JP3304959B2 - D−リンゴ酸の製造方法 - Google Patents

D−リンゴ酸の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、微生物を利用した光学
活性なD−リンゴ酸の工業的な製造方法に関するもので
ある。光学活性なD−リンゴ酸は光学活性を有する種々
の天然物、または医薬品などの生理活性物質を合成する
際有用な中間体である。
【0002】
【従来技術及び発明が解決しようとする問題点】工業的
に有用なD−リンゴ酸の製造法は、従来ラセミ体のリン
ゴ酸をジアステレオマー塩法により光学分割する方法
(特開昭57−56439号公報、特開昭60−204
741号公報)が知られている。しかしながら、ジアス
テレオマー塩法による光学分割では、キニーネなどの使
用する分割剤が高価なため経済的な方法とはいえない。
【0003】また、D−リンゴ酸の製造に微生物を用い
る方法として、ラセミ体リンゴ酸を含有する培地でL−
リンゴ酸のみを選択的に資化する菌を培養し、残留する
D−リンゴ酸を回収する方法(米国特許第491204
2号公報、特開平2−242699号公報)が知られて
いるが、得られるD−リンゴ酸の光学純度が低く、また
収率が50%を超え得ないなど効率的な方法とはいえな
い。
【0004】マレイン酸に作用しD−リンゴ酸を生成す
る酵素反応については、これまで植物や動物の腎臓(S
acks,W.Jensen,C.O.(1951)
J.Biol.Chem.,192 231−236,
England,S.Britten,J.S.(19
67)J.Biol.Chem.,242 2255−
2259)に存在することが知られている。微生物にお
いてはシュウドモナス(Pseudomonas)に属
する細菌の菌体抽出液によるマレイン酸からD−リンゴ
酸の生成が報告されている(H.I.Rahateka
r(1968)Indian J.Biochem.,
3,143−144)。しかしながらこれらの研究は、
生物的な方法によりマレイン酸からD−リンゴ酸生産の
可能性を示したものであるが基礎的な検討であり、D−
リンゴ酸を工業的に大量生産する方法を示したものでは
なかった。
【0005】また、マレイン酸にある種の微生物を作用
させて、D−リンゴ酸を製造する方法(特開平3−53
888号公報)もあるが、培養に高価なシトラコン酸を
用いる上に、L−リンゴ酸が副生し、反応後期にD−リ
ンゴ酸が減少するため、生成物の収率及び光学純度が低
いなどの問題点があり、また菌体の酵素活性が低いなど
工業的に安価な製造法とはいえない。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、微生物を
用いてマレイン酸からD−リンゴ酸を製造するにあた
り、マレイン酸含有培地で培養を行った微生物を使用す
ることにより、D−リンゴ酸を効率よく生産することを
見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発
明の要旨は、微生物またはそれらの処理物を用いてマレ
イン酸からD−リンゴ酸を製造するにあたり、マレイン
酸含有培地で培養を行った微生物を使用することを特徴
とするD−リンゴ酸の製造方法に存する。以下、本発明
につき詳細に説明する。
【0007】Arthrobacter sp.MCI
2612(以下、「MCI2612号菌」と略すことが
ある)及びArthrobacter globifo
rmisMCI2613(以下、「MCI2613号
菌」と略すことがある)は、本発明者等により、天然土
壌から分離された細菌であり、それぞれ工業技術院微生
物工業技術研究所に微工研菌寄第12562号(FER
M P−12562)および同12561号(FERM
P−12561)として寄託されている。その菌学的
性状は次の通りである。 1.形態的性状 ○ハートインフュージョン寒天培地上、30℃、1週間
のコロニーの特徴
【0008】
【表1】
【0009】○ハートインフュージョン寒天培地上、3
0℃、3〜48時間培養中の形態的性質 1)細胞形態:両菌株とも培養後6〜12時間ぐらいま
では、細胞は不均一に伸長し、長い桿状になる。その後
中央部に隔壁が形成され、細胞は湾曲状に曲がり、漸次
分節を繰り返す。18時間以降はほとんど細胞が短桿状
の斉一な形態に変化する。
【表2】 MCI2612号菌 MCI2613号菌 2)細胞分裂様式 :Bending type Bending type 3)運動性 : なし なし 4)胞子形成 : なし なし 5)グラム染色 : 不定 不定 6)抗酸性 : 陰性 陰性 2.生理的性質
【0010】
【表3】
【0011】25)唯一炭素源からの酸の生成(培養後
1〜2週間後観察)
【0012】
【表4】
【0013】26)有機酸の資化性
