JP3403289B2 - 製錬中間物に含まれるヒ素分離方法およびヒ素の回収方法 - Google Patents

製錬中間物に含まれるヒ素分離方法およびヒ素の回収方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非鉄製錬工程中で
発生する製錬中間物に含まれるヒ素を分離する方法およ
び分離したヒ素を回収する方法に関し、特に、非鉄金属
有価物中に硫化物の形態で存在する共存するヒ素を効果
的に浸出・分離し、分離したヒ素を回収する技術につい
ての提案である。
【0002】
【従来の技術】非鉄製錬の工程においては、沈殿物や煙
灰といった各種製錬中間物が発生する。このような製錬
中間物には有価金属が含まれており、これを回収する技
術の実用化が検討されている。とくに、有価物が硫化物
の形態で含まれる銅、亜鉛、ビスマス等の製錬中間物か
ら該有価物を回収する技術は、製錬プロセス内にリサイ
クルして処理するという方法が一般的である。
【0003】この方法は、製錬中間物中に含まれる銅、
亜鉛、ビスマスのような有価物の収率を高めることがで
きるので、製錬効率が向上し極めて有効な方法である。
ところが、製錬中間物には、ヒ素が銅、亜鉛、ビスマス
のような有価物と硫化物の形態で共存している。硫化物
形態の有価物から同じく硫価物形態のヒ素のみを浸出・
分離することは技術的に困難であり、ヒ素を分離しない
ままで、上記製錬プロセス内に製錬中間物をリサイクル
する方法を採用すると、前記製錬中間物にヒ素が次第に
濃縮蓄積されていく、という課題があった。
【0004】従来、製錬中間物に含まれるヒ素を分離回
収する方法として、該製錬中間物を焼成し、亜ヒ酸とし
て分離回収する方法が実用化されている。しかし、この
方法は、大気中にヒ素が拡散するという問題があり、大
規模な公害防止設備が必要である。
【0005】また、ヒ素を含む硫化物形態の製錬中間物
からヒ素を浸出・分離する他の方法としては、該製錬中
間物をスラリー化し、これに空気を吹き込みながらアル
カリを添加し、スラリー温度を50℃以上、pHを5〜
8に保持しながら浸出処理を行って、溶液中にヒ素を酸
性ヒ酸塩として浸出し、不溶解残渣を分離する方法(以
下、「空気酸化・アルカリ処理法」という。)が提案さ
れている(特開昭54ー160590号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】特開昭54ー1605
90号に開示された上記従来技術は、下記の(1) 〜(3)
の反応式に示すような反応によって、ヒ素が製錬中間物
から分離・浸出される。すなわち、この技術は、製錬中
間物に含まれる硫化ヒ素を空気と反応させることによっ
て亜ヒ酸にし、さらにこの亜ヒ酸を、水酸化ナトリウム
と空気とを反応させて酸性ヒ酸ナトリウムとし、そして
水溶製であるこの酸性ヒ酸ナトリウムを溶液中に浸出さ
せる一方で、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモンなどの有
価物は、そのままスラリー中に残査として含まれるの
で、この反応終了後、有価物が含まれる未浸出残渣を溶
液と濾過分離してヒ素のみを分離回収するという提案で
ある。 As2S3 +3/2O2 +H2O =2HAsO2 +3S …(1) HAsO2 +1/2O2 +NaOH=NaH2AsO4 …(2) HAsO2 +1/2O2 +2NaOH=Na2HAsO4+H2O …(3)
【0007】ところが、本発明者らの知見によれば、こ
の反応は、浸出速度が極めて遅いことから、大きな反応
装置で長時間反応させることが必要であり、しかも、反
応温度も高温であることから多くの熱エネルギーを消費
する点などにおいて、このプロセスを工業的に実施する
には困難を伴うという問題があった。というのは、空気
酸化等の方法を工業的に実施する場合、反応速度を速め
るために金属触媒を用いることが普通である。従って、
上記のプロセスにも金属触媒を適用することが十分考え
られる。しかし、このプロセスは、製錬中間物スラリー
に、水酸化ナトリウムのようなアルカリを添加しながら
反応を行う方法であるから、スラリーのpHが上昇し、
それ故に添加した金属触媒が反応し沈殿するので、触媒
による反応促進は期待できないと考えられていた。
