JP3401949B2 - 弗素樹脂被覆物及びその製造方法 - Google Patents

弗素樹脂被覆物及びその製造方法

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JP3401949B2
JP3401949B2 JP25618994A JP25618994A JP3401949B2 JP 3401949 B2 JP3401949 B2 JP 3401949B2 JP 25618994 A JP25618994 A JP 25618994A JP 25618994 A JP25618994 A JP 25618994A JP 3401949 B2 JP3401949 B2 JP 3401949B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、弗素樹脂被覆物に関
し、さらに詳しくは、弗素樹脂として高溶融粘度のPF
Aを用いて得られる耐摩耗性及び平滑性に優れ、しかも
ピンホールのない弗素樹脂被覆物とその製造方法に関す
る。本発明の弗素樹脂被覆物は、例えば、電子写真複写
機、ファクシミリ、プリンター等の定着部に用いられる
定着用ローラや定着用ベルトとして、あるいは炊飯器内
釜、ジャーポット内容器等の調理器具として有用であ
る。
【0002】
【従来の技術】電子写真複写機、ファクシミリ、プリン
ター等において、印刷の最終段階で、記録紙上のトナー
を加熱溶融してトナー像を記録紙上に定着させる。定着
方法には、定着用ローラや定着用ベルトを用いる方法が
ある。定着用ローラとしては、例えば、アルミニウム円
筒やステンレス芯金の外面に弗素樹脂を被覆したものな
どがある。定着用ベルトとしては、例えば、ポリイミド
樹脂フィルムからなるエンドレスベルトの外面に弗素樹
脂を被覆したものなどがある。
【0003】また、炊飯器内釜、ジャーポット内容器等
として、例えば、アルミニウムのエッチング板に弗素樹
脂を被覆したもの、あるいは、鉄、ステンレス等の磁性
金属板とアルミニウムまたはアルミニウム合金板とを接
合した複合板材のアルミニウムまたはアルミニウム合金
板の表面に弗素樹脂を被覆したものなどが知られてい
る。各種弗素樹脂の中でも、テトラフルオロエチレン/
パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PF
A)は、耐熱性及び非粘着性に優れ、しかも、平滑でピ
ンホールの少ない被覆層を形成することが可能であるた
め、被覆用弗素樹脂として特に好適に用いられている。
【0004】ところで、定着用ローラや定着用ベルト
は、長期間使用すると、弗素樹脂被覆層が摩耗し、オフ
セット防止性が低下する。耐摩耗性を向上させるため
に、弗素樹脂を厚塗りすると、定着用ローラや定着用ベ
ルトの熱伝導性が低下するため、印刷の高速化の要求に
応えることができなくなる。炊飯器内釜等においても、
内釜内での米の洗浄、使用後の洗浄等により、弗素樹脂
被覆層が摩耗するため、長期間の使用により、ピンホー
ルが発生して、釜が腐食する場合がある。耐摩耗性を向
上させるために、弗素樹脂被覆層を厚塗りすると、熱伝
導性が低下する。
【0005】弗素樹脂被覆物の耐摩耗性を向上させる他
の方法として、ガラス繊維等のフィラー(充填剤)を添
加する方法があるが、フィラーを多量に添加すると、弗
素樹脂被覆層表面の非粘着性が低下する。近年、これら
の弗素樹脂被覆物において、熱伝導性を向上させるため
に、弗素樹脂被覆層の膜厚をできるだけ薄くすることが
求められている。しかしながら、弗素樹脂を厚塗りする
ことなく、耐摩耗性を向上させることは、極めて困難な
課題であった。弗素樹脂として、高分子量(高溶融粘
度)のPFAを用いると、耐摩耗性に優れた被覆層を形
成することができる。しかし、該被覆層は、表面平滑性
が悪く、しかもピンホールが発生するという問題点があ
った。
【0006】即ち、PFA被覆層の耐摩耗性は、使用す
るPFAの溶融粘度が高くなるほど向上する。例えば、
PFA被覆面にスコッチブライト(登録商標)を接触さ
せた状態で回転させ、その際の摩耗量を、厚み1μmの
PFA層が削られるのに要する回転数で示す耐摩耗性試
験を実施した場合、380℃での溶融粘度が3×105
ポイズのPFAを用いた被覆層は、溶融粘度が4×10
4ポイズのPFAを用いた被覆層の2倍程度の耐摩耗性
を示す。しかし、溶融粘度が高くなるにしたがって、平
滑性に優れ、しかもピンホールのない被覆層を形成する
のが困難となる。例えば、溶融粘度が3×105ポイズ
