以下、本考案を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本考案は、膝関節を人工膝関節に置換する手術において、大腿骨の端部と脛骨の端部との間における左右の靭帯による張力のバランスを調整するために用いられる、人工膝関節置換術用手術器具として、広く適用することができるものである。
図1は、本考案の一実施の形態に係る人工膝関節置換術用手術器具1を示す斜視図である。図1に示す人工膝関節置換術用手術器具1は、膝関節を人工膝関節に置換する手術である人工膝関節置換術において用いられる。尚、図示を省略するが、人工膝関節は、大腿骨の端部に設置される大腿骨側コンポーネントと脛骨側に設置される脛骨側コンポーネントとで構成される。そして、人工膝関節置換術用手術器具1は、大腿骨の端部と脛骨の端部との間における左右の靭帯による張力のバランスを調整するために用いられる。尚、以下の説明においては、左右の方向とは、人体における左右の方向を意味する。
図1に示すように、人工膝関節置換術用手術器具1は、脛骨側に設置されるベース部材11、ベース部材11に対して設置される垂直移動部材12、大腿骨側に設置される揺動部材13、複数のバネ部材14(14a、14b)、大腿骨傾斜角度指標部材15、異なる厚み寸法に設定された複数のスペーサ16(16a、16b、16c、16d、16e、16f)、等を備えて構成されている。尚、図1では、人工膝関節置換術用手術器具1に含まれる手術器具として、ベース部材11、垂直移動部材12、揺動部材13、バネ部材14(14a、14b)が組み立てられた状態の手術器具10を示している。
ベース部材11、垂直移動部材12、揺動部材13、バネ部材14、大腿骨傾斜角度指標部材15、スペーサ16eは、医療機器の素材としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属材料により形成されている。一方、スペーサ(16a、16b、16c、16d、16f)は、医療機器の素材としての認可承認を得た樹脂材料により形成されている。
また、図2は、手術器具10を示す斜視図である。図3及び図4は、手術器具10についての図2とはそれぞれ異なる角度から見た斜視図である。図5は、手術器具10についての正面図である。図6は、手術器具10についての側面図である。図7は、手術器具10についての底面図である。
また、図8では、人工膝関節置換術用手術器具1に含まれる手術器具として、ベース部材11、垂直移動部材12、揺動部材13、バネ部材14(14a、14b)、及び1つのスペーサ16bが組み立てられた状態の手術器具10aを示している。この図8は、手術器具10aが大腿骨100及び脛骨101に対して設置された状態を示す斜視図である。
また、図8では、大腿骨100及び脛骨101の表面の凹凸をメッシュ状の線で模式的に示しており、大腿骨100及び脛骨101以外の人体組織の図示を省略している。尚、後述する図15においても、大腿骨100及び脛骨101について、表面の凹凸をメッシュ状の線で模式的に示している。
図1乃至図8に示すベース部材11は、1つの端部を構成する縁部分が湾曲した部分として形成され、長方形の3辺を構成する位置に配置されて残りの3つの端部を構成する縁部分のそれぞれが直線状の部分として形成された平板状の部材として設けられている。そして、このベース部材11は、脛骨101の近位側の端部において平坦な端面として切除されて形成された骨切り面101aに設置される(図8を参照)。
尚、大腿骨100及び脛骨101において、相対的に体幹に近い側を「近位」といい、相対的に体幹から遠い側を「遠位」という。よって、膝関節においては、大腿骨100の遠位側の端部と脛骨101の近位側の端部とが、互いに対向する位置に配置されていることになる。また、図8では、図示が省略されているが、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間には、左右の靭帯が配置されている。即ち、大腿骨100の端部の左側と脛骨101の端部の左側とを繋ぐ靭帯と、大腿骨100の端部の右側と脛骨101の端部の右側とを繋ぐ靭帯とが配置されている。
また、ベース部材11は、その幅方向が人体の左右方向に沿って配置されるように、骨切り面101aに対して設置される。そして、ベース部材11においては、前述の湾曲した縁部分としての端部と、残りの3つの直線状の縁部分としての端部のうちの中央に配置された端部とが、幅方向に沿って配置されている。尚、手術器具10、手術器具10a、揺動部材13、スペーサ16、後述のスライド支持部17においても、ベース部材11の幅方向と平行に配置される方向が幅方向となる。
また、ベース部材11には、ベース部材11における平坦な表面から垂直な方向に向かって柱状に延びるスライド支持部17がベース部材11に対して一体に形成されている。このスライド支持部17は、後述のスライド移動部材12をベース部材11に対して垂直な方向に向かってスライド移動自在に支持する部分として設けられている。尚、スライド支持部17は、ベース部材11に対して一体に形成されていなくてもよく、ベース部材11に対して固定されてベース部材11から垂直に延びるように設けられていてもよい。
