JP3724739B2 - 希土類磁石の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、希土類磁石素体に電解めっきにより保護膜が形成されてなる希土類磁石およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高性能磁石として希土類磁石が知られている。この希土類磁石としては、希土類元素(R)と、遷移金属(TM)および硼素(B)とを含んで構成されたR−TM−B系のものが挙げられ、より具体的には、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)を含むNd−Fe−B系のものが挙げられる。希土類磁石は、高エネルギー積を示す点において優れている一方で、酸化されやすい元素を含んでいるため、耐食性に乏しい点が問題となっていた。この耐食性を改善するために、従来から電解めっきを使用して希土類磁石に保護膜を形成していた。この保護膜の形成手法としては、例えば、一般的な鉄鋼用防錆めっき技術が使用されていた。
【0003】
保護膜の形成手法やその保護膜が形成された希土類磁石としては、既にいくつかの具体例が提案されている。例えば、希土類磁石にニッケル電解めっき保護膜を積層することにより、耐食性を向上させる手法(例えば、特許文献1参照。)、無電解めっきにより保護膜を形成させる手法(例えば、特許文献2参照。)、銅めっき膜よりなる電解めっき保護膜を形成させる手法(例えば、特許文献3参照。)が知られている。
【0004】
【特許文献1】
特開平02−023603号公報
【特許文献2】
特開昭63−266020号公報
【特許文献3】
特開2002−332592号公報
【0005】
また、例えば、50μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有するR−Fe−B系の希土類磁石が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献4】
特開平03−254102号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、希土類磁石は、産業機械や自動車などの高耐食性が要求される用途だけでなく、それほど高耐食性が要求されない用途においても利用されている。この種の用途としては、例えば、管理された比較的穏やかな環境下において使用される精密電子機器などが挙げられ、具体的には、ハードディスク装置に搭載されるボイスコイルモータ用途が挙げられる。
【0008】
このボイスコイルモータは、温湿変化が小さな環境中に設置されて使用されている。このような比較的穏やかな環境では、保護膜を設けずに希土類磁石をそのまま使用したとしても、磁石の表面に酸化物が僅かに形成される程度であり、酸化反応がさらに進行して磁石の磁気特性が劣化するまでには至らない。
【0009】
一方、ハードディスク装置内でボイスコイルモータを使用する場合には、塵や埃などの異物の存在に起因してハードディスク装置が誤作動または故障することを防止するために、装置内の環境を清浄に維持する必要がある。しかしながら、保護膜を設けない希土類磁石では、表層の酸化物が振動や衝撃等に起因して剥離しやすいため、この酸化物が塵や埃として滞留し、ハードディスク装置が動作不良を起こす場合がある。
【0010】
このため、希土類磁石の酸化物の剥離防止のために、他の用途の場合と同様の保護膜を設けた磁石が使用されているが、この保護膜はもともと希土類磁石の耐食性向上を目的として設計されたものであり、発塵性抑制を目的として設計されたものでない。このため、希土類磁石に従来公知の保護膜を設けただけでは発塵性の防止に関して十分な効果が得られないという問題点があった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、発塵性を抑制し、搭載機器の動作不良発生を防止することが可能な希土類磁石およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る希土類磁石は、希土類磁石素体に電解めっきにより保護膜が形成されてなるものであり、保護膜が0.4μm以下の表面粗さを有するようにしたものである。
【0013】
