JP2936290B2 - 記録媒体の製造方法、記録媒体及びこれを備えた情報処理装置 - Google Patents

記録媒体の製造方法、記録媒体及びこれを備えた情報処理装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプローブ電極によって記
録、再生、消去を行なう情報処理装置及びこれに用いる
記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、メモリー素子の用途はコンピュー
タ及びその関連機器、ビデオディスク、デジタルオーデ
ィオディスク等のエレクトロニクス産業の中核をなすも
のであり、その開発も活発に進んでいる。メモリー素子
に要求される性能は一般的には (1)高密度で、記録容量が大きい (2)記録・再生の応答速度が速い (3)エラーレートが小さい (4)消費電力が少ない (5)生産性が高く、価格が安い 等が挙げられる。
【0003】従来までは磁性体や半導体を素材とした磁
気メモリー、半導体メモリーが主流であったが、近年レ
ーザー技術の進展に伴い、有機色素、フォトポリマーな
どの有機薄膜を用いた安価で高密度な記録媒体を用いた
光メモリー素子などが登場してきた。
【0004】一方、最近導体の表面原子の電子構造を直
接観測できる走査型トンネル顕微鏡(以後STMと略
す)が開発され(G.Binnig et al.,H
elvetica Physica Acta,55
726(1982).)、単結晶、非晶質を問わず実空
間像の高い分解能の測定ができるようになり、しかも媒
体に電流による損傷を与えずに低電力で観測できる利点
をも有し、更に大気中でも動作させることが可能である
ため広範囲な応用が期待されている。
【0005】STMは金属の探針(プローブ電極)と導
電性物質の間に電圧を加えて1nm程度の距離まで近づ
けるとトンネル電流が流れることを利用している。この
電流は、両者の距離変化に非常に敏感であり、トンネル
電流を一定に保つように探針を走査することにより実空
間の表面構造を描くことができると同時に表面原子の全
電子雲に関する種々の情報をも読みとることができる。
この際面内方向の分解能は1オングストローム程度であ
る。従って、STMの原理を応用すれば十分に原子オー
ダー(数オングストローム)での高密度記録再生を行な
うことが可能である。この際の記録再生方法としては、
粒子線(電子線、イオン線)或はX線等の高エネルギー
電磁波及び可視・紫外光等のエネルギー線を用いて適当
な記録層の表面状態を変化させて記録を行ない、STM
で再生する方法や、記録層として電圧電流のスイッチン
グ特性に対してメモリ効果をもつ材料、例えばπ電子系
有機化合物やカルコゲン化物類の薄膜層を用いて、記録
・再生をSTMを用いて行なう方法等が提案されてい
る。
【0006】上記の様な記録・再生方法に於いて、実際
に多量の情報を記録・再生する為には、プローブ電極の
XY方向(記録媒体面内方向)の位置検出及び補正制御
(トラッキング)が必要となる。このトラッキングの方
法としては、既に記録媒体基板の原子配列を利用して、
高密度かつ高精度に行なう方法が提案されているが、位
置検出そのものも極めて高精度に行なう必要があるた
め、取扱上簡便とはいい難い問題があった。
【0007】また、トラッキングを簡便に行なうため
に、記録媒体の基板にあらかじめ凹凸を設けることによ
りトラックを形成し、そのトラックの凹状部分あるいは
凸状部分にプローブ電極を追従させることにより、トラ
ッキングを行なう方法も提案されている。この場合、ト
ラックの凹凸に追従させる方法として、プローブ電極の
高さを一定にしてトラッキングする方法(コンスタント
ハイトモード)と、プローブ電極と基板電極間の距離を
一定に保ちながらトラッキングする方法(コンスタント
カレントモード)が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】前者のコンスタントハ
イトモードの場合、凸状の部分でトンネル電流が流れる
ようにプローブ電極の高さを調整しておき、凸状部分か
らプローブ電極が凹状部分に外れた時にトンネル電流が
流れなくなるのを検知して、プローブ電極を凸状部分に
戻すよう位置制御することによりトラッキングを行って
いる。しかし、この方法をとった時、プローブ電極が凹
状部分に位置したときほとんどトンネル電流が流れなく
