次に、本考案の実施の形態について説明する。各図は本考案の実施形態を示しており、図1は本考案に係る救命用つなぎズボンの前面図、図2は本考案に係る救命用つなぎズボンの背面図、図3は本考案に係る救命用つなぎズボンに収納された浮力体の配置状態を示す前面図、図4は本考案に係る救命用つなぎズボンに収納された浮力体の配置状態を示す背面図、図5は本考案に係る救命用つなぎズボンの胸当て部の浮力体部分の縦断側面図、図6の(イ)は本考案に係る救命用つなぎズボンの背当ての開口部を示す縦断側面図であり、(ロ)は背当ての開口部を外れた箇所の縦断側面図である。図7は本考案に係る救命用つなぎズボンの膝の前側部の浮力体部分の縦断側面図、図8は本考案に係る救命用つなぎズボンの連結ベルトに設けた着脱具5Aの係止受け具(凹側)と係止突具(凸側)の斜視図、図9は本考案に係る救命用つなぎズボンの連結ベルトに設けた着脱具5Bの係止受け具(凹側)と係止突具(凸側)の斜視図、図10は本考案に係る連結ベルトが蛇腹カバーで覆われた構成図、図11は本考案に係る救命用つなぎズボンを着用した状態を斜視図で示す説明図、図12は本考案に係る救命用つなぎズボンの胸当て部を開いてつなぎズボンを下げようとする状態を斜視図で示す説明図、図13は本考案に係る救命用つなぎズボンの胸当てと背当てを繋ぐ脇部分の構成を示す斜視図である。
本考案の実施例を図に基づき説明する。1は救命用つなぎズボンである。この救命用つなぎズボン1は、着用する人が穿くズボン部2と、そのズボン部2の胴回り部2Aの上端部に連続して胸当て3と、規定によって定められたオレンジ色の背当て4が設けられ、胸当て3と背当て4の左右両側(着用者の両脇下部分)は、ファスナ41によって上端部から胴回り部2A付近まで上下方向に開閉可能に連結され、また、胸当て3と背当て4の上端部は、着脱具5A、5Bを介して着用する人の肩掛けとなる左右の連結ベルト6A、6Bで着脱自在に連結される構成である。胸当て3は、図11に示すように、救命用つなぎズボン1の着用者の胸部の上部部分まで覆う広さを有し、また背当て4は、正面視で胸当て3よりも若干上位まで延びた長さをもって、救命用つなぎズボン1の着用者の背中部分の略全体を覆う広さを有する。
胸当て3と背当て4の左右両側(着用者の両脇下部分)は、ファスナ41によって連結されているが、救命用つなぎズボン1を着用した人が、作業し易いように、胸当て3と背当て4の左右両側(着用者の両脇下部分)は、背当て4の左右から延びた幅広い脇部材50によって連結され、この脇部材50の前端部または中間部が、ファスナ41によって上端部から胴回り部2A付近まで上下方向に開閉可能に連結されている。図示の形態は、脇部材50の前端部と胸当て3の左右端部が、ファスナ41によって開閉可能に連結された形態を示している。
ファスナ41は、左右両側に多数のフックが帯状配列されたフック部分41Aが、スライダ41Bの往復によって、噛み合った状態と分離した状態とに開閉できる周知の構成である。スライダ41Bを上昇させる(引き上げる)ことによって、左右のフックが係合してフック部分41Aが閉じるため、胸当て3と背当て4とが防水性の可撓性シートで構成された脇部材50によって、救命用つなぎズボン1の着用者の脇の下またはその近傍に達する上端まで結合される。そして、スライダ41Bを下降させる(引き下げる)ことによって、左右のフックの係合が解除されてフック部分41Aが開き、胸当て3と脇部材50の連結が解除され、胸当て3と背当て4とが上端から開き、救命用つなぎズボン1の着用者の脇の下から下方に向かって胸当て3と背当て4とが離れる。
脇部材50を設けることによって、救命用つなぎズボン1の着用者が作業するとき、胸部の左右部分から水が救命用つなぎズボン1内へ侵入し難くなり、作業し易くなる。スライダ41Bを上昇させてファスナ41を閉じたとき、ファスナ41を紫外線や外力からカバーするために、ファスナ41の前後位置において、胸当て3側に縫合又は溶着によって前カバー51Aが取り付けられ、また脇部材50側に縫合又は溶着によって後ろカバー51Bが取り付けられている。前カバー51Aと後ろカバー51Bは、それぞれ適所に防水性面状接着ファスナ52A、52Bが取り付けられており、ファスナ41を覆うように前カバー51Aと後ろカバー51Bを重ね合わせた状態で、面状接着ファスナ52A、52Bの押し圧による接着によって、この重ね状態を維持でき、この面状接着ファスナ52A、52Bの接着を引き剥がすことによって、ファスナ41を開閉操作できる。
