本考案の電解めっきシステムでは、前記金属イオンの濃度が第1の所定の濃度を超える場合、前記電解回収装置に流される電流がオンとされ、前記金属が回収され、前記金属イオンの濃度が第2の所定の濃度未満の場合、前記電流がオフとされ、前記金属が回収されないように構成され、前記金属イオンの濃度が前記第1の所定の濃度以下、前記第2の所定の濃度以上となるように制御され、前記酸成分の濃度が第3の所定の濃度未満の場合、前記酸成分の濃度が前記第3の所定の濃度以上となるように前記めっき液貯留・循環槽に前記酸成分が供給されるように構成され、前記酸成分の濃度が前記第3の所定の濃度以上、第4の所定の濃度以下となるように制御されるように構成されているのがよい。このような構成によれば、前記金属イオンの濃度を前記第1の所定の濃度以下、前記第2の所定の濃度以上の値に保持することができ、また、前記酸成分の濃度を前記第3の所定の濃度以上、第4の所定の濃度以下の値に保持することができ、安定した品質を有するめっき製品を得ることができる。なお、前記第1、第2、第3、第4の所定の濃度は予め定められているものである。
また、前記めっき液貯留・循環槽内の前記めっき液の一部が前記めっき槽内に供給され前記金属の電解めっきに用いられた後、前記めっき液貯留・循環槽内へ戻され、更に、前記めっき液貯留・循環槽内の前記めっき液の一部が前記移送ラインを介して前記電解槽内へ移送され、前記第1の濃度センサーによる検出結果に基づいて前記金属の回収処理がなされた後、再び、前記めっき液貯留・循環槽内へ戻される構成とするのがよい。このような構成によれば、前記めっき液は、前記めっき槽と前記めっき液貯留・循環槽の間、及び、前記めっき液貯留・循環槽と前記電解槽の間で循環され、その循環中に前記金属イオンの濃度及び前記酸成分の濃度がそれぞれ所望の範囲となるように調整されるので、前記めっき液の組成は所望の範囲に保持することができ、新たにめっき液を補充する必要がなく、安定した品質を有するめっき製品を得ることができる。
また、前記電解槽が陽イオン交換膜によって、前記不溶性陽極が配置される陽極室と、前記陰極が配置される陰極室とに分離され、前記陰極室が前記移送ラインを介して前記めっき液貯留・循環槽に連結されており、前記めっき液貯留・循環槽内の前記めっき液が前記陰極室の電解液として供給される構成とするのがよい。このような構成によれば、前記陰極室内の前記めっき液中に含まれる添加剤は、前記陽イオン交換膜によって前記陽極室への侵入を阻止され、前記不溶性陽極上で酸化されることがないので、前記電解回収装置における添加剤の損失は、前記電解回収装置の前記陰極に析出する金属層に添加剤が取り込まれることによる損失分に限られる。このため、前記めっき槽に補給する添加剤のコストが抑えられるばかりでなく、添加剤の濃度が安定し、前記電解回収装置における添加剤の損失に起因するめっき製品にピットやブツが発生することが少なくなる。
また、前記電解槽が陽イオン交換膜によって3室に分離され、前記不溶性陽極が配置される陽極室が前記陽イオン交換膜によって前記陽極室以外の領域から分離され、前記陰極が配置される陰極室が前記陽イオン交換膜によって前記陰極室以外の領域から分離され、前記陽極室と前記陰極室との間に中間室が設けられ、前記中間室が前記移送ラインを介して前記めっき液貯留・循環槽に連結されており、前記めっき液貯留・循環槽内の前記めっき液が前記中間室に電解液として供給される構成とするのがよい。このような構成によれば、前記中間室内の前記めっき液中の添加剤は、前記陽イオン交換膜によって前記陽極室及び前記陰極室への侵入を阻止され、前記不溶性陽極上で酸化されたり、前記電解回収装置の前記陰極に析出する金属層に取り込まれたりすることがないので、前記電解回収装置における添加剤の損失はない。このため、前記めっき槽に補給する添加剤のコストが不要になるばかりでなく、添加剤の濃度が安定し、前記電解回収装置における添加剤の損失に起因するめっき製品にピットやブツが発生することがない。
また、前記金属イオンが銅イオンであって前記第1の濃度センサーが吸光度計であり、前記酸成分が硫酸であって前記第1の濃度センサーが導電率計である構成とするのがよい。このような構成によれば、銅イオンの濃度、硫酸の濃度をそれぞれ所望の範囲に保持することができ、安定した品質を有する銅めっき製品を得ることができる。
なお、以下の説明では、「導電率」の用語に替えて「電気伝導度」の用語を使用することもある。
次に、図面を参照しながら、本考案による金属の電解回収装置と電解金属めっき装置からなり、電解めっき液の組成の変化を検出し、電解めっき液の組成を予め定められる所望の範囲に保持することができる電解めっきシステムについて説明する。以下では、電解めっきシステムとしてとして、印刷シリンダーの電解銅めっき装置を例にとって説明するが、本考案による電解めっきシステムは、半導体ウエハ、プリント基板等に金属層を形成する電解めっきに適用することができる。
[実施の形態1]
〈電解銅めっき装置〉
図1は、本考案の実施の形態における、銅の電解めっきシステムの構成を説明する断面を含む図である。
図2は、本考案の実施の形態における、銅の電解めっきシステムの銅の電解回収装置を中心とする断面を含む拡大図である。
先ず、図1、図2を参照して、本考案による電解めっきシステムにおける、電解めっき液の組成の変化の検出と、電解めっき液の組成を所望の範囲に保持するための構成に関して、説明する。めっき液は、めっきの目的に応じてめっき液の組成は予め設定されるが、このめっき液における組成を、以下の説明では、「標準的な組成」と呼び、このめっき液における硫酸銅濃度(g/L)、硫酸濃度(g/L)、添加剤濃度(g/L)をそれぞれ、「標準的な硫酸銅濃度」、「標準的な硫酸濃度」、「標準的な添加剤濃度」と呼ぶ。
