JP3058030B2 - レーザー発光分光分析方法および装置 - Google Patents

レーザー発光分光分析方法および装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、溶融金属等表面の位
置が変動し易い分析試料のレーザー発光分光分析に関す
る。
【0002】
【従来の技術】鉄鋼等金属材料の材料製造過程では、中
間過程で溶融状態或いは固化状態の材料の成分を分析
し、その結果に基づいて製造条件を制御する技術が強く
求められている。この要求に応えるために、即刻に分析
結果が得られる分析技術が必要である。
【0003】これに適した分析技術として、発光分光分
析方法があり、中でも極めて高い密度のエネルギを投入
して試料元素を励起するレーザー発光分光方法がある。
【0004】レーザー発光分光分析方法では、パルスレ
ーザー発振器からの平行光をレンズで集光して照射す
る。試料調整として固体試料の表面に存在する一般の汚
れはレーザー光照射によって除去してしまうので、機械
的前処理を省くことができ短時間で分析結果が得られ
る。試料元素の励起では、集光点に試料面の位置を合わ
せることによって最高のエネルギー密度を利用する。高
密度エネルギーを投入された試料元素は励起されて発光
し、この励起光を分光し波長から元素の同定が又発光強
度から元素の定量が行われる。発光強度に関しては、試
料内の特定元素を内標準元素とし分析目的元素の発光強
度と内標準元素のそれとの比を測定データとする内標準
法がよく用いられる。内標準元素としては、一般に試料
の母体となる元素が選ばれる。
【0005】製造過程の材料の分析にこのレーザー発光
分光法を適用しようとするとき、材料が静止せずに分析
面の位置が変動している状況を考慮しなければならな
い。
【0006】従来、レーザー発光分光分析における分析
面の位置の変動に対して、平均値を大きく外れた測定値
を除く方法が提案されている。例えば、特開昭61−1
40842号公報には、集光レンズから分析面の距離が
レーザー光集光レンズ焦点距離の0.95倍から1.0
5倍までの間にあれば、目的元素の発光強度と内標準元
素の強度との比はほぼ一定となり分析面の位置の変動を
無視することができるとの見解とともに、集光レンズか
ら分析面の距離をレーザー光集光レンズ焦点距離の0.
95倍から1.05倍までの間に制御した上で、平均値
からの隔たりが5%を超える測定値を異常値として除去
する方法が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、実験的
には抑制できる分析面の位置の変動も、実際の溶鋼や溶
融めっき浴では更に大きく上記のレンズ焦点距離の範囲
内に抑えることが困難であり、充分な分析精度が得られ
ないとの問題があった。
【0008】この発明はこの問題を解決するために行わ
れたもので、位置変動の対策として分析面の位置が正常
な時点の測定値のみを選び、これによって分析精度を高
めることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、試料
表面にパルスレーザー光を集光照射し、励起光を採光し
て分光し分析するレーザー発光分光分析方法において、
目的元素及び内標準元素の発光強度を測定してそれらの
強度比を求め、所定の測定時間内に得られた複数の強度
比データの中から強度比が極小範囲又は極大範囲に属す
るデータを選択し、前記目的元素の分析値を求めること
を特徴とするレーザー発光分光分析方法である。
【0010】請求項2の発明は、試料表面とパルスレー
ザー光の集光点との間隔を、所定の振幅で上記測定時間
よりも短い周期で、変動させながらパルスレーザー光の
照射を行う前記のレーザー発光分光分析方法である。
【0011】請求項3の発明は、パルスレーザー光源と
試料面への集光機構、分光・測光部及び測光結果に基づ
いて分析値を算出する演算器からなるレーザー発光分光
分析装置において、分光・測光部が内標準用と目的元素
用の少なくとも2系統からなり、演算器は内標準測光値
と目的元素の測光値の強度比の演算部と、複数の強度比
データの内から最大範囲または最小範囲を選択する選択
部を備えたことを特徴とするレーザー発光分光分析装置
である。
【0012】請求項4の発明は、前記パルスレーザー光
源と試料面への集光機構が、試料の分析面とレーザー光
の集光点との間隔を周期的に変える機構を備えたことを
特徴とする前記のレーザー発光分光分析装置である。
【0013】
【作用】先ず、請求項1、3のレーザー発光分光分析方
法・装置の発明について作用を説明する。
【0014】試料の位置が変動し分析面が集光点からず
れると、集光されたレーザー光の分析面におけるエネル
