる場
合がある。この場合、他のラウドスピーカからの影響を
除去するため、マイクロフォン位置での制御音を、制御
音調整信号と音響伝達関数とに基づいて推定し、推定し
た制御音成分をエラー信号より差し引いて除去し、残り
の成分が最小になるように適応フィルタ制御を行なうこ
とが考えられる。
【0508】図25は、このような1マイクロフォン−
1ラウドスピーカの能動騒音制御システムを、自動車車
室内において2個並列に設けた場合の実施形態について
示している。図25では、運転席側に1対、助手席側に
1対のシステムが設けられている。
【0509】通常の方式では、運転席側マイクロフォ
ン、助手席側マイクロフォン夫々の音圧は、両方のラウ
ドスピーカから出力される制御音の合成音場によって消
音制御されるが、この実施形態においては、運転席側マ
イクロフォンには、運転席側ラウドスピーカ、また、助
手席側マイクロフォン側には、助手席側ラウドスピーカ
のみがそれぞれ割り当てられて消音制御を行う構成とな
っている。すなわち、運転席側マイクロフォンと運転席
側ラウドスピーカとで1つの消音制御系を構成し、ま
た、助手席側マイクロフォンと助手席側ラウドスピーカ
とで1つの消音制御系を構成している。図示しないが各
制御系に対して適応フィルタを設けている。
【0510】そして、各ラウドスピーカに対応する適応
フィルタの更新を行なうために用いられるエラー信号
(音圧信号)は、反対側のラウドスピーカからの推定制
御音を除去した、残りの成分が入力される。こうするこ
とによって、ある制御系の制御動作は、他の制御系の制
御動作の影響を受けずに、いずれの制御系においても、
正確な制御動作を実現できる。
【0511】このときの、各ラウドスピーカへの制御音
信号の生成式および適応フィルタの更新式は、以下の式
で表される。
【0512】
【数75】
【0513】
【数76】
【0514】なお、各変数のサフィックスにおいて、
「R」は運転席側、「L」は助手席側を意味する。
【0515】また、eR、eL:運転席側および助手席
側マイクロフォンの音圧信号 yR、yL:運転席側および助手席側ラウドスピーカの制
御音信号 wR0、wR1:運転席側ラウドスピーカ用適応フィルタ係
数 wL0、wL1:助手席側ラウドスピーカ用適応フィルタ係
数 cRR0、cRR1:運転席側マイクロフォン−運転席側ラウ
ドスピーカ間の音響伝達関数の係数 cLL0、cLL1:助手席側マイクロフォン−助手席側ラウ
ドスピーカ間の音響伝達関数の係数 cRL0、cRL1:運転席側マイクロフォン−助手席側ラウ
ドスピーカ間の音響伝達関数の係数 cLR0、cLR1:助手席側マイクロフォン−運転席側ラウ
ドスピーカ間の音響伝達関数の係数、 dRL:助手席側ラウドスピーカからの制御音信号を運転
席側マイクロフォンで検出した音圧信号 dLR:運転席側ラウドスピーカからの制御音信号を助手
席側マイクロフォンで検出した音圧信号、(消音制御
は、1周期4パルス制御)である。
【0516】ところで、(c0(f)、c1(f))の値は、周波数
fに応じて連続的に変化する。これに対して、同定は、
現実には、飛び飛びに存在する周波数ポイントにおいて
しか行うことができない。そして、同定を行なっていな
い周波数でのフィルタ更新は、その周波数に最も近い、
同定を行なった周波数である同定周波数ポイントでの同
定値を、近似値として用いている。このため、周波数軸
上でc(c0,c1)の値が急激に変化した場合等は、同定を
行なって求めた音響伝達関数c(c0,c1)と実際の音響伝
達関数c(c0,c1)と誤差値が増大し、消音制御性能や安
定性(ロバスト性)に大きな影響を与える可能性がある。
そこで、この問題を解決する方法について、説明する。
【0517】以下の説明では、同定基準信号として余弦
波を採用する。これにより、音響伝達関数の係数(音響
伝達係数)の値の組を(c0,c1)とし、横軸をc0の値を示
すc0軸、縦軸をc1の値を示すc1軸とする座標系(c0c1
標系)において、音響伝達係数の組(c0,c1)がc0軸とな
す角度は、そのまま、音響伝達関数のある周波数におけ
る位相に対応する。即ち、ある周波数における同定の結
果、得られた音響伝達関数がc(c0,c1)であったとする
と、このときの、音響伝達関数の位相は、θ=atan(c1/
c0)で規定されることになる。
【0518】一方、このc(c0,c1)を用いて、少し異な
る周波数において、適応フィルタ制御を実行しているも
のとする。ここで、この周波数での音響伝達関数の係数
の真の値が(cT0,cT1)であるたとすると、この係数に対
応する位相は、θT=atan(cT1/cT0)であり、両者の位
相誤差(θ−θT)の大きさが、制御の安定性に影響を与
える。例えば、位相誤差(θ−θT)が180゜であれ
ば、理想の位相と完全に逆位相の関係になってしまい、
これを適応フィルタの更新処理に用いた場合、消音せ
ず、直ぐに発散してしまう。
【0519】ここで、θTは、その時点で同定しない限
りわからない値であり、その時点で(θ−θT)の大きさ
を知ることはできない。
【0520】この位相誤差の安定性に関しては、発明者
等のこれまでの検討結果によって次の事実が得られた。
【0521】まず、前述したように、c0を横軸、c1を縦
軸にとった2次元座標系を考え、同定によって得られた
(c0,c1)を、座標系上にプロットする。図27に示すよ
うに、c(c0,c1)の同定値に対して、|c|を半径とし
た円周上で、モデル値cs(cs0,cs1)を移動させること
を想定する。モデル値は、真値に対する誤差を有する、
仮想値である。
【0522】最初に、c(c0,c1)が存在する象限と同一
の象限内、即ち、c(c0,c1)とcs(cs0,cs1)において、
両係数の符号が同一であれば消音に至る。例えば、図2
7の黒丸で示すように、c(c0,c1)の真値が第1象限に
