JP3345454B2 - 水素貯蔵合金を用いた還元方法 - Google Patents

水素貯蔵合金を用いた還元方法

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  • Low-Molecular Organic Synthesis Reactions Using Catalysts (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水素貯蔵合金を用い
た、種々の化合物の還元反応の反応性を向上させる方法
に関する。さらに詳しくは、反応に触媒として用いる水
素貯蔵合金の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】還元反応は種々の化合物の合成や、変換
の過程で用いられる重要な反応であり、広義にはある物
質が電子を得る過程を、その物質が還元されたと称し、
狭義には酸化物をもとにもどすことをさすが、最近で
は、還元反応とは前者の電子の受容をさす。通常は電子
の供与体である還元剤として種々の試薬が用いられる
が、特に発生期の水素は還元力が高いといわれている。
本発明者らはこの発生期の水素の供給源として、水素貯
蔵合金を用いることに着目し、種々の還元反応におい
て、低温、低圧条件で容易に反応を進行させることがで
きることを見出した。例えば、特開平4─103546
号公報には糖質の還元方法が開示されており、特開平4
─154730号公報にはジスルフィド結合の還元方法
が開示されている。また本発明者らは、水素貯蔵合金を
用いた還元反応として、特願平3─307152号には
カルボニル化合物を水素化還元する方法、特願平3─3
07153号には炭素─炭素多重結合を水素化還元する
方法、特願平3─307154号には還元的アミノ化
法、特願平3─307155号には還元的アルキル化・
還元的アミノ化法、特願平3─307156号には窒素
化合物の水素化還元方法、特願平3─355679号に
はハロゲン化合物の脱ハロゲン化方法をそれぞれ開示し
ている。
【0003】上記の反応には水素貯蔵合金として、希土
類元素もしくはCaとNiを必須元素とする六方晶のC
aCu5 型の結晶構造を有する水素を吸蔵させた水素貯
蔵合金の粉末(粉末径0.5─100μm)を還元しよ
うとする化合物を含有する溶液中に加え、0─160℃
程度に加温しながら緩やかに攪拌しながら反応を進行さ
せていた。この方法による反応には、水素貯蔵合金から
放出される発生期の水素と貯蔵合金自体の触媒作用によ
るものと考えられている。
【0004】水素貯蔵合金を用いた還元反応は、緩やか
な条件下で反応が進行するところに特徴を有している
が、その反応効率は必ずしも高いものではなかった。例
えばグルコースを還元してソルビトールを生成させる反
応では、反応温度を40℃とし24時間後でソルビトー
ルの生成は35%であることが確認されている。このた
め、水素貯蔵合金を用いた還元反応においてより高い反
応収率を得るための試みがなされて来た。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは水素貯蔵
合金を用いた還元反応について研究をすすめたところ、
水素貯蔵合金のうち、上述した希土類元素もしくはCa
とNiを必須元素とする六方晶のCaCu5 型の結晶構
造を有する水素を吸蔵させた水素貯蔵合金の粉末を還元
反応に用いる場合に、その反応溶液のpHが反応の効率
に大きく関与することを見出し、この現象の検討を進め
た。これは希土類元素もしくはCaとNiを必須元素と
する六方晶のCaCu5 型の結晶構造を有する水素貯蔵
合金の希土類元素もしくはCaを合金から部分的に溶解
させる条件に水素貯蔵合金を置くと、合金の微小表面の
状態が変化し、結果的に反応に関与する表面積が増大
し、反応効率が増加することが確認できた。従って本発
明はこのような知見に基づいたもので、水素貯蔵合金を
用いる還元反応において、還元反応効率を向上させる方
法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明で用いる水素貯蔵
合金は、水素貯蔵量、水素排出圧力、水素排出温度など
の機能に基づいて選択されるが、その構成金属原子によ
ってこれらの機能は大きく異なる。本発明に使用する水
素貯蔵合金は、水素貯蔵能、還元反応の触媒能などか
ら、希土類元素もしくはCaとNiを必須元素とする六
方晶のCaCu5型の結晶構造を有するものが好まし
い。この水素貯蔵合金に含まれている金属が、酸により