以下の説明では、硫酸銅五水和物の濃度が200〜250(g/L)であり、98%硫酸濃度が50〜70(g/L)である組成を標準的な組成として含有するめっき液を、対象として考える。
図1、図2に示すように、本考案による電解めっきシステムは、電解銅めっき装置10、めっき液貯留・循環槽20、銅の電解回収装置30を含んでいる。電解銅めっき装置10は、硫酸、硫酸銅を含み標準的な組成を有するめっき液2に浸漬される陰極3と溶性陽極4を収納するめっき槽1と、めっき液を貯留しめっき槽に循環させるめっき液貯留・循環槽20とを有している。また、銅の電解回収装置30は、不溶性陽極33と陰極32が浸漬される電解槽31を有している。
めっき液貯留・循環槽20と電解回収装置30の電解槽31は移送管(移送配管、移送ライン)42によって接続されており、めっき液貯留・循環槽20のめっき液は電解槽31に移送される。なお、電解回収装置30をめっき液貯留・循環槽20の内部に配置して、めっき液貯留・循環槽20のめっき液を電解槽31へ移送させる構成とすることもできる。
めっき液2は、電解銅めっき装置10とめっき液貯留・循環槽20の間、めっき液貯留・循環槽20と電解回収装置30との間でそれぞれ、循環されており、めっき液貯留・循環槽20のめっき液は電解回収装置30の電解液として供給される。そして、電解回収装置30でめっき液中の銅イオンが電解によって回収された後、めっき液はめっき液貯留・循環槽20に戻される。
電解槽31は陽イオン交換膜38によって、不溶性陽極33が配置される陽極室35と、陰極32が配置される陰極室34とに分離され、陰極室34が移送管42を介してめっき液貯留・循環槽20に連結されており、めっき液貯留・循環槽20のめっき液が陰極室34の電解液(陰極室電解液(めっき液)36)として供給される。
めっき液貯留・循環槽20から電解回収装置30の電解槽31へのめっき液2の移送を所望の時間間隔で間欠的に行い、電解回収装置30における銅イオンの回収をバッチ式に行っても、めっき液貯留・循環槽20から電解回収装置30の電解槽31へのめっき液2の移送を連続して行いながら、電解回収装置30における銅イオンの回収を連続的に行うことができる。即ち、めっき液貯留・循環槽20と陰極室33との間でのめっき液2の循環は、連続的でも、間欠的でもよい。
めっき液貯留・循環槽20から電解回収装置30の電解槽31へ移送されるめっき液2中の硫酸銅濃度、硫酸銅濃度の検出が連続的又は間欠的に行われ、めっき液貯留・循環槽20のめっき液の硫酸銅濃度、硫酸銅濃度の制御が、予め定められた所定の時間間隔で行われる。
〈めっき液中の硫酸銅濃度、硫酸銅濃度の検出と濃度の制御〉
移送管42を流れるめっき液中の硫酸銅濃度、硫酸銅濃度が検出される。硫酸銅濃度は硫酸銅濃度センサー64によって検出され、硫酸濃度は硫酸濃度センサー62によって検出される。これらの検出は所望の任意の時間間隔で行うことができる。硫酸銅濃度センサー64は、例えば、吸光度計であり、硫酸濃度センサー62は、例えば、導電率計である。
硫酸銅濃度センサー64として、例えば、硫酸銅の吸収極大(約800nm)近傍に発振波長を有する近赤外半導体レーザーを光源として使用し、移送管42からのめっき液が導かれる吸光度測定用セルをもつ流通型吸光度計と、銅濃度モニターCU−502((株)笠原理化工業製)からなる系を使用することができる。移送管42から導かれためっき液は流通型吸光度計の吸光度測定用セルを通り移送管42に戻される。或いは、移送管42の一部に光入射窓及び光出射窓を設け、めっき液にレーザーを通過させ吸光度を測定することもでき、また、移送管42の内部でめっき液に吸光度測定用プローブを浸漬して吸光度を測定することもできる。
硫酸濃度センサー62として、例えば、導電率計TCX−98((株)東興化学研究所製)を使用することができる。移送管42のめっき液が導電率測定用のセルに導入され、このセル中のめっき液に導電率測定用プローブが浸漬されており、導電率が測定され、めっき液が移送管42に戻される。或いは、移送管42の内部のめっき液に導電率測定用プローブを浸漬して導電率を測定することもできる。
吸光度計(硫酸銅濃度センサー64)によって検出された吸光度信号、導電率計(硫酸濃度センサー62)によって検出された導電率信号は、硫酸銅濃度及び硫酸濃度制御装置60によって処理される。
〈硫酸銅濃度の検出と濃度の制御方法〉
硫酸銅濃度センサー64によって検出された信号は、硫酸銅濃度信号変換器74によって、制御装置60の記憶装置(図示せず。)に記憶されている硫酸銅濃度と吸光度の間の検量線を使用して、硫酸銅濃度に変換される。
硫酸銅濃度と吸光度信号の間の検量線を作成するためのデータ、或いは、検量線は、記憶装置に記憶されている。
硫酸銅濃度と吸光度との間の検量線を作成するためのデータは、硫酸銅濃度を除いて、硫酸、添加剤等の濃度を、電解銅めっき装置10で使用されるめっき液の硫酸、添加剤等の標準的な濃度とし、硫酸銅濃度を、その標準的な濃度を中心としてその前後で複数通りに変化させためっき液を使用して、複数の温度において吸光度を測定して得られたものである。
即ち、硫酸銅濃度Cを一定とする時の吸光度Dcの温度tによる変化を、例えば、直線近似してその勾配Acと切片Bcを求め、吸光度Dcと温度tの関係を直線Dc=Act+Bcによって表し、複数の硫酸銅濃度Cのそれぞれにおける吸光度Dcと温度tの関係を勾配Acと切片Bcのデータとして、記憶装置に記憶しておくことができる。なお、ここでは、めっき液の吸光度は硫酸濃度によって変化しないものと仮定している。