存在する。このとき、モデル値cs(cs0,cs1)が、第1
象限内のいずれの位置に存在しても、制御系は安定であ
る。
【0523】一方、モデル値cs(cs0,cs1)と(c0,c1)
において、いずれの係数も逆符号となる場合合、即ち、
原点を挟んで反対象限(例えば第1象限に対しては第3
象限)に、モデル値と真値が存在する場合には、全く制
御不能となり、直ぐに増音発散に至る。また、モデル値
cs(cs0,cs1)と(c0,c1)において、いずれか一方の係
数が逆符号、即ち、モデル値と真値とが、両どなりの象
限(例えば、第1象限に対しては第2、第4象限)に存在
する場合には、消音制御は行なわれるものの、制御音の
出力が振動し、ハンチング気味となる。そして、c(c0,
c1)が存在する象限から、反対象限の方向にモデル値を
回転させるにつれ、ハンチングの度合いが大きくなり、
最後には、不安定状態から発散状態に至る。
【0524】以上の説明から、周波数に差による位相の
誤差が存在していたとしても、基本的に、真値と同一の
象限内にあることが保証できれば、制御の安定性が損わ
れることはない。従って、必要な情報は、その周波数に
おいて、c(c0,c1)がどの象限に存在しているかのみで
あり、結局のところ、周波数を変化させたときの(c0,
c1)の示す軌跡が、c0,c1各座標軸をクロスする周波数で
ある「クロス周波数ポイント」のみ押えておけば、全て
の周波数での(c0,c1)の存在する象限が把握できる。
【0525】例えば、周波数fkL、fkH(fkL<fkH
とする)がクロス周波数ポイントで、その間にクロス周
波数ポイントが存在せず、fkL:c0軸上(c0=0,c1>
0)、fkH:c1軸上(c0<0,c1=0)である場合、周波数f
L〜fkHの間に、第2象限にあると判断される。
【0526】次に、以上に事実に基づき、ある制御周波
数領域において、同定を行なう周波数である周波数ポイ
ントの選択を最適化する方法について説明する。
【0527】まず、図28は、ある車両の車室内の音響
伝達関数c(c0,c1)の位相の周波数に対する変化の様子
を示している。図に示すように、制御周波数領域fL〜
fHの間は、一定間隔で分割されて、同定を行なった周
波数ポイントが黒丸で示されている。
【0528】図28に示されるように、一般に、音響伝
達関数c(c0,c1)の位相は、低周波数から高周波数にな
るにしたがって遅れる。特に、音響伝達の持つ共振点
(共鳴周波数)を通過する際に、位相遅れが大きくな
る。従って、一般的には、低周波数側から周波数を上げ
ていくと、原点Oと座標(c0,c1)からなるベクトルの軌
跡は、主として反時計方向に回転する(これに対し、位
相が進み方向、即ち、時計方向に回転する場合には、反
共振点(ディップ)が存在する場合であるが、実際には、
それほど大きな進みは存在しない場合が多い)。
【0529】このような位相変化の大きさは、周波数領
域によって異なり、例えば、図中の領域Aでは、位相変
化が大きく、領域Aあるいは領域Aの近くに存在するい
ずれの同定周波数における同定値を使用しても、ある周
波数での同定値を定める際には、位相誤差が大きくな
る。なお、ある周波数での同定値を定める際には、例え
ば、当該周波数の両側に存在する、2つの同定周波数に
おける同定値を使用して、比例計算等によって求める。
一方、領域Bでは、位相変化が緩慢であり、同定周波数
を設定する際に、周波数間隔を荒くしても同定の精度が
劣化しにくい。
【0530】このように、制御周波数領域をfL〜fH
の間を、一定間隔に分割して同定周波数を定め、各同定
周波数で同定処理を行なう従来の方法では、図28の黒
丸で示したように、音響伝達係数の位相変化を考慮した
ものでないため、同定の精度は良くなかった。
【0531】そこで、図29には、制御周波数領域fL
〜fHにおいて、同定を行なう周波数ポイントを変更し
ながら、同定を繰り返して、その間に存在するクロス周
波数ポイントを全て求め、これにより、同定を行なう周
波数ポイントを定める手順を示したフロ−チャートを示
している。
【0532】最初のステップ1001では、各周波数で
の同定を行なう。同定は、低周波数側から高周波数側に
したっがって行なわれ、開始時には、同定(制御)周波
数のの下限値fLが設定される。
【0533】次に、そのときの係数値(c0(f)、c1(f))
の夫々の絶対値の大きさを調べる。ここで、(c0(f),c1
(f))が制御周波数領域fL〜fHの間で、通常とり得る
大きさに比べて、充分に小さな値δを設定する。
【0534】ステップ1002では、│c0(f)│<δか
つ│c1(f)│<δであるか否かを判定し、│c0(f)│<δ
かつ│c1(f)│<δである場合、音響伝達系の零点(制
御音を出力できない点)として、制御対象外とする。こ
れ以外の場合には、ステップ1003に進む。
【0535】ステップ1003では、│c0(f)│<δま
たは│c1(f)│<δであるか否かを判定し、これが真で
あれば、その絶対値がδより小さな点を、クロス周波数
ポイントとする。│c0(f)│<δまたは│c1(f)│<δが
真でなければ、ステップ1004に進む。
【0536】ステップ1004では、c0(f),c1(f)の符
号が判定される。クロス周波数ポイントに対応する係数
についても、「0」でない係数の符号が判定される。こ
れにより、c0c1座標系において、各同定値がいずれの象
限に存在するのかや、象限の境界線、即ち、座標軸上に
存在するのかが分かる。例えば、c0>0かつc1<0であ
れば、第4象限に存在することが分かり、また、c0=0
かつc1>0であれば、第1と第2象限の境界に存在す
る、クロス周波数ポイントであることが分かる。
【0537】次に、ステップ1005では、このように
判定された、今回の(c0(f),c1(f))の符号と、前回判定
