JP3221054B2 - 電気絶縁用樹脂組成物およびエナメル線 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、電気絶縁用樹脂組成物
およびエナメル線に関する。

【０００２】

【従来の技術】従来、ポリビニルホルマール、ポリウレ
タン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミド
イミドなどの合成樹脂塗料を導体上に塗布、焼付けて得
られる絶縁電線（以下、エナメル線と略す）は、それぞ
れの塗料の特徴に応じてモータやトランスなどの各種の
用途に使用されている。近年、エナメル線を使用する電
気メーカーでは、機器の製造工程の合理化のため、自動
高速巻線機を導入しているが、巻線加工時にエナメル線
が摩擦や衝撃等を受け、エナメル線の絶縁層が機械的損
傷を受けてレヤーショートやアース不良等を生じ、製品
の不良率が増加するという問題が発生している。そこで
このような機械的損傷の少ない潤滑性の優れたエナメル
線が要望されている。

【０００３】通常、エナメル線単体では滑り性に乏しい
ため、エナメル線上に流動パラフィン、固形パラフィ
ン、絶縁油、ワックス等を塗布したり、機械的強度およ
び耐摩耗性に優れたナイロン等をオーバーコートする方
法が採用されている。しかし、前者の方法では、エナメ
ル線をモータやトランスに巻線した後、エナメル線の含
浸ワニスや注型レジンで処理する際、上記パラフィンな
どが含浸ワニスや注型レジンとの親和性に劣るため、接
着不良やボイドが発生し易いという問題があった。後者
の方法では、アンダーコートのエナメル線の焼付け線と
同条件（炉温、焼付け速度など）で焼付けることができ
ないため生産性が低下し、またカットスルー温度などの
エナメル線特性が低下するという問題があった。さらに
価格が高いため使用範囲が限定されていた。また最近、
エナメル線用合成樹脂塗料にワックスや低分子量のポリ
スチレンを分散した塗料をアンダーコート用塗料と同一
条件でオーバーコートする方法が検討されているが、ワ
ツクス類や低分子量ポリエチレンはエナメル線用合成樹
脂および溶剤との相溶性に乏しく、エナメル線用合成樹
脂塗料中に分散し難く、たとえ強力に撹拌するなどの方
法で無理に分散させたとしても分離したり、分散度が悪
いためエナメル線の外観が悪く、滑り性が劣るなどの欠
点があった。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記技術の
欠点を解決し、滑剤の分散性が良好で、エナメル線の外
観および広い範囲のエナメル線の焼付条件で滑り性が優
れた電気絶縁用樹脂組成物およびこれを用いたエナメル
線を提供するものである。

【０００５】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
に鑑み鋭意検討した結果、部分ケン化エステルワックス
と低分子量ポリエチレンを配合した電気絶縁用樹脂組成
物に、さらに芳香族アミンを添加することによりエナメ
ル線の焼付条件が高目の範囲（焼付温度の高温側、焼付
速度の低速側等）でも滑剤の分散性、エナメル線の外観
が良好で、その滑り性が向上できることを見出し、本発
明に到達した。すなわち、本発明は、電気絶縁用合成樹
脂塗料の樹脂分１００重量部に対して（Ａ）部分ケン化
エステルワックス０．１〜１０重量部、（Ｂ）数平均分
子量５０００以下の低分子量ポリエチレン０．１〜１０
重量部および（Ｃ）芳香族アミン０．０１〜１０重量部
を配合してなる電気絶縁用樹脂組成物ならびにこれを導
体上に直接または他の絶縁物を介して塗布、焼付けてな
るエナメル線に関する。

【０００６】本発明に用いられる電気絶縁用合成樹脂塗
料の樹脂分には特に制限はなく、例えばポリビニルホル
マール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイ
ミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂を含む
塗料が用いられるが、これらのうちポリアミドイミド樹
脂が、焼付条件を高目として焼付けたエナメル線に対す
る潤滑性の付与効果が大きいので好ましいる。本発明に
用いられる部分ケン化エステルワックス（Ａ）として
は、例えば

【０００７】

【化１】 （式中、ＲおよびＲ′は炭素数２８〜３２の炭化水素基
を示す）で表わされる化合物およびその誘導体が挙げら
れる。この市販品としては、例えばヘキストワックスＯ
Ｐ、ヘキストワックスＸ５５、ヘキストワックスＯ、ヘ
キストワックスＯＭ、ヘキストワックスＦＬ（いずれも
ヘキストジャパン社製商品名）などが挙げられる。部分
ケン化エステルワックスは、低分子量ポリエチレン
（Ｂ）との相溶性に優れるために用いられる。部分ケン
化エステルワックス（Ａ）の使用量は、塗料の樹脂分１
００重量部に対して０．１〜１０重量部、好ましくは
０．２〜５重量部である。使用量が０．１重量部未満で
は滑り性の効果が劣り、１０重量部を超えるとエナメル
線の外観が劣る。

