JP5260128B2 - 有機化合物の還元方法および還元処理装置 - Google Patents
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Description
安全かつ高効率で水素化反応を行なう方法としては、パラジウムやパラジウム合金のような高い水素吸蔵能力を有する金属を用いて水素を保持させ、この水素吸蔵金属を有機化合物と接触させる方法が知られている。水素吸蔵金属中の水素は活性化されて強い反応性を示し、水素吸蔵金属自体が水素供給源および有機化合物の水素化触媒として機能する。
また、油に添加された酸化防止剤の機能を維持するためには、酸化防止剤を追加して添加しなければならないが、添加量にも限界があるため、酸化防止剤の機能を保持させる方法も要望されている。
さらに、本発明における有機化合物としては、潤滑油を用いることが必要である。潤滑油としては、タービン油、油圧油、圧縮機油、ギヤ油、軸受油、熱媒体油、金属加工油、エンジン油、流体継手のような動力伝達媒体等、使用中のものや、使用後のものをすべて含むものである。
本発明における前記有機化合物が潤滑油であると、酸化された潤滑油が容易に還元され、新油に近い状態となるので好ましい。また、潤滑油を還元の対象とする場合、鉱油でも合成油でもよいが、潤滑油基油中の硫黄分は、潤滑油基油基準で50質量ppm以下、窒素分が潤滑油基油基準で50質量ppm以下であることが還元反応への悪影響を避ける点で好ましい。
ここで、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などに代表されるラジカル反応停止剤、硫黄およびリンを含んでなる過酸化物分解剤などが挙げられる。
この発明によれば、有機化合物に酸化防止剤が含まれているので、例えば、酸化防止剤が有機化合物(酸化された潤滑油等)を還元して酸化防止剤酸化物となっても、上述の還元反応により容易に元の酸化防止剤に再生される。そして再生された酸化防止剤は再び有機化合物を還元できるようになる。すなわち、反応機構上、酸化防止剤を介した、酸化還元サイクルが形成される。それ故、例えば、連続使用される潤滑油に適用した場合に、半永久的な使用が可能となる。
本発明の還元処理装置においては、前記反応器の管表面にパラジウムブラック表面処理が施されていることが好ましい。
また、この発明によれば、反応器が、水素ガスと接触する内壁面と、有機化合物が接触する外壁面とを備えているので、この反応器を所定の有機化合物、例えば酸化劣化の進んだ潤滑油槽に挿入するだけで、還元処理装置を構成することができる。すなわち、還元処理装置全体をコンパクトにすることが可能となる。
さらに、本発明では、反応器の材質としてパラジウム合金を用いているので、上述したように水素脆性に対して耐久性があり、反応器の管厚みを薄くできる。従って、反応器をコンパクトにすることが可能となる。特に、パラジウム・銀合金を用いた場合、管厚みは、0.05〜1mmの範囲で設定することができる。なお、管厚みをあまり厚くすると、管壁内部における水素の移動に対して抵抗が大きくなるので1mm以下とすることが好ましい。
特に、反応器の隔壁部材が管状構造であると、管の長さを調節することにより有機化合物と接触する面積を調節することが容易となる。例えば、水素濃度の低い排ガスを利用する場合などはかなり長くする必要があるが、この発明によれば、管状部材を多数平行に並べるか、あるいは、螺旋状にするなど種々の配置を取ることが可能である。
特に、上述の隔壁部材が管状構造の場合、例えば、工場内など各所で生成した酸化劣化物をパイプラインにより繋いで還元処理装置に導入することができ、結果として還元処理装置を有効に活用することができる。
〔第1実施形態〕
(還元処理装置の構成)
図1に、本発明の第1実施形態に係る還元処理装置100を概念的に示す。
還元処理装置100は、その内部に反応器10を備えている。反応器10は、内部に水素ガスの流入が可能な有底の管状であり、その壁面11は、水素吸蔵金属であるパラジウム・銀合金により形成されている。この反応器10は、還元対象である潤滑油L、L’が流入および流出可能な有底円筒状の液体槽50の内部に挿入されている。潤滑油Lは、酸化の進んだいわゆる劣化潤滑油であり、潤滑油L’は、還元反応により再生された再生潤滑油である。また、反応器10の壁面11は、水素ガスと接触する内壁面11Aと、潤滑油Lが接触して還元反応が進行する外壁面11Bとを備えている。
フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤としては、下記式(1)〜(6)に示すものが好適に使用できる。