された(c0(f),c1(f))の符号がが異なっているか否かに
ついて調べる。もし、いずれかの係数の符号が変化して
いれば、両者の間に座標軸を横切る、クロス周波数ポイ
ントが存在すると判定する。1方の係数の符号変化であ
れば、1個、また、両方の係数の符号変化であれば、2
個のクロスポイント周波数があると判定される。この場
合、ステップ1006にブランチし、前回と今回の周波
数の間の周波数で、同定が行なわれる。
【0538】ステップ1006では、ステップ1002
からステップ1005までの処理と同様の処理を行な
い、符号を判定しながら同定を繰り返して、クロス周波
数ポイントが存在する周波数を検出する。そして、クロ
ス周波数ポイントの検出後に、ステップ1007に進
む。ステップ1007、1008では、周波数を、予め
定めた増分Δfだけ増加して、調べる周波数が同定(制
御)周波数の上限値fHより小さければ、ステップ10
01に戻り、同様の処理を繰り返す。このようにして、
制御対象周波数内に存在するクロス周波数ポイントを総
て求める。
【0539】クロス周波数ポイント間の周波数は、同一
象限にあり、誤差が許容される範囲内にあるので、ステ
ップ1009では、このクロスポイント周波数間に、た
またま存在する同定値のうち、1つを選択すれば充分で
ある。
【0540】以上で、同定処理を終了する。
【0541】結果として、図30に示す、斜め線付き丸
印のように、同定ポイントが得られる。これは、制御周
波数領域中の総てのクロスポイント周波数を含んでいる
のと同時に、クロスポイント周波数間の周波数を代表す
る、1個の代表ポイントも含んでいる。このように代表
ポイントを選択することによって、制御系の安定性や、
不要なデータの収集阻止を実現している。
【0542】この代表ポイントは、次のように、各象限
の中心角度、即ち、θ=45゜、135゜、225゜、
315゜の4点の値に置き換えても良い。すなわち、代
表ポイントに対する周波数を、2つのクロスポイント周
波数の中間(必ずしも正確に中間である必要はない)に
存在する値とすればよい。
【0543】即ち、同定値(c0,c1)を、座標系に配置
した円の円周上の1点としたとき、その円の半径rは、
r=√(c0 2+c1 2)である。r*=r/√2としたと
き、この円周上の4点は、以下のように、座標形式で表
せる。
【0544】 (c0(45゜),c1(45゜))=r*・(1,1) (c0(135゜),c1(135゜))=r*・(1,−
1) (c0(225゜),c1(225゜))=r*・(−1,
−1) (c0(315゜),c1(315゜))=r*・(1,−
1) 同様に、クロス周波数ポイントに対応する4点は、以下
のように表せる。
【0545】 (c0(0゜),c1(0゜))=r・(1,0) (c0(90゜),c1(90゜))=r・(0,1) (c0(180゜),c1(180゜))=r・(−1,
0) (c0(270゜),c1(270゜))=r・(0,−
1) これらのポイントの、座標系での配置の様子を図38に
示す。ここで、座標軸に平行に表現した4つの点線は、
各軸と「±δ」離れて存在している。
【0546】各軸と対応する点線との間に存在するポイ
ントを、クロス周波数ポイントとして近似することを表
現している。このことは、図29で説明した通りであ
る。
【0547】このような範囲外にある(c0,c1)の同定
値は、4点で近似される。
【0548】ここで、適応フィルタの更新について述べ
れば、エラー信号eに対して収束係数αとの積は、(α
c0,αc1)=(g0,g1)となる。そして、各周波数で
の(c0(f),c1(f))に対応するr(f)、r*(f)を総
て求めておく。その上で、αc(f)=r(f)α、αc
*(f)=r*(f)αとおき、同定終了後の初期設定
段階で置き換えてしまえば、適応フィルタの更新式にお
いて、エラー信号eに掛け合わされるg=(g0,g1
は、次の8通りとなり、演算が極めて簡略化される。
【0549】 θ=0゜:(g0,g1)=αc・(1,0) θ=45゜:(g0,g1)=αc*・(1,1) θ=90゜:(g0,g1)=αc・(0,1) θ=135゜:(g0,g1)=αc*・(−1,1) θ=180゜:(g0,g1)=αc・(−1,0) θ=225゜:(g0,g1)=αc*・(−1,−1) θ=270゜:(g0,g1)=αc・(0,−1) θ=315゜:(g0,g1)=αc*・(1,−1) ここで、応答性を左右する制御ゲインの大きさは、制御
中に、αの値を調整することにより調節可能である。
【0550】この8通りの(g0,g1)の値は、図30
で示した同定ポイントの値として用いられる。そして、
この値は、例えば、図2、4等で示した制御の際に選択
され使用される値であり、例えば、数37に代入して用
いられる。特に、クロス周波数ポイントにあるときは、
いずれかが0になるので、式の簡易化がなされるのは容
易に分かる。
【0551】ここで、同定を行なって得られた結果の係
数値(c0、c1)のゲイン|c|が、非常に小さい場合に
は、音響伝達系の反共振点(制御上の零点)になってい
ると考えられるため、制御不可能な周波数に該当してい
る。従って、このような周波数領域に存在する次数成分
に対しての消音制御を、中止するようにしておいてもよ
い。
【0552】次に、これまで述べてきた能動形騒音制御
システムを実際の車両に適用して、能動騒音制御を実現
するシステム構成について説明する。
【0553】図31は、能動騒音制御システムを車両に
搭載した一形態を示している。図において、運転席シー
トと助手席シートが配置され、マイクロフォンは、運転
席および助手席のヘッドレスト部に装着されており、ま
た、ラウドスピーカは、各席の下に装着されている。し
たがって、2マイクロフォン−2ラウドスピーカシステ
ムを構成している。