また、ベース部材11には、中央部分において、貫通孔11aが形成されている(図4及び図7を参照)。この貫通孔11aは、後述の揺動部材13における中央回動部13aに対向する位置に形成されている。そして、垂直移動部材12に対して揺動部材13が揺動自在に取り付けられた状態で、この貫通孔11aを介して取り付けられる小径の円筒状のピン部材18により、垂直移動部材12に対する揺動部材13の揺動方向に垂直な方向における位置決めが図られることになる。
図1乃至図8に示す垂直移動部材12は、ベース部材11に垂直に延びるスライド支持部17に対してスライド移動自在に支持されている。これにより、垂直移動部材12は、脛骨101の端部の骨切り面101aにベース部材11が設置された状態で、この骨切り面101aに垂直な方向においてベース部材11に対して移動自在に設置されることになる。
垂直移動部材12には、スライド支持部17における幅方向の両側に対してスライド移動自在に装着される複数の装着部12aが設けられている。複数の装着部12aは、スライド支持部17を幅方向両側から挟むように配置されている。そして、複数の装着部12aには、スライド支持部17の幅方向両側にそれぞれ形成されてベース部材11に対して垂直に延びるスライドレール17aに対してスライド移動自在に嵌まり込む溝が形成されている。
また、垂直移動部材12には、スライド支持部17に対して垂直な方向であって且つベース部材11に平行な方向に向かって片持ち状に延びる円柱状の軸部12bが設けられている(図7を参照)。この軸部12bは、揺動部材13の中央回動部13aが回転可能に嵌め込まれている。中央回動部13aの内側には円形断面の孔が形成されており、この孔の内周が軸部12bの外周に対して摺動することで、中央回動部13aが軸部123bの周りを回動することになる。
図1乃至図8に示す揺動部材13は、脛骨101に設置されたベース部材11から延びるスライド支持部17に取り付けられた垂直移動部材12に対して、人体における左右に傾く方向にて揺動自在に支持される。そして、この揺動部材13は、大腿骨100の遠位側の端部を直接に又はスペーサ16を介して支持するように構成されている。尚、図8に示す手術器具10aにおいては、揺動部材13は、スペーサ16bを介して大腿骨100の遠位側の端部を支持している。
また、揺動部材13には、前述の中央回動部13a、平板部13b、凸部13c、指標部材支持部13d、等が設けられている。中央回動部13aは、揺動部材13における幅方向の中央部分に設けられ、筒状の部分として構成されている。そして、中央回動部13aは、前述のように、垂直移動部材12の軸部12bが挿入される円形断面の孔が形成され、軸部12bの周りで回動する部分として構成されている。
尚、軸部12bには、円弧状の断面で周方向に延びる溝12cが形成されている(図7を参照)。そして、中央回動部13aには、溝12cに対向する位置を通過するとともにピン部材18が嵌め込まれる孔13eが形成されている。更に、ピン部材18は、中央回動部13aの孔13eに嵌め込まれることで、孔13e及び軸部12bの溝12cの両方に対して係合するように構成されている。
上記により、軸部12bの軸方向と平行な方向における軸部12bに対する中央回動部13aの移動が規制され、垂直移動部材12に対する揺動部材13の揺動方向に垂直な方向における位置決めが図られることになる。尚、溝12cは、上述のように、軸部12bの周方向に延びる円弧状の断面の溝として設けられ、中央回動部13aの軸部12bの周りでの回動を妨げることがないように構成されている。
平板部13bは、長方形の4辺を構成する位置に沿って配置される各端部を構成する4つの縁部分が形成された平板状の部分として設けられている。そして、4つの縁部分のうちの1つの縁部分には、ベース部材11の形状に対応して湾曲した部分が設けられている。この平板部13bにおける幅方向の中央部分であってベース部材11に対向する側には、中央回動部13aが一体に形成されている。これにより、平板部13bは、中央回動部13aの軸部12bの周りでの回動に伴って、垂直移動部材12に対して左右に傾く方向にて軸部12bを中心として揺動するように構成されている。尚、平板部13bにおけるベース部材11に対向する側と反対側の表面において、大腿骨100の端部が直接に又はスペーサ16を介して支持される。
また、平板部13bにおけるベース部材11に対向する側と反対側の表面には、マーク13fが刻印されている。尚、本実施形態で例示する平板部13bでは、「9」の数字を示すマーク13fが刻印されている。「9」の数字を示すマーク13fは、ベース部材11に垂直な方向であって軸部12bの軸心と直交する方向において、ベース部材11の底面から平板部13bにおけるマーク13fが刻印された面までの距離寸法が、9mmであることを示している。