図1に示すように、酸化の進んだ劣化潤滑油Lは、液体槽50に流入すると、反応器10の外壁面11Bに接触する。一方、水素吸蔵金属としてのパラジウム・銀合金からなる反応器10には、外部から水素ガスが連続的に供給されており、反応器10の内壁面11Aに一旦吸着した水素分子は外壁面11Bに浸透していく。そして、外壁面11Bの表面で、活性化された水素により劣化潤滑油Lの還元反応が進行し、還元された潤滑油L’が液体槽50から流出していく。ここで、液体槽50の中に、例えばフェノール系酸化防止剤の酸化型(キノン構造体)が液体中に存在する場合には、優先的に、キノン構造体の還元反応が起こり、当初のフェノール系酸化防止剤が再生する。そして、再生したフェノール系酸化防止剤は、劣化潤滑油Lを還元して再生潤滑油L’とする。
(1)水素吸蔵金属であるパラジウム・銀合金に吸蔵され活性化された水素は、劣化潤滑油Lの還元反応に供され消費される。すなわち、活性化水素により劣化潤滑油Lは、還元されて、新油に近い再生潤滑油L’となる。そして、水素ガスが連続的に反応器10に供給されることによりパラジウム・銀合金が連続的に水素を吸蔵するので、消費された分の水素を補って、常に最大吸蔵量に近い量の水素がパラジウム・銀合金に吸蔵された状態となる。そして、劣化潤滑油Lが反応器10に連続的に供給されることにより、再生潤滑油L’への連続的な還元処理が可能となる。
以下に、この酸化−還元サイクルを模式的に示す。
ない。
本発明の第2実施形態は、第1実施形態における反応器10(図1)を、図2、3に示すような構造の反応器20、30に代えたものである。すなわち、反応器20、30は、いずれも水素ガスが内部を通過する管状部材であり、水素ガスと接触する内壁面21A、31Aと、劣化潤滑油Lが接触して還元反応が進行する外壁面21B、31Bとを備えている。ここで、反応器20、30は、劣化潤滑油Lおよび再生潤滑油L’が流入および流出可能な円筒状の液体槽60、70の中に配設されている。また、液体槽60、70も反応器20、30と同様の環状構造である。なお、反応器30は、液体槽70の中で折り畳み構造を取っている。
劣化潤滑油Lは、反応器20、30の入口61、71から流入し、反応器20、30の外壁面21B、31Bで還元された後、再生潤滑油L’となって出口62、72から流出する。
(6)反応器20、30が管状であるとともに内部を水素ガスが通過できる構造であるので、管の長さを調節することにより有機化合物と接触する面積を調節することが容易となる。例えば、水素濃度の低い排ガスを利用する場合などはかなり反応器を長くする必要があるが、反応器20、30を用いる場合には、単に長さを長く取ればよい。
(7)特に、反応器30においては、液体槽70の中で折りたたみ構造を取っているので、液体槽70をコンパクトにでき、結果として還元処理装置全体をコンパクトにできる。
例えば、前記各実施形態では、反応器10、20、30は、断面円形の管状部材であったが、これに限られず、断面形状が三角形状、四角形状、五角形状等の多角形状でもよく、楕円形状等の形状でもよい。
第2実施形態では、2つの構成例を図示したが(図2、3)、管状部材を多数平行に並べるか、あるいは、螺旋状にするなど種々の配置を取ることも可能である。
第2実施形態の図2、3では、水素ガス(H2)と潤滑油L、L’は同方向に流れているが、対向流としてもよい。
さらに、第2実施形態において、水素ガスと潤滑油L、L’は逆でもよい。すなわち、反応器20、30の内部に潤滑油L、L’を流し、反応器20、30の外側に水素ガスを流してもよい。
その他、本発明を実施する際の具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲内で他の構造等としてもよい。
〔実施例1〕
図4に、第1実施形態における還元処理装置100を具体化して示す。本実施例における還元処理装置100は、反応器10と、反応器10が内部に挿入された液体槽50と、潤滑油L、L’を貯蔵する貯蔵槽150と、劣化潤滑油Lを貯蔵槽150から液体槽50に送るための配管151と、液体槽50から再生潤滑油L’を再び貯蔵槽150に戻すための配管152と、水素ガス(純度99.9質量%)が充填された水素ボンベ160と、水素ガスを、反応器10に送るための配管161と、配管161内のガス圧を調節するためのリークバルブ162とを含んで構成される。なお、第1実施形態で説明した内容は省略する。
1)反応器10(還元触媒(水素透過触媒))
パラジウム77質量%/銀23質量%からなる合金製で、有底の環状構造である。
(内径 9.5mm、外径:11.5mm、長さ200mm)
2)潤滑油の循環流量
450mL/h
3)潤滑油の処方
鉱油(150ニュートラル油):99質量%
酸化防止剤(4,4-dihydroxy-3,3,5,5-tetra-tert-butylbiphenyl):1質量%
4)水素ガス
純水素ガス(純度99.9質量)を水素ボンベ160より供給した。
5)水素ガスの流量とガス圧
流量:1L/h
ガス圧:0.11MPa
6)潤滑油の還元方法