着用する人の肩掛け用右側連結ベルト6Aは、背当て4の左側部4Aから延びて右側着脱具5Aを介して胸当て3の右側部3Aと連結する伸縮自在な構成のベルトである。また、着用する人の肩掛け用左側連結ベルト6Bは、この右側連結ベルト6Aと背部で交差し、背当て4の右側部4Aから延びて左側着脱具5Bを介して胸当て3の左側部3Bと連結する伸縮自在な構成のベルトである。なお、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bの交差部は、縫合または溶着にて結合しているため、左右の配置が正確となり、左右を間違えるここがなくなる。
右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bは、背側で交差する配置であり、右側着脱具5Aと左側着脱具5Bは、図8と図9に示すように同じ構成であり、それぞれ係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の着脱構成である。この係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8は、救命用つなぎズボンの装着者が、係止突具(凸側)7の先端に延びる一対の弾性係止部9、9の弾性を利用して、係止受け具(凹側)8の挿入開口8Bから弾性係止部9、9を接近方向へ縮ませつつ挿入することによって、弾性係止部9、9の先端部の係止部9A、9Aが係止受け具(凹側)8の左右側面に開口した係止孔10、10の端部10A、10Aに弾性係止することによって、係止突具(凸側)7が係止受け具(凹側)8に結合される仕組みである。
この係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の結合は、救命用つなぎズボン1の装着者が、係止受け具(凹側)8の係止孔10、10の外方から、係止部9Aを押し圧して弾性係止部9、9を接近方向へ縮ませつつ、係止突具(凸側)7を係止受け具(凹側)8から引き抜くことによって、係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の結合が解除できる構成である。
この係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の結合と解除の操作がし易いように、右側連結ベルト6Aの先部に係止突具(凸側)7が設けられ、左側連結ベルト6Bの先部に係止受け具(凹側)8が設けられ、胸当て3の右側部3Aに取り付けた短い保持ベルト11に係止受け具(凹側)8が設けられ、胸当て3の左側部3Bに取り付けた短い保持ベルト11に係止突具(凸側)7が設けられている。
これによって、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bは、背側で交差する配置であり、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の配置に対して、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の配置が逆配置であることによって、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と左側着脱具5Bの係止受け具(凹側)8の着脱と、右側着脱具5Aの係止受け具(凹側)8と左側着脱具の係止突具(凸側)7の着脱が、いずれも可能である。
救命用つなぎズボン1の使用者の身長等に合わせて、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bによる救命用つなぎズボンの装着具合、即ち、救命用つなぎズボン1を穿いた状態で、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bをその着用者の肩に掛けたときの締め具合を調節するために、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bに対して、係止突具(凸側)7の取り付け位置が調節できる構成である。
