JP3305573B2 - 耐食性及び耐傷付き性に優れた溶射皮膜 - Google Patents

耐食性及び耐傷付き性に優れた溶射皮膜

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、物品(例えば鋼、
鋼構造物、鋳物等)に良好な特性を付与するために、そ
の表面を被覆する溶射皮膜に関し、特に耐食性及び耐傷
付き性に優れた溶射皮膜を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、物品(例えば鋼、鋼構造物、鋳物
等)に耐食性を付与する方法として、これら物品の表面
に、耐食性金属、例えば亜鉛又は亜鉛−アルミニウム合
金又はアルミニウムを溶射により被覆する方法が知られ
ている。亜鉛溶射及びアルミニウム溶射においては、そ
れぞれの純度が99.9%、99.7%以上の材料を用
いて、皮膜中の空孔を少なくし、耐食性の劣化を防止し
ている。また、亜鉛−アルミニウム合金溶射において
は、重量比率が87:13ないし72:28で構成され
た合金皮膜を被覆している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、亜鉛の
溶射皮膜を設けた物品(特に鋼、鋼構造物等)の耐食性
は、十分でなく、特に近年の酸性雨等による環境の悪化
に伴い、当初予測されていた寿命ほどの耐食性が確保で
きないとの問題がある。また、アルミニウム溶射皮膜
は、犠牲防食作用が亜鉛に比べて劣るため、加工時に僅
かな傷が入ることにより、早期に部分的に赤錆が発生
し、外観及び性能を損なうとの欠点がある。また、亜鉛
−アルミニウム合金溶射においては、皮膜の溶出を抑
え、且つ犠牲防食効果を持つ皮膜として用いられてい
る。しかしながら、本発明者らの実験結果によるとこれ
らの合金の耐食性は、十分に満足できるものではなかっ
た。
【0004】また、砂、海塩粒子等の飛来物の多い地
域、例えば海岸線や道路際では、飛来物による機械的破
壊により腐食の進行が促進されるとの問題も新たに発生
してきた。つまり、皮膜自身の耐傷付き性の改善も新た
に具備されるべきニーズである。従って、高耐食性を有
し、且つ耐傷付き性に優れた溶射皮膜の要求がある。本
発明は、上記要求に応えたものであり、飛来物等による
耐傷付き性を向上させると共に、犠牲防食作用と長期耐
食性を兼ね備えた従来に無い溶射皮膜を提供することを
目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち、上記目的を達
成する本発明は、 (1)Mgを0.3〜15%含有し、残部がZnのZn
−Mg合金よりなることを特徴とする耐食性及び耐傷付
き性に優れた溶射皮膜である
【0006】
【発明の実施の形態】以下、図面を用いて本発明につい
て詳細に説明する。本発明者らは、上記課題を解決する
ために種々の金属をZnを主体とする溶射皮膜中に合金
化させ、各種の評価を実施した。その結果、マグネシウ
ムを添加することにより、これら全ての特性が大幅に改
善され、従来にない特性をもった皮膜が得られることを
見い出した。表1には、前処理としてグリッドブラスト
処理した鋼板(板厚:4mm,熱延Alキルド鋼)の表
面にMg濃度が1%で残部がZnよりなる粉体材料を
溶射して、得られた膜厚が100μmの溶射皮膜(Zn
−Mg溶射皮膜)と、従来のように市販の亜鉛粉体材
料を溶射して、得られた膜厚が100μmの溶射皮膜
(Zn溶射皮膜)と、アルミニウム粉体材料を溶射し
て、得られた膜厚が100μmの溶射皮膜(A1溶射皮
膜)と、Al濃度が13%で残部がZnの粉体材料を
溶射して、得られた膜厚が100μmの溶射皮膜(Zn
−13%A1溶射皮膜)と、A1濃度が28%で残部
がZnの粉体材料を溶射して、得られた膜厚が100μ
mの溶射皮膜(Zn−28%A1溶射皮膜)の性能に比
較例を示す。
【0007】
【表1】
【0008】尚、平板耐食性の評価は、溶射皮膜を設け
た鋼板に対して、[湿潤環境放置(湿度85%×15.
5Hr)→乾燥(70℃×3Hr)→塩水試験(50℃
×2Hr)→室内放置(2Hr)→塩水試験(50℃×
1.5Hr)]からなるサイクルを繰り返し与える腐食
促進試験を行った。この促進試験で赤錆が面積率で1%
発生するまでのサイクル数を評価した(この赤錆は、皮
膜が無くなり、鉄素地が溶出したことを示すものであ
る。)。尚、200サイクル以上を合格とした。また、
犠牲防食性は、溶射皮膜を設けた鋼板に、NTカッター
で鋼素地に達する疵を入れた後、上記腐食促進試験を行
った。この促進試験で傷部に赤錆が発生するまでのサイ
クル数を評価した。尚、150サイクル以上を合格とし
た。