本発明に係る希土類磁石の製造方法は、希土類磁石素体に電解めっきにより保護膜が形成されてなる希土類磁石の製造方法であって、硫黄を有する有機化合物を含む予備浸漬浴中において、未通電の状態で希土類磁石素体に浸漬処理を施す工程の後、電気めっき浴を使用して希土類磁石素体に電解めっき処理を施し保護膜を形成する工程を有するようにしたものであり、0.4μm以下の表面粗さを有する保護膜を容易に形成しうる製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る希土類磁石の構成について説明する。図1は、希土類磁石10の断面構成を拡大してイメージとして表している。
【0016】
この希土類磁石10は、表面凹凸(凹部1A,凸部1B)を有する希土類磁石素体1に、電解めっきにより保護膜2が形成されてなるものである。
【0017】
保護膜2は、0.4μm以下の表面粗さを有している。この「表面粗さ」とは、JIS−B0601−1994に規定されている算術平均表面粗さ(Ra)であり、例えば、評価長さ=4.0mm、カットオフ値=0.8mmでの値である。保護膜2の寸法が上記した評価長さに満たない場合には、評価長さが4.0mm未満であってもよい。なお、希土類磁石10を多方面の用途において使用する上で、その生産性やコスト等を考慮するのであれば、保護膜2の表面粗さは0.2μm以下、あるいは0.1μm以下であることがより好ましい。 下限は特に限定されないが、実用上、製造コストを考慮すると0.01μm程度である。
【0018】
また、保護膜2は、30μm以下、好ましくは1μm〜20μmの厚さを有している。保護膜2の厚さが薄すぎると、本願発明に係る製造方法を用いても容易には上記した適正な表面粗さ(0.4μm以下)を有し得ず、一方、厚すぎると、膜応力が増加して希土類磁石素体1との密着強度が低下してしまうと共に、磁石全体における膜厚分布が大きくなって磁石の寸法精度が劣化してしまう。なお、寸法精度は磁石としての寸法であり、全面に保護膜を形成した場合には、磁石の表面、裏面の両方に保護膜がある。したがって、保護膜の膜厚分布の2倍の割合で、磁石の寸法精度が劣化する。なお、ハードディスク装置のボイスコイルモータ用途では、磁石はヨークに貼り付けられて使用されるために、片面と側面のみに保護膜を形成することも可能であり、この場合には、磁石の寸法精度は保護膜の膜厚分布に等しくなる。さらに、磁石が強い磁力によりヨークに押しつけられるために保護膜が変形し、時間の経過につれて保護膜の膜厚分布が良くなる傾向もあるので、有機系接着剤で磁石をヨークに貼り付ける場合には、短時間硬化の接着剤ではなく、少なくとも6時間以上の硬化時間を有する接着剤を用いることが好ましい。また、ニッケル等の強磁性保護膜の場合には、保護膜の膜厚が厚くなると、磁気回路を構成した際に実質的に磁石としての磁気特性が劣化するという問題もある。
【0019】
この保護膜2は、ニッケルまたは銅を主成分として含んで構成されている。なお、保護膜2としては、必ずしもニッケルや銅を主成分とするものに限らず、他の金属や合金を主成分として構成されていてもよい。ただし、保護膜2の形成容易性やコスト等を考慮すれば、保護膜2はニッケルや銅を主成分とすることが最も好ましい。
【0020】
本発明の希土類磁石素体1は、希土類元素(R;ただし、Rはイットリウム(Y)を含む希土類元素のうちの少なくとも1種)を含む磁石であり、例えば、希土類元素と、鉄と、硼素とを含むR−Fe−B系のものである。この希土類元素は、ネオジム、プラセオジム、ホルミウムおよびテルビウムのうちの少なくとも1種であり、あるいは先に列挙した一連の元素と共にランタン、サマリウム、セリウム、ガドリニウム、エルビウム、ユウロピウム、プロメチウム、ツリウム、イッテルビウムおよびイットリウムを含む元素群のうちの少なくとも1種である。なお、希土類元素が2種以上の元素を含む場合には、その希土類元素はミッシュメタル等の混合物であってもよい。
【0021】
このR−Fe−B系の希土類磁石素体1は、元素の一部が他の元素で置換されていてもよい。例えば、Nd−Fe−B系の場合には、ネオジムの一部がプラセオジムで置換されていれば、プラセオジムで置換されていないものと比較して、耐食性が向上すると共に水素吸蔵性が低くなる。この場合には、置換量がネオジムの含有量のうちの1原子%〜50原子%であることが好ましい。
【0022】
