JP2991595B2 - 苦味の低減方法及び苦味の低減した組成物 - Google Patents

苦味の低減方法及び苦味の低減した組成物

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、苦味を有する医薬品あ
るいは食品などの経口摂取物の苦味を低減する方法及び
苦味の低減した組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】有効成分が苦味を有する医薬品や食品は
多数知られている。なかでも、医薬品の苦味はその摂取
の際に大きな妨げとなる。このため、従来より医薬品の
摂取時の苦味の感触をやわらげるために、錠剤、カプセ
ル剤のような剤型を利用することが多い。すなわち、医
薬品の経口摂取時に、味を感じる器官である舌に接触し
ないようにして、苦味を感じさせなくする工夫がなされ
ている。同様に顆粒剤の場合には、顆粒を胃溶性材料で
被覆する方法も利用されている。しかし、これらの剤型
は、特に小児や老人が摂取する場合には、喉につまった
り、むせたりするような好ましくない現象が発生しやす
いとの問題がある。
【0003】そこで、上記のような摂取時の障害を避け
るために、苦味を有する医薬品に各種の苦味抑制成分を
添加することが提案されている。たとえば、特開平3−
236316号公報には、鎮咳剤として用いられるクエ
ン酸カルベタペンタンにシクロデキストリンを添加する
と、その苦味を抑制されることが記載されている。ま
た、特開平4−235136号公報には、苦味のある物
質にアルギン酸塩を添加して、その苦味を低減する方法
が記載されている。さらに、特開平4−346937号
公報には、苦味のある物質にゲル化剤と味付け剤とを添
加し、味付けゼリー状にして苦味を低減させる方法が記
載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主な目的は、
苦味を有する医薬品あるいは食品などの経口摂取物の苦
味を低減する新規な方法及び苦味の低減した組成物を提
供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、苦味を有する
経口摂取物に脂肪酸のグリセリンジエステル及びしょ糖
脂肪酸エステルを添加することを特徴とする苦味の低減
方法にある。また、本発明は、苦味を有する経口摂取物
に脂肪酸のグリセリンジエステルが0.01〜10重量
%及び該脂肪酸のグリセリンジエステルに対して2倍重
量以下の量のしょ糖脂肪酸エステルが添加されてなるこ
とを特徴とする苦味の低減した組成物にある。本発明の
苦味の低減方法は、苦味を有する経口摂取物が、液剤、
散剤、錠剤、シロップ剤もしくはドライシロップ剤の何
れの剤型の医薬品である場合にも有効であるが、液剤、
シロップ剤もしくはドライシロップ剤の剤型の医薬品で
ある場合に特に有効である。
【0006】本発明の苦味の低減方法の処理対象となる
経口摂取物については特に制限はないが、医薬品あるい
は健康食品などのような治療あるいは健康増進を目的と
して摂取する経口摂取物について利用する場合に特に有
用である。すなわち、嗜好品の場合には、苦味自体がそ
の嗜好の対象となる場合もあり、このような場合に、本
発明の脂肪酸のグリセリンジエステルを添加して苦味を
低減させることは殆どの場合、無意味となる。一方、治
療あるいは健康増進などを目的として摂取する物につい
ては多くの人が好まない苦味を低減あるいは除去するこ
とは極めて有用である。苦味を有する経口摂取用医薬品
の代表例としては、マラリア治療用のキニーネ剤(硫酸
キニーネ、塩酸キニーネ)があり、その外にも前述のク
エン酸カルベタペンタンがあり、また抗生物質のクロラ
ムフェニコール、感染症に有用なエチルコハク酸エリス
ロマイシン、歯科用のチモール、鎮痛(偏頭痛)あるい
は利尿用のカフェイン、止瀉用の塩化ベルベリン、坑ヒ
スタミン薬としてのd−マレイン酸クロルフェニラミ
ン、鎮咳用の塩酸ノスカピン、健胃腸剤としての塩酸パ
パベリン、交感神経興奮薬としての塩酸エフェドリン、
更にタンニン酸などの酸成分を含む各種製剤、また各種
の生薬を挙げることができる。また、医薬品以外にも、
生薬成分を含有するドリング剤などの苦味低減にも、本
発明の苦味の低減方法は有効である。
【0007】本発明において、苦味低減の目的で用いる
