JP2864903B2 - 差動制限トルク制御装置 - Google Patents

差動制限トルク制御装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、左右駆動輪速差情報に
基づき左右駆動輪間の差動制限トルクを電子制御する差
動制限トルク制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、差動制限トルク制御装置として
は、例えば、特開平1−215628号公報に記載のも
のが知られている。
【0003】上記従来出典には、旋回半径が大きく横加
速度が大きいほど大きな値で与える差動制限トルク成分
と、センサ検出による左右駆動輪スリップ量(左右駆動
輪速値の差)に基づく差動制限トルク成分の和により目
標差動制限トルクを演算し、この目標差動制限トルクを
得る制御を行なう装置が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来の左右駆動輪速差比例制御による差動制限トルク制御
装置にあっては、左右駆動輪速差の発生に比例して差動
制限トルクが付与されるものであるため、左右駆動輪の
うち一方の駆動輪がスタックに入った状態からの高いス
タック脱出性能を望むことができない。
【0005】つまり、左右駆動輪のうち一方の駆動輪が
スタックに入った時、左右駆動輪速差の発生に基づいて
差動制限トルクが付与され、他方の駆動輪へのエンジン
駆動力を増大してスタック脱出を図ろうとするが、差動
制限トルクの付与により左右駆動輪速差が減少したらそ
の減少に伴って差動制限トルクが弱まり、きびしいスタ
ックからの脱出が不能になる。
【0006】また、このようなスタック脱出時には、差
動制限トルクが弱まると、左右駆動輪速差の発生が増大
して差動制限トルクが強まるという制御を繰り返し、差
動制限トルクのハンチングを生じる。
【0007】本発明は、上記のような問題に着目してな
されたもので、左右駆動輪速差情報に基づき左右駆動輪
間の差動制限トルクを電子制御する差動制限トルク制御
装置において、左右駆動輪速差比例制御を確保しながら
スタック脱出性の向上を図ることを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
本発明の差動制限トルク制御装置では、車速が設定車速
以上の時、左右駆動輪速差検出値に応じて決定した差動
制限トルクをそのまま目標差動制限トルクとし、車速が
設定車速未満の時、左右駆動輪速差検出値に応じて決定
した差動制限トルクのうち最大値を目標差動制限トルク
として設定車速となるまで維持する目標差動制限トルク
設定手段を設けた。
【0009】すなわち、図1のクレーム対応図に示すよ
うに、左右駆動輪間に設けられ、外部からの制御指令に
応じた差動制限トルクを付与する差動制限トルク付与手
段aと、左右の駆動輪速差を検出する左右駆動輪速差検
出手段bと、車速を検出する車速検出手段cと、左右駆
動輪速差検出値に応じた差動制限トルクに決定する差動
制限トルク決定手段dと、車速が設定車速以上の時、左
右駆動輪速差検出値に応じて決定した差動制限トルクを
そのまま目標差動制限トルクとし、車速が設定車速未満
の時、左右駆動輪速差検出値に応じて決定した差動制限
トルクのうち最大値を目標差動制限トルクとして設定車
速となるまで維持する目標差動制限トルク設定手段e
と、前記目標差動制限トルクが得られる制御指令を前記
差動制限トルク付与手段aに出力する差動制限トルク制
御手段fとを備えている。
【0010】
【作用】車速が設定車速以上の車両走行時には、差動制
限トルク決定手段dにおいて、左右駆動輪速差検出手段
bからの左右駆動輪速差検出値に応じた差動制限トルク
が決定され、目標差動制限トルク設定手段eにおいて、
決定した差動制限トルクがそのまま目標差動制限トルク
として設定され、差動制限トルク制御手段fにおいて、
目標差動制限トルクが得られる制御指令が左右駆動輪間
に差動制限トルクを付与する差動制限トルク付与手段a
に出力される。
【0011】したがって、例えば、左右スプリットμ路
での走行時、左右駆動輪速差の発生に基づいて左右駆動
輪間に差動制限トルクが付与されることになり、高μ路
側の駆動輪へのエンジン駆動トルクが増大し、高いトラ
クション性能が発揮される。
【0012】車速が設定車速未満のスタック脱出時に
は、差動制限トルク決定手段dにおいて、左右駆動輪速
差検出手段bからの左右駆動輪速差検出値に応じた差動
制限トルクが決定され、目標差動制限トルク設定手段e
において、決定した差動制限トルクのうち最大値を目標