なるため、トラッキングを行うことが非常に困難である
という問題があった。
【0009】また、後者のコンスタントカレントモード
の場合、プローブ電極を基板上の凹凸に追従させながら
トラッキングを行なう方法を取るため、プローブ電極を
Z方向(記録媒体と垂直方向)に追従させてやらなけれ
ばならなかった。即ち、トラッキング用のZ方向の追従
系つまりフィードバック系が必要となり、記録・再生装
置自身にトラッキングのためのZ方向フィードバック用
メカ及び回路等を設けなければならず、記録・再生装置
自身が複雑になってしまうという問題点があった。ま
た、プローブ電極をZ方向に追従させるため、トラッキ
ングに時間がかかり、記録・再生時のスピードが遅くな
るという問題点もあった。
【0010】すなわち、本発明の目的とするところは、
上述した従来技術の問題点に鑑み、プローブ電極を用い
た電気的な高密度記録・再生方法に於いて、多量の情報
の記録・再生あるいは情報の消去を容易に再現性良く簡
便に実行でき、なおかつ、記録・再生装置におけるトラ
ッキング系を簡素化できる記録媒体及びこれを備えた情
報処理装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明の特徴と
するところは、プローブ電極により素子に流れる電流を
検出する記録再生装置に用いる記録媒体であって、基板
上に表面の仕事関数が部分的に変化しているトラック部
を有する電極と、該電極上に電気メモリー効果を有する
記録層を積層した記録媒体である。
【0012】また、前記トラック部が、前記電極を構成
する元素とは異なる元素を含む記録媒体にあり、当該記
録媒体の製造方法においては、前記基板上電極表面への
前記元素の注入はイオン注入法あるいは熱拡散法にて行
うことを特徴としている。
【0013】また、前記トラックの幅が900オングス
トローム以下、および、ピッチが1000オングストロ
ーム以下であることも特徴としている。
【0014】さらには、前記記録層の膜厚が4オングス
トローム以上100オングストローム以下、好ましくは
4オングストローム以上30オングストローム以下であ
り、前記記録層が、有機化合物の単分子膜または該単分
子膜を累積した累積膜を有している記録媒体を特徴とす
るものである。また、かかる単分子膜またはその累積膜
をLB法によって成膜する記録媒体の製造方法であり、
前記有機化合物が分子中にπ電子準位を持つ群とσ電子
準位を持つ群とを有する記録媒体をも特徴とするもので
ある。
【0015】ところで、本発明の記録媒体を用いた記録
・再生およびその為のトラッキング方法は、プローブ電
極(導電性探針)と導電性物質との間に電圧を印加しつ
つ、両者の距離を10nm以下にするとトンネル電流が
流れることを利用している。以下、トラッキングの方法
について述べる。
【0016】図1は、本発明に用いられる記録媒体の断
面図を示し、図2はその平面図の一例である。図1に於
いて、異種元素を基板電極2に部分的に注入することに
より仕事関数を部分的に変化させてトラック4を形成し
ており、記録ビットの列はトラックを形成している異種
元素上あるいは基板電極元素上の記録層1に書き込まれ
るが、平滑性の点から、基板電極元素上の方が好まし
い。従って、情報の記録・再生時に於いては、プローブ
電極を図2中Y方向に走査させる必要がある。この時、
本発明に於いてはプローブ電極の高さを一定(コンスタ
ントハイトモード)にして走査させる方法を用いるが、
記録層の膜厚が100オングストローム以下と薄いため
プローブ電極と基板電極間にトンネル電流が流れる。
【0017】しかし、この際、基板電極元素上の部分と
異種元素注入部分、図1及び図2ではトラック部と非ト
ラック部であるが、両者では仕事関数が違うのでトンネ
ル電流が異なるため、プローブ電極が基板電極元素上の
記録層からトラックとなり非記録面である異種元素注入
部上に外れると、プローブ電極に流れるトンネル電流が
変化することになる。ここで、このトンネル電流を一定
に保つように、プローブ電極をX方向若しくは−X方向
に移動させる補正回路を設けることにより、プローブ電
極を基板電極元素上記録層の記録面上から外れることな
く走査させることが可能となる。このトラック上の記録
層に記録する方法は後で述べるが、記録により記録面上
の記録ビットに於ける電荷状態が変化する。従って、記
