以下、本考案の一実施形態に関して、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.積層体
2.積層体の製造方法
3.作用および効果
4.変形例
<1.積層体>
まず、本考案の一実施形態の積層体に関して説明する。
ここで説明する積層体は、工業分野および商業分野などの各種用途に適用可能である。この積層体が適用される用途は、装飾層により基体の表面が装飾されることを要する用途であれば、特に限定されない。
一例を挙げると、積層体が適用される用途は、自動車、家庭用電気製品、建築用材料および文房具などであり、これ以外の用途でもよい。
[積層体の全体構成]
図1は、積層体の断面構成を表している。なお、図1では、積層体の構成を模式的に示しているため、その積層体を構成する一連の層の厚さは、後述する接着層2の厚さを除き、任意に設定可能である。
この積層体は、図1に示したように、基体1と、接着層2と、装飾層3とを備えている。
[基体]
基体1は、例えば、金属および樹脂(高分子化合物)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。すなわち、基体1は、金属だけを含んでいてもよいし、樹脂だけを含んでいてもよいし、双方を含んでいてもよい。
基体1が金属および樹脂の双方を含む場合とは、例えば、基体1が金属と樹脂との混合物である場合、基体1の一部分が金属により形成されていると共に他の部分が樹脂により形成されている場合、基体1が1層以上の金属層と1層以上の樹脂層とを含む多層である場合などが考えられる。
金属は、単体でもよいし、合金でもよい。この金属は、例えば、鉄、アルミニウム、チタン、真鍮、ステンレスおよび銅などであり、中でも、鉄、アルミニウムおよびステンレスなどが好ましい。基体1に対する接着層2の密着性が高くなるからである。なお、ステンレスの種類は、特に限定されないが、例えば、SUS304などである。
樹脂は、単独重合体でもよいし、共重合体でもよい。この樹脂は、例えば、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネートおよびポリ塩化ビニルなどである。中でも、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体、ポリエチレン、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどが好ましい。基体1に対する接着層2の密着性が高くなるからである。
この基体1は、剛性を有していてもよいし、可撓性を有していてもよい。具体的には、基体1が金属を含む場合には、その基体1は、例えば、剛性を有する金属基板でもよいし、可撓性を有する金属箔でもよい。基体1が樹脂を含む場合には、その基体1は、例えば、剛性を有する樹脂基板でもよいし、可撓性を有する樹脂フィルムでもよい。
また、基体1は、単層でもよいし、多層でもよい。このように単層でも多層でもよいことは、接着層2および装飾層3のそれぞれに関しても同様である。多層である基体1において、その基体1を構成する各層は、上記したように、金属だけを含んでいてもよいし、樹脂だけを含んでいてもよいし、双方を含んでいてもよい。
なお、基体1は、必要に応じて、1層または2層以上の機能層を含んでいてもよい。この機能層は、積層体が適用される用途などに応じた特定の機能を発揮する層である。この機能層の有無、種類および層数などは、例えば、積層体が適用される用途(要求性能など)に応じて任意に設定可能である。なお、機能層は、基体1の片面(上面または下面)だけに設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
一例を挙げると、基体1が金属である場合には、機能層は、基体1と接着層2との密着性を高くするための下地層(表面処理層)などである。
上記以外の基体1の構成は、特に限定されない。例えば、基体1の厚さおよび形状などは、任意に設定可能である。
[接着層]
接着層2は、基体1に対する装飾層3の密着性を向上させるために、その基体1と装飾層3との間に設けられている。この接着層2は、例えば、基体1の上面全体を被覆している。
基体1と接着層2との間には、必要に応じて、他の層が介在していてもよいし、他の層が介在していなくてもよい。この他の層は、例えば、接着層2以外の他の接着層などである。