凸部13cは、平板部13bにおけるベース部材11に対向する側と反対側の表面にて段状に盛り上がった凸状の部分として設けられている。そして、凸部13cは、平板部13bにおける幅方向の中央部分に設けられている。この凸部13cは、スペーサ(16a〜16e)が平板部13bの表面に設置される際に、スペーサ(16a〜16e)に設けられた後述の凹部19に対して嵌まり込むことで、凹部19と係合してスペーサ(16a〜16e)を保持するように構成されている。尚、凸部13cは、大腿骨100の遠位端側の端部における顆と顆との間の部分である顆間部に対応する位置に配置されるため、平板部13bに対して大腿骨100の端部が直接に支持される場合であっても、大腿骨100と当接しないように構成されている。
指標部材支持部13dは、後述の大腿骨傾斜角度指標部材15を支持する部分として設けられている。そして、指標部材支持部13dは、平板部13bにおける4つの縁部分のうちの湾曲した部分として設けられた縁部分と反対側に配置された縁部分において、幅方向の両側に一対で設けられている。一対の指標部材支持部13dは、平板部13bと一体に形成されており、平板部13bに対して垂直な方向と平行に延びるように貫通形成された孔13gが形成されている。この孔13gに対して、後述の大腿骨傾斜角度指標部材15の突起部15bが嵌め込まれることで、大腿骨傾斜角度指標部材15が指標部材支持部13dに支持されることになる。
図1乃至図3、図5乃至図8に示す複数のバネ部材14(14a、14b)は、ベース部材11と揺動部材13の平板部13bとの間に配置された弾性部材として設けられている。尚、バネ部材14は、ベース部材11と平板部13bとの間において、幅方向の両側に配置され、バネ部材14aが軸部12bに対して左側に、バネ部材14bが軸部12bに対して右側に配置されている。
また、本実施形態では、バネ部材(14a、14b)は、いずれも、ぜんまいバネと同様に渦巻き状にまかれたバネ部材として構成され、渦巻き状の外周側から半径方向の中央側に向かって山状に突出する形状に形成されている。そして、バネ部材(14a、14b)は、外周側の部分がベース部材11に対して支持され、外周側の部分から突出した中央側の部分が平板部13bに当接した状態で、ベース部材11と平板部13bとの間に配置されている。
図1に示す複数のスペーサ16(16a〜16f)は、それぞれ、揺動部材13の平板部13bと大腿骨100の遠位側の端部との間に配置される部材として設けられている。図9乃至図12は、複数のスペーサ16(16a〜16f)のうちの一部のスペーサ(16b、16d、16e、16f)について示している。
尚、図9は、スペーサ16bの斜視図(図9(a))、平面図(図9(b))及び正面図(図9(c))を示している。図10は、スペーサ16dの斜視図(図10(a))、平面図(図10(b))及び正面図(図10(c))を示している。図11は、スペーサ16eの斜視図(図11(a))、平面図(図11(b))及び正面図(図11(c))を示している。図12は、スペーサ16fの斜視図(図12(a))、平面図(図12(b))及び正面図(図12(c))を示している。
図1、図9乃至図12によく示すように、複数のスペーサ16(16a〜16f)は、それぞれ、平坦で平行な上下面を有するとともに上下面間の寸法である厚み寸法が異なるように設定された部材として構成されている。
また、スペーサ(16a〜16d)は、いずれも、揺動部材13の平板部13bの表面に設置されて用いられ、平板部13bの外形に対応した形状に形成されている。そして、スペーサ(16a〜16d)には、幅方向の中央部分において、長方形の4辺を構成する位置に沿って配置される各端部を構成する4つの縁部分のうちの1つの縁部分から外部に対して開口するように凹んだ部分として形成された凹部19が設けられている。スペーサ(16a〜16d)が平板部13bの表面に設置される際には、凹部19に対して平板部13bの凸部13cが嵌まり込んで係合することで、スペーサ(16a〜16d)が揺動部材13に対して保持される。尚、スペーサ(16a〜16d)のそれぞれは、揺動部材13に対して単独で設置される。
また、スペーサ(16a〜16d)の表面には、マーク(20a〜20d)が刻印されている。尚、スペーサ16aでは「11」の数字を示すマーク20aが、スペーサ16bでは「13」の数字を示すマーク20bが、スペーサ16cでは「15」の数字を示すマーク20cが、スペーサ16dでは「17」の数字を示すマーク20dが、それぞれ刻印されている。
