JP3085790B2 - 基布排気式エアバッグ - Google Patents

基布排気式エアバッグ

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車の衝突時、乗員
の安全を保護するためのエアバッグに関する。より詳し
くは、衝突と同時に展張したエアバッグが乗員を保護し
た時に、乗員の反動を緩和するために必要とされるバッ
グ内部ガスの排出をエアバッグ基布面で行わせる基布排
気式エアバッグに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、エアバッグは不通気加工を施した
基布を用いて製袋し、複数個の排気口を設け、乗員がバ
ッグに衝突した時のエネルギーを吸収していた。しか
し、このバッグは加工工程が複雑で長くなる上に、生地
は高重量で硬くなり、得られたエアバッグはコンパクト
性に欠けるばかりか、加工コストの上昇によってバッグ
製造コストが極めて大となっている。
【0003】これらの課題を解消するものとしてバッグ
を構成する基布自体をガスの排出フィルターとして機能
させる、いわゆる基布排気式エアバッグが提案されてい
る。基布排気式エアバッグは、従来の排気口式エアバッ
グに比較し、軽量、柔軟、コンパクトで、加工コストも
低減できる優れたものである。例えば、実開昭58−2
2360号公報には、エアバッグ展張時に乗員が接触す
る部分を不通気性材料、反対側すなわち車体側を通気性
材料で構成し、通気性部分からバッグ内のガスを排出し
乗員の衝突エネルギーを吸収する、排気口の無い基布排
気式エアバッグが提案されている。
【0004】しかし、ガスが排気される通気性基布は、
乗員がバッグに当たった後、短時間でガスを透過できる
ほどの、適度な組織間隙をもつことが必要であり、又、
一方では、エアバッグの展開時に生じる衝撃力、更には
乗員が当たることにより高まるバッグ内圧、などに耐え
る機械特性も必要とされる。ガスの透過性を向上するに
は基布の組織間隙を大きくすれば良いが、そうすると単
位幅当りの使用繊維糸条の本数が少なくなり、その結果
機械特性が低下することになり、エアバッグの通気性基
布として、両方の特性を満足することは難しかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、長繊維糸使
いの布帛を用いて形成される基布排気式エアバッグにお
いて、ガス発生装置(以下、インフレータという)から
噴出されるガスのバッグ外部への排出性を満たす通気性
と、噴出ガスによる膨張及び乗員が当たることで短時間
に急激に高まるバッグ内圧で発生する引張応力に耐え得
る縫合部の機械特性との、相反する特性を同時に満足す
る性能を有する通気性基布を用いる縫製タイプの基布排
気式エアバッグの提供を目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、バッグ本体の
基布からガスを排出させる長繊維糸使いの基布排気式エ
アバッグにおいて、バッグ本体が所定の形状に裁断され
た複数の基布片を縫合してなる袋体であり、前記布帛片
の少なくとも一片が、通気性布帛を構成する長繊維糸条
の少なくとも一部に50〜250回/mの撚りが付与さ
れた加撚長繊維糸を用いて構成された布帛であることを
特徴とする基布排気式エアバッグである。本発明の縫製
タイプの基布排気式エアバッグは、エアバッグを構成す
る基布の全体を通気性基布で構成してもよく、あるいは
通気性基布と不通気性基布とを併用して形成してもよ
い。この基布排気式エアバッグは、公知のエアバッグの
ように、エアバッグの展張、膨張後のガスが通気性基布
の長繊維糸条間を通して排出される構造を有する。
【0007】即ち、本発明は、通気性基布を構成する繊
維糸条の少なくとも一部に加撚糸を用いることにより、
基布の機械特性を左右する、基布単位面積当りの繊維糸
条使用量(例えば、繊維糸条の織物密度、基布単位面積
当りの重量)を大きく変化させることなく、基布の通気
性を向上させ、通気性、耐圧強度、衝撃性などに優れた
エアバッグを提供するものである。通常、基布の通気性
を高めるには、例えば、織物の場合には、経糸,緯糸の
密度を低下させるか、経糸と緯糸の交差点の少ない織組
織(綾織、朱子織、斜子織など)を採用すれば良いが、
織物の引張強力が低下するばかりでなく、基布の接合部
強度も十分なレベルに到達しない。又、基布自体の組織
ずれも生じ易くなり、展開時に必要な初期内圧を確保す
る為の気密性を損なう場合もある。
【0008】本発明は、糸条を加撚することにより、見
掛けの直径が減少し、織物組織の間隙が増大して基布の