硫酸銅濃度と吸光度の間の検量線は、複数の温度tにおける吸光度Dc=Act+Bcと硫酸銅濃度Cの関係を、例えば、直線近似してこの勾配と切片を求め、勾配と切片によって表すことができるので、複数の各温度tにおける検量線を勾配と切片のデータとして、記憶装置に予め記憶しておくことができる。
移送管42を流れるめっき液の硫酸銅濃度を求めるためには、吸光度が測定されためっき液の温度t0(図示しない温度計によって測定される。)における硫酸銅濃度と吸光度の間の検量線が必要となるが、この検量線は、硫酸銅濃度Cそれぞれにおける吸光度Dc=Act0+Bcを求め、吸光度Dcと硫酸銅濃度Cの関係を、例えば、直線近似して得ることができる。また、予め記憶装置に記憶されている複数の各温度tにおける検量線の中の最も温度t0に近い温度の検量線を使用してもよい。
信号変換され検出された硫酸銅濃度は、表示器66に表示されると共に、電解銅回収装置の制御信号発生器84に送られ、ここで変換され、硫酸銅濃度の制御信号Sig.1が発生される。制御信号Sig.1は、電解銅回収装置電源47のオン、オフと、不陽性陽極33と陰極32の間に印加される電流の大きさ及び時間に関する信号を含む。制御信号Sig.1は、検出された硫酸銅濃度が大である時、電解銅回収装置電源47をオンとし、検出された硫酸銅濃度が小である時、電解銅回収装置電源47をオフとするものである。
めっき液の標準的な硫酸銅濃度(g/L)をCcsとする時、Ccu、CclはCcu≧Ccs≧Ccl(Ccu=Cclであってもよい。)を満すように設定されているとする。
検出された硫酸銅濃度Ccが、Cc>Ccu又はCc>Ccsである場合、めっき液中に銅が過剰であると判断され、電解回収装置30の電解回収電源47がオンとされ電流が流され、電解槽31中の陰極室電解液(めっき液)36の体積をVcとする時、(Cc−Ccu)Vc又は(Cc−Ccs)Vcの重量の銅を陰極32に析出させるように、電流印加時間が制御され、過剰な銅イオンが回収される。
また、検出された硫酸銅濃度CcがCcl>Cc又はCcs>Ccである場合、めっき液中の銅は過剰ではないと判断され、電解回収電源47がオフとされ、電解回収装置30によって銅イオンが回収されないようにされる。
このようにして、めっき液2の硫酸銅濃度が、上限値Ccu以下、下限値Ccl以上である濃度に保持される。
〈硫酸濃度の検出と濃度の制御方法〉
硫酸濃度は硫酸濃度センサー62によって検出された信号は、硫酸濃度信号変換器72によって、制御装置60の記憶装置(図示せず。)に記憶されている硫酸濃度と導電率の間の検量線を使用して、硫酸濃度に変換される。
硫酸濃度と導電率の間の検量線を作成するためのデータ、或いは、検量線は、記憶装置に記憶されている。
硫酸濃度と導電率の間の検量線を作成するためのデータは、硫酸濃度を除いて、硫酸銅、添加剤等の濃度を、電解銅めっき装置10で使用されるめっき液の硫酸銅、添加剤等の標準的な濃度とし、硫酸濃度を、その標準的な濃度を中心としてその前後で複数通りに変化させためっき液を使用して、複数の温度で導電率を測定して得られたものである。
即ち、硫酸濃度Cを一定とする時の導電率Ecの温度tによる変化を、例えば、直線近似してその勾配Fcと切片Gcを求め、導電率Ecと温度tの関係を直線Ec=Fct+Gcによって表し、複数の硫酸銅濃度Cのそれぞれにおける導電率Ecと温度tの関係を勾配Fcと切片Gcのデータとして、記憶装置に記憶しておくことができる。
なお、ここでは、めっき液の硫酸銅濃度が標準的な硫酸銅濃度と大きくずれておらず、また、めっき液の導電率は硫酸銅濃度によって大きく変化しないものと仮定している。このような仮定が成立する場合には、めっき液の電気伝導率の温度による変化は、標準的な組成を有するめっき液の電気伝導率の温度変化に近い変化を示すものと想定される。
また、硫酸濃度と導電率の間の検量線を作成するためのデータは、硫酸濃度、硫酸銅濃度を除いて、添加剤等の濃度を、電解銅めっき装置10で使用されるめっき液の添加剤等の標準的な濃度とし、硫酸濃度、硫酸銅濃度をそれぞれその標準的な濃度を中心としてその前後で複数通りに変化させためっき液を使用して、複数の温度で導電率を測定して得られたデータであってもよい。なお、ここでは、めっき液の硫酸銅濃度が標準的な硫酸銅濃度と大きくずれており、また、硫酸濃度が標準的な濃度よりも濃い方向に大きく変化しておりめっき液の導電率が硫酸銅濃度によって大きく変化しているものと仮定している。
この場合は、硫酸銅濃度がC0であるめっき液を使用して、複数の温度で導電率を測定して得られたデータを使用して、上記と同じように、硫酸濃度Cを一定とする時の導電率Ecの温度tによる変化を、例えば、直線近似してその勾配Fcと切片Gcを求め、導電率Ecと温度tの関係を直線Ec=Fct+Gcによって表し、硫酸銅濃度がC0であるめっき液における導電率Ecと温度tの関係を勾配Fcと切片Gcのデータとして、記憶装置に記憶しておくことができる。硫酸銅濃度C0を複数に変化させためっき液の導電率を測定しているので、硫酸銅濃度に対応した勾配Fcと切片Gcのデータが得られることになる。
なお、硫酸濃度と導電率の間の検量線は、複数の温度tにおける導電率Ec=Fct+Gcと硫酸濃度Cの関係を、例えば、直線近似してこの勾配と切片を求め、勾配と切片によって表すことができるので、複数の各温度tにおける検量線を勾配と切片のデータとして、記憶装置に予め記憶しておくこともできる。
硫酸銅濃度センサー64によって検出された信号から上述のようにして求められた硫酸銅濃度に最も近い硫酸銅濃度C0をもっためっき液を使用して得られた導電率データ、或いは、標準的な硫酸銅濃度をもっためっき液を使用して得られた導電率データを、硫酸濃度に関する検量線作成するためのデータとして、使用する。