のPFAを用いた被覆層は、表面粗度(Ra)が大き
く、しかもかなりの量のピンホールが発生する。
【0007】溶融粘度が4×104ポイズのPFAを使
用した場合においても、基材上にPFA塗料を塗布した
後、加熱燒結するという従来の方法によれば、表面粗度
(Ra)が1μm以下の平滑性に優れた表面を有する被
覆層を得ることはできず、例えば、溶融粘度が1.5×
104ポイズと低く、粒子径が小さいPFAを混合する
必要があった。しかし、溶融粘度の低いPFAを混合す
ると、被覆層の耐摩耗性が低下する。また、粒子径の細
いPFAを用いると、耐摩耗性などの特性を発揮するた
めに必要な厚膜(通常、40μm以上)を得るのに、数
回の塗装が必要となり煩雑である。
【0008】基材上に高分子量のPFAからなる被覆層
を形成し、該PFA被覆層を燒結する際に、燒結温度を
高くすれば、PFAの流動性が向上し、表面平滑性を高
めることができる。しかしながら、PFA被覆層の平滑
性を高めるには、高温で長時間の燒結条件を採用する必
要があるため、PFAの熱分解による強度の低下や有毒
ガスの発生等の問題が生じる。表1(出典:黒川孝臣編
「ふっ素樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、199
0年11月30日発行)に示すように、PFAは、40
0℃以上の高温に加熱すると、熱分解による重量損失が
大きくなる。
【0009】
【表1】
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、被覆
用の弗素樹脂として、高分子量(高溶融粘度)のPFA
を使用し、耐摩耗性及び平滑性に優れ、しかもピンホー
ルの少ない弗素樹脂被覆物及びその製造方法を提供する
ことにある。本発明者らは、前記従来技術の問題点を克
服するために鋭意研究した結果、弗素樹脂として380
℃で測定した溶融粘度が4×104ポイズ以上のPFA
を用いて、基材上にPFAの塗膜からなる被覆層を形成
し、得られた被覆物を該被覆層の面上から、260℃以
上の温度で、加圧面の表面粗度(Ra)がμm以下の
加圧装置により加圧することにより、被覆層の表面粗度
(Ra)がμm以下の平滑性に優れた弗素樹脂被覆物
の得られることを見いだした。このようにして得られた
弗素樹脂被覆物は、耐摩耗性に優れ、しかもピンホール
の発生が抑制されたものである。本発明は、これらの知
見に基づいて完成するに至ったものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、基材上
に弗素樹脂の塗膜からなる被覆層が形成された弗素樹脂
被覆物において、弗素樹脂が380℃で測定した溶融粘
度が4×104ポイズ以上のテトラフルオロエチレン/
パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PF
A)であり、かつ、被覆層の表面粗度(Ra)が1μm
以下であることを特徴とする弗素樹脂被覆物が提供され
る。また、本発明によれば、基材上に、380℃で測定
した溶融粘度が4×104ポイズ以上のPFAの塗膜
らなる被覆層を形成した後、得られた被覆物を、被覆層
の面上から、260℃以上の温度で、加圧面の表面粗度
(Ra)がμm以下の加圧装置により加圧することを
特徴とする被覆層の表面粗度(Ra)がμm以下の弗
素樹脂被覆物の製造方法が提供される。
【0012】さらに、本発明によれば、2種類の金属板
(a及びb)を接合した複合板材からなる基材上に弗素
樹脂の塗膜からなる被覆層が形成された弗素樹脂被覆物
の製造方法において、複合板材を構成する2種類の金属
板のうちの一方の金属板(a)上に、380℃での溶融
粘度が4×104ポイズ以上のPFAの塗膜からなる被
覆層を形成した後、得られた被覆金属板(a)の被覆層
とは反対側の銅メッキ面上に他方の金属板(b)の銅メ
ッキ面を重ね、次いで、被覆層の面上から、260℃以
上の温度で、加圧面の表面粗度(Ra)がμm以下の
加圧装置により加圧して、被覆層の表面粗度(Ra)を
μm以下にすると同時に、2種類の金属板を接合する
ことを特徴とする弗素樹脂被覆物の製造方法が提供され
る。
【0013】以下、本発明について詳述する。基 材 本発明の弗素樹脂被覆物は、基材上にPFAからなる被
覆層が形成されたものである。基材上にPFAからなる
被覆層を形成するには、PFA塗料を基材上に塗布する
ことにより行う。PFA塗料の塗布対象は、炊飯器内釜
やジャーポット内容器では、釜状または平板状物であ
