JP3101168B2 - 茶香気成分生成酵素およびその製造法 - Google Patents

茶香気成分生成酵素およびその製造法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、茶香気成分生成酵素で
あるβ−プリメベロシダーゼとその製造法に関する。こ
の酵素は茶香気成分前駆体に作用して茶香気成分とプリ
メベロースを生成する。
【0002】
【従来の技術】食品において香りは味や色と共に非常に
重要な要素の一つである。例えば、食品に美味しそうな
香りがなければ、人は食欲が起こらないし、従来とは異
なる香りに対しては敏感な反応を示す。しかしながら、
食品の構成要素として重要な役割を担っている香り、す
なわちフレーバー成分は食品中にごく微量しか存在せ
ず、しかも揮発性が高く、不安定なものも多い。
【0003】茶飲料は人々に好まれ、市場に各種の製品
が出回っており、最近のヒット商品の一つに挙げられて
いる。しかし、その製造工程で茶フレーバーが揮発ある
いは変化してしまい、茶飲料をフレーバーの面から見る
と、必ずしも満足し得るものではない。一方、茶の香気
成分の研究は最近急速に進展し、リナロール,ゲラニオ
ール,ベンジルアルコール,メチルサリシレート,2−
フェニルエタノールなどの主要な紅茶フレーバーが茶葉
中ではそれらの配糖体(前駆体)として存在することが
示唆され[Phytochemistry, vol.20, p2145(1981), Agri
c. Biol. Chem., vol.54, p1023(1990)]、やぶきた種で
は(z)−3−ヘキセノールβ−D−グルコシドおよび
ベンジルアルコールβ−D−グルコシドが単離され[Agr
ic. Biol. Chem.,vol.55, p1205(1991), Agric. Biol.
Chem., vol.58, p592(1994)] 、ウーロン茶からはゲラ
ニオール,ベンジルアルコール,リナロールおよび2−
フェニルエタノールの各β−プリメベロシド(6−O−
β−キシロシルβ−D−グルコシド)が単離されている
[Phytochemistry, vol.33, p1373(1993), Biotec. Bioc
hem., vol.58, p1532(1994)]。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、不揮
発性の茶香気成分前駆体から茶飲料に十分活用すること
のできる茶フレーバーを生成させることができる茶香気
成分生成酵素並びにその製造法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、茶香気成
分前駆体からバランスよく茶フレーバーを生成させる方
法について検討を重ねた結果、生茶葉に存在するグリコ
シダーゼの1種であるβ−プリメベロシダーゼが効率よ
く茶フレーバーを生成することを見出し、本発明を完成
するに至った。
【0006】すなわち、本発明は次の理化学的性質を有
する茶香気成分生成酵素、β−プリメベロシダーゼ並び
に生茶葉に緩衝液を加えて攪拌し、抽出することを特徴
とする上記β−プリメベロシダーゼの製造法に関する。 (1)作用:茶香気成分前駆体に作用して茶香気成分を
生成する。 (2)基質特異性:糖部分にプリメベロース(6−O−
β−キシロシルグルコース)あるいはグルコースを持つ
茶香気成分配糖体に作用し、これを加水分解してプリメ
ベロースやグルコースを生成する。また、p−ニトロフ
ェニルβ−グルコシドやp−ニトロフェニルβ−キシロ
シドに作用し、グルコースあるいはキシロースを遊離す
る。 (3)至適pH:pH4〜6 (4)pH安定性:37℃、1時間の処理においてpH
4〜7で安定 (5)至適温度:50℃付近 (6)熱安定性:pH6、1時間の処理において45℃
以下で安定 (7)分子量:61,000(SDS−ポリアクリルア
ミドゲル電気泳動)
【0007】上記の理化学的性質を有する本発明の茶香
気成分生成酵素、β−プリメベロシダーゼの製造法につ
いて説明する。原料の茶葉は、その品種を問わずアッサ
ム種,中国種,日本種などいずれのものであってもよ
い。また、使用する茶葉は新芽の部分でも古葉あるいは
これらの混合物であってもよいが、茶葉からの本酵素の
抽出の簡便さから新芽を用いるのが好ましい。
【0008】本酵素の茶葉からの抽出は、一般的な植物
酵素の抽出方法(瓜谷郁三,志村憲助,中村道徳,船津
勝編、生物化学実験法14 高等植物の二次代謝研究
法(1981)学会出版センター;堀尾武一,山下仁平
編、蛋白質・酵素の基礎実験法(1981)南江堂)に
より行えばよい。例えば、生茶葉の重量に対して1〜2
0倍量の緩衝液を加え0〜4℃で家庭用ミキサー,ホモ
ジナイザー,ブレンダー等の攪拌手段を用いて1〜3分
ずつ数回に分けて生茶葉を磨砕することにより酵素を抽
出することができる。なお、茶葉に多量に含まれるポリ
フェノール類による妨害を最小限にするためには、生茶
葉の磨砕時にポリフェノール類の吸着、除去に使用され
る物質、例えば不溶性ポリビニルピロリドン(商品名:
ポリクラAT、五協産業製)を茶葉重量と同量ないしそ
れ以上添加することが好ましい。また、別の方法とし
て、生茶葉を4℃〜−20℃程度の低温下にアセトンや
ブタノールなどの有機溶媒と共に磨砕することによって
も茶葉中のポリフェノール類を除去することができる。
【0009】このようにしてポリフェノール類を除去し
た茶葉粉末に緩衝液を加え0〜4℃で1〜3時間程度攪
拌して、目的とする酵素を抽出することもできる。ここ
で、緩衝液としては各種のものが使用でき、例えばクエ
ン酸緩衝液,酢酸緩衝液,酒石酸緩衝液,コハク酸緩衝
液,マレイン酸緩衝液,リン酸緩衝液,イミダゾール−
塩酸緩衝液,Tris-HCl緩衝液,ホウ酸緩衝液,クエン酸
−リン酸緩衝液等を挙げることができる。
【0010】上記の方法によって得られた抽出物から残
