JP3438819B2 - 磁性用ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents

磁性用ステンレス鋼およびその製造方法

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  • Soft Magnetic Materials (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、厳しい腐食環境で磁性
材料として使用される耐食性および低い残留磁束密度を
有する磁性用ステンレス鋼、特に磁極材に適する鋼およ
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、原子炉およびその周辺施設のよう
な、極めて厳しい耐腐食性が要求される環境では、磁性
材料としてマルテンサイト系ステンレス鋼が使用されて
いる。このマルテンサイト系ステンレス鋼は、軟磁性を
示すとともに強度、耐熱性、耐食性、耐放射線性を有
し、なおかつ価格が安価であるからである。マルテンサ
イト系ステンレスがこのような環境で使用される具体的
な例として原子炉内の磁気計測機器や磁極材がある。た
とえば加圧水型原子炉においては、制御棒駆動装置には
複数のマルテンサイト系ステンレス鋼で製造された磁極
材を、外部磁場により着脱する機構を備えたものがあ
る。このような磁極材としては、特に直流電流のオンオ
フにより制御する場合には、低保磁力、高透磁率、高飽
和磁束密度の軟磁気特性に加えて、電流をオフにしたと
きに磁気が残留しないこと、すなわち残留磁束密度が低
いことが特に要求される。従来、マルテンサイト系ステ
ンレス鋼の軟磁性を向上する手段として、材料中の磁区
移動が容易になるように、焼きなまし温度を高温にする
方法が実施されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、焼きなまし温
度を高温にしていくだけでは残留磁束密度 Brはせいぜ
い0.95T位であり、上記の用途に必要な程に十分に低い
ものとすることはできない。また、焼きなまし温度を高
温にしていくと材料の強度が低下していくという問題も
ある。本発明の目的は、特に残留磁束密度が少なく、軟
磁性に優れ、強度も十分に高い磁性用ステンレス鋼およ
びその製造方法を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、強度、耐食
性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼に着目し、そ
の磁気特性の改良を検討した。そして、残留磁束密度が
フェライト粒径、炭化物密度および焼なましの冷却条件
に大きく依存することを見出し、特定の炭化物密度とフ
ェライト粒径を調整したマルテンサイト系ステンレス合
金が、軟磁性に優れるしかも、低い残留磁束密度を有
し、強度も優れる材料となることを見出した。すなわ
ち、本発明はC:0.08〜0.20%、Cr:11.
5〜18.0%を含有するマルテンサイトステンレス鋼
であって、焼きなましの後の組織中の炭化物密度が5×
105個/mm2以上、好ましくは1×106個/mm2以上、
フェライト粒径7μm以上、好ましくは10μm以上であ
り、残留磁束密度Br:0.9T以下、角形比:0.6
5以下であることを特徴とする磁性用ステンレス鋼であ
る。本発明の磁性用ステンレス鋼の組成は、C,Cr以
外は、主に脱酸の目的で添加されるSi,Mnの量が、そ
れぞれ1.0%以下であるほかは残部Feからなるものであ
る。しかし、上記マルテンサイト系ステンレス鋼はさら
にWまたはMoの1種または2種を0.05%〜1.0
0%を含有してもよい。
【0005】上記本発明の磁性用ステンレス鋼を得る製
造方法は、C:0.08〜0.20%、Cr:11.5
〜18.0%を含有するマルテンサイトステンレス鋼を
3変態点以上に加熱した後、30〜80℃/hrで6
00℃以下の温度まで冷却する焼きなましを行ない、組
織中の炭化物密度を5×105個/mm2以上、フェライト
粒径を7μm以上とし、残留磁束密度Br:0.9T以
下、角形比:0.65以下とすることを特徴とする。本
