JP2831244B2 - 永久磁石の表面処理方法 - Google Patents

永久磁石の表面処理方法

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JP2831244B2
JP2831244B2 JP5266210A JP26621093A JP2831244B2 JP 2831244 B2 JP2831244 B2 JP 2831244B2 JP 5266210 A JP5266210 A JP 5266210A JP 26621093 A JP26621093 A JP 26621093A JP 2831244 B2 JP2831244 B2 JP 2831244B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、希土類系永久磁石の表
面に保護皮膜を形成する表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】希土類系永久磁石は、磁気特性に優れて
いるところから、各種電子、電気機器の磁気回路に多用
されるようになった。なかでもNdやPrを主とする軽
希土類を用いた鉄−硼素−希土類系永久磁石は、高いエ
ネルギー積を有する優れた磁石であり、その軽希土類元
素が資源的にも豊富なところから、利用分野が広がるも
のと期待される。また、さらなる磁気特性向上のための
研究開発も盛んに行われており、例えば、この種希土類
系磁石合金の組成の異なるものの粉体を混合して焼結す
ることにより、エネルギー積、保磁力および残留磁束密
度のバランスのとれた永久磁石を得る方法などが提案さ
れている。
【0003】この種の希土類系永久磁石は、主成分とし
て、空気中で酸化しやすい希土類元素、さらには鉄を含
んでいるため、これをそのまま使用すると酸化して錆を
発生する。そしてこの酸化物により磁気回路の特性を損
ねたり、周辺部を汚染したりする不都合が生じる。そこ
で、この希土類系磁石体の表面に保護皮膜を形成して耐
食性を付与する手段がとられている。その代表的な方法
は、磁石体の表面に光沢ニッケルめっき皮膜を形成し、
次いでクロメート処理する方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述の従来の表面処理
方法によると、ニッケルめっき皮膜の厚さを16μm程
度以上にしないと十分な耐食性を得ることができなかっ
た。ところが、めっき皮膜を厚くすると、素材形状によ
っては膜厚の均一性が失われ、磁石の寸法精度が悪くな
るという問題がある。また、めっき皮膜を厚くするに
は、めっきに長時間を要し、それだけコスト高となる。
さらに、めっき皮膜が厚くなればなるほど、素材の形状
によっては磁気特性の劣化が起こりやすくなる。ラック
式加工方法であれば、ニッケルめっき皮膜上に六価クロ
ム浴によるめっきを施すことによって、耐食性を向上さ
せる処理方法がある。この場合、ニッケルめっき皮膜を
8μm程度にまで薄くすることが可能である。しかし、
バレル式加工方法の場合、六価クロム浴の付き回りがよ
くないためバレルによるめっきが困難である。
【0005】従って本発明は、磁石体の寸法精度を損な
うことなく、十分な耐食性を有する保護皮膜を与える磁
石の表面処理方法を提供することを目的とする。また、
本発明は、電解めっき法で処理時間を短縮できる磁石の
表面処理方法を提供することを目的とする。さらに、本
発明は、めっき皮膜を薄くすることにより、磁気特性の
劣化を少なくすることができる磁石の表面処理方法を提
供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、希土類系磁石
体の表面に、光沢ニッケルめっき浴によるバレルを用い
た電解めっき法により光沢ニッケルめっき皮膜を形成し
た後、三価クロム浴によるバレルを用いためっき法によ
り前記光沢ニッケルめっき皮膜上にクロムめっき皮膜を