【0554】ここで、2個のラウドスピーカのうちいず
れか一方には、適応フィルタ制御を実現するためのコン
トロールユニット(C/U)が内蔵されている。この例
では、助手席側のラウドスピーカにコントロールユニッ
トが内蔵されている。
【0555】図32は、図30を横(助手席)側からみた
様子を示す外観図である。図に示すように、C/Uは、
助手席側のラウドスピーカに内蔵されている。このC/
Uは、車両エンジンのエンジンコントロールユニットか
ら、信号線を介してタコパルス信号を入力し、さらに、
2個(運転席側および助手席側)のマイクロフォンから
の音圧信号を入力し、2個のラウドスピーカ(運転席側
および助手席側)へ信号を出力している。また、スピー
カアンプ等の駆動用やメモリバックアップ用の電源供給
を受けるための電源ライン、後述するリモートコントロ
ーラからの指令信号(リモート信号)が入力される。
【0556】そして、これら各種の信号線(ハーネス)
は束ねられ、助手席側のラウドスピーカの表面部に設け
られた信号線接続用のコネクタを使用して接続され、ラ
ウドスピーカ内部に設けられたC/Uの回路と、信号の
授受が可能なようになっている。
【0557】図33に、スピーカの組立て状態を表す構
成図を示す。スピーカは、ケースに内蔵されるととも
に、該ケース内には、C/Uが配置される。ケースに設
けられたコネクタ用の開口(コネクタ部)とコネクタが
嵌合するように、組み立てられる。このように、C/U
をスピーカケースに内蔵することにより、小型のシステ
ムが実現できる。
【0558】図34に、C/Uの構成の一形態を示して
いる。
【0559】C/Uは、制御動作を含め各種の動作を行
なうマイコン600と、マイク信号入力回路と、スピー
カー駆動回路と、予め定めた状態になったときLEDを
駆動するLED駆動回路と、タコパルス信号をディップ
スイッチ等の切替スイッチ67の設定により所定のパル
スに変換して、同期信号をマイコンに与えるパルス変換
器66と、リモコン信号を受信しマイコン600に与え
るリモコン回路と、バッテリーと接続され、電源ライン
を介して、マイコン600に電源を供給する電源回路
と、を有して構成されている。
【0560】また、2つのマイクロフォンから信号を入
力するマイク端子、タコパルス信号やリモート信号を入
力するための端子、さらに電源用の端子が設けられてい
る。
【0561】2つのスピーカへ駆動信号を出力する端子
も設けられている。
【0562】また、マイク信号入力回路は、各マイク毎
の2系統の回路からなり、1系統の回路は、ローパスフ
ィルター(LPF)と、電子ボリュームとを備えてい
る。スピーカー駆動回路も、各スピーカー毎の2系統の
回路からなり、1系統の回路は、ローパスフィルター
(LPF)と、電子ボリュームと、増幅用のアンプを備
えている。なお、電子ボリュームは、入力信号の大きさ
を調整して出力する機能を有し、AGC等の独立の回路
で構成しても良いし、マイコン600からの指令信号に
したがって、入力信号を調整するように構成しても良
い。なお、マイコン600は、デジタルアナログ変換を
行なうD/Aやアナログデジタル変換を行なうA/D
を、備えている。また。ROMやRAMについては、図
示していない。これらをマイコン600に含んだ構成を
想定している。
【0563】次に、このC/Uの、特徴ある動作につい
て説明する。その他の動作については、前述までで説明
ずみであるので、再度の説明は省略する。
【0564】まず、パルス変換器が、エンジンコントロ
ールユニットから出力されるタコパルス信号を入力し同
期信号を生成するが、パルス変換器は、同期信号生成用
のプロセッサ66を用いて実現し、マイコン600と
は、別のプロセッサで構成して、制御速度の低下を防い
でいる。
【0565】車両のエンジンコントロールユニット、タ
コメータ等に使用されるタコパルス信号は、車種、エン
ジン等により異なっているため、これらの各々に応じて
パルス変換を行なう必要がある。
【0566】本実施形態では、プロセッサ66内部に、
必要なパルス変換式全てを書き込んでり、切替スイッチ
67によって、システムを搭載する車両の種類に応じ
て、前記パルス変換式を容易に切り替えて、設定でき
る。これにより、車両の種類にによって、エンジン1回
転あたりに発生するタコパルス信号のパルス数が異なる
場合でも、切替スイッチ67の操作によって、適切なパ
ルス変換を行うことができる。そして、パルス変換され
た同期信号は、マイコンに入力され、マイコン内部にお
いて、消音制御用の基準信号を生成し、消音制御が行な
われる。本実施形態における、切替スイッチ67は、例
えば、安価なディップスイッチで実現可能であり、ま
た、同期信号生成用のプロセッサ66は、安価な4ビッ
トマイクロコンピュータチップを用いて実現可能であ
る。
【0567】また、適応フィルタ制御を行う上での、も
う一つの現実的な問題として、マイクロフォンからの
(アナログ)音圧信号の入力レベル、ラウドスピーカへ
の出力信号レベルの「マッチング」の問題が挙げられ
る。すなわち、車室内の騒音レベルは、エンジン回転数
によって大きな違いがあため、デジタル信号のビット数
が十分とれない場合において、アナログーデジタル間の
変換レベル(A/D変換、D/A変換)を、低回転域から
高回転域まで一定の値にしてしまうと、騒音レベルの低
い低回転域では、1ビットあたりの音圧分解能が足りな
い事態が発生するとともに、逆に、騒音レベルの大きい
高回転域では、ビット数がたりなくてオーバーレンジに
なってしまうという問題が生じる。
【0568】そこで、図34に示すように、マイコン6
00がA/D変換を行なう前、および、D/A変換を行
なった後に、可変ゲインアンプである電子ボリュームに
よって、信号レベルを調整し、エンジン回転数に応じ
て、ゲインを切り替える構成にしている。マイコン60
