JP3194843B2 - 油圧作動式変速機の制御装置 - Google Patents

油圧作動式変速機の制御装置

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JP3194843B2 JP33496794A JP33496794A JP3194843B2 JP 3194843 B2 JP3194843 B2 JP 3194843B2 JP 33496794 A JP33496794 A JP 33496794A JP 33496794 A JP33496794 A JP 33496794A JP 3194843 B2 JP3194843 B2 JP 3194843B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は油圧作動式変速機の制
御装置に関し、より詳しくは、車両用の油圧作動式変速
機においてトルク相における摩擦係合要素の係合容量は
遠心油圧の影響を排除して求めると共に、従来的手法で
求めたイナーシャ相との移行時点も滑らかに連続するよ
うに容量を求めるようにした油圧作動式変速機の制御装
置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、車両用の油圧作動式変速機の変速
時におけるショックを防止するために、変速時のクラッ
チ、ブレーキなどの摩擦係合要素へ供給される油圧を最
適に制御することを目的とした技術が知られている。例
えば、特開昭62−159842号公報には、摩擦係合
要素の係合状態を適正に制御するために、油圧制御装置
内の油圧を検出し、検出値を目標値と比較して制御油圧
を修正する技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この油圧検出用の油圧
センサは高価であってコスト的に不利である。また、こ
の種の制御において、制御油圧は元圧であるライン圧で
あったり、摩擦係合要素の直前に位置する油路の油圧で
あったりする。ここで、該摩擦係合要素が回転する摩擦
係合要素、いわゆる油圧クラッチである場合、従来技術
において検出する油圧が零であったとしても、該油圧ク
ラッチのピストン室に残留する作動油(ATF)に遠心
力が作用し、遠心油圧が発生してクラッチピストンを押
圧する。
【0004】また、特に油圧クラッチから離れた箇所で
油圧を検出する場合、作動油の供給開始直後は油路が作
動油で満たされていない状態であり、検出値が零となら
ないこともある。
【0005】即ち、前記した従来技術においては、検出
油圧とピストン室の実際の油圧とは大きく異なることに
なり、その結果として制御油圧ないしはその修正値が適
正な値とならず、摩擦係合要素の係合容量が所期の値か
ら外れて変速ショックが発生する問題を有していた。
【0006】上記は、油圧供給を開始した直後のトルク
相において問題となる。イナーシャ相においては、その
初期で油路の空気が完全に抜けておらず、そのため作動
油が完全に充満されている訳ではないものの、中期以降
ではほぼ作動油がほぼ完全に充満されるため、前記した
従来技術のように油圧を検出して行う手法が適してい
る。
【0007】従って、この発明の目的は上記した不都合
を解消することにあり、トルク相における摩擦係合要素
の係合容量は遠心油圧の影響を排除して求める一方、イ
ナーシャ相における摩擦係合要素の係合容量は従来的な
手法で求めると共に、両相の移行時点の容量を滑らかに
連続するように推定し、もって摩擦係合要素の係合容量
を目標値通りに制御して変速ショックを確実に低減する
ことを可能とするようにした油圧作動式変速機の制御装
置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を解決するた
めにこの発明は以下のように構成した。後述する符合を
付して説明すると、請求項1項において、複数の油圧作
動式の摩擦係合要素(クラッチC1,C2,C3,C4
R)を有し、前記摩擦係合要素の係合状態を切り換える
ことにより変速を行う車両用の油圧作動式変速機(自動
変速機T)において、変速中のトルク相からイナーシャ