中でも、基体1と接着層2との間に他の層は介在しておらず、その接着層2は基体1に隣接(接触)していることが好ましい。接着層2による接着機能が効果的に発揮されるため、基体1と接着層2との密着性が向上するからである。
接着層2と装飾層3との間には、必要に応じて、上記した他の層が介在していてもよいし、他の層が介在していなくてもよい。中でも、接着層2と装飾層3との間に他の層は介在しておらず、その接着層2は装飾層3に隣接していることが好ましい。接着層2による接着機能が効果的に発揮されるため、接着層2と装飾層3との密着性が向上するからである。
この接着層2は、熱硬化樹脂のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その熱硬化樹脂は、熱硬化性樹脂のうちのいずれか1種類または2種類以上の硬化反応物である。熱硬化樹脂は、基体1の材質に依存せずに、その基体1に対して高い密着性を有するからである。熱硬化樹脂は、後述する紫外線硬化樹脂を含む装飾層3に対しても、高い密着性を有するからである。これにより、基体1と装飾層3とが接着層2を介して強固に結合される。
熱硬化樹脂は、例えば、硬化剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いた熱硬化性樹脂の硬化反応物でもよい。この場合には、積層体の製造工程において、熱硬化性樹脂が加熱されると、その熱硬化性樹脂と硬化剤とが硬化反応するため、熱硬化樹脂が形成される。
熱硬化樹脂の種類は、特に限定されない。接着層2が熱硬化樹脂を含んでいれば、その熱硬化樹脂の種類に依存せずに、接着層2と基体1との密着性が向上すると共に、その接着層2と装飾層3との密着性も向上するからである。また、接着層2自体の物理的強度が高くなるため、その接着層2が劈開しにくくなるからである。
熱硬化性樹脂の種類は、特に限定されないが、例えば、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、尿素樹脂、メラミン樹脂およびエポキシ樹脂などである。中でも、ウレタン樹脂が好ましい。ウレタン樹脂とは、ウレタン結合(−NH−C(=O)−O−)を含む樹脂の総称である。このウレタン樹脂の種類は、特に限定されない。ウレタン結合を含む樹脂であれば、その樹脂の種類に依存せずに、熱硬化性樹脂としての機能が十分に発揮されるからである。
特に、ウレタン樹脂は、例えば、ビニルウレタン樹脂などであることが好ましい。反応性に優れているため、硬化反応が進行しやすいと共に、十分な密着性が得られるからである。また、硬化反応物は優れた物理的強度を有するため、十分な物理的強度が得られるからである。
硬化剤の種類は、特に限定されないが、例えば、イソシアネート樹脂などである。イソシアネート樹脂とは、イソシアネート基(−N=C=O)を含む樹脂の総称である。このイソシアネート樹脂の種類は、特に限定されない。イソシアネート基(−NCO)を含む樹脂であれば、その樹脂の種類に依存せずに、硬化剤としての機能が発揮されるからである。
中でも、イソシアネート樹脂は、トリレンジイソシアネート(TDI)とポリエステルポリオールとの反応物、およびジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などであることが好ましい。反応性に優れているため、硬化反応が進行しやすいからである。
これらのことから、熱硬化樹脂は、例えば、ウレタン樹脂とイソシアネート樹脂との硬化反応物を含んでいることが好ましい。この硬化反応物では、例えば、ウレタン樹脂がポリイソシアネート樹脂を介して架橋などしていると考えられる。
熱硬化性樹脂と硬化剤との混合比は、特に限定されない。接着層2が熱硬化性樹脂と硬化剤との硬化反応物を含んで入れば、上記した混合比に依存せずに、優れた密着性および優れた物理的強度が得られるからである。
特に、熱硬化樹脂を含んでいる接着層2の厚さは、約10μm〜50μmであり、好ましくは約10μm〜30μmである。接着層2の厚さが適正化されるため、基体1に対する接着層2の密着性が特異的に向上するからである。
詳細には、接着層2の厚さが10μmよりも小さい場合には、その接着層2が薄すぎるため、基体1に対する接着層2の密着性が不足する。一方、接着層2の厚さが50μmよりも大きい場合には、その接着層2が厚すぎるため、かえって基体1に対する接着層2の密着性が低下する。よって、いずれの場合においても、接着層2を用いているにもかかわらず、装飾層3が接着層2と一緒に基体1から剥離しやすくなる。