酸化触媒である鉄板と銅版を貯蔵槽150内の潤滑油に浸漬し、その後、上記の条件で潤滑油を連続的に反応器10に送って還元処理(60℃)を行い、処理後の潤滑油を貯蔵槽150内に戻し循環させた。貯蔵槽内の潤滑油は100℃に保ち、720時間循環を行った後の潤滑油を試料油とした。
実施例1における反応器の管表面にパラジウムブラック表面処理(塩化パラジウムによる表面処理)を行った以外は、実施例1と同じ条件で潤滑油の劣化、ならびに還元再生処理を行った。
実施例1において、水素ガスを反応器に供給しない以外は、実施例1と同じ条件で潤滑油の劣化、ならびに還元再生処理を行った。
実施例1において、反応器の材質として、パラジウム・銀合金の代わりに純パラジウム(純度99.9質量%)を使用する以外は、実施例1と同じ条件で潤滑油の劣化、ならびに還元再生処理を行った。
上記した各実施例、比較例により得られた試料油を、潤滑油の酸化防止能評価試験であるロータリーボンベ酸化試験(JIS K 2514)により評価した。評価基準としては、封入酸素圧が、初期封入圧より175kPa減少するまでの時間(IP値)を用いた。また、還元再生処理前後の反応器(還元触媒(水素透過触媒)であるパラジウム管)の外観観察も行った。評価結果を表1に示す。なお、参考例として新油のIP値も併せて示す。
表1の結果より、実施例1、2ともに、720時間の還元再生処理を行った後の試料油は、いずれも新油とIP値があまり変わらず、劣化潤滑油が新油なみに再生されていることがわかる。また、反応器も変形・変質が認められない。一方、比較例1は、水素ガスを反応器10に供給しないので、潤滑油の酸化(劣化)が激しい。また、比較例2は、還元触媒として純パラジウムを用いた例であるが、反応器の変形・変質が認められる。なお、参考までに、比較例2において、上記再生処理試験後の反応器の写真を図5、6に示す。
従って、本発明によれば、簡便な装置により、長期間にわたって潤滑油を連続使用できることがわかる。
11…壁面
11A、21A、31A…内壁面
11B、21B、31B…外壁面
50、60、70…液体槽
61…入口
62…出口
100…還元処理装置
150…貯蔵槽
151、152、161…配管
160…水素ボンベ
162…リークバルブ
L…(劣化)潤滑油
L’…(再生)潤滑油
Claims (6)
- 有機化合物の還元処理を連続的に行う有機化合物の還元処理装置であって、
有底の円筒状であり、パラジウム・銀合金からなる内壁面および外壁面を備え、この内壁面に水素ガスが供給される反応器と、
前記反応器が内部に挿入され、有底の円筒状であり、潤滑油の流入および流出が可能である液体槽と、
潤滑油を貯蔵する貯蔵槽と、
前記反応器の外部に設けられ、前記反応器の内壁面に水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
前記貯蔵槽から前記液体槽へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置と、を備えている
ことを特徴とする還元処理装置。 - 請求項1に記載の還元処理装置において、
前記反応器の管表面にパラジウムブラック表面処理が施されている
ことを特徴とする還元処理装置。 - 有底の円筒状であり、パラジウム・銀合金からなる内壁面および外壁面を備え、この内壁面に水素ガスが供給される反応器と、
前記反応器が内部に挿入され、有底の円筒状であり、潤滑油の流入および流出が可能である液体槽と、
潤滑油を貯蔵する貯蔵槽と、
前記反応器の外部に設けられ、前記反応器の内壁面に水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
前記貯蔵槽から前記液体槽へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置と、を備える還元処理装置を用いた有機化合物の還元方法であって、
前記反応器に連続的に水素ガスを供給することにより、前記反応器の外壁面で連続的に有機化合物の還元反応を行う
ことを特徴とする有機化合物の還元方法。 - 請求項3に記載の有機化合物の還元方法において、
前記潤滑油における基油中の硫黄分が潤滑油基油基準で50質量ppm以下、窒素分が潤滑油基油基準で50質量ppm以下である
ことを特徴とする有機化合物の還元方法。 - 請求項3または請求項4に記載の有機化合物の還元方法において、
前記有機化合物には、酸化防止剤が含まれる
ことを特徴とする有機化合物の還元方法。 - 請求項3〜請求項5のいずれか一項に記載の有機化合物の還元方法において、
前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする有機化合物の還元方法。
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