形成し、さらにクロメート処理することを特徴とする磁
石の表面処理方法である。ここで、めっき皮膜の膜厚
は、光沢ニッケルめっき皮膜は6〜16μm、クロムめ
っき皮膜は0.1〜1.0μmが適当であり、さらによ
りよい耐食性、寸法精度、めっき時間短縮、磁気特性劣
化防止を兼ね備えた条件は、ニッケル皮膜膜厚8〜12
μm、クロム皮膜膜厚0.3〜0.8μmである。
【0007】また、本発明の表面処理方法は、希土類系
磁石体の表面に前記と同様の光沢ニッケルめっき皮膜を
形成した後、このニッケルめっき皮膜上に、錫塩および
ニッケル塩を含む錫−ニッケル浴または錫塩およびコバ
ルト塩を含む錫−コバルト浴を用いた電解めっき法によ
り、錫−ニッケル合金めっき皮膜または錫−コバルト合
金めっき皮膜を形成し、さらにクロメート処理すること
を特徴とする。上記の錫−ニッケル合金めっき皮膜を形
成する場合、ニッケル皮膜膜厚6〜16μm、錫−ニッ
ケル合金皮膜膜厚0.1〜1.5μmが適当であり、さ
らによりよい耐食性、寸法精度、めっき時間短縮、磁気
特性劣化防止を兼ね備えた条件は、ニッケル皮膜膜厚8
〜12μm、錫−ニッケル合金皮膜膜厚0.4〜1.2
μmである。
【0008】一方、錫−コバルト合金めっき皮膜を形成
する場合は、ニッケル皮膜膜厚6〜16μm、錫−コバ
ルト合金皮膜膜厚0.3〜2.0μmが適当であり、さ
らによりよい耐食性、寸法精度、めっき時間短縮、磁気
特性劣化防止を兼ね備えた条件は、ニッケル皮膜膜厚8
〜12μm、錫−コバルト合金皮膜膜厚0.6〜1.5
μmである。本発明において、光沢ニッケルめっきに用
いるめっき浴およびめっき条件は通常のものでよい。表
1に好ましいめっき浴およびめっき条件を示す。
【0009】
【表1】
【0010】また、三価クロム浴は、三価クロム塩、例
えば硫酸クロムと、錯化剤としてカルボン酸塩と、硫酸
ナトリウム、硝酸カリウムなどの電導性塩および緩衡剤
の硼酸を含むものが好ましい。代表的なめっき浴および
めっき条件を表2に示す。
【0011】
【表2】
【0012】次に、錫−ニッケル合金めっきおよび錫−
コバルト合金めっきのためのめっき浴、めっき条件の好
ましい例を表3および表4に示す。
【0013】
【表3】
【0014】
【表4】
【0015】なお、本発明の光沢ニッケルめっきに先立
って行う磁石体の前処理は、通常のものでよく、アルカ
リ脱脂および酸洗いをし、さらに希硫酸による活性化処
理をするのが好ましい。
【0016】
【作用】光沢ニッケルめっき皮膜上に、三価クロム浴を
用いた電解めっきによりクロム皮膜を形成することによ
り、極めて薄く、しかも均一性の優れたクロム皮膜を形
成することができる。このため耐食性を向上することが
できるので、光沢ニッケルめっき皮膜を従来のように厚
くする必要がなく、従って磁石の寸法精度をよくするこ
とができる。クロムめっきをするには、六価クロム浴が
よく知られている。六価クロム浴を用いると、耐食性の
優れた皮膜を得ることはできるが、付きまわり性が悪
く、焼けを起こすという短所を有し、しかもバレルめっ
きをすることができない。さらに、公害の問題があり、
特別な排水処理を要するのでコスト高となる。これに対
して、三価クロム浴を用いると、これらの問題をすべて
解決し、バレルを用いてニッケルめっき皮膜上にクロム
めっきをすることができる。このクロムめっきにより耐
食性が格段によくなるので、ニッケルめっき皮膜を従来
より薄くすることができる。ニッケルめっき皮膜を薄く
すると、角部と平坦部の膜厚差が少なくなり、より寸法
精度がよくなるのである。磁石の寸法精度がよくなれ
ば、例えばハードディスクなどを駆動する駆動系制御の
精度がより向上する。また、ニッケルめっき皮膜の膜厚
を薄くすることにより、めっき時間を短縮することがで
きる。
【0017】上記のクロムめっきの代わりに錫−ニッケ
ル合金めっきまたは錫−コバルト合金めっきをしてもク