この仕組みを図8と図9に基づき説明する。図8に示すように、右側着脱具5Aにおいて、胸当て3の右側部3Aに取り付けた短い保持ベルト11の先端部に、係止受け具(凹側)8が保持されている。そして、係止突具(凸側)7の桟7Aに対して、ベルト6AがUターン状に掛かっており、ベルト6Aを係止突具(凸側)7の桟7Aに対して緩めることによって、ベルト6Aに対して係止突具(凸側)7を移動することができる。そして、所定の位置において係止突具(凸側)7の桟7Aに対してベルト6Aを引っ張る(緊張する)ことによって、その位置で係止突具(凸側)7がベルト6Aに固定される仕組みである。この仕組みは、通常用いられる方式である。このため、所定の長さに調節した状態で、係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8との結合によって、係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を相互に離れる方向へ引っ張っても、係止突具(凸側)7の桟7Aの部分でベルト6Aは緩まない構成である。
また、左側着脱具5Bにおいて、図9に示すように、胸当て3の左側部3Bに取り付けた短い保持ベルト11の先端部に、係止突具(凸側)7が保持されている。そして、係止受け具(凹側)8の桟8Aに対して、ベルト6BがUターン状に掛かっており、ベルト6Bを係止受け具(凹側)8の桟8Aに対して緩めることによって、ベルト6Bに対して係止受け具(凹側)8を移動することができる。そして、所定の位置において係止受け具(凹側)8の桟8Aに対してベルト6Bを引っ張る(緊張する)ことによって、その位置で係止受け具(凹側)8がベルト6Bに固定される仕組みである。この仕組みは、通常用いられる方式である。このため、所定の長さに調節した状態で、係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8との結合によって、係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を相互に離れる方向へ引っ張っても、係止受け具(凹側)8の桟8Aの部分でベルト6Bは緩まない構成である。
救命用つなぎズボン1は、装着者が水中に転落したとき、水面に浮くようにするために浮力体15が適所に収納されている。胸当て3の浮力体15は、救命用つなぎズボン1の防水性の表皮(表側材)20の裏側に、浮力体15の収容部33を形成した浮力体保持部35Aによって保持されている。
実施例の胸当て3の浮力体15は、救命用つなぎズボン1の着心地と動き易さをよくするために、複数の浮力体15で構成されている。浮力体保持部35Aの一つの形態として、図5に示すように、浮力体15は、第1浮力体15A、第2浮力体15B、第3浮力体15Cで構成されており、浮力体保持部35Aは、柔らかい素材の防水性の第1支持部材(または第1被覆材という)30Aと防水性の第2支持部材(または第2被覆材という)31Aとの間に、平面状で分割された複数の収容部33を形成した構成であり、各浮力体15A、15B、15Cがそれぞれ独立した収容部33に収納された状態となる。この一つの方法として、第1支持部材30Aと第2支持部材31Aは、第1浮力体15A、第2浮力体15B、第3浮力体15Cの全体を覆う大きさの柔軟性の布状材で構成され、各収容部33を形成するように、第1浮力体15A、第2浮力体15B、第3浮力体15Cを取り囲む周囲において、第1支持部材30Aと第2支持部材31Aが縫合部34A又は溶着部34Aによって結合されている。
浮力体保持部35Aは、その上部の上端縁部35A1と上部の斜めの左右縁部35A2が、救命用つなぎズボン1の防水性の表皮(表側材)20の裏側に縫合又は溶着によって結合され、また、浮力体保持部35Aの下部は、救命用つなぎズボン1の着心地と動き易さをよくするために、左右縁部35A2の下方部分である左右縁部35A3と下端縁部35A4が表皮(表側材)20に結合されずに分離した状態である。また、浮力体保持部35Aの下端縁部は、ベルト32Aによって表皮(表側材)20の裏側に縫合又は溶着によって結合されている。
また、背当て4の浮力体15は、救命用つなぎズボン1の防水性の表皮(表側材)20の裏側に、浮力体15の収容部33を形成した浮力体保持部35Bによって保持されている。実施例の背当て4の浮力体15は、救命用つなぎズボン1の着心地と動き易さをよくするために、複数の浮力体15で構成されている。その一つの形態として、図6に示すように、浮力体15は第1浮力体15D、第2浮力体15Eで構成されており、浮力体保持部35Bは、柔らかい素材の防水性の第1支持部材(または第1被覆材という)30Bと防水性の第2支持部材(または第2被覆材という)31Bとで形成した袋状の収容部33を形成した構成であり、各浮力体15D、15Eが収容部33に収納された状態となる。