JP3433790B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼用溶接材料 - Google Patents
マルテンサイト系ステンレス鋼用溶接材料Info
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Description
テンレス鋼を溶接する際に優れた溶接施工性を発揮する
溶接材料に関するものである。
ら湿潤な炭酸ガスや硫化水素を含有する石油,天然ガス
にまで開発・生産の手が延びているが、これに伴い、石
油あるいは天然ガス輸送用ラインパイプやこれらを貯蔵
する容器等の炭酸ガス含有環境における腐食が問題とな
っている。そこで、このような炭酸ガス含有環境におけ
る腐食問題に対処すべく、11〜13%程度(以降、 成分割
合を表す%は重量%とする)のCrを含有させた高Crマル
テンサイト系ステンレス鋼が提案された。この高Crマル
テンサイト系ステンレス鋼は、鋼に11〜13%程度のCrを
含有させることで炭酸ガス含有環境等での耐食性を確保
し、かつ強度と靱性を確保するために焼入れ処理を施し
て組織をマルテンサイト組織とし使用に供されるもので
あって、経済性に優れた耐食性材料として注目を集めて
いる。
ス鋼は溶接性に劣り、溶接構造部材として適用する場合
には溶接時の加熱冷却に伴う硬いマルテンサイト組織の
生成によって“溶接部の靱性低下”や“溶接割れの発
生”が問題となりやすい。
製鉄技報,Vol 29, No 2 (1997),第34〜40頁」には、
鋼中のC,Nをそれぞれ0.01%程度に抑えることにより
解決できるとの報告がなされている。
は、高Crマルテンサイト系ステンレス鋼の溶接に供され
る共金系溶接材料(溶接ワイヤ)の「Cr当量/Ni当量」
比を適正化することで上記問題が解決されるという報告
が見られる。
系ステンレス鋼を炭酸ガス含有環境で使用する石油,天
然ガスの輸送用ラインパイプ等といった溶接構造部材に
適用することを考慮した場合には、十分な“使用性能”
と“溶接時の耐割れ性”が要求されるのは勿論である
が、できるだけ広範囲な溶接条件で容易に溶接できるこ
と{即ち優れた溶接施工性(作業性)を有しているこ
と}も実際上の重要な要件となる。なお、ここで言う
「溶接施工性」とは、「“溶接部表面の凹み",“溶接金
属の溶け落ち",“裏面ビ−ドの未形成”のない適正な形
状の溶接ビ−ドが広範囲の溶接条件で容易に得られるこ
と」を指すものである。
は、この溶接施工性にも劣る材料であり、特に該材料か
ら成る鋼管を固定して円周溶接する所謂「全姿勢溶接」
時に“ビ−ドの凹み”や“溶接金属の溶け落ち”が生じ
やすい。そして、これらを防止するために溶接入熱を低
減した場合には、今度は“裏面ビ−ドの未形成”を生じ
やすくなる。
は適正溶接条件範囲の極めて狭い材料であり、そのた
め、前述のように従来から母材組成や溶接材料(溶加
材)面からの工夫がなされてきて“特定使用環境での性
能確保”や“溶接時の割れ防止”等の点で改善が認めら
れるものの、溶接施工性の点で十分に満足できる結果は
得られていない。
イト系ステンレス鋼に優れた溶接施工性を確保する手段
を提供することに置かれた。
を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、「高Crマルテンサ
イト系ステンレス鋼をア−ク溶接する際に裏波が不安定
となるのは、 溶融池後方(即ち溶接終了直後の部分)で
マルテンサイト変態による熱膨張が生じ、 その結果溶融
池が不安定となることに起因しており、 この現象は溶接
材料を通じて溶融池中のS,O及びAl量が特定の範囲と
なるように調整することで改善できる」という新しい知
見を得ることができた。そして、更に次の事項を確認す
るに至った。
−ク溶接においてS,Oの低減は溶融池そのものの安定
度向上に効果的であり、S,O低減の効果を得るために
は共金系溶接材料(溶加材)を用い、かつ特に該溶接材
料の化学組成が「[%O]+2×[%S]≦ 0.012」な
る条件を満たす必要がある。 (b) しかし、溶接材料中のS,Oを低減し過ぎると溶
接時の溶け込み深さを十分に確保できなくなって裏面ビ
−ドの未形成や融合不良などを生じやすくなり、かえっ
て溶接作業性を劣化させる。これを防止して十分な溶け
込み深さを確保するには、溶接材料中のSとOの含有量