これに対して、接着層2の厚さが10μm〜50μmであると、基体1と装飾層2との間に介在する接着層2の厚さが適正化されるため、上記したように、基体1に対する接着層2の密着性が特異的に向上する。これにより、基体1に対して装飾層3が接着層2を介して著しく強固に結合される。
ここで説明した接着層2の適正な厚さ(=約10μm〜50μm)は、上記したように、基体1と装飾層3(紫外線硬化樹脂)との間に接着層2(熱硬化樹脂)が介在している場合にだけ適用される特別な条件である。
なお、接着層2は、例えば、後述するように、多孔質構造を有していることが好ましい。基体1に対する接着層2の密着性がより向上すると共に、装飾層3に対する接着層2の密着性もより向上するからである。
上記以外の接着層2の構成は、特に限定されない。
[装飾層]
装飾層3は、例えば、図1に示したように、接着層2の上面全体を被覆している。
この装飾層3は、紫外線硬化樹脂のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。紫外線硬化樹脂は、優れた物理的強度を有しているため、装飾層3の物理的強度が確保されるからである。なお、装飾層3は、例えば、後述するように、紫外線(UV)印刷層でもよい。装飾層3の形成効率が向上するからでる。
この紫外線硬化樹脂は、後述するように、紫外線硬化性樹脂の硬化反応物である。すなわち、積層体の製造工程では、紫外線硬化性樹脂に紫外線が照射されると、その紫外線硬化性樹脂が硬化反応するため、紫外線硬化樹脂が形成される。
紫外線硬化樹脂の種類は、特に限定されない。装飾層3が紫外線硬化樹脂を含んでいれば、その紫外線硬化樹脂の種類に依存せずに、装飾層3自体の物理的強度が確保されるからである。
中でも、紫外線硬化樹脂は、例えば、アクリル酸エステルの硬化反応物(ポリアクリル酸エステル)などであることが好ましい。装飾層3と接着層2との密着性が著しく向上すると共に、その装飾層3の物理的強度も著しく向上するからである。
ポリアクリル酸エステルの種類は、特に限定されない。ポリアクリル酸エステルであれば、エステルの種類に依存せずに、優れた密着性および優れた物理的強度が得られるからである。このポリアクリル酸エステルは、例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル、ポリアクリル酸2−ジメチルアミノエチルおよびポリアクリル酸2−ヒドロキシエチルなどであり、これ以外でもよい。
上記以外の装飾層3の構成は、特に限定されない。例えば、装飾層3の厚さなどは、任意に設定可能である。一例を挙げると、装飾層3の厚さは、約8μm〜40μmである。
[添加剤]
なお、接着層2および装飾層3のそれぞれは、必要に応じて、添加剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この添加剤の有無および種類などは、例えば、積層体が適用される用途(要求性能など)に応じて決定される。
具体的には、積層体の最上層である装飾層3は、例えば、着色材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。所望の色となるように装飾層3を着色することにより、その装飾層3を利用して積層体の表面に所望のデザインを施すことができるからである。もちろん、着色材料の色数は、1色だけでもよいし、2色以上でもよい。
着色材料の種類は、特に限定されない。この着色材料は、例えば、顔料および染料などである。
一例を挙げると、着色材料の種類は、以下の通りである。白色(ホワイト)の着色材料は、例えば、酸化チタンなどである。黒色(ブラック)の着色材料は、カーボンブラックなどである。赤(マゼンタ)色の着色材料は、例えば、酸化鉄などである。青(シアン)色の着色材料は、例えば、銅フタロシアニン化合物などである。黄(イエロー)色の着色材料は、例えば、ニッケル化合物などである。
<2.積層体の製造方法>
次に、積層体の製造方法に関して説明する。
なお、以下では、既に説明した積層体のうちの各層の構成および形成材料などに関する説明を適宜省略する。
積層体を製造する場合には、上記した構成となるように、基体1の上に接着層2および装飾層3をこの順に形成する。この場合には、接着層2の厚さを約10μm〜50μmとする。