部分的に溶出し、合金の微細構造上の表面積を増大させ
るような合金を選択することが特に重要である。このよ
うな水素貯蔵合金としてはCaNi5、LaNi5 、L
aNin Al5-n (nは0〜5の数値をしめす)を挙げ
ることができる。無論これ以外の水素貯蔵合金であって
も希土類元素もしくはCaとNiを必須元素とする六方
晶のCaCu5 型の結晶構造であれば、本発明において
は使用可能である。水素貯蔵合金の結晶構造と金属原子
の関係は、「水素貯蔵合金データブック,大角泰章,7
2─93頁,昭和62年,与野書房刊」に詳細に開示さ
れている。
【0007】このような水素貯蔵合金を還元反応に用い
る場合には、水素貯蔵合金をあらかじめ酸で処理をする
か、還元反応を行う溶液中に酸を添加することにより、
まず水素貯蔵合金の微小表面を変化させ、水素貯蔵合金
の還元反応効率を向上させる。水素貯蔵合金は、通常は
粉末(粉末径0.5─100μm)で反応を行うが、そ
の表面状態は図1に示す電子顕微鏡像のように、金属と
しての滑面状態を維持している。この表面を酸で処理す
ることにより、金属の表面は図2に示すように粗面状態
に変化する。このような状態となった水素貯蔵合金を用
いて反応を行うことにより反応効率は、このような処理
を行う前の2〜10倍以に向上する。水素貯蔵合金の処
理を、あらかじめ酸で処理をするか、還元反応溶液中で
行うかは、反応対象物や、反応生成物の安定性や物理化
学的特性にあわせて適宜選択すれば良い。
【0008】水素貯蔵合金を酸処理する場合は、粉末状
態の水素貯蔵合金を100gあたり500ml〜200
0mlの水に懸濁し、攪拌しながら酸を添加する。添加
する酸としては、pKaが5以下の酸であればどのよう
な酸であっても使用できるが、通常は塩酸、硫酸、硝
酸、過塩素酸などの無機酸、酢酸、クエン酸などの有機
酸を例示することができる。これらの酸を最終濃度1〜
20%濃度になるように添加し、0℃〜60℃の条件で
1〜6時間攪拌を行い、その後水素貯蔵合金を沈殿さ
せ、上清を捨て、水素貯蔵合金を水で洗浄し、pHが中
性になるまで繰り返し洗浄を行う。次いで目的とする還
元反応に用いる溶媒にて水を置換する。この水素貯蔵合
金に水素を吸蔵させた後、還元反応を行おうとする化合
物の溶液を密閉容器中に入れ、脱気攪拌しながら反応溶
液を0〜160℃に10分〜72時間保持するか、ジャ
ケット式により水素貯蔵合金を加熱または冷却し得るよ
うにした棚段式カラムに水素貯蔵合金を封入し、0〜1
60℃の反応溶液を10分〜72時間循環させることに
より還元反応を行わせる。
【0009】水素貯蔵合金を反応溶液中に加え、その後
酸を添加して水素貯蔵合金の表面状態を変化させる場合
は、上述したと同様に、密閉式の反応容器に、あらかじ
め水素を吸収させた水素貯蔵合金を入れる。この容器内
にあらかじめ脱気した反応溶液と酸を加え、冷却しなが
ら攪拌を1〜6時間行うか、あるいは冷却攪拌を1〜2
時間程度行った後反応に適した温度まで温度を上げ、反
応を行うこともできる。この場合に使用する酸は、pK
a5以下の酸であればどのような酸であっても使用でき
るが、通常は塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機
酸、酢酸、クエン酸などの有機酸を例示することができ
る。これらの酸を最終濃度0.1〜10%濃度になるよ
うに添加するが、特に0.5〜5%が好ましい。反応溶
液中の酸濃度が高すぎると水素貯蔵合金が酸により溶解
し水素貯蔵能が低下するため好ましくない。また酸の濃
度が低いと反応の進行が遅く、発明で期待する効果が得
られない場合もある。
【0010】本発明方法の還元反応はこれまで知られて
いる水素貯蔵合金を用いた還元反応と同様に、水素貯蔵
合金の水素放出の特性を考慮し、室温から70℃の範囲
内の温度条件とすることが好ましい。これより高い温度
であっても還元反応は進行するが、70℃より高い温度
の場合、副成物の生成が多くなる場合があり好ましくな
い。還元反応時の水素圧は20kg/cm2 未満の水素
ガスの圧力で反応が進行するが、還元反応の種類により
水素ガス圧力は適宜調整することができる。またこのよ
うな低い水素ガス圧力で反応が進行するため、非常に安
全な方法ということができる。この水素ガス圧力は反応
温度により調整する。
【0011】反応終了後、容器内の水素ガスを回収し、
次いで反応溶液を回収し、容器内の水素貯蔵合金を冷却
する。水素貯蔵合金は回収し、再度水素を吸蔵させ、次
の還元反応に使用することができる。反応溶液は、生成