る。物流面及びホットプレス等の加熱加圧の容易さの観
点から、平板状の方が有利である。平板にPFA被覆層
を形成した場合、後の塑性加工により釜形状等の所望の
形状に加工する。定着用ローラの場合、PFA塗料の塗
布対象は、通常、円筒状である。
【0014】基材の材質は、耐熱性及びコストの点から
金属が好ましい。特に、アルミニウムは、熱伝導性に優
れるため、単独またはアルミニウム合金として使用する
と、好適である。また、金属基材として、鉄、ステンレ
ス等の磁性金属板とアルミニウムまたはアルミニウム合
金板とを接合した複合板材を用いることができる。これ
らの金属基材には、弗素樹脂の接着力を増すために、プ
ライマー塗布したり、ブラスト、電解エッチング等で表
面を粗面化処理を行うことが好ましい。特に、電解エッ
チング処理を行った場合には、金属表面に微小な凹凸が
形成され、それによるアンカー効果が大きいため、高い
接着力が得られる。
【0015】これらの処理を行った金属基材は、そのま
までPFA塗装に用いることができるが、着色、目盛り
等の模様形成を目的として、他の被覆物により予め被覆
しておくことも可能である。このような被覆物として
は、マイカ、カーボン、酸化チタン等で着色したPF
A、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラ
フルオロエチレン/エキサフルオロプロピレン共重合体
(FEP)、及びこれらの混合塗料、ピンホールの減少
を目的とする溶融粘度の低い樹脂塗料、プライマー等が
挙げられる。
【0016】定着用ローラの場合、塗布対象の基材は、
金属円筒、金属箔、金属織物等である。定着用ベルトの
場合には、耐熱性を有するフィルム形状のシームレスパ
イプが基材として用いられる。定着用ベルトには、16
0℃〜250℃程度の定着温度に耐えるだけの耐熱性が
必要なことから、200℃以上の耐熱性を有する材料が
用いられる。そのような耐熱性の材料としては、例え
ば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテル類、
ポリスルホン、液晶ポリマー類等の耐熱性エンジニアリ
ングプラスチックス、及びこれらに熱伝導性、強度等を
与える充填剤を添加したもの等を使用することができ
る。これらの基材の上に、必要があれば、プライマー等
を塗布してから、PFA塗装に用いることができる。
【0017】高溶融粘度のPFA 本発明では、弗素樹脂として、従来、平滑性に優れた被
覆層を形成するのが困難であった溶融粘度の高いPFA
を使用する。本発明で使用するPFAは、ASTM D
−3307に準拠して380℃で測定した溶融粘度が4
×104ポイズ以上の高溶融粘度のPFAである。PF
Aの380℃での溶融粘度は、好ましくは1×105
イズ以上、より好ましくは2×105ポイズ以上、最も
好ましくは3×105ポイズ以上である。このような高
溶融粘度のPFAとしては、例えば、三井デュポンフロ
ロケミカル社製のMP102(380℃での溶融粘度4
×104ポイズ、粒子径25μm)、同社製のMP10
3(380℃での溶融粘度3×105ポイズ、粒子径3
0μm)などの市販品、及びこれらの混合物などを好適
に使用することができる。
【0018】PFAの380℃での溶融粘度が4×10
4ポイズよりも小さいと、被覆層の耐摩耗性が低下す
る。また、高溶融粘度のPFAは、一般に粒子径が比較
的大きいため、例えば、1回のスクリーン塗装(印刷)
により充分な膜厚(通常、40μm以上)の塗膜を形成
することが可能である。PFAの粒子径が小さすぎる
と、充分な膜厚を1回の塗装により得ることが困難であ
る。したがって、PFAの粒子径は、好ましくは10μ
m以上、より好ましくは15μm以上、最も好ましくは
20μm以上である。
【0019】高溶融粘度のPFAは、それ単独で被覆層
を形成させることができるが、所望により、着色料(マ
イカ、カーボンブラック、酸化チタン等)や、耐摩耗性
の一層の向上を目的として炭素繊維、ポリアミドイミ
ド、ポリビスマレイミド等の充填剤(フィラー)を添加
することができる。定着用ローラの場合には、オフセッ
ト防止のため、PFA被覆層の帯電防止が重要であり、
導電性カーボンブラック等の導電性フィラーを充填剤と
して添加することが有効である。一般に、PFAに充填
剤を添加して被覆を行った場合、表面粗度が大きくな
り、また、ピンホールが発生することがある。しかし、
本発明の製造方法を採用すると、フィラーを含有するP