相への移行時点を検出する移行検出手段(S16)と、
係合状態となる摩擦係合要素のトルク相における容量
(係合容量ないしトルク伝達容量TON)、少なくとも
前記係合状態となる摩擦係合要素に供給される係合油圧
(係合クラッチの油圧PON)を除く前記変速機の操作パ
ラメータ(入力トルクTT など)に基づいて計算するト
ルク相容量計算手段(S12)と、およびイナーシャ相
における前記係合状態となる摩擦係合要素の容量を前記
変速機の操作パラメータと異なる変速機の操作パラメー
(係合クラッチの油圧PONなど)に基づいて計算する
イナーシャ相容量計算手段(S14)、を備えた如く
構成した。また、請求項2項にあっては、さらに前記ト
ルク相容量計算手段の計算結果から前記移行時点の容量
(トルク相末期の算出値)を判定する第1の判定手段
(S18)と、前記イナーシャ相容量計算手段の計算結
果に基づいて前記移行時点から所定(補正)時間t1後
のイナーシャ相容量を判定する第2の判定手段(S2
0)と、前記第1および第2の判定手段の判定値の間
を、前記所定時間にわたり変化(直線補間)させる相間
容量設定手段(S22)、を備えた如く構成した。
【0009】請求項項にあっては、前記摩擦係合要素
が遠心油圧排出用弁(チェックバルブ)を備えると共
に、前記所定時間が前記係合状態となる摩擦係合要素の
回転数(クラッチ回転数)または係合油圧に応じて設定
される如く構成した。
【0010】請求項項にあっては、前記所定時間は、
前記係合状態となる摩擦係合要素の回転数が高いほど長
く、または前記係合油圧が高いほど短く設定される如く
構成した。
【0011】
【作用】請求項1項に係る油圧作動式変速機において
は、変速中のトルク相からイナーシャ相への移行時点を
検出し、係合状態となる摩擦係合要素のトルク相におけ
る容量(係合容量ないしトルク伝達容量)を、少なくと
も前記係合状態となる摩擦係合要素に供給される係合油
圧を除く前記変速機の操作パラメータに基づいて計算
ると共に、イナーシャ相における前記係合状態となる
擦係合要素の容量を前記変速機の操作パラメータと異な
る変速機の操作パラメータに基づいて計算する如く構成
したので、トルク相における摩擦係合要素の係合容量は
遠心油圧の影響を排除して求めることができる。さら
に、請求項2項にあっては、前記計算結果から前記移行
時点の容量を判定すると共に、前記移行時点から所定時
間後のイナーシャ相容量を判定し、判定値の間を、前記
所定時間にわたり変化させる如く構成したので、従来的
な手法で求めたイナーシャ相における摩擦係合要素の係
合容量との間の移行時点の容量を滑らかに連続するよう
に推定することができ、もって摩擦係合要素の係合容量
を目標値通りに制御して変速ショックを確実に低減する
ことを可能とする。
【0012】尚、ここで「摩擦係合要素」とはクラッ
チ、ブレーキなどを意味する。また「前記変速機の操作
パラメータ」とは変速機の入力軸トルク、ギヤ比を、
「前記変速機の操作パラメータと異なる変速機の操作パ
ラメータ」とは摩擦係合要素の摩擦係数、摩擦係合要素
の入出力間の差回転、油圧など従来的な手法で求める場
合のパラメータを意味する。
【0013】請求項項にあっては、前記摩擦係合要素
が遠心油圧排出用弁を備えると共に、前記所定時間が
記係合状態となる摩擦係合要素の回転数または係合油圧
に応じて設定される如く構成したので、両相の移行時点
の容量を一層滑らかに連続するように推定することがで
きる。
【0014】請求項項にあっては、前記所定時間は、
前記係合状態となる摩擦係合要素の回転数が高いほど長
く、または前記係合油圧が高いほど短く設定される如く
構成したので、即ち、回転数が高いと排出弁が高圧にな
るまで閉弁されないため、前記所定時間を長くし、係合
油圧が高いときは閉弁が早いため、所定時間を短くして
従来的な手法で求めるイナーシャ相の係合容量に切り換
えることで、両相の移行時点の容量が一層滑らかに連続
するように設定できる。
【0015】
【実施例】以下、添付図面に即してこの発明の実施例を
説明する。
【0016】図1はこの発明にかかる油圧作動式変速機
の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0017】以下説明すると、車両用の自動変速機T