0が電子ボリュームを駆動する構成にあっては、入力さ
れたタコパルス信号をもとに、エンジン回転数を演算
し、さらに、この演算結果に基づいて、電子ボリューム
を駆動する指令値を、電子ボリュームに与える構成にし
ておくことが考えられる。
【0569】また、C/Uには、通常の制御時の駆動用
に使用される駆動電源の他に、制御オフ時はもちろん、
イグニッションオフ時においても、常時、C/Uに電源
を供給する、いわゆるバックアップ電源を設けておくこ
とが好ましい。そして、イグニッションオフ時の制御停
止時には、次回の制御を行なうための、各種のデータを
記憶しておく。例えば、音響伝達係数、クロス周波数ポ
イント、代表周波数、フィルタ係数等の各種のデータを
不揮発性メモリ内に格納しておき、該メモリを常時通電
状態にしておき、データを保存しておくようにすればよ
い。
【0570】このような処理を行なうことにより、運転
時間が経過するにつれて、システムは車両の特性を学習
していくので、より高速かつ効果的な消音制御を行なう
ことが可能となる。その他の動作は、今までと同様であ
るので説明を省略するが、リモコンの操作によって、シ
ステムに各種の動作を行なわせるようにしておくと利便
性に富む。
【0571】さて、これまで説明した適応フィルタ制御
システムにおいては、次のような各種の機能を実現でき
る。
【0572】(1)能動騒音制御実行による消音制御。
【0573】(2)音響伝達関数cの同定。
【0574】(3)騒音推定機能、その推定に基づく制
御パラメータ(制御次数等)の書き換え機能。
【0575】(4)システムの異常状態(増音発散)の
監視と制御停止および、その停止状態の解除。
【0576】(1)、(2)の制御や処理は、ユーザの
選択により、実行、中止、即ち、オン、オフを選択可能
とすることができる。また、次にような、選択操作も可
能である。
【0577】(5)消音するマイクロフォンの選択(マ
イクロフォンを複数設けたシステムの場合)や(6)シ
ステムへの電源のオン、オフの選択である等である。
【0578】もちろん、上記の機能を、車両搭載以前の
段階での実験検討において、最適なパラメータを決めて
しまって実現させる等の手法を用いて、ユーザーには、
パラメータ設定の変更による機能内容の変更ができない
ものとしてしまっても構わないが、一方、ユーザーの好
みに応じて、自由にパラメータ変更を行ない、機能の内
容を変更できるようにシステム構成するのも好ましい。
【0579】これらの機能は、例えば、ユーザーがリモ
ートコントローラを操作して、自由各種の操作を行な
え、パラメータ変更等が行えるようしておけばよい、一
層好ましい。もちろん、C/Uに各種のパラメータを設
定可能なスイッチ、キーボード等を設けた構成にしても
良い。
【0580】図35は、このような操作を行なうため
の、リモートコントローラの外観の一形態を図示した外
観図である。リモートコントローラから送られる指示
を、図34に示すリモコン回路が受信し、マイコン60
0に与える。マイコン600は、受信した指示内容を参
照して、上記(1)(2)のオン、オフや、(3)〜
(6)の機能を実現する。このようなリモートコントロ
ーラによる通信は、赤外線等の用いて行なわれる汎用的
なものであり、AV機器等の家電分野を始めとして、広
く世の中で使用されている技術で十分に対応可能であ
る。
【0581】1001等は、各機能に対応する処理を実
行させるためのボタンであり、1010は、ボタンを押
すことによって起動したモード名や各種のパラメータを
表示する表示部であり、例えば、液晶ディスプレイ等に
よって実現できる。
【0582】また、1020は、システムの電源をオ
ン、オフする電源ボタンである。
【0583】さて、エンジンイグニッションをオンにし
た後、アイドル状態で、C/Uに電源が供給されたもの
とする。この状態で、ユーザーが、リモートコントロー
ラの同定実行ボタン1001を押した場合、指令信号が
出力され、C/Uのマイコン600は、例えば、図13
の実施形態で説明したように、予め定められた手順に従
い、同定音の放射を開始する。そして、総ての制御領域
において、同定値が定まった後、同定は、終了する。
【0584】次に、同定終了後、消音制御がオン状態に
されれば、制御を開始する。図19等の実施形態で説明
したように、エンジン回転数に応じて、次数切り替え等
を行いながら、各回転数域での消音制御を続行する。仮
に、ユーザーが、リモートコントロール装置の制御オン
/オフボタン1002を押し、制御をオフ状態にする指
示を与え場合、C/Uは、制御オフの指令信号に従い、
一時的に制御を停止する。ここで、制御オフの状態で
も、例えば、適応フィルタによる制御を行なうフィルタ
係数は、クリアされるが、同定値等のデータは、バック
アップされている。そして、再度、制御オン/オフボタ
ン1002を押すことにより、制御オンの状態に復帰で
きる様にしておくのが好ましい。
【0585】制御を進めていく過程においても、適当で
ない制御パラメーターについては、修正されて修正値が
メモリに保存されていく。しかしながら、このパラメー
ター修正の速度が遅くて、不満である場合には、騒音推
定ボタン1003をユーザーが押すことにより、一時的
に、制御オフまたは適応フィルタ更新の一時停止等を行
い、各回転数での次数騒音推定、およびその推定に基づ
く制御パラメータ(制御次数等)の書き換え等を行なう
ようすることができる。これにより、プロセッサを推定
演算に専念させることができ、制御と同時に推定演算行
うより、より高速に騒音の推定演算を完了させることが
できる。推定演算が完了した時点で、元の状態に復帰す
る。
【0586】さらに、マイクロフォンとラウドスピーカ
が複数個設けてある場合には、使用するマイクロフォン
を選択することもできる。例えば、図31のように、運