FA塗料を用いても、平滑でピンホールの少ない塗膜が
得られる。フィラーの配合割合は、通常、10重量%以
下、好ましくは5重量%以下である。
【0020】弗素樹脂被覆物の製造方法 基材上に高溶融粘度のPFAを塗装した後、PFAの連
続使用温度(無荷重での最高使用温度)である260℃
以上の温度に加熱し、この温度下で加圧することによ
り、平滑でピンホールの少ない塗膜(被覆層)を得るこ
とができる。加圧は、加圧面の表面粗度(Ra)が1μ
m以下の加圧装置を用いて行う。このような加圧装置と
しては、プレスやロールを挙げることができる。ホット
プレスやホットロールを用いれば、加熱加圧を同時に行
うことができる。これらのプレス面またはロール面は、
目的とする表面粗度以下の平滑性を有することが必要で
ある。また、プレス面やロール面は、PFAと接着し難
く、260℃以上の耐熱性を有し、さらには、PFAか
ら発生する弗酸等の微量のガスに対して耐食性を示す材
料で形成されていることが好ましい。
【0021】プレス面やロール面などの加圧面には、鏡
面加工したステンレス鋼、チタニウム、クロム鋼等の金
属物、及びそのメッキ物の他、アルミナ、炭化ケイ素等
のセラミックスまたはセラミックスコーティング物、ポ
リイミド、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性エン
ジニアリングプラスチックス、及びこれらをガラス繊
維、炭素繊維等で強化したもの、これらのコーティング
物、ダイアモンドコーティング物等種々のものを用いる
ことができる。
【0022】加圧面の表面粗度(Ra)は、1μm以
、好ましくは1μm未満であり、0.5μm以下とす
ることもできる。通常の鏡面加工した金属成形物やその
メッキ物等は、これらの表面粗度の水準を満足すること
ができる。基材上に高溶融粘度のPFAの塗装は、PF
Aのディスパージョンや粉体をディップコート、スピン
コート、静電粉体塗装、ロールコート、スクリーンコー
ト等の従来既知の種々の方法により行うことができる。
なかでも、スクリーン塗装(印刷)を行えば、塗料の有
効使用率が高いこと、40μm以上の厚膜塗布が可能な
こと、膜厚分布が小さいこと等の利点がある。
【0023】スクリーン印刷用の塗料としては、PFA
を界面活性剤を主体とする分散媒で分散したものが適し
ている。界面活性剤としては、塗膜に茶変等を生じない
熱分解性の良好なものが用いられる。具体的には、エチ
レンオキサイド系、プロピレンオキサイド系、及びそれ
らの共重合体系などのノニオン系界面活性剤が好まし
い。PFA被覆層の膜厚は、耐摩耗性と熱伝導性の観点
から、40〜70μm程度とすることが好ましい。この
膜厚が薄すぎると耐摩耗性が低下し、逆に、厚すぎると
熱伝導性が低下するため、いずれも好ましくない。
【0024】PFA被覆層の加熱加圧は、PFAが粉体
状であっても、PFAが焼結されていても行うことがで
きる。基材上にPFA塗膜(被覆層を形成した後、加
熱加圧する方法としては、図1〜4に示す方法が例示さ
れる。図1に示す方法では、例えば、アルミニウム基板
1上にPFA被覆層2が形成された被覆物の該PFA被
覆層の面上から、加圧面の表面粗度(Ra)がμm以
下のプレス3により加熱加圧する。基板1と被覆層2と
の境界のギザギザは、粗面化処理により基板上に形成さ
れた微小な凹凸を示す。図2に示す方法では、ホットプ
レス3の代わりにホットロール4を用いて加熱加圧す
る。
【0025】図3に示す方法では、例えば、アルミニウ
ム円筒1上にPFA被覆層2を形成し、芯材5によって
変形しないようにしておいてから、ホットロール6によ
り加熱加圧する。円筒1と被覆層2との境界のギザギザ
は、前記と同様、粗面化処理により円筒上に形成された
微小な凹凸を示す。図4に示す方法では、アルミニウム
板1と鏡面加工したステンレス板7とを接合した複合板
材からなる基板上にPFA被覆層2を形成したものを複
数枚重ね合わせて、一度にプレス3により加熱加圧す
る。
【0026】近年、炊飯器用途として、アルミニウム
(アルミニウム合金を含む)とステンレスとのクラッド
板(複合板材)を基材として、アルミニウム面上にPF
A塗装したものが用いられている。このクラッド板は、
PFA塗装前に張り合せた(接合した)ものを使用でき
るが、PFA被覆層の加熱加圧工程において、クラッド
製造工程を同時並行することも可能である。
【0027】即ち、2種類の金属板を接合した複合板材
からなる基材上に弗素樹脂の被覆層が形成された弗素樹
