JP3312516B2 - 溶接割れ感受性、大入熱溶接性及び音響異方性に優れた高張力鋼の製造方法 - Google Patents

溶接割れ感受性、大入熱溶接性及び音響異方性に優れた高張力鋼の製造方法

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JP3312516B2
JP3312516B2 JP01461795A JP1461795A JP3312516B2 JP 3312516 B2 JP3312516 B2 JP 3312516B2 JP 01461795 A JP01461795 A JP 01461795A JP 1461795 A JP1461795 A JP 1461795A JP 3312516 B2 JP3312516 B2 JP 3312516B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は橋梁、タンク、鉄管、倉
庫、建築物などの鉄鋼構造物に用いられる溶接割れ感受
性と大入溶接性および音響異方性に優れた600N/m
2 級高張力鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より600N/mm2 級高張力鋼の
性能向上に関する要望は多く、これまでに数多くの検討
がなされている。これらのうち、溶接割れ感受性の改良
を目的に低C化とTi−B添加を特徴とした技術として
特開昭49−37814号公報、特公平4−13406
号公報などが公知となっている。これらに代表される技
術により、溶接割れ感受性が改良された600N/mm
2 級高張力鋼が得られるが、600N/mm2 級高張力
鋼に要求される引張強さはBの活用により達成されてい
るため、化学成分や製造条件の変動による母材特性の不
安定さが懸念され、さらに溶接熱影響部の硬さ上昇が著
しい。この溶接熱影響部の硬さ上昇は特に大入熱溶接継
手において最も懸念されるボンド部の靭性劣化をもたら
すため好ましくない。
【0003】特開平2−8322号公報は、低C化と析
出硬化元素の活用と直接焼入れ法を組み合わせ、耐SS
C性と溶接割れ感受性の改良を目的とした技術である。
この技術による鋼板は、耐SSC性を確保するため徹底
した低C化が図られているので、一般的な大入溶接によ
り継手を作製すると溶接金属の性能が確保されず十分な
継手強度が得られ難い。また、600N/mm2 級高張
力鋼に要求される強度を低C化により達成しているた
め、多量の析出硬化元素の添加に加えて、焼入れ性向上
元素も多量に添加する必要があり、このため大入熱溶接
時の熱影響部粗粒域の硬度上昇を招くため継手靭性も懸
念される。
【0004】特公昭61−12970号公報は、低C化
とV添加および直接焼入れを組み合わせることで、溶接
割れ感受性に優れた600N/mm2 級高張力鋼を提供
しようとするものである。この公報の記載によれば、少
なくとも鋼板の板厚が30mmまでは溶接割れ感受性に
優れた600N/mm2 級高張力鋼が得られることが示
されているが、溶接継手性能に関わる記述はなく、大入
熱溶接性については未解決と言える。
【0005】特開昭55−69241号公報は大入熱溶
接性に優れた600N/mm2 級高張力鋼に関わる提案
である。この技術の特徴は、低Si化と高Al添加にあ
り溶接割れ感受性は必ずしも解決されていない。
【0006】これらの他の従来技術として、渡邊ら「大
入熱溶接用鋼NK−HIWELの開発」日本鋼管技報N
o.97(1983)や特開昭60−174820号公
報などを挙げることができるが、これらは主に500N
/mm2 級鋼を対象とした技術であり、600N/mm
2 級高張力鋼はその対象から外れる。なお,特開昭60
−174820号公報の実施例の中に一例のみ600N
/mm2 級高張力鋼を示唆する例が示されているが,こ
れは化学成分から明らかなようにBの活用により成し得
たものである。
【0007】溶接構造物の継手部分においては、その簡
便さからしばしば斜角探傷法にて超音波探傷検査がおこ
なわれる。しかし音響異方性が大きい鋼板では、主圧延
方向(L方向)とそれに垂直な方向(T方向)の音速が
異なるため,実際には欠陥のない部分に欠陥が検出され
たり,溶接欠陥の正確な位置が把握できないといった問
