JP3004735B2 - 光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法 - Google Patents

光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法

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JP3004735B2 JP2403864A JP40386490A JP3004735B2 JP 3004735 B2 JP3004735 B2 JP 3004735B2 JP 2403864 A JP2403864 A JP 2403864A JP 40386490 A JP40386490 A JP 40386490A JP 3004735 B2 JP3004735 B2 JP 3004735B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光学活性カルボン酸エス
テルのラセミ化方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】一般式
(III) R1-COS-(CH2)n-CH(R2)-COOH (III) (式中、R1はアルキル基、アラルキル基又はアリール
基、R2及びR3は各々独立にアルキル基を示し、n は1又
は2を示す)で表される光学活性カルボン酸は光学活性
を有する種々の生理活性物質を合成するための原料とし
て有用であり、例えばD (−) −β−アセチルチオイソ
酪酸はアンジオテンシン変換酵素阻害剤系の血圧降下剤
N− (D−α−メチル−β−メルカプトプロピオニル)
−L−プロリンの合成中間体として極めて重要な光学活
性体である。
【0003】しかるに、これらの光学活性体は通常の化
学合成反応による合成が容易でなく、従来はかなり繁雑
な方法で製造されていた。 本発明者らはこのような状況に鑑み、先に一般式 (I) R1-COS-(CH2)n-CH(R2)-COO-R3 (I) (式中、R1、R2及びnは上記の意味を有し、R3はアルキ
ル基を示す)で表されるラセミ体のカルボン酸エステル
を酵素的に不斉加水分解して一般式(III) で表される光
学活性カルボン酸を製造する方法を提案した (特開昭60
-12992号、特開昭60-12993号等参照) 。
【0004】この方法では式Iのラセミ体のエステルの
一方だけが加水分解されて光学活性のカルボン酸 (III)
に変換されるが、他方のエステルは加水分解されないで
生成したカルボン酸と対掌体の光学活性エステル (I)
として残存することになる。もし、この対掌体の光学活
性エステル(I) をラセミ化して元のラセミ体のカルボ
ン酸エステル (I) にすることができれば、これを原料
として光学活性カルボン酸(III) を製造できるので好都
合であるが、このようなラセミ化方法は見いだされてい
ないのが現状である。
【0005】本発明者らはこのような観点から光学活性
カルボン酸エステルのラセミ化方法について検討し、先
に、光学活性カルボン酸エステルをアミン化合物と接触
させることによる光学活性カルボン酸エステルのラセミ
化方法を提案した (特願平1-336893号参照) 。本発明者
らはこのラセミ化がどのような機構で進行するものなの
か更に鋭意研究を行った結果、光学活性カルボン酸エス
テル (I) は一般式 (II-1)又は (II-2) n=1の場合:CH2=C(R2)-COO-R3 (II-1) n=2の場合:CH2=CH-CH(R2)-COO-R3(II-2) (これらの式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表
される不飽和カルボン酸エステルと一般式 (V) R1-CO-SH (V) (式中、R1は上記の意味を有する)で表されるチオカル
ボン酸とに分解され、次いでこのチオカルボン酸 (V)
が不飽和カルボン酸 (II-1) 又は (II-2) に付加するこ
とによりラセミ体のエステル (I) となることを見いだ
した。
【0006】さて、ラセミ化の反応機構からみて、反応
中は光学活性カルボン酸エステル (I) 及びラセミ化さ
れたカルボン酸エステル (I) から常時反応中間体とし
てのチオカルボン酸 (V) が脱離し、同様に反応中間体
として生成する不飽和カルボン酸エステル (II-1) 又は
(II-2) に逐次再付加している。すなわち、ラセミ化を
完全に行うことは、このチオカルボン酸の脱離、再付加
を繰り返し行うことであり、この場合、反応液には反応
中間体としてのチオカルボン酸 (V) が常時存在するこ
とになる。
【0007】ところが、このチオカルボン酸は通常は不
安定な化合物であるため、不飽和カルボン酸エステルに
再付加する前に触媒及び/又は熱により分解されてしま
い、その結果ラセミ化収率が向上しないなどの問題が生
じる。また、ラセミ化速度は、光学活性カルボン酸エス
テル (I) からのチオカルボン酸 (V) の脱離が律速と
考えられ、この脱離反応を効率的に行うことが肝要であ
る。
【0008】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、
光学活性カルボン酸エステル (I) からチオカルボン酸
(V) を効率よく脱離させ、かつ反応中間体として不安
定なチオカルボン酸をできるだけ反応液に単独に存在さ
せるべきでないとの観点から鋭意研究した結果、双極性
非プロトン性溶媒中で反応を行うと上記の脱離反応が促
進され、かつラセミ化反応時の一方の反応中間体である
式 (II-1) 又は (II-2) の不飽和カルボン酸エステルの
存在下で反応を行うと驚くべきことに高収率で短時間に
ラセミ化が進行することを見いだした。
【0009】本発明は上記の知見に基づくもので、一般