は、内燃機関Eのクランクシャフト1にロックアップ機
構Lを有するトルクコンバータ2を介して接続されたメ
インシャフトMSと、このメインシャフトMSに複数の
ギヤ列を介して接続されたカウンタシャフトCSとを備
える。
【0018】メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ
3、メイン2速ギヤ4、メイン3速ギヤ5、メイン4速
ギヤ6、およびメインリバースギヤ7が支持される。ま
た、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ3に噛
合するカウンタ1速ギヤ8、メイン2速ギヤ4と噛合す
るカウンタ2速ギヤ9、メイン3速ギヤ5に噛合するカ
ウンタ3速ギヤ10、メイン4速ギヤ6に噛合するカウ
ンタ4速ギヤ11、およびメインリバースギヤ7にリバ
ースアイドルギヤ13を介して接続されるカウンタリバ
ースギヤ12が支持される。
【0019】上記において、メインシャフトMSに相対
回転自在に支持されたメイン1速ギヤ3を1速用油圧ク
ラッチC1でメインシャフトMSに結合すると、1速変
速段が確立する。1速用油圧クラッチC1は、2速〜4
速変速段の確立時にも係合状態に保持されるため、カウ
ンタ1速ギヤ8は、ワンウェイクラッチCOWを介して
支持される。メインシャフトMSに相対回転自在に支持
されたメイン2速ギヤ4を2速用油圧クラッチC2でメ
インシャフトMSに結合すると、2速変速段が確立す
る。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持された
カウンタ3速ギヤ10を3速用油圧クラッチC3でカウ
ンタシャフトCSに結合すると、3速変速段が確立す
る。
【0020】カウンタシャフトCSに相対回転自在に支
持されたカウンタ4速ギヤ11をセレクタギヤSGでカ
ウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフト
MSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ6を4
速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトM
Sに結合すると、4速変速段が確立する。カウンタシャ
フトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバース
ギヤ12をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに
結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に
支持されたカウンタリバースギヤ7を前記4速−リバー
ス用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合す
ると、後進変速段が確立する。
【0021】上記で、クラッチC1,C2,C3,C4
Rが摩擦係合要素に相当する。尚、図示例の摩擦係合要
素はブレーキを有しない湿式多板クラッチで、より詳し
くはn枚のクラッチディスク(図示せず)で両面に摩擦
材(図示せず)を貼付した構造からなる。図示例で摩擦
材はペーパ材からなり、その摩擦係数μの特性は図2に
示す如く、静止状態において0.08で滑り速度(差回
転Δω)が増加するにつれて増加し、0.12で最大と
なる。また、図示例のクラッチは、遠心油圧排出用の弁
(チェックバルブ、図示せず)を備える。
【0022】そして、カウンタシャフトCSの回転は、
ファイナルドライブギヤ14およびフイナルドリブン
ギヤ15を介してディファレンシャルDに伝達され、そ
れから左右のドライブシャフト16,16を介して駆動
輪W,Wに伝達される。
【0023】ここで、内燃機関Eの吸気路(図示せず)
に配置されたスロットル弁(図示せず)の付近には、そ
の開度θTHを検出するスロットル開度センサS1が設け
られる。またファイナルドリブンギヤ15の付近には、
ファイナルドリブンギヤ15の回転速度から車速Vを検