題が生じている。この問題を解決するために、特開昭6
3−235431号公報、特開平2−305918号公
報では音響異方性の小さな鋼板の製造方法が開示されて
いる。しかし,特開昭63−235431号公報の記載
によれば,600N/mm2 級鋼の実施例は見当たらず,
この発明は500N/mm2 級鋼を対象としたものである
といえる。特開平2−305918号公報には,母材強
度に関する記述がないばかりか,また化学成分について
は,C含有量が高いため,Pcmが0.20を超える,
Si,Mn含有量が過剰なために溶接性が懸念される,
0.0010%以上のBを含むために継手靱性の劣化が
懸念される等,仮に600N/mm2 級鋼を対象とした発
明であったとしても,本発明の目的とする溶接割れ感受
性と大入熱溶接性および音響異方性に優れた高張力鋼を
対象とした発明ではない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、溶接
割れ感受性と大入熱溶接性および音響異方性に優れた6
00N/mm2 級高張力鋼の製造方法を提供することであ
る。
【0009】
【課題を解決するための手段】溶接割れ感受性を改善す
るためには、 Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+N
i/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B で定義されるPcm値を低減することが有効である。係
数の比較からCの低減が最も有効であることが容易に知
れるが、極端な低C化は継手強度の確保を困難とする。
さらに母材強度を確保するため多量の合金元素の添加が
必要となりコスト高を招くばかりか溶接熱影響部粗粒域
の硬化に伴う継手靭性が懸念される。
【0010】多量の合金元素の添加に替って母材の強度
を確保する手段としてB添加が考えられるが、溶接熱影
響部の著しい硬度上昇に伴う継手靭性の劣化が懸念され
る。従ってBを有効に活用する観点からのTi添加は必
須ではなく、むしろ安定に良好な母材靭性を得る上でT
iは添加しないことが好ましい。そこで、600N/m
2 級高張力鋼の溶接割れ感受性改善と大入熱溶接性確
保を目的にC量と添加合金元素量の最適化を検討し以下
の知見を骨子として本発明を得た。
【0011】(1)健全な溶接金属を得、かつ十分な継
手強度を得、かつ合金元素の多量添加を避けるためには
母材に0.06%以上のCを含有させる必要がある。 (2)しかし、0.1%を越えるC添加は、溶接割れ感
受性を高め、継手靭性を劣化させる。
【0012】(3)直接焼入れ法の採用により母材強度
の確保にNbの析出硬化を活用できる。 (4)Nb添加により大入熱溶接継手強度が安定に確保
できる。
【0013】(5)鋼板厚に応じた合金元素の最適添加
量の範囲が存在する。 一方音響異方性は,圧延集合組織の発達により劣化す
る。圧延加工を高温域で施せばこれを防止できるが,不
必要な高温圧延は圧延加工の自由度を制限し,加熱温度
の高温化につながる。これはコスト高や母材靱性劣化を
招く。そこで音響異方性に関する一般的な指針であるJ
IS Z3060による規定,即ち主圧延方向と垂直な
方向の音速比≦1.02を満たす必要十分条件について
検討し,良好な音響異方性を兼ね備えた鋼材を得るため
の製造方法の具体的な指針として以下の知見を得た。
【0014】(6)圧延加工により導入された歪みが再
結晶によりほとんど復旧する場合,音速比≦1.02は
満たされ,音響異方性は良好である。 (7)(6)を満たす場合には圧延終了後概ね直接焼き
入れ工程に入るまでに圧延加工により導入された歪みを
再結晶により少なくとも50%以上復旧されなければな
らない。
【0015】(8)(7)を満たすための必要十分条件
として,圧延を終了する下限温度を与える関数を見出し
た。 すなわち本発明は,重量%で、C:0.06〜0.1
%、Si:0.01〜0.4%、Mn:0.5〜1.6
%、Mo:0.3%以下、Nb:0.005〜0.05
%、V:0.1%以下、Al:0.005〜0.1%、
N:0.0005〜0.008%、Ti<0.005
%、B<0.0003%を含み、さらに必要によりC
u:0.5%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.5