【0008】本発明は、上記従来技術が抱える課題を解
消するためになされたものであり、その目的とするとこ
ろは、上記空気酸化・アルカリ処理法による製錬中間物
からのヒ素浸出・分離方法において、ヒ素の浸出速度を
速め、かつ、浸出率の向上を図って分離を促進すること
で、このプロセスを経済的レベルにまで高めるところに
ある。また、本発明の他の目的は、このプロセスで分離
したヒ素を溶液中に浸出した後の含銅残渣を、製錬プ
ロセスにリサイクルして有効に利用する、後述する原
料スラリー中に添加する銅化合物として再利用する、
従来、形態が異なり、精練プロセスにリサイクルして処
理することのできなかった電解沈殿銅を上記含銅残渣と
して有効に利用する、ところにある。さらに本発明で
は、溶液中に浸出・分離した後のヒ素を安定化した形態
(Ca3(AsO4)2)として回収することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】発明者らは、上掲の目的
の実現に適う技術の開発を目指して鋭意研究を行った。
その結果、製錬中間物に、銅の化合物;とくに、含ヒ素
銅精鉱の製錬過程で発生する電解沈殿銅や空気酸化・ア
ルカリ処理法によってヒ素を溶液中に浸出・分離した後
の銅を含む残渣(以下、「含銅残渣」という。)を添加
し、これを空気酸化・アルカリ処理する方法が有効であ
るとの結論に達した。この方法によれば、製錬中間物の
原料スラリーを酸化する際の反応速度促進および浸出率
向上に有効であり、しかも浸出・分離した溶液中のヒ素
をきわめて容易に回収できることがわかった。
【0010】すなわち、本発明は、ヒ素を含む製錬中間
物の原料スラリーに、空気を吹き込みながらアルカリを
添加して反応させることによって、前記製錬中間物中に
含まれるヒ素を、ヒ酸塩として溶液中に浸出・分離する
方法において、前記原料スラリー中に、銅化合物を添加
してヒ素を溶液中に浸出・分離することを特徴とする製
錬中間物に含まれるヒ素分離方法である。本発明におい
て上記銅化合物は、酸化銅を用いることが好ましい。本
発明において銅とヒ素を含む上記銅化合物は、電解沈殿
銅を用いることが好ましい。本発明において上記電解沈
殿銅は、含ヒ素銅精鉱の製錬過程における電解精製工程
で発生するものを用いることが好ましい。本発明におい
て上記銅化合物は、銅とヒ素を共に含む製錬中間物をア
ルカリ存在下で酸化・浸出してヒ素を分離した後の含銅
残渣を用いることが好ましい。本発明において上記アル
カリは、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0011】また、本発明は、上述したようにして浸出
・分離した溶液からヒ素を回収する方法を提案する。こ
の方法は、ヒ素を含む製錬中間物の原料スラリーに、銅
化合物を添加するとともに空気を吹き込みながらアルカ
リを添加して反応させることによって、前記製錬中間物
に含まれるヒ素を、ヒ酸塩として溶液中に浸出・分離し
たのち、該溶液中に水酸化カルシウムを添加することに
よって、該溶液中のヒ素をヒ酸カルシウムとして回収す
る方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明は、空気酸化・アルカリ処
理によるヒ素の浸出・分離に当たって、製錬中間物の原
料スラリー中に、酸化銅のような銅化合物を添加する点
に特徴がある。上記原料スラリーに銅化合物を添加する
と、下記の反応が進行する。即ち、その反応は、まず、
下記 (1)′式に従って進行し、添加した酸化銅(CuO )
は、製錬中間物に含まれる硫化ヒ素(As2S3)と反応して
硫化銅(CuS )となり、ヒ素は、酸化反応により亜ヒ酸
(HAsO2)となる。本発明は、空気酸化・アルカリ処理法
において、上記(1) 式の反応によって反応生成させてい
た亜ヒ酸(HAsO2)の生成を、下記 (1)′式に従って、反
応生成させるところに特徴を有する。このような反応に
よって、亜ヒ酸(HAsO2)の生成を促進し、反応に費やさ
れる時間を大幅に短縮し、かつ、浸出率を向上させるこ
とができる。
【0013】なお、発明者らは、これらの反応におい
て、添加した酸化銅(CuO) は、As2S3と反応して酸化第
一銅(Cu2O) となるが、空気酸化により酸化第二銅(Cu
O)に可逆的に変化し、この反応が触媒的に寄与し、亜ヒ