脂被覆物を製造する場合、複合板材を構成する2種類の
金属板のうちの一方の金属板(アルミニウム板)上にP
FA被覆層を形成した後、得られた被覆金属板の被覆層
とは反対側の面上に他方の金属板(ステンレス板)を重
ね、次いで、被覆層の面上から加熱加圧すれば、被覆層
の表面粗度(Ra)を1μm以下にすると同時に、2種
類の金属板を接合することができる。
【0028】クラッド板を使用した場合、PFA塗装後
の焼結過程でアルミニウム板とステンレス板との間の熱
膨張率の差から、クラッド板がそる現象がある。このた
め、PFAの加熱加圧工程でムラが生じる問題があっ
た。しかしながら、前記した加熱加圧工程とクラッド板
製造工程を同時に行う方法によれば、この問題による不
良品の発生率を減らすことができる利点がある。また、
この方法によれば、製造工程を短縮できるメリットがあ
る。
【0029】加熱温度は、PFAの連続使用温度である
260℃以上の温度とするが、好ましくはPFAの融点
(302〜310℃)以上とする。加熱温度の上限は、
PFAの熱分解が生じ難い400℃未満、より好ましく
は370℃以下、さらに好ましくは360℃以下とする
ことが望ましい。本発明の方法によれば、PFA被覆層
を加熱加圧するため、燒結温度を高くしなくても平滑性
に優れた被覆層を形成することができる。また、加熱温
度を260〜360℃程度の比較的低温条件を採用する
ことにより、PFAの熱分解を避けることができる。加
熱加圧と同時にPFA被覆層の燒結を行うことができ
る。あるいは、PFA被覆層の燒結を行った後、加熱加
圧処理を行ってもよい、この場合、燒結温度は、400
℃未満とすることが好ましい。加熱加圧時間は、加熱温
度や加圧手段等に応じて適宜定めることができるが、通
常、5分間から5時間、好ましくは10分間から3時間
程度である。
【0030】弗素樹脂被覆物 一般に、炊飯器内釜等の弗素樹脂被覆物には、非粘着性
でピンホールのないことが要求される。PFAが本来持
つ非粘着性を充分に発揮させるには、表面が平滑である
必要がある。表面の平滑性は、JIS B−0601で
規定されている中心線平均粗さ(Ra)、即ち、表面粗
度(Ra)で表すことができる。
【0031】炊飯器用途には、弗素樹脂被覆物の表面粗
度(Ra)が1μm以下であることが望ましい。一方、
定着用ローラや定着用ベルトの用途において、オフセッ
トを生じないようにするには、表面粗度(Ra)が1μ
m以下であることが好ましく、より好ましくは1μm未
満である。ところが、弗素樹脂として380℃で測定し
た溶融粘度が4×104ポイズ以上のPFAを使用した
場合、粘度が高すぎるため、塗布後の焼結のみでは目標
とするRa値が得られなかった。特に3×105ポイズ
以上の溶融粘度のPFAを使用した場合には、あまりに
も溶融粘度が高すぎて、電気化学的に検出可能なピンホ
ールの発生が避け難いという問題があった。
【0032】本発明の方法は、高分子量のPFAが示す
表面粗度(Ra)が大で、ピンホールの発生という問題
を解決するために、PFAの耐熱温度とされている26
0℃以上の温度域において、PFA被覆層を平滑な加圧
面を持つ加圧装置により加圧する点に特徴を有する。こ
の方法によれば、目的とするRa値が得られる他、ピン
ホールを減少させることが可能である。本発明の弗素樹
脂被覆物の表面粗度(Ra)は、1μm以下、好ましく
は1μm未満、より好ましくは0.8μm以下である。
0.7μm以下とすることも可能である。本発明の弗素
樹脂被覆物は、ピンホール度(測定法は後記する)が、
好ましくは0mA/cm2であり、ピンホール防止性に
優れている。さらに、本発明の弗素樹脂被覆物は、高分
子量のPFAを使用しているため、耐摩耗性が顕著に優
れている。
【0033】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明に
ついてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実
施例のみに限定されるものではない。なお、物性の測定
方法は、次の通りである。 (1)表面粗度 JIS B−0601に規定されている中心線平均粗さ
(Ra)の測定法に従って表面粗度を測定した。単位
は、μmである。 (2)ピンホール度 弗素樹脂被覆物を2.5重量%塩化ナトリウム水溶液に
浸漬し、弗素樹脂被覆物の金属基材を陰極とし、水溶液
中に電極を入れて陽極とし、10vで5秒間通電した
時、ピンホール部分により流れる電流(mA)を単位面