ギー密度は低下する。エネルギー密度が低下するとその
影響を受けやすい元素と受けがたい元素とでは低下に伴
う発光強度の変化に相違が生じる。試料は固相或いは液
相であり、発光に至るまでには気化過程を経てから元素
励起が起こると考えられるが、元素により励起挙動のみ
ならず気化挙動も異なる。エネルギー密度が低下した場
合、容易に気化する元素の気化量はさほど変わらなくて
気化に多くのエネルギを要する元素の気化量は減少す
る。励起についても、同じようにエネルギー密度低下の
影響は元素により異なる。この結果、エネルギー密度の
低下が起きた場合内標準元素と目的元素の発光強度の変
化に相違が生じる。
【0015】この相違を調べた結果が、図3である。分
析面と集光点とが一致せず、これらの間に光軸に沿った
間隔(以下、単に間隔と称す)が生じた場合の発光強度
比の変化を示した強度比曲線である。各々、○印は溶融
亜鉛めっき浴中のAlのZnに対する強度比、△印は同
じくFeのZnに対する強度比、■印は亜鉛合金片中の
AlのZnに対する強度比、●印はアルミニウム合金板
中のZnのAlに対する強度比を表す。
【0016】○印、△印及び■印は極小点を持つ曲線を
示し、●印は極大点を持つ曲線を示している。そして、
極点は間隔が零の軸上にあり、強度比曲線は極小点をも
つ極小型か極大点を持つ極大型かである。AlとZnと
では、ZnよりもAlの方がレーザー光のエネルギー密
度低下の影響を受け難い。又、影響の受け方の相違が小
さい程曲線の曲がりは緩く直線に近づいてくる。更に、
○印曲線と■印曲線のように、試料が溶融体であっても
固体であっても強度比曲線は同じ型を描く。
【0017】分析面の変動周期よりも長い測定時間を決
め、この時間内に多数の測定と強度比の演算を行う。こ
れらの強度比データのうち極小範囲又は極大範囲に属す
るデータのみを選ぶと、分析面と焦光面が一致している
かごく近い状態でレーザー光が照射された時の発光のみ
を選ぶことになる。このことによって、分析試料の位置
が変動してもその影響を除去することが可能になる。
【0018】極大又は極小の範囲を狭く決めるほど、分
析面の位置変動の影響を除くことになるので分析精度は
高くなる。この範囲の広さと分析精度との関係を調べた
結果を図4に示す。亜鉛浴中のAl(○印)とFe(△
印)について調べたもので、強度比データのうち最少値
とこれに近いものから選び、選んだデータ数の総データ
数に対する百分率で範囲の広さを表示した。
【0019】図から、相対標準偏差2%以内の分析を目
的にするならば、Alでは強度比の小さいものを全デー
タ数の30%、Feでは40%を採用すればよいことが
判る。
【0020】次に、請求項2、4の発明について作用を
説明する。分析面が、溶融精錬中の金属面やめっき浴面
或いは走行中の金属材の表面等の場合、分析面は数秒以
内の周期で変動するのが一般的である。しかし、溶融材
の添加後などは数秒以上の長い周期の変動が伴うことも
ある。この場合、一般的に決めた測定時間内に分析面の
位置が集光点に一致しないこともある。即ち、極値を示
すデータは間隔が最小ではあるが零ではない時のデータ
となることがある。
【0021】このような場合でも、レーザー光があたる
部分に付いて、分析試料表面とパルスレーザー光の集光
点との相対的間隔を意図的に変えてやれば分析面の位置
を集光点に一致させることができる。
【0022】図5は、金属表面の変動が測定時間よりも
長い周期を伴う場合で、レーザー光照射後t0 秒で測定
を開始しt秒まで測定した場合を示したものである。図
5(a)図では、測定時間内では金属表面と集光点との
間隔は零に達せず、最も近い位置即ち〇印点のときに発
光した強度比が極大或いは極小値を示す。このため、分
析面と集光点との間に間隔があった時の発光強度から分
析値が算出され、その分だけ分析精度が低下する。
【0023】図5(b)図は振幅dで測定時間よりも短
い周期で意図的な変動を与えた場合で、この変動を点線
で示す。与えた振動が加算されるので金属表面と集光点
との間隔は零に達し、分析面が集光点位置と一致したと
き即ち◎印点の発光強度が得られ、分析精度が更に向上
する。
【0024】この意図的に与える振動の振幅が長周期変
動の振幅以上で、その周期が測定時間より短かくなるよ
うに設計すれば、測定時間内に必ず間隔が零の時のデー
タが得られることになる。
【0025】
【実施例】連続めっきラインの溶融亜鉛めっき浴中成
分、精錬中の溶鋼中成分、移動する鋼スラブ中の成分に
ついて、分析を行った。
【0026】実施例1.溶融亜鉛めっき浴の表面を露出
させた状態で、集光点を表面が静止している時の位置と
推定される位置に合わせてレーザー光を照射した。
【0027】レーザー光にはQスイッチ付きYAGレー