通気性が向上することに着目したものであり、基布の機
械特性を損なうことなく、通気性の高い基布が得られ
る。本発明の加撚糸とは、意図的に撚を加えて得られた
糸条を意味し、チーズやボビンからの解舒撚、原糸製造
時に生じる原糸の元撚などは対象としない。
【0009】本発明に用いる加撚糸は、エアバッグに要
求される通気性と機械特性の双方を考慮して選定すれば
良い。即ち、基布を構成する全部の繊維糸条を加撚糸と
しても良いし、一部を加撚糸としても良い。又、基布内
での位置も1本〜複数本を帯状で等間隔に、あるいはそ
の他の規則的、不規則的な位置に配置して良い。基布を
構成する繊維糸条の方向性が複数ある場合、例えば、織
物の経糸,緯糸、又は3軸以上の多軸、緯糸又は経糸挿
入織物などは、いずれか一方向の糸でも、全方向の糸で
も、任意に選定して加撚糸を用いれば良い。
【0010】加撚長繊維糸の撚数は、使用する長繊維糸
条の太さ、基布の通気性、機械特性などから適宜選定す
ればよいが、50〜200回/mから選ばれる。撚数が
多い場合には強力が低下するだけでなく、伸度が大きく
なり基布の寸法安定性が損なわれので好ましくない。一
方撚数が少ない場合には通気性基布に求められる高い通
気特性が得られない。糸の太さと撚数の関係は、要求さ
れる通気性を基準として求めればよい。基布の通気性
は、一般的には、糸条の太さ、基布の織密度、撚数に支
配されるので、これらの要因を適宜組み合わせて最適な
基布設計を行えばよい。一般的には太い糸条は少ない撚
数、細い糸条には多い撚数が付与される。又、撚方向は
Z方向、S方向どちらでもよいが、ZとSを交互に並べ
たり、場合によっては、複数の細い糸を別個に撚り(下
撚)、これらを合わせて下撚と反対方向によりを加えて
もよい。
【0011】本発明に用いるバッグ本体の基布を構成す
る、長繊維糸条の種類は、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡
糸などから得られた長繊維糸、あるいはその嵩高加工糸
を、目的の太さなどに応じて選定すればよい。繊維糸条
は、リボン、テープ、組紐等予め集合したものでもよ
い。また、フィルムから切り出し又は割裂(スプリッ
ト)繊維糸条であることもできる。
【0012】本発明のエアバッグに用いる繊維糸条の材
料は、例えばナイロン6,66,46などのポリアミド
繊維、パラフェニレンテレフタルアミド、および芳香族
エーテルとの共重合体などに代表されるアラミド繊維、
ポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステ
ル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ビニロン繊維、超
高分子量ポリエチレンなどのポリオレフィン繊維、ポリ
オキシメチレン繊維、パラフェニレンサルフォン、ポリ
サルフォンなどのサルフォン系繊維、ポリエーテルエー
テルケトン繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド
繊維、炭素繊維などがあるが、場合によってはガラス繊
維、セラミックス繊維、金属繊維などの無機繊維を単独
又は併用使用してもよい。上記繊維糸条の材料は、原糸
糸条の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改良
のために通常使用されている各種添加剤を含んでいても
よい。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑
剤、可塑剤、増粘剤、顔料、光沢付与剤、難燃剤などを
含んでいてもよい。
【0013】本発明のエアバッグの本体の基布の種類
は、織物、編物あるいはこれらを含む積層体でもよく、
力学的等方性を付与するために、多軸(三軸、四軸)織
編物、緯糸又は経糸挿入編物などを使用してもよい。こ
れらの基布を構成する糸条は、長繊維糸条で、嵩高加工
糸などの長繊維糸条の加工糸などの中から選ばれる。
【0014】エアバッグのバッグ本体は、所定の形状に
裁断された布帛片を縫製によって調製される。接着法、
加熱圧着、加硫法などを併用することもできる。本発明
の縫製タイプの基布排気式エアバッグのガス排出部の面
積、位置などは、要求されるエアバッグの展開特性に応
じて選定すればよい。ガス排出部として用いられる基布
の通気度も適宜選べばよいが、例えば圧力0.2kgf
/cm2のときの通気度が20〜400cc/cm2
secの範囲にあると好ましい。基布排気特性を安定化
する目的で、基布の布帛には、精錬〜セットなどの前処
理以外に、樹脂加工、ロールなどによる物理的加圧処
