JP2938750B2 - 溶接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に優れた表面処理鋼板およびその製造方法 - Google Patents

溶接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に優れた表面処理鋼板およびその製造方法

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JP2938750B2 JP5999494A JP5999494A JP2938750B2 JP 2938750 B2 JP2938750 B2 JP 2938750B2 JP 5999494 A JP5999494 A JP 5999494A JP 5999494 A JP5999494 A JP 5999494A JP 2938750 B2 JP2938750 B2 JP 2938750B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、食料品、飲料物、その
他の充填に利用される溶接缶等に利用される表面処理鋼
板であって、特に溶接性、塗料密着性、フィルム密着
性、さらには色調(白色度)に優れた表面処理鋼板、お
よびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】食料品、飲料品、その他に使用する金属
容器材料として、ぶりき、ティンフリー鋼板等が知られ
ている。
【0003】ぶりきは溶接性に優れているので、最近著
しく普及している電気抵抗シーム溶接法によって製造さ
れる溶接缶に大量に使用されているが、錫が高価であ
り、材料コストが高いという問題点がある。一方、ティ
ンフリー鋼板は、材料コスト、塗料密着性、塗装後耐食
性等の点ではぶりきよりも優れるものの、溶接性に劣る
という欠点がある。そのため、ティンフリー鋼板は、接
着法や表面研削処理後に溶接する等の方法によって製缶
に利用されているが、材料歩留りや製造コスト等の点で
問題点がある。
【0004】また、高価な錫の付着量を低減して、ぶり
きのコストを低減した極薄錫めっき鋼板も製造されてい
る。ここで、錫めっき鋼板では、塗装焼付工程において
錫の一部が合金化して、溶接性に付与する金属錫が減少
するために、錫量の低減には限界がある。そこで、特公
昭62−54399号公報では、錫めっき後にリフロー
処理を行って、錫のはじきを利用して錫凸部を形成した
シーム溶接缶用表面処理鋼板が開示されている。この表
面処理鋼板は錫量の低減には効果があり、また通常の極
薄錫めっき鋼板よりも優れた塗料密着性を有するが、や
はり塗料密着性はティンフリー鋼板に劣る。
【0005】前記特公昭62−54399号公報にも開
示されるように、錫付着量を低減して、かつティンフリ
ー鋼板のような良好な塗料密着性を有する鋼板を実現す
るためには、鋼板表面にぶりきと同様の構造を有する部
分(鋼板表面に錫層がある程度存在する部分)と、ティ
ンフリー鋼板と同様の構造を有する部分(鋼板表面に錫
層がほとんどなく、クロメート処理層のみが存在する部
分)とを混在させればよい。このような構成を有する鋼
板は、鋼板表面を錫で不連続的に覆った後、錫層および
鋼板素地を金属クロム層およびクロム水和酸化物層で覆
うことによって製造可能である。前述の特公昭62−5
4399号公報以外にも、特公平2−16397号、特
開平2−159386号、同4−24789号の各公報
にも、こうした構造を持つ鋼板(製造方法)の例が開示
されている。
【0006】ところが、特開平2−159386号およ
び同4−24789号の両公報に開示される表面処理鋼
板は、鋼板表面に粒状で錫めっきするため、鋼板と錫と
の接触面積が小さく、錫と鋼板との接着性が悪いという
問題点がある。他方、特公平2−16397号公報に開
示される表面処理鋼板には、このような問題はないが、
溶接性、塗料密着性共に十分であるとはいえない。しか
も、これらの各公報に開示される表面処理鋼板の製造方
法では、不連続錫めっき層形成中の電流密度が2〜15
A/dm2 程度であり、通常の操業条件(〜50A/dm2
度)に比べて電流密度が低く、製造効率の上でも問題が
ある。
【0007】さらに、通常の製缶用鋼板では、塗装の映
えを良好にする目的で塗装前にホワイト下地塗装が施さ
れるが、近年では製缶コストを低減するため、このホワ
イト下地塗装を省略あるいは低減できる表面処理鋼板の