渣を除くために、濾過,遠心分離などの固液分離手段を
適用して粗酵素抽出液とする。粗酵素抽出液からの本酵
素の精製は、公知の分離・精製方法が適用できる。例え
ば、粗酵素抽出液から硫安塩析法,有機溶媒沈殿法など
により粗酵素蛋白質を得、さらにこれをイオン交換,ゲ
ル濾過,アフィニティー等の各種クロマトグラフィーを
適宜組み合わせることによって精製酵素を得ることがで
きる。
【0011】
【実施例】以下に本発明を実施例によって説明するが、
本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。 実施例1 生茶葉(やぶきた種)1kgにあらかじめ−20℃に冷
却したアセトン4リットル(L)を加え、ホモゲナイザ
ーにて3分間磨砕した。残渣を濾過して集め、これをア
セトン1Lで3回洗浄後、真空デシケーター中で乾燥
し、アセトンパウダー200gを得た。このアセトンパ
ウダーを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH6.0)
に懸濁させ、4℃で3時間攪拌して酵素を抽出した。抽
出物を遠心分離して残渣を除去したのち、上清液に同量
のアセトンを加え、蛋白質を沈殿させた。次いで、遠心
分離により沈殿物を集め、上記したクエン酸緩衝液30
0mlに溶解後、硫安塩析を行った。
【0012】40〜80%飽和硫安画分に析出する沈殿
物を遠心分離により集め、この沈殿物を少量の20mM
クエン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した後、同緩衝液
を用いて4℃で一夜透析した。得られた粗酵素溶液を2
0mMクエン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したCM
−トーヨーパール650Mカラムに展開し、イオン交換
クロマトグラフィーを行った。カラムを上記緩衝液で洗
浄後、0〜0.5Mの塩化ナトリウムを含む同緩衝液で
酵素を溶出した。
【0013】酵素活性は、p−ニトロフェニルβ−グル
コシドを基質とし、遊離するp−ニトロフェノールを分
光光度計で測定することによって調べた。また、酵素活
性は1分間に1μmoleのp−ニトロフェノールを遊
離する酵素量を1ユニットと定義した。図1にCM−ト
ヨパールを用いたイオン交換クロマトグラフィーでの酵
素の溶出パターンを示す。図から明らかなように、グリ
コシダーゼI〜III が得られた。これら3画分を茶香気
成分前駆体を含む粗画分と37℃で90分間反応させ、
生成する茶香気成分組成をアセトンパウダーを用いたと
きに生成する香気成分組成と比較した。その結果、グリ
コシダーゼIIを用いたときに生成する香気成分組成がア
セトンパウダーでの結果と最も類似していた。すなわ
ち、グリコシダーゼII画分に茶香気成分生成酵素、β−
プリメベロシダーゼが存在することが確認された。
【0014】次に、グリコシダーゼII画分を限外濾過に
より濃縮し、得られた濃縮液を20mMクエン酸緩衝液
(pH6.0)で平衡化した陽イオン交換Mono−S
カラム(5×50mm)に展開し、上記緩衝液で溶出し
て茶香気成分生成酵素、β−プリメベロシダーゼの精製
酵素標品を得た。以上の精製操作によって得られた酵素
標品は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で均
一であった。また、本酵素が前記した理化学的性質を有
していることを確認した。
【0015】
【発明の効果】本発明の茶香気成分生成酵素、β−プリ
メベロシダーゼは、生茶葉から簡便な操作により得られ
る。本酵素は、不揮発性の茶フレーバー前駆体からバラ
ンスのとれた茶フレーバーを効率よく生成できるので、
茶飲料をはじめとして茶を素材とした食品のフレーバー
の改善に有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 CM−トヨパールを用いたイオン交換クロマ
トグラフィーでの酵素の溶出パターンである。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C11B 9/02 C11B 9/02 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 9/00 - 9/99 A23F 3/00 - 3/42 A23L 1/00 - 1/48 C11B 9/00 - 9/02 BIOSIS(DIALOG) MEDLINE(STN) WPI(DIALOG)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次の理化学的性質を有する茶香気成分生
    成酵素、β−プリメベロシダーゼ。 (1)作用:茶香気成分前駆体に作用して茶香気成分を
    生成する。 (2)基質特異性:糖部分にプリメベロース(6−O−
    β−キシロシルグルコース)あるいはグルコースを持つ
    茶香気成分配糖体に作用し、これを加水分解してプリメ
    ベロースやグルコースを生成する。また、p−ニトロフ
    ェニルβ−グルコシドやp−ニトロフェニルβ−キシロ
    シドに作用し、グルコースあるいはキシロースを遊離す
    る。 (3)至適pH:pH4〜6 (4)pH安定性:37℃、1時間の処理においてpH
    4〜7で安定 (5)至適温度:50℃付近 (6)熱安定性:pH6、1時間の処理において45℃
    以下で安定 (7)分子量:61,000(SDS−ポリアクリルア
    ミドゲル電気泳動)
  2. 【請求項2】 生茶葉に緩衝液を加えて攪拌し、抽出す
    ることを特徴とする請求項1記載のβ−プリメベロシダ
    ーゼの製造法。
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