JP3242133B2 - 高密着性被覆部材及びその製造方法 - Google Patents

高密着性被覆部材及びその製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐摩耗性,耐食性,耐
熱性及び耐剥離性に優れる被覆部材に関し、具体的に
は、切削工具,耐摩耗工具,機械部品,電気部品等に適
する高密着性被覆部材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から超硬合金,サーメット,高速度
鋼等の基材の表面に化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着
法(PVD法)でもってセラミックスの被膜を被覆した
被覆材料が実用されている。これらの被覆材料は、基材
の表面に耐摩耗性の優れた被膜を被覆し、被膜の効果を
最大限に発揮させようとしたものである。この被覆材料
に関する提案が多数あり、その代表的なものに特開昭5
9−110776号公報及び特開昭59−25972号
公報がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】特開昭59−1107
76号公報には、Tiと、周期律表4a(Tiは除
く),5a,6a族金属の一種以上の炭窒化物を硬質相
とし、Fe,Co,Ni,Cr,Mo,W,Ti,Al
の一種以上の金属を結合相とする窒素含有サーメットの
表面に直接Al23及び/又はZrO2からなる厚み
0.1〜20μmの被膜を被覆した表面被覆焼結硬質合
金が記載されている。
【0004】同公報に記載の表面被覆焼結硬質合金は、
窒素含有サーメットでなる基材の表面に直接Al23
び/又はZrO2からなる被膜を被覆し、被膜の優れた
耐摩耗性の効果を発揮させようとしたものであるが、基
材と被膜との密着性が劣るために耐摩耗性の向上が期待
できないという問題がある。
【0005】特開昭59−25972号公報には、超硬
合金,サーメット,セラミックスの基材の表面に、Al
23とTiC,TiN,AlN,ZrN,Si34,T
iO,ZrO2から選ばれる1種又はそれ以上からなる
厚み1〜20μmの被覆層があり、被覆層中のAl23
含有量が全体の50〜99.9%であり、基材に隣接す
る5μm以内のAl23含有量が0.1〜20%である
被覆硬質部材が記載されている。
【0006】同公報に記載の被覆硬質部材は、基材の表
面に直接金属酸化物の被膜を形成させずに、基材側の被
膜にはAl23の含有量を少なくし、被膜の表面側には
Al23の含有量を多くし、基材と被膜との密着性並び
に被加工材と接触する被膜の表面側の耐摩耗性を考慮し
たものであるが、被膜の組成成分の制御が困難であるこ
と、被膜の厚さ制御が困難であること、及び基材と被膜
との密着性の向上が満足できるまで達してないという問
題がある。
【0007】本発明は、上述のような問題点を解決した
もので、具体的には、超硬合金,サーメット,高速度鋼
等のように金属又は合金でなる金属相を含む基材の表面
層における金属相中に金属間化合物を混存させ、この基
材の表面層上にセラミックスの被膜を被覆させて耐剥離
性,耐摩耗性及び強度に優れるようにした高密着性被覆
部材及びその製造方法の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、被覆材料の
強度を低下させずに被膜と基材との密着性を高めること
について検討していた所、超硬合金やサーメットの基材
を構成しているFe,Ni,Coを主成分とする金属相
中に金属間化合物を混在させると、基材とセラミックス
の被膜、特に金属酸化物の被膜との密着性が向上するこ
と、被膜が緻密に形成されること、並びに金属相中に金
属間化合物を混在させる場所は、基材の表面層の部分と
することにより被覆材料の強度低下が生じないという知
見を得た。本発明は、この知見に基づいて完成したもの
である。
【0009】本発明の高密着性被覆部材は、金属又は合
金でなる金属相を含む基材にセラミックスの被膜を被覆
してなる被覆部材であって、該基材の表面から内部へ向
かって少なくとも0.1μmの厚さでなる表面層にNi
Si2,CoSi2,TiSi2,MoSi2,WSi2
Fe3Al,NiAl,Ni3Al,Ni3Nb,AlC
o,Al5Co2,Al9Co2,Al13Co4,Co3