理、高周波、超音波、電磁場、真空又は高圧などの各種
エネルギーを利用した基布組織の安定化加工などが施さ
れていてもよい。
【0015】又エアバッグを通気性部と不通気性部で構
成する場合、不通気性部を構成する基布として、基布を
構成する繊維糸条の量を多くした高密度基布、複数の基
布が一体化した多重基布、あるいは単に複数の基布を重
ね合わせた積層布を用いても良く、又通気性部に用いら
れる各種基布に通常エアバッグに使用されているクロロ
プレンゴムなどを、コーティング、浸漬、プリント、ス
プレー、ラミネートなどの加工方法により付与したもの
を用いても良い。
【0016】不通気性加工の処理剤としてはクロロプレ
ンゴム以外にも、例えば、シリコーン系、ウレタン系、
ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリ
オレフィン系、含ハロゲンポリオレフィン系、フッ素
系、クロロスルフォン化ポリエチレン系、エチレン/プ
ロピレン共重合系などのエラストマー類の一種又は二種
以上から適宜選んで使用してもよい。これら上記エラス
トマーは、その特性改良のために通常使用されるカーボ
ンに代表される補強剤、劣化防止剤、加硫剤、加硫促進
剤、加硫遅延剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、熱安定
剤、難燃剤、顔料など各種添加剤を含んでいてもよい。
更に、これらの通気性部と不通気性部の接合は、縫製、
接着、あるいは製布(製織、製編)などの単独又は複合
した方法によって行えば良い。
【0017】本発明になるエアバッグは、運転席用、助
手席用、後部座席用、又はドアーサイド用等の各種バッ
グに適用され、保護対象となる乗員も、自動車、船、鉄
道、飛行機などあらゆる交通機関を含めて良い。
【0018】
【実施例】以下、本発明を実施例によって説明する。
尚、実施例中の各特性は以下の方法によって行った。 (1)基布の糸密度 通気性基布を構成する繊維糸条の本数をルーペにより肉
眼測定する。 (2)基布の強伸度 JIS L-1096 に準じて、通気性基布の引張時の強伸度を
測定した。 (3)基布通気度 通気性基布を0.2kgf/cm2 下に加圧した状態で、空
気の通気度を測定した。 (4)基布の縫目づれ バッグの接合部に相当する縫目を作成し、JIS L-1096
に準じて試料を100kgの応力が発生するまで引張し、
その時の縫目部の目づれ(組織づれ)を測定した。その
時の縫製条件は、ミシン糸: 上糸ナイロン66の8番
糸、下糸ナイロン66の5番糸、運針数: 3.5回/
cm、縫目: 二重環二列、とし、二枚の基布の糸軸方向
を縫合わせた。 (5)バッグの展開試験 バッグをモジュールに折り畳み、90±2℃で4時間予
熱した後、展開試験を行い、エアバッグの最高バッグ内
圧(maxP)、バッグの損傷状態を観察した。インフレー
ターは、MORTON社タイプIVを使用した。
【0019】実施例1 経糸にナイロン66長繊維420d/70f の無撚糸、
緯糸にナイロン66長繊維420d/70f の加撚糸
(160回/m、Z方向)を用いて織密度(経および
緯)が46本/吋の平織物を織成し、通気性基布とし
た。一方、不通気性基布として緯糸にも無撚糸を用いた
通気性基布と同じ織密度の基布にシリコーン樹脂30g
/m2 を塗布したコート布を作成した。両布を直径750
mmの円に裁断した。不通気性基布から外径200mmの補
強布3枚を打抜き、通気性基布の真中に縫付け、中央部
に直径100mmの孔を打抜き、インフレーター取付け口
とした。取付け口の周囲にはボルト穴4個、リベット穴
8個も打抜いた。次いで、通気性基布と不通気性基布を
合わせ、外周を二重環縫二列で縫合わせた。得られたバ
ッグの内径は710mmであった。ミシン糸は、上糸ナイ
ロン66の8番糸、下糸ナイロン66の5番糸、運針数
は3.5本/cmとした。使用した通気性基布の特性、並
びにバッグの展開特性を表1に示す。バッグは何ら損傷
もなく、基布排気型バッグとしての展開性能を満足する
ものである。
【0020】実施例2 経糸および緯糸にナイロン66長繊維420d/70f
の無撚糸を用いて織密度が経58本/吋、緯56本/吋
の平織物を織成し、不通気性基布とした。一方、経糸に
ポリエステル長繊維500d/96f の無撚糸、緯糸に
ポリエステル長繊維500d/96f の加撚糸(100
回/m、Z方向)を用いて、織密度(経および緯)が4
4本/吋の平織物を織成し、通気性基布とした。それぞ
れの基布を用いて、実施例1に準じて内径710mmのバ
ッグを作成した。使用した通気性基布の特性、並びにバ
ッグの展開特性を表1に示す。バッグは何ら損傷もな