移送管42を流れるめっき液の硫酸濃度を求めるためには、導電率が測定されためっき液の温度t0(図示しない温度計によって測定される。)における硫酸濃度と導電率の間の検量線が必要となるが、この検量線は、硫酸濃度Cそれぞれにおける導電率Ec=Fct0+Gcを求め、導電率Ecと硫酸濃度Cの関係を、例えば、直線近似して得ることができる。また、予め記憶装置に記憶されている複数の各温度tにおける検量線の中の最も温度t0に近い温度の検量線を使用してもよい。
以上のようにして、硫酸濃度に関する検量線作成するためのデータとして、標準的な硫酸銅濃度をもっためっき液を使用して得られた導電率データを使用することによって、めっき液の硫酸銅濃度が標準的な硫酸銅濃度と大きくずれておらず、また、めっき液の導電率が硫酸銅濃度によって大きく変化しない場合、硫酸濃度をほぼ正確に求めることができる。
また、硫酸濃度に関する検量線作成するためのデータとして、硫酸銅濃度センサー64によって検出された信号から上述のようにして求められた硫酸銅濃度に最も近い濃度をもっためっき液を使用して得られた導電率データを使用することによって、めっき液の硫酸銅濃度が標準的な硫酸銅濃度と大きくずれており、また、硫酸濃度が標準的な濃度よりも濃い方向に大きく変化しておりめっき液の導電率が硫酸銅濃度によって大きく変化している場合でも、硫酸濃度をより正確に求めることができる。
信号変換され検出された硫酸濃度は、表示器66に表示されると共に、硫酸濃度の制御信号発生器82に送られ、ここで、変換され硫酸濃度の制御信号Sig.2が発生される。制御信号Sig.2は、硫酸送流ポンプ81、純水送流ポンプ71のオン、オフを含む。制御信号Sig.2は、検出された硫酸濃度が小である時、硫酸送流ポンプ81をオンとし、硫酸槽92から硫酸をめっき液貯留・循環槽20に送流し、検出された硫酸濃度が大である時、純水送流ポンプ71をオンとし、純水槽94から純水をめっき液貯留・循環槽20に送流するものである。
めっき液の標準的な硫酸濃度(g/L)をCAsとする時、CAu、CAlはCAu≧CAs≧CAl(CAu=CAlであってもよい。)を満すように設定されているとする。
検出された硫酸濃度CAがCAl>CA又はCAs>CAである場合、めっき液中の硫酸濃度が低いと判断され、硫酸送流ポンプ81をオンとされ、濃度差(CAl−CA)又は(CAs−CA)をゼロとするように、硫酸槽92から硫酸がめっき液貯留・循環槽20に送流、供給される。
また、硫酸濃度センサー62によって検出された硫酸濃度CAがCA>CAu又はCA>CAsである場合、めっき液中の硫酸濃度が高いと判断され、純水送流ポンプ71がオンとされ、濃度差(CA−CAu)又は(CA−CAs)をゼロとするように、純水槽94から純水がめっき液貯留・循環槽20に送流、供給される。
このようにして、めっき液2の硫酸濃度が、上限値CAu以下、下限値CAl以上である濃度に保持される。
以上のようにして、めっき液貯留・循環槽20のめっき液の一部がめっき槽1に供給され銅の電解めっきに用いられた後、めっき液貯留・循環槽20へ戻され、更に、めっき液貯留・循環槽20のめっき液の一部が移送管42を介して電解槽31へ移送される。この移送の間に、硫酸濃度センサーによってめっき液中の硫酸濃度が検出され、硫酸銅濃度センサーによってめっき液中の硫酸銅濃度が検出される。そして、硫酸濃度センサーによる検出結果に基づいてめっき液貯留・循環槽20のめっき液の硫酸濃度が調整されると共に、硫酸銅濃度センサーによる検出結果に基づいて銅イオンの回収処理がなされた後、めっき液は、再び、めっき液貯留・循環槽20へ戻される。
本考案による電解めっきシステムでは、めっき液貯留・循環槽20の硫酸銅濃度、硫酸濃度をそれぞれ、所望の任意の時間間隔で検出された硫酸銅濃度、硫酸濃度に基づいて、硫酸銅濃度及び硫酸濃度制御装置60によって制御され、電解めっき液の組成を所望の範囲に保持することができ、安定品質のめっき製品を得ることができる。
〈印刷シリンダーの電解銅めっき装置〉
次に、本考案による電解めっきシステムをより詳細に説明すると、図1に示す電解めっきシステムは、電解めっき装置の本体である印刷シリンダーの電解銅めっき装置10と、それに付設されためっき液貯留・循環槽20と、図中、右側の点線の枠で囲まれた銅の電解回収装置30とで構成されている。図1に示した矢印は、図示の電解めっきシステムが作動する際にめっき液2が流れる方向を示している。
印刷シリンダーの電解銅めっき装置10と、それに付設されためっき液貯留・循環槽20は、銅の電解回収装置30と接続するための配管等がめっき液貯留・循環槽20に設けられていることを除けば、従来の電解銅めっき装置と同じものである。このめっき装置は、電解銅めっき装置10のめっき槽1とめっき液貯留・循環槽20とを上下2段に備え、銅めっきが行われていない時は、めっき槽1にはめっき液2は入っておらず、めっき液貯留・循環槽20にめっき液2の全量が入っている。
めっき槽1に印刷シリンダー3が挿入されると、めっき液2は、送液ポンプ21によって下側のめっき液貯留・循環槽20から濾過器22を通って上側のめっき槽1に送られ、吹き出し口5から勢いよくめっき槽1内に吹き出される。吹き出されためっき液2はめっき槽1を満たした後、めっき槽1の上部に設けられたオーバーフロー開口部6からあふれ出す。あふれ出ためっき液2aは下側のめっき液貯留・循環槽20に戻る。めっき液の一部2bは、印刷シリンダー駆動軸11とめっき槽1との隙間から漏れだし、めっき液貯留・循環槽20に戻る。このようにして、めっき液2はめっき液貯留・循環槽20とめっき槽1との間で循環する。
めっき槽1には、含リン銅からなる溶性陽極4が備えられており、めっき液2を循環させながら印刷シリンダーを陰極3としてめっき電流を流すと、印刷シリンダー3に銅の電解めっきが行われる。