化合物を常法により、分離する。この分離操作は目的化
合物にあわせて適宜選択することができる。以下に実施
例を示し本発明を詳細に説明する。
【0012】
【実施例1】本実施例においては、予め酸処理を行った
水素貯蔵合金を用いた還元反応の実例を示す。 (1)2,5−ジメチルヘキサン−3−イン−2,5−
ジオールの還元による2,5−ジメチル2,5−ヘキサ
ンジオールの合成 水素貯蔵合金LaNi5 300gを水2lに懸濁し、6
規定の塩酸300mlを添加し、6時間冷却しながら撹
拌した。その後、液が中性になるまでデカンテーション
を行った。処理した水素貯蔵合金100gを取り、反応
に用いた。容量が1lのデッドエンド式の反応容器に、
この水素貯蔵合金を入れ水素を貯蔵させる。これにあら
かじめ、40℃、真空度750mmHgで4分間脱気し
た後冷却した2,5−ジメチルヘキサン−3−イン−
2,5−ジオール0.5%の水溶液400mlを反応容
器に注入した。その後、撹拌しながら反応温度を50℃
に調整した。このとき、反応容器内のガス圧は、6.5
kg/cm2 であった。2時間後、反応溶液の一部を採
取しガスクロマトグラフィーにて分析したところ2,5
−ジメチル2,5−ヘキサンジオールが生成しているこ
とを確認した。この分析から2,5ジメチル−2,5−
ヘキサンジオールは定量的に生成していることが明らか
になった。ちなみに、酸処理しない水素吸蔵合金を用い
て反応を行うと定量的に反応が進むまでに3時間必要で
あった。
【0013】(2)4─ニトロフェノールの還元による
4−アミノシクロヘキサノールの合成 水素貯蔵合金LaNi4 Al1 300gを水2lに懸濁
し、6規定の硫酸300mlを添加し、6時間冷却しな
がら撹拌した。その後液が中性になるまでデカンテーシ
ョンを行った。処理した水素貯蔵合金を100g取り、
反応に用いた。容量が1リットルのデッドエンド式の反
応容器に、この水素貯蔵合金を入れ水素を貯蔵させた。
これにあらかじめ、40℃、真空度750mmHgで5
分間脱気した後冷却した4─ニトロフェノール0.5%
の水溶液400mlを反応容器に注入した。その後、撹
拌しながら反応温度を80℃に調整した。この時、反応
容器内のガス圧は、12.5kg/cm2 であった。6
時間後、HPLCを用いて反応液を分析したところ77
%の収率にて目的とする4−アミノシクロヘキサノール
が生成していることを確認した。ちなみに、酸を用いて
処理しない水素貯蔵合金にて反応を行うと6時間の時点
で目的物は51%しか生成していなかった。
【0014】(3)2,3−ジメチル─1,3─ブタジ
エンの還元による2,3─ジメチル─1─ブテンの合成 水素貯蔵合金LaNi5 300gを水2lに懸濁し、6
規定の塩酸300mlを添加し、6時間冷却しながら撹
拌した。そして、液が中性になるまでデカンテーション
を行い、液が完全に置き換るまでメタノールで合金を洗
浄し、さらに同様にヘキサンで洗浄した。この処理した
水素貯蔵合金を80gを取り、反応に用いた。容量が1
リットルのデッドエンド式の反応容器に、この水素貯蔵
合金を入れ水素を貯蔵させた。これにあらかじめ、40
℃、真空度750mmHgで5分間脱気した後冷却した
2,3−ジメチル─1,3─ブタジエン5%のヘキサン
溶液400mlを反応容器に注入した。その後、撹拌し
ながら反応温度を15℃に調整した。このとき、反応容
器内のガス圧は、1.5kg/cm2 であった。30分
後、ガスクロマトグラフィーを用いて反応液を分析した
ところ67%の収率にて目的とする2,3─ジメチル─
1─ブテンが生成していることを確認した。ちなみに、
酸を用いて処理しない水素貯蔵合金にて反応を行うと3
0分の時点で目的物は39%しか生成していなかった。
【0015】
【実施例2】本実施例においては、酸性条件下において
水素貯蔵合金を用いた還元反応の例を示す。 (1)グルコースの還元によるソルビトールの合成 容量が1リットルのデッドエンド式の反応容器に、あら
かじめ水素を貯蔵させた100gの水素貯蔵合金LaN
5 を入れた。これにあらかじめ、40℃、真空度75
0mmHgで5分間脱気した後冷却したグルコース20
%、酢酸1.5%の水溶液400mlを反応容器に注入
した。その後、撹拌しながら反応温度を40℃に調整し
た。このとき、反応容器内のガス圧は、8.5kg/c
2 であった。この反応では、反応時間6時間で約50
%、反応時間24時間で97%のソルビトールが生成し
ていることをHPLCを用いて確認した。ちなみに、酸