上記した構成となるように積層体を製造できれば、その積層体の製造方法に関する詳細は、特に限定されない。中でも、接着層2の厚さを制御しやすくするために、例えば、以下で説明する手順により、積層体を製造することが好ましい。
最初に、熱硬化性樹脂を含む第1溶液(以下、「熱硬化性樹脂溶液」と呼称する。)を調製する。この熱硬化性樹脂溶液を調製する場合には、例えば、熱硬化性樹脂と、有機溶剤と、必要に応じて添加剤などとを混合したのち、その混合物を撹拌する。
この熱硬化性樹脂溶液は、多量の有機溶剤を含んでいる。具体的には、熱硬化性樹脂溶液中における有機溶剤の含有量(重量)は、その熱硬化性樹脂溶液中における熱硬化性樹脂の含有量(重量)に対して、4倍以上である。上記した適正な厚さ(=約10μm〜50μm)となるように接着層2を形成しやすいからである。
中でも、有機溶剤の重量は、熱硬化性樹脂の重量に対して、12倍以下であることが好ましい。有機溶剤の重量が過剰になると、熱硬化性樹脂溶液の粘度が低くなりすぎるため、接着層2を形成すること自体が困難になる可能性があるからである。
なお、熱硬化性樹脂溶液は、上記したように、硬化剤を含んでいてもよい。熱硬化性樹脂溶液中における硬化剤の含有量(重量)は、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂の含有量(重量)に対して、0.2倍〜0.6倍程度であることが好ましい。硬化剤を用いて、熱硬化性樹脂を十分に硬化反応させることができるからである。
硬化剤の重量に対する有機溶剤の重量は、特に限定されないが、例えば、有機溶剤の重量は、硬化剤の重量に対して、17.5倍以上であることが好ましいと共に、26倍以下であることが好ましい。上記した適正な厚さとなるように接着層2を形成しやすいからである。
有機溶剤の種類は、特に限定されないが、例えば、トルエン、アセトンおよびエチレングリコールモノブチルエーテルなどのうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。揮発性(速乾性)に優れているため、多孔質構造を有する接着層2が形成されやすくなるからである。
中でも、エチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。揮発性が著しく高いため、多孔質構造を有する接着層2がより形成されやすくなるからである。
続いて、基体1の上に、熱硬化性樹脂溶液を供給する。この場合には、例えば、スプレー法、印刷法および塗布法などのうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて、基体1の上面に熱硬化性樹脂溶液を塗布する。この印刷法は、例えば、パット印刷法およびシルク印刷法などである。塗布法では、例えば、スピンコート法などを用いてもよいし、刷毛などの塗布用具を用いてもよい。
続いて、基体1の上に供給された熱硬化性樹脂溶液を加熱する。この加熱処理により、熱硬化性樹脂溶液中において熱硬化性樹脂が硬化反応するため、その熱硬化性樹脂の硬化反応物(熱硬化樹脂)が形成される。熱硬化性樹脂溶液が硬化剤を含む場合には、熱硬化性樹脂と硬化剤とが硬化反応するため、その熱硬化性樹脂と硬化剤との硬化反応物(熱硬化樹脂)が形成される。よって、熱硬化樹脂を含む接着層2が形成される。
加熱方法および加熱条件は、特に限定されない。例えば、乾燥炉などのうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて加熱処理を行う。加熱温度は、例えば、60℃〜180℃である。加熱時間は、例えば、10分間〜60分間である。この加熱条件は、例えば、基体1の種類などに応じて任意に設定可能である。
ここで、接着層2が多孔質構造を有していることが好ましい理由は、以下の通りである。
熱硬化性樹脂溶液が多量の有機溶剤を含んでいると、その熱硬化性樹脂溶液の粘度は、十分に低くなる。この場合には、接着層2の形成方法としてスプレー法などを用いると、熱硬化性樹脂溶液の微細な粒子が基体1の表面に堆積されるため、多孔質構造を有する接着層2が形成されやすくなる。これにより、装飾層3の形成工程において、後述する紫外線硬化性樹脂溶液が接着層2の表面に供給されると、その紫外線硬化性樹脂溶液が接着層2(多孔質構造)中に含浸しやすくなる。しかも、紫外線硬化性樹脂溶液が接着層2の表面に接触すると、その紫外線硬化性樹脂溶液中に含有されている有機溶剤により接着層2が部分的に溶解(浸食)されるため、接着層2に対して装飾層3が密着しやすくなる。よって、装飾層3と接着層2とが界面において複雑に噛み合いやすくなるため、いわゆるアンカー効果を利用することにより、装飾層3が接着層2に対して著しく強固に結合される。