製造方法によれば、約7割位の確率でフェライト粒径を
10μm以上にすることができるので、磁気特性の向上
の点からはフェライト粒径を10μm以上とする条件を
選ぶとよい。従来本発明が対象とする磁性用途には本発
明と類似のマルテンサイト系ステンレス鋼が使用されて
いたが、本発明のような焼なましで30〜80℃/hr
という速い冷却速度を用いることにより、炭化物密度5
×105個/mm2とフェライト粒径7μm以上を実現した
ものはなく、したがって、残留磁束密度が0.9T以
下、角形比が0.65以下のステンレス鋼は存在しなか
ったのである。これは、従来、この系統の鋼の焼なまし
は、加熱温度が760〜850℃で、20℃/hr位で徐
冷するのが通常の方法であったからである。このような
従来の焼なまし方法では、磁性特性のうち、残留磁束密
度 Brは、せいぜい0.95T、角形比Br/Bsはせい
ぜい0.7程度しか得られなかったのである。
【0006】
【作用】本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼は、上
述したように優れた軟磁性と低い残留磁束密度を得るた
めに、合金組織に着目し、フェライト粒径と、炭化物密
度を特定すれば良いことを見出したことによるものであ
る。本発明において、フェライト粒径を7μm以上とし
たのはフェライト粒を大きくして、磁壁移動を容易に
し、1.3T以上の飽和磁束密度Bsと、400以上の
最大透磁率μmと、600A/m以下の保磁力Hcであ
る優れた軟磁性を確保するものである。また、本発明に
おいて炭化物密度を5×105個/mm2以上、好ましくは
1×106個/mm2以上という従来のマルテンサイト系ス
テンレス鋼よりも高い値にすることにより、特に残留磁
束密度Brを0.9T以下という低い値が得られ、しか
も角形比0.65以下という、特に外部直流磁場による
着脱機構にとって極めて好ましい材料となる。
【0007】本発明の製造方法の特徴は、高温焼きなま
しの状態にすることにより、フェライト粒径を粗大化さ
せ、その後の冷却速度を通常の焼きなまし条件よりも速
い冷却速度とすることにより、炭化物の凝集を抑え、炭
化物密度が大きい材料を得るようにしたことである。本
発明の製造方法において、焼きなましの条件をA3変態
点以上に加熱した後、30℃/hr〜80℃/hrの冷
却速度で600℃まで冷却するのは、冷却速度が30℃
/hrよりも遅いと、炭化物の凝集が起こり、残留磁束
密度Brを0.9T以下とするのが困難になるためであ
り、80℃/hrよりも速いと材料の内部歪が大きくな
り、軟磁性、特に透磁率と飽和磁束密度が低下するから
である。また、600℃までと規定したのは、600℃
以下の温度での冷却速度は炭化物析出にはほとんど影響
しないためである。また、A3変態点以上に加熱するの
はフェライト粒を成長させ、透磁率、飽和磁束密度、保
磁力等の軟磁性を確保するためである。
【0008】次に本発明の合金組成の限定理由を説明す
る。Cは材料の組織を決定する元素であり、0.08%
より少ないとフェライト組織となり、また、0.20%
より多いとCrの炭化物が析出し耐食性を劣化するとと
もに、保磁力の増加と透磁率の低下がおこり軟磁性が劣
化するため、0.08〜0.20%に規定した。Crは
耐食性を得るためのステンレス合金の基本となる元素で
ある。Cr量が11.5%以下では十分な耐食性が得ら
れず、また18%を越えるとフェライト組織となり、強
度が低下するため、11.5〜18%に規定した。本発
明のマルテンサイト系ステンレス鋼では、主に脱酸の目
的で1.0%以下の範囲で添加されるSi、Mnの他、不純
物としてP、S、Niが微量含有していても許容される
ものである。WおよびMoはフェライト粒の成長にとも
なって低下する強度を補うために添加する元素であり、
添加する場合は0.05%より少ないと効果が少なく、
1.0%を越えると、炭化物が熱的に安定になり、フェ
ライト粒の成長を抑制するため、0.05%〜1.0%
とするのがよい。
【0009】
【実施例】以下に本発明の実施例を詳しく説明する。 (実施例1)C:0.11%、Si0.61%、Mn
0.39%、P0.018%、S0.01%、Ni0.