差動制限トルクとして設定車速となるまで維持され、差
動制限トルク制御手段fにおいて、ピークホールドによ
る目標差動制限トルクが得られる制御指令が左右駆動輪
間に差動制限トルクを付与する差動制限トルク付与手段
aに出力される。
【0013】したがって、左右駆動輪の一方がスタック
に入った状態では、左右駆動輪速差の発生に基づく差動
制限トルクの最大値が、車両が完全に動き出し、車速が
設定車速に高まるまで維持されることで、左右駆動輪の
他方へのエンジン駆動トルクの増大がスタックから完全
に脱出するまで確保され、高いスタック脱出性能が発揮
される。
【0014】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明
する。
【0015】まず、構成を説明する。
【0016】図2は本発明実施例の差動制限トルク制御
装置が適用された後輪駆動車の全体システム図である。
【0017】図2において、1はエンジン、2はトラン
スミッション、3はプロペラシャフト、4は電制リミテ
ッドスリップディファレンシャル(以下、電制LSDと
略称する)、5,6は後輪、7,8は前輪である。
【0018】前記電制LSD4には、油圧ユニット9か
ら付与されるクラッチ制御圧に応じて左右後輪5,6間
に差動制限トルクを発生させる差動制限クラッチ10が
内蔵されている。
【0019】前記油圧ユニット9は、油圧源11とCS
D制御バルブ12とを有して構成されている。尚、油圧
ユニット9及び差動制限クラッチ10は、差動制限トル
ク付与手段aに相当する。
【0020】前記CSD制御バルブ12は、CSDコン
トローラ13からの制御電流ICSDにより制御作動を
し、差動制限クラッチ10へのクラッチ制御圧を作り出
す。
【0021】前記CSDコントローラ13には、左前輪
回転センサ14からの左前輪回転数NFLと、右前輪回転
センサ15からの右前輪回転数NFRと、左後輪回転セン
サ16からの左後輪回転数NRLと、右後輪回転センサ1
7からの右後輪回転数NRRと、横加速度センサ18から
の横加速度YG と、前後加速度センサ19からの前後加
速度XG と、アクセル開度センサ20からのアクセル開
度ACCと、ブレーキスイッチ21からのスイッチ信号BS
と、ABSコントローラ22からのABS作動信号ASな
どが入力される。
【0022】次に、作用を説明する。
【0023】[差動制限トルク制御作動処理]図3はC
SDコントローラ13で行なわれる差動制限トルク制御
作動処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各
ステップについて説明する。
【0024】ステップ30では、左前輪回転数NFLと右
前輪回転数NFRと左後輪回転数NRLと右後輪回転数NRR
と横加速度YG が読み込まれる。
【0025】ステップ31では、左前輪回転数NFLと右
前輪回転数NFRと左後輪回転数NRLと右後輪回転数NRR
からそれぞれ左前輪速VFLと右前輪速VFRと左後輪速V
RLと右後輪速VRRが演算される。
【0026】ステップ32では、車体速VF が左前輪速
VFLと右前輪速VFRのうち小さい方を選択することで求
められ(車速検出手段cに相当)、左右前輪速差ΔVF
が左前輪速VFLと右前輪速VFRの差の絶対値により演算
され、左右後輪速差ΔVR が左後輪速VRLと右後輪速V
RRの差の絶対値により演算され、前後輪車輪速差ΔVFR
が後輪速平均値VRAと前輪速平均値VFAの差により演算
される。
【0027】ステップ33では、旋回時に内外輪の旋回
軌跡差により生じる旋回軌跡左右後輪速差ΔVR'が下記
の式により演算される。
【0028】 ΔVR'=K2・VF /R K2;定数 ここで、旋回半径Rは、例えば、横加速度YG の大きさ
により下記の演算式を用いて決定される。
【0029】 i)YG ≦YGO YGO;例え
ば、0.05[G] R=VF /(K1・ΔVF ) K1;定数 ii) YG >YGO R=VF2/YG ステップ34では、検出による左右後輪速差ΔVR から
補正要素である旋回軌跡左右後輪速差ΔVR'を差し引く
下記の式で制御用左右後輪速差ΔVRRが演算される(左
右駆動輪速差検出手段bに相当)。
【0030】ΔVRR=ΔVR −ΔVR' ステップ35では、左右後輪速差比例の差動制限トルク
TΔVが下記の式により演算される(差動制限トルク決
定手段dに相当)。
【0031】TΔV=C・ΔVRR Cは定数で、例えば、図4に示すように、車体速VF に
よつて定数をC1,C2というように変え、制御用左右
後輪速差ΔVRRに対する差動制限トルクTΔVの制御ゲ