%以下の1種又は2種以上を含み、Pcm=C+Si/
30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/2
0+Mo/15+V/10+5Bで定義されるPcm値
が0.2以下で、かつ、Ceq=C+Mn/6+Si/
24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定
義されるCeq値および、Nb、V含有量、鋼板厚t
(mm)を用いて、 625Nb+250V+210Ceq≧40+t の関係を満たし、残部が鉄および不可避不純物よりなる
鋼材を、1000℃以上1250℃以下の温度に加熱
後、 T=770−530C+100Mn+15Mo+225
0Nb+100V(℃) で与えられる温度以上で熱間圧延を終了した後、少なく
ともAr3 変態点以上より直接焼き入れし、その後Ac
1 変態点以下の温度にて焼戻しをおこなうことを特徴と
する溶接割れ感受性、大入熱溶接性及び音響異方性に優
れた高張力鋼の製造方法である。ここで,熱間圧延は、
1050℃以下で20%以上の累積圧下率で熱間圧延を
施すのがよい。
【0016】
【作用】以下に本発明での構成要件の限定理由等につい
て説明する。 <C>先述の様に継手強度の確保と合金元素の多量添加
を避けるため0.06%以上添加する。C量0.06%
未満では0.2%以上のMo添加などが必要となりコス
ト高、大入熱継手靭性の劣化を招く上、大入熱溶接継手
強を確保できない。C量が0.1%を越えると溶接割れ
感受性が劣化し、また大入熱継手靭性の劣化が懸念され
る。
【0017】<Si>Siは母材強度と大入熱溶接強度
を確保する上で有効に働くので0.01%以上添加す
る。しかし、0.4%を越える添加は溶接割れ感受性と
大入溶接継手靭性を劣化させる。
【0018】<Mn>Mnは母材強度と大入熱溶接強度
を確保する上で有効に働くので0.5%以上添加する。
しかし、1.6%を越える添加は溶接割れ感受性を劣化
させる。
【0019】<Mo>Moは溶接割れ感受性と大入溶接
継手靭性を劣化させる傾向が認められるため、上限は
0.3%とする。ただし、Moは母材強度と大入熱溶接
強度を確保する上で有効に働くので必要に応じて0.0
1%以上0.2%以下添加するのが好ましい。
【0020】<Nb>Nbは母材強度と大入熱溶接強度
を確保する上で有効に働くので0.005%以上添加す
る。しかし、0.05%を越える添加は、後述する関数
から求められる圧延仕上げ温度の下限値が極端に高い値
となり,圧延加工が困難になる。この他にも大入熱溶接
継手靱性を劣化させる傾向も認められることからNb添
加量の上限を0.05%とする。
【0021】<V>Vは母材強度と大入熱溶接強度を確
保する上で有効に働くので必要に応じて0.01%以上
添加する。しかし0.1%を越える添加は溶接割れ感受
性を劣化させ、かつ母材靭性を損なうので0.1%以下
とする。
【0022】<Al>Alは鋼の脱酸のため添加され、
通常0.005%以上は含有する。また、ミクロ組織の
微細化による母材靭性の確保のために0.01%以上添
加する。しかし、0.1%を越えるAl添加は母材靭性
を損なう。
【0023】<Ti,B>Tiはミクロ組織の細粒化を
通じて母材および溶接継手の靭性を改善する効果を有す
る。また、B添加鋼では、焼入れ性に有効に働くBを確
保するためしばしば積極的に添加される。しかし、本発
明では、溶接熱影響部の硬化が懸念されるBを添加せず
に母材強度を確保し、特に熱影響部粗粒域の硬度低減に
より溶接継手靭性を達成するため、Tiを添加する必然
性はない。むしろTi添加による母材性能の不安定さを
懸念し、不純物元素として0.005%未満に規制す
る。特に後述するN含有量の3.4倍を下回ることが望
ましい。
【0024】Bは上述の熱影響部の硬さ低減のため不純
物元素として0.0003%未満に規制しなければなら
ない。 <N>Nは、Al,Nbなどと反応し析出物を形成する
ことでミクロ組織を微細化し、母材靭性を向上させるた
め、および焼戻し時にNb,Vなどと反応し析出硬化に
よる強度確保のために添加する。
【0025】0.0005%未満の添加ではミクロ組織
の微細化および強度確保に必要な析出物が形成されず、
0.008%を越える添加はむしろ母材および溶接継手