i,Zr3Al,Ni3Si,Ni3(Al,W),Ni2
(Al,Ti),TiAl,Nb3Al,V3Siの中の
少なくとも1種でなる金属間化合物が混在されているこ
とを特徴とする。
【0010】本発明の被覆部材における基材は、具体的
には、例えばCo及び/又はNi、もしくはCoやNi
の合金を金属相として含む超硬合金,サーメット、ま
た、Fe,Ni,Co,Crの合金を金属相として含む
ステンレス,高速度鋼、及びハステロイやインコネル等
の耐熱合金、さらにAl,Siの合金を金属相とするA
l合金を挙げることができる。これらの内、好ましい基
材は、勿論用途により異なるが表面層の形成の容易性か
ら超硬合金,サーメット,ステンレス,ハイス又は耐熱
合金である。
【0011】これらの基材の表面部に形成される表面層
は、基材の材質と被膜の材質及び膜厚との関係、並びに
用途や形状により異なるが、被膜との密着性から基材の
表面から内部へ向って少なくとも0.1μmの厚さから
なるもので、基材と被膜との安定した密着性及び基材の
強度低下の防止から、特に0.2〜10μm厚さでなる
ことが好ましい。
【0012】この表面層中に混在させる金属間化合物
は、具体的には、例えばNiSi2,CoSi2,TiS
2,MoSi2,WSi2,Fe3Al,NiAl,Ni
3Al,Ni3Nb,AlCo,Al5Co2,Al9
2,Al13Co4,Co3Ti,Zr3Al,Ni3
i,Ni3(Al,W),Ni2(Al,Ti),TiA
l,TiAl3,Nb3Al,V3Siを挙げることがで
きる。この金属間化合物は、基材の材質と被膜の材質を
考慮して選定することが好ましく、その中でも基材を構
成している金属相の元素が金属間化合物の構成元素とな
ることが特に好ましく、具体的には、Fe,Ni,C
o,Al,Mo,Cr,Ti,Siの中の少なくとも2
種からなる金属間化合物である。
【0013】この表面層の表面に形成される被膜は、具
体的には、例えば周期律表4a,5a,6a族金属の炭
化物,窒化物,酸化物,硼化物,Alの窒化物,酸化
物,硼化物,Siの炭化物,窒化物,酸化物,立方晶窒
化硼素,六方晶窒化硼素,二硫化タングステン,二硫化
モリブデン及びこれらの相互固溶体の中の少なくとも1
種の単層もしくは複層でなる被膜を挙げることができ
る。この被膜の厚さは、被膜の材質及びその構成、並び
に被覆部材の用途や形状により異なるが、0.1〜20
μm厚さ、特に好ましくは0.5〜10μm厚さであ
る。
【0014】本発明の被覆部材は、従来から行われてい
る電解メッキ,無電解メッキ,CVD法,PVD法等の
方法と必要に応じて加熱処理による金属間化合物の形成
工程との組合わせによって作製することができるが、次
の方法により行うと、バラツキが少なく、安定した特性
を有する被覆部材を得ることができる。
【0015】本発明の被覆部材の製造方法は、金属又は
合金でなる金属相を含む基材の表面にPVD法もしくは
CVD法でもって金属膜を形成及び加熱し、該基材の表
面から内部へ向かって少なくとも0.1μmの厚さでな
る表面層に該金属膜を拡散させて、該金属相中の元素と
該金属膜中の元素とでなる金属間化合物を該表面層中に
形成させた後、該表面層の表面にセラミックスの被膜を
被覆させることを特徴とする方法である。
【0016】本発明の製造方法における表面層の形成工
程は、基材の表面を研摩及び洗浄した後、従来のPVD
法又はCVD法でもって金属膜を形成すると同時に金属
膜を基材の表面層内に拡散させて、金属膜の元素と表面
層中に存在する金属相の元素でもって金属間化合物を形
成させる場合、又は金属膜のを形成した後、金属膜の基
材の表面層内への拡散及び金属膜の元素と表面層中に存
在する金属相の元素とによる金属間化合物の形成のため
の加熱処理を施す方法である。
【0017】表面層の形成された後に、この表面にセラ
ミックスの被膜を被覆させる工程は、従来から行われて
PVD法又はCVD法でもって施す方法である。
【0018】
【作用】本発明の高密着性被覆部材は、基材の表面層に
混在している金属間化合物が被膜を被覆させる工程時に
おいてそのときの気相成分との反応の抑制作用をしてい
ること、基材の表面の酸化防止作用をしていること、並
びに基材表面に形成されるセラミックスの被膜の粒成長
抑制及び異常成長抑制作用をしているものである。
【0019】