ロムめっきをしたものに近い耐食性を得ることができ
る。前記表3に示すめっき浴およびめっき条件によりS
n含量65〜75重量%、膜厚0.1〜1.5μmの錫
−ニッケル合金めっき皮膜を得ることができる。この皮
膜は、クロムめっき皮膜とほぼ同等の耐食性を示す。付
きまわりはクロムよりよく、バレルめっきが可能であ
る。また、表4に示すめっき浴およびめっき条件により
Coの含量20〜30重量%の錫−コバルト合金めっき
皮膜を得ることができる。耐食性はクロムめっきに比べ
若干落ちるが、付きまわりはよく、バレルめっきおよび
めっき時間の短縮が可能である。
【0018】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。なお、以
下の実施例では、本発明の効果が最もよく表れるバレル
式加工方法について説明するが、本発明は、ラック式加
工方法に適用しても同様な効果が得られることは言うま
でもない。 [実施例1]図1に示す形状の大きさ3cm×6cm、
厚さ約2mmのネオジウム−鉄−硼素系焼結永久磁石に
ついて、まず60g/lのNaOHおよび界面活性剤を
含む50℃のアルカリ水溶液に10分間浸漬して脱脂を
した後、30℃の塩酸水溶液(1モル/l)に1分間浸
漬する酸洗いにより酸化皮膜を除去し、水で超音波洗浄
し、さらに50℃の硫酸水溶液(0.5モル/l)に3
0秒間浸漬して活性化処理をし、水で超音波洗浄する。
こうして前処理した磁石を鉄製ダミーの玉とともにバレ
ルに入れ、表5に示すめっき浴およびめっき条件を用い
て各種膜厚の光沢ニッケルめっき皮膜を形成する。な
お、皮膜の厚さは、めっき時間を変えることにより調整
する。
【0019】
【表5】
【0020】次に、水洗の後、表6に示すめっき浴を用
いて各種膜厚のクロムめっき皮膜を形成する。なお、皮
膜の厚さは、めっき時間を変えることにより調整する。
【0021】
【表6】
【0022】上記のニッケルめっき皮膜とクロムめっき
皮膜を形成した磁石およびニッケルめっき皮膜のみを形
成した磁石をそれぞれ40℃の無水クロム酸水溶液(1
0g/l)に3分間浸漬してクロメート処理を施す。以
上のようにして表面処理を施した磁石の保護皮膜につい
てJIS H8502に規定のキャス試験をして評価し
た。このキャス試験は、塩化ナトリウム40g/lおよ
び塩化第二銅0.20g/lを含む酢酸酸性の水溶液を
圧縮空気圧力0.7〜1.7kgf/cm2で1.0〜
2.0ml/80cm2/hの割合で噴霧している温度
50℃の試験槽内に16時間放置してめっきの耐食性を
調べる試験方法であり、試験後の試料とレイティングN
o.標準図形との目視による照合により、以下の基準で
判定するものである。レイティングNo.9.5以上:
◎、レイティングNo.9以上:○、レイティングN
o.7以上:△、レイティングNo.7未満:×。判定
結果を表7に示す。また、ニッケルめっきおよびクロム
めっきに要した時間の比較を表8に示す。
【0023】
【表7】
【0024】
【表8】
【0025】表7の結果から明らかなように、ニッケル
めっき皮膜上に膜厚約0.5μmのクロムめっき皮膜を
形成すると、ニッケルめっきは膜厚8μmで十分な耐食
性を得ることができる。クロムめっきの膜厚をさらに厚
くすれば、ニッケルめっきの膜厚を減らすことができ
る。しかし、クロムめっきの膜厚を大きくすると、引張
応力が働き剥がれやくすなるので、1μm程度が限度で
ある。クロムめっきの膜厚を0.5μm程度にするな
ら、ニッケルめっきの膜厚は6μm程度でもほぼ満足で
きる耐食性を得ることができる。また、ニッケルめっき
の膜厚を12μm程度にすると、クロムめっきの膜厚
0.1μm程度でほぼ満足できる耐食性を得られる。ニ
ッケルめっき皮膜上にクロムめっき皮膜を形成すること
により、耐食性が得られると判断できる膜厚は、ニッケ
ルめっき皮膜が6〜16μm、クロムめっき皮膜が0.