は「0.004 ≦[%O]+2×[%S]」なる条件を満た
す必要がある。
果を発揮させるためには溶融池でAlと結合する量以上に
溶融池中にOが溶解していることが重要であり、このた
めには溶接材料中のOとAlの含有量が「[%O]≧ 0.2
×[%Al]」なる条件を満たしていることが必須であ
る。
る適量のTi又はZrの添加は、焼入れ焼戻し後の溶接部靱
性及び溶接部強度の確保に有効な手立てとなる。 (e) また,上記溶接材料中に適量のMo又はWを添加す
ることは、溶接部の炭酸ガス環境中での局部腐食抑制に
有効な手立てとなる。
れたものであり、「マルテンサイト系ステンレス鋼用溶
接材料を、 C: 0.001〜 0.015%, Si:0.01〜 1.0%, Mn: 0.1〜 1.5%, Cr:7〜14%, Ni: 0.5〜 9.0%, P:0.03%以下, S: 0.005%以下, Al:0.06%以下, O: 0.008%以下 を含有するか、 あるいは更にTi,Zr,Mo及びWの1種以
上を Ti:0.01〜0.30%, Zr: 0.005〜 0.3%, Mo+ 1/2W: 0.5〜 3.0% の範囲で含むと共に、 残部がFe及び不可避不純物から成
り、 かつ“O含有量とS含有量との関係”及び“O含有
量とAl含有量との関係”がそれぞれ 0.004 ≦[%O]+2×[%S]≦ 0.012 ……(1) [%O]≧ 0.2×[%Al] ……(2) なる式を満たしている構成とすることによって、 優れた
溶接部の耐食性,強度が確保されることは勿論のこと、
十分に満足できる溶接施工性をも発揮できるようにした
点」に大きな特徴を有している。
有環境等で使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼溶
接構造部材として必要な耐食性,強度,靱性等を備えた
溶接部を優れた溶接施工性(広範囲の溶接条件にわたっ
て溶接部表面の凹みや溶接金属の溶け落ちを生じること
がなく、 また良好な裏波ビ−ドを安定形成しつつ溶接で
きる性能)の下で実現することが可能な溶接材料を提供
することができるが、以下、本発明において溶接材料の
化学組成を前記の如くに限定した理由をその作用と共に
説明する。
よるが、焼入れのままの鋼材溶接部のマルテンサイト率
が95%以上となって硬度がHR C26を超えてしま
い、カソ−ド防食下での割れを生じる傾向が強くなるた
め、C含有量の上限を0.015 %と定めた。なお、C含有
量は低ければ低いほど性能(例えば溶接のままでの靱性
等)的には好ましいが、溶接材料(鋼)製造時の経済性
を考慮して 0.001%を下限と定めた。
0.01%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、 1.0
%を超えて含有させると熱間加工性が劣化することか
ら、Si含有量は0.01〜 1.0%と定めた。
0.1%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、 1.5
%を超えて含有させるとやはり熱間加工性の劣化を招く
ことから、Mn含有量は 0.1〜 1.5%と定めた。
るが、その含有量が7%未満では十分な耐炭酸ガス腐食
性を確保することができず、一方、14%を超えてCrを含
有させると溶接部に焼き入れのままでマルテンサイト相
を得ることが困難となり、構造材としての強度,靱性の
確保が難しいことから、Cr含有量は7〜14%と定めた。
%未満に抑えて靱性と耐食性を確保するのに必要な成分
であり、そのためには 0.5%以上含有させる必要がある
が、過剰に添加すると残留オ−ステナイト量が増加して
強度低下を招くようになる。従って、Ni含有量は 0.5〜
9.0%と定めた。
るが、溶接材料中のP含有量が0.03%を超えると硫化水
素環境での硫化物割れ性が高まるので、P含有量の上限
を0.03%と定めた。
って、溶接時の高温割れ感受性、更には多層溶接時の再
熱割れ感受性を上昇させることから、その含有量は 0.0
05%以下に抑える必要がある。加えて、本発明において
は、溶接施工性の点からS含有量をO含有量との関係で
更に特定の領域に制御することを重要な要件とするが、
その制御領域及び詳細な理由については後述する。
り、酸化物を生成して鋼の熱間加工性を劣化させること
から、その含有量は 0.008%以下に抑える必要がある。
そして、本発明においては、O含有量についても溶接施