また、熱硬化性樹脂溶液の粘度が十分に低い場合において、接着層2の形成方法としてスプレー法などを用いると、上記した熱硬化性樹脂溶液の微細な粒子の堆積厚さが薄くなるため、上記した適正な厚さとなるように接着層2の厚さを制御しやすくなる。
なお、熱硬化性樹脂溶液に含有される有機溶剤としては、上記したように、エチレングリコールモノブチルエーテルを用いることが好ましい。揮発性(速乾性)が著しく高いため、多孔質構造を有する接着層2が形成されやすくなるからである。
続いて、紫外線硬化性樹脂を含む第2溶液(以下、「紫外線硬化性樹脂溶液」と呼称する。)を調製する。この紫外線硬化性樹脂溶液を調製する場合には、例えば、紫外線硬化樹脂と、有機溶剤と、必要に応じて添加剤などとを混合したのち、その混合物を撹拌する。この添加剤は、例えば、重合開始剤などである。なお、有機溶剤の種類および混合比などは、特に限定されない。
なお、必要に応じて、紫外線硬化性樹脂溶液中に着色材料を含有させてもよい。この場合には、1種類(1色)の紫外線硬化性樹脂溶液を用いて、単色のデザインとなるように装飾層3を形成してもよい。または、互いに色が異なる複数の紫外線硬化性樹脂溶液を用いて、インクジェット法などを用いて紫外線硬化性樹脂溶液の供給範囲を制御することにより、多色(フルカラー)のデザインとなるように装飾層3を形成してもよい。
続いて、接着層2の上に、紫外線硬化性樹脂溶液を供給する。この場合には、例えば、スプレー法およびインクジェット法などのうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて、接着層2の上面に紫外線硬化性樹脂溶液を塗布する。中でも、インクジェット法を用いて、いわゆる紫外線(UV)印刷層(接着層2)を形成することが好ましい。接着層2を短時間で容易に形成できるからである。
続いて、接着層2の上に供給された紫外線硬化性樹脂溶液に紫外線を照射する。この照射処理により、紫外線硬化性樹脂溶液中において紫外線硬化性樹脂が硬化反応するため、その紫外線硬化性樹脂の硬化反応物(紫外線硬化樹脂)が形成される。よって、紫外線硬化樹脂を含む装飾層3が形成される。
照射方法および照射条件は、特に限定されない。例えば、紫外線(UV)ランプを用いて照射処理を行う。照射時間は、例えば、1秒間〜1分間である。
これにより、基体1の上に接着層2および装飾層3がこの順に形成されるため、積層体が完成する。
<3.作用および効果>
上記した積層体およびその製造方法によれば、基体1と装飾層3(紫外線硬化樹脂)との間に接着層2(熱硬化樹脂)が設けられており、その接着層2の厚さが10μm〜50μmである。この場合には、上記したように、接着層2の厚さが適正化されるため、基体1に対する接着層2の密着性が特異的に向上する。これにより、基体1に対して装飾層3が著しく強固に結合される。しかも、装飾層3に含有されている紫外線硬化樹脂により、その装飾層3の物理的強度が確保される。これにより、装飾層3が基体1から剥離しにくくなると共に、その装飾層3が摩耗しにくくなる。よって、装飾層3の耐剥離性および耐摩耗性を向上させることができる。
特に、基体1が鉄、アルミニウム、チタン、真鍮、ステンレス、銅、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネートおよびポリ塩化ビニルのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、装飾層3(紫外線硬化樹脂)がポリアクリル酸エステルを含んでおり、接着層2(熱硬化樹脂)がウレタン樹脂とイソシアネート樹脂との熱硬化反応物を含んでいれば、装飾層3の耐剥離性および耐摩耗性を十分に向上させることができる。
この場合には、基材1(樹脂)がアクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体、ポリエチレン、ポリスチレンおよびポリカーボネートのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいれば、装飾層3の耐摩耗性をより向上させることができる。