このため、第1支持部材30Bと第2支持部材31Bは、第1浮力体15D、第2浮力体15Eの全体を覆う大きさの柔軟性の布状材で構成され、第1浮力体15Dと第2浮力体15Eを取り囲む周囲において、第1支持部材30Bと第2支持部材31Bが縫合部34B又は溶着部34Bによって結合されている。図示のものは、左側の浮力体15Dと15Eが左側の1つの収容部33に収納され、右側の浮力体15Dと15Eが右側の1つの収容部33に収納された形態であり、胸当て3の浮力体15のように、浮力体15Dと15Eを上下に区画するような独立した収容部33の形態ではないが、胸当て3の浮力体15のように、浮力体15Dと15Eを上下に区画するような独立した収容部33の形態であっても差し支えない。
図4に示すように、浮力体保持部35Bは、その上部の上端縁部35B1と上部の斜めの左右縁部35B2が、救命用つなぎズボン1の防水性の表皮(表側材)20の裏側に縫合又は溶着によって結合され、また、浮力体保持部35Bの下部は、救命用つなぎズボン1の着心地と動き易さをよくするために、斜めの左右縁部35B2の下方部分である左右縁部35B3と下端縁部35B4が表皮(表側材)20に結合されずに分離した状態である。また、浮力体保持部35Bの下端縁部は、ベルト32Bによって表皮(表側材)20の裏側に縫合又は溶着によって結合されている。
表皮(表側材)20、第1被覆材30A、30Bと第2被覆材31A、31B、ベルト32A、32B等、救命用つなぎズボン1に使用される素材は、吸水性のない合成樹脂製が用いられ、特にメイン生地となる表皮(表側材)20は、300デニールのポリエステルにポリ塩化ビニルをコーティングしたもの等が用いられる。
また、浮力体15A、15B、15Cは、十分な浮力を得るために、厚さが35mm〜45mm(実施例では40mm)の独立気泡の発泡性合成樹脂の板材が、胸当て3の略全域に配置されるように用いられる。また浮力体15D、15Eは、十分な浮力を得るために、厚さが35mm〜45mm(実施例では40mm)の独立気泡の発泡性合成樹脂の板材が、略背当て4の略全域に配置されるように用いられる。この発泡性合成樹脂として、ポリウレタン、ポリエチレン等のように吸水性のない材料であって比重が小さく、救命用つなぎズボン1を着用した人が水面に浮く状態、特に顔面と頭部及び胸部が、水面に浮く状態を保持するのに十分な浮力を与える大きさのものが使用される。なお、背当て4の浮力体15の浮力に比して、胸当て3の浮力体15の浮力を大きく設定すれば、水面に浮くとき、顔面を上側に保持し易くなり、安全な姿勢制御がし易くなる。
後述のように、救命用つなぎズボン1を穿き、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bをそれぞれこのズボン1の着用者の右肩と左肩に掛けた状態で、このズボン1の着用者が作業するとき、上半身を屈んだり捻じったり等の動作において、背当て4が突っ張って作業し難い場合がある。この背当て4の突っ張りを軽減して、作業がし易くなるようにするために、背当て4の左右間の中央部には、背当て4が左右に引っ張られたとき、左右方向に開くように上下方向に長い開口100が、背当て4を貫通して形成されている。
この上下方向に長い開口100は、背当て4の表皮(表側材)20を貫通した貫通部100Aと、貫通部100Aに対応して、各浮力体15D、15Eが連続してまたはそれぞれ独立して収納された収容部33を貫通した貫通部100Bによって形成されている。この貫通部100Bによって、収容部33が左右に分割されるようになり、この左右の収容部33に、上下関係に浮力体15D、15Eが収納されている。
貫通部100Aの端部20Aは、ほつれないように縫合又は溶着によって結合されている。また、貫通部100Bは、図6(イ)に示すように、第1支持部材(または第1被覆材という)30Bが貫通部100Bの壁を形成するように、第2支持部材(または第2被覆材という)31Bに達するように折り曲げて、その端部が第2支持部材(または第2被覆材という)31Bと縫合又は溶着によって結合されている。
救命用つなぎズボン1を穿いて、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bをそれぞれこのズボン1の着用者の右肩と左肩に掛けた状態で、このズボン1の着用者が通常の直立に立った状態において、この開口100は、図示のように予め所定幅(例えば、10〜30mm幅であり、図示のものは20mm)をもって上下に長く延びた(例えば、140〜200mmであり、図示のものは170mm)細長い開口形状に形成したものである。