1〜1.0μmであり、さらに良い耐食性を得られる膜
厚は、ニッケルめっき皮膜が8〜12μm、クロムめっ
き皮膜が0.3〜0.8μmである。従来の光沢ニッケ
ルめっきとクロメート処理により十分な耐食性を得るに
はニッケルめっきの膜厚は16μmを要し、そのために
はめっき時間約160分を要する。これに対して、ニッ
ケルめっき上にクロムめっきする本発明の方法による
と、膜厚8μmのニッケルめっき(めっき時間約80
分)、膜厚0.5μmのクロムめっき(めっき時間約5
分)と約半分の膜厚8.5μmおよび約半分のめっき時
間85分で十分な耐食性を得ることができる。
【0026】上記に用いた膜厚は、最も薄い部分の膜厚
を基準としたもので、図1に示すような形状の磁石にバ
レルめっきした場合、通常は図1における磁石の下側の
A点における膜厚がこれに相当する。また、C点におけ
る膜厚が最も厚くなる。表9に、各種膜厚の光沢ニッケ
ルめっきをしたときの最も薄い部分および最も厚い部分
の膜厚を示す。
【0027】
【表9】
【0028】ニッケルめっきのみで耐食性を得るため
に、最も薄い部分で16μm付けると、最も厚い部分で
は80μm位付いてしまうことになり、その差は64μ
mとなる。しかし、クロムめっきをすることにより、最
も薄い部分で8μm程度で済み、最も厚い部分で24μ
m位にすることができる。その差は16μmである。以
上のように、三価クロム浴を用いた電解めっき法により
光沢ニッケルめっき皮膜上にクロムめっき皮膜を形成す
ることにより、耐食性と寸法精度の優れた保護皮膜を有
する磁石を得ることができる。
【0029】以下に、三価クロム浴の特徴を挙げる。 (1)六価クロム浴に比べ、電流量が約半分で済む。 (2)低電流部分への付き回りが良好である。従って、
バレルメッキが可能である。 (3)均一電着性が非常に良く、低電流部、高電流部の
膜厚差がほとんど生じない。 (4)めっき液中のクロム含有量が、三価クロムとして
少ないため、人体への影響がほとんどない。 (5)高電流部分での焼けがほとんど生じない。 (6)廃水処理が容易である。 (7)ある膜厚範囲内であれば六価クロムと変わらない
耐食性を示す。
【0030】[実施例2]クロムめっきの代わりに錫−
ニッケル合金めっきをする例を説明する。錫−ニッケル
めっき浴を表10に示す。
【0031】
【表10】
【0032】光沢ニッケルめっき皮膜と錫−ニッケル合
金めっき皮膜を形成した後、クロメート処理を施す。こ
うして表面処理を施した磁石の保護皮膜について、実施
例1と同様にしてキャス試験をして評価した結果を表1
1に示す。また、ニッケルめっきおよび錫−ニッケル合
金めっきに要した時間の比較を表12に示す。
【0033】
【表11】
【0034】
【表12】
【0035】クロムめっきの代わりに錫−ニッケル合金
めっきをする場合は、表11からも明らかなように、光
沢ニッケルめっきの膜厚を若干厚くすることが望まし
い。錫−ニッケル合金めっきの膜厚を0.8μm程度に
すると、ニッケルめっきの膜厚6μm程度でほぼ満足で
きる耐食性を得ることができ、ニッケルめっきの膜厚8
μmで十分な耐食性を得ることができる。また、ニッケ
ルめっきの膜厚を12μm程度にすると、錫−ニッケル
合金めっきの膜厚0.1μm程度でほぼ満足できる耐食
性を得ることができる。ニッケルめっき皮膜上に錫−ニ
ッケル合金めっき皮膜を形成することにより、耐食性が
得られると判断できる膜厚は、ニッケルめっき皮膜が6
〜16μm、錫−ニッケル合金めっき皮膜が0.1〜
1.5μmであり、さらに良い耐食性を得られる膜厚
は、ニッケルめっき皮膜が8〜12μm、錫−ニッケル
合金めっき皮膜が0.4〜1.2μmである。従来のニ
ッケルめっきのみを膜厚16μm形成したものと同等の
耐食性を得るには、ニッケルめっき皮膜8μm(めっき
時間80分)および錫−ニッケル合金めっき皮膜0.8