即ち、陰極である印刷シリンダー3の表面では、めっき液2中の銅イオンが次式(1)のように電気化学的に還元され、生成した銅が印刷シリンダー3の表面に銅めっき層を形成する。
めっき槽陰極:Cu2+ + 2e− →Cu …(1)
一方、含リン銅からなる溶性陽極4では、次式(2)の反応によって銅が酸化され、陽極4から銅イオンが溶け出し、陰極3で失われた銅イオンを補充する。
めっき槽陽極(Cu):Cu→Cu2+ + 2e− …(2)
この際、印刷シリンダー3を駆動装置12と駆動用モーター13とによって高速に回転させると、印刷シリンダー3に均一な銅めっき層を形成することができる。
銅めっきが終了すると、送液ポンプ21を止め、ドレイン7を開いて、めっき槽1のめっき液2をめっき液貯留・循環槽20にもどし、めっき槽1を空にして、印刷シリンダー3を取り出す。
めっき液2は、硫酸銅と硫酸と塩化物イオンと添加剤とを含んだ水溶液で、その組成は、例えば、硫酸銅が220g/L、硫酸が60g/L、そして塩化物イオンが120ppmの割合であるのがよい。添加剤としては、例えば、コスモG−MU(商品名;大和特殊(株)製)を8mL/L、コスモG−1(商品名;大和特殊(株)製)を2mL/Lの割合で加える。
硫酸銅は、めっきされる銅を銅イオンCu2+として供給する。硫酸は、めっき液2の電気抵抗を下げるために用いられる。塩化物イオンには、添加剤の効果を高める作用がある。塩化物イオン濃度は、電解めっきによって増減することはなく、一定である。
コスモG−MU及びコスモG−1は、大和特殊(株)が開発し、販売している印刷シリンダーめっき用の添加剤(有機化合物)である。これらの添加剤を用いると、大きな電流密度で銅めっきしても、光沢のある平滑なめっき面を形成することができる。また、印刷シリンダー3の全面で銅めっき層が同一の硬度になり、しかも硬度の経時変化もないため、インクの入るセルの形状及びサイズを均一に形成することができる。
しかしながら、添加剤は、一般に、陽極において酸化分解されやすいものであり、電解電圧が高いほど酸化分解されやすくなる。そのため、電解銅めっき装置10では、陽極として含リン銅からなる溶性陽極4を用いることによって銅めっきにおける電解電圧を下げ、添加剤が陽極4で酸化分解されるのをできるだけ少なくするようにしている。陽極材料として含リン銅を用いると、銅の表面にリン酸塩の被膜が形成され、銅陽極への添加剤の接触がこの被膜によって抑制され、添加剤の分解が抑制される。
含リン銅からなる溶性陽極4を用いる場合でも、添加剤は、陰極3側では銅めっき層に取り込まれ、また陽極4側では陽極酸化によって分解され、多かれ少なかれ減少する。このような添加剤の減少量は銅めっきに用いられた電気量に比例するので、電解銅めっき装置10に流れた電気量を、積算電流計を用いて測定し、この積算電流計に薬剤補給ポンプを連動させて、添加剤を自動的に補給することができる。
反応(1)によって陰極で失われた銅イオンの量と、反応(2)によって陽極で生成する銅イオンの量と同じであれば、めっき液2中の銅イオン濃度は一定に保たれる。実際には、陽極4から溶け出す銅イオンの方が、陰極3に析出する銅イオンよりも多いので、銅めっきの進行と共にめっき液2中の銅イオン(硫酸銅)濃度は増加し、それと共に水素イオン(硫酸)濃度が減少する。本実施の形態では、めっき液2の組成を調整するために銅の電解回収装置30を設けている。
図2に示すように、電解回収装置30は、銅板からなる陰極32と不溶性陽極33とを備えており、陰極室34と陽極室35とは陽イオン交換膜38で仕切られている。そして、陰極室電解液36として電解銅めっき装置10のめっき液2が用いられる。陽極室電解液37としては、銅イオンの回収と銅めっきとを妨害する陽イオンや陰イオンを含むものでなければ、とくに限定されるものではない。
めっき液貯留・循環槽20のめっき液2は、送液ポンプ41とめっき液取り出し配管(移送管)42を通ってめっき液吐出口43から電解回収装置30の陰極室33に導入され、陰極室電解液(めっき液)36とされる。めっき液取り出し配管(移送管)42を通るめっき液の硫酸銅濃度、硫酸濃度が検出され、前述の方法に従って、めっき液貯留・循環槽20のめっき液2の硫酸銅濃度、硫酸濃度が制御され、めっき液貯留・循環槽20のめっき液2の組成が所望の範囲に保持される。
陰極室電解液(めっき液)36は、電解回収装置30による電気分解によって銅イオン及び水素イオン濃度を調整された後、オーバーフロー開口部44から取り出され、オーバーフロー戻し配管45を通ってめっき液貯留・循環槽20に戻される。
めっき液貯留・循環槽20から電解回収装置30の電解槽31へのめっき液2の移送の形態としては、めっき液貯留・循環槽20からめっき液2の取り出しと、電解回収装置30による銅イオンの回収後の陰極室電解液(めっき液)36のめっき液貯留・循環槽20への戻しを間欠的に行い、電解回収装置30における銅イオンの回収をバッチ式に行う方式と、常にめっき液貯留・循環槽20と陰極室33との間でめっき液2を循環させながら、電解回収装置30における銅イオンの回収を連続的に行う方式とが可能である。めっき液貯留・循環槽20と陰極室33との間でのめっき液2の循環は、連続的でも、間欠的でもよい。循環量は、めっき液貯留・循環槽20の液量によって調節する。
電解回収装置30では、電解回収装置電源47から電解電流を流すことにより、陰極32及び陽極33上でそれぞれ、下記の反応(3)及び(4)が起こり、電解槽31全体では下記の反応(5)が起こることになる。
回収槽陰極:Cu2+ +2e- →Cu …(3)
回収槽陽極:H2O → 2H+ + (1/2)O2 +2e- …(4)