録後に於いてはトラック外れによる電流変化と記録ビッ
トによる電流変化が生ずるが、記録ビットによる電流変
化の方がはるかに大きいため、トラッキングに支障をき
たすことは無い。
【0018】すなわち、本発明によれば、プローブ電極
により素子に流れる電流を検出する記録再生装置に於い
て、基板上の電極に電極を構成する元素と異なる元素を
注入して電極の仕事関数を部分的に変化させてトラック
を設け、該トラック上に電気メモリー効果を有する記録
層を積層した記録媒体を提供することにより、コンスタ
ントハイトモードでトラッキングした場合でも、記録媒
体表面が平滑であるため、トラック外れがおきた時にト
ンネル電流が流れるため、コンスタントハイトモード使
用時もトラッキングが容易にできるようになり、コンス
タントカレントモード時の様なトラッキング用のZ方向
の追従系つまりフィードバック系が不用となるため、記
録・再生装置におけるトラッキング系を簡素化すること
も可能となった。
【0019】本発明のトラック形成方法としては、ま
ず、基板上に基板電極となる導電性材料を形成し、次
に、基板電極表面に該基板電極を構成する元素と異なる
元素を所望のトラック形状に応じて注入し、注入した部
分の仕事関数を変化させることにより行う。具体的に
は、以下に述べるような2つの方法がある。 .基板電極の表面上にPMMA(ポリメチルメタクリ
レート)等のレジストを塗布し、電気光学系によりイオ
ンビームのビーム径を30nm程度まで絞り込み、所望
のトラック形状に応じてイオンビーム露光を行い、その
後、露光された部分のレジストを取り除き、注入すべき
元素を含んだ雰囲気中で熱処理を行うことにより、露光
された部分に前記元素を注入する熱拡散法。 .電気光学系によりイオンビームのビーム径を30n
m程度まで絞り込み、基板電極の表面上に、所望のトラ
ック形状に応じてイオン化した元素を打ち込むイオン注
入法。
【0020】これら2つの方法のうち、イオン注入法
は、ドープ量の精度、均一性、濃度分布の制御に優れて
いるため、熱拡散法よりも好ましい。
【0021】ところで、本発明によれば、現在、イオン
ビームの径は電磁光学系によって30nm程度まで絞る
ことが可能であり、従って、例えば、このビーム径でト
ラックを形成すれば、1010〜1011ビット/cm2
度の記録密度を達成することができる。この時、ビーム
の走査部位がそのまま、異種元素注入部(非記録部)と
なり、他の部分が記録部位となりトラックを形成でき
が、そのトラックの幅としては900オングストローム
以下、ピッチとしては1000オングストローム以下が
好ましい。
【0022】以上述べた方法では、異種元素注入方法に
於て熱拡散法あるいはイオン注入法を挙げたが、前記条
件を満たすトラックを形成できればこれに限定する必要
はない。
【0023】また、基板3上に基板電極2を設けた後ト
ラック形成を行っているが、基板自身が導電性を有する
ものであれば、基板電極を省いてトラック形成を行って
も構わない。
【0024】基板電極を構成する元素および注入する異
種元素の組み合わせとしては、例えば、基板電極材料の
元素としてWを用いた場合、異種元素としてCs,B
a,Tb,Yt,Ce,La,V等があげられる。ま
た、基板電極材料の元素として他にCやMoを適してお
り、それらの元素に対して適した注入異種元素の一覧を
表1に示した。なお、表1には同時にその基板電極元素
およびその元素に異種元素を注入した時の仕事関数も記
した。
【0025】表1から明らかなように、例えば基板電極
材料の元素がWで、注入された元素がCsである場合、
基板電極を構成するWの仕事関数は4.55eVである
が、WにCsを注入することにより、注入した部分が合
金のW−Csになり、その部分の仕事関数は1.36e
Vに変化して、トラック4が形成される。以上何組か本
発明に適した元素を挙げたが、表1に示した元素の組み
合わせに限らず、基板電極を構成する元素と異種元素を
注入した後できる合金の仕事関数が大きく変化する物で
有れば、基板電極の元素と注入する異種元素の組み合わ
せを自由に選ぶことができる。
【0026】また、基板上の電極形成方法に関しても、
基板上に均一に、平滑に形成できる方法であれば何でも
良く、例えば、真空蒸着法やスパッタ法等が挙げられ
る。
【0027】
【表1】 本発明で用いる記録層としては、電流−電圧特性に於い