を添加しないで行ったところ反応時間6時間で約12
%、反応時間24時間で35%のソルビトールが生成し
ていた。この時6時間反応後の水素貯蔵合金を反応容器
から取り出し電子顕微鏡で観察をした。これを図3に示
した。先に示した図2の電子顕微鏡写真に非常に類似し
た構造を示していた。一方、酸を添加しないで同様な反
応を行わせ、同じく6時間経過した後水素貯蔵合金を反
応容器から取り出し電子顕微鏡で観察をした。これを図
4に示した。両者の表面構造には大きな差が認められ
た。得られたソルビトール溶液は、ろ過を行い合金を除
去した後脱塩樹脂を通し酸を除去した。さらに、結晶化
を行ったところ、反応時間24時間で得られた結晶は、
71gであった。また、得られた結晶は、IR、GC−
MS等によりソルビトールに間違いがない事を確認し
た。一方、酸を添加しない反応ではソルビトールの収量
は22gであった。この反応効率の差は水素貯蔵合金の
表面状態の差により生じたものと考えられた。
【0016】(2)N−ベンジルオキシカルボニルアラ
ニンの還元反応による脱保護化反応 容量が1リットルのデッドエンド式の反応容器に、水素
を貯蔵させた100gの水素貯蔵合金LaNi4 Al1
を入れた。これにあらかじめ、40℃、真空度750m
mHgで5分間脱気した後冷却したN−ベンジルオキシ
カルボニルアラニン5%、塩酸1.0%の水溶液400
mlを反応容器に注入した。その後、撹拌しながら反応
温度を40℃に調整した。この時、反応容器内のガス圧
は、8.5kg/cm2 であった。TLCを用い反応を
追跡したところ1時間でN−ベンジルオキシカルボニル
アラニンのスポットが消失し、脱保護が完全に終了して
いる事を確認した。TLCにおいてアラニンのスポット
を確認し、副反応は認められなかった。ちなみに酸を添
加しないで反応を行うとN−ベンジルオキシカルボニル
アラニンが、完全に消失するのにかかる時間は、12時
間であった。
【0017】
【発明の効果】本発明の実施により水素貯蔵合金を用い
た種々の還元反応効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図 1】酸による処理を行う前の水素貯蔵合金の表面
状態の電子顕微鏡による20,000倍の金属組織観察
写真を示す。
【図 2】酸による処理を行った後の水素貯蔵合金の表
面状態の電子顕微鏡による20,000倍の金属組織観
察観察写真を示す。
【図 3】酸を添加し、還元反応を行い6時間経過した
後の水素貯蔵合金の表面状態の電子顕微鏡による20,
000倍の金属組織観察写真を示す。
【図 4】酸を添加せず、還元反応を行い6時間経過し
た後の水素貯蔵合金の表面状態の電子顕微鏡による2
0,000倍の金属組織観察写真を示す。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C07C 31/20 C07C 31/20 Z 31/26 31/26 213/02 213/02 215/44 215/44 227/20 227/20 229/08 229/08 // C07B 61/00 300 C07B 61/00 300 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07B 31/00 C07C 5/05 C07C 11/107 C07C 29/14 C07C 29/17 C07C 31/20 C07C 31/26 C07C 213/02 C07C 215/44 C07C 227/20 C07C 229/08

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】希土類元素もしくはCaとNiを必須元素
    とする六方晶のCaCu5 型の結晶構造を有する水素貯
    蔵合金を用いる還元反応において、水素貯蔵合金の表面
    を、電子顕微鏡による観察像が滑面状態から粗面状態と
    なるまで酸によって変化させることにより、反応性を上
    昇させることを特徴とする還元方法。
  2. 【請求項2】水素貯蔵合金の表面を酸により変化させる
    方法が、反応溶液中に添加した酸により行う方法である
    請求項1記載の方法。
  3. 【請求項3】水素貯蔵合金の表面を酸により変化させる
    方法が、還元反応に用いる水素貯蔵合金をあらかじめ酸
    処理することにより行う方法である請求項1記載の還元
    方法。
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