インである定数Cを、低速域での定数C1に比べ、高速
域では修正操舵のし易さによる安定性を達成するため小
さい定数C2(<C1)としてもよい。
【0032】ステップ36では、車体速VF が設定車体
速x以上かどうかが判断される。
【0033】ここで、設定車速xとしては、例えば、x
=5km/h程度の値が与えられる。
【0034】ステップ37では、差動制限トルクTΔV
にフィルタ処理が施され、差動制限トルクフィルタ値T
F とされる。
【0035】このフィルタ処理は、1制御周期前の差動
制限トルクTΔVを記憶させておき、今回の差動制限ト
ルクTΔVとの差が増加側及び減少側で所定以上の差と
ならないようにリミッタをかけることで行なわれる。
【0036】ステップ38では、ステップ37で得られ
た差動制限トルクフィルタ値TF が目標差動制限トルク
* として設定される。
【0037】ステップ39では、差動制限トルクTΔV
が差動制限トルク最大値Tmax 以上かどうかが判断され
る。尚、差動制限トルク最大値Tmax は、初期値がTma
x =0であり、さらに、制御中にステップ36からステ
ップ37へ進み制御に切り換わるとTmax =0にリセッ
トされる。
【0038】ステップ40では、TΔV≧Tmax を満足
する差動制限トルクTΔVが差動制限トルク最大値Tma
x として設定される。
【0039】ステップ41では、ステップ40で得られ
た差動制限トルク最大値Tmax が目標差動制限トルクT
* として設定される。
【0040】以上のステップ36〜ステップ41は、目
標差動制限トルク設定手段eに相当する。
【0041】ステップ42では、ステップ38あるいは
ステップ41で設定された目標差動制限トルクT* が得
られる制御電流ICSD がCSD制御バルブ12に出力さ
れる(差動制限トルク制御手段fに相当)。
【0042】[設定車速x以上での走行時]設定車速x
以上での走行時には、図3のフローチャートで、ステッ
プ30→ステップ31→ステップ32→ステップ33→
ステップ34→ステップ35→ステップ36→ステップ
37→ステップ38→ステップ42へと進む流れとな
り、フィルタ処理した差動制限トルクTΔVが得られる
左右後輪速差比例の差動制限トルク制御が行なわれる。
【0043】したがって、例えば、設定車速x以上の条
件を満足する左右スプリットμ路での走行時、制御用左
右後輪速差ΔVRRの発生に基づいて左右後輪5,6間に
差動制限トルクが付与されることになり、高μ路側の後
輪へのエンジン駆動トルクが増大し、高いトラクション
性能が発揮される。
【0044】さらに、設定車速x以上での走行時、差動
制限トルクTΔVには、増加側と減少側とにリミッタを
かけられ、差動制限トルクの急増並びに急減を抑えるよ
うにしていることで、左右スプリットμ路走行中におい
て差動制限トルクの急増,急減による車両挙動の急変が
防止される。
【0045】[スタック脱出時]車速が設定車速x未満
のスタック脱出時には、図3のフローチャートで、ステ
ップ30→ステップ31→ステップ32→ステップ33
→ステップ34→ステップ35→ステップ36→ステッ
プ39→ステップ40→ステップ41→ステップ42へ
と進む流れとなり、左右後輪速差比例の差動制限トルク
TΔVのうち差動制限トルク最大値Tmax が目標差動制
限トルクT* として設定車速xとなるまで維持されると
いう、ピークホールドによる差動制限トルク制御が行な
われる。
【0046】したがって、例えば、図5に示すように、
左右後輪5,6のうち左後輪5がスタックに入った状態
では、制御用左右後輪速差ΔVRRの発生に基づく差動制
限トルク最大値Tmax が、車両が完全に動き出し、車体
速VF が設定車速xに高まるまで維持されることで、右
後輪6へのエンジン駆動トルクの増大がスタックから完
全に脱出するまで確保され、高いスタック脱出性能が発
揮される。
【0047】[スタック脱出からの走行時]スタック脱
出から車速が設定車速x以上となると、それまで与えて
いた差動制限トルク最大値Tmax から左右後輪速差比例
の差動制限トルクTΔVに切り換わり、トルクの大きな
落差により車両挙動が急変する恐れがある。
【0048】しかし、ステップ37において、1制御周
期前の差動制限トルクTΔV(この場合にはTmax )
と、今回の左右後輪速差比例の差動制限トルクTΔVと
の差が所定以上となら内容にフィルタ処理が施されるこ
とで、指令される差動制限トルクに大きな落差があって
も、フィルタ処理にしたがって徐々にトルクを低下させ
るように制御され、スタック脱出からの走行時に車両挙
動の急変が防止される。