【0014】
【表5】
【0015】3.化学分類学的性状
【0016】
【表6】
【0017】4.分類学的考察 ○属レベルの同定 本菌株MCI2612号菌および2613号菌は、1)
セル・サイクル(cell cycle)に桿状〜短桿
状(Rods−coccus)の多形性を有する、2)
絶対好気性菌である。、3)グルコース等ほとんどの糖
類から酸を生成しない、3)DNA中のGC含量は6
4.4%と高いGCを示す、4)細胞壁のジアミノーア
ミノ酸はリジンを有する、5)主要メナキノンはMK−
9(H2)を有するなどの特徴を示す。
【0018】これらの特徴から、本菌はBergey’
s Manual of Systematic Ba
cteriology 第2巻に記載されている、Ir
regular,Nonsporing,Gram−P
ositive Rods群のアースロバクター属菌に
帰属することが判明した。
【0019】○種レベルの同定 アースロバクター属菌には今日までに約18種が含まれ
ている。これらの種類は各種の生理学的、化学分類学的
性状において識別されているが、特にメナキノン組成の
相違、細胞壁を構成している架橋ペプチド構造、及び糖
組成の相違が種レベルの重要な分類基準と見なされてい
る。(K.H.Schleifer &O.Kandl
er,1972,Bacteriol.Rev.Vo
l.36:407−477,Bergey’s Man
ual of Systematic Bacteri
ology 第2巻)
【0020】MCI2612号菌について 本菌株は1)主要メナキノンはMK−9(H2)、2)
細胞壁の架橋ペプチド構造はLys−Ser−Thr−
Alaを有する、3)細胞壁の糖組成はガラクトース、
及びラムノースを有するという化学分類学的特徴を持っ
ている。Bergey’s Manual of Sy
stematic Bacteriology に記載
されている種のうち、本菌株と同じ細胞壁の架橋ペプチ
ド構造をもつ種としてArthrobacter ox
ydans 1種のみが知られている。しかしながら、
細胞壁の糖組成において本菌株はガラクトースとラムノ
ースを含有することから、A. oxydans(ガラ
クトースとグルコース)とは異なっていた。
【0021】従って細胞壁の架橋ペプチド構造および他
の化学分類的性状から、本菌株(MCI2612号菌)
Arthrobacter oxydansに近縁の
種と推定されたが、糖組成の相違からArthroba
cter sp.と同定した。
【0022】MCI2613号菌について 本菌株は1)主要メナキノンはMK−9(H2)、2)
細胞壁の架橋ペプチド構造はLys−Ala3を有す
る、3)細胞壁の糖組成はガラクトース、及びグルコー
スを有するという化学分類学的特徴を持ち、4)運動性
がないことからBergey’s Manual of
Systematic Bacteriologyに
記載されているArthrobacter globi
formis の特徴によく合致した。よって、本菌株
(MCI2613号菌)をArthrobacter
globiformisと同定した。
【0023】本発明においては、前記の菌を通常に微生
物が利用しうる栄養物を含有する培地で培養することに
より容易に増殖させることができる。栄養源としては、
グルコース、水飴、デキストリン、シュクロース、デン
プン、糖アルコール、糖蜜、動・植物油等を使用でき
る。また窒素源として、大豆粉、小麦はい芽、コーンス
ティープリカー、綿実粕、肉エキス、ペプトン、酵母エ
キス、硫酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸アンモニウ
ム、尿素等を使用できる。その他、必要に応じ、ナトリ
ウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバル
ト、塩素、リン酸、硫酸及びその他のイオンを生成する
ことができる無機塩類を添加することは有効である。
【0024】また、ビタミン等の通常の培養に用いられ
る栄養源を適宜混合した培地を用いることができる。培
養方法としては、栄養培地のpHを、4.0−9.5の
範囲で好気的に20−40℃の範囲で10−96時間培
養する。
【0025】マレイン酸に微生物を作用させてD−リン
ゴ酸へ変換する方法として、微生物を栄養培地で培養
し、得られた菌体懸濁液、あるいは菌体破砕液、あるい
はアクリル酸アミド系樹脂やカラギーナン等の水不溶性
ポリマー、合成吸着剤等を用いて酵素もしくは菌体を公
知の方法で固定化担体に吸着、結合、包括し適当な緩衝
液に懸濁したもの、あるいは固定化微生物または固定化
酵素をカラムに充填したもの等に基質を加え反応させD
−リンゴ酸を得る方法、あるいは、培養終了後基質を添