ザー発振器から1kHz で発信されるパルスレーザー光
を用いた。
【0028】発光強度の取扱は次のように行った。即
ち、0.1秒間毎の発光強度を一つの強度値とし、目的
元素の強度値と同時に得られるZnの強度値との比を1
データとした。測定時間を20秒間として一つの分析値
を求めたので、200個のデータの中から選ばれた適切
なデータに基づいて分析値が得られたことになる。
【0029】適切なデータの選択は、Al、Fe共に極
小型の強度比曲線なので、最小値及びこれに近いもの7
0個(全データ数の35%)を選んだ。言い換えると、
20秒間の測定で得られたデータ200個を値の小さい
ものから順にn1,n2,n3,〜n199,n200 と並べ、n1
からn70までを選んだ。この70個のデータの累積値か
らあらかじめ作成しておいた検量線を使って分析値を算
出した。
【0030】又、従来方法との比較のために前述の文献
に従って、200個のデータから平均値の±5%を選ん
だ場合の測定値を求め、分析値に換算した。
【0031】なお、いずれの場合もレーザー光予備照射
を5秒間行って分析面の不純物を除去した後の発光強度
をデータとした。又、この実施例では0.1秒間毎の発
光強度を一つの強度値としたが、試料の状況によって強
度値の基準時間を選ぶことができる。間隔の変動周期の
短い状況ではレーザー発振周期に近い時間を、又変動周
期の長い状況では数秒程度の長い時間を選ぶことができ
る。
【0032】測定は、ライン駆動中及び停止時とで各々
30回づつ行い、測定値の相対標準偏差を調べた。その
結果、この発明の実施例では、ライン駆動中でAlが
1.3%、Feが1.2%、停止時でAlが1.2 %、
Feが1.3%であった。
【0033】これに対して、従来法では、ライン駆動中
でAlが3.0 %、Feが2.4%、停止時でAlが1
.5 %、Feが1.6%であった。
【0034】従来例では、停止時には比較的よい精度の
分析が行われたが、ラインが駆動し浴のレベル変動が激
しくなると精度が低下した。これに対して、この発明で
は、浴のレベル変動に関係なく良好な精度で分析が行わ
れた。
【0035】実施例2.精錬中の溶鋼にプローブを挿入
して、Si、Mn、Cu、Crの成分を分析した。
【0036】用いた装置は、内圧を変動させて分析面の
位置をかえる変位機構を備えた装置で、これを図1に示
す。1はプローブでその上方に雰囲気ガスの導入口2を
有し、下面は開口部3となっている。上面は石英ガラス
製のレーザー光透過窓4となっており、これを通してレ
ーザー光5が照射される。レーザー光5は集光機構6に
よって開口部3の中央に集光される。採光機構7は光フ
ァイバ8とこれを集光点に向けて支持するホルダー9と
からなる。光は光ファイバ8によって分光部10に送ら
れて分光され、測光部11でスペクトル強度が測定さ
れ、測定された強度に基づいて演算器12によって分析
値が算出される。雰囲気ガスはガス供給装置13によっ
て導入口2から流入し、開口部3から流出する。15は
溶鋼である。そして、プローブ1の導入口2とガス供給
装置13との間に変位機構21が設けられている。この
変位機構21は逆流防止弁の付いたふいご22とカム2
3とからなり、カム23の回転により、不活性ガスの導
入量が周期的に変わる。導入量の変動に伴い、プローブ
内の気圧が変化し、流入する分析試料の表面の位置がこ
れに応じて変動する。
【0037】変位の振幅は10mm、周期は2秒とした。
レーザー光の照射条件及びデータの採取条件は、内部標
準元素がZnでなくFeである点を除いて実施例1と同
じである。
【0038】データの選択については、図6に示すよう
にSiは極小型、Mn、Cu及びCrは極大型であるの
で、Siについては最小値とこれに近いものを、Mn、
Cu及びCrついては最大値とこれに近いものを各々選
んだ。
【0039】又、従来方法との比較のために、従来方法
による測定値として、実施例1と同様、200個のデー
タから平均値の±5%を選んだ場合の測定値を求め、分
析値に換算し比較した。
【0040】測定は30回行い、分析値の相対標準偏差
を調べた。この結果、この発明の実施例では、Siが
1.5%、Mnが 0.9%、Cuが 1.7%、Crが1.3 %と
良好な精度で分析が行われた。
【0041】これに対して、従来法では、Siが 3.5
%、Mnが 1.1%、Cuが 3.2%、Crが 5.5%であ
り、強度比曲線が平坦に近いMnを除くと偏差は大きか
った。従来法では、平均値自体が変動の影響を受けるの
で強度比曲線が平坦でない限り、相対標準偏差は大きく
なる。
【0042】実施例3.水平方向に移動する鋼スラブの
分析を行った。用いた装置は集光機構と連動して集光点