出現が望まれている。また、無塗装の鋼板にラミネート
フィルムを貼り付けた製缶用鋼板が缶用材料として有望
視されているが、無塗装でもフィルムの色彩を損なわな
い色調を持ち、さらにフィルムとの密着性にも優れた表
面処理鋼板も出現が望まれている。しかしながら、前述
の各種の技術による表面処理鋼板は、いずれも色調が暗
く、またフィルム密着性にも劣り、このような要求に答
えることはできない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、前記
従来技術の問題点を解決することにあり、優れた溶接性
および塗料密着性を有するのみならず、ホワイト下地塗
装を省略あるいは低減できる良好な色調(白色度)を有
し、しかも、フィルムとの密着性にも優れた表面処理鋼
板、およびこの表面処理鋼板の製造方法を提供すること
にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため
に、本発明の表面処理鋼板の第1の態様は、鋼板表面を
不連続かつ不均一に覆う10〜800mg/m2 の錫層、前
記錫層および鋼板素地を連続的に覆う2〜200mg/m2
の金属クロム層および3〜100mg/m2 のクロム水和酸
化物層を有し、前記錫層のうち、基底部直径0.1〜
3.0μmの結晶が複数結合した粒状でない形態を持つ
錫結晶群の割合が5%以上であり、さらに前記錫結晶群
の鋼板表面からの高さが0.7μm以上の部分の鋼板面
投影面積が鋼板表面に対して0.5%以上であることを
特徴とする溶接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調
に優れた表面処理鋼板を提供する。
【0010】また、本発明の表面処理鋼板の第2の態様
は、一部が不均一に隆起しつつ鋼板表面を連続的に覆
う、平坦部における錫付着量が1〜500mg/m2 かつ前
記隆起部における錫付着量が10〜800mg/m2 の錫
層、前記錫層を連続的に覆う2〜200mg/m2 の金属ク
ロム層および3〜100mg/m2 のクロム水和酸化物層を
有し、前記錫層の隆起部において、基底部直径0.1〜
3.0μmの結晶が複数結合した粒状でない形態を持つ
錫結晶群の割合が5%以上であり、さらに前記錫結晶群
の平坦部からの高さが0.7μm以上の部分の鋼板面投
影面積が鋼板表面に対して0.5%以上であることを特
徴とする溶接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に
優れた表面処理鋼板を提供する。
【0011】さらに、本発明の表面処理鋼板の製造方法
は、鋼板表面を脱脂、酸洗した後、ハロゲンイオンを
0.003〜5mol/L含有し、さらに硫酸イオンおよび
/またはスルホン酸化合物を0.01mol/L以上含有す
る酸性錫めっき浴を用いて錫めっきを行い、さらにクロ
ムめっき浴および/またはクロメート処理浴によって金
属クロム層およびその上層のクロム水和酸化物層を形成
することを特徴とする溶接性、塗料密着性、フィルム密
着性、色調に優れた表面処理鋼板の製造方法を提供す
る。
【0012】さらに前記本発明の表面処理鋼板の製造方
法において、前記錫めっきを行う前、あるいは前記錫め
っきを行った後で金属クロム層およびクロム水和酸化物
層の形成前に、通常の錫めっき浴による錫めっき層の形
成を行うのが好ましい。
【0013】以下、本発明の溶接性、塗料密着性、フィ
ルム密着性、色調に優れた表面処理鋼板、およびその製
造方法について詳細に説明する。
【0014】図1に、本発明の溶接性、塗料密着性、フ
ィルム密着性、色調に優れた表面処理鋼板(以下、単に
表面処理鋼板とする)の第1の態様の概略断面図を示
す。図1に示されるように、本発明の表面処理鋼板(第
1の態様)10は、めっき原板12の表面に、めっき原
板12の表面を部分的に露出するように(すなわち不連
続で)不均一な錫層14が形成され、この錫層14およ
びめっき原板12表面を連続的に覆って金属クロム層お
よびクロム水和酸化物層からなるクロメート処理層16
が形成される。
【0015】本発明の表面処理鋼板10においては、錫
層14は、不均一でかつめっき原板12の表面に不連続
的に形成されるものであるが、これのみならず、錫層1
4において、基底部直径0.1〜3.0μmの結晶が複
数結合した粒状でない形態を持つ錫結晶群(以下、粒状
でない錫結晶群とする)の割合が5%以上であること;
この錫結晶群のめっき原板12表面からの高さが0.
