JP3050909B2 - 光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法 - Google Patents

光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法

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JP3050909B2 JP2314144A JP31414490A JP3050909B2 JP 3050909 B2 JP3050909 B2 JP 3050909B2 JP 2314144 A JP2314144 A JP 2314144A JP 31414490 A JP31414490 A JP 31414490A JP 3050909 B2 JP3050909 B2 JP 3050909B2
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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法
に関する。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕
一般式(III) R1−COS−(CH2)n−CH(R2)−COOH (III) (式中、R1はアルキル基、アラルキル基又はアリール
基、R2はアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表
される光学活性カルボン酸は光学活性を有する種々の生
理活性物質を合成するための原料として有用であり、例
えばD(−)−β−アセチルチオイソ酪酸はアンジオテ
ンシン変換酵素阻害剤系の血圧降下剤N−(D−α−メ
チル−β−メルカプトプロピオニル)−L−プロリンの
合成中間体として極めて重要な光学活性体である。
しかるに、これらの光学活性体は通常の化学合成反応
による合成が容易でなく、従来はかなり繁雑な方法で製
造されていた。
本発明者らはこのような状況に鑑み、先に一般式
(I) R1−COS−(CH2)n−CH(R2)−COO−R3 (I) (式中、R1、R2及びnは上記の意味を有し、R3はアルキ
ル基を示す)で表されるラセミ体のカルボン酸エステル
を酵素的に不斉加水分解して一般式(III)で表される
光学活性カルボン酸を製造する方法を提案した(特開昭
60−12992号、特開昭60−12993号等参照)。
この方法では式Iのラセミ体のエステルの一方だけが
加水分解されて光学活性のカルボン酸(III)に変換さ
れるが、他方のエステルは加水分解されないで生成した
カルボン酸と対掌体の光学活性エステル(I)として残
存することになる。もし、この対掌体の光学活性エステ
ル(I)をラセミ化して元のラセミ体のカルボン酸エス
テル(I)にすることができれば、これを原料として光
学活性カルボン酸(III)を製造できるので好都合であ
るが、このようなラセミ化方法は見いだされていないの
が現状である。
本発明者らはこのような観点から光学活性カルボン酸
エステルのラセミ化方法について検討し、先に、光学活
性カルボン酸エステルをアミン化合物と接触させること
による光学活性カルボン酸エステルの新規なラセミ化方
法を提案した(特願平1−336893号参照)。
本発明者らはこのラセミ化がどのような機構で進行す
るものなのか更に鋭意研究を行った結果、光学活性カル
ボン酸エステルはアミン化合物の存在下では一般式(II
−1)又は(II−2) n=1の場合: CH2=C(R2)−COO−R3 (II−1) n=2の場合: CH2=CH−CH(R2)−COO−R3 (II−2) (これらの式中、R2及びR3は下記の意味を有する)で表
される不飽和カルボン酸エステルと一般式(V) R1−CO−SH (V) (式中、R1は上記の意味を有する)で表されるチオカル
ボン酸とに分解され、次いでこのチオカルボン酸(V)
が不飽和カルボン酸(IV−1)又は(IV−2)に付加す
ることによりラセミ体のエステル(I)となることを見
いだした。
さて、ラセミ化の反応機構からみて、反応中は光学活
性カルボン酸エステル(I)及びラセミ化されたカルボ
ン酸エステル(I)から常時反応中間体としてのチオカ
ルボン酸(V)が脱離し、同様に反応中間体として生成
する不飽和カルボン酸エステル(II−1)又は(II−
2)に逐次再付加している。すなわち、ラセミ化を完全
に行うことは、このチオカルボン酸の脱離、再付加を繰
り返し行うことであり、この場合、反応液には反応中間
体としてのチオカルボン酸(V)が常時存在することに
なる。
ところが、このチオカルボン酸は通常は不安定な化合
物である。ラセミ化触媒としてアミン化合物を使用する
場合、短時間にラセミ化を行うために反応液の加熱、触
媒量の増加などの条件がとられる。しかしながら、この
ような反応条件ではチオカルボン酸がこの触媒自体によ
るため及び/又は熱劣化によるために一部分解されてし
まい、その結果反応収率の低下、反応液の着色といった
問題が生じる。
〔課題を解決するための手段〕