【0049】次に、効果を説明する。
【0050】(1)左右後輪速差情報に基づき左右後輪
5,6間の差動制限トルクを電子制御する差動制限トル
ク制御装置において、車体速VF が設定車速X以上の
時、制御用左右駆動輪速差ΔVRRに応じて決定した差動
制限トルクTΔVをそのまま目標差動制限トルクT*
し、車体速VF が設定車速X未満の時、制御用左右駆動
輪速差ΔVRRに応じて決定した差動制限トルクTΔVの
うち最大値Tmax を目標差動制限トルクT* として設定
車速xとなるまで維持するスタック対応制御を行なう装
置としたため、左右駆動輪速差比例制御を確保しながら
スタック脱出性の向上を図ることができる。
【0051】(2)左右後輪速差比例の差動制限トルク
制御を行なうにあたって、演算により得られた差動制限
トルクTΔVにフィルタ処理を施し、1制御周期前の差
動制限トルクTΔVと今回の差動制限トルクTΔVとの
差が増加側及び減少側で所定以上の差とならないように
リミッタをかけるようにしたため、左右スプリットμ路
での走行中における差動制限トルクの急増や急減を原因
とする車両挙動の急変を防止できるし、また、スタック
脱出から走行に入る時に差動制限トルクの急減による車
両挙動の急変を防止できる。
【0052】以上、実施例を図面により説明してきた
が、具体的な構成は実施例に限られるものではなく、本
発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加等があ
っても本発明に含まれる。
【0053】例えば、実施例では、油圧式の多板クラッ
チにより差動制限トルクを付与する例を示したが、外部
からの制御指令により可変に差動制限トルクを制御でき
るものであれば電磁クラッチなどであっても良い。
【0054】実施例では、スタック対応制御の開始車速
条件も終了車速条件も同じ設定車速で与える例を示した
が、開始車速条件に対し終了車速条件の設定車速を低く
し、早期に通常の左右駆動輪速差対応制御に復帰させる
ようにしてもよい。
【0055】
【発明の効果】以上説明してきたように本発明にあって
は、左右駆動輪速差情報に基づき左右駆動輪間の差動制
限トルクを電子制御する差動制限トルク制御装置におい
て、車速が設定車速以上の時、左右駆動輪速差検出値に
応じて決定した差動制限トルクをそのまま目標差動制限
トルクとし、車速が設定車速未満の時、左右駆動輪速差
検出値に応じて決定した差動制限トルクのうち最大値を
目標差動制限トルクとして設定車速となるまで維持する
目標差動制限トルク設定手段を設けた装置としたため、
左右駆動輪速差比例制御を確保しながらスタック脱出性
の向上を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の差動制限トルク制御装置を示すクレー
ム対応図である。
【図2】実施例の差動制限トルク制御装置が適用された
後輪駆動車の全体システム図である。
【図3】実施例装置のCSDコントローラで行なわれる
差動制限トルク制御作動処理の流れを示すフローチャー
トである。
【図4】実施例装置での左右後輪速差比例の差動制限ト
ルク特性図である。
【図5】実施例装置でのスタック脱出状況を示す作用説
明図である。
【符号の説明】 a 差動制限トルク付与手段 b 左右駆動輪速差検出手段 c 車速検出手段 d 差動制限トルク決定手段 e 目標差動制限トルク設定手段 f 差動制限トルク制御手段

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 左右駆動輪間に設けられ、外部からの制
    御指令に応じた差動制限トルクを付与する差動制限トル
    ク付与手段と、 左右の駆動輪速差を検出する左右駆動輪速差検出手段
    と、 車速を検出する車速検出手段と、 左右駆動輪速差検出値に応じた差動制限トルクに決定す
    る差動制限トルク決定手段と、 車速が設定車速以上の時、左右駆動輪速差検出値に応じ
    て決定した差動制限トルクをそのまま目標差動制限トル
    クとし、車速が設定車速未満の時、左右駆動輪速差検出
    値に応じて決定した差動制限トルクのうち最大値を目標
    差動制限トルクとして設定車速となるまで維持する目標
    差動制限トルク設定手段と、 前記目標差動制限トルクが得られる制御指令を前記差動
    制限トルク付与手段に出力する差動制限トルク制御手段
    と、 を備えていることを特徴とする差動制限トルク制御装
    置。
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