これによって、このズボン1の着用者が、上半身を屈んだり捻じったり等の動作をするとき、この開口100が、その幅を広げるように変形することにより、恰も背当て4が延びた状態と同様に、背当て4の突っ張りを軽減できるようになる。特に、開口100において、表皮(表側材)20と収容部33とが、縫合又は溶着によって結合されておらず分離しており、このズボン1の着用者が、上半身を屈んだり捻じったり等の動作と左右の腕を動かすとき、表皮(表側材)20と収容部33とが自由に動くようになり、更に、そのとき、背中の外側となる表皮(表側材)20の貫通部100Aが左右に広がると共に、収容部33間を貫通した貫通部100Bも左右に広がることによって、作業中の背当て4の突っ張りが緩和され、左右の腕の動きも容易となる。
背当て4の左右間の中央部に形成した開口100によって、背当て4を貫通して救命用つなぎズボン1を穿いた着用者の背中への通気性が向上するため、この着用者が作業するときの背中の蒸れの防止効果を奏することができる。
また、この開口100の他の形態、またはこの開口100に代わる形態として、上記のようにこのズボン1の着用者が通常の直立に立った状態において、この開口100の左右縁が近接または当接して、開口が略塞がった状態となるスリット100を形成した形態とし、上記同様に、上半身を屈んだり捻じったり等の動作において、このスリット100がその幅を広げるように変形することにより、恰も背当て4が延びた状態と同様に、背当て4の突っ張りを軽減できるようにする形態でもよい。なお、背当て4に伸縮性を持たせるために、開口100またはスリット100に代えて、伸縮性のゴムを使用する方法もあろうが、ゴムは紫外線に弱いため、紫外線を防止するカバー構造が必要となり、構成が複雑化することと、また、ゴムの経年劣化による伸縮性の低下があるため、好ましくない。
右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bは、一部分がそれぞれゴム製の伸縮ベルト6A1、6B1で構成されている。即ち、右側連結ベルト6Aのうち、背当て4の左側部4Bに縫合又は溶着によって取り付けた部分から所定長さ(実施例では、ズボン1の着用者の背中に対応する部分)の範囲が、伸縮自在な構成のベルト6A1であり、また、左側連結ベルト6Bのうち、背当て4の右側部4Aに縫合又は溶着によって取り付けた部分から所定長さ(実施例では、ズボン1の着用者の背中に対応する部分)の範囲が、伸縮自在な構成のベルト6B1である。
このような伸縮自在な構成部分は、図10に示すように、伸縮自在なベルト6A1と伸縮自在なベルト6B1は、紫外線による劣化防止のために、それぞれ伸縮自在な合成樹脂製の防水性蛇腹カバー40で覆われた構成である。それぞれの防水性蛇腹カバー40は、一端が右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bに縫合又は溶着によって取り付けられ、他端が背当て4に縫合又は溶着によって取り付けられている。
このため、救命用つなぎズボン1を着用する人に合わせて、上記のように、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bに対する係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の取り付け位置を調節した状態で、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bは、それぞれ救命用つなぎズボン1を着用する人の右肩と左肩に掛けて、伸張した状態で使用される。伸張の長さは最大400mmに設定しているが、これに限定されない。
更に、救命用つなぎズボン1は、ズボン部2の左右の膝部分2Bの前側部の内側に、それぞれの浮力体15Fが収納されている。実施例では、図7に示すように、表皮(表側材)20のうち、ズボン部2の左右の膝部分2Bの前側部の内側に、それぞれ柔軟性の第3支持部材(または第3被覆材という)31Cによって、浮力体15Fが上下左右に若干の動き得る余裕を存して支持されている。一つの方法として、この第3支持部材31Cを浮力体15Fより広い大きさの柔らかい素材の防水性の被覆布材31Cで構成する場合は、浮力体15Fが上下左右に若干の動き得る余裕を存した状態で、その被覆布材31Cの周縁部を、表皮(表側材)20の裏側に縫合部34C又は溶着部34Cによって縫合又は溶着することによって、表皮(表側材)20との間に収容部33を形成し、収容部33に浮力体15Fを収容する。