そこで、本発明者らは、アミン化合物を触媒に用いた
場合に生じる上記の問題の解決方法に関して、反応中間
体として不安定なチオカルボン酸をできるだけ反応液に
単独に存在させるべきでないとの観点から鋭意研究した
結果、ラセミ化反応時の一方の反応中間体である式(II
−1)又は(II−2)の不飽和カルボン酸エステルの存
在下で反応を行うと、驚くべきことに上記の問題は解決
され、収率良く、着色度の少ないラセミ体のカルボン酸
エステル(I)が得られることを見いだした。
本発明は上記の知見に基づくもので、一般式(I) R1−COS−(CH2)n−CH(R2)−COO−R3 (I) (式中、R1はアルキル基、アラルキル基又はアリール
基、R2及びR3は各々独立にアルキル基を示し、nは1又
は2を示す)で表される光学活性カルボン酸エステルを
アミン化合物と接触させてラセミ化するに際し、nが1
の場合は一般式(II−1) CH2=C(R2)−COO−R3 (II−1) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
飽和カルボン酸エステルの存在下に、そしてnが2の場
合は一般式(II−2) CH2=CH−CH(R2)−COO−R3 (II−2) (式中、R2及びR3は前記の意味を有する)で表される不
飽和カルボン酸エステルの存在下に反応を行うことを特
徴とする、光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法
である。
式Iの光学活性カルボン酸エステルのR1としては、炭
素数6以下のアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基
又は炭素数6〜14のアリール基が好ましく用いられ、好
ましいアルキル基としてはメチル基、エチル基、好まし
いアラルキル基としてはベンジル基、好ましいアリール
基としてはフェニル基を例示できる。
R2としては、炭素数6以下のアルキル基、R3としては
炭素数6以下のアルキル基を好ましいものとして示すこ
とができる。R2とR3は同一でも異なってもよい。
式Iの光学活性カルボン酸エステルの具体例として
は、S−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メチル、S
−アセチル−γ−メルカプト−α−メチル−n−酪酸メ
チル、S−ベンゾイル−β−メルカプトイソ酪酸メチ
ル、S−フェニルアセチル−β−メルカプトイソ酪酸メ
チル等を例示できる。
本発明で用いられるアミン化合物としては、有機アミ
ンであればどのようなものも用いることができ、トリブ
チルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミ
ン、トリエタノールアミン等を例示できる。これらのア
ミンの中では強塩基性の有機アミンが好ましく用いら
れ、その中でも特に第3級アミンが好ましい。好ましい
第3級アミンとしては、DABCO(1,4−ジアザビシクロ
[2,2,2]−オクタン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ
[4,3,0]−ノネン−5)、DBU(1,8−ジアザビシクロ
[5,4,0]−ウンデセン−7)等を例示できる。
ラセミ化に際してはエステル基又はチオエステル基の
加水分解を防止するために極力水分を除去した雰囲気で
反応を行わせることが好ましい。
本発明において光学活性カルボン酸エステル(I)を
アミン化合物と接触させる方法としては、式II−1又は
II−2の不飽和カルボン酸エステル中に光学活性カルボ
ン酸エステル(I)とアミン化合物を含有させる方法が
とられる。
本発明のラセミ化方法は、n=1である式Iの光学活
性カルボン酸エステルから出発する場合は式II−1の不
飽和カルボン酸エステルの存在下に、そしてn=2であ
る式Iの光学活性エステルの場合は式II−2の不飽和カ
ルボン酸エステルの存在下に行われる。
式II−1の不飽和カルボン酸エステルとしては、メタ
クリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブ
チル、2−エチルアクリル酸メチル等を例示でき、式II
−2の不飽和カルボン酸エステルとしては、ジメトキシ
カルボニル−1−ブテン、4−メトキシカルボニル−1
−ペンテン、3−エトキシカルボニル−1−ブテン等を
例示できる。不飽和カルボン酸エステル(II−1)又は
(II−2)の使用量は、光学活性カルボン酸エステル
(I)に対して0.1〜100倍モルが好ましい。また、ラセ
ミ化反応時の重合防止のため各種の重合防止剤を反応液
に添加することが好ましく、その濃度は0.01〜1%が好
都合である。
アミン化合物の添加量は特に制限はないが、カルボン
酸エステル1モルに対してアミン化合物0.005〜1モル
が好ましい。
ラセミ化反応の温度も特に制限はないが、実用的な反
応時間でラセミ化を終了するためには50〜200℃の温度
範囲が好ましい。
反応終了後の反応混合液からラセミ化したカルボン酸
エステルを取得するには、例えば蒸留又はクロマトグラ