この希土類磁石素体1は、上記したように、微視的には表面に凹凸を有している。この希土類磁石素体1の表面粗さ(Ra)は、一般的に量産が容易な、0.7μm〜3μmである。希土類磁石素体1の表面粗さが0.7μm未満になると、アンカー作用による密着効果が得られずに保護膜2が膨れて剥離しやすくなると共に、めっき前の磁石素体の加工が高コストとなり工業的には現実的ではない。この希土類磁石素体1は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相を含むと共に、体積比で1%〜50%の非磁性相を含み、その主相の粒径は1μm〜100μmである。この希土類磁石素体1は、燒結磁石であってもよいし、ボンド磁石(樹脂結合型磁石)であってもよい。
【0023】
次に、図1および図2を参照して、希土類磁石の製造方法について説明する。図2は、図1に示した希土類磁石10の製造工程を説明するためのものである。
【0024】
この希土類磁石の製造方法は、図2に示したように、硫黄を有する有機化合物を含む予備浸漬浴20中において、未通電の状態で希土類磁石素体1に浸漬処理を施す工程の後、電気めっき浴30を使用して希土類磁石素体1に電解めっき処理を施すことにより、図1に示したように、保護膜2を形成するものである。予備浸漬浴20に希土類磁石素体1を浸漬させる時間は、1秒〜1000秒程度が好ましい。前記範囲未満では十分に前記有機化合物が磁石表面に吸着せず、前記範囲を超えると工程時間が長くなってコスト高の原因となる。また、少なくとも浸漬処理の前半において、超音波を利用して予備浸漬浴20を攪拌するのが好ましい。予備浸漬浴20を超音波攪拌すると、硫黄を有する有機化合物が拡散して希土類磁石素体1の凹部1Aまで到達し得るからである。予備浸積浴20の温度に制限はないが、室温電気めっき浴30の温度程度が好ましい。
【0025】
なお、希土類磁石素体1に保護膜2を形成する際には、無電解めっきを使用して希土類磁石素体1にあらかじめ下地膜(例えばニッケルリンめっき膜)を形成しておいてから、この下地膜上に保護膜2を形成するようにしてもよい。また、保護膜2上に、さらに上部保護膜(オーバーコート膜;例えば無電解ニッケルリンめっき膜、電着塗装膜、電解ニッケルめっき膜等)を形成するようにしてもよい。ただし、表面粗さを劣化させる上部保護膜は好ましくない。
【0026】
本発明の硫黄を有する有機化合物は、めっきにおける、いわゆる光沢剤として知られている一連の低分子水溶性有機化合物(分子量=30〜100000)から選択される1種以上である。光沢剤とは、電解めっき中にめっき膜の各種特性(外観、機械的特性、結晶構造、粒径、レベリング性等)を変化させるためのものであり、具体的には、めっき膜を微細粒子化したり、あるいはレベリングさせるためのものである。なお、本発明において、めっき光沢剤とは、狭義の光沢剤であるいわゆるブライトナーを意味する物ではなく、いわゆるキャリヤー、応力緩和剤またはレベラーなどと呼ばれる各種のめっき添加剤の全てを含む広義の光沢剤の意味である。
【0027】
硫黄を有する有機化合物は、上記光沢剤の中から、特に、応力緩和剤、1次光沢剤、ブライトナーと呼ばれている光沢剤から選択することができる。すなわち、電解ニッケルめっき浴において応力緩和剤、1次光沢剤と呼ばれている光沢剤としては、例えば、=C−SO−構造を有する有機化合物、具体的には、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,5−、1,6−または2,5−ナフタレンジスルホン酸、アリルスルホン酸またはベンゼンスルホン酸などのスルホン酸塩や、サッカリンまたはサッカリンナトリウムなどの芳香族スルホンイミドや、パラトルエンスルホンアミドまたはベンゼンスルホンアミドなどのスルホンアミドや、スルフィン酸や、ベンゼンスルフィン酸などのスルフィン酸塩や、チオ硫酸塩や、亜硫酸塩、さらには、チオ尿素、チオセミカルバジド、メチルチオセミカルバジド等のチオ尿素基を有する化合物、さらには前記有機化合物の塩、誘導体、誘導体塩などのいずれか1種以上を使用することが可能である。応力緩和剤、1次光沢剤と呼ばれている光沢剤の予備浸漬浴20への添加量は0.1g/L(リットル)〜100g/L程度である。
【0028】