てメモリースイッチング現象(電気メモリー効果)を有
する材料、例えば、π電子準位をもつ群とσ電子準位の
みを有する群を併有する分子を電極上に積層した有機単
分子膜あるいはその累積膜を用いることが可能となる。
【0028】電気メモリー効果は前記の有機単分子膜、
その累積膜等の薄膜を一対の電極間に配置させた状態で
それぞれ異なる2つ以上の導電率を示す状態(図5:O
N状態、OFF状態)へ遷移させることが可能なしきい
値を越えた電圧を印加することにより可逆的に低抵抗状
態(ON状態)および高抵抗状態(OFF状態)へ遷移
(スイッチング)させることができる。またそれぞれの
状態は電圧の印加を止めても保持(メモリー)しておく
ことができる。
【0029】一般に有機材料のほとんどは絶縁性もしく
は半絶縁性を示すことから係る本発明に於て、適用可能
なπ電子準位を持つ群を有する有機材料は著しく多岐に
わたる。
【0030】本発明に好適なπ電子系を有する色素の構
造として、例えば、フタロシアニン、テトラフェニルポ
ルフィリン等のポルフィリン骨格を有する色素、スクア
リリウム基及びクロコニックメチン基を結合鎖として持
つアズレン系色素及びキノリン、ベンゾチアゾール、ベ
ンゾオキサゾール等の2個の含窒素複素環をスクアリリ
ウム基及びクロコニックメチン基により結合したシアニ
ン系類似の色素、またはシアニン色素、アントラセン及
びピレン等の縮合多環芳香族、及び芳香環及び複素環化
合物が重合した鎖状化合物及びジアセチレン基の重合
体、さらにはテトラシアノキノジメタンまたはテトラチ
アフルバレンの誘導体およびその類縁体およびその電荷
移動錯体、またさらにはフェロセン、トリスビピリジン
ルテニウム錯体等の金属錯体化合物が挙げられる。
【0031】本発明に好適な高分子材料としては、例え
ばポリアクリル酸誘導体等の付加重合体、ポリイミド等
の縮合重合体、ナイロン等の開環重合体、バクテリオロ
ドプシン等の生体高分子が挙げられる。
【0032】有機記録層の形成に関しても、具体的には
蒸着法やクラスターイオンビーム法等の適用も可能であ
るが、制御性、容易性そして再現性から公知の従来技術
の中では前述したLB法が極めて好適である。
【0033】このLB法によれば、1分子中に疎水性部
位と親水性部位とを有する有機化合物の単分子膜または
その累積膜を基板上に容易に形成することができ、分子
オーダーの厚みを有し、かつ大面積にわたって均一、均
質な有機超薄膜を安定に供給することができる。
【0034】LB法は分子内に親水性部位と疎水性部位
とを有する構造の分子において、両者のバランス(両親
媒性のバランス)が適度に保たれているとき、分子は水
面上で親水性基を下に向けて単分子の層になることを利
用して単分子膜またはその累積膜を作製する方法であ
る。
【0035】疎水性部位を構成する基としては、一般に
広く知られている飽和及び不飽和炭化水素基や縮合多環
芳香族基及び鎖状多環フェニル基等の各種疎水基が挙げ
られる。これらは各々単独又はその複数が組み合わされ
て疎水性部位を構成する。一方、親水性部位の構成要素
として最も代表的なものは、例えばカルボキシル基、エ
ステル基、酸アミド基、イミド基、ヒドロキシル基、更
にはアミノ基(1,2,3級及び4級)等の親水性基等
が挙げられる。これらも各々単独又はその複数が組み合
わされて上記分子の親水性部分を構成する。
【0036】これらの疎水性基と親水性基をバランス良
く併有し、かつ適度な大きさを持つπ電子系を有する有
機分子であれば、水面上で単分子膜を形成することが可
能であり、本発明に対して極めて好適な材料となる。
【0037】具体例としては、例えば下記の如き分子等
が挙げられる。
【0038】<有機材料>[I]クロコニックメチン色
【0039】
【化1】
【0040】
【化2】
【0041】
【化3】
【0042】
【化4】
【0043】
【化5】
【0044】
【化6】
【0045】
【化7】
【0046】
【化8】
【0047】
【化9】
【0048】
【化10】
【0049】
【化11】 ここでR1は前述のσ電子準位をもつ群に相当したもの
で、しかも水面上で単分子膜を形成しやすくするために
導入された長鎖アルキル基で、その炭素数nは5≦n≦
30が好適である。
【0050】[II]スクアリリウム色素 [I]で挙げた化合物のクロコニックメチン基を下記の
構造を持つスクアリリウム基で置き換えた化合物。