出する車速センサS2が設けられる。更に、クランクシ
ャフト1の付近には、その回転から機関回転数Neを検
出するクランク角センサS3が設けられる。
【0024】また、メインシャフトMSの付近にはその
回転を通じて変速機の入力軸回転数NM を検出する入力
軸回転数センサS4が設けられると共に、カウンタシャ
フトCSの付近にはその回転を通じて変速機の出力軸回
転数NC を検出する出力軸回転数センサS5が設けられ
る。更に、車両運転席床面に装着されたシフトレバー
(図示せず)の付近には、P,R,N,D4,D3,
2,1の7種のポジションの中、運転者が選択したポジ
ションを検出するシフトレバーポジションセンサS6が
設けられる。
【0025】またドライブシャフト16の付近には、そ
の駆動力(駆動トルク)TDSを検出するトルクメータS
7が設けられる。これらセンサS1などの出力は、EC
U(電子制御ユニット)に送られる。
【0026】ECUはCPU17、ROM18、RAM
19、入力回路20および出力回路21からなるマイク
ロ・コンピュータから構成され、前記したセンサS1な
どの出力は、入力回路20を介してマイクロ・コンピュ
ータ内に入力される。マイクロ・コンピュータにおいて
CPU17はシフト位置(変速段)を決定し、出力回路
21を通じて油圧制御回路OのシフトソレノイドSL
1,SL2を励磁・非励磁することによって図示しない
シフトバルブを切り替え、所定のギヤ段の油圧クラッチ
を解放・締結する。
【0027】尚、符号SL3,SL4は、トルクコンバ
ータ2のロックアップ機構LのON/OFF制御用ソレ
ノイドおよび容量制御ソレノイドである。また、符号S
L5は、クラッチ油圧制御用のリニアソレノイドであ
る。尚、符号S8は、クラッチC2〜C4Rのクラッチ
油圧を検出する3個のプレッシャヘッドを総称的に示
す。
【0028】図3は、実施例に係る油圧作動式変速機の
制御装置の動作を示すフロー・チャートである。尚、こ
のプログラムは、例えば20msごとに起動される。図
4はその作業を説明するタイミング・チャートである。
【0029】以下説明すると、先ず、S10で入力トル
クTE を算出する。
【0030】入力トルクTE は、検出した機関回転数と
吸気圧力ないしはスロットル開度などの機関負荷とから
所定の特性に従って検索した値にトルクコンバータ2の
トルク比を乗じ、トルク相開始時点の変速機入力トルク
を算出することで求める。尚、その時点以降の入力トル
クTE は図4に示す如く、直線補間で求める。尚、入力
トルクTE は、トルクメータS7を通じて検出するドラ
イブシャフト16に作用するトルクTDSにギヤ比を乗じ
て算出しても良い。
【0031】続いて、S12に進んで係合(オン)側ク
ラッチのトルク相における容量(トルク伝達容量)TON
を求める。これは、前記メインシャフトMS上に換算し
た値として求める。
【0032】係合側クラッチの容量は一般的には、クラ
ッチに作用する油圧などを検出して後述の公知の式を
用いて算出されるが、この実施例の場合、図4タイミン
グ・チャートにおいて変速中の入力軸トルクTT (符号
aで示す)を反転させると係合側クラッチの容量TON
(符号bで示す)に相似する点に着目し、即ち、変速機
の出力トルクの引き込みは摩擦係合要素の係合力の上昇
により惹起されると言う認識の下に、トルク相の容量を
油圧を用いずに推定するようにした。
【0033】尚、イナーシャ相の容量は後述の公知の式
を用いて算出し、また両相の間で算出手法が異なるこ
とによる不連続性を整合する。図4のタイミング・チャ
ートに、それら3つのゾーンをイ、ロ、ハで示す。
【0034】このように、トルク相においては、係合側
クラッチの容量は、先に求めた入力トルクTE と、ドラ
イブシャフトトルクTDSのメインシャフトMS上の換算
トルクTT の差から以下の如く計算する。 TON(t) ={TE(t)−TT(t)}×ioff/( ioff −ion) .. ここで、tは時刻を、ioff は解放側のギヤ比を、ion
は係合側のギヤ比を示す。即ち、係合側の摩擦係合要素
の容量TONは、変速開始前の入力軸トルクTE と変速中