7μm以上の部分の鋼板面投影面積が鋼板表面に対して
0.5%以上(以下、「比鋼板面積が5%以上」等と表
現する)であること; が重要である。
【0016】製缶用表面処理鋼板について本発明者らが
鋭意検討を重ねた結果、錫付着量の低減が計れる不連続
錫めっき層を有する表面処理鋼板において、優れた溶接
性および塗料密着性を有し、これのみならず、これまで
注目されていなかった鋼板の色調(主に白色度)やフィ
ルムとの密着性をも十分に向上させるためには、従来か
ら提示されている不連続錫層の大きさや数のみならず、
鋼板表面からある程度の高さを有する錫層14が所定の
面積比率以上で存在すること、および錫層14におい
て、結晶が複数結合して粒状ではない形態を持つ錫結晶
群が所定の量以上存在することが重要であるということ
を初めて知見し、本発明を完成した。
【0017】特公昭62−124298号公報に開示さ
れる表面処理鋼板においては、めっき原板からの錫層の
高さは0.007〜0.7μmの範囲であることが記載
されている。また、特公平2−16397号公報に開示
される表面処理鋼板においては、めっき原板からの錫層
の高さについては具体的な記載はないが、同発明者らに
よる「鉄と鋼 77年(1991) 第7号 157ページ」
に記される「Sn量が0.5g/m2で、Snの被覆率を20%
とすると、突起状になったSn部の厚さは2.5g/m2のSn
量をめっきしたぶりきに匹敵する。」の記載より、この
表面処理鋼板におけるめっき原板からの錫層の高さは約
0.34μmと類推される。
【0018】このように、従来の表面処理鋼板では錫層
の高さは通常0.7μm未満であり、安定した溶接性、
塗料密着性を得ることができないと共に、錫被覆率を上
げても鋼板白色化の効果を発現することができず、ま
た、フィルムとの密着性を向上することもできない。
【0019】これに対して、本発明の表面処理鋼板にお
いては、錫層14において、粒状でない錫結晶群の割合
が5%以上で、さらに、この錫結晶群のめっき原板12
表面からの高さが0.7μm以上の部分の比鋼板面積が
0.5%以上である。錫層14がこのような高さおよび
二次元的形状を満たす時、驚くべきことに、鋼板の白色
度、フィルム密着性が従来の技術に比べて大きく向上す
ることがわかった。
【0020】上記条件を満たすときに色調を改善して表
面処理鋼板10の白色度が向上する理由としては、錫層
14が可視光の波長(約0.4μm〜0.8μm)より
も長周期な構造を持ち、さらに結晶同士が結合する結
果、複雑な三次元形状を持つことによって、光の乱反射
を増大して鋼板表面を白色化するためであると考えられ
る。また、フィルム密着性を向上させる原因は明らかで
はないが、適度な鋼板表面の凹凸構造により、フィルム
と表面処理鋼板10の表面との接触面積が増大すること
が考えられる。錫層14において、粒状でない錫結晶群
の割合が5%未満であったり、また、高さが0.7μm
以上の部分が比鋼板面積で0.5%未満である場合に
は、白色度、フィルム密着性を共に向上することはでき
ない。
【0021】特開平2−159386号および同4−2
47897号の各公報に開示される技術では、錫を粒状
に析出させていることから錫層の原板表面からの高さは
粒径と同等、すなわち最大2.4μm程度であると考え
られるが、錫結晶を粒状に孤立して析出させているた
め、錫層と原板との密着性は本発明に比べて低下し、錫
層と原板との間の剥離が問題となり、しかも、フィルム
密着性にも悪影響を与える。また、色調が原板あるいは
ティンフリー鋼板と同様に暗いものとなり、鋼板色調の
改善、すなわち鋼板表面の白色化を実現することもでき
ない。さらに、特公平2−16397号公報に開示され
ている表面処理鋼板の錫層の高さは、前述のように0.
7μm未満であるので、白色度、フィルム密着性の向上
は期待できない。
【0022】錫層14の高さが0.7μm以上である部
分は、比鋼板面積で0.5%以上であればよく、特に特
定の範囲に限定されない。また、錫層14における、粒
状でない錫結晶群の割合は5%以上であればよく、特に
特定の範囲に限定されない。なお、錫結晶の基底部直径
は好ましくは0.5〜2.0μmである。この範囲とす
ることにより、白色度、フィルム密着性等の点でより好
ましい結果を得る。
【0023】本発明の表面処理鋼板10において、錫層
14の付着量は10〜800mg/m2である。錫層14の
付着量が10mg/m2 未満では、塗装加熱後に金属錫が残
存せず溶接性が低下してしまう。また、800mg/m2
超えて錫層14が形成されても、優れた塗料密着性、溶
接性、フィルム密着性、色調等の効果が飽和し、しか
も、錫層14が剥離、欠落し易くなるという問題が生じ