【0051】
【化12】
【0052】[III]ポルフィリン系色素化合物
【0053】
【化13】
【0054】
【化14】
【0055】
【化15】 Rは単分子膜を形成しやすくするために導入されたもの
で、ここで挙げた置換基に限るものではない。又、R1
〜R4,Rは前述したσ電子準位をもつ群に相当してい
る。
【0056】[IV]縮合多環芳香族化合物
【0057】
【化16】
【0058】
【化17】
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】[V]ジアセチレン化合物 Xは親水基で一般的には−COOHが用いられるが−O
H,−CONH2等も使用できる。
【0062】[VI]その他
【0063】
【化20】
【0064】
【化21】
【0065】
【化22】
【0066】
【化23】
【0067】
【化24】
【0068】
【化25】
【0069】<有機高分子材料> [I]付加重合体
【0070】
【化26】
【0071】
【化27】
【0072】
【化28】
【0073】
【化29】
【0074】
【化30】
【0075】
【化31】
【0076】[II]縮合重合体
【0077】
【化32】
【0078】
【化33】
【0079】
【化34】
【0080】[III]開環重合体
【0081】
【化35】
【0082】ここで、R1は水面上で単分子膜を形成し
易くするために導入された長鎖アルキル基で、その炭素
数nは5≦n≦30が好適である。
【0083】また、R5は短鎖アルキル基であり、炭素
数nは1≦n≦4が好適である。重合度mは100≦m
≦5000が好適である。
【0084】以上、具体例として挙げた化合物は基本構
造のみであり、これら化合物の種々の置換体も本発明に
於いて好適であることは言うにおよばない。
【0085】尚、上記以外でもLB法に適している有機
材料、有機高分子材料であれば、本発明に好適なのは言
うまでもない。例えば近年研究が盛んになりつつある生
体材料(例えばバクテリオロドプシンやチトクローム
C)や合成ポリペプチド(PBLG)等も適用が可能で
ある。
【0086】これらのπ電子準位を有する化合物の電気
メモリー効果は数10μm以下の膜厚のもので観測され
ているが、記録・再生時にプローブ電極と基板電極間に
流れるトンネル電流を用いるため、プローブ電極と基板
電極間にトンネル電流が流れるよう両者間の距離を近ず
けなければならないので、本発明の有機化合物から成る
記録層の膜厚は、4オングストローム以上100オング
ストローム以下、好ましくは、4オングストローム以上
30オングストローム以下である。
【0087】本発明において、上記の如き有機材料が積
層された薄膜を支持するための基板としては、表面が平
滑であれば、どの様な材料を用いても良いが、前述した
トラック形成法によってある程度利用できる基板材料は
限定される。
【0088】また、プローブ電極の材料は、導電性を示
すものであれば何を用いてもよく、例えばPt,Pt−
Ir,W,Au,Ag等が挙げられる。プローブ電極の
先端は、記録・再生・消去の分解能を上げるためできる
だけ尖らせる必要がある。本発明では、針状の導電性材
料を電界研磨法を用い先端形状を制御して、プローブ電
極を作製しているが、プローブ電極の作製方法及び形状
は何らこれに限定するものではない。
【0089】更にはプローブ電極の本数も一本に限る必
要もなく、位置検出用と記録・再生用とを分ける等、複
数のプローブ電極を用いても良い。
【0090】次に、本発明の記録媒体を用いる記録・再
生装置を図3のブロック図を用いて説明する。図3中、
5は記録媒体に電圧を印加するためのプローブ電極であ
り、このプローブ電極から記録層1に電圧を印加するこ
とによって記録・再生を行なう。対象となる記録媒体
は、XYステージ12上に載置される。10はバイアス
電圧源およびプローブ電流増幅器で、9はプローブ電流
を読み取りプローブ電極の高さが一定になるように圧電
素子を用いたZ方向微動制御機構7を制御するサーボ回
路であり、11はプローブ電極5と基板電極2との間に
記録・消去用のパルス電圧を印加するための電源であ
る。
【0091】パルス電圧を印加するときプローブ電流が
急激に変化するためサーボ回路9は、その間出力電流が
一定になるように、HOLD回路をONにするように制
御している。