積当りに換算して求めた。単位は、mA/cm2であ
る。 (3)スコッチブライト耐摩耗テスト 弗素樹脂被覆層の表面にスコッチブライト(登録商標)
を接触させた状態で回転させ、その際の摩耗量を、厚み
1μmのPFA層が削られるのに要する回転数で示し
た。単位は、103回/μmである。
【0034】[実施例1〜4、比較例1〜4]弗素樹脂
被覆基材として、アルミニウム合金板(神戸製鋼製、A
SB材)を用いた。このアルミニウム板を陽極として、
塩化アンモニウム水溶液中で25クーロン/cm2の電
気量で電気化学的エッチング処理を行い、アルミニウム
板の表面を粗面化した。この表面には、約1μm〜約2
0μmのピッチで凹凸が認められた。PFA塗料とし
て、高分子量のPFA(三井デュポンフロロケミカル
製、MP103、380℃での溶融粘度3×105ポイ
ズ、粒子径30μm)60重量%と、分散媒としてノニ
オン系界面活性剤(三洋化成製、PL910)40重量
%とを混合したものを用いた。
【0035】このPFA塗料を上記のアルミニウムエッ
チング板に、スクリーン印刷した。使用した紗(スクリ
ーンメッシュ)は、SUS120(中沼アートスクリー
ン製のSUS製120メッシュ/インチ)であり、スキ
ージにはウレタンゴムを用いた。スクリーン印刷後、1
00℃で5分間、250℃で5分間加熱して分散媒を蒸
散させた。このようにしてPFA被覆層が形成されたア
ルミニウム板のサンプルを得た。
【0036】<比較例1>上記のサンプルを390℃で
10分間加熱し、焼結した。得られた弗素樹脂被覆物
は、その表面粗度(Ra)が3.0μmと大きく、平滑
性に劣るものであった。
【0037】<比較例2>上記のサンプルを420℃で
1時間加熱し、焼結した。燒結温度を高温にしているた
め、得られた弗素樹脂被覆物の表面粗度(Ra)は、
1.3μmと良好であったが、PFAの分解が認められ
たため、耐摩耗性試験は行わなかった。
【0038】<実施例1>上記のサンプルを、340
℃、100kg/cm2、10分間ホットプレスして、
焼結と平滑化処理を同時に行った。プレス面は、鏡面加
工したステンレス鋼により形成されたものであって、そ
の表面粗度(Ra)は、0.1μm以下であった。
【0039】<実施例2>比較例1で得られた燒結サン
プルを、340℃、100kg/cm2、3分間ホット
プレスした。
【0040】<実施例3>基材として、上記のアルミニ
ウムエッチング板の反対側を銅メッキしたものを用いた
こと以外は、前記と同様にしてPFA被覆層が形成され
たアルミニウム板のサンプルを作成した。このサンプル
を比較例1と同様にして燒結した後、銅メッキ面の下
に、上面を銅メッキしたステンレス板を置き、305
℃、500kg/cm2加圧下、3時間ホットプレスし
た。
【0041】<実施例4>基材として、アルミニウム板
とステンレス板を接合したクラッド板であって、アルミ
ニウム板の面をエッチング処理したものを用いたこと以
外は、前記と同様にしてPFA被覆層が形成されたクラ
ッド板のサンプルを作成した。このサンプルを比較例1
と同様にして燒結した後、305℃、500kg/cm
2加圧下、3時間ホットプレスした。
【0042】<比較例3>アルミニウムエッチング板
に、PFA塗料として、MP102(三井デュポンフロ
ロケミカル社製PFA、380℃での溶融粘度4×10
4ポイズ、粒子径25μm)70重量%と、ノニオン系
界面活性剤(三洋化成製、PL910)30重量%との
混合物をスクリーン印刷した後、100℃で5分間、2
50℃で5分間、さらに390℃で10分間加熱焼結し
た。
【0043】<比較例4>アルミエッチング板に、PF
A塗料として、MP102(三井デュポンフロロケミカ
ル社製PFA、380℃での溶融粘度4×104ポイ
ズ、粒子径25μm)33.3重量%、AD−2CR
(ダイキン社製PFA、380℃での溶融粘度1.5×
104ポイズ、粒子径0.4μm)30.4重量%、水
34.8重量%、弗素系界面活性剤ユニダインDS−4
01(ダイキン社製)、及び炭化水素系界面活性剤ノニ
オンK−204(日本油脂社製)を混合したものを用
い、スピンコートした。次いで、100℃で5分間、2
50℃で5分間、さらに390℃で10分間加熱焼結し
た。実施例1〜4、及び比較例1〜4の結果を表2に示
す。
【0044】
【表2】
【0045】表2の結果から明らかなように、380℃
での溶融粘度3×105ポイズの高溶融粘度のPFAを
用いた場合、従来の塗布後に燒結する方法によれば(比
較例1)、表面粗度(Ra)が大きく、ピンホールの多