式 (I) R1-COS-(CH2)n-CH(R2)-COO-R3 (I) (式中、R1はアルキル基、アラルキル基又はアリール
基、R2及びR3は各々独立にアルキル基を示し、nは1又
は2を示す)で表される光学活性カルボン酸エステル
を、nが1の場合は一般式 (II−1) CH2=C(R2)-COO-R3 (II-1) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
飽和カルボン酸エステル又はnが2の場合は一般式 (II
-2) CH2=CH-CH(R2)-COO-R3 (II-2) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
飽和カルボン酸エステルと双極性非プロトン性溶媒との
混合物中でアミン化合物と接触させることを特徴とす
る、光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法であ
る。
【0010】式Iの光学活性カルボン酸エステルのR1
しては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数7〜18のア
ラルキル基又は炭素数6〜14のアリール基が好ましく用
いられ、好ましいアルキル基としてはメチル基、エチル
基、好ましいアラルキル基としてはベンジル基、好まし
いアリール基としてはフェニル基を例示できる。R2とし
ては炭素数6以下のアルキル基、R3としては炭素数6以
下のアルキル基を好ましいものとして示すことができ
る。R2とR3は同一でも異なってもよい。
【0011】式Iの光学活性カルボン酸エステルの具体
例としては、S−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メ
チル、S−アセチル−γ−メルカプト−α−メチル−n
−酪酸メチル、S−ベンゾイル−β−メルカプトイソ酪
酸メチル、S−フェニルアセチル−β−メルカプトイソ
酪酸メチル等をあげることができる。本発明で用いられ
るアミン化合物としては、有機アミンであればどのよう
なものも用いることができ、トリブチルアミン、モノエ
タノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノール
アミン等を例示できる。これらのアミンの中では強塩基
性の有機アミンが好ましく用いられ、その中でも特に第
3級アミンが好ましい。好ましい第3級アミンとして
は、DABCO (1, 4−ジアザビシクロ[ 2,2,2]オク
タン)、DBN (1, 5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネ
ン−5)、DBU (1, 8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウ
ンデセン−7)等を例示できる。
【0012】本発明において光学活性カルボン酸エステ
ル (I) をアミン化合物と接触させる方法としては、双
極性非プロトン性溶媒と式II-1又はII-2の不飽和カルボ
ン酸エステルとの混合物中に光学活性カルボン酸エステ
ル (I) 及びアミン化合物を含有させる方法がとられ
る。アミン化合物の添加量は特に制限はないが、カルボ
ン酸エステル (I) に対してアミン化合物 0.005〜1倍
モルが好ましい。
【0013】双極性非プロトン性溶媒とは、有機化学反
応の通常の条件下で解離してプロトン(H+ ) を生じない
溶媒のうち双極子モーメントを有する溶媒を意味し、例
えばN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキ
シド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルピロ
リドン、ジメトキシエタンなどが例示される。本発明の
ラセミ化方法には、n=1である式Iの光学活性カルボ
ン酸エステルから出発する場合は式II-1の不飽和カルボ
ン酸エステルが、そしてn=2である式Iの光学活性エ
ステルの場合は式II-2の不飽和エステルが用いられる。
【0014】式II-1の不飽和カルボン酸エステルとして
は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタク
リル酸ブチル、2−エチルアクリル酸メチル等を例示で
き、式II-2の不飽和カルボン酸エステルとしては、4−
メトキシカルボニル−1−ペンテン、3−エトキシカル
ボニル−1−ブテン、3−メトキシカルボニル−1−ブ
テン等を例示できる。
【0015】本発明において反応媒体として用いられる
双極性非プロトン性溶媒と不飽和カルボン酸エステルと
の混合物において、両者の比率は特に限定されないが、
一方の濃度が1〜99%である混合物の使用が好ましい。
この混合物の使用量は、光学活性カルボン酸エステル
(I) に対して 0.1〜100 倍モルが好ましい。また、ラ
セミ化反応時の重合防止のため各種の重合防止剤を反応
液に添加することが好ましく、その濃度は0.01〜1%が
好都合である。
【0016】ラセミ化に際してはエステル基又はチオエ
ステル基の加水分解を防止するために極力水分を除去し
た雰囲気で反応を行うことが好ましい。ラセミ化反応の
温度は特に制限はないが、常圧において不飽和カルボン
酸エステル (II-1) 又は (II-2) の沸点以下の温度が用
いられ、実用的な反応時間でラセミ化を終了するために
は50〜200 ℃の温度範囲が好ましい。
【0017】反応終了後の反応混合液からラセミ化した
カルボン酸エステルを取得するには、例えば蒸留又はク
ロマトグラフィー等の通常の方法を用いることができ
る。
【0018】
【実施例】以下に実施例を用いて本発明をより具体的に
説明する。 実施例1 ガラス製の反応器に、L− (+) −S−アセチル−β−