【実施例1】市販されているSNGN120412形状
のサーメット(TiC−TaC−WC−Ni−Mo組
成)の基材を用いて、下記の(A)条件のアルミナイズ
処理を施した後、(B)条件の被膜形成処理を行って本
発明品1を得た。 (A)アルミナイズ処理条件 温度:1050℃,圧力:100Torr,時間:20
min,雰囲気:4vol%AlCl3−96vol%
2 (B)被膜形成処理条件 温度:1050℃,圧力:100Torr,時間:40
min,雰囲気:4vol%AlCl3−87vol%
2−5vol%Co−4vol%HCl 比較として、上記(A)アルミナイズ処理のみ施さない
で、他は本発明品1と同様にして比較品1を得た。
【0020】こうして得た本発明品1及び比較品1を光
学顕微鏡及びX線回拆法で調べた所、本発明品1は、基
材の表面から内部へ向って約1μmの厚さの表面層にN
iAlの金属間化合物が混在し、その表面に4μm厚さ
のAl23被膜が形成されていた。一方比較品1は、表
面層が存在せず基材表面に直接4μm厚みのAl23
膜が形成されていた。
【0021】この本発明品1と比較品1の被膜の剥離臨
界荷重(先端径0.2mmRのダイヤモンドコーンによ
るスクラッチ試験)を行った結果、本発明品1は、8.
0kg荷重まで被膜の剥離が生じなかったのに対し、比
較品1は、3.0kg荷重で被膜の剥離が生じた。
【0022】次いで、本発明品1及び比較品1を用い
て、下記(C)条件により切削試験を行った。 (C)外周連続切削試験条件(dry) 被削材:S48C,切削速度:160m/min,切込
み:1.5mm,送り:0.5mm/rev,切削時
間:30min 切削試験の結果、本発明品1は、平均逃げ面摩耗量(V
B):0.25mm,クレーター摩耗量(KT):0.0
2mmであったのに対し、比較品1は、平均逃げ面摩耗
量(VB):0.3mm,クレーター摩耗量(KT):
0.06mmであった。
【0023】
【実施例2】基材にインコネル(IN718,約13×
13×5mm形状)を用いて、下記の(D)条件のアル
ミナイズ処理を施した後、(E)条件の被膜形成処理を
行って本発明品2を得た。 (D)アルミナイズ処理条件 温度:1080℃,圧力:大気圧,時間:60min,
雰囲気:5.7vol%AlCl3−8.6vol%H2
−85.7vol%Ar (E)被膜形成処理条件 温度:900℃,圧力:160Torr,時間:210
min,雰囲気:3.9vol%AlCl3−91vo
lH2−5.1voi%CO2 比較として、上記(E)アルミナイズ処理のみ施さない
で、他は本発明品2と同様に処理して比較品2を得た。
【0024】こうして得た本発明品2及び比較品2を実
施例1の本発明品1と同様にしてべた所、本発明品2
は、基材の表面から内部へ向って9μmの厚さの表面層
にNiAl,Ni3Alと判断できる金属間化合物が混
在し、その表面に6μm厚さのAl23被膜が形成され
ていた。一方、比較品2は、表面層が存在せず基材表面
に直接6μm厚みのAl23被膜が形成されていた。
【0025】この本発明品2と比較品2を用いて、実施
例1で行ったスクラッチ試験でもって被膜の剥離臨界荷
重を求めた結果、本発明品2は、1kg荷重まで被膜の
剥離が生じなかったのに対し、比較品2は、布でこすり
つけるとほぼ全面に亘って剥離した。
【0026】
【実施例3】SNGA120408形状の超硬合金(W
C−2%TiC−2%Tac−6%Co組成成分)を基
材として用いて、実施例1の(A)条件でもってアルミ
ナイズ処理を施した後、実施例2の(E)条件でもって
被膜形成処理を施して本発明品3を得た。
【0027】比較として、実施例1の(A)条件による
アルミナイズ処理のみ施さないで、他は本発明品3と同
様に処理して比較品3を得た。
【0028】こうして得た本発明品3及び比較品3を実
施例1の本発明品1と同様に調べた所、本発明品3は、
基材の表面から内部に向って2μm厚さの表面層にAl
Coと判断できる金属間化合物が混在し、その表面に5
μm厚さのAl23被膜が形成されていた。一方、比較
品3は、表面層が存在せず基材表面に直接5μm厚みの
Al23被膜が形成されていた。
【0029】本発明品3と比較品3を用いて、実施例1
で行ったスクラッチ試験でもって被膜の剥離臨界荷重を
求めた結果、本発明品3は8.4kg、比較品3は0.