【0092】8はXY方向にプローブ電極5をXY方向
微動制御機構6を用いて移動制御するためのXY走査駆
動回路である。13と14は、あらかじめ10-9A程度
のプローブ電流が得られるようにプローブ電極5と記録
媒体との距離を粗動制御したり、プローブ電極と基板と
のXY方向相対変位を大きくとる(微動制御機構の範囲
外)のに用いられる。
【0093】これらの各機器は、全てマイクロコンピュ
ータ15により中央制御されている。また16は表示装
置を表している。
【0094】また、圧電素子を用いた移動制御における
機械的性能を下記に示す。 Z方向微動制御範囲 :0.1nm〜1μm Z方向粗動制御範囲 :10nm〜10mm XY方向走査範囲 :0.1nm〜1μm XY方向粗動制御範囲:10nm〜10mm 計測、制御許容誤差 :<0.1nm(微動制御時) 計測、制御許容誤差 :<1nm (粗動制御時)
【0095】
【実施例】以下、本発明を実施例に従って説明する。
【0096】実施例1 光学研磨したガラス基板(基板3)を中性洗剤およびト
リクレンを用いて洗浄した後、Wをスパッタ法により基
板3上に均一性良く成膜し、表面が平滑な基板電極2を
形成した。その後、イオン注入装置を用いて、真空度1
×10-6Toorの真空下で、100KeV程度のエネ
ルギーを持つCsイオンビームを、イオンビーム集束装
置によりビーム径を30nm程度に絞って基板電極2で
あるW上に、60nmピッチ、長さ100nmに渡って
順次照射することにより、異種元素としてCsのイオン
注入を行った。この後、イオン注入をした部分と注入し
ていない部分の仕事関数を図3で示した記録再生装置を
用いて調べたところ、両者の仕事関数に大きな差がみら
れ、幅30nmのトラックが形成されていることがわか
った。
【0097】次にスクアリリウムービス−6−オクチル
アズレン(以下SOAZと略す)を濃度0.2mg/m
lで溶かしたクロロホルム溶液を20℃の水相上に展開
し、水面上に単分子膜を形成した。溶媒の蒸発を待ち係
る単分子膜の表面圧を20mN/mまで高め、更にこれ
を一定に保ちながら前記のトラックを形成した基板を水
面に横切るように速度5mm/分で静かに浸漬し、更に
引き上げて、2層のY形単分子膜の累積を行ない、前記
有機化合物絶縁層2上に2層(厚さ30オングストロー
ム)の累積膜を形成して、記録層1とした。
【0098】以上の様な方法により作製した記録媒体
に、図3に示した記録・再生装置を用いて記録・再生、
消去の実験を行なった。ただし、プローブ電極5として
電解研磨法によって作製した白金/ロジウム製のプロー
ブ電極を用いており、このプローブ電極5は記録層1に
電圧を印加できるように、圧電素子により、その距離
(Z)が制御されている。さらに上記機能を持ったまま
プローブ電極5が面内(X,Y)方向にも移動制御でき
るように微動制御機構系が設計されている。
【0099】また、プローブ電極5は直接記録・再生・
消去を行うことができる。また、記録媒体は高精度のX
Yステージ12の上に置かれ、任意の位置に移動させる
ことができる。よって、この移動制御機構によりプロー
ブ電極5で任意の位置のトラック上に記録・再生及び消
去を行なうことができる。
【0100】前述したSOAZ2層を累積した記録層1
を持つ記録媒体を記録・再生装置にセットした。この
時、トラックの長さ方向と記録・再生装置のY方向がほ
ぼ平行となる様に設置した。次に、プローブ電極5と記
録媒体の基板電極2との間に+1.5Vの電圧を印加
し、記録層1に流れる電流をモニターしながらプローブ
電極5と基板電極4との距離(Z)を調整した。この
時、距離Zを制御するためのプローブ電流IPを10-8
A≧IP≧10-10Aになるように設定した。次に、距離
Zを一定に保ちながら、プローブ電極5をX方向、即ち
トラックを横切る方向に走査させ、記録媒体にトラック
が形成されていることを確認した後、プローブ電極5を
任意のトラック(W上の記録層)上で保持した。次に、
距離Zを一定に保ちながら、プローブ電極をY方向に走
査させた。この時、前述した方法によりトラッキングを
行うことにより、任意のトラック上をこれから外れるこ
となくプローブ電極5を走査させることが可能であるこ
とがわかった。
【0101】次に、プローブ電極をトラック上で走査さ
せながら、30nmピッチで情報の記録を行った。かか
る情報の記録は、プローブ電極5を+側、基板電極2を