また、電解銅めっき浴のブライトナーと呼ばれている光沢剤には、チオ尿素、チオセミカルバジド、メチルチオセミカルバジド等のチオ尿素基を有する化合物に加えて、チアントレンスルホン酸、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドナトリウム、ビス(2−スルホエチル)ジスルフィド、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸、ビス−メルカプト−オキシ−メチレン−ジ−スルフィド、N,N−ジエチル−ジチオカルバミン酸−(スルホプロピル)−エステル、メルカプト−ベンゾチアゾール−S−プロパンスルホン酸、o−エチル−ジチオ−石炭塩−(8−スルホプロピル)エステルなどのスルホン基を有する有機化合物、その塩、前記有機化合物の誘導体、誘導体の塩などのいずれか1種以上を使用することが可能である。ブライトナーと呼ばれている光沢剤の予備浸漬浴20への添加量は10ppm〜10000ppm程度である。後述のようにブライトナーのみを使用する場合には多く、キャリヤーおよび塩素を併用添加する場合には少なくなる。
【0029】
これら、硫黄を有する光沢剤の中でも、スルホン構造(−SO−構造または−SO−構造)を有する有機化合物が好ましく、特に好ましくは、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,5−、1,6−または2,5−ナフタレンジスルホン酸、アリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サッカリン、チアントレンスルホン酸、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドナトリウム、ビス(2−スルホエチル)ジスルフィド、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸、これらの有機化合物、その塩、それらの誘導体のいずれか1種以上である。
【0030】
なお、光沢剤の塩としては、ナトリウム塩またはカリウム塩が入手容易であり、価格面や水への溶解度の観点からも好ましい。
【0031】
なぜ、これらの硫黄を有する有機化合物を含む予備浸漬浴20中において、未通電の状態で希土類磁石素体1に浸漬処理を施す工程の後、電気めっき浴30を使用して希土類磁石素体1に電解めっき処理を行うことで、極めて表面粗さの小さな電解めっき膜が得られるかは明らかではない。しかし、後述のように、そして実験事実として、希土類磁石素体1の凹部1Aに、これらの硫黄を有する有機化合物が優先的に吸着することで、凹部1Aにおけるめっき膜の成膜を促進していることが判明している。
【0032】
そして、本発明の予備浸積浴20、および電気めっき浴30には、上記予備浸積浴20に用いる有機化合物以外は、いわゆる光沢剤を一切用いないで、めっき膜を形成することも可能であるが、併用することが好ましい。
【0033】
すなわち、電解ニッケルめっき浴においては、2次光沢剤と呼ばれている光沢剤を用いることが好ましい。例えば、C=O、C=C、C≡O、C=N、N−C−S、N=Nまたは−CH−CH−O−などの構造を有する有機化合物が好ましく、具体的には、キノリンや、ピリジンや、ホルムアルデヒドや、抱水クロラールや、1,4−ブチンジオールまたは2−ブチン−1,4−ジオールにエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを付加した化合物や、プロパギルアルコールや、エチレンシアンヒドリンや、クマリンや、上記した一連の有機化合物の誘導体などを使用することが可能である。さらに、予備浸積浴20に用いた1次光沢剤を、さらに電気めっき浴30に使用することも可能である。
【0034】
一方、電解銅めっき浴においては、キャリヤー、またはレベラーと呼ばれている光沢剤を使用することが好ましい。さらに、予備浸積浴20に用いた1次光沢剤を、さらに電気めっき浴30に使用することも可能である。また、予備浸積浴20にキャリヤー、またはレベラーと呼ばれている光沢剤を使用することも可能である。
【0035】