また、他の方法として、この第3支持部材31Cを上下に延びる複数の帯状材31Cで構成する場合は、その帯状材31Cの上下端部を、表皮(表側材)20の裏側に縫合部34C又は溶着部34Cによって縫合又は溶着することによって、表皮(表側材)20との間に収容部33を形成し、収容部33に浮力体15Fを収容する。
この浮力体15Fは、救命用つなぎズボン1を穿いた人の膝の全体を前面側から覆う大きさに形成され、膝の屈伸のし易さを考慮して、図3に示すように、長方形状ではなく、中間部が左右から狭まった形状を呈している。単純な長方形状の場合には、膝を屈曲させたとき、中間部の左右部分全体が折れ曲がって突っ張るが、このように中間部が左右から狭まった形状によって、膝を屈曲させたときのこのような突っ張りが解消され、膝の屈伸がし易くなる。
なお、浮力体15F全体の形状として、図3に示すように、浮力体15Fの上端部と下端部がそれぞれ上方と下方へ突出した形状をなすと共に、左右から狭まった部分の上下箇所が左右に突出した形状をなすことによって、膝の屈曲のし易さが向上すると同時に適度に必要な浮力がバランス良く得られる。なお、浮力体15Fの厚さが比較的薄い場合や十分な柔軟性を持っている場合には、浮力体15Fの上端部と下端部が単に直線状に平坦な形状であっても差し支えない。
また、十分な浮力を得るためと、救命用つなぎズボン1の着心地と、膝の屈伸をし易いようにするために、この浮力体15Fは、厚さが4mm〜8mm(実施例では6mm)の独立気泡の発泡性合成樹脂の板材が用いられ、この発泡性合成樹脂として、ポリウレタン、ポリエチレン等のように吸水性のない材料であって比重が小さく、救命用つなぎズボン1を着用した人の脚部が、水面に浮く状態を保持するのに十分な浮力を与える大きさのものが使用される。
救命用つなぎズボン1の着心地と膝の屈伸をし易いようにするために、救命用つなぎズボン1を穿いた人の膝の脛部分に対するように、膝部分2Bには前方へ膨らんだ膨らみ部2B1を形成し、この膨らみ部2B1に沿って収容部33に浮力体15Fが収容されている。
なお、救命用つなぎズボン1の着心地と膝の屈伸をし易いようにするために、膝部分2Bの浮力体15Fは比較的薄いため、作業中に破損する場合もあることを考慮して、浮力体15Fの交換がし易い構成とすることもできる。その場合には、上記のように、第3支持部材31Cを浮力体15Fより広い大きさの柔らかい素材の被覆布材31Cで構成する場合は、収容部33の一部、例えば下部は、縫合部34C又は溶着部34Cに代えて、収容部33の下部が面状接着ファスナによって脱着できる構成とすればよい。また、上記のように、第3支持部材31Cを上下に延びる複数の帯状材31Cで構成する場合は、浮力体15Fを複数の帯状材31Cの支持から取り外して、新しい浮力体15Fを複数の帯状材31Cで支持する状態に装着すればよい。
救命用つなぎズボン1を着用した人が水中に転落した場合、その人が胸当て3の浮力体15と背当て4の浮力体15によって、水面に浮くが、この場合、浮力体15Fによって、その人の膝も浮くようになり、略その人が身体の前面を上にして水平状態で水面に浮くようになり、救助を待つ間の体温低下や疲労度を軽減できる。特に、その人の膝の前側が水面に浮くようになるため、転落したその人は、身体の前面を上にして水面に水平状態に浮く状態を保持することができ、水中に転落した場合の姿勢制御がし易く、呼吸の確保や救助を待つ間の体温低下や疲労度を軽減できる安全な姿勢で救助を待つことができる。
収容部33と浮力体15Fは、救命用つなぎズボン1を着用した人の膝部を広く覆う大きさに形成され、救命用つなぎズボン1を着用した人が、船上の床や作業場の床等に膝部をついて作業する場合等において、その膝を保護することができる。
また、溶着部34A、34B、34Cは、高周波溶着やその他の接着にすれば防水効果も発揮できるため、防水上での問題はないが、このような溶着や接着に代えて、縫合する場合は、縫合部34A、34B、34Cを含む各縫合部に防水機能をもたせるために、その縫合部に防水機能を持つシームテープを貼り付けて、防水効果も発揮できるようにすることができる。