【０００８】本発明に用いられる低分子量ポリエチレン
（Ｂ）としては、数平均分子量が５０００以下、好まし
くは１０００〜４０００のものであれば特に制限はな
い。数平均分子量が５０００を超えると分散性に劣り、
エナメル線の外観が低下する。この市販品としては、例
えばヘキストワックスＰＥ５２０、ヘキストワックスＰ
Ｅ１３０（いずれもヘキストジャパン社製商品名）など
があげられる。低分子量ポリエチレンの使用量は、塗料
の樹脂分１００重量部に対して０．１〜１０重量部、好
ましくは０．２〜５重量部である。使用量が０．１重量
部未満では滑り性の向上効果がなく、１０重量部を超え
るとエナメル線の外観が低下し、組成物が短時間で層分
離する。成分（Ａ）または成分（Ｂ）を単独で配合する
と塗料への分散が不均一となりエナメル線の外観が低下
し、また組成物が短時間で層分離する。

【０００９】本発明に用いられる芳香族アミンは、電気
絶縁用合成樹脂塗料特にアミドイミド樹脂塗料を焼付け
る際、塗膜表面の熱劣化を防ぎ、得られたエナメル線の
滑り性を向上させるために添加される。芳香族アミンの
例としては、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル
−β−ナフチルアミン、ｐ−（ｐ−トルエンスルホニル
アミド）−ジフェニルアミン、４，４′−（α，α−ジ
メチルベンジル）ジフェニルアミン、４，４′−ジオク
チルジフェニルアミン、Ｎ，Ｎ′−ジフェニル−ｐ−フ
ェニレンジアミン、Ｎ−イソプロピル−Ｎ′−フェニル
−ｐ−フェニレンジアミン、Ｎ，Ｎ′−ジ−２−ナフチ
ル−ｐ−フェニレンジアミン、Ｎ−シクロヘキシル−
Ｎ′−フェニル−ｐ−フェニレンジアミン、Ｎ−フェニ
ル−Ｎ′−（３−メタクロイルオキシ−２−ヒドロキシ
プロピル）−ｐ−フェニレンジアミン、Ｎ，Ｎ′−ビス
（１−メチルヘプチル）−ｐ−フェニレンジアミン、
Ｎ，Ｎ′−ビス（１，４−ジメチルペンチル）−ｐ−フ
ェニレンジアミン、Ｎ，Ｎ′−ビス（１−エチル−３−
メチルペンチル）−ｐ−フェニレンジアミン、Ｎ−
（１，３−ジメチルブチル）−Ｎ′−フェニル−ｐ−フ
ェニレンジアミン、２，２，４−トリメチル−１，２−
ジヒドロキノリン、６−エトキシ−２，２，４−トリメ
チル−１，２−ジヒドロキノリンなど、これらの誘導体
およびこれらの混合物があげられる。芳香族アミンの添
加量は、電気絶縁用合成樹脂塗料の樹脂分１００重量部
に対して０．０１〜１０重量部好ましくは、０．１〜
５．０重量部である。使用量が０．０１重量部未満で
は、滑り性向上に効果が不十分であり、１０重量部を超
えると、エナメル線外観及び他の特性に悪影響を及ぼ
す。

【００１０】電気絶縁用合成樹脂塗料に上記成分
（Ａ）、（Ｂ）、（Ｃ）を添加する方法には、特に制限
はないが、例えば部分ケン化エステルワックス（Ａ）と
低分子量ポリエチレン（Ｂ）を有機溶剤に分散させた分
散液を電気絶縁用合成樹脂塗料と芳香族アミン（Ｃ）を
溶かしたものに添加する。

【００１１】本発明の電気絶縁用樹脂組成物を直接導体
に又は、他の絶縁物を介して塗布焼付けてエナメル線を
得ることができる。本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、
滑剤が良好に分散すると同時にエナメル線焼付条件が高
目でも焼付時の塗膜表面の熱劣化を効果的に防止するこ
とにより、これによって外観、滑り性、耐摩耗性に優れ
たエナメル線を得ることができる。

【００１２】

【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説
明する。なお、例中の部は、重量部を意味する。 実施例１ キシレン３２部にヘキストワックスＯＰ（部分ケン化エ
ステルワックス、ヘキストジャパン社製商品名）および
ヘキストワックスＰＥ５２０（低分子量ポリエチレン、
数平均分子量２０００、ヘキストジャパン社製商品名）
をそれぞれ８部加えて加熱溶解し、これを室温のキシレ
ン１１２部に急激撹拌しながら一気に投入し、均一なワ
ックス分散液を得た。ポリアミドイミドワニスＨＩ−４
０６（日立化成工業（株）製、樹脂分３０重量％）２０
０部にＮ，Ｎ′−ジー２ーナフチル−ｐ−フェニレンジ
アミンを０．６部溶解したものに、上述のワックス分散
液２４部を添加し、撹拌して分散させ樹脂組成物を得
た。