回収槽全体:CuSO4 +H2O →Cu+H2SO4 + (1/2)O2 …(5)
陰極室34では、陰極室電解液(めっき液)36中の過剰な銅イオンが、反応(3)によって還元され、銅陰極32に析出する。この結果、陰極室電解液(めっき液)36中の銅イオン濃度は流した電気量に応じて引き下げられる。
この時、陽極33では反応(4)によって水素イオンが生成する。一方、電解槽では陽イオン交換膜38によって陰イオンの移動が阻止されているので、陽極室35から陰極室34へ流れる電気量はすべて陽イオンの移動によって運ばれる。従って、陽極室電解液37が希硫酸であれば、反応(4)で生成したと同量の水素イオンが陽極室35から陰極室34へ移動する。この結果、陽極室35では生成したと同量の水素イオンが移動によって失われるため、水素イオン濃度は変化しない。これに対し、陰極室34の陰極室電解液(めっき液)36中の水素イオン濃度は、陽極室35から移動してきた水素イオンによって、流した電気量に応じて引き上げられる。
以上のようにして、めっき液貯留・循環槽20から取り出されためっき液2は、通電する電気量を適切に調整することで、銅イオン濃度と水素イオン濃度(硫酸濃度)が適切な値に調整された後、めっき液貯留・循環槽20へ戻される。このように、電解回収装置30による銅イオンの回収の際に水素イオン濃度(硫酸濃度)が変化しためっき液が、めっき液貯留・循環槽20へ戻されるが、めっき液貯留・循環槽20のめっき液2の水素イオン濃度(硫酸濃度)は、また、硫酸濃度センサー62によって検出された信号に基づいて先述したように制御されるので、電解銅めっき装置10で製造される銅めっき製品の品質が向上する。
この際、陰極室34に導入された陰極室電解液(めっき液)36中の添加剤は、陽イオン交換膜38によって陽極室35への侵入を阻止されるので、陽極33上で酸化されることがない。従って、めっき液貯留・循環槽20と陰極室33との間でのめっき液2の循環が連続的、間欠的によらず、電解回収装置30における添加剤の損失は、陰極32に析出する銅層に添加剤が取り込まれることによる損失分に限られる。このため、添加剤を補給する薬剤コストが抑えられるばかりでなく、添加剤濃度が安定し、電解回収装置30における添加剤の損失に起因して、電解銅めっき装置10で製造される銅めっき製品にピットやブツが発生することがない。
陰極32は銅板を用いるのがよい。この銅板は厚さが薄いものを用いてコストを下げるようにし、回収した銅が十分堆積したら、取り外して新しい銅板と交換する。このようにすれば、堆積した銅膜を、手間をかけて剥がす必要がなく、容易に資源として売却したり、再利用にまわしたりすることができる。
不溶性陽極33の材料は、特に限定されるものではなく、例えば、チタン基材に白金を被着させた白金電極や、チタン基材に酸化イリジウムを焼き付けた酸化イリジウム電極を用いることができる。本考案には、添加剤が酸化分解されるおそれなしに、任意の不溶性陽極を用いることができるメリットがある。
陽極室35では不溶性陽極33の表面から発生する大量の酸素ガスによって陽極室電解液37が飛び散り、蒸発によって水分が失われるため、陽極室電解液37の液面が下がる。そこで、陽極室電解液37が飛び散るのを防ぐため、陽極室35の上部に蓋を設ける。更に、陽極室35と陰極室34の液面を同じレベルに保つため、両者の隔壁に直径0.2〜1.0mmの貫通孔46を1つ又は数個形成する。貫通孔46を通って陽極室35に入る陰極室電解液(めっき液)36の量はわずかであるから、これが陰極室電解液(めっき液)36の組成に与える影響は無視できる。
陰極室電解液(めっき液)36の温度は100℃まで上げることができる。陰極室電解液(めっき液)36の温度を高く、且つ、不溶性陽極33と陰極32との距離を小さくすることで、電解電圧を低下させ、処理コストを下げることができる。
[実施の形態1の変形例]
図3は、本考案の実施の形態(実施の形態1の変形例)における、銅の電解回収装置における電解槽の一例を示す図であり、図3(a)は電解槽の断面図、図3(b)は陽イオン交換膜の正面図を含む図である。
図3(a)に示す電解槽では、銅イオンの回収効率を向上させるために、陽極室35を陰極32の両側に2つ設けている。それ以外は、図2に示した電解槽31と同じである。
図3(b)は、陽イオン交換膜38の正面図及びこの面方向で切断した電解槽の断面図を示している。図3(a)及び図3(b)に示すように、陽イオン交換膜38は、格子状の陽イオン交換膜補強用枠39によって補強され、陽イオン交換膜支持体40によって保持され、陽イオン交換膜支持体40と共に陽極室35を形成している。
[実施の形態2]
図4は、本考案の実施の形態における、銅の電解回収装置における電解槽の例を示す断面図である。
以下、実施の形態1と共通する説明の重複を避け、実施の形態1と相違する事項について説明する。
図4に示す電解槽では、銅イオンの回収効率を向上させるために、陽極室35を陰極32の両側に2つ設けている。図4に示すように、電解槽は、陽イオン交換膜38、55によって3室に分離され、不溶性陽極33が配置される陽極室35が陽イオン交換膜38によって陽極室35以外の領域から分離され、陰極32が配置される陰極室51が陽イオン交換膜55によって陰極室51以外の領域から分離され、陽極室35と陰極室51との間に中間室52が設けられ、中間室52が移送管42を介してめっき液貯留・循環槽20に連結されており、めっき液貯留・循環槽20のめっき液が中間室52に陰極室電解液53として供給される。