「11」の数字を示すマーク20aは、ベース部材11に垂直な方向であって軸部12bの軸心と直交する方向において、ベース部材11の底面から平板部13bに設置されたスペーサ16aにおける平板部13b側と反対側の面までの距離寸法が、11mmであることを示している。「13」の数字を示すマーク20bは、ベース部材11に垂直な方向であって軸部12bの軸心と直交する方向において、ベース部材11の底面から平板部13bに設置されたスペーサ16bにおける平板部13b側と反対側の面までの距離寸法が、13mmであることを示している。「15」の数字を示すマーク20cは、ベース部材11に垂直な方向であって軸部12bの軸心と直交する方向において、ベース部材11の底面から平板部13bに設置されたスペーサ16cにおける平板部13b側と反対側の面までの距離寸法が、15mmであることを示している。「17」の数字を示すマーク20dは、ベース部材11に垂直な方向であって軸部12bの軸心と直交する方向において、ベース部材11の底面から平板部13bに設置されたスペーサ16dにおける平板部13b側と反対側の面までの距離寸法が、17mmであることを示している。
スペーサ(16a〜16d)は、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップ(間隙)の寸法に応じて、術者によって選択されて用いられる。大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法が9mmの場合、スペーサ16は用いられず、スペーサ16が設置されていない手術器具10が、大腿骨100及び脛骨101に対して設置される。大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法が11mmの場合、スペーサ16aが平板部13bに設置された手術器具(図示せず)が、大腿骨100及び脛骨101に対して設置される。大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法が13mmの場合、スペーサ16bが平板部13bに設置された手術器具10aが、大腿骨100及び脛骨101に対して設置される。大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法が15mmの場合、スペーサ16cが平板部13bに設置された手術器具(図示せず)が、大腿骨100及び脛骨101に対して設置される。大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法が17mmの場合、スペーサ16dが平板部13bに設置された後述の手術器具10bが、大腿骨100及び脛骨101に対して設置される。
尚、スライド支持部17には、ベース部材12から所定の距離を隔てた位置において、平行に延びる基準線17bが刻印されている(図2、図4及び図5を参照)。そして、垂直移動部材12には、スライド支持部17における基準線17bが刻印された面と同方向に配向した面において、目盛12dが刻印されている。目盛12dは、「0」の表示が刻印された位置を中心とした複数の目盛として刻印されており、例えば、1mm間隔で刻印されている。
上記の基準線17b及び目盛12dは、スペーサ16が設置されていない手術器具10、或いは、スペーサ16が設置された手術器具が、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法に対応しているか否かを確認するために用いられる。手術器具が、大腿骨100及び脛骨101に対して設置された際に、ベース部材11の底面から平板部13bの表面又はスペーサ(16a〜16d)の表面までの距離寸法が、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの寸法に対応していれば、基準線17bが、目盛12dにおける「0」の表示が刻印された位置を指標することになる。
スペーサ16eは、揺動部材13の平板部13bの表面に設置されて用いられ、平板部13bの外形に対応した形状に形成されている。そして、このスペーサ16eは、平板部13b上で大腿骨100の端部に接するスペーサとして、或いは、平板部13bとスペーサ(16a〜16d)との間に配置されるスペーサとして用いられる調整用のスペーサ16として構成されている。
本実施形態では、スペーサ16eの厚み寸法は、1mmに設定されている。よって、このスペーサ16eが用いられることで、大腿骨100及び脛骨101に対して設置された手術器具におけるベース部材11の底面から大腿骨100の端部に接する面までの距離寸法が、1mm増加することになる。尚、スペーサ16eの表面には、「+1mm」の文字を表示するマーク20eが刻印されている。
また、スペーサ16eには、幅方向の中央部分において、長方形の4辺を構成する位置に沿って配置される各端部を構成する4つの縁部分のうちの1つの縁部分から外部に対して開口するように凹んだ部分として形成された凹部19が設けられている。スペーサ16eが平板部13bの表面に設置される際には、凹部19に対して平板部13bの凸部13cが嵌まり込んで係合することで、スペーサ16eが揺動部材13に対して保持される。
尚、人工膝関節置換術用手術器具1において、スペーサ16eが複数備えられていてもよい。この場合、術者は、複数のスペーサ16eを適宜用いることで、大腿骨100及び脛骨101に対して設置された手術器具におけるベース部材11の底面から大腿骨100の端部に接する面までの距離寸法を1mmごとに細かく調整することができる。