脂肪酸のグリセリンジエステルは、脂肪酸のグリセリン
ジエステルが、炭素原子数6〜22(特に、炭素原子数
14〜22)の飽和もしくは不飽和の脂肪酸とグリセリ
ンとのジエステルであることが好ましい。炭素原子数6
〜22の飽和脂肪酸の例としては、ラウリン酸、ミリス
チン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、そ
してベヘン酸を挙げることができる。炭素原子数6〜2
2の不飽和脂肪酸の例としては、パルミトオレイン酸、
オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、ペトロセ
リン酸、エルカ酸、リノール酸、そしてリノレイン酸を
挙げることができる。
【0008】本発明において用いる脂肪酸のグリセリン
ジエステルは、不飽和脂肪酸成分の多い脂肪酸組成を持
つことが望ましい。すなわち、本発明で脂肪酸のグリセ
リンジエステルは、不飽和脂肪酸基が全脂肪酸基の70
重量%以上を占めることが望ましく、特に80重量%以
上であることが望ましい。そして、脂肪酸のグリセリン
ジエステルの大部分がジ不飽和脂肪酸グリセリドである
ことが望ましい。なお、本発明において脂肪酸のグリセ
リンジエステルは、単独で用いても良いが、脂肪酸のグ
リセリンジエステルのみを単離することは工業上で容易
でないため、モノグリセリドあるはトリグリセリドとの
混合物として用いてもよい。ただし、その場合にはグリ
セリド中の50重量%以上がジグリセリドであることが
望ましい。
【0009】本発明において好ましく用いられる脂肪酸
のグリセリンジエステルは、たとえば、不飽和脂肪酸基
の含有量の多い油脂(例、サフラワー油、オリーブ油、
綿実油、コーン油、菜種油、大豆油、パーム油、ひまわ
り油、ごま油;ラード、牛脂、魚油、乳脂、あるいはそ
れらの分別油、ランダム化油、硬化油、エステル交換
油)から選ばれた一種あるいは二種以上の油脂とグリセ
リンとを、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸
化物の存在下でエステル交換させるか、またはこれらの
油脂由来の不飽和脂肪酸含量の高い脂肪酸混合物とグリ
セリンとのエステル化反応により得ることができる。反
応で生成した過剰のモノグリセリドは分子蒸留法または
クロマトグラフィーなどの分離手段を利用して除去する
ことができる。なお、これらの反応は上記のようなアル
カリ触媒等を用いた化学反応によっても実施することが
できるが、1,3−位選択的リパーゼ等の酵素を用いて
温和な条件で反応を行なう方が、得られる脂肪酸のグリ
セリンジエステルの風味もよく、好ましい。
【0010】本発明で用いられる脂肪酸のグリセリンジ
エステルは、天然食用油脂の分別によっても得ることが
できる。
【0011】本発明において、脂肪酸のグリセリンジエ
ステルの使用量は、添加対象物中の苦味成分の性質や
量、および所望の苦味低減効果によっても変わるが、通
常は、添加対象の医薬品に対しては、その有効成分に対
して、1重量%以上、好ましくは5重量%以上、そして
食品などに対しては、全体量の0.01〜10重量%と
する。
【0012】本発明の苦味の低減方法において、脂肪酸
のグリセリンジエステルと共にしょ糖脂肪酸エステルを
用いることが好ましい。ただし、しょ糖脂肪酸エステル
は、脂肪酸のグリセリンジエステルに対して2倍重量以
下の量で用いることが好ましい。また、本発明の苦味の
低減方法において、脂肪酸のグリセリンジエステルと共
にしょ糖を用いることもできる。
【0013】苦味の低減のために脂肪酸のグリセリンジ
エステルが何故有効であるかの点については、必ずしも
明らかではない。しかし、同じく脂肪酸グリセリドであ
る脂肪酸トリグリセリドに比べ、脂肪酸のグリセリンジ
エステルの苦味低減効果が大であることを考慮すると、
多く疎水性物質である苦味成分が、疎水性基が多く、部
分的に親水性基(水酸基)を有する脂肪酸のグリセリン
ジエステルの適度の疎水性・親水性バランスに対して高
い親和性を示し、脂肪酸のグリセリンジエステル相に溶
け込み、このため経口摂取された時も、その脂肪酸のグ
リセリンジエステルに取り込まれた分は舌に触れること
がなく、その結果として、舌に感じる苦味成分が減少す
るものと考えられる。
【0014】