の入力軸トルクTT の差を求め、それにギヤ比を勘案し
て求める。
【0035】これについて更に敷衍すると、出力軸上の
トルクTOUT は、以下のように求められる。図5に使用
パラメータを図示する。 TOUT =TOFF ×ioff +TON×ion =(TIN−TON)×ioff +TON×ion =(TIN×ioff )−TON×(ioff −ion) ここで、TOFF:解放側の摩擦係合要素の係合容量、iof
f:現在変速段のギヤ比、ion: 行先変速段のギヤ比、T
IN: 変速機入力軸(メインシャフトMS)上に作用する
トルク、である。
【0036】更に、以下の関係が成り立つ。 TON=(TIN×ioff −TOUT )/(ioff −ion).. TOUT =TT(t)×ioff .. TIN =TE (t) .. よって、式からが導かれる。
【0037】尚、変速中の入力軸トルクTT (t) は、以
下のように求める。 TT =2×TDS(t) /(ifinal ×ioff ×η) ここで、TDS(t):時刻tにおいて前記したトルクメータ
S7を介して得られるドライブシャフト16上に作用す
るトルク、ifinal:最終ギヤ比、η: 伝達効率(攪拌抵
抗など種々の損失を勘案して例えば0.9とする)を示
す。尚、式中で2を乗じるのは、変速機から出力される
トルクが均等に左右の2本のドライブシャフトに伝達さ
れる直進走行と仮定した上でトルク値を求めるためであ
る。
【0038】続いてS14に進み、イナーシャ相での係
合側クラッチの容量TONを算出する。
【0039】イナーシャ相での容量は、以下の計算式で
求める。尚、イナーシャ相初期にあっては当該クラッチ
のピストン室に作動油(ATF)がフルチャージされて
はいないが、計算の都合上、フルチャージされているも
のと仮定する。 TONI(t) =μ×2n×Rm ×{PON(t) ×Apis +F
ε−Frtn }... ここで、μ:摩擦係数、n:クラッチディスク枚数
(尚、両面に摩擦材を貼った構造を使用するため2を乗
じる)、Rm :クラッチディスク有効半径、PON:当該
係合クラッチの油圧、Apis :ピストン受圧面積、Frt
n :リターンスプリング荷重を示す。
【0040】また、Fεは、ピストン室内の作動油に働
く遠心力による圧力を示し、以下の式で求められる。 Fε=(πρ/4g)×ω2 ×Rout ここで、ρ:ATF密度、Rout :ピストン外径を示
す。
【0041】また、回転数ωは、以下のように求められ
る。即ち、メインシャフトMS上にクラッチがあるとき
の値は ω=Ne(t) ×ETR(t) で求められる。またカウンタシャフトCS上にクラッチ
があるときの値は、 ω=Ne(TINT )×ETR(TINT )/ioff で求められる。
【0042】尚、カウンタシャフトCS上のω値は、駆
動輪Wと直結していることから、ほぼ一定と考えられる
ため、時間tにより変化するNe(t) ではなく、イナー
シャ相開始時点の機関回転数Ne(TINT )を使用す
る。ここで、TINT :イナーシャ開始時点、ETR:ト
ルクコンバータ滑り率、を示す。
【0043】また、差回転Δωは、 Δω=Ne(t) ×ETR(t) ×{1−ECL2(t) } で求められる。ここで、ELC2は変速指令と同時に計
算を開始する係合側クラッチの滑り率を示す。
【0044】ここで、摩擦係数μについて説明を補足す
る。
【0045】実施例で使用するクラッチC1,C2,C
3,C4Rの摩擦係数μの特性は図2に示した通りであ
るが、摩擦係数μは前述の如く、差回転Δωに応じて増
加し、差回転Δωが所定値に達したところで一定とな
る。このことは変速終了付近(イナーシャ相終了付近)
で摩擦係数μが高から低へと変化し、係合容量が低下す
ることを意味する。
【0046】従って、この実施例では図4に示す如く、
イナーシャ相終了近傍で摩擦係数μを強制的に、使用す
るクラッチの最大値(具体的には0.12)から最小値
(具体的には0.08)に向けて段階的(実施例では3
段階)に持ち替えるようにした。
【0047】また、この持ち替え開始ポイントは、変速
終了近傍に相当するパラメータ、例えば変速開始時の機
関回転数と現在段ギヤ比とから求めた変速終了時の予測