−側にして、電気メモリー材料(SOAZ−LB膜2
層)が低抵抗状態(ON状態)に変化する様に、図4に
示すしきい値電圧Vth-ON以上の三角波パルス電圧を
印加した。その後、プローブ電極を記録開始点に戻し、
再びトラック上を走査させた。その結果、記録ビットに
於いては0.7mA程度のプローブ電流が流れ、ON状
態となっていることが示された。以上の再生実験に於い
て、ビットエラーレートは3×10-6であった。
【0102】なお、プローブ電極を電気メモリー材料が
ON状態からOFF状態に変化するしきい値電圧Vth
OFF以上の10Vに設定し、再び記録位置をトレースし
た結果、全ての記録状態が消去されOFF状態に遷移し
たことも確認した。
【0103】実施例2 実施例1に於いて、Csイオンビーム照射のピッチを1
000オングストロームとしビーム径を500オングス
トロームとした以外は全く同様にして、記録媒体を作製
した。この時、トラックの幅は約500オングストロー
ムであった。かかる記録媒体を用い実施例1と同様にし
て記録・再生実験を行ったところ、ビットエラーレート
は2×10-6であり、消去も可能であった。
【0104】実施例3 実施例1の記録層として用いた2層SOAZ単分子累積
膜の代わりにルテチウムジフタロシアニン[LuH(P
c)2]のt−ブチル誘導体の2層単分子累積膜を用い
た以外は実施例1と同様にして実験を行った。その結
果、ビットエラーレートは5×10-6であり、消去も可
能であった。なお、LuH(Pc)2のt−ブチル誘導
体の累積条件は次の通りである。 溶媒:クロロホルム/トリメチルベンゼン/アセトン
(1/1/2) 濃度:0.5mg/ml 水相:純水、水温20℃ 表面圧:20mN/m、基板上下速度3mm/分
【0105】実施例4 異種元素としてBaを用いた以外は実施例1と全く同様
にして、異種元素(Ba)を注入してトラックを形成し
た後、記録層として2層SOAZ単分子累積膜を積層し
て記録媒体を作製した。係る記録媒体について、実施例
1と同様の記録・再生・消去の実験を行ったところ、ビ
ットエラーレートは4×10-6であり、消去も可能であ
った。
【0106】実施例5 基板電極材料の元素としてCを、その異種元素としてT
iを用いた以外は実施例1と全く同様にしてトラックを
形成した。その後、記録層1としてポリイミドLB膜を
2層累積して記録媒体を作製した。なお、ポリイミドL
B膜の形成方法は以下の通りである。
【0107】ポリアミック酸(分子量約20万)を濃度
1×10-3%(g/g)で溶かしたジメチルアセトアミ
ド溶液を、水温20℃の純粋の水相上に展開し、水面上
に単分子膜を形成した。この単分子膜の表面圧を25m
N/mまで高め、更にこれを一定に保ちながら、前記基
板を水面に横切るように5mm/分で移動させて浸漬、
引き上げを行い、Y型単分子膜の累積を行なった。更に
これらの膜を300℃で10分加熱を行なうことにより
ポリイミドにした。なお、ポリイミド1層あたりの厚さ
は、エリプソメトリー法により約4オングストロームと
求められた。
【0108】この記録媒体についても実施例1と同様
に、記録・再生、消去の実験を行ったところ、ビットエ
ラーレートは3×10-6であり、消去も可能であった。
【0109】以上述べてきた実施例中では、トラック形
成時に、イオン注入法を用いて異種元素を注入して仕事
関数を変化させるという方法を取ったが、この他熱拡散
法を用いて異種元素を注入する方法を用いることも可能
であり、また、仕事関数を部分的に所望の位置で変化さ
せられる方法であれば、これらに限定する必要はない。
また、トラックの形状についても直線状のものについて
述べてきたが、これに限ることはなく、螺旋状、円状等
他の形態であっても全く構わない。また、記録層の形成
にLB法を使用してきたが、極めて薄く均一な膜が作製
できる成膜法であればLB法に限らず使用可能であり、
具体的にはMBEやCVD法等の成膜法が挙げられる。
更に基板材料やその形状も本発明は何ら限定するもので
はない。さらには、本実施例に於いてはプローブ電極を
1本としたが、記録・再生用のものとトラッキング用の
ものを各々分けて2本以上としても良い。
【0110】
【発明の効果】以上述べたように、本発明に依れば、 光記録に比べて、はるかに高密度な記録が可能な全く