加しさらに反応させる方法等を用いることができる。従
って、本発明でいう「処理物」とはこれらを意味する。
反応時の温度は20−50℃が好ましく、pHは5.0
−10.0の範囲で行う。基質濃度は0.1%−10%
の範囲が好ましい。また反応時にトルエン等の有機溶媒
の添加により反応速度を早めることができる。
【0026】培養及び反応で得られた光学活性D−リン
ゴ酸の採取方法としては、通常の公知抽出精製方法が利
用しうるが、次のごとき方法も使用しうる。たとえば、
得られたD−リンゴ酸含有液のpHを硫酸等で1.0付
近まで下げ、さらに飽和に達するまで硫酸アンモニウム
を加える。しかる後、等量の酢酸エチルで数回抽出を行
う。これを減圧下で溶剤をのぞくとD−リンゴ酸含有物
が得られる。さらにこのものを少量のヘキサンに溶解
し、ヘキサン−酢酸エチル混合溶剤で溶出するシリカゲ
ルクロマトグラフィを行うことにより容易に他の不純物
と分離することができる。
【0027】このようにして得られたものは、元素分
析、NMR、液体クロマトグラフィにより高純度なリン
ゴ酸であることが確認された。光学純度の決定はS−α
−メソキシ−α−トリフルオロメチル−フェニルアセチ
ルクロリド(MTPA−Cl)とのエステルを合成し、
精製したジアステレオマーの比率をガスクロマトグラフ
ィで分析することにより行った。実施例におけるD−リ
ンゴ酸の定量は液体クロマトグラフィによった。
【0028】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明の方法をさらに
具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り
これらに限定されるものではない。 実施例1 ソルビトール 10g、NH4NO3 6g、KH2PO4
3g、K2HPO410.5g、MgSO4.7H2
250mg、イーストエキス 5.5g、L−プロリン
2g、マレイン酸 2g、水 1l、pH 6.0の
組成からなる液体培地に、Arthrobacter
globiformis MCI−2613を接種し2
8℃で20時間培養した。
【0029】得た培養液を遠心分離し、菌体を集め25
mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄した。これにマ
レイン酸23.7g、トルエン10mlを含む25mM
リン酸緩衝液(pH7.0)を加え全量を1lとし、2
7℃で反応させた経時変化が表1である。反応は速やか
に進行し、45時間後光学純度100%のD−リンゴ酸
が収率88%で得られた。
【0030】
【表7】
【0031】実施例2 実施例1に記載した微生物菌株、生育培地、培養法を用
いて得た菌体に、マレイン酸3%、トルエン1%を含む
25mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え全量を1l
とし、37℃で反応を行い、途中マレイン酸を遂次添加
することによって反応を行った。30時間の反応の後、
生成したリンゴ酸は81g/lでD−リンゴ酸の光学純
度は100%であった。
【0032】実施例3 使用菌株としてArthrobacter sp. M
CI−2612を用い、実施例1に記載した培養、反応
方法を実施し、表2に示す結果がえられた。
【0033】
【表8】
【0034】実施例4 使用菌株としてArthrobacter sp. M
CI−2612を用い、実施例2と同様の方法で実施し
た結果、30時間の反応で生成したリンゴ酸は81g/
lでD−リンゴ酸の光学純度は100%であった。
【0035】
【発明の効果】本発明によれば、マレイン酸からD−リ
ンゴ酸を微生物反応で製造するにあたり、高い反応速度
で効率的に製造することが出来る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C12R 1:06) C12R 1:06) (72)発明者 指田 玲子 神奈川県横浜市青葉区鴨志田町1000番地 三菱化学株式会社横浜総合研究所内 (56)参考文献 特開 平3−53888(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12P 7/46 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アルスロバクター属に属する微生物また
    はそれらの処理物を用いてマレイン酸からD−リンゴ酸
    を製造するにあたり、マレイン酸含有培地で培養した後
    に当該培地から単離した微生物の菌体又はその処理物を
    反応に使用することを特徴とするD−リンゴ酸の製造方
    法。
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