い弗素樹脂被覆物しか得ることができない。燒結温度を
420℃に上げると(比較例2)、表面粗度(Ra)を
小さくすることができるが、PFAの分解が著しくな
る。
【0046】380℃での溶融粘度が4×104ポイズ
のPFAを用いた場合(比較例3)であっても、従来法
によれば、表面粗度(Ra)を1μm以下にすることは
できない。380℃での溶融粘度が4×104ポイズの
PFAに、溶融粘度が1.5×104ポイズのPFAを
ブレンドしたものを用いた場合(比較例4)には、従来
法によっても、表面粗度(Ra)を1μm以下にするこ
とができるが、耐摩耗性が著しく低下する。これに対し
て、本発明の方法により得られた弗素樹脂被覆物(実施
例1〜4)は、表面粗度(Ra)が0.5μm以下と小
さく、表面平滑性に優れていると共に、ピンホールがな
く、耐摩耗性も顕著に優れている。
【0047】[実施例5]宇部興産社製ポリイミドワニ
ス(U−ワニス−S)に、平均粒子径1.5μmの昭和
電工製ボロンナイトライド(UHP−S1)を加え、撹
拌、脱泡を行い、固型分比16容量%のフィラー入りワ
ニスを得た。このワニスを円柱金型上にディッピングに
より、一定厚に付着させた後、100〜200℃の段階
的加熱により溶媒除去を行った。次に、ポリイミド層の
上に、カーボンを3重量%配合したプライマー層をディ
ッピングにより形成し、その上に、PFA(三井デュポ
ンフロロケミカル製、MP103、380℃での溶融粘
度3×105ポイズ、粒子径30μm)99.3重量%
とカーボンブラック0.7重量%を含有する弗素樹脂被
覆層をスクリーン印刷法により形成した。ポリイミド及
び弗素樹脂を390℃で焼成後、310℃で、クロムメ
ッキロール(Ra=0.1μm)でヒートロールした。
ロールしながら冷却後、金型を引き抜き定着用ベルトを
得た。この定着用ベルトの表面粗度(Ra)は、0.5
μmであり、定着に使用した場合、オフセットを生じな
かった。この定着用ベルトの熱伝導率は、0.2kca
l/mhrであり、実機装置耐久時間は、3000時間
であった。
【0048】[実施例6]弗素樹脂被覆層としてMP1
02(三井デュポンフロロケミカル社製PFA、380
℃での溶融粘度4×104ポイズ、粒子径25μm)を
含む層を形成すること、ヒートロール温度を305℃と
したこと以外は実施例5と同様にして、定着用ベルトを
作成した。この定着用ベルトの表面粗度(Ra)は、
0.4μmであり、定着に使用した場合、オフセットを
生じなかった。この定着用ベルトの熱伝導率は、0.2
kcal/mhrであり、実機装置耐久時間は、約15
00時間であった。
【0049】[実施例7] アルミニウム製の外径30mmφ、肉厚2mmのローラ
の表面を切削加工により2μmの表面粗さに仕上げ、洗
浄した後、約10μmの厚さでプライマー(タフコート
TCW−8808、ダイキン社製)を塗布し、半乾燥状
態で、PFA(三井デュポンフロロケミカル製、MP1
03、380℃での溶融粘度3×105ポイズ、粒子径
30μm)を粉体塗装した。これを250℃で10分間
乾燥し、次いで、390℃で30分間の焼成を行った
後、実施例5と同様にしてヒートロールし、PFAで被
覆された複写材用定着ローラを得た。この定着ローラ
表面粗度(Ra)は、0.6μmであり、定着に使用し
た場合、オフセットを生じなかった。実機装置耐久時間
は、約2000時間であった。
【0050】[実施例8]PFAとして、MP102
(三井デュポンフロロケミカル社製、380℃での溶融
粘度4×104ポイズ、粒子径25μm)を用い、ロー
ル温度を300℃としたこと以外は、実施例7と同様に
して、PFAで被覆された複写材用定着ローラを得た。
この定着用ベルトの表面粗度(Ra)は、0.4μmで
あり、定着に使用した場合、オフセットを生じなかっ
た。実機装置耐久時間は、約1500時間であった。
【0051】
【発明の効果】本発明によれば、弗素樹脂として、高分
子量のPFAを使用しているため、耐熱性、非粘着性、
耐摩耗性等に優れ、しかも加熱加圧処理により平滑性が
顕著に改善され、ピンホールの発生が抑制された弗素樹
脂被覆物を提供することができる。本発明の方法は、特
に、380℃での溶融粘度が3×105ポイズ以上のP
FAの被覆に適している。加熱加圧により平滑にするた
め、弗素樹脂被覆層の研磨工程を省略または簡略化で
き、時間、樹脂が節約できる。
【0052】本発明の弗素樹脂被覆物は、電子写真複写
機、ファクシミリ、プリンター等の定着ローラや定着用