【００１３】実施例２ 実施例１において、ヘキストワックスＰＥ５２０の代わ
りにヘキストワックスＰＥ１３０（低分子量ポリエチレ
ン、数平均分子量３０００、ヘキストジャパン社製商品
名）を、Ｎ，Ｎ′−ジ−２−ナフチル−ｐ−フェニレン
ジアミンの代わりにＮ，Ｎ′−ジフェニル−ｐ−フェニ
レンジアミンを用いた以外は、実施例１と同様にして樹
脂組成物を得た。

【００１４】実施例３ 実施例１においてＮ，Ｎ′−ジ−２−ナフチル−ｐ−フ
ェニレンジアミンの代りにｐ−（ｐ−トルエンスルホニ
ルアミド）−ジフェニルアミンを用いた以外は、実施例
１と同様にして樹脂組成物を得た。

【００１５】比較例１ 実施例１においてＮ，Ｎ′−ジ−２−ナフチル−ｐ−フ
ェニレンジアミンを添加しない以外は、実施例１と同様
にして樹脂組成物を得た。

【００１６】比較例２ 実施例１においてＮ，Ｎ′−ジ−２−ナフチル−ｐ−フ
ェニレンジアミンの代りにフェノール系老化防止剤のテ
トラキス−〔メチレン−３−（３′，５′−ジ−第三ブ
チル−４′−ヒドロキシフェニル）プロピオネ−ト〕メ
タンを用いた以外は、実施例１と同様にして樹脂組成物
を得た。

【００１７】比較例３ 実施例１においてＮ，Ｎ′−ジ−２−ナフチル−ｐ−フ
ェニレンジアミンの代りにフェノール系老化防止剤の
３，５−ジ−第三ブチル−４−ヒドロキシベンジルホス
ホネ−トジエチルエステルを用いた以外は、実施例１と
同様にして樹脂組成物を得た。

【００１８】試験例 実施例１〜３および比較例１〜３で得られた樹脂組成物
を用いて下記に示す焼付条件に従って直径１．０ｍｍの
銅線に塗布、焼付けを行いエナメル線を製造した。 下地：ＨＩ−４０６（ポリアミドイミド樹脂ワニス、日
立化成工業社製）：ダイス６回 上地：各実施例または、比較例で得た樹脂組成物：ダイ
ス２回 焼付炉：竪型熱風炉（炉長５ｍ） 炉温：入口／出口＝３２０℃／４３０℃ 線速：１４ｍ／分 得られたエナメル線皮膜は、いずれも外観上平滑で異常
が認められず、各エナメル線皮膜の特性を下記の方法に
より試験し、結果を表１に示した。

【００１９】（１） 可撓性：ＪＩＳ Ｃ３００３．
８．１（１）に準じて調べた。 （２） ピンホール：ＪＩＳ Ｃ３００３．３６に準じ
て調べた。 （３） 絶縁破壊電圧：ＪＩＳ Ｃ３００３．１１．
（２）に準じて調べた。 （４） 往復摩耗：旧ＪＩＳ Ｃ３００３．１０．１に
準じて調べた。 （５） 静摩擦係数：エナメル線同士間の静摩擦係数を
測定するものであり、その測定方法は、東洋精機社製の
電線滑り試験器を用い、傾斜台上において４本のエナメ
ル線を同一面上に末広がり状に張設し、この上にこの４
本のエナメル線と交差するように上記供試エナメル線と
同じエナメル線を２本平行に張設したソリを乗せ、これ
を水平位置から徐々に傾斜させ、ソリの滑り開始角度を
タンジェント目盛で読み取った。なおソリの荷重は、１
００ｇに設定した。

【００２０】

【表１】

【００２１】表１から明らかなように、本発明の樹脂組
成物から得られたエナメル線は、優れた滑り性と耐摩耗
性を有する。

【００２２】

【発明の効果】本発明の電気絶縁用樹脂組成物によれ
ば、滑り性および耐摩耗性に優れるとともに外観の良好
なエナメル線が得ることができ、近年の過酷な巻線、加
工、組立作業に有用である。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 岡田 泰典 茨城県日立市東町四丁目13番１号 日立 化成工業株式会社 山崎工場内 (56)参考文献 特開 平４−15213（ＪＰ，Ａ) 特開 平４−206311（ＪＰ，Ａ) (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) H01B 3/30 H01B 7/02 C09D 5/25 C08L 79/08

Claims (3)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 電気絶縁用合成樹脂塗料の樹脂分１００
   重量部に対して（Ａ）部分ケン化エステルワックス０．
   １〜１０重量部、（Ｂ）数平均分子量５０００以下の低
   分子量ポリエチレン０．１〜１０重量部および（Ｃ）芳
   香族アミン０．０１〜１０重量部を配合してなる電気絶
   縁用樹脂組成物。
2. 【請求項２】 電気絶縁用合成樹脂がアミドイミド樹脂
   である請求項１記載の電気絶縁用樹脂組成物。
3. 【請求項３】 請求項１または請求項２記載の電気絶縁
   用樹脂組成物を導体上に直接または他の絶縁物を介して
   塗布、焼付けてなるエナメル線。