る。錫層14の付着量は、好ましくは50〜600mg/m
2 、より好ましくは70〜450mg/m2 である。上記構
成を有することにより、塗料密着性、溶接性、フィルム
密着性、色調を好適に改善した上、錫量低減を計ること
ができる。
【0024】このような本発明の第1の態様の表面処理
鋼板10の一例の金属組織の走査型電子顕微鏡写真を図
2に示す。図2において、暗部はめっき原板12素地、
明部は不連続錫層14である。
【0025】ここで、本発明の表面処理鋼板の第2の態
様は、以上説明した図1に示される例のように不連続の
錫層14を有する構成ではなく、めっき原板表面を薄い
錫層で全面的に覆い、かつ錫層の一部が不均一に隆起す
るような構成を有する。このような構成を有する本発明
の表面処理鋼板の第2の態様は、前述の図1に示される
表面処理鋼板10に比べて、塗料密着性は若干低下する
ものの、白色度が向上してより良好な色調を実現でき
る。従って、より高い白色度を要求される用途や塗料密
着性を大きく要求されない用途に対して好適に使用する
ことができる。
【0026】なお、本発明の表面処理鋼板の第2の態様
は、あたかも前述の第1の態様の表面処理鋼板10の不
連続錫層14の下に、薄い平坦な連続錫めっきを有する
ような構成であり、従って、錫層の高さとは平坦部から
の隆起部の高さである。これ以外の各種要件や好ましい
範囲等は、基本的に前述の第1の態様の表面処理鋼板1
0と同様であるので、以下の説明は異なる点のみについ
て行う。
【0027】本発明の表面処理鋼板の第2の態様におい
ては、錫層の付着量は、隆起を有さない平坦部で塗料密
着性を大きく損なわない範囲とする必要があり、平坦部
で1〜500mg/m2 、好ましくは10〜200mg/m2
ある。平坦部の錫層付着量が1mg/m2 未満では、色調改
善等の点で不都合であり、また、平坦部の錫層付着量が
500mg/m2 を超えると、塗料密着性およびフィルム密
着性の低下と共に、錫使用量削減等の点で不都合を生じ
る。
【0028】また、この平坦部の一部が不均一に隆起す
る隆起部分は、前述の第1の態様における錫層14と同
様であり、付着量は10〜800mg/m2 で、隆起部分の
うち粒状でない錫結晶群が5%以上であり、さらに、こ
の錫結晶群の平坦部からの高さが0.7μm以上の部分
の比鋼板面積が0.5%以上である。
【0029】本発明の表面処理鋼板は、このような錫層
の上層を連続的に覆って、金属クロム層およびクロム水
和酸化物層からなるクロメート処理層16が形成され
る。クロメート処理層16において、金属クロムおよび
クロム水和酸化物の量が少ないと、十分な耐食性および
塗料密着性を得ることができず、逆に多すぎると溶接性
が悪くなってしまう。従って、金属クロムおよびクロム
水和酸化物量は一般的なティンフリー鋼板やクロメート
処理と同等でよく、金属クロムの量は2〜200mg/
m2 、好ましくは5〜100mg/m2 程度である。他方、
クロム水和酸化物の量は3〜100mg/m2、好ましくは
5〜40mg/m2 程度である。
【0030】以下、このような本発明の表面処理鋼板を
製造する、本発明の表面処理鋼板の製造方法について説
明する。
【0031】まず、めっき原板の表面を酸洗および脱脂
する。酸洗、脱脂方法には特に限定はなく、通常の表面
処理鋼板の製造方法で使用される各種の方法が利用可能
である。
【0032】酸洗、脱脂を行った後、ハロゲンイオンを
0.003〜5mol/L(リットル)含有し、さらに硫酸
イオンおよび/またはスルホン酸化合物を0.01mol/
L以上含有する酸性錫めっき浴を用いて錫めっきを行
う。本発明の製造方法においては、通常用いられる酸性
錫めっき浴にハロゲンイオンを所定量添加した錫めっき
浴を用いることに大きな特徴があり、このような錫めっ
き浴を用いることにより、ハロゲンイオンによって錫の
電析を妨害して、前述のような、本発明の表面処理鋼板
に形成される不連続かつ不均一な錫層(図1錫層14)
を良好に形成することができる。
【0033】ハロゲンイオンには特に限定はなく、
- ,Cl- ,Br- ,I- 等、各種のハロゲンイオン
がいずれも利用可能であるいが、特に、Cl- が簡便で
あり、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩酸等を、通常
用いられる酸性錫めっき浴に所定量添加すればよい。な
お、ほかのハロゲンイオンを使用する際にも、同様のハ
ロゲン化物を添加すればよい。
【0034】本発明の製造方法に用いられるめっき浴に
おいて、ハロゲンイオンの含有量は0.003〜5mol/
Lである。ハロゲンイオンの含有量が0.003mol/L
未満では、ハロゲンイオン添加の効果を得ることができ
ず、前述のような不均一な錫層が形成できず、ハロゲン