機関回転数Neないしはメインシャフト回転数NM 、あ
るいはクラッチの入出力回転数の比較値(スリップ率E
CL、差回転)などから設定することになるが、この実
施例では、この持ち替え開始ポイントを、変速過渡時の
機関回転数Neまたはメインシャフト回転数NM の最大
値に基づいて持ち替えるようにした。
【0048】その理由は、差回転Δωに対する摩擦係数
μの特性が温度によって異なり、温度が高いほど低くな
るからである。
【0049】即ち、車速が同一、換言すればカウンタシ
ャフト回転数NC が同一ならば、変速機入力軸回転数
(メインシャフト回転数NM )が高いほど、変速完了ま
での摩擦による発熱量が大きくなり、温度上昇が大きく
なる。つまり、機関回転数Ne(ないしはメインシャフ
ト回転数NM )が高いほど、摩擦係数μの低下タイミン
グも早くなることから、式に用いる摩擦係数μの最大
値から最小値への持ち替えタイミングを早めるようにし
た。
【0050】尚、機関回転数Ne(ないしはメインシャ
フト回転数NM )はスロットル開度θTHに比例して増加
するので、持ち替え開始ポイントは機関回転数Ne(な
いしはメインシャフト回転数NM )に代えてスロットル
開度θTHで持ち替えても良い。
【0051】続いてS16に進み、トルク相からイナー
シャ相への移行時点を検知する。図4タイミング・チャ
ートに示すように、トルク相からイナーシャ相への移行
時点ではドライブシャフトトルクTDSが最小となるこ
とから、この作業は、ドライブシャフトトルクTDSが
最小となる時点を求めて行う。
【0052】次いでS18以降に進み、トルク相−イナ
ーシャ相の整合を行う。これは、先に述べたように、ト
ルク相とイナーシャ相とで容量を異なる手法で求めるこ
とから、求めた値が、スムーズにつながるように補正す
る作業である。具体的には図4にハで示すように、トル
ク相の値とイナーシャ相の値とを直線補間で整合する。
【0053】より具体的には、先ずS18で移行時点の
容量を判定する。これは、トルク相末期の算出値を移行
時点の容量と判定することで行う。
【0054】次いでS20に進んで移行時点から所定時
間t1後のイナーシャ相の容量を判定する。
【0055】具体的には、先ず、所定時間t1後の油圧
PONの上昇分を推定する。これはプレッシャヘッドS8
の出力から油圧の上昇割合を検知しt1時間後の油圧上
昇分を推定して行う(リニアソレノイドSL5への指令
値から推定しても良い)。そして、推定した油圧PONを
前述した式に代入してt1時間後のイナーシャ相の係
合容量を推定することで行う。
【0056】次いで、S22に進んで両者の差を求め、
所定時間t1の間の容量を算出する。これは図4タイミ
ング・チャートに示す如く、移行時点の係合容量との間
を直線で結び、t1時間中のトルク伝達容量をその間の
直線補間で求めることで行う。
【0057】上記で、補正時間t1は、クラッチ回転数
(前記したω)によって持ち替えることとする。それ
は、クラッチ回転数が高いと、クラッチに通常設けられ
る遠心圧排出用の弁(チェックバルブ)の閉弁が高圧に
ならないと行われないため、クラッチ回転数が高いとき
は補正時間t1を長くする。逆に、クラッチ回転数が低
いと、遠心圧排出用の弁の閉弁が低圧で行われるため、
補正時間t1は短くする。尚、補正時間t1は、クラッ
チ回転数の他に、例えばクラッチ圧で持ち替えても良
く、この場合、クラッチ圧が高いほど排出用の弁が早く
閉弁するため、補正時間を短くし、クラッチ圧が低いほ
ど、補正時間を長くすれば良い。
【0058】この実施例では、油圧供給を開始した直後
のトルク相において、油圧クラッチのピストン室に残留
する作動油(ATF)に遠心力が作用し、遠心油圧が発
生してピストン室の油圧と検出油圧とが異なることによ
り生じる不都合を回避するために、変速の初期における
変速機の出力トルクの引き込みが摩擦係合要素の係合力
の上昇に起因すると言う認識に基づいて、トルク相にお
いては変速中の駆動力と変速が行われなかったと仮定し
たときの駆動力の差から係合容量を算出して、遠心油圧
の影響を排除した。
【0059】また、イナーシャ相では従来的な手法で係