また、接着層2が基体1に隣接していると共に装飾層3に隣接していれば、その接着層2を介して基体1と装飾層3とが強固に結合されるため、より高い効果を得ることができる。
また、接着層2が多孔質構造を有していれば、基体1に対する接着層2の密着性がより向上すると共に、装飾層3に対する接着層2の密着性もより向上するため、より高い効果を得ることができる。
また、多量の有機溶剤を含む熱硬化性樹脂溶液を用いて接着層2を形成する場合において、その有機溶剤の重量が熱硬化性樹脂の重量に対して4倍以上であり、好ましくは4倍以上12倍以下であれば、上記した適正な厚さとなるように接着層2を形成しやすくなる。よって、適正な厚さを有する接着層2を容易かつ安定に形成しやすいため、より高い効果を得ることができる。また、紫外線硬化性樹脂溶液に関して、有機溶剤の重量が硬化剤の重量に対して17.5倍以上であり、好ましくは17.5倍以上26倍以下であれば、上記した適正な厚さとなるように接着層2をより形成しやすいため、さらに高い効果を得ることができる。
また、有機溶剤がエチレングリコールモノブチルエーテルなどを含んでおり、または熱硬化性樹脂溶液の供給方法としてスプレー法を用いれば、多孔質構造を有する接着層2を形成しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
<4.変形例>
[第1変形例]
図1では、装飾層3が接着層2の上面全体を被覆するようにしたが、これに限られない。
例えば、図1に対応する図2に示したように、装飾層3は、接着層2の上面を部分的に被覆していてもよい。この場合には、装飾層3は、例えば、複数に分割されていてもよい。この場合においても、接着層2を介して基体1と装飾層3とが結合されるため、同様の効果を得ることができる。
接着層2の表面を部分的に被覆するように装飾層3を形成するためには、例えば、紫外線硬化性樹脂溶液の供給方法としてインクジェット法などを用いることが好ましい。所望の領域だけに紫外線硬化性樹脂溶液が供給されるため、所望のパターン形状となるように装飾層3を形成できるからである。
[第2変形例]
また、例えば、図1に対応する図3に示したように、装飾層3は、接着層2の上面だけでなく側面まで被覆していてもよい。この場合には、装飾層3は、接着層2の側面だけを被覆していてもよいし、接着層2の側面だけでなく基体1の側面まで被覆していてもよい。この場合においても、接着層2を介して基体1と装飾層3とが結合されるため、同様の効果を得ることができる。
[第3変形例]
例えば、図1に対応する図4に示したように、積層体は、装飾層3の上に保護層4を備えていてもよい。
保護層4は、例えば、硬化樹脂のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この硬化樹脂の種類は、硬化反応により形成される樹脂であれば、特に限定されないが、例えば、常温硬化型樹脂などである。具体的には、常温硬化型樹脂は、主剤と硬化剤との硬化反応物であり、例えば、アクリルポリオールとイソシアネート樹脂との硬化反応物、ポリエステルポリオールとイソシアネート樹脂との硬化反応物、およびポリエーテルポリオールとイソシアネート樹脂との硬化反応物などである。イソシアネート樹脂の種類は、特に限定されないが、例えば、上記した接着層2に関して説明した場合と同様である。この保護層4の厚さは、特に限定されないが、例えば、約15μm以上である。この場合の保護層4の厚さは、約15μm以上であれば、任意に設定可能である。
この保護層4は、優れた物理的強度を有する硬化樹脂を含んでいるため、装飾層3を物理的に保護する役割を果たす。よって、保護層4を備えた積層体では、装飾層3がより摩耗しにくくなるため、その装飾層3の耐摩耗性をより向上させることができる。なお、保護層4を備えた積層体では、装飾層3の耐候性なども向上させることができる。
本考案の実施例に関して、詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.積層体の作製および評価1
1−1.作製
1−2.評価
2.積層体の作製および評価2
2−1.作製
2−2.評価
<1.積層体の作製および評価1>
まず、接着層2の有無および厚さと積層体の耐剥離性および耐摩耗性との関係を調べるために、以下の手順により、図1に示した積層体を作製した。
<1−1.作製>
(実験例1−1〜1−6)