イオンが5mol/Lを超えて含有されても、効果が飽和
し、まためっきすじムラやイオンのスラッジ化を引き起
こしてしまう。ハロゲンイオンの含有量は、好ましくは
0.02〜2mol/L、より好ましくは0.1〜1mol/L
であり、上記範囲とすることにより、広い電流密度範囲
で、めっきすじムラのない本発明の表面処理鋼板に形成
される不連続錫めっきを得ることができる。また、硫酸
イオンおよび/またはスルホン酸化合物が0.01mol/
L以上であれば特に限定はない。
【0035】本発明の製造方法に使用される酸性錫めっ
き浴には特に限定はなく、例えば、硫酸浴、フェロスタ
ン浴、アルカンスルホン酸浴、アルカノールスルホン酸
浴等、公知の酸性錫めっき浴がすべて使用可能である。
また、本発明の製造方法では、めっき浴には硫酸イオン
および/またはスルホン酸化合物が0.01mol/L以上
含有されるが、硫酸イオンやスルホン酸化合物は、通常
は、これらの浴の導電助剤としてあらかじめ上記量以上
含有されているので、これらの酸性錫めっき浴を用いて
本発明を実施するときに新たに添加する必要はない。浴
中の錫イオン濃度には特に限定はないが、錫の析出効
率、浴単価等を考慮して5〜80g/L程度が好ましく、
より好ましくは10〜30g/L程度である。また、酸濃
度にも特に限定はないが、好ましくは遊離酸濃度が硫酸
換算で10〜100g/L程度、より好ましくは20〜6
0g/L程度である。
【0036】なお、本発明の製造方法でハロゲン浴を用
いる場合には、硫酸イオンおよび/またはスルホン酸化
合物を0.01mol/L以上添加する。スルホン酸化合物
としては、フェノールスルホン酸やアルカノールスルホ
ン酸、アルカンスルホン酸等を用いることができ、また
これらの錫化合物も使用可能である。このようにするこ
とにより、ハロゲン浴でも不連続めっきを製造すること
ができる。
【0037】酸性錫めっき浴中に光沢剤を制限なく添加
できることも、本発明の表面処理鋼板の製造方法の大き
な特徴であり利点である。前述の特公平2−16397
号、特開平2−159386号および同4−24789
7号等の各公報に開示されるように、従来の技術におい
ては、不均一な錫層を形成するためには、光沢剤を添加
しないか、あるいは添加しても極めて少量とする必要が
あると考えられていた。そのため、従来の不均一錫めっ
き鋼板は、錫層とめっき原板との密着性が悪いという大
きな問題点があり、また過電圧を下げて結晶粒を成長さ
せるため原理上電流密度を高くすることができず、操業
の面から見ても極めて不利であった。
【0038】これに対し、ハロゲンイオンと、硫酸イオ
ンおよび/またはスルホン酸化合物とを含有する酸性錫
めっき浴を使用し、ハロゲンイオンの作用によって錫の
電析を妨げる本発明の製造方法においては、従来の不均
一な錫層を形成する方法のように析出過電圧を下げる必
要がなく、通常の錫めっき浴のように通常量の光沢剤を
添加することができ、また、電流密度も通常の錫めっき
操業と同様でよい。その結果、錫層とめっき原板との密
着性を良好なものとでき、しかも、生産効率も向上する
ことができる。
【0039】使用可能な光沢剤には特に限定はなく、通
常の錫めっき浴に使用される各種の光沢剤がいずれも使
用でき、例えば、ノニオン系、カチオン系、両性もしく
はアニオン系の界面活性剤等が各種使用可能である。特
に、ノニオン系のポリオキシアルキレンアルキルエーテ
ルが有効である。さらに、錫のスラッジ化を抑制するた
めの酸化防止剤を併用してもよい。またその添加量も通
常の酸性錫めっき浴と同様でよく、通常0.1〜30g/
L程度、好ましくは0.5〜10g/L程度である。
【0040】本発明の製造方法において、錫めっきを行
う際の電流密度範囲にも特に限定はなく、通常1〜20
0A/dm2 程度、好ましくは10〜70A/dm2 の範囲で、
操業条件や表面処理鋼板に求められる塗料密着性、白色
度等に応じて適宜決定すればよい。なお、電流密度を低
くすると、塗料密着性は向上し白色度は低下する傾向に
あり、逆に、電流密度を高くすると、塗料密着性は低下
して白色度が向上する傾向にあるが、上記範囲の電流密
度で操業すれば、特に問題は生じない。
【0041】本発明の表面処理鋼板の製造方法において
は、ハロゲンイオン、硫酸イオンおよび/またはスルホ
ン酸化合物を含有する酸性錫めっき浴による不均一錫め
っき層の形成前または後(ただし、後述するクロメート
層の形成前)に、通常の錫めっき浴によって均一な錫め
っき層を形成してもよい。これによって、本発明の表面
処理鋼板の第2の態様を製造することができる。前述の
ように、全面を錫層が覆うことでめっき原板の露出部が
なくなるため、塗料密着性は若干低下するものの白色度