く、基布排気型バッグとしての展開性能を満足するもの
である。
【0021】実施例3 経糸および緯糸にポリエステル長繊維250d/48f
の無撚糸と加撚糸(240回/m、S方向)を用いて、
無撚糸と加撚糸が経方向,緯方向いずれも一本置きにな
るようにして、織密度(経および緯)が66本/吋の平
織物を織成した。この基布から、直径640mmの円形布
を裁断し、実施例1に準じて、内径600mmの全面基布
排気式バッグを作成した。基布特性、並びにバッグの展
開特性を表1に示す。バッグは何ら損傷もなく、基布排
気型バッグとしての展開性能を満足するものであった。
【0022】実施例4 経糸にアラミド長繊維750d/500f の無撚糸、緯
糸にアラミド長繊維750d/500f の加撚糸(10
0回/m、Z方向)を用いて、織密度(経および緯)が
32本/吋の平織物を織成し、通気性基布とした。一
方、不通気性基布として緯にも無撚糸を用いた通気性基
布と同じ織密度の基布にシリコーン樹脂20g/m2 を塗
布したコート布を作成した。実施例1に準じて、片面排
気式バッグを作成した。使用した通気性基布の特性、並
びにバッグの展開特性を表−1に示す。バッグは何ら損
傷もなく、基布排気型バッグとしての展開性能を満足す
るものであった。
【0023】実施例5 経糸にナイロン66長繊維840d/140f の無撚
糸、緯糸にナイロン66長繊維840d/140f の加
撚糸(120回/m、S方向)と無撚糸を、加撚糸1
本,無撚糸2本の割合で用いて織密度(経および緯)が
28本/吋の平織物を織成し、通気性基布とした。一
方、不通気性基布として緯糸にも全て無撚糸を用いた、
通気性基布と同じ織密度の基布にポリウレタン樹脂40
g/m2 を塗布したコート布を作成した。実施例1に準じ
て、内径710mmのバッグを作成した。使用した通気性
基布の特性、並びにバッグの展開特性を表−1に示す。
バッグは何ら損傷もなく、基布排気型バッグとしての展
開性能を満足するものであった。
【0024】比較例1 実施例1において、経糸および緯糸いずれも無撚糸を用
いて通気性基布とした以外は、全て、実施例1に準じて
バッグを作成した。通気性基布の特性とバッグの展開特
性を表−1に示す。基布の通気特性が小さく、展開後の
バッグも外周縫製部の目づれが発生した。
【0025】比較例2 比較例1において、織物組織を格子織物(リップ・スト
ップ経糸および緯糸10本毎に2本引き揃える。)を作
成した。使用した通気性基布の特性とバッグの展開特性
を表−1に示す。通気特性は本発明に近いレベルに改善
されるが、バッグの外周縫製部が破損した。
【0026】比較例3 比較例1において、織密度(経および緯)が42本/吋
である平織物を用いて、バッグを作成した。使用した通
気性基布の特性とバッグの展開特性を表−1に示す。織
密度を低下することにより、本発明と同レベルの通気性
能が得られるが、縫目づれが大きくなり、バッグの外周
縫製部が破損した。
【0027】
【表1】
【0028】
【発明の効果】本発明による長繊維糸条使いの縫製タイ
プの基布排気式エアバッグは、機械特性、高通気性の双
方を満足する長繊維糸を含む通気性布帛を用いることに
より、軽量で、柔軟、折り畳み性に優れ、バッグ展開時
における外周部の縫合部における抗破壊性能に優れる基
布排気式エアバッグである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−82645(JP,A) 特開 平3−27147(JP,A) 特開 平3−16853(JP,A) 特開 平2−158442(JP,A) 特開 平5−140836(JP,A) 特開 平4−2835(JP,A) 特開 平1−118641(JP,A) 実開 昭58−22360(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B60R 21/16 B60R 21/28

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 バッグ本体の基布からガスを排出させる
    長繊維糸条使いの基布排気式エアバッグにおいて、バッ
    グ本体が所定の形状に裁断された複数の基布片を縫合し
    てなる袋体であり、前記布帛片の少なくとも一片が通気
    性布帛で構成され、前記の通気性布帛を構成する繊維糸
    条の少なくとも一部に50〜250回/mの撚りが付与
    された加撚長繊維糸を用いることを特徴とする基布排気
    式エアバッグ。
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