スペーサ16fは、スペーサ(16a〜16e)の表面に設置されて用いられ、平板部13b及びスペーサ(16a〜16e)の外形に対応した形状に形成されている。そして、このスペーサ16fは、平板部13bに設置されたスペーサ(16a〜16e)上で大腿骨100の端部に接するスペーサとして用いられる調整用のスペーサ16として構成されている。
本実施形態では、スペーサ16fの厚み寸法は、8.5mmに設定されている。よって、このスペーサ16fが用いられることで、大腿骨100及び脛骨101に対して設置された手術器具におけるベース部材11の底面から大腿骨100の端部に接する面までの距離寸法が、8.5mm増加することになる。尚、スペーサ16fの表面には、「+8.5mm」の文字を表示するマーク20fが刻印されている。
また、平板部13b及びスペーサ(16a〜16e)には、スペーサ16fが取り付けられる際にこのスペーサ16fを保持するための一対の保持孔21が形成されている。一対の保持孔21は、平板部13b及びスペーサ(16a〜16e)のそれぞれにおいて、幅方向の中央部分から幅方向の両側に偏った位置に形成されている。そして、スペーサ16fには、一対の保持孔21に対応する位置において、一対の突起22が設けられている。スペーサ16fは、一対の突起22が一対の保持孔21に対してそれぞれ嵌まり込むことで、平板部13bに設置されたスペーサ(16a〜16e)に対して取り付けられて保持される。
図13は、大腿骨傾斜角度指標部材15を示す斜視図である。また、図14は、大腿骨傾斜角度指標部材15を示す正面図(図14(a))及び底面図(図14(b))である。図1、図13及び図14に示す大腿骨傾斜角度指標部材15は、揺動部材13に設置され、揺動部材13とともにベース部材11に対して揺動して傾斜した際に大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度を指標する部材として設けられている。
大腿骨傾斜角度指標部材15には、本体部15a、一対の突起部15b、指標部15c、等が設けられている。本体部15aは、直線状に延びる棒状の部分として形成されている。一対の突起部15bは、本体部15aの両端部分において本体部15bから同方向にそれぞれ突起状に突出する部分として設けられている。各突起部15bは、前述のように、一対の指標部材支持部13dにそれぞれ設けられた孔13gに対して嵌め込まれる。これにより、大腿骨傾斜角度指標部材15が、指標部材支持部13dに支持された状態で揺動部材13に設置されることになる。
図15では、人工膝関節置換術用手術器具1に含まれる手術器具として、ベース部材11、垂直移動部材12、揺動部材13、バネ部材(14a、14b)、大腿骨傾斜角度指標部材15、及び1つのスペーサ16dが組み立てられた状態の手術器具10bを示している。この図15は、手術器具10bが大腿骨100及び脛骨101に対して設置された状態を示す斜視図である。また、図16は、手術器具10bが大腿骨100及び脛骨101に対して設置された状態を示す正面図である。また、図17及び図18は、手術器具10bが大腿骨100及び脛骨101に対して設置された状態を示す側面図である。尚、図17は、膝関節が伸びて大腿骨100と脛骨101とが直線状に並んだ完全伸展位の状態を示している。一方、図18は、膝関節が少し曲がっており、大腿骨100が脛骨101に対して傾いた状態を示している。
各突起部15bが各指標部材支持部13dの孔13gに嵌め込まれることで、図15乃至図18に示すように、大腿骨傾斜角度指標部材15が揺動部材13に設置されることになる。また、大腿骨傾斜角度指標部材15が揺動部材13に設置された状態では、本体部15aは、平板部13bの幅方向に沿って配置される。
指標部15cは、本体部15aの中央において本体部15aから一対の突起部15bと反対方向に突出する部分として設けられている。尚、指標部15cは、本体部15aの長手方向に対して垂直な方向に向かって突出するように設けられている。また、指標部15cの先端側には、指標部15cが延びる方向と平行に延びる線として、即ち、本体部15aの長手方向に対して垂直な方向に延びる線として、指標線15dが刻印されている。尚、大腿骨傾斜角度指標部材15が揺動部材13に設置された状態では、大腿骨傾斜角度指標部材15はスライド支持部17及び垂直移動部材12に対して、垂直移動部材12に支持される揺動部材13の平板部13b側と反対側に配置される。そして、指標線15dは、指標部15cにおけるスライド支持部17に対向する側と反対側の面に刻印されている。
また、人工膝関節置換術用手術器具1には、更に、図2乃至図6、図8、図15乃至図18によく示すように、完完全伸展位確認部23が設けられている。完全伸展位確認部23は、完全伸展位の状態において、大腿骨100の端部における前面側において平坦な面として切除された骨切り面100aに対して当接することで、完全伸展位の状態であるかどうかの確認を可能にする機構として設けられている。尚、ここで、前面側とは、人体における前面側を意味する。