キャリヤーとしては、平均分子量=200〜100000のポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンオレインエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルまたはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリエーテル化合物や、1,3−ジオキソラン重合体などがある。そして、これらは予備浸積浴20に使用すること、さらには電気めっき浴30にも使用することが可能である。なお、キャリヤーを用いる際には、その効果に塩素イオンが大きく寄与することが知られているため、塩素イオンも同時に添加して使用することが好ましい。キャリヤーを予備浸積浴20に使用すると、予備浸積浴20に使用する硫黄(スルホン基)を有する有機化合物の希土類磁石素体1への吸着反応が促進され、キャリヤーを併用しない場合に比べて、硫黄を有する有機化合物の予備浸積浴20への使用量を減少させることが可能となる。キャリヤーの添加量は、10ppm〜2000ppm程度である。塩素の添加量は1ppm〜200ppm程度である。
【0036】
レベラーとしては、ヤヌスグリーンB、ヤヌスブラック、ヤヌスブルー、ヤヌスグレーなどのフェナジン系染料などを電気めっき浴30にのみ、あるいは電気めっき浴30と予備浸積浴20の両方使用することができる。これらのレベラーの添加量は1ppm〜500ppm程度である。
【0037】
電解めっきのめっき手法としては、引っかけめっき法やバレルめっき法などを用いることが可能である。電流密度は引っかけめっき法において0.1A/dm〜20A/dmとなり、バレルめっき法において約0.01A/dm〜3A/dmとなる。また直流めっきだけでなく、間欠めっき、パルスめっき等も使用可能である。
【0038】
この希土類磁石の製造方法では、以下で説明するめっき膜の成膜原理により、希土類磁石素体1に保護膜2が形成される。
【0039】
すなわち、例えば、図2に示したように、キャリヤー、ブライトナーおよび塩素イオンを含む予備浸漬浴20に、未通電の状態で希土類磁石素体1が浸漬されると、その希土類磁石素体1の表面に最初にキャリヤーが吸着し単分子膜を作成する。その吸着には塩素イオンが補助的に機能する。この後、さらにブライトナーが吸着する。水洗後、光沢剤を添加しない硫酸銅系の電気めっき浴30中において希土類磁石素体1に電解めっきが施されると、その希土類磁石素体1の表面に銅めっき膜が成長することにより、図1に示したように、保護膜2が形成される。この保護膜2の形成過程では、予備浸漬時に希土類磁石素体1の表面に吸着したブライトナーが、脱離・吸着を繰り返して保護膜2(陰極)の表面に留まりながら、凸部1B近傍よりも凹部1A近傍において銅めっき膜の成長を促進させるレベリング作用を示す。これにより、希土類磁石素体1の凹部1Aに対応する箇所ではその周辺の凸部1Bに対応する箇所よりも膜厚が厚くなり、かつ凸部1Bに対応する箇所ではその周辺の凹部1Aに対応する箇所よりも膜厚が薄くなるように、銅めっき膜が成長する。したがって、希土類磁石素体1が表面凹凸構造を有しているにも関わらず、ほぼ平坦となるように保護膜2の成長過程が制御されるため、その保護膜2の表面粗さを容易に0.4μm以下とすることができる。
【0040】
なお、上記した「ブライトナーが希土類磁石素体1の凹部1A近傍において銅めっき膜の成長を促進させる」作用は見かけ上の作用であり、実際には、希土類磁石素体1に保護膜2が形成される際に、ブライトナーによりキャリヤーの析出抑制作用が緩和されたり、あるいはブライトナーの吸着反応とキャリヤーの吸着反応とが競争関係にあり、希土類磁石素体1のうちのブライトナーが既に吸着している箇所にキャリヤーが吸着できなくなるために、結果として、相対的に凹部1A近傍において銅めっき膜の成長が促進されるものと推定される。
【0041】
特に、この保護膜2の表面粗さが0.4μm以下の希土類磁石10では、以下の理由により、希土類磁石10の発塵性を抑制し、その希土類磁石10が適用されたボイスコイルモータを搭載するハードディスク装置の動作不良発生を防止することができる。
【0042】
図3および図4は本実施の形態に対する比較例としての希土類磁石の製造方法により製造された希土類磁石100の問題点を説明するためのものであり、いずれも図1に対応する断面構成を表している。この比較例の希土類磁石の製造方法は、予備浸漬されていない希土類磁石素体101に電解めっきを施して保護膜102を形成している点を除き、本実施の形態の希土類磁石の製造方法と同様である。
【0043】