が向上するので、要求される表面処理鋼板の性能に応じ
て適宜こうした処理を行えばよい。
【0042】均一な錫めっき層を形成するためのめっき
浴には特に限定はなく、アルカリ浴、ハロゲン浴、硫酸
浴、フェロスタン浴、アルカンスルホン酸浴、アルカノ
ールスルホン酸浴等、公知の錫めっき浴が好適に使用可
能である。また、めっき条件にも特に限定はない。しか
しながら、不均一めっきを行った後に均一めっきを形成
する場合には、めっき原板にも均一に錫が付着するため
には、析出過電圧を上げる必要があるので、できれば高
電流密度でめっきを行うのがよく、10〜200A/dm2
程度の電流密度でめっきを行うのが好ましい。
【0043】本発明の表面処理鋼板の製造方法において
は、このようにして錫めっき層を形成した後、通常用い
られるクロムめっき浴および/またはクロメート処理浴
によって、鋼板全面に金属クロム層とクロム水和酸化物
層を形成する。クロムめっき浴およびクロメート処理浴
や処理条件には特に限定はなく、例えば、クロム酸浴で
電流密度10〜100A/dm2 程度で陰極処理を行う方法
が例示される。
【0044】また、金属クロム層およびクロム水和酸化
物層を形成しやすくするために、前もって錫層表面に形
成されている錫酸化物層を除去するのが好ましい。錫酸
化物層の除去方法としては、例えば、炭酸ナトリウム水
溶液中で、錫めっき後の鋼板を陰極処理する方法が例示
される。
【0045】以上、本発明の溶接性、塗料密着性、フィ
ルム密着性、色調に優れた表面処理鋼板、およびその製
造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に
限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において各
種の改良や変更を行ってもよいのはもちろんである。
【0046】
【実施例】以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明
をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に
限定されないのは、もちろんのことである。
【0047】[発明例]通常のぶりき原板を電解脱脂お
よび酸洗した後、下記表1に示される条件で不均一錫め
っきを行った。なお、実施例1,3,6および9は硫酸
浴を、実施例2,5および8はフェノールスルホン酸浴
を、実施例4はメタンスルホン酸浴を、実施例7はイソ
プロパノールスルホン酸浴を、それぞれ用いた。また、
各めっき浴には、塩化ナトリウムを添加することで塩素
イオンをハロゲンイオンとして添加した。
【0048】表中の光沢剤のうち、AEはエチレンオキ
シドおよびプロピレンオキシドをそれぞれ36分子(光
沢剤1分子当たり)付加した炭素数4のポリオキシアル
キレンアルキルエーテル(分子式 :C4H9-O-(CH2CH2O)36
-(CH2CH2CH2O)36-H)を; ENはエトキシ化αナフトー
ルを; カチオンはラウリルトリメチルアンモニウム塩
を; それぞれ示す。また、ポリオキシアルキレンアル
キルエーテルを光沢剤として使用した例のうち、発明例
2および4にはカテコールを、発明例1,3,7および
9にはカテコールスルホン酸を、それぞれ酸化防止剤と
して1g/L併用添加した。
【0049】さらに、表1中の均一錫層を有する例は、
表1に示される不均一錫めっきを施した後に、ハロゲン
浴を用い電流密度70A/dm2 の条件で、200mg/m2
錫めっきを不均一錫めっき層およびめっき原板に均一に
めっきした。
【0050】このようにして得られた錫めっき鋼板を、
炭酸ナトリウムを10g/Lを含む水溶液中で、電流密度
1A/dm2 、浴温50℃で陰極電解を行って、錫酸化物層
を除去した。次いで、クロム酸浴(CrO3;60g/L,硫
酸;0.6g/L,浴温40℃)中で電流密度30A/dm2
で陰極電解して金属クロム層およびクロム水和酸化物層
を形成した。なお、発明例2および4では、この後リン
ス液(CrO3;110g/L,浴温80℃)中に3〜5秒浸
漬して、さらにクロム水和酸化物を形成させた。
【0051】[比較例]比較例1として#25ぶりき
を、比較例3として通常のティンフリー鋼板を用意し
た。また、比較例2としては、特公昭62−54399
号公報の実施例1に準じて、ハロゲン浴によって錫を平
坦にめっきし、塩化アンモニウム0.5g/Lのフラック
スを塗布、乾燥して錫拡散処理を行った後にリフロー処
理を行い、クロメート浴中(CrO3;15g/L,硫酸;
0.13g/L,浴温40℃)で電流密度1.5A/dm2
条件でクロメート被膜を形成して作製したリフロー型島
状錫めっき鋼板を用意した。