15%、Cr12.00%、残部Feからなるφ150
mm材を熱間圧延により得た。この材料のA3変態点は約
860℃である。この試料を900℃、4時間に保持し
た後、冷却速度5℃/hr〜100℃/hrで600℃
まで冷却する焼きなましを行ない、冷却速度とフェライ
ト粒径および炭化物密度の関係および磁気特性を測定し
た。結果を表1に示す。ここで、残留磁束密度Brおよ
び4000A/mの磁界を印加した時の飽和磁束密度B
s、保磁力Hcおよび透磁率μmはリング試験片に巻線
を施しB−Hカーブを求めることにより測定した。ま
た、炭化物密度は、炭化物のSEM写真を画像解析によ
り求めた。
【0010】
【表1】
【0011】表1より、焼きなまし温度が一定の場合
は、本発明例である冷却速度を30℃/hr〜80℃/
hrとした試料4ないし7は、フェライト粒径が7μm
以上あり、炭化物密度が1.0×106以上である材料
で、角形比Br/Bsは0.65以下、残留磁束密度B
r0.9T以下となり、1.3T以上の飽和磁束密度B
sと、400以上の最大透磁率μmと、600A/m以
下の保磁力Hcを有する優れた軟磁性材料となったこと
がわかる。これに対して、冷却速度が30℃/hrより
も遅い試料1ないし3は、飽和磁束密度が高く、最大透
磁率も高いものであるが、炭化物密度が小さくなるとと
もに残留磁束密度が大きくなり、角形比も0.7以上と
なっていることがわかる。また、冷却速度を100℃/
hrとした試料8では、フェライト粒径は10μm以
上、炭化物密度は2.3×106となっているが、本発
明例に比べ軟磁性の基本特性である飽和磁束密度Bsが
下がり、保磁力も高く、角形比も高いものとなり、好ま
しくないものであることがわかる。
【0012】次に、機械的性質を特定するため、試料
2、4、5、6、7、8に対して引張試験を行なった。
結果を表2に示す。表2より冷却速度を速くすることに
より、0.2%耐力および引張強さが上昇し、本発明材
料である試料4、5、6、7は冷却速度の遅い比較例で
ある試料2に比べて0.2%耐力および引張強さが向上
していることがわかる。また、比較例である試料8は機
械強度では本発明例よりも優れているが、前述したよう
に、磁気特性で本発明例より劣るものである。
【0013】
【表2】
【0014】(実施例2)実施例1と同じ組成のφ15
0mmの材料を実施例1と同様に製造し、焼きなましにお
ける600℃までの冷却速度を60℃/hrに固定し、
焼きなまし温度を780℃ないし940℃の範囲で4時
間保持する焼きなましを行ない、焼きなまし温度とフェ
ライト粒径および炭化物密度の関係およびこれに基づく
磁気特性を実施例1と同様に測定した。結果を表3に示
す。
【0015】
【表3】
【0016】表3より、炭化物密度が焼きなまし温度の
上昇とともに低下し、フェライト粒径が大きくなり、残
留密度が下がることがわかる。これより、残留磁束密度
を下げるためには、焼きなまし温度を上昇させるのが有
効であることがわかる。また、本発明例であるA3変態
点(約860℃)以上の焼きなまし温度とした試料No.
12、13では、フェライト粒の著しい成長が起こり、
残留磁束密度Brが低下し、軟磁性を高めるために、焼
きなまし温度をA3点以上に上昇することが有効である
ことが確認できた。
【0017】(実施例3)C:0.11%、Si:0.
61%、Mn:0.40%、P:0.018%、S:
0.001%、Ni:0.23%、Mo:0.09%、
Cr:12.05%、残部Feからなるφ140mm材を
熱間圧延により得た。この試料をA3変態点(約855
℃)以上の900℃で4時間保持した後、20〜60℃
/hrで600℃まで冷却する焼なましを行ない、冷却
速度とフェライト粒径および炭化物密度の関係および磁
気特性を測定した。結果を表4に示す。表4より、冷却
速度を60℃/hrとした場合には、フェライト粒径が
7.9μmであっても、残留磁束密度Brも0.9T以
下、角形比も0.7以下となることがわかる。
【0018】
【表4】
【0019】(実施例4)C:0.10%、Si:0.