転席および助手席に設置された2マイクロフォンー2ラ
ウドスピーカシステムでは、例えば、搭乗者が運転者の
みのときなどは、助手席側の消音は不要となり運転席側
のみ、消音制御が行なわれればよい。そこで、ユーザー
は、リモートコントローラのマイク選択ボタン1004
スイッチを押すことにより、消音制御に用いるマイクロ
フォンを選択可能にしておく。例えば、初期状態で両座
席消音、1回ボタンを押すことによって運転席側のみ、
さらに1回押すことによって、元の状態に戻る、という
ように、マイクロフォンの切り替え動作が行われるよう
にしておくのが好ましい。この結果、選択されたマイク
ロフォン(運転席側)に対して、2個のラウドスピーカ
からの制御音が放射されるので、より効果的に、運転席
側の騒音抑制制御が行なわれることになる。
【0587】これらのボタンは組合せ等を用いてもっと
簡素化できるのはもちろんである。
【0588】ところで、適応フィルタ制御が正常に動作
せず、制御音が異常に増音、さらに発散して制御不能の
状態になってしまう場合がまれに存在する。これは、例
えば車室内温度が変更してしまい、以前に同定した音響
伝達関数の係数値が大幅に変わってしまった場合等の要
因が考えられる。
【0589】このような状況において、システムにより
異常状態が検知された場合には、フェールセーフ機能が
作用し、制御停止状態になるように、マイコン600が
動作するようにしておけば良い。この発散による停止状
態は、例えば、ラウドスピーカからの警報音やLEDの
点滅等によって、ユーザーに警告することになる。そし
て、そのリセット(発散停止解除)は、所定時間経過後
や一度エンジン停止(イグニッションオフ)した後に復
帰させる等の処理をマイコン600が自動的に行なうこ
とも考えられるが、リモートコントローラの停止解除ボ
タン1005を押すことにより、ユーザーの判断によっ
てリセットして、元の状態に復帰させることもできる。
異常増音の発生は、ハードウエアの故障を除き、多くの
場合、音響伝達関数cの誤差による場合が多いので、こ
の時点で、自動的に再同定させるようにするのも好まし
い。
【0590】以上のように、本発明によれば、操作性に
富み、比較的簡素な構成で効率的な消音制御を行なうシ
ステムを提供できる。
【0591】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、周期性マ
ルチスペクトル騒音の能動騒音制御を行う際、畳み込み
演算等を不要にし、能動形騒音制御システムの小型化や
低コスト化が図れる利点がある。
【0592】また、エンジン回転数領域に応じて制御す
る次数を切り替えて、より精度の良い制御動作を可能に
する。さらに、次数に同期した騒音成分の大小を推定し
て求め、設定した次数が適切でなかった場合には、制御
次数の「書替え」を行うことにより、各エンジン回転数
領域において、常に適切な制御を行うことを可能とし、
制御効果の一層の向上を図ることができる。
【0593】さらに、音響伝達関数を同定する周波数を
可変選択させることにより、広い周波数領域において安
定な制御が行なえる。
【0594】さらに、ラウドスピーカに制御回路を内蔵
させたことにより、車載の場合には装着が用意で、効果
的な消音ができ、かつ、低コストな能動形騒音制御シス
テムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】能動形騒音制御装置の構成図である。
【図2】装置の動作を説明するためのブロック図であ
る。
【図3】制御内容を示すフローチャートである。
【図4】装置の動作を説明するための他の実施形態のブ
ロック図である。
【図5】他の実施形態である装置の動作説明のブロック
図である。
【図6】他の実施形態である装置の動作説明のブロック
図である。
【図7】各次数に対する出力・更新タイミングの説明図
である。
【図8】能動消音制御の結果を示す説明図である。
【図9】他の実施形態による能動消音制御の結果を示す
説明図である。
【図10】他の実施形態である装置の動作を説明するた
めのブロック図である。
【図11】他の実施形態である装置の動作説明のブロッ
ク図である。
【図12】他の実施形態での制御信号の説明図である。
【図13】他の実施形態である装置の動作説明のブロッ
ク図である。
【図14】他の実施形態である装置の動作説明のブロッ
ク図である。
【図15】他の実施形態である装置の動作説明のブロッ
ク図である。
【図16】次数の選択動作の説明を行なうためのブロッ
ク図である。
【図17】同期加算を用いた次数推定の効果を示す説明
図である。
【図18】回転次数の、選択/書替え処理を説明するフ
ローチャートである。
【図19】次数推定の処理を説明するフローチャートで
ある。
【図20】次数推定の処理を説明するフローチャートで
ある。
【図21】次数推定の処理を説明するフローチャートで
ある。
【図22】ある次数による制御を中止する処理を説明す
るフローチャートである。
【図23】次数設定を行なうための、3次元領域の説明
図である。
【図24】フィルタパワーにより初期設定次数を決定す
る処理を説明するフローチャートである。
【図25】フィルタパワーの極大点を示す説明図であ
る。
【図26】能動形騒音制御装置の車両搭載(前座席)の
様子を示す説明図である。
【図27】音響伝達関数の誤差が制御系に与える影響に
ついての説明図である。
【図28】音響伝達関数の位相変化と同定周波数の関係
を示す説明図である。
【図29】同定の周波数を変更する処理を説明するフロ
ーチャートである。
【図30】音響伝達関数の位相変化と修正後の同定周波
数の関係を示す説明図である。
【図31】能動形騒音制御装置の車両搭載(前座席)の
様子を前側からみた外観図である。
【図32】能動形騒音制御装置の車両搭載(前座席)の
様子を横側からみた外観図である。