工性の点からS含有量との関係で更に特定の領域に制御
することが必要であるが、その制御領域及び詳細な理由
については後述する。
して添加される元素であり、十分な脱酸効果を確保する
ためには鋼中に少なくとも 0.004%以上、より好ましく
は 0.006%以上残留していることが望まれるが、過剰に
含有されると鋼の延性,靱性を劣化させると共に、溶接
時に溶接スラグを生成する原因となって溶接ビ−ドの美
観を損なうようになる。そのため、Al含有量は0.06%以
下と定めたが、望ましくは0.04%以下に規制すべきであ
る。加えて、本発明においては、溶接施工性の点からAl
含有量をO含有量との関係で更に特定の領域に制御する
ことを重要な要件とするが、その制御領域及び詳細な理
由については後述する。
のア−ク溶接やPAW溶接等といった溶融溶接の際に裏
波が不安定となるのは、溶融池後方(溶接終了直後の部
分)でマルテンサイト変態による熱膨張が生じ、その結
果溶融池が不安定となるためであるが、本発明者等は
「溶融池の不安定は溶接材料中のS,O,Al量を適正範
囲とすることで改善できる」ということを見出した。即
ち、溶接材料中のO,Sを「[%O]+2×[%S]≦
0.012」の領域に低減することにより溶融金属の対流が
緩和され、マルテンサイト変態による溶融池後方部での
熱膨張と呼応して生じていた溶融池の揺動が防止され、
結果として全姿勢溶接で欠陥のない裏波が形成される。
しかし、O,Sは溶接時の溶け込み深さに影響を及ぼす
元素である。そして、十分な溶け込み深さを得、良好な
溶接施工性を得るためには、O,S量が「0.004 ≦[%
O]+2×[%S]」を満足する必要がある。このよう
なことから、本発明ではO及びSの含有量を「0.004 ≦
[%O]+2×[%S]≦ 0.012」の範囲に調整するこ
とと定めた。
定化効果の発揮”のためには、溶融池でAlと結合せずに
溶解しているOを確保する必要がある。しかしながら、
溶接材料中のO含有量がAl含有量の 1/5未満であると溶
融池に溶解するO量が不足し、十分な溶け込み深さが確
保されない。このようなことから、本発明ではO及びAl
の含有量を「[%O]≧ 0.2×[%Al]の範囲に調整す
ることと定めた。
おける溶接部の靱性,強度を確保する有効な元素である
ので、本発明では必要に応じてTi,Zrの何れか又は双方
を含有させるが、Tiの場合にはその含有量が0.01%未
満、そしてZrの場合にはその含有量が 0.005%未満であ
るとその添加効果が十分でなく、一方、Ti含有量が0.30
%を、そしてZr含有量が 0.3%を超えると溶接高温割れ
感受性が増大する。従って、Ti含有量については0.01〜
0.30%と、またZr含有量については 0.005〜 0.3%と、
それぞれ含有量範囲を限定した。
局部腐食を防止する作用を有しているので、本発明では
必要に応じてMo,Wの何れか又は双方を含有させて溶接
部の耐食性改善を図る。この場合、炭酸ガス環境での局
部腐食防止にはWの方がMoの2倍の割合で作用する。し
かし、それらの含有量が「Mo+ 1/2W」で 0.5%未満の
場合には十分な耐局部腐食性を示さず、一方、「Mo+ 1
/2W」で 3.0%を超える量を含有させても耐局部腐食性
の向上傾向が鈍化するので経済上好ましくない。従っ
て、Mo,Wの含有量は「Mo+ 1/2W」で 0.5〜 3.0%と
定めた。
的に説明する。
イト系ステンレス鋼を溶製し、常法通りにこの鋼片を線
材に加工して溶接ワイヤ(溶接材料)を得た。一方、こ
れとは別に、表1に示す18種類の高Crマルテンサイト
系ステンレス鋼の鋼片からそれぞれ常法に従って外径 1
68mm,厚さ12mmの鋼管を製造した。続いて、同じ鋼種の
鋼管をV開先にて突き合わせ、そのまま水平に固定して
から、前記溶接ワイヤを用い、その全周を360°の全
姿勢でTIG溶接による初層溶接した。なお、溶接ワイ
ヤは母材鋼管と同一鋼種のものを用いた。
1種類につき3通り実施した。 〈溶接条件〉 条件1…溶接電流130A,溶接電圧12V,溶接速度
15cm/min。 条件2…溶接電流160A,溶接電圧13V,溶接速度
15cm/min。 条件3…溶接電流200A,溶接電圧16V,溶接速度
15cm/min。
接施工性」の評価を行った。なお、「溶接施工性」の評
価は、各溶接条件にて得られたビ−ドが適正な溶接部形
状をなしているか否かで判断した。ここでの「適正な溶