の靭性を損なう。
【0026】<P,S>P,Sは、いずれも不純物元素
であり、健全な母材および溶接継手を得るために0.0
15%以下、好ましくは0.01%以下に規制されるこ
とが望ましい。
【0027】<Cu,Ni,Cr>Cu,Crは母材お
よび溶接継手強度を向上させる効果を有する。Niはさ
らに靭性を改善する働きを示す。これらの合金元素は本
発明において必須ではないが、化学成分の限定式の範囲
内で添加しても差し支えない。特にMnの一部をこれら
の元素に置き換えることで靭性の向上や偏析の軽減など
を期待できる。
【0028】<Pcm>Pcmは溶接割れ感受性を表す
指数であり、通常の環境において溶接施工時の予熱を不
要にするために0.2以下に規制する。
【0029】<計算式:625Nb+250V+210
Ceq> 計算式:625Nb+250V+210Ceqは母材の
板厚1/2tにおける強度を表す指数であり、当該業者
間で一般に知られる炭素等量式(Ceq)に本発明の要
であるNb,Vの寄与を加味しさらに概ね15〜60m
mの板厚範囲における板厚効果を考慮して整理した数式
である。
【0030】尚、板厚効果とは、熱間圧延後の直接焼入
れにより、鋼板Ar3 変態点以上から強制冷却する際、
板厚に応じてその冷却速度が必然的に変化し、そのため
母材強度が変化することを指す。
【0031】600N/mm2 級高張力鋼に分類される
JIS G3106 SM570Qに適合する鋼板を得
るためには計算式:625Nb+250V+210Ce
qが板厚(mm)に40を加えた値を上回る必要があ
る。なお本発明が対象とする板厚範囲は概ね15〜60
mmの範囲である。
【0032】<熱間圧延前の加熱温度>合金元素の均質
化とNbの固溶を図るため、加熱温度は1000℃以上
に設定する必要がある。しかし、加熱温度が1250℃
を越えるとミクロ組織の粗大化により母材の靭性が確保
されなくなるので上限を1250℃、好ましくは120
0℃とする。
【0033】<圧延条件>均一に加熱された本発明鋼を
所定の板厚まで熱間圧延する工程は、通常の条件に依っ
て差し支えない。ただし,良好な音響異方性を確保する
ために, T=770−530C+100Mn+15Mo+225
0Nb+100V(℃) の関数で与えられるT(℃)以上で圧延を終了する必要
がある。T(℃)未満で圧延を終了すると音速比1.0
2以下を確保できない。従って,圧延終了温度がT
(℃)を下回らない範囲で圧延加工の自由度が得られ
る。
【0034】母材の靭性をより安定に確保、向上させる
観点から、1050℃以下の温度域で20%以上の累積
圧下を付与することが望ましい。累積圧下率を20%以
上とすることで、γ粒の再結晶に伴う細粒化を達成し、
母材の靭性をより安定に確保、向上させることができ
る。同じ理由から、圧延1パス毎の圧下率を5%以上、
更に好ましくは10%以上確保することが望ましい。
【0035】<直接焼入れ>熱間圧延終了後、Ar3変
態点を上回る温度の鋼板を強制冷却により焼入れ処理を
施すことが必要である。強制冷却は水等の冷却媒体を鋼
板に均一に付与し、板厚1/2tの変態温度付近にて概
ね3℃/sec以上の冷却速度を達成させるようにする
ことが必要である。
【0036】<焼戻し温度>焼戻しは、Acl変態点を
越える温度で焼戻しを行うと強度の低下が著しく、60
0N/mm2 級高張力鋼としての強度が確保されないた
め、Acl変態点以下でおこなう。ただし、溶接継手強
度確保のため、およびNbの析出硬化による母材強度確
保のため570℃、好ましくは600℃以上で実施する
のがよい。
【0037】
【実施例】表1に本発明の実施例に用いた鋼の化学成分
を示す。表1に示した化学成分の鋼を溶製し、鋼塊とな
し、表2に示した製造条件にて所定の板厚に熱間圧延
後、直接焼入れし、更に焼戻し処理を施し供試鋼を得
た。尚、焼戻し温度は580〜680℃の範囲とした。
また,一部の供試鋼を再加熱焼入れ焼戻し処理し、比較
例に用いた。
【0038】全ての供試鋼の板厚中央部より、引張試験
およびシャルピー衝撃試験を圧延方向と垂直な方向にて
採取し600N/mm2 級鋼としての母材の機械的性質
を評価した。
【0039】また、併せて、母材中の超音波(横波)の
音速を主圧延方向(L)と圧延方向と垂直な方向(T)