合容量を求めると共に、所定時間後の係合容量を油圧上
昇分を推定して求め、それとトルク相の容量とを直線で
結んで移行時点の値としたので、その結果として当然に
生じる両相の移行時点の容量を滑らかに連続させること
ができる。
【0060】更に、所定時間を油圧クラッチの回転数が
高いほど長く、また係合油圧が高いほど短くしたので、
両相の移行時点の容量を一層滑らかに連続させることが
できる。
【0061】
【発明の効果】請求項1項にあっては、トルク相におけ
る摩擦係合要素の係合容量は遠心油圧の影響を排除して
求めることができると共に、請求項2項にあっては、
来的な手法で求めたイナーシャ相における摩擦係合要素
の係合容量との間の移行時点の容量を滑らかに連続する
ように推定することができ、もって変速ショックを確実
に低減することを可能とする。
【0062】請求項項にあっては、両相の移行時点の
容量を一層滑らかに連続するように推定することができ
る。
【0063】請求項項にあっては、同様に、両相の移
行時点の容量を一層滑らかに連続するように推定するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る油圧作動式変速機の制御装置を
全体的に示す説明図である。
【図2】図1の摩擦係合要素の摩擦係数μの特性を示す
説明図である。
【図3】この発明に係る油圧作動式変速機の制御装置の
動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートの演算作業を説明するタ
イミング・チャートである。
【図5】図3フロー・チャートの演算の中の係合容量の
算出に使用するパラメータを示す説明図である。
【符号の説明】
E 内燃機関 T 変速機 O 油圧制御回路 C1,C2,C3,C4R クラッチ(摩擦係合要素)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) F16H 61/00 - 61/24

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 複数の油圧作動式の摩擦係合要素を有
    し、前記摩擦係合要素の係合状態を切り換えることによ
    り変速を行う車両用の油圧作動式変速機において、 a.変速中のトルク相からイナーシャ相への移行時点を
    検出する移行検出手段と、 b.係合状態となる摩擦係合要素のトルク相における容
    量を、少なくとも前記係 合状態となる摩擦係合要素に供
    給される係合油圧を除く前記変速機の操作パラメータに
    基づいて計算するトルク相容量計算手段と、および c.イナーシャ相における前記係合状態となる摩擦係合
    要素の容量を前記変速機の操作パラメータと異なる変速
    機の操作パラメータに基づいて計算するイナーシャ相容
    量計算手段と 備えたことを特徴とする油圧作動式変速機の制御装
    置。
  2. 【請求項2】 さらに、 d.前記トルク相容量計算手段の計算結果から前記移行
    時点の容量を判定する第 1の判定手段と、 e.前記イナーシャ相容量計算手段の計算結果に基づい
    て前記移行時点から所定 時間後のイナーシャ相容量を判
    定する第2の判定手段と、 f.前記第1および第2の判定手段の判定値の間を、前
    記所定時間にわたり変化 させる相間容量設定手段と、 を備えたことを特徴とする請求項1項記載の油圧作動式
    変速機の制御装置。
  3. 【請求項3】 前記摩擦係合要素が遠心油圧排出用弁を
    備えると共に、前記所定時間が前記係合状態となる摩擦
    係合要素の回転数または係合油圧に応じて設定されるこ
    とを特徴とする請求項1項または2項記載の油圧作動式
    変速機の制御装置。
  4. 【請求項4】 前記所定時間は、前記係合状態となる
    擦係合要素の回転数が高いほど長く、または前記係合油
    圧が高いほど短く設定されることを特徴とする請求項
    項記載の油圧作動式変速機の制御装置。
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