酸の生成をより加速させるものと考えている。 As2S3 +3CuO +H2O =2HAsO2 +3CuS …(1) ′ HAsO2 +1/2O2 +NaOH=NaH2AsO4 …(2) HAsO2 +1/2O2 +2NaOH=Na2HAsO4+H2O …(3)
【0014】なお、亜ヒ酸(HAsO2)と硫化銅(CuS )が
生成された後の反応は、同時に添加したアルカリ(NaO
H)が反応に関与し、上記(2) 、(3) 式に従って進み、
ヒ酸塩(Na2HAsO4)が生成する。このヒ酸塩(Na2HAsO4)
は水溶性であることから、結果的にヒ素が製錬中間物原
料スラリーから溶液中に浸出されたこととなり、濾過に
より、ヒ素のみが該製錬中間物から分離されることとな
る。
【0015】次に、本発明にかかるヒ素の浸出・分離方
法およびヒ素の回収方法を、図1に示すフローに従って
説明する。銅製錬廃酸工程で産出する沈殿物や煙灰のよ
うな、ヒ素を含む硫化物形態の製錬中間物に、水を添加
して原料スラリーとし、この原料スラリーに、銅の化合
物、好ましくは含銅残渣または電解沈殿銅を添加し、反
応槽に該原料スラリーを装入する。なお、前記製錬中間
物を原料スラリーとする段階で、水を添加する代わりに
例えば水酸化ナトリウムのようなアルカリの水溶液を添
加して原料スラリーとすることもできる。
【0016】ついで、反応槽中にアルカリ水溶液を添加
しつつ、好ましくはpHを6〜9、温度を60〜90℃
にコントロールしながら、反応槽内の原料スラリー中に
空気を、好ましくは 0.5〜1.5 m/分/m (スラリ
ー)の速度で吹き込みつつ反応を進行させる。その後、
濾過し含銅残渣と溶液とに分離する。ここで得られた溶
液は、ヒ素が濃縮された水溶液である。従って、この溶
液に水酸化カルシウムを添加すると、安定な形態のヒ酸
カルシウムを回収することができる。なお、含銅残渣は
銅、亜鉛、ビスマスなどの濃縮された固形物であり、製
錬プロセスにリサイクルすることができるし、上記原料
スラリー中に添加する銅化合物として利用することもで
きる。
【0017】本発明において、上記製錬中間物は、各種
沈殿物、煙灰のいずれも使用できるが、特に、硫化物形
態の製錬中間物が好ましい。また、前記製錬中間物に添
加する銅化合物としては、酸化銅、硫酸銅等の銅化合物
であればどのようなものでもよいが、特に、電解沈殿銅
または本発明の浸出・分離方法で得られた含銅残渣、即
ち、空気酸化・アルカリ処理法によって処理し、分離回
収された残渣を用いると、有価物の有効利用ができ、ま
た、添加する酸化銅を別に用意する必要が少なくなるな
ど、省資源の観点からも好ましい。また、銅化合物とし
て前記電解沈殿銅を選択した場合には、リサイクルして
処理することが極めて容易な形態に変換できる利点もあ
る。
【0018】銅化合物の添加量は、製錬中間物中のヒ素
含有量との関係で決定される。具体的な添加量として
は、Cu/Asモル比で 0.1〜0.5 の範囲となるように添加
することが好ましい。この理由は、モル比が0.1 より小
さいと加速効果があまり期待できなくなり、一方、0.5
を超えると加速効果があまり期待できず、しかも残渣の
生成量が多くなるという弊害があるからである。
【0019】また、上記反応温度、pHは、従来技術の
条件とほとんど変わらないが、本発明の浸出・分離方法
では、空気吹き込み量を大幅に少なくできるという特徴
を有し、反応設備を小型化できるという効果を有する。
即ち、従来の空気酸化・アルカリ処理法では、反応速度
が遅いために、空気吹き込み量を大容量とする必要があ
ったが、本発明方法においては、銅化合物を添加して反
応を促進させているために、空気吹き込み量は、従来技
術に比較して少なくできるからである。なお、好ましい
空気吹き込み量は、0.5 〜1.5 m/分/m (スラリ
ー)である。この理由は、空気吹き込み量が0.5 m
分/m より少ないと酸化が十分に行われずに、浸出速
度およびヒ素の浸出効率が低下し、一方、1.5 m/分
m を超えても浸出速度および効率の向上はほとんど
見込めないためである。
【0020】
【実施例】以下、実施例にもとづいて本発明方法を説明
する。 (実施例1)銅製錬廃酸工程産出の製錬中間物ヒ素硫化
物を含む76kgを10g/lの水酸化ナトリウム水溶液