について測定し,音速比(T/L)を求め,音響異方性
を評価した。さらに、JIS Z3158に準拠して斜
めY型溶接割れ試験を、JIS Z3101に準拠して
最高硬さ試験をそれぞれ実施し、溶接割れ感受性を評価
した。これらの試験はいずれも60キロ級鋼用超低水素
タイプの溶接材料を用いて,雰囲気は20℃−60%、
試験片初期温度25℃の条件で行った。
【0040】大入熱溶製性は、通常のエレクトロガスア
ーク溶接により継手を作製し、その強度を測定すると共
に、靭性が最も懸念されるボンド部についてシャルピー
衝撃試験を実施し評価した。
【0041】尚、エレクトロガスアーク溶接継手は、板
厚25mmの供試鋼についてのみ片面1層溶接により作
製し、それ以上の板厚の供試鋼については、板厚中央に
て両面1層に振り分けて溶接し作製した。表2にファイ
ナル側の溶接入熱を明記したが、バッキング側の入熱は
いずれも7〜8kJ/mmである。
【0042】実施例No.A1に用いた鋼番Aの組成の
鋼は比較鋼である。鋼番Aの鋼の計算値(625Nb+
250V+210Ceq=82)は供試鋼板厚(38)
に40を加えた値(78)を上回り、そのため母材の引
張り強さは570N/mm2を越えた。圧延終了温度は
関数:T(=770−530C+100Mn+15Mo
+2250Nb+100V)に鋼番Aの鋼の化学成分を
代入して得た温度(861℃)より高温であり音響異方
性は良好であった。また、Pcm値は0.17と低く、
Y割れ試験において溶接割れは発生しなかった。しか
し、Nbが添加されていないため大入熱溶接継手強度が
570N/mm2 を下回った。
【0043】実施例No.B1,B2は鋼番Bの鋼を用
いた本発明の実施例,No.B3は比較例である。板厚
25mmの供試鋼母材の機械的性質および溶接割れ感受
性は良好であり、かつ、健全な大入熱溶接継手が実現で
きた。しかし,圧延終了温度が鋼番Bの鋼の化学成分か
ら得られるT(℃)を下回るNo.B3は音速比が1.
02を越えた。
【0044】実施例No.C1,D1,E1,F1,G
1,H1,I1は、Mn,Mo,Nbの含有量を変化さ
せた鋼番C〜Iの鋼による本発明の実施例,No.C
2,D2,D3は比較例である。いずれも健全な母材お
よび大入熱溶接継手の機械的性質が確認され、溶接割れ
感受性も良好であった。また、これらの実施例のように
Mn,Mo,Nb含有量を変化させても計算値と母材強
度の相関は良く、この計算式が工業上有用であることが
示される。しかし,音響異方性については,No.C
2,D2,D3は,鋼番C,Dの鋼の化学成分から得ら
れるT(℃)を下回る温度で圧延を終了しているため音
速比が1.02を越えた。
【0045】実施例No.J1はVを添加しない鋼番J
の鋼による本発明の実施例,No.J2,J3は比較例
である。実施例No.J1は音響異方性が良好であるこ
とがわかる。No.J2は健全な母材および大入熱溶接
継手の機械的性質が確認され,溶接割れ感受性も良好で
あったが,上述のT(℃)を下回る温度で圧延を終了し
たために音速比は1.02を越えた。実施例No.J3
は鋼番Jの鋼に、再加熱焼入れ焼戻しプロセスを適用し
た比較例であり、600N/mm2 級高張力鋼としての
母材強度が確保されない。
【0046】実施例No.K1はC量が本発明の規定を
外れる鋼番Kの鋼による比較例である。計算式により適
正な合金元素の添加量を見いだしても、大入熱溶接継手
において、健全な溶接金属が得られず、この場合は継手
引張試験において溶接金属部より破断し継手強度が確保
されなかった。
【0047】実施例No.L1は、C含有量の高い鋼番
Lの鋼による比較例であり、斜めY型溶接割れ試験にお
いて溶接割れが発生した。実施例No.M1は、C含有
量が高く、Nbを含まない鋼番Mの鋼による比較例であ
る。斜めY型溶接割れ試験において溶接割れは発生なか
ったが、最高硬さは290Hvを越え良好とは言えな
い。また、大入熱溶接継手の靭性は、本発明例のいずれ
よりも劣る。
【0048】実施例No.N1,O1,P1,Q1,S
1は、Cu,Ni,Crを含有する場合の鋼番N,O,
P,Q,Sの鋼による本発明例である。No.R1は鋼
番Rの鋼による比較鋼である。Crを本発明の規定範囲
を越えて含有し、かつPcm値が0.2を越えたため、
斜めY型溶接割れ試験において、溶接割れが発生した。