【図33】制御回路を内蔵したラウドスピーカの構成図
である。
【図34】能動形騒音制御装置である制御回路の構成図
である。
【図35】リモートコントロール装置の外観図である。
【図36】従来の装置の構成図である。
【図37】マルチスペクトル騒音の説明図である。
【図38】クロスポイント周波数等の説明図である。
【符号の説明】
1…マイクロフォン、2…ラウドスピーカ、3…制御回
路、4…波形整形回路、5…基準信号発生器、6…適応
制御器、7…パワーアンプ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 仲野 秀一 茨城県ひたちなか市大字高場2520番地 株式会社日立製作所 自動車機器事業部 内 (72)発明者 佐々木 光秀 茨城県ひたちなか市大字高場2520番地 株式会社日立製作所 自動車機器事業部 内 (56)参考文献 特開 平6−138886(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G10K 11/178 B60R 11/02 F01N 1/00 G10K 15/00 H03H 21/00

Claims (16)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】所定位置に配置され、前記位置における音
    圧信号を検出する音圧検出手段と、周期性のある騒音
    (周期性騒音)を被制御音とし、これを打ち消す制御音
    を出力する制御音出力手段と、前記周期性騒音の周期に
    同期した基準信号を、少なくとも1以上生成する基準信
    号生成手段と、 前記所定位置における音圧信号が最小となるように、前
    記制御音出力手段から出力される制御音の調整を行う制
    御音調整信号を、前記基準信号、前記音圧検出手段で検
    出された音圧信号、および、フィルタ係数を用いて生成
    する適応フィルタ制御手段とを備え、前記 適応フィルタ制御手段は、前記基準信号生成手段が
    生成した基準信号に対して、基準信号の1/4ms周期
    msは、自然数)ごとのタイミングで、フィルタ係数
    を切り換えながら、切り換えたフィルタ係数を用いて制
    御音調整信号を生成することを、基準信号ごとに行うこ
    とを特徴とする能動形騒音制御装置。
  2. 【請求項2】請求項1において、前記適応フィルタ制御
    手段は、2つのフィルタ係数w、wを有し、検出点
    数が4(ms=1)であるとしたとき、前記各基準信号の1/
    4周期(90度)ごとのタイミングで、「−w
    、−w、w」の順に、繰返しフィルタ係数を切
    り換える手段と、 前記各基準信号の1/4周期ごとのタイミングで、「−
    、g、g、−g」の順に繰返し変化する、収
    束係数と伝達関数との積である係数gおよびgと音
    圧信号(e)との積r、および、前記係数gと音圧信号
    (e)との積rとを求める手段と、 前記各基準信号の1/4周期ごとのタイミングで、
    「1、λ、1、λ」の順に、繰返し変化するリーキパラ
    メータとwの積(u)、および、前記リーキパラメ
    ータとwとの積(u)とを求める手段と、 wに、「u+r」、wに、「u+r」を加え
    ていき、フィルタ係数w、wを更新する手段と、 を備えることを特徴とする能動形騒音制御装置。
  3. 【請求項3】請求項1において、前記基準信号の周期が
    前記周期性騒音の周期のn倍(nは、自然数)、およ
    び、前記基準信号の周期が前記周期性騒音の周期の0.
    5m倍(mは、奇数)のうちの少なくとも一方であるこ
    とを特徴とする能動形騒音制御装置。
  4. 【請求項4】請求項2において、さらに、伝達関数決定
    手段を備え、前記 伝達関数決定手段は、所定周波数を有する制御音を
    出力させるため制御音出力手段を駆動する手段と、前記
    制御音を入力信号とし、前記音圧検出手段によって検出
    される音圧を出力信号として、前記伝達関数を求める手
    段を備えることを特徴とする能動形騒音制御装置。
  5. 【請求項5】請求項1において、前記基準信号生成手段
    は、生成される基準信号の高調波成分の周波数を基準信
    号の周波数とする、新たな基準信号を生成する手段を備
    えることを特徴とする能動形騒音制御装置。
  6. 【請求項6】請求項1において、前記周期性騒音は、車
    載されたエンジンのエンジン騒音であることを特徴とす
    る能動形騒音制御装置。
  7. 【請求項7】請求項1において、前記適応フィルタ制御
    手段は、前記基準信号生成手段が生成した基準信号の1
    周期(360度)において、4ms個の(msは、自然
    数)検出点を設定し、かつ、ms個(90度)離れた2つ
    の検出点の組ごとに、前記制御音調整信号の生成および
    フィルタ係数の更新を行う、能動形騒音制御装置。
  8. 【請求項8】請求項7において、前記適応フィルタ制御
    手段は、2つのフィルタ係数w、wを有し、n番目
    の検出点での前記基準信号をx(n)としたとき、 n番目の検出点での前記制御音調整信号y(n)を、 y(n)=wx(n)+wx(n-ms) なる式に基づき生成し、かつ、2つのフィルタ係数
    、wを、 w(n+ms)=w(n)+αe(n){cx(n)+cx(n-ms)}-βy
    (n)x(n) w(n+ms)=w(n)+αe(n){cx(n-ms)-cx(n-2ms)}-
    βy(n)x(n-ms) (但し、αは収束係数、βは発散抑制係数、c、c
    は、音響伝達係数)なる更新式に基づき、更新すること
    を特徴とする能動形騒音制御装置。
  9. 【請求項9】請求項8において、前記n番目の検出点で