【実施例】以下の各実施例で用いた脂肪酸のグリセリン
ジエステル(以下、単にジグリセリドとも言う)は、下
記の方法で製造したものである。固定化1,3−位選択
的リパーゼである市販リパーゼ製剤(ノボインダストリ
A.S社製、商品名:Lypozyme 3A)を触媒として、
下記菜種油由来脂肪酸860gとグリセリン140gと
を40℃で反応させた。反応後リパーゼ製剤を濾別した
のち、反応生成物を分子蒸留にかけ、常法により精製し
て、脂肪酸基の大部分が不飽和脂肪酸である、ジグリセ
リド80重量%、トリグリセリド18重量%およびモノ
グリセリド2重量%からなるグリセリド混合物を得た。
なお、以下に示すジグリセリドの使用量は、この混合物
の使用量である。
【0015】 ────────────────────── 脂肪酸 名称 脂肪酸組成 ────────────────────── C16:0 パルミチン酸 3〜4 C16:1 パルミトレイン酸 痕跡 C18:0 ステアリン酸 1〜2 C18:1 オレイン酸 約60 C18:2 リノール酸 約20 C18:3 リノレン酸 9〜13 C20:0 アラキン酸 痕跡 C20:1 ゴンドイン酸 2〜3 C22:0 ベヘン酸 痕跡 C22:1 エルカ酸 <5 ──────────────────────
【0016】また、以下の各実施例で用いた脂肪酸トリ
グリセリドは、上記と同じ脂肪酸組成の菜種油である。
なお、実施例4〜実施例7は、参考例である。
【0017】[実施例1]硫酸キニーネ36mg、ジグ
リセリド(DG)9g、そしてしょ糖エステル9gを水
に添加して1000gの水溶液となるようにして試験液
を調製した。次に、上記のジグリセリドを同量のしょ糖
あるいはトリグリセリド(TG)に置き替えた以外は、
同様にして比較用の試験液を調製した。上記の試験液を
19人の嗜好型パネルに試飲させ、苦味の強さの強い順
に順位付けをさせた。その結果をクレーマーの検定によ
り解析した。解析結果を表1に示す。
【0018】 表1(クレーマー検定の結果) ──────────────────────────────────── しょ糖区 TG区 DG区 無添加区 ──────────────────────────────────── 順位和 63 37 63 27 ──────────────────────────────────── 検定 危険率<1% 危険率<5% 危険率<1% 危険率<1% 結果 苦くない 苦い 苦くない 苦い ────────────────────────────────────
【0019】以上の結果から、しょ糖の添加とジグリセ
リドの添加とは苦味の低減に有効であり、トリグリセリ
ドの添加は苦味の低減に有効でないことが確認された。
【0020】[実施例2]硫酸キニーネ39mg(また
は、78mgあるいは156mg)、ジグリセリド(D
G)100g、そしてしょ糖エステル10gに水を添加
して1000gの水溶液を得た。上記の、またジグリセ
リド100gとしょ糖エステル10gの組合せを、ジグ
リセリド200gとしょ糖エステル10gの組合せ、あ
るいはしょ糖の単独使用(100g、200g、300
g)に置き替えた以外は同様にして1000gの水溶液
を得た。なお、全重量の調整は水の量を調節して行なっ
た。上記の各水溶液を4人の準分析型パネルに試飲さ
せ、苦味の強さと飲み易さとを5段階評価の一対比較に
より評価させた。その結果をシェフェ法によって解析
し、得られた平均強度aを、下記のようにクラス分けし
た。 苦味の低減効果 飲み易さの比較 A: −1.6≦a<−0.8 A: 1.6>a≧ 0.8 B: −0.8≦a< 0.0 B: 0.8>a≧ 0.0 C: 0.0≦a< 0.8 C: 0.0>a≧−0.8 D: 0.8≦a< 1.6 D: −0.8>a≧−1.6 解析結果を表2と表3とに示す。
【0021】 表2(しょ糖およびジグリセリドの添加による苦味の低減効果の比較) ──────────────────────────────────── 硫酸キニーネ濃度(mg/L) ───────────────────── 37 78 152 ──────────────────────────────────── しょ糖100g(10%) C C D しょ糖200g(20%) B B C しょ糖300g(30%) C B B DG100g(10%)+ しょ糖エステル10g B B B DG200g(20%)+ しょ糖エステル10g B A A ──────────────────────────────────── ただし、A>B>C>Dの順に苦味低減効果が高いこと