【0052】また、比較例4は特開平2−159386
号公報の実施例に準じて、硫酸浴を用いて下記表1に示
される条件で錫めっきを行った後、クロメート浴中(Cr
O3;100g/L,硫酸;1.2g/L,浴温50℃)で電
流密度50A/dm2 の条件でクロメート被膜を形成した表
面処理鋼板である。さらに、比較例5は特公平2−16
397号公報の実施例に準じて、フェノールスルホン酸
浴を用いて下記表1に示される条件で錫めっきを行った
後、クロメート浴中(CrO3;50g/L,硫酸;0.5g/
L,浴温50℃)で電流密度50A/dm2 の条件でクロメ
ート被膜を形成した表面処理鋼板である。
【0053】さらに、比較例6は、発明例1の塩素イオ
ン濃度のみを変更して不均一錫めっきを行った例であ
り、比較例7は、実施例2の不均一錫めっき後に得られ
た鋼板を、70℃の水酸化ナトリウム水溶液(濃度2規
定)に浸漬して、表面錫層の一部を溶解した後、クロメ
ート被膜を形成した例である。条件等を下記表1に併記
する。
【0054】以上のようにして得られた各発明例および
比較例の表面処理鋼板について、下記の各種の測定およ
び試験を行った。
【0055】(1)錫層の鋼板面からの最大高さ 平坦部(ぶりき原板表面、均一錫層平坦部、均一錫合金
層平坦部)から隆起した錫層の最頂部までの高さを、原
子間力顕微鏡(Digital Instruments 社製 Na-no Scop
e II)を用いて100×100μmの視野中で測定し
た。
【0056】(2)錫層の高さが0.7μm以上である
部分の鋼板面積に対する鋼板表面投影面積比率(比鋼板
面積 下記表1では「0.7μm以上の面積比率」と記
す) 前記(1)と同様の原子間力顕微鏡を用いて最大錫層高
さを測定した後、同装置により、Bearing Ratio Curve
を求めることによって算定した。
【0057】(3)不均一錫層のうち粒状でない錫結晶
群の占める割合(下記表1では「非粒状Sn結晶群の割
合」と記す」 走査型電子顕微鏡(日本電子製 JEOL JSM-T200)によっ
て不連続錫層の平面形態を撮影し、画像処理装置(川崎
製鉄社製 画像博士)によって、粒状の形態を持つ錫層
と粒状でない形態を持つ錫結晶群の面積をそれぞれ測定
した。
【0058】(4)錫層−ぶりき原板密着性 錫めっき後の試料のめっき面にセロハンテープを張り付
け、剥離後のテープ面をX線マイクロアナリシス(EP
DM)で分析して、錫の付着がないものを○、錫が付着
したものを×とした。
【0059】(5)塗料密着性 試料にエポキシフェノール系塗料を50mg/m2 塗布した
後、210℃で10分間焼付した。このようにして得ら
れた2枚の試料の塗装面間にナイロンフィルムを挟み、
加圧力を3kg/cm2として190℃で90秒間圧着した。
この試料を10×150mmに切断した後、引っ張り試験
機で剥離強度を測定した。
【0060】(6)接触抵抗 210℃で20分間の熱処理を行った試料を2枚合わ
せ、電極径1.7mmの電極間に挟み、電極間を60kgf
で加圧して3kAの電流を流した時の抵抗値を測定した。
【0061】(7)色差 スガ試験機社製のSMカラーコンピュータ(形式SM−
3)を用いて、3刺激値直読法によって試料の色差(L
値)を測定した。なお、色差が高い程、白色度が高い。
【0062】(8)フィルム密着性 220℃に加熱した試料に、ヒートシール層を有する2
軸配向ポリエステルフィルム(アイ・シー・アイ・ジャ
パン製 Melinex 850 厚さ20μm)を貼り付けた。
これをエクセリン試験機によってフィルム貼り付け面が
膨らむように5mmの高さまで張り出した後、110℃で
1時間のレトルト処理を行い、フィルムが鋼板から剥れ
たないものを密着性○、剥れたものを密着性×とした。
以上の結果を下記表1に併記する。
【0063】
【表1】
【0064】上記表1に示されるように、本発明例1〜
9においては、錫−鋼板密着性、塗料密着性、溶接性、
フィルム密着性、色調(白色度)共に良好である。
【0065】これに対し、#25ぶりきである比較例1
は塗料密着性に劣り、ティンフリー鋼板である比較例3
は溶接性および色調が劣る。また、特公昭62−543
99号公報にかかる比較例2は、塗料密着性および色調
共に劣る結果となった。
【0066】特開平2−159386号公報にかかる比
較例4、および特公平2−16397号公報にかかる比
較例5では、塗料密着性は良好であるが、色調が劣る。
さらに、比較例6は、めっき浴中の塩素イオン濃度が低
いために、不均一錫めっきとならず、熱処理時に錫が合
金化してしまい、接触抵抗地が上昇して十分な溶接性を
得ることができなかった。比較例7は錫層をアルカリ溶
解したため、最大錫層高さ0.7μm以下となり、色調