μm(めっき時間6分)と膜厚、めっき時間ともに約半
分となる。
【0036】以下、錫−ニッケル合金めっき浴の特徴を
挙げる。 (1)低電流部分への付き回りが良好である。従って、
バレルメッキが可能である。 (2)均一電着性が非常に良く、低電流部、高電流部の
膜厚差がほとんど生じない。 (3)浴中の錫−ニッケル比率が多少変動しても、析出
比率が大きく変動することがなく、浴管理が容易であ
る。 (4)同じ膜厚の場合耐食性はクロムに比べ若干落ちる
が、電流効率の良さから厚付けができ、耐食性もほぼ同
等になる。 (5)クロムに比べ、耐食性が保てる膜厚範囲が広い。 (6)廃水処理が容易である。
【0037】[実施例3]クロムめっきの代わりに錫−
コバルト合金めっきをする例を説明する。錫−コバルト
合金めっき浴およびめっき条件を表13に示す。
【0038】
【表13】
【0039】光沢ニッケルめっき皮膜と錫−コバルト合
金めっき皮膜を形成した後、クロメート処理を施す。こ
うして表面処理を施した磁石の保護皮膜について、実施
例1と同様にしてキャス試験をして評価した結果を表1
4に示す。また、ニッケルめっきおよび錫−コバルト合
金めっきに要した時間の比較を表15に示す。
【0040】
【表14】
【0041】
【表15】
【0042】クロムめっきの代わりに錫−コバルト合金
めっきをする場合は、表14からも明らかなように、光
沢ニッケルめっきの膜厚を若干厚くすることが望まし
い。錫−コバルト合金めっきの膜厚を1.0μm程度に
すると、ニッケルめっきの膜厚6μm程度でほぼ満足で
きる耐食性を得ることができ、ニッケルめっきの膜厚8
μmで十分な耐食性を得ることができる。また、ニッケ
ルめっきの膜厚を12μm程度にすると、錫−コバルト
合金めっきの膜厚0.3μm程度でほぼ満足できる耐食
性を得ることができる。ニッケルめっき皮膜上に錫−コ
バルト合金めっき皮膜を形成することにより、耐食性が
得られると判断できる膜厚は、ニッケルめっき皮膜が6
〜16μm、錫−コバルト合金めっき皮膜が0.3〜
2.0μmであり、さらに良い耐食性を得られる膜厚
は、ニッケルめっき皮膜が8〜12μm、錫−コバルト
合金めっき皮膜が0.6〜1.5μmである。従来のニ
ッケルめっきのみを膜厚16μm形成したものと同等の
耐食性を得るには、ニッケルめっき皮膜8μm(めっき
時間80分)および錫−コバルト合金めっき皮膜1.0
μm(めっき時間3分)と膜厚、めっき時間とも約半分
となる。
【0043】以下、錫−コバルト合金めっき浴の特徴を
挙げる。 (1)低電流部分への付き回りが良好である。従って、
バレルメッキが可能である。 (2)均一電着性が非常に良く、低電流部、高電流部の
膜厚差がほとんど生じない。 (3)電流密度の差による析出比率への影響をほとんど
受けない。 (4)同じ膜厚の場合耐食性はクロムに比べ落ちるが、
電流効率がクロムの約2倍であり厚づけによる耐食性が
良い。 (5)クロムに比べ、耐食性が保てる膜厚範囲が広い。 (6)廃水処理が容易である。
【0044】[実施例4]永久磁石は、組成、形状によ
って差はあるが、高温雰囲気中で放置試験を行うと磁気
特性の劣化が起こる。その劣化を調べる方法として、高
温放置(120℃、24時間)前後において保磁力およ
び残留磁束密度がどのように変化したかをみる方法があ
る。本実施例では、劣化が現われやすい小形磁石(大き
さ2×2mm、厚み0.7mm)について、ニッケルめ
っきの膜厚と磁気特性の劣化率との関係を調べた。すな
わち、上記寸法のネオジウムー鉄ー硼素系焼結永久磁石
について、実施例1と同様にして所定の前処理の後、各
種膜厚の光沢ニッケルめっき皮膜を形成し、さらに膜厚
0.5μmのクロムめっきとクロメート処理を施したも
のを試料とし、高温放置による磁気特性の劣化率を調べ
た。図2において、aを高温放置前の減磁曲線、bを高
温放置後の減磁曲線とすると、劣化率は次式で表され