中間室電解液54として電解銅めっき装置10のめっき液2が用いられる。陽極室電解液37は、実施の形態1と同様で、銅イオンの回収と銅めっきとを妨害する陽イオンや陰イオンを含むものでなければよい。陰極室電解液53は、銅イオンの回収を妨害する陽イオンや陰イオンを含むものでなければよいが、めっき液2と同様に硫酸銅と硫酸とを含む水溶液が最も好ましく、添加剤を含まないことが必要である。
図4に示す電解槽に電解電流を流すと起こる反応は実施の形態1と同じであり、陰極32及び陽極33上でそれぞれ、下記の反応(3)及び(4)が起こり、電解槽全体では下記の反応(5)が起こる。
回収槽陰極:Cu2+ +2e- →Cu …(3)
回収槽陽極:H2O → 2H+ + (1/2)O2 +2e- …(4)
回収槽全体:CuSO4 +H2O →Cu+H2SO4 + (1/2)O2 …(5)
陽極33では反応(4)によって水素イオンが生成するが、実施の形態1で前述したように、陽極室35では生成したと同量の水素イオンが移動によって失われるため、陽極室電解液37の水素イオン濃度は変化しない。
中間室電解液(めっき液)54では、流れた電気量に応じて陽極室35から水素イオンが移動してくる。一方、陽イオン交換膜55によって陰イオンの移動が阻止されているので、中間室52から陰極室51へ流れる電気量はすべて陽イオン、即ち、銅イオンと水素イオンの移動によって運ばれる。従って、流れた電気量に応じて中間室52から陰極室51へ銅イオンと水素イオンが移動する。
以上の結果、中間室電解液(めっき液)54の銅イオン濃度は引き下げられ、水素イオン濃度(硫酸濃度)は引き上げられる。中間室電解液(めっき液)54の組成が大きく変化しない範囲では、流れた電気量と銅イオン濃度及び水素イオン濃度の変化量との間には一定の比例関係があるから、めっき液貯留・循環槽20から取り出されためっき液2は、電気分解の電気量を適切に調整することで、銅イオン濃度と水素イオン濃度(硫酸濃度)が適切な値に調整された後、めっき液貯留・循環槽20へ戻される。
陰極室51では、初期には、中間室52から陰極室51へ移動してくる銅イオンと水素イオンのうち、主として銅イオンが反応(3)によって還元され、陰極32上に析出する。この後、陰極室電解液53中の銅イオン濃度が低下し、水素イオン濃度が上昇すると、中間室52から陰極室51へ移動してくるのと同量の銅イオンと水素イオンとが還元されるようになる。なお、陰極室53では蒸発によって水分が失われるため、陰極室電解液53の液面が下がる。そこで、陰極室53と中間室54の液面を同じレベルに保つため、両者の隔壁に直径0.2〜1.0mmの貫通孔46を1つ又は数個形成するのがよい。
以上のようにして、めっき液貯留・循環槽20から取り出されためっき液2は、通電する電気量を適切に調整することで、銅イオン濃度と水素イオン濃度(硫酸濃度)が適切な値に調整された後、めっき液貯留・循環槽20へ戻される。このように、電解回収装置30による銅イオンの回収の際に水素イオン濃度(硫酸濃度)が変化しためっき液が、めっき液貯留・循環槽20へ戻されるが、めっき液貯留・循環槽20のめっき液2の水素イオン濃度(硫酸濃度)は、また、硫酸濃度センサー62によって検出された信号に基づいて先述したように制御されるので、電解銅めっき装置10で製造される銅めっき製品の品質が向上する。
この際、中間室電解液(めっき液)54中の添加剤は、陽イオン交換膜38によって陽極室35への侵入を阻止されるので、陽極33上で酸化されることがない。また、陽イオン交換膜55によって陰極室51への侵入を阻止されるので、陰極32上に析出する銅層に添加剤が取り込まれることがない。従って、めっき液貯留・循環槽20と陰極室33との間でのめっき液2の循環が連続的、間欠的によらず、銅の電解回収装置における添加剤の損失はない。このため、添加剤を補給する薬剤コストが抑えられるばかりでなく、添加剤濃度が安定し、電解回収装置30における添加剤の損失に起因して、電解銅めっき装置10で製造される銅めっき製品にピットやブツが発生することがない。
図5は、本考案の実施例における、硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度(導電率)を説明する図である。
図5は、硫酸銅五水和物(CuSO4・5H2O)の濃度をA(g/L)、98%硫酸濃度をB(g/L)とする硫酸銅と硫酸の混合液の電気伝導度(mS/cm)をめっき液の温度(℃)と共に示している。電気伝導度(導電率)の測定には、導電率計TCX−98((株)東興化学研究所製)を使用した。
図5中、No.(1)〜No.(7)は、硫酸銅と硫酸を含む水溶液であり、No.(8)、No.(9)は、硫酸銅、硫酸の他に添加剤を含む実際の銅めっき液の組成例である。図5中には、No.(1)〜No.(9)のそれぞれについて、電気伝導度(y)と温度(x℃)の関係を最小二乗近似した近似直線(y=ax+b)のパラメータa、b、及び、この近似直線から計算される25℃、45℃における電気伝導度の値と比((45℃における電気伝導度)/(25℃における電気伝導度))を示している。
図6は、本考案の実施例における、硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度と温度の関係を説明する図であり、横軸は液温度(℃)、縦軸は硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度(mS/cm)を示す。図6は、図5に示す結果をNo.(1)〜No.(9)のそれぞれについての測定データと近似直線をプロットした図である。
図6に示すように、混合液、実際のめっき液における硫酸濃度が同じ又はほぼ同じであれば、硫酸銅と硫酸の混合液の電気伝導度はほぼ硫酸濃度によって変化し、硫酸銅濃度が変化しても近い値を示しているが、厳密には、図7で示すように、液の電気伝導度は、硫酸銅濃度によっても変化している。