が大幅に劣るものとなった。また、比較例1〜7はいず
れもフィルム密着性が劣った。以上の結果より、本発明
の効果は明らかである。
【0067】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によ
れば溶接性、塗料密着性のみならずフィルム密着性およ
び色調(白色度)にも優れた表面処理鋼板を実現するこ
とができ、錫量およびホワイト下地塗装減少効果の大き
な表面処理鋼板を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接性、塗料密着性、フィルム密着
性、色調に優れた表面処理鋼板の一例を概念的に示す断
面図である。
【図2】本発明の溶接性、塗料密着性、フィルム密着
性、色調に優れた表面処理鋼板の金属組織を示す図面代
用写真であって、走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
10 (溶接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に
優れた)表面処理鋼板 12 めっき原板 14 錫層 16 クロメート処理層
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 望 月 一 雄 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎 製鉄株式会社技術研究本部内 (56)参考文献 特開 平4−247897(JP,A) 特開 平2−159386(JP,A) 特公 昭62−54399(JP,B2) 特公 平2−16397(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C25D 11/38 301 C25D 5/26

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】鋼板表面を不連続かつ不均一に覆う10〜
    800mg/m2 の錫層、前記錫層および鋼板素地を連続的
    に覆う2〜200mg/m2 の金属クロム層および3〜10
    0mg/m2 のクロム水和酸化物層を有し、 前記錫層のうち、基底部直径0.1〜3.0μmの結晶
    が複数結合した粒状でない形態を持つ錫結晶群の割合が
    5%以上であり、さらに前記錫結晶群の鋼板表面からの
    高さが0.7μm以上の部分の鋼板面投影面積が鋼板表
    面に対して0.5%以上であることを特徴とする溶接
    性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に優れた表面処
    理鋼板。
  2. 【請求項2】一部が不均一に隆起しつつ鋼板表面を連続
    的に覆う、平坦部における錫付着量が1〜500mg/m2
    でかつ前記隆起部における錫付着量が10〜800mg/m
    2 の錫層、前記錫層を連続的に覆う2〜200mg/m2
    金属クロム層および3〜100mg/m2 のクロム水和酸化
    物層を有し、 前記錫層の隆起部において、基底部直径0.1〜3.0
    μmの結晶が複数結合した粒状でない形態を持つ錫結晶
    群の割合が5%以上であり、さらに前記錫結晶群の平坦
    部からの高さが0.7μm以上の部分の鋼板面投影面積
    が鋼板表面に対して0.5%以上であることを特徴とす
    る溶接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に優れた
    表面処理鋼板。
  3. 【請求項3】鋼板表面を脱脂、酸洗した後、ハロゲンイ
    オンを0.003〜5mol/L含有し、さらに硫酸イオン
    および/またはスルホン酸化合物を0.01mol/L以上
    含有する酸性錫めっき浴を用いて錫めっきを行い、さら
    にクロムめっき浴および/またはクロメート処理浴によ
    って金属クロム層およびその上層のクロム水和酸化物層
    を形成することを特徴とする溶接性、塗料密着性、フィ
    ルム密着性、色調に優れた表面処理鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】前記請求項3に記載の製造方法において、
    前記錫めっきを行う前、あるいは前記錫めっきを行った
    後で金属クロム層およびクロム水和酸化物層の形成前
    に、通常の錫めっき浴による錫めっき層の形成を行う溶
    接性、塗料密着性、フィルム密着性、色調に優れた表面
    処理鋼板の製造方法。
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