59%、Mn:0.50%、P:0.019%、S:
0.001%、Ni:0.24%、Cr:12.08
%、残部Feからなる10mm×50mm×500L材を熱
間鍛造により得た。この試料をA3変態点(約855
℃)以上の860〜900℃で4時間保持した後、10
〜40℃/hrで600℃まで冷却する焼なましを行な
い、焼なまし条件とフェライト粒径および炭化物密度の
関係および磁気特性を測定した。結果を表5に示す。表
5より、焼なまし温度が860〜900℃で、冷却速度
40℃/hrの試料No.17,18は、フェライト粒径
が10μm以上あり、炭化物密度が6×105個/mm以上
となっており、1.3T以上の飽和磁束密度Bsと40
0以上の最大透磁率μmと600A/m以下の保磁力H
cを有する優れた軟磁性材料となったことがわかる。こ
れに対し、冷却速度が10℃/hrである試料No.19
のものは、飽和磁束密度が高く、最大透磁率も高いもの
であるが、炭化物密度が小さいため、残留磁束密度が大
きくなり角形比も0.7を越えるものとなっている。
【0020】
【表5】
【0021】(実施例5)表6に示す組成のφ150mm
の材料を実施例1と同様に製造し、A3変態点以上であ
る900℃で4時間保持した後、70℃/hrの冷却速
度で600℃まで冷却する焼きなましをおこなった。得
られた試料に対して組織と磁気特性の測定および引張試
験を実施例1と同様に行った評価した。得られた組織中
のフェライト粒径、炭化物密度および磁気特性は表7に
示す。また、0.2%耐力および引張強さは表8に示
す。
【0022】
【表6】
【0023】
【表7】
【0024】
【表8】
【0025】表6および表8より、C量を増加し、0.
15%に調製した試料No.21およびMo、Wをそれぞ
れ単独または複合で添加した試料No.22ないし26
は、これらの添加元素を含有しない試料No.20に比べ
0.2%耐力の増加および引張強さの増加が達成できた
ことがわかる。
【0026】
【発明の効果】本発明の方法によれば、特に残留磁束密
度が小さく、軟磁性に優れ、強度も十分に高い磁性用ス
テンレス鋼を製造できるので、その磁性用ステンレスは
残留時速密度が0.9T、角形比が0.65以下が必要な軟磁性
用の用途に最適である。特に本発明の磁性用ステンレス
鋼は極めて厳しい耐腐食性と強度を要求される原子炉周
辺に使用される磁極材として最適である。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.08〜0.20%、Cr:1
    1.5〜18.0%を含有するマルテンサイト系ステン
    レス鋼であって、焼きなましの後の組織中の炭化物密度
    が5×105個/mm2以上、フェライト粒径7μm以上で
    あり、残留磁束密度Br:0.9T以下、角形比:0.
    65以下であることを特徴とする磁性用ステンレス鋼。
  2. 【請求項2】 C:0.08〜0.20%、Cr:1
    1.5〜18.0%、WまたはMoの1種または2種を
    0.05%〜1.00%を含有するマルテンサイトステ
    ンレス鋼であって、焼きなましの後の組織中の炭化物密
    度が5×105個/mm2以上、フェライト粒径7μm以上
    であり、残留磁束密度Br:0.9T以下、角形比:
    0.65以下であることを特徴とする磁性用ステンレス
    鋼。
  3. 【請求項3】 C:0.08〜0.20%、Cr:1
    1.5〜18.0%を含有するマルテンサイト系ステン
    レス鋼をA3変態点以上に加熱した後、30〜80℃/
    hrで600℃以下の温度まで冷却する焼きなましを行
    い、組織中の炭化物密度を5×105個/mm2以上、フェ
    ライト粒径を7μm以上とし、残留磁束密度Br:0.
    9T以下、角形比:0.65以下とすることを特徴とす
    る磁性用ステンレス鋼の製造方法。
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