比較例では、希土類磁石素体101に保護膜102を形成するために、一般的な電解めっきと同様に保護膜102の均一電着性が高まるようなめっき浴およびめっき条件を使用している。この保護膜102の均一電着性とは、図3に示したように、希土類磁石素体101が表面凹凸構造(凹部101A,凸部101B)を有する場合に、ほぼ均一な膜厚となるように希土類磁石素体101を被覆し、その表面凹凸構造を忠実にトレースして同様の表面凹凸構造(凹部102A,凸部102B)を有するように保護膜102が成長する性質である。この保護膜102の均一電着性を利用すれば、酸化されやすい希土類磁石素体101の表面がほぼ均一な膜厚の保護膜102により保護されるため、その希土類磁石素体101の耐食性が確保される。なお、実際に希土類磁石素体101に電解めっきを施した場合には、凹部101A近傍よりも凸部101B近傍において電流密度が高まり、その凸部101B近傍において局所的に成膜速度が速くなるため、図4に示したように、凹部101Aに対応する箇所よりも凸部101Bに対応する箇所において膜厚が厚めになり、希土類磁石素体101の表面凹凸構造よりも大きな表面凹凸構造を有するように保護膜102が形成される場合が多い。この比較例の希土類磁石の製造方法を使用して形成された保護膜102の表面粗さは概ね1.0μm以上であり、最も平坦化された場合でも0.5μm程度である。
【0044】
この希土類磁石100では、保護膜102により希土類磁石素体101の耐食性が確保される一方で、図3および図4に示したように、保護膜102の表面粗さが0.4μmよりも大きくなり、その表面に比較的大きな凸部102Bが存在しているため、発塵性が高くなるという問題がある。具体的には、例えば、凸部102Bの強度が低いため、その凸部102Bが振動や衝撃等に起因して脱離し、塵や埃等として飛散しやすくなる。その上、保護膜102のうちの凸部102Bが脱離した箇所にピンホールが生じ、そのピンホールを通じて希土類磁石素体101が部分的に露出した場合には、その露出部分が酸化して膨張すると、その膨張した酸化物が振動や衝撃等に起因して脱離し、やはり塵や埃等として飛散しやすくなる。この場合には、希土類磁石100が適用されたボイスコイルモータがハードディスク装置に搭載されていると、上記「発明が解決しようとする課題」の項において説明したように、装置内に滞留している塵や埃などに起因して動作不良が発生しやすくなってしまう。
【0045】
これに対して、本実施の形態の希土類磁石10では、保護膜2の表面粗さが0.4μm以下であるため、図1に示したように、その表面には比較的小さな凸部2Bしか存在していない。この場合には、凸部2Bの強度が高いため、その凸部2Bが振動や衝撃等に起因して脱離しにくくなる。しかも、凸部2Bが脱離しにくいため、希土類磁石素体1が部分的に露出して酸化されることがなく、その希土類磁石素体1の部分的酸化に起因して酸化物が脱離しない。これにより、希土類磁石10の発塵性が抑制され、ハードディスク装置内に滞留する塵や埃の滞留量が少なくなるため、動作不良が発生しにくくなる。したがって、本実施の形態では、比較例の場合とは異なり、希土類磁石10の発塵性を抑制し、ハードディスク装置の動作不良発生を防止することが可能になるのである。
【0046】
なお、保護膜2の表面粗さを小さくするためには、本実施の形態において説明した手法以外に、希土類磁石素体1の表面を機械加工等で研磨してあらかじめ平坦化させたのち、その希土類磁石素体1に均一電着性の高い保護膜2を形成する手法も考えられるが、この手法を使用する場合には、希土類磁石素体1の表面加工を要するため、その表面加工分だけ希土類磁石10の製造コストが高くなり、現実的ではない。この点に関して、本実施の形態では、希土類磁石素体1の表面加工を要せず、表面凹凸構造を有する希土類磁石素体1をそのまま使用することが可能なため、希土類磁石10のコストアップを回避することができ、工業的に利用できる。
【0047】
本実施の形態に係る希土類磁石の製造方法を使用して形成された希土類磁石10に関する保護膜2の表面粗さとその厚さとの関係は、例えば、図5に示した通りである。図5は保護膜の表面粗さの厚さ依存性を表しており、横軸は保護膜の厚さT(μm)、縦軸は表面粗さRa(μm)を示している。なお、図5中の5Aは保護膜の均一電着性を説明するための仮想例、5B,5Cは図3,図4に示した比較例、5D,5Eは本実施の形態について示しており、希土類磁石素体の表面粗さは5B〜5Eのいずれについても1.25μmである。5Bは均一電着性の特に高いめっき浴、5Cは通常のめっき浴について示し、5Dはニッケルめっき、5Eは銅めっきについて示している。