接ビ−ド形状」とは、まず全周にわたり裏面ビ−ドが形
成されているかどうかを目視にて観察し、全溶接線につ
いて裏面ビ−ドが形成されているものを合格とした。
計の12時及び6時に相当する位置の横断面を切断・現
出させ、溶接部形状を測定した。そして、裏面側の余盛
り高さが0mm以上(即ち凹んでいない) 3.0mm以下とな
るものを合格とした。表2,表3及び表4に、溶接施工
性の評価結果を示す。
らも明らかなように、本発明の規定条件を満たすA1 〜
A13鋼より成る溶接ワイヤを用いた場合には、何れも広
範囲な溶接条件で適正な形状の溶接ビ−ドが得られてお
り、優れた溶接施工性を有していることが分かる。
件を満たしていないB1 〜B5 鋼より成る溶接ワイヤを
用いた場合には、何れも溶接施工性に劣ることが分か
る。即ち、鋼種がB1 のものでは「[%O]+2×[%
S]」が 0.017%と過大なため、マルテンサイト変態に
伴う溶融池不安定によって6時位置で裏波高さが不芳
(凹み)となり、適正な溶接ビ−ド形状が得られていな
い。
量”が“Al量の 0.2倍”に対し不足しており、何れも溶
接条件1,2では十分な溶け込みが得られず、また溶接
条件3のように電流を高めると12時位置で過大な裏波
高さとなり、適正な溶接ビ−ド形状が得られなかった。
O]+2×[%S]」が 0.003%と低いため、何れも溶
接条件1,2では十分な溶け込みが得られず、また溶接
条件3のように電流を高めると12時位置で過大な裏波
高さとなり、適正な溶接ビ−ド形状が得られなかった。
種の溶接ワイヤ及び鋼管を用いてMIG溶接による同様
の試験も実施したが、この試験においても本発明の規定
条件を満たす溶接ワイヤを使用した場合のみが広範囲な
溶接条件にわたって適正な溶接部形状を得られることが
確認された。また、試験に使用した何れの鋼種の溶接ワ
イヤで得られた溶接部も、炭酸ガス含有環境において使
用する石油や天然ガスの輸送用ラインパイプ等として十
分な耐食性及び強度,靱性を備えていたことは確認済で
ある。
ば、炭酸ガス含有環境等における耐食性が良好で、かつ
優れた溶接施工性を有するマルテンサイト系ステンレス
鋼用溶接材料を提供することができ、使用条件が益々苛
酷化する石油,天然ガスの輸送用ラインパイプや貯蔵用
容器等の性能向上に大きく寄与し得るなど、産業上有用
な効果がもたらされる。
Claims (3)
- 【請求項1】 重量割合にて C: 0.001〜 0.015%, Si:0.01〜 1.0%, Mn: 0.1〜 1.5%, Cr:7〜14%, Ni: 0.5〜 9.0%, P:0.03%以下, S: 0.005%以下, Al:0.06%以下, O: 0.008%以下 を含むと共に残部がFe及び不可避不純物から成り、かつ
“O含有量とS含有量との関係”及び“O含有量とAl含
有量との関係”がそれぞれ下記 (1)式及び (2)式を満た
していることを特徴とする、溶接施工性に優れたマルテ
ンサイト系ステンレス鋼用溶接材料。 0.004 ≦[%O]+2×[%S]≦ 0.012 ……(1) [%O]≧ 0.2×[%Al] ……(2) - 【請求項2】 重量割合にて C: 0.001〜 0.015%, Si:0.01〜 1.0%, Mn: 0.1〜 1.5%, Cr:7〜14%, Ni: 0.5〜 9.0%, P:0.03%以下, S: 0.005%以下, Al:0.06%以下, O: 0.008%以下 を含有し、更に Ti:0.01〜0.30%, Zr: 0.005〜 0.3% のうちの1種又は2種をも含むと共に残部がFe及び不可
避不純物から成り、かつ“O含有量とS含有量との関
係”及び“O含有量とAl含有量との関係”がそれぞれ下
記 (1)式及び (2)式を満たしていることを特徴とする、
溶接施工性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼用溶
接材料。 0.004 ≦[%O]+2×[%S]≦ 0.012 ……(1) [%O]≧ 0.2×[%Al] ……(2) - 【請求項3】 鋼の構成成分であるFeの一部に代え、Mo
及びWの何れか又は双方を重量割合にて Mo+ 1/2W: 0.5〜 3.0% の範囲で含有することを特徴とする、請求項1又は2に
記載の溶接施工性に優れたマルテンサイト系ステンレス
鋼用溶接材料。
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