また、完全伸展位確認部23は、スライド支持部17におけるベース部材11側と反対側の端部に設けられている。そして、完全伸展位確認部23には、スライド支持部17に対して大腿骨傾斜角度指標部材15が配置される側、即ち、平板部13bと反対側における平坦な面において、角度目盛23aが刻印されている。
角度目盛23aは、スライド支持部17の基準線17bが垂直移動部材12の目盛12dにおける「0」の表示が刻印された位置を指標した状態において、軸部12bの軸心を中心とした回転方向の角度を示している。そして、角度目盛23aは、スライド支持部17が延びる方向、即ち、ベース部材11に対して垂直な方向と平行な方向に延びる目盛が、0°の角度の方向を示している。更に、角度目盛23aは、上記の0°の角度の方向を基準として軸部12bの軸心を中心とした時計方向及び反時計方向の角度の方向を1°間隔で示している。尚、本実施形態では、角度目盛23aとして、0°の方向を基準として時計方向に6°傾いた方向から反時計方向に6°傾いた方向までの範囲にて1°間隔で角度を示す角度目盛を例示している。
また、角度目盛23aは、完全伸展位確認部23の大腿骨傾斜角度指標部材15側の端面において、軸部12bに近い側の端部が指標部15cの先端側によって部分的に覆われる位置に刻印されている。そして、大腿骨傾斜角度指標部材15及び角度目盛23aは、指標部15cの先端側に刻印された指標線15dが示す角度目盛23aにおける角度の目盛が大腿骨傾斜角度指標部材15のスライド支持部17に対する傾斜角度を示すように構成されている。即ち、大腿骨傾斜角度指標部材15及び角度目盛23aにおいては、指標線15dが示す角度目盛23aにおける角度の目盛が、大腿骨傾斜角度指標部材15が揺動部材13とともにベース部材12に対して揺動して傾斜した際における大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度を示すことになる。
尚、平板部13bがベース部材11に対して平行の状態、即ち、ベース部材11が設置された脛骨100と平板部13b又はスペーサ16に支持された大腿骨100とが、真っ直ぐに配置されている状態では、指標線15dは、角度目盛23aにおける0°の目盛を示すことになる。即ち、指標線15dが延びる方向と角度目盛23aにおける0°の目盛が延びる方向とが一致することになる。また、例えば、平板部13bがベース部材11に対して左方向に(反時計方向に)3°傾斜した状態、即ち、脛骨100に対して大腿骨100が左方向に(反時計方向に)3°傾斜した状態では、指標線15dは、角度目盛23aにおける左側の3°の目盛を示すことになる。
また、完全伸展位確認部23には、大腿骨100の端部の前面側における骨切り面100aに当接する平面23bが形成されている。この平面23bは、完全伸展位確認部23において、スライド支持部17に対する平板部13b側、即ち、角度目盛23aが刻印されている側と反対側に形成されている。そして、この平面23bの面方向は、ベース部材11における脛骨101に設置される平坦な面に対して垂直な方向で広がるように構成されている。
図18に示すように、膝関節が曲がって大腿骨100が脛骨101に対して傾いた状態では、完全伸展位確認部23の平面23bと大腿骨100の前面側の骨切り面100aとの間に大きな隙間が形成されてしまうことになる。一方、図17に示すように、膝関節が真っ直ぐに伸びて大腿骨100と脛骨101とが直線状に並んだ完全伸展位の状態では、平面23bが骨切り面100aに対して面同士が重ねられた状態で当接することになる。即ち、平面23bと骨切り面100aとの間にほとんど隙間が形成されることなく、平面23bと骨切り面100aとが当接した状態となる。図17に示す状態となることで、術者は、完全伸展位の状態であることを容易に確認することができる。
上述した人工膝関節置換術用手術器具1は、人工膝関節置換術において、脛骨101に骨切り面101aが形成され、大腿骨100に骨切り面100aが形成された状態において、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間における左右の靭帯による張力のバランスを調整するために用いられる。尚、この状態では、患者の姿勢は、仰向けの体位である仰臥位の姿勢で膝関節を略真っ直ぐに伸ばした状態の姿勢となっている。
上記の状態において、術者は、大腿骨100の端部と脛骨101との間のギャップに応じて、人工膝関節置換術用手術器具1に含まれる手術器具として、手術器具10a、又は、ベース部材11、垂直移動部材12、揺動部材13、バネ部材(14a、14b)、及び1つのスペーサ16が組み立てられた状態の手術器具を準備する。尚、この手術器具は、大腿骨傾斜角度指標部材15が取り付けられていない状態となっている。