を意味する。
【0022】 表3(しょ糖およびジグリセリドの添加による苦味溶液の飲み易さの比較) ──────────────────────────────────── 硫酸キニーネ濃度(mg/L) ───────────────────── 37 78 152 ──────────────────────────────────── しょ糖100g(10%) C D D しょ糖200g(20%) B B C しょ糖300g(30%) B B B DG100g(10%)+ しょ糖エステル10g C B B DG200g(20%)+ しょ糖エステル10g C B B ──────────────────────────────────── ただし、A>B>C>Dの順に飲み易いことを意味す
る。
【0023】表2と表3の結果から、苦味低減の効果は
硫酸キニーネの濃度が低いときは、しょ糖添加とジグリ
セリド添加との間に大きな差は認められないが、硫酸キ
ニーネの濃度が高くなるに従って、しょ糖添加による苦
味低減効果が認めらなくなってくるのに対して、ジグリ
セリド添加による苦味低減効果は顕著に現われるように
なってくることがわかる。また、飲み易さの傾向につい
ても同様な結果となっている。
【0024】[実施例3]ジグリセリドを添加して苦味
を低減した医薬品液剤の組成例を以下に示す。 硫酸キニーネ 78mg しょ糖エステル 10g ジグリセリド 100g 水 890g
【0025】[実施例4]ジグリセリドを添加して苦味
を低減した医薬品シロップ剤の組成例を以下に示す。 パルミチン酸クロラムフェニコール 力価500 単シロップ 20mL ジグリセリド 2g (単シロップは、比重1.310〜1.325のしょ糖
溶液である)
【0026】[実施例5]ジグリセリドを添加して苦味
を低減した医薬品ドライシロップ剤の組成例を以下に示
す。 エチルコハク酸エリスロマイシン 力価1000 しょ糖 6.8g ジグリセリド 2g
【0027】[実施例6]ジグリセリドを添加して苦味
を低減した医薬品散剤の組成例を以下に示す。 (1) 塩酸エフェドリン 100g 乳糖 300g デンプン 300g ジグリセリド 300g (2) ロートエキス 15g 塩酸パパベリン 15g アミノ安息香酸エチル 120g 乳糖 300g デンプン 300g ジグリセリド 250g
【0028】[実施例7]ジグリセリドを添加して苦味
を低減した医薬品錠剤の組成例を以下に示す。 塩酸エフェドリン 25g 乳糖 40g 白糖 40g デンプン 25g ジグリセリド 20g
【0029】
【発明の効果】本発明の苦味の低減方法を利用すること
により、苦味を有する医薬品あるいは食品などの経口摂
取物の苦味を有効に低減することができる。そして、本
発明の苦味の低減方法は特に、しょ糖の添加が殆ど苦味
低減(抑制)効果を及ぼさないような苦味の強い場合、
苦味成分が多い場合などにおいても顕著な苦味低減作用
を及ぼすことができる。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 苦味を有する経口摂取物に脂肪酸のグリ
    セリンジエステル及びしょ糖脂肪酸エステルを添加する
    ことを特徴とする苦味の低減方法。
  2. 【請求項2】 脂肪酸のグリセリンジエステルが、炭素
    原子数6〜22の不飽和脂肪酸残基が全脂肪酸残基の7
    0%以上である請求項1に記載の苦味の低減方法。
  3. 【請求項3】 経口摂取物が液剤、シロップ剤もしくは
    ドライシロップ剤の剤型の医薬品である請求項1に記載
    の苦味の低減方法。
  4. 【請求項4】 苦味を有する経口摂取物に、脂肪酸のグ
    リセリンジエステルが0.01〜10重量%及び該ジエ
    ステルに対して2倍重量以下の量のしょ糖脂肪酸エステ
    ルが添加されてなることを特徴とする苦味の低減した組
    成物。
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