図11には、使用者がジャケットやウインドブレーカ等の上着44を着用した上に、救命用つなぎズボンを着用した状態を斜視図で示している。救命用つなぎズボン1の左右の裾部分には、着用時に裾部分を足首部分に縛るために、接合と剥離自在機能の合成樹脂で形成された防水性面状接着ファスナ42が取り付けられている。また、救命用つなぎズボン1を着用した人が水中に転落した場合、その人の存在を示す目印となるように、胸当て3の前面左右部分に光反射部材43が取り付けられている。
上記の構成において、救命用つなぎズボン1を着用者が着用する場合は、胸当て3と背当て4の左右両側のファスナ41を開いた状態とすることによって、ズボン部2に両足を入れて穿き易くなる。このズボン1を穿いた状態で、胸当て3と背当て4の左右両側のファスナ41のスライダ41Bを上昇させる(引き上げる)ことによって、左右から突出した上下方向に帯状配列のフック部分41Aが係合し、胸当て3と背当て4とを上端まで結合する。そして、図1に示すように、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8が結合し、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8が結合する。そして、裾部分を長靴等を履いた上から足首部分に面状接着ファスナ42で縛る。また、必要に応じて、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bの引っ張り具合を調節するために、上記のように、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bに対して、係止突具(凸側)7の取り付け位置を調節することができる。
このようにして、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を結合し、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を結合して、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bを肩に掛けて、救命用つなぎズボン1を穿いた正規の状態において、小用をする場合、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を解除し、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を解除し、その解除状態において、図12に示すように、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bを救命用つなぎズボン1の装着者の首回り部分に回し、右側連結ベルト6Aに取り付けた右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7の弾性係止部9、9を、左側連結ベルト6Bに取り付けた係止受け具(凹側)8の挿入開口8Bに挿入して、弾性係止部9、9の先端部の係止部9A、9Aを係止受け具(凹側)8の左右側面の係止孔10、10の端部10A、10Aに弾性係止することによって、係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を結合する。
これによって、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bが救命用つなぎズボン1の装着者の首回り部分に掛け渡された状態となり、背当て4は首回り部分にかかった右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bによって保持された状態である。一方、胸当て3は、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bからフリーの状態となる。
この状態で胸当て3と背当て4は、ファスナ41によって連結された状態であるため、ファスナ41のスライダ41Bを下方へスライドさせることによって、ファスナ41の帯状配列のフック部分41Aが開き、胸当て3と背当て4とが上部から離れ、図12に示すように、胴回り部2A付近を折り返し部として、胸当て3を前方へ倒すことができる。胴回り部2A付近を折り返し部として、という意味は、胴回り部2Aの位置と、ファスナ41を長くして、胸当て3と背当て4とが胴回り部2Aよりも若干下方位置まで開くことができるようにした場合を含む意味である。いずれにしても、後述のように、小用し易い位置まで救命用つなぎズボン1を押し下げたとき、前方へ倒した胸当て3が床面に触らないような位置までファスナ41を形成していることは勿論のことである。