ベルトに使用すると、オフセットを生じることなく、長
寿命化を達成することができる。また、従来と同等の耐
久性を維持するのに必要な弗素樹脂被覆層を薄肉化する
ことができるため、熱伝導性に優れた製品を得ることが
できる。必要な樹脂量が少ないことは、省資源と省エネ
ルギーの点でも効果的である。
【0053】本発明の弗素樹脂被覆物を炊飯器内釜、ジ
ャーポット内釜等の内容器に使用した場合、洗浄による
磨減が少ないため、従来より製品寿命を長くすることが
できる。また、本発明の弗素樹脂被覆物は、薄肉化によ
り、熱伝導性を上げることができる。さらに、本発明の
弗素樹脂被覆物は、ピンホールがないため、金属容器を
腐食から効果的に防止することができる。本発明の弗素
樹脂被覆物は、表面が平滑であるため、高い非粘着性を
示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】基材上にPFA被覆層を形成した後、ホットプ
レスにより加熱加圧する方法を示す断面図である。
【図2】基材上にPFA被覆層を形成した後、ホットロ
ールにより加熱加圧する方法を示す断面図である。
【図3】円筒状基材上にPFA被覆層を形成した後、ホ
ットロールにより加熱加圧する方法を示す断面図であ
る。
【図4】複合板材基材上にPFA被覆層を形成した後、
複数枚重ねてホットプレスにより加熱加圧する方法を示
す断面図である。
【符号の説明】
1:アルミニウム基材 2:PFA被覆層 3:ホットプレス 4:ホットロール 5:芯材 6:ホットロール 7:鏡面加工したステンレス板
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 西村 昭 大阪府大阪市此花区島屋1丁目1番3号 住友電気工業株式会社大阪製作所内 (72)発明者 西 雅也 大阪府泉南郡熊取町大字野田950番地 住友電気工業株式 (56)参考文献 特開 平5−309786(JP,A) 実開 平1−93426(JP,U) 工業用フィルム市場,シーエムシー, 1993年 6月 8日,第1刷,176−177 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B32B 1/00 - 35/00

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基材上に弗素樹脂の塗膜からなる被覆層
    が形成された弗素樹脂被覆物において、弗素樹脂が38
    0℃で測定した溶融粘度が4×104ポイズ以上のテト
    ラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエー
    テル共重合体(PFA)であり、かつ、被覆層の表面粗
    度(Ra)がμm以下であることを特徴とする弗素樹
    脂被覆物。
  2. 【請求項2】 弗素樹脂がフィラーを含有するPFAで
    ある請求項1記載の弗素樹脂被覆物。
  3. 【請求項3】 基材上に、380℃で測定した溶融粘度
    が4×104ポイズ以上のPFAの塗膜からなる被覆層
    を形成した後、得られた被覆物を、被覆層の面上から、
    260℃以上の温度で、加圧面の表面粗度(Ra)が
    μm以下の加圧装置により加圧することを特徴とする被
    覆層の表面粗度(Ra)がμm以下の弗素樹脂被覆物
    の製造方法。
  4. 【請求項4】 基材上へのPFAの塗膜からなる被覆層
    の形成をスクリーン塗装法により行う請求項3記載の製
    造方法。
  5. 【請求項5】 2種類の金属板(a及びb)を接合した
    複合板材からなる基材上に弗素樹脂の塗膜からなる被覆
    層が形成された弗素樹脂被覆物の製造方法において、複
    合板材を構成する2種類の金属板のうちの一方の金属板
    (a)上に、380℃での溶融粘度が4×104ポイズ
    以上のPFAの塗膜からなる被覆層を形成した後、得ら
    れた被覆金属板(a)の被覆層とは反対側の銅メッキ
    上に他方の金属板(b)の銅メッキ面を重ね、次いで、
    被覆層の面上から、260℃以上の温度で、加圧面の表
    面粗度(Ra)がμm以下の加圧装置により加圧し
    て、被覆層の表面粗度(Ra)をμm以下にすると同
    時に、2種類の金属板を接合することを特徴とする弗素
    樹脂被覆物の製造方法。
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