フィー等の通常の方法を用いることができる。
〔実施例〕
以下に実施例を用いて本発明をより具体的に説明す
る。
実施例1 ガラス容器にL−(+)−S−アセチル−β−メルカ
プトイソ酪酸メチル(比旋光度[α]D 25=+60.2゜
(c=2.0,CHCl3))10g、0.2重量%のハイドロキノン
を溶解したメチルメタクリレート20g及びDBU(1,8−ジ
アザビシクロ[5,4,0]−ウンデセン−7)500mgを仕込
み、攪拌しながら窒素雰囲気下に100℃で5時間反応を
行った。
反応前後の反応液の性状を第1表に示す。反応液中の
エステル濃度はほぼ一定であるのに対して、旋光度のプ
ラス値が減少している。このことから、(+)体のエス
テルのラセミ化が進行したことが判る。また、反応液の
着色はほとんどみられなかった。
ラセミ化が実際に起こったことを調べるために、反応
終了後の反応液を減圧下で蒸留することにより、純度9
8.1%のS−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メチル
留出区分が7.41g取得できた。この区分の比旋光度
[α]D 25を測定したところ、+36.6゜(c=2,CHCl3
であった。
実施例2 実施例1と同様に、フラスコに、L−(+)−S−ア
セチル−β−メルカプトイソ酪酸メチル(比旋光度
[α]D 25=+60.2゜(c=2.0,CHCl3)10g、0.2重量%
のハイドロキノンを溶解したメチルメタクリレート40g
及びDBU500mgを仕込み、攪拌しながら窒素雰囲気下に10
0℃で9時間反応を行った。次いで、DBUを500mg追加添
加し、更に11時間反応を継続した(合計20時間)、反応
液中のS−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メチル濃
度及び反応液の旋光度の経時変化を第2表に示す。これ
から、反応中にS−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸
メチルは安定であり、かつラセミ化が進行したことが判
る。また、反応液の着色はみられなかった。
反応終了後、反応液を減圧下で蒸留したところ、比旋
光度[α]D 25=+9.1゜(c=2,CHCl3)のS−アセチ
ル−β−メルカプトイソ酪酸メチルを取得することがで
きた。
〔発明の効果〕 本発明によれば、光学活性カルボン酸エステル(I)
のラセミ化反応に際して生成する不飽和カルボン酸エス
テル(II−1)又は(II−2)を、最初から反応系中に
存在させることによって、光学活性エステル(I)から
脱離する不安定なチオカルボン酸(V)が安定化され、
これによりチオカルボン酸(V)が不飽和カルボン酸エ
ステル(II−1)又は(II−2)に効率的に再付加して
ラセミ体のカルボン酸エステルが好収率で得られ、しか
もチオカルボン酸エステル(V)に起因する着色が避け
られる。さらに本発明の方法によれば、ラセミ体のカル
ボン酸エステルを酵素により不斉加水分解して光学活性
カルボン酸を製造するにあたって、従来ラセミ化が困難
であるため残存する対掌体の光学活性カルボン酸エステ
ルを廃棄せざるをえず、原料の有効利用ができなかった
という問題を解決できる。不斉加水分解と本発明による
残存光学活性カルボン酸エステルの再ラセミ化を繰り返
すことにより、原料のカルボン酸エステルを従来より大
幅に有効活用できるという優れた効果が得られる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭55−122758(JP,A) 特開 昭60−12992(JP,A) 特開 昭60−12993(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07C 327/00 C07B 55/00 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】一般式(I) R1−COS−(CH2)n−CH(R2)−COO−R3 (I) (式中、R1はアルキル基、アラルキル基又はアリール
    基、R2及びR3は各々独立にアルキル基を示し、nは1又
    は2を示す)で表される光学活性カルボン酸エステルを
    アミン化合物と接触させてラセミ化するに際し、 nが1の場合は一般式(II−1) CH2=C(R2)−COO−R3 (II−1) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
    飽和カルボン酸エステルを添加して、そして nが2の場合は一般式(II−2) CH2=CH−CH(R2)−COO−R3 (II−2) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
    飽和カルボン酸エステルを添加して反応を行うことを特
    徴とする、光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方
    法。
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