【0009】耐傷付き性の評価は、摺動試験機を用いて
直径1cmの鋼球を荷重200gで溶射皮膜上を50m
mの幅で摺動させ、皮膜上に目視により傷付きが確認で
きるまでの回数を測定し、50回でも傷付きのないもの
を合格とした。表1の如く、鋼材にZn−Mg溶射皮膜
を設けたものは、平板の耐食性に優れ、且つ犠牲防食作
用にも優れる。また、耐傷付き性にも優れる。尚、本試
験における溶射皮膜の原料として、全て粉体材料を用い
たが、ワイヤー等の線材材料を用いた場合も同様の結果
が得られる。
【0010】図1には、上記の方法と同様にして、M
g含有率を0〜20%で残部が亜鉛の粉体材料を溶射し
て得られた、膜厚100μmの溶射皮膜のMg含有率と
平板耐食性の関係を示したものである。図1に示したよ
うにMg含有率が、0.3%未満では、十分な耐食性が
得られず、5%ほどでほぼ飽和し、15%超では、十分
な耐食性が得られなくなる。15%超で、耐食性が劣化
する原因は、過剰のMgにより、皮膜の溶出速度がより
高くなるためと考えられる。従って、本発明において
は、皮膜中のMg濃度は、0.3%〜15%とするが、
望ましくは、0.5%〜5%とするのが、耐食性の面か
ら望ましい。また、犠牲防食性に於けるMg濃度と傷部
耐食性も全く同様の傾向であった。摺動回数は、Mg含
有量0.3%以上で、50回でも傷が確認されず合格と
なる。
【0011】本発明品であるZn−Mg溶射皮膜の製造
方法は特に限定しないが、通常のZn溶射で用いられて
いるガス溶射、アーク溶射、プラズマ溶射等が、利用で
きる。また、溶射材料としては、Zn−Mg合金の線材
も利用できる。前処理は、素地と皮膜の密着性を確保す
るために必要不可欠なものであり、鋼、鋼構造物及び鋳
物等には、通常のグリッドブラスト処理等を行えば良
い。また、粗面形成剤を塗布しても良い。また、皮膜そ
のものが、高耐食性を有するため、封孔処理や塗装処理
を必要により行えば更なる寿命延長が達せられる。
【0012】本発明において、Mgを含有することによ
り、これらの新たな性能が良好になるメカニズムは以下
のように考えられる。すなわち、表面の硬度を向上す
ることにより、耐傷付き性が向上した。Mgは、Zn
より卑な金属であるため、鋼との電位差により犠牲防食
作用を維持できた。Mgを含有することにより、亜鉛
の腐食生成物を安定化し、緻密な保護皮膜が生成した為
と考えられる。
【0013】
【実施例】表2に本発明の実施例を示す。鋼板(板厚:
4mm,熱延Alキルド鋼)に、前処理としてグリッド
ブラスト処理した後に種々の粉体材料を用いてガス粉末
式溶射法により膜厚100μmとなるように溶射して作
製したものを用いた場合の結果である。溶射条件の詳細
を以下に記載する。溶射ガンはガスフレーム溶射ガン
(メテコ製6P)を用い、燃焼ガスとしてアセチレン、
キャリアーガスとして窒素を用い、自動ガン送り装置を
用いて、鋼板との距離を150mmとして上記粉体を溶
射した。膜厚の確認はケット膜厚計を用いて行い、調整
は、パス回数を変えることにより行った。
【0014】尚、性能評価は、前述の評価基準に基づい
て行った。No.1〜は、組成がいずれも本発明範囲
内であり、No.6〜8は、本発明範囲から組成が外れ
ている。No.9〜12は、従来品である。尚、成分組
成は、種々の添加量を変えたものを用いてインゴットを
作製し、粉砕機を用いて、粒子径が、45〜250μm
となるように粉砕し、その粉体を用いて調整した。表か
ら分かるように、本発明範囲内であれば耐傷付き性を向
上させると共に、犠牲防食作用と長期耐食性を兼ね備え
た溶射皮膜を得ることが可能となる。
【0015】
【表2】
【0016】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、厳
しい腐食環境化においても十分な耐食性を有し且つ、傷
付き性に優れた溶射皮膜を提供でき、その効果は大き
い。
【図面の簡単な説明】
【図1】Mg含有率と平板耐食性の関係を示した図であ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平8−3716(JP,A) 特開 平5−84591(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 4/08

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Mgを0.3〜15%含有し、残部がZ
    nのZn−Mg合金よりなることを特徴とする耐食性及
    び耐傷付き性に優れた溶射皮膜。
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