の位置を変える機構を備えた装置で、これを図2に示
す。
【0043】集光機構6として単焦点集光レンズを用
い、このレンズの位置を光軸方向に周期的に移動させて
集光点の位置を変える。レンズ位置の移動は集光レンズ
の支持具31に雌ねじを設け、光軸に平行に取り付けた
雄ねじ付き回転棒32を正逆交互に回転させて行う。1
6は鋼スラブである。
【0044】変位の振幅は3mm、周期は1秒とし、レー
ザー光の照射条件及びデータの採取条件は実施例1と同
じである。
【0045】発光強度の取扱及びデータの選択は、実施
例2と同様に行った。分析値の相対標準偏差を調べた結
果、実施例2と同様の良好な分析精度であった。
【0046】分析面と集光点の間隔の調整手段は、上記
以外にもレーザー光源と集光器全体を試料に対して機械
的に変動させる方法がある。また、避けられない位置変
動をする小さな試料の場合には試料自体に振動を付加し
てもよい。すなわち、分析対象の条件に応じて、相対間
隔を変化させるように適宜設計すればよい。
【0047】
【発明の効果】以上述べて来たように、この発明によれ
ば、強度比データのうち極小範囲又は極大範囲に属する
データのみを選んで分析値を求めるので、流動体や移動
体の表面のように分析面の位置が変動しても適正な位置
にある時の発光値のみを測定することになる。更に、装
置には測定中に分析面が適正位置を必ず通過するよう変
位機構が設けられているので、適正発光値を逃すことが
ない。これによって、実操業中の溶鋼やめっき浴或いは
走行中のスラブ等も高い精度で分析できるようになっ
た。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施例に用いた分析面の位置を変える変
位機構を備えた一例である分析装置の概念図である。
【図2】発明の実施例に用いた集光点の位置を変える変
位機構を備えた一例である分析装置の概念図である。
【図3】発明の原理を説明するための、分析面と集光点
との間隔と発光強度比との関係を示す強度比曲線図であ
る。
【図4】発明の原理を説明するための、選ばれたデータ
の範囲の広さと分析値の相対標準偏差との関係を示す図
である。
【図5】発光強度測定時間内の分析面の位置の変動を示
す図である。
【図6】分析面と集光点との間隔と発光強度比との関係
を示す鋼中成分についての強度比曲線図である。
【符号の説明】 1 プローブ 2 導入口 3 開口部 4 透過窓 5 レーザー光 6 集光機構 7 採光機構 8 光ファイバー 9 ホルダー 10 分光部 11 測光部 12 演算器 13 ガス供給機構 21 変位機構 22 ふいご 23 カム 31 支持具 32 回転棒
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−140842(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 21/62 - 21/74 G01N 33/20 JICSTファイル(JOIS)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 試料表面にパルスレーザー光を集光照射
    し、励起光を採光して分光し分析するレーザー発光分光
    分析方法において、目的元素及び内標準元素の発光強度
    を測定してそれらの強度比を求め、所定の測定時間内に
    得られた複数の強度比データの中から強度比が極小範囲
    又は極大範囲に属するデータを選択し、選択されたデー
    タに基づいて前記目的元素の分析値を求めることを特徴
    とするレーザー発光分光分析方法。
  2. 【請求項2】 試料表面とパルスレーザー光の集光点と
    の間隔を、所定の振幅で前記測定時間よりも短い周期
    で、変動させながらパルスレーザー光の照射を行う請求
    項1記載のレーザー発光分光分析方法。
  3. 【請求項3】 パルスレーザー光源と試料面への集光機
    構、分光・測光部及び測光結果に基づいて分析値を算出
    する演算器からなるレーザー発光分光分析装置におい
    て、分光・測光部が内標準用と目的元素用の少なくとも
    2系統からなり、演算器は内標準測光値と目的元素の測
    光値の強度比の演算部と、複数の強度比データの内から
    最大範囲または最小範囲に属するデータを選択する選択
    部を備えたことを特徴とするレーザー発光分光分析装
    置。
  4. 【請求項4】 レーザー光の集光点の位置を周期的に変
    える機構を備えたことを特徴とする請求項3のレーザー
    発光分光分析装置。
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