1.7 m3 中に添加し、さらに、電解製錬工程で得られた
電解沈殿銅を、空気酸化アルカリ処理して得られた残渣
20kgを添加して原料スラリーとした。なお、銅製錬廃
酸工程産出のヒ素硫化物の組成を表1に、空気酸化した
電解沈殿銅の組成を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0021】ついで、上記原料スラリーを5mの反応
槽に装入し、該反応槽内温度を80℃に保持し、空気吹
き込み量を1m /min として、濃度 200g/lの水酸
化ナトリウム水溶液を添加しつつ反応槽のpHを 6.5〜
7.5 にコントールして4時間反応を行った。その結果、
ヒ素の浸出率は96.1%であった。なお、比較のために、
含銅残渣を加えなかった場合について、同一条件で7時
間反応を試みた。その結果、ヒ素の浸出率は、91.5%で
あった。
【0022】
【発明の効果】以上説明したように、本発明にかかるヒ
素分離方法は、ヒ素の浸出速度が極めて速く、かつ、浸
出率が高いという効果を有する。また、銅、亜鉛、ビス
マスなどの有価物が含まれた含銅残渣を、ヒ素の濃縮の
心配なしに製錬プロセスにリサイクルすることができ
る。しかも、前記含銅残渣を、原料スラリー中に添加す
る銅化合物として有効に利用することができ省資源に役
立つ。さらに、電解沈殿銅をリサイクルして処理するこ
とが極めて容易な形態に変換できる。さらにまた、本発
明は、浸出・分離後の上記溶液中に、ヒ素をヒ酸カルシ
ウムとして安定した形態で効果的に回収することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のヒ素浸出・分離方法およびヒ素回収方
法を示すフローシートである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭54−160590(JP,A) 特開 昭62−77431(JP,A) 特開 昭64−55343(JP,A) 特開 平5−5132(JP,A) 特開 平6−25763(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22B 30/04 C22B 3/04

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヒ素を含む製錬中間物の原料スラリー
    に、空気を吹き込みながらアルカリを添加して反応させ
    ることによって、前記製錬中間物中に含まれるヒ素を、
    ヒ酸塩として溶液中に浸出・分離する方法において、前
    記原料スラリー中に、銅化合物を添加してヒ素を溶液中
    に浸出・分離することを特徴とする製錬中間物に含まれ
    るヒ素分離方法。
  2. 【請求項2】 上記銅化合物は、酸化銅であることを特
    徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】 銅とヒ素を含む上記銅化合物は、電解沈
    殿銅であることを特徴とする請求項1または2に記載の
    方法。
  4. 【請求項4】 上記電解沈殿銅は、含ヒ素銅精鉱の製錬
    過程における電解精製工程で発生するものであることを
    特徴とする請求項3に記載の方法。
  5. 【請求項5】 上記銅化合物は、銅とヒ素を共に含む製
    錬中間物をアルカリ存在下で酸化・浸出してヒ素を分離
    した後の含銅残渣であることを特徴とする請求項1〜3
    項のいずれか1項に記載の方法。
  6. 【請求項6】 上記アルカリが、水酸化ナトリウムであ
    ることを特徴とする請求項1または5項に記載の方法。
  7. 【請求項7】 ヒ素を含む製錬中間物の原料スラリー
    に、銅化合物を添加するとともに空気を吹き込みながら
    アルカリを添加して反応させることによって、前記製錬
    中間物に含まれるヒ素を、ヒ酸塩として溶液中に浸出・
    分離したのち、該溶液中に水酸化カルシウムを添加する
    ことによって、該溶液中のヒ素をヒ酸カルシウムとして
    回収することを特徴とする製錬中間物に含まれるヒ素の
    回収方法。
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