次いで、術者は、上記のように準備した手術器具を大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間に設置する。これにより、脛骨101の骨切り面101aにベース部材11が設置され、平板部13b又はスペーサ16に大腿骨100の端部が支持された状態となる。例えば、スペーサ16bが揺動部材13の平板部13bに取り付けられた手術器具10aが大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間に設置された場合は、図8に示す状態となる。
上述の手術器具が大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間に設置された状態において、術者は、スライド支持部17の基準線17bが垂直移動部材12の目盛12dにおける「0」の表示が刻印された位置を指標した状態であるか否かを確認する。基準線17bが目盛12dにおける「0」の位置を指標した状態であれば、次いで、完全伸展位の状態であるか否かの確認作業、或いは、大腿骨傾斜角度指標部材15の設置作業が行われる。
一方、基準線17bが目盛12dにおける「0」の位置からずれた状態であれば、術者は、設置した手術器具を一旦取り外す作業を行う。更に、術者は、基準線17bの目盛12dにおける「0」の位置からのずれ量に応じて、選択するスペーサ16の変更、或いは、調整用のスペーサ16aの追加、等を行い、新たな組み合わせの手術器具を組み立てる。そして、新たな組み合わせの手術器具が、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間に設置される。この作業は、基準線17bが目盛12dにおける「0」の位置を指標した状態となるまで行われることになる。
基準線17bが目盛12dにおける「0」の位置を指標した状態が確認されると、術者により、完全伸展位の状態の確認作業が行われ、次いで、大腿骨傾斜角度指標部材15の設置作業が行われる。或いは、大腿骨傾斜角度指標部材15の設置作業が行われ、次いで、完全伸展位の状態の確認作業が行われる。
完全伸展位の状態の確認作業では、術者は、完全伸展位確認部23の平面23bが大腿骨100の骨切り面100aに対して面同士で重ねられた状態で当接しているか否かを確認する。即ち、平面23bと骨切り面100aとの間にほとんど隙間が形成されていない状態で平面23bと骨切り面100aとが当接しているか否かが確認される。
例えば、手術器具10bが大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間に設置された場合であれば、図17に示す完全伸展位の状態であるか否かが確認されることになる。図17に示す完全伸展位の状態が確認されると、その確認作業は終了することになる。一方、図18に示すように、平面23bと骨切り面100aとの間に隙間が形成されている状態であれば、術者によって、図17に示す完全伸展位の状態となるように、大腿骨100及び脛骨101についての位置及び傾きの調整が行われる。
大腿骨傾斜角度指標部材15の設置作業では、術者により、大腿骨傾斜角度指標部材15における一対の突起部15bのそれぞれが、一対の指標部材支持部13dにそれぞれ設けられた孔13gに対して嵌め込まれる。これにより、大腿骨傾斜角度指標部材15が、揺動部材13に設置されることになる。
完全伸展位の状態であることが確認され、更に、大腿骨傾斜角度指標部材15の設置作業も完了すると、術者により、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間における左右の靭帯による張力のバランスが調整される。左右の靭帯による張力のバランスが均等となるように調整する場合には、術者は、大腿骨傾斜角度指標部材15の指標線15dが、角度目盛23aにおける0°の目盛を指標するように、左右の靭帯による張力のバランスを調整する。尚、この場合、術者は、例えば、左右の靭帯のうちのいずれかを少し切断することで、左右の靭帯による張力のバランスを調整する。また、左右の靭帯による張力のアンバランスの度合いは、指標線15dが指標する目盛によって術者に把握されることになる。
指標線15dが角度目盛23aにおける0°の目盛を指標した状態となり、左右の靭帯のバランスが均等になると、左右の靭帯による張力のバランスの調整作業が完了することになる。尚、この状態では、ベース部材11と平板部13bとが平行に配置された状態となる。
左右の靭帯による張力のバランスの調整作業が完了すると、設置されていた手術器具が、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間から撤去されることになる。尚、上記においては、左右の靭帯のバランスが均等になるように調整が行われる形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。患者の症例によっては、大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度が0°以外の所定の傾きの角度となるように調整されてもよい。この場合、指標線15dが角度目盛23aにおける所望の目盛を指標する状態となるように、左右の靭帯による張力のバランスが調整されることになる。