1kgであった。
【0030】
【発明の効果】本発明の高密着性被覆部材は、従来の被
覆部材に比べて被膜の耐剥離性が2.7〜84倍も向上
すること、切削試験における平均逃げ面摩耗量が83%
及びクレーター摩耗量が33%に減少するという効果が
ある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 14/00 - 14/58 C23C 16/00 - 16/56 B23P 15/28

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属又は合金でなる金属相を含む基材に
    セラミックスの被膜を被覆してなる被覆部材において、
    該基材の表面から内部へ向かって少なくとも0.1μm
    の厚さでなる表面層にNiSi2,CoSi2,TiSi
    2,MoSi2,WSi2,Fe3Al,NiAl,Ni3
    Al,Ni3Nb,AlCo,Al5Co2,Al9
    2,Al13Co4,Co3Ti,Zr3Al,Ni3
    i,Ni3(Al,W),Ni2(Al,Ti),TiA
    l,Nb3Al,V3Siの中の少なくとも1種でなる金
    属間化合物が混在されていることを特徴とする高密着性
    被覆部材。
  2. 【請求項2】 金属又は合金でなる金属相を含む基材に
    セラミックスの被膜を被覆してなる被覆部材において、
    該基材の表面から内部へ向かって少なくとも0.1μm
    の厚さでなる表面層にFe,Ni,Co,Mo,Cr,
    Ti,Siの中の少なくとも2種からなる金属間化合物
    が混在されていることを特徴とする高密着性被覆部材。
  3. 【請求項3】 上記基材は、超硬合金,サーメット,ス
    テンレス,ハイス又は耐熱合金からなることを特徴とす
    る請求項1又は2に記載の高密着性被覆部材。
  4. 【請求項4】 上記被膜は、周期律表4a,5a,6a
    族金属の炭化物,窒化物,酸化物,硼化物,Alの窒化
    物,酸化物,硼化物,Siの炭化物,窒化物,酸化物及
    びこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種の単層もし
    くは複層でなることを特徴とする請求項1〜3のいずれ
    か1項に記載の高密着性被覆部材。
  5. 【請求項5】 上記表面層は、0.2〜5μm厚さであ
    ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載
    の高密着性被覆部材。
  6. 【請求項6】 金属又は合金でなる金属相を含む基材の
    表面に物理蒸着法もしくは化学蒸着法でもって金属膜を
    形成及び加熱し、該基材の表面から内部へ向かって少な
    くとも0.1μmの厚さでなる表面層に該金属膜を拡散
    させて、該金属相中の元素と該金属膜中の元素とでなる
    金属間化合物を該表面層中に形成させた後、該表面層の
    表面にセラミックスの被膜を被覆させることを特徴とす
    る高密着性被覆部材の製造方法。
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WO2021193875A1 (ja) * 2020-03-27 2021-09-30 京セラ株式会社 被覆工具および切削工具
CN114700812B (zh) * 2022-04-19 2023-01-31 中国航发动力股份有限公司 一种消除刀具磨损对封严齿齿厚影响的方法

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