    の基準信号x(n)は、 x(n)=cos(2πn/ms)もしくはx(n)=−cos(2πn/ms)なる余
    弦波、 または、 x(n)=sin(2πn/ms)もしくはx(n)=−sin(2πn/ms)なる正
    弦波であること、を特徴とする能動形騒音制御装置。
  10. 【請求項10】請求項7において、前記適応フィルタ制
    御手段は、検出点数が4(ms=1)であるとしたとき、前記
    各基準信号の1/4周期(90度)ごとのタイミング
    で、 「w、w、−w、−w」、「−w、−w
    、w」、「−w、w、w、−w」、およ
    び「w、−w、−w、w」のいずれかの順に、
    繰返しフィルタ係数を切り換える手段と、 前記各基準信号の1/4周期(90度)ごとのタイミング
    で、 「g、g、−g、−g」、「−g、−g
    、g」、「−g、g、g、−g」、およ
    び「g、−g、−g、g」のいずれかの順に繰
    返し変化する、収束係数と伝達関数との積である係数g
    と音圧信号(e)との積r、および、前記係数g
    と音圧信号(e)との積rとを求める手段と、 前記各基準信号の1/4周期(90度)ごとのタイミン
    グで、 wに、「w+r」、wに、「w+r」を加え
    ていき、フィルタ係数w、wを更新する手段と、を
    備えることを特徴とする能動形騒音制御装置。
  11. 【請求項11】請求項10において、前記適応フィルタ
    制御手段は、検出点数が4(ms=1)であるとしたとき、 前記各基準信号の1/4周期(90度)ごとのタイミン
    グで、「1、λ、1、λ」(但しλ≦1)の順に繰返し
    変化するリーキパラメータとwの積(u)、およ
    び、「λ、1、λ、1」の順に繰返し変化するリーキパ
    ラメータとwとの積(u)を求めるかまたは、前記
    各基準信号の1/4周期(90度)ごとのタイミング
    で、「λ、1、λ、1」(但しλ≦1)の順に繰返し変
    化するリーキパラメータとwの積(u)、および、
    「1、λ、1、λ」の順に繰返し変化するリーキパラメ
    ータとwとの積(u)を求め、求めたu、u
    前記r、rとを用いて、wに、「u+r」、
    に、「u+r」を加えていき、フィルタ係数w
    、wを更新する手段を備えることを特徴とする能動
    形騒音制御装置。
  12. 【請求項12】請求項1において、音圧検出手段、制御
    音出力手段、および、各制御音出力手段に対する制御音
    調整信号を生成する適応フィルタ制御手段を、夫々複数
    個備え、 特定の制御音出力手段が、特定の音圧検出手段によって
    検出される音圧信号のみを最小化するように、特定の適
    応フィルタ制御手段と対応づけられて構成され、 前記特定の適応フィルタ制御手段は、 自身に対応づけされていない制御音出力手段の出力であ
    る音圧成分の影響分を、予め求めておいた伝達関数と前
    記制御音調整信号とを用いて推定し、さらに、 自身に対応づけされた音圧検出手段が検出した音圧信号
    から、前記影響分を差し引いた音圧信号を、自身のフィ
    ルタ係数の更新処理に用いる機能を有する能動形騒音制
    御装置。
  13. 【請求項13】請求項4において、前記伝達関数決定手
    段は、 一方の音響伝達係数cの値を示すc軸、および、他方
    の音響伝達係数cの値を示すc軸で構成される座標系
    を想定したとき、 2つの音響伝達係数c,cのいずれか一方が0になる
    周波数であるクロス周波数ポイントを求める手段を備え
    たことを特徴とする能動形騒音制御装置。
  14. 【請求項14】請求項13において、前記伝達関数決定
    手段は、さらに、 2つのクロス周波数ポイントの間に存在する周波数を代
    表周波数ポイントとし、前記クロス周波数ポイントおよ
    び前記代表周波数ポイントのいずれかの周波数での音響
    伝達係数を、音響伝達係数の同定値とする手段を備える
    ことを特徴とする能動形騒音制御装置。
  15. 【請求項15】請求項13において、前記伝達関数決定
    手段は、 求めた音響伝達係数c,cのいずれもが、所定周波数
    範囲内で、予め定めた閾値より小さい値となる場合に
    は、前記所定周波数範囲での前記伝達関数を求める動作
    を行なわない手段を備えたことを特徴とする能動形騒音
    制御装置。
  16. 【請求項16】車両に搭載された能動形騒音制御システ
    ムであって、 車内に配置されたマイクロフォンを用いて音圧信号を検
    出する音圧検出手段と、周期性のあるエンジン騒音を被
    制御音とし、これを打ち消す制御音をラウドスピーカか
    ら出力する制御音出力手段と、タコパルス信号に基づい
    て、前記エンジン騒音の周期に同期した基準信号を、少
    なくとも1以上生成する基準信号生成手段と、 前記車内における音圧信号が最小となるように、前記制
    御音出力手段から出力される制御音の調整を行う制御音
    調整信号を、前記基準信号、前記音圧検出手段で検出さ
    れた音圧信号、および、フィルタ係数を用いて生成する
    適応フィルタ制御手段とを備え、 前記適応フィルタ制御手段は、前記基準信号生成手段が
    生成した基準信号に対して、基準信号の1/4ms周期
    (msは、自然数)ごとのタイミングで、フィルタ係数
    を切り換えながら、切り換えたフィルタ係数を用いて制
    御音調整信号を生成することを、基準信号ごとに行うこ
    を特徴とする能動形騒音制御システム。
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