図6に示すように、硫酸銅と硫酸の混合液の電気伝導度を表す近似直線は、硫酸濃度B=30、B=約60、B=100にそれぞれ対応した3群からなり、図5中に示す近似直線の勾配aからも明らかなように、No.(1)、No.(3)、No.(7)に対応する近似直線を除くと、近似直線の勾配aは略同じを示している。
図6におけるNo.(8)についての測定データと、No.(4)についての測定データとの比較から明らかなように、めっき液における硫酸銅濃度、硫酸濃度の変化がそれぞれ小さく、めっきの目的に応じて予め設定されためっき液(標準的な組成を有する。)における硫酸銅濃度(標準的な硫酸銅濃度)、硫酸濃度度(標準的な硫酸濃度)から大きくずれない場合には、実際のめっき液の電気伝導率の温度による変化は、標準的な組成を有するめっき液の電気伝導率の温度変化に近い変化を示すものと想定される。
図7は、本考案の実施例における、硫酸銅濃度と電気伝導度の関係を説明する図であり、横軸は45℃における硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度(mS/cm)、縦軸は硫酸銅五水和物の濃度A(g/L)を示す。
図7は、図5に示す45℃における硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度のNo.(1)〜No.(7)についてのデータを、硫酸濃度B=30(g/L)(「○」で示す点。)、60(g/L)(「白抜き三角形」で示す点。)、100(g/L)(「□」で示す点。)に対応させてプロットした図である。
なお、図7中の「黒塗三角形」で示す点は、硫酸濃度Bが約60であり、添加剤を含む実際の銅めっき液の組成例である図5中のNo.(8)、No.(9)に関するデータを示す。
図7は、硫酸銅と硫酸の混合液の電気伝導度は、硫酸濃度が一定である場合には、大きく変化していない。即ち、硫酸濃度B=30(g/L)、約60(g/L)にそれぞれ対応する混合液の電気伝導度は、硫酸銅濃度Aの変化に対して大きく変化していない。しかし、混合液の電気伝導度は、硫酸濃度Bが大きくなる程、硫酸銅濃度Aの変化に対して大きな変化を示している。
硫酸濃度B=30(g/L)、約60(g/L)、100(g/L)にそれぞれ対応して、電気伝導度の硫酸銅濃度Aによる変化は、0.054((mS/cm)/(g/L))、−0.143((mS/cm)/(g/L))、−0.302((mS/cm)/(g/L))であり、硫酸濃度が大きくなる程、大きな変化を示している。
図8は、本考案の実施例における、硫酸濃度と45℃における電気伝導度の関係を説明する図であり、横軸は45℃における硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度(mS/cm)、縦軸は硫酸濃度B(g/L)を示す。
図8は、図5に示す45℃における硫酸銅と硫酸混合液の電気伝導度のNo.(1)〜No.(7)についてのデータを、硫酸銅五水和物の濃度A=100(g/L)(「○」で示す点。)、200(g/L)(「白抜き三角形」で示す点。)、300(g/L)(「□」で示す点。)に対応させてプロットした図である。
なお、図8中、「黒塗三角形」で示されている点は、対応する値が図5には示されていないので、図7に示されている硫酸濃度B=30(g/L)、100(g/L)にそれぞれ対応する直線から読取った、硫酸銅五水和物の濃度A=200(g/L)に対応する電気伝導度の値、約136(mS/cm)、約353(mS/cm)を示している。図8では、「白抜き三角形」で示す点、「黒塗三角形」で示す点を結ぶ直線を点線で示している。
図8に示すように、硫酸銅濃度A=100(g/L)、200(g/L)、300(g/L)にそれぞれ対応するデータは、硫酸濃度Bの変化に対して混合液の電気伝導度が直線的に変化することを示している。電気伝導度の硫酸濃度Bによる変化は、例えば、硫酸銅濃度A=200(g/L)である場合、3.1((mS/cm)/(g/L))であり、先述した電気伝導度の硫酸銅濃度Aによる変化よりもはるかに大きく、めっき液の電気伝導率は実質的に硫酸濃度Bによって支配されている。但し、図7に示すように、硫酸濃度Bが高くなると、硫酸銅濃度Aの影響を受けている。
従って、硫酸銅と硫酸を主成分として含むめっき液の硫酸銅濃度及び硫酸濃度を制御するためには、めっき液の吸光度、及び、電気伝導度を測定し、めっき液の温度tにおける硫酸銅濃度と吸光度の間の関係を表す予め準備されている検量線を使用して、硫酸銅濃度を求め、次に、求められた硫酸銅濃度における硫酸濃度と電気伝導度の間の関係を表す予め準備されている検量線を使用して、硫酸濃度を求めることができる。
この求められた硫酸銅濃度、硫酸濃度に基づいてそれぞれ、電解回収装置による銅の制御、硫酸又は純粋のめっき液貯留・循環槽への添加の制御を行うことによって、めっき液の組成を目的とする濃度範囲に保持することができる。
なお、このようなめっき液の組成の制御を、めっきの開始時点から短い時間間隔で行う場合には、めっきに開始時点における標準的な組成からの硫酸銅及び硫酸の濃度変化は小さいと考えられ、めっき液の電気伝導率の温度による変化は、標準的な組成を有するめっき液の電気伝導率の温度変化に近い変化を示すものと考えられるので、標準的な組成を有するめっき液の吸光度及び電気伝導率の温度変化のデータを使用して、めっき液の組成の制御を行うことができ、硫酸銅濃度と独立して硫酸濃度を制御できると考えられる。
以上、本考案を説明したが、考案の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。