最初に、熱硬化性樹脂(ビニルウレタン樹脂)と、硬化剤(トリレンジイソシアネートとポリエステルポリオールとの反応物)と、有機溶剤(エチレングリコールモノブチルエーテル)とを混合したのち、その混合物を撹拌することにより、熱硬化性樹脂溶液を調整した。この場合には、熱硬化性樹脂の重量に対する有機溶剤の重量の倍率(溶剤比A:倍)を4倍にすると共に、硬化剤の重量に対する有機溶剤の重量の倍率(溶剤比B:倍)を20倍にした。
続いて、基体1(真鍮)の上面に熱硬化性樹脂溶液を塗布したのち、乾燥炉を用いて熱硬化性樹脂溶液を加熱(加熱温度=70℃〜100℃,加熱時間=20分間)することにより、表1に示した厚さとなるように、熱硬化性樹脂と硬化剤との硬化反応物(熱硬化樹脂)を含む接着層2を形成した。この場合には、熱硬化性樹脂溶液の塗布量を変更することにより、接着層2の厚さを調整した。
続いて、紫外線硬化性樹脂(アクリル酸メチルおよびアクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル)と、重合開始剤と、着色材料(カーボンブラック)と、有機溶剤(二アクリル酸ヘキサメチレン)とを混合したのち、その混合物を撹拌することにより、紫外線硬化性樹脂溶液を調整した。この紫外線硬化性樹脂溶液は、いわゆる黒色の紫外線(UV)インクである。
続いて、インクジェット法を用いて接着層2の上面に紫外線硬化性樹脂溶液を塗布したのち、UVランプを用いて紫外線硬化性樹脂溶液に紫外線を照射することにより、紫外線硬化性樹脂の硬化反応物(紫外線硬化樹脂)を含む装飾層3を形成した。この場合には、紫外線の照射工程において照射時間=1分間とした。
これにより、基体1の上に接着層2および装飾層3がこの順に形成されたため、積層体が完成した。
(実験例1−7)
接着層2を形成しなかったことを除き、実験例1−1〜1−6と同様の手順により、積層体を作製した。
(実験例1−8〜1−19)
表2に示したように、基体1の材質を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順により、積層体を作製した。
ここで作製された一連の積層体の構成は、表1および表2に示した通りである。
<1−2.評価>
積層体の耐剥離性および耐摩耗性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。
耐剥離性を調べるためには、JIS K5400−8.5(JIS D0202)に準拠して碁盤目試験を実施したのち、装飾層3の状態を目視で観察して、その装飾層3の剥離の有無を判定した。
耐摩耗性を調べるためには、JIS L 0849 II形に準拠して摩擦試験を実施して、装飾層3の表面状態を5段階評価(5が最良、1が最悪)した。また、旧JIS K5400に準拠して鉛筆硬度試験を実施したのち、装飾層3の表面を目視で観察して、傷の発生の有無を判定した。この鉛筆硬度試験を実施する場合には、三菱鉛筆株式会社製のユニ鉛筆(2H,6H)を使用した。
基体1と、紫外線硬化樹脂を含む装飾層3との間に、熱硬化樹脂を含む接着層2を設けなかった場合(実験例1−7)には、装飾層3が基体1から剥離すると共に、その装飾層3の表面に傷が発生した。
基体1と、紫外線硬化樹脂を含む装飾層3との間に、熱硬化樹脂を含む接着層2を設けた場合には、その接着層2の厚さに応じて、装飾層3の剥離状況および摩耗状況に大きな差異が生じた。
詳細には、基体1と装飾層3との間に接着層2を介在させても、その接着層2の厚さが10μmよりも小さい場合(実験例1−1)および接着層2の厚さが50μmよりも大きい場合(実験例1−6)には、接着層2を設けなかった場合(実験例1−7)と同様に、装飾層3が基体1から剥離すると共に、その装飾層3の表面に傷が発生した。この装飾層3の剥離状況を調べてみると、装飾層3が接着層2から剥離したのではなく、接着層2が基体1から剥離していた。
これに対して、接着層2の厚さが10μm〜50μmである場合(実験例1−2〜1−5)には、装飾層3が基体1から剥離しないと共に、その装飾層3の表面に傷が発生しなかった。
この結果は、熱硬化樹脂を含む接着層2の厚さが10μm〜50μmであると、基体1に対する密着性の観点において接着層2の厚さが適正化されるため、その基体1に対する接着層2の密着性が特異的に向上することを表している。これにより、基体1に対して装飾層3が接着層2を介して強固に結合されるため、その装飾層3が基体1から著しく剥離しにくくなる。このように、接着層2の形成材料として共通の材料(熱硬化樹脂)を用いているにもかかわらず、その接着層2の厚さに応じて装飾層3の剥離状況に著しい差異が生じることは、表1に示した結果から明らかである。