メルカプトイソ酪酸メチル (比旋光度 [α] D 25=+ 6
0.2°(c=2.0, CHCl3)) 10g を溶解した、メチルメタク
リレートとN,N−ジメチルホルムアミドの混合液 (混
合比1:1)50mlを仕込み、次いでハイドロキノン 100
mg及びDBU (1, 8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセ
ン−7)500mgを添加し、窒素雰囲気下で96℃で7時間加
熱した。
【0019】反応液の旋光度及びS−アセチル−β−メ
ルカプトイソ酪酸メチルの濃度の経時変化を表1に示
す。反応液の旋光度が経時的に低下するにもかかわら
ず、反応中のS−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メ
チル濃度が一定であることから、高収率でラセミ化反応
が進行していることが判る。反応後のS−アセチル−β
−メルカプトイソ酪酸メチルの旋光度を調べるために、
反応終了液を減圧下で単蒸留して純度95%のS−アセチ
ル−β−メルカプトイソ酪酸メチル 5.96gを分取した。
このものの比旋光度 [α]D 25=+ 12.1°(c=2.0, CHC
l3)であった。
【0020】
【表1】
【0021】実施例2 実施例1と同様にラセミ化反応を行い、ただしメチルメ
タクリレートとN, N−ジメチルホルムアミドの混合比
を2:1に、反応時間を10時間に変更した。
【0022】実施例1と同様に反応の経時変化を表2に
示す。この結果から、収率よくラセミ化が進行している
ことが判る。反応後のS−アセチル−β−メルカプトイ
ソ酪酸メチルの旋光度を調べるために、反応終了液を減
圧下で単蒸留して純度97%のS−アセチル−β−メルカ
プトイソ酪酸メチル 5.11gを分取した。このものの比旋
光度 [α]D 25=+ 6.57°(c=2.0, CHCl3)であった。
【0023】
【表2】
【0024】比較例1及び2 実施例1と同様にラセミ化反応行い、ただし反応溶媒と
してメチルメタクリレート単独(比較例1)又はN, N
−ジメチルホルムアミド単独(比較例2)を用いた。反
応の結果を表3に示す。メチルメタクリレート単独の場
合はS−アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メチルは反
応中安定であるが、メチルメタクリレートとN, N−ジ
メチルホルムアミドの混合液 (表1) に比べてラセミ化
速度が劣っていた。また、N, N−ジメチルホルムアミ
ド単独の場合はラセミ化と同時に副反応が併発し、S−
アセチル−β−メルカプトイソ酪酸メチルの減少が顕著
であった。
【0025】反応終了液から蒸留で取得したS−アセチ
ル−β−メルカプトイソ酪酸メチルの比旋光度を比較す
ると、混合溶媒使用の方がメチルメタクリレート単独又
はN, N−ジメチルホルムアミド単独よりも短時間でラ
セミ化ができることが判る。
【0026】
【表3】
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、光学活性カルボン酸エ
ステル (I) のラセミ化反応を、双極性非プロトン性溶
媒と不飽和カルボン酸エステル (II-1) 又は (II-2) と
の混合物中で行うことによって、光学活性エステル
(I) からのチオカルボン酸 (V)の脱離が促進され、こ
の脱離した不安定なチオカルボン酸 (V) が安定化さ
れ、これによりチオカルボン酸 (V) が不飽和カルボン
酸エステル (II-1) 又は (II-2) に効率的に再付加して
ラセミ体のカルボン酸エステルが好収率で得られる。す
なわち本発明により上記の特定の混合溶媒を用いること
によって、ラセミ化を良好な収率で短時間に行うことが
できる。
【0028】さらに本発明の方法によれば、ラセミ体の
カルボン酸エステルを酵素により不斉加水分解して光学
活性カルボン酸を製造するにあたって、従来ラセミ化が
困難であるため残存する対掌体の光学活性カルボン酸エ
ステルを廃棄せざるをえず、原料の有効利用ができなか
ったという問題を解決できる。不斉加水分解と本発明に
よる残存光学活性カルボン酸エステルの再ラセミ化を繰
り返すことにより、原料のカルボン酸エステルを従来よ
り大幅に有効活用できるという優れた効果が得られる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−223243(JP,A) 特開 平4−187669(JP,A) 特開 昭55−122758(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07C 327/00 C07B 55/00 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 一般式 (I) R1-COS-(CH2)n-CH(R2)-COO-R3 (I) (式中、R1はアルキル基、アラルキル基又はアリール
    基、R2及びR3は各々独立にアルキル基を示し、nは1又
    は2を示す)で表される光学活性カルボン酸エステル
    を、nが1の場合は一般式 (II-1) CH2=C(R2)-COO-R3 (II-1) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
    飽和カルボン酸エステル又はnが2の場合は一般式 (II
    -2) CH2=CH-CH(R2)-COO-R3 (II-2) (式中、R2及びR3は上記の意味を有する)で表される不
    飽和カルボン酸エステルと双極性非プロトン性溶媒との
    混合物中でアミン化合物と接触させることを特徴とす
    る、光学活性カルボン酸エステルのラセミ化方法。
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