以上説明したように、人工膝関節置換術用手術器具1によると、脛骨101の端部の骨切り面101aに設置されたベース部材11に対して垂直移動部材12がこの骨切り面101aに垂直に移動自在に設置され、垂直移動部材12に揺動自在に支持された揺動部材13が大腿骨100の遠位側の端部を直接に又はスペーサ16を介して支持する。そして、スペーサ16は、複数備えられ、それぞれ異なる厚み寸法に設定されている。このため、術者は、揺動部材13と大腿骨100の端部との間に配置されるスペーサ16の有無或いは配置されるスペーサ16の厚み寸法の設定を確認するだけで、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップを視覚的に容易に確認することができる。
また、人工膝関節置換術用手術器具1によると、ベース部材11と揺動部材13との間にバネ部材14が配置され、スペーサ16が揺動部材13と大腿骨100の端部との間に配置される。このため、大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間における左右の靭帯に対して張力を付与するためのバネ部材14の付勢力の状態が、そのバネ部材14の仕様が確保されるバネ長の範囲から外れてしまうことを防止できる。よって、靭帯に対して張力を付与するためのバネ部材14の付勢力が術者の所望する適切な付勢力に設定された状態で左右の靭帯の張力のバランスを術者が調整することが容易に実現されることになる。
従って、人工膝関節置換術用手術器具1によると、術者による大腿骨100の端部と脛骨101の端部との間のギャップの視覚的な確認を容易にし、靭帯に対して張力を付与するためのバネ部材14の付勢力が術者の所望する適切な付勢力に設定された状態で左右の靭帯の張力のバランスを術者が調整することを容易に実現することができる。
また、人工膝関節置換術用手術器具1によると、完全伸展位の状態において大腿骨100の端部における前面側の骨切り面100aに対して当接する部分が設けられることで、完全伸展位確認部23が構成されることになる。このため、完全伸展位の状態であるかどうかの確認を可能にする機構を簡素な構造で構成することができる。尚、完全伸展位の状態でのみ左右の靭帯による張力のバランスの調整が行われる手技においては、特許文献1に開示されているような前後方向の傾斜機能は不要となる。そして、人工膝関節置換術用手術器具1によると、揺動部材13が垂直移動部材12に対して左右に傾く方向にて揺動自在に支持される構成であり、前後方向に揺動することがない。このため、術者は、完全伸展位確認部23により、完全伸展位の状態であるかどうかを速やかに効率よく確認することができる。
また、人工膝関節置換術用手術器具1によると、完全伸展位確認部23が、ベース部材11から垂直に延びて垂直移動部材12をスライド移動自在に支持するスライド支持部17の端部であって大腿骨100の前面側の骨切り面100aに当接する平面23bが形成された部分として設けられる。このため、完全伸展位確認部23をスライド支持部17の構造を効率よく利用してコンパクトに構成することができる。
また、人工膝関節置換術用手術器具1によると、揺動部材13に設置された大腿骨傾斜角度指標部材15が揺動部材13とともに揺動するため、揺動部材13のベース部材11に対する揺動とともに大腿骨傾斜角度指標部材15が大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度を自動的に指標することになる。このため、揺動部材13に対してともに揺動するように簡素な指標用の部材を設置するだけで、大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度を明確に把握することができる構造を容易に構築することができる。
尚、人工膝関節置換術用手術器具1によると、スライド支持部17の端部において、大腿骨傾斜角度指標部材15が大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度を指標するための角度目盛23aが設けられる構成が構築されている。この場合、完全伸展位の確認機能と大腿骨100の脛骨101に対する傾斜角度の確認機能との両方の機能を果たす構造を効率よくコンパクトに構成することができる。
以上、本考案の実施形態について説明したが、本考案は前述の実施の形態に限られるものではなく、実用新案登録請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)ベース部材、垂直移動部材、揺動部材、バネ部材、スペーサ、大腿骨傾斜角度指標部材の形状については、前述の実施形態で例示した形状に限らず、適宜変更して実施してもよい。
(2)複数のスペーサにおける厚み寸法の設定については、前述の実施形態で例示した厚み寸法の設定に限らず、適宜変更して実施してもよい。また、スペーサの数についても適宜変更して実施してもよい。