特に、接着層2の厚さが適正な範囲内(=10μm〜50μm)である場合(実験例1−13〜1−19)には、基体1の材質(樹脂の種類)に応じて、装飾層3の剥離状況および摩耗状況に若干の差異が生じた。
詳細には、基体1の材質がアクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレンおよびポリカーボネートである場合(実験例1−13〜1−18)には、基体1の材質がポリ塩化ビニルである場合(実験例1−19)と比較して、装飾層3が基体1からより剥離しにくくなると共に、その装飾層3の表面に傷がより発生しにくくなった。
より具体的には、鉛筆硬度試験の試験結果に着目すると、基体1の材質がポリ塩化ビニルである場合には、2Hの鉛筆を用いた場合には装飾層3の表面に傷が発生しなかったが、6Hの鉛筆を用いた場合には装飾層3の表面に傷が発生した。これに対して、基体1の材質がアクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体などである場合には、2Hの鉛筆を用いた場合および6Hの鉛筆を用いた場合のいずれにおいても、装飾層3の表面に傷が発生しなかった。
また、基体1の材質がアクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体、ポリエチレン、ポリスチレンおよびポリカーボネートである場合(実験例1−13,1−16〜1−18)には、基体1の材質がアクリル樹脂およびナイロンである場合(実験例1−14,1−15)と比較して、装飾層3の表面に傷が発生することを抑制したまま、その装飾層3が基体1からさらに剥離しにくくなった。
<2.積層体の作製および評価2>
次に、接着層2の製造方法と積層体の耐剥離性および耐摩耗性との関係を調べるために、以下の手順により、図1に示した積層体を作製した。
<2−1.作製>
(実験例2)
表3に示したように、溶剤比Aおよび溶剤比Bを変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順により、積層体を作製した。溶剤比Aおよび溶剤比Bを変更する場合には、有機溶剤(エチレングリコールモノブチルエーテル)の混合量を変更した。
<2−2.評価>
積層体の耐剥離性および耐摩耗性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。耐剥離性および耐摩耗性を調べる手順は、上記した通りである。なお、表3には、参考までに、表1および表2に示した実験例1−3,1−7,1−13,1−15,1−16に関する結果も併せて示している。
熱硬化性樹脂溶液を用いて接着層2を形成する場合(実験例1−3,1−13,1−15,1−16,2)には、溶剤比Aに応じて装飾層3の状態に大きな差異が発生した。
詳細には、溶剤比Aが4未満である場合(実験例2)には、適正な厚さとなるように接着層2を形成できなかったため、接着層2を設けなかった場合(実験例1−7)と同様の結果が得られた。すなわち、装飾層3が基体1から剥離すると共に、その装飾層3の表面に傷が発生した。
これに対して、溶剤比Aが4以上である場合(実験例1−3,1−13,1−15,1−16)には、適正な厚さとなるように接着層2を形成できたため、装飾層3が基体1から剥離しないと共に、その装飾層3の表面に傷が発生しなかった。
この結果は、熱硬化性樹脂溶液中に多量の有機溶剤が含有されていると、接着層2の厚さを制御しやすくなるため、適正な厚さとなるように接着層2を形成しやすくなることを表している。これにより、適正な厚さを有する接着層2を容易かつ安定に形成できると考えられる。
表1〜表3に示した結果から、基体1と装飾層(紫外線硬化樹脂)3との間に接着層2(熱硬化樹脂)が設けられており、その接着層2の厚さが10μm〜50μmであると、耐剥離性および耐摩耗性が向上した。
以上、実施形態および実施例を挙げながら本考案を説明したが、本考案は実施形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本考案の積層体は、上記した用途に限られず、他の用途に適用されてもよい。