る。 劣化率(%)=(OP1−OP2)/OP1×100 ニッケルめっき皮膜の膜厚と劣化率との関係を表16に
示す。
【0045】
【表16】
【0046】磁気特性の劣化は、現在のところ、光沢ニ
ッケルめっき浴中の塩素イオンがエッチングされた素材
表面に残り、素材表面を浸食することによって物性が変
化することが最大の原因と考えられている。めっき膜厚
が薄い初期段階では、皮膜表面にピンホールが多く見ら
れ、めっきが進行し膜厚が厚くなるに従ってそのピンホ
ールは徐々に埋められていく。埋められたピンホールに
塩素イオンが残渣となって素材表面を浸食し、劣化を起
こす。つまり、膜厚が厚くなればなるほど劣化が進み、
ピンホールがほぼ埋められる程度の膜厚(16以上)で
磁気特性の劣化が最大となっている。クロムめっきの代
りに錫ーニッケル合金めっきまたは錫ーコバルト合金め
っきをしても上記と同様な結果を与える。このように、
本発明によれば、ニッケルめっき皮膜の膜厚をある程度
薄くすることが可能となるため、ピンホール中の塩素イ
オンが水洗によって取り除かれやすくなり、磁気特性の
劣化を抑制することができる。
【0047】
【発明の効果】以上のように本発明の方法によれば、高
性能を保有する永久磁石を得ることができるものであ
る。さらに本発明によれば、光沢ニッケルめっき皮膜を
従来より薄くすることができるので、保護皮膜の均一性
を向上し、それによって永久磁石の寸法精度を良くする
ことができるとともに表面処理の時間を短縮することが
できる。また、保存による磁気特性の劣化を抑制するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に用いた永久磁石の平面図であ
る。
【図2】永久磁石の減磁曲線の例を示す。

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 希土類系永久磁石体の表面に、光沢ニッ
    ケルめっき浴によるバレルを用いた電解めっき法で光沢
    ニッケルめっき皮膜を形成した後、三価クロム浴による
    バレルを用いた電解めっき法で前記光沢ニッケルめっき
    皮膜上にクロムめっき皮膜を形成し、さらにクロメート
    処理することを特徴とする永久磁石の表面処理方法。
  2. 【請求項2】 前記光沢ニッケルめっき皮膜を6〜16
    μm、クロムめっき皮膜を0.1〜1.0μm形成する
    請求項1記載の永久磁石の表面処理方法。
  3. 【請求項3】 希土類系永久磁石体の表面に、光沢ニッ
    ケルめっき浴による電解めっき法で光沢ニッケルめっき
    皮膜を形成した後、錫塩およびニッケル塩を含む錫−ニ
    ッケル浴による電解めっき法で前記光沢ニッケルめっき
    皮膜上に錫−ニッケル合金めっき皮膜を形成し、さらに
    クロメート処理することを特徴とする永久磁石の表面処
    理方法。
  4. 【請求項4】 前記光沢ニッケルめっき皮膜を6〜16
    μm、錫−ニッケル合金めっき皮膜を0.1〜1.5μ
    m形成する請求項3記載の永久磁石の表面処理方法。
  5. 【請求項5】 希土類系永久磁石体の表面に光沢ニッケ
    ルめっき浴による電解めっき法で光沢ニッケルめっき皮
    膜を形成した後、錫塩およびコバルト塩を含む錫−コバ
    ルト浴による電解めっき法で前記光沢ニッケルめっき皮
    膜上に錫−コバルト合金めっき皮膜を形成し、さらにク
    ロメート処理することを特徴とする永久磁石の表面処理
    方法。
  6. 【請求項6】 前記光沢ニッケルめっき皮膜を6〜16
    μm、錫−コバルト合金めっき皮膜を0.3〜2.0μ
    m形成する請求項5記載の永久磁石の表面処理方法。
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