【0049】No.T1,U1はBが添加された鋼番
T,Uの鋼による比較例である。いずれも良好な母材強
度が得られているが、母材靭性はTiが複合添加された
鋼番Uの鋼によるNo.U1の方が良好である。いずれ
も溶接割れ感受性は良好であるが、大入熱溶接継手の靭
性は悪い。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【発明の効果】以上のように、本発明により、溶接割れ
感受性が低く、かつ大入熱溶接性および音響異方性に優
れた600N/mm2 級高張力鋼およびその製造方法を
提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例No.D1に対応する本発明例の大入熱
溶接継手部の硬度分布を示した図。図中矢印がボンド部
を表し、その極近傍の母材側熱影響部の硬度は低い値を
示している。
【図2】実施例No.E1に対応する本発明例の大入熱
溶接継手部の硬度分布を示した図。図中矢印がボンド部
を表し、その極近傍の母材側熱影響部の硬度は低い値を
示している。
【図3】実施例No.G1に対応する本発明例の大入熱
溶接継手部の硬度分布を示した図。図中矢印がボンド部
を表し、その極近傍の母材側熱影響部の硬度は低い値を
示している。
【図4】実施例No.H1に対応する本発明例の大入熱
溶接継手部の硬度分布を示した図。図中矢印がボンド部
を表し、その極近傍の母材側熱影響部の硬度は低い値を
示している。
【図5】実施例No.T1に対応する比較例の大入熱溶
接継手部の硬度分布を示した図。熱影響部のボンド部近
傍で本発明例と比べて著しい硬度上昇が認められる。
【図6】圧延終了温度から関数:T(=770−530
C+100Mn+15Mo+2250Nb+100V)
により計算される温度を差し引いた温度と音響異方性の
関係を示す図。 本発明で規定するように圧延終了温度が関数:T(=7
70−530C+100Mn+15Mo+2250Nb
+100V)により計算される値を上回ることで優れた
音響異方性が確保されることが明白である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 8/00 - 8/10 C22C 38/00 - 38/60

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.06〜0.1%、S
    i:0.01〜0.4%、Mn:0.5〜1.6%、M
    o:0.3%以下(ただし、0%は含まない)、Nb:
    0.005〜0.05%、V:0.1%以下(ただし、
    0%は含まない)、Al:0.005〜0.1%、N:
    0.0005〜0.008%、Ti<0.005%、B
    <0.0003%を含み、Pcm=C+Si/30+M
    n/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo
    /15+V/10+5Bで定義されるPcm値が0.2
    以下で、かつ、Ceq=C+Mn/6+Si/24+N
    i/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義される
    Ceq値および、Nb、V含有量、鋼板厚t(mm)を
    用いて、625Nb+250V+210Ceq≧40+
    tの関係を満たし、残部が鉄および不可避不純物よりな
    る鋼材を、1000℃以上1250℃以下の温度に加熱
    後、T=770−530C+100Mn+15Mo+2
    250Nb+100V(℃)で与えられる温度以上で熱
    間圧延を終了した後、少なくともAr3 変態点以上より
    直接焼き入れし、その後Ac1 変態点以下の温度にて焼
    戻しをおこなうことを特徴とする溶接割れ感受性、大入
    熱溶接性及び音響異方性に優れた高張力鋼の製造方法。
  2. 【請求項2】熱間圧延は、1050℃以下で20%以上
    の累積圧下率で熱間圧延を施すことを特徴とする請求項
    1に記載の溶接割れ感受性、大入熱溶接性及び音響異方
    性に優れた高張力鋼の製造方法。
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