このように、ファスナ41を開いて図12に示す状態において、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bの一部分である伸縮ベルト6A1、6B1の伸縮を利用して、小用し易い位置まで、救命用つなぎズボン1を押し下げることができる。この場合、背当て4が、首回り部分にかかった右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bによって保持されているため、背当て4まで含んで救命用つなぎズボン1が余計に下がることはない。このため、救命用つなぎズボン1全体が下がって、床面に触れて汚れることを防止できるようになる。
小用後は、救命用つなぎズボン1を引き上げ、左右のファスナ41を締め、救命用つなぎズボン1の装着者の首回り部分にかかった右側連結ベルト6Aの係止突具(凸側)7と左側連結ベルト6Bの係止受け具(凹側)8との係合を外し、図1に示すように、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を結合し、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を結合して、正規の着用状態に戻す。
上記において、左右のファスナ41の操作と、右側連結ベルト6Aの係止突具(凸側)7と左側連結ベルト6Bの係止受け具(凹側)8との着脱の順序は、いずれが先でも差し支えなく、救命用つなぎズボン1を着用する人の任意である。
また、右側連結ベルト6Aの先部に係止受け具(凹側)8が設けられ、左側連結ベルト6Bの先部に係止突具(凸側)7が設けられ、胸当て3の右側部3Aに取り付けた短い保持ベルト11に係止突具(凸側)7が設けられ、胸当て3の左側部3Bに取り付けた短い保持ベルト11に係止受け具(凹側)8が設けられた構成とすることでもよい。
この場合、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bは、背側で交差する配置であり、このように、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の配置に対して、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8の配置が逆配置であることによって、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と左側着脱具5Bの係止受け具(凹側)8の着脱と、右側着脱具5Aの係止受け具(凹側)8と左側着脱具の係止突具(凸側)7の着脱が、いずれも可能である。
この場合も上記同様に、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8が結合し、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8が結合して、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bを肩に掛けて救命用つなぎズボン1を穿いた状態において、胸当て3と背当て4を下に下げて小用をする場合、右側着脱具5Aの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を解除し、左側着脱具5Bの係止突具(凸側)7と係止受け具(凹側)8を解除して、右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bを救命用つなぎズボン1の装着者の胴回り部分または腰回り部分に回し、右側連結ベルト6Aに取り付けた係止受け具(凹側)8と、左側連結ベルト6Bに取り付けた係止突具(凸側)7と結合することによって、胸当て3と背当て4を装着者の胴回り部分、または腰回り部分に縛り付けることができ、救命用つなぎズボン1全体が下がることを防止できる。
このため、救命用つなぎズボン1全体が下がって、床面に触れて汚れることを防止できるようになる。
右側連結ベルト6Aと左側連結ベルト6Bは、背部で交差する構成であるが、右側連結ベルト6Aは、背当ての右側部から胸当ての右側部に右側着脱具5Aを介して接続するようにし、左側連結ベルト6Bは、背当ての左側部から胸当ての左側部に左側着脱具5Bを介して接続するように構成しても、上記同様の作用と効果が得られる。