新しい記録媒体を提供することができる。 記録・再生時のトラッキングが容易に行え、記録・再
生装置の簡素化が可能になる。それと同時に、記録・再
生の応答速度も遅くならない。 といったような効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いた記録媒体の断面図の一例であ
る。
【図2】本発明に用いた記録媒体の平面図の一例であ
る。
【図3】本発明で用いた情報処理装置である記録・再生
装置の構成のブロック図である。
【図4】本発明の記録媒体に記録を行う際に加えるパル
ス信号波形である。
【図5】本発明に用いた記録媒体の電気メモリー効果を
示す図である。
【符号の説明】
1 記録層 2 基板電極 3 基板 4 トラック 5 プローブ電極 6 XY方向微動制御機構 7 Z方向微動制御機構 8 XY方向走査駆動回路 9 サーボ回路 10 プローブ電流増幅器 11 パルス電源 12 XYステージ 13 粗動機構 14 粗動駆動回路 15 マイクロコンピュータ 16 表示装置
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 酒井 邦裕 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (72)発明者 畑中 勝則 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (56)参考文献 特開 平2−292752(JP,A) 特開 平1−116940(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G11B 9/00 G11B 9/04

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 プローブ電極により素子に流れる電流を
    検出する記録再生装置に用いる記録媒体であって、基板
    上に表面の仕事関数が部分的に変化しているトラック部
    を有する電極と、該電極上に電気メモリー効果を有する
    記録層を積層したことを特徴とする記録媒体。
  2. 【請求項2】 前記トラック部が、前記電極を構成する
    元素とは異なる元素を含むことを特徴とする請求項1に
    記載の記録媒体。
  3. 【請求項3】 前記トラックの幅が、900オングスト
    ローム以下である請求項1に記載の記録媒体。
  4. 【請求項4】 前記トラックのピッチが、1000オン
    グストローム以下である請求項1に記載の記録媒体。
  5. 【請求項5】 前記記録層の膜厚がオングストローム
    以上100オングストローム以下である請求項1に記載
    の記録媒体。
  6. 【請求項6】 前記記録層の膜厚がオングストローム
    以上30オングストローム以下である請求項1に記載の
    記録媒体。
  7. 【請求項7】 前記記録層が、有機化合物の単分子膜ま
    たは該単分子膜を累積した累積膜を有している請求項1
    に記載の記録媒体。
  8. 【請求項8】 前記有機化合物が分子中にπ電子準位を
    持つ群とσ電子準位を持つ群とを有する請求項に記載
    の記録媒体。
  9. 【請求項9】 請求項1乃至に記載の記録媒体、該記
    録媒体に電圧を印加するためのプローブ電極及び該プロ
    ーブ電極を制御する制御機構を有する情報処理装置。
  10. 【請求項10】 請求項2に記載の記録媒体を作製する
    方法であって、前記基板上に電極を形成した後、該電極
    の一部に前記元素をイオン注入法によって注入して前記
    トラック部を形成することを特徴とする記録媒体の製造
    方法。
  11. 【請求項11】 請求項2に記載の記録媒体を作製する
    方法であって、前記基板上に電極を形成した後、該電極
    の一部に前記元素を熱拡散法によって注入して前記トラ
    ック部を形成することを特徴とする記録媒体の製造方
    法。
  12. 【請求項12】 請求項7に記載の記録媒体の製造方法
    であって、前記電極 上に有機化合物の単分子膜または該
    単分子膜を累積した累積膜をLB法によって成膜するこ
    とを特徴とする記録媒体の製造方法。
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