【0048】
図5に示したように、表面凹凸構造を有する希土類磁石素体に保護膜が形成される際、その保護膜が完全な均一電着性を示すと仮想すると(5A)、厚さTに関係せずに表面粗さRaが一定となるのに対して、実際には(5B〜5D)、保護膜の厚さが増加するにしたがって表面粗さが低下する。この場合、比較例と本実施の形態とを比較すると、希土類磁石素体を予備浸漬させていない比較例(5B,5C)では、保護膜の厚さを約20μm以上まで増加させても表面粗さが0.5μm〜1.15μmまでしか低下しないのに対して、希土類磁石素体を予備浸漬させた本実施の形態(5D,5E)では、保護膜の厚さが10μm程度で、表面粗さが0.1μmまで低下する。すなわち、本実施の形態では、比較例よりも薄厚で表面粗さが小さい保護膜を実現可能となるのである。
【0049】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0050】
まず、以下の手順により、燒結法を利用して希土類磁石素体を形成した。すなわち、粉末治金法を利用して、希土類元素としてネオジムを含む合金(Nd−Dy−B−Fe系;Nd=27.4重量%、Dy=3重量%、B=1重量%、Fe=68.6重量%)を形成したのち、この合金を鋳造してインゴットとした。続いて、スタンプミルを使用してインゴットを粗粉砕したのち、さらにボールミルを使用して微粉砕することによりインゴットを粉末化した。続いて、磁場中でインゴット粉末を成形し成形体を得た。続いて、不活性ガス雰囲気中において時効処理を施した。最後に、25mm×40mm×5mmの直方体状となるように成形体を加工したのち、この成形体にバレル研磨処理を施し、面取りして形状を整えることにより、希土類磁石素体を得た。
【0051】
この希土類磁石素体を使用して希土類磁石を形成する前に、表面粗さ(Ra)を測定した。すなわち、評価長さ=4mm、カットオフ値=0.8mmの条件下、触針式表面粗さ計を使用して、1つの希土類磁石素体について5箇所を測定した上、その平均値を求めたところ、表面粗さは1.36μmであった。なお、5箇所の表面粗さ値の中に、他の測定値と比較して10%以上異なる測定値があった場合には、その測定値を特異点として判断して使用せず、再測定して新たに得た測定値を使用して平均値を求めた。
【0052】
この希土類磁石素体に、アルカリ脱脂処理、0.5%硝酸溶液を使用した表面酸化膜除去処理(酸洗浄処理)、1%グルコン酸溶液を使用した超音波洗浄処理(スマット除去処理)をこの順に施した。この処理後に表面粗さは、1.93μmとなった。以下に列挙する条件で、電解めっきを使用して希土類磁石素体に保護膜を形成することにより、保護膜付き希土類磁石を製造した。
【0053】
(実施例1)
まず、奥野製薬工業社製の無電解ニッケル−リン系めっき浴(浴温=35℃、pH=9.0)を使用し、希土類磁石素体に0.5μm厚の無電解ニッケルリンめっき下地膜を形成した。下地膜が形成された希土類磁石素体の表面粗さは1.89μmであり、下地膜が形成される前の表面粗さ(1.93μm)とほぼ同様であった。続いて、銅系の予備浸漬浴中に未通電の状態で2分間に渡って希土類磁石素体を浸漬させた。この際、予備浸漬浴としては、200g/Lの硫酸銅(5水和物)と、85g/Lの硫酸(98%)と、300ppmのポリエチレングリコールと、3ppmのSPS(ビス(3−スルフォプロピル)ジスルフィド2ナトリウム塩)と、50ppmの塩素とを含むものを使用すると共に、浴温=25℃とし、浸漬処理の前半において1分間に渡って超音波攪拌した。続いて、予備浸漬浴から希土類磁石素体を取り出して純水で洗浄したのち、硫酸銅系のめっき浴を使用して電解めっきを行い、その希土類磁石素体に8μm厚の銅めっき保護膜を形成することにより、希土類磁石を製造した。この際、めっき浴としては、ポリエチレングリコール、SPS、塩素を除き、替わりに30ppmのヤヌスグリーンBを添加した予備浸漬浴と同様の組成を有するものを使用すると共に、浴温=25℃、電流密度=3A/dmとした。最後に、下地膜を形成した場合と同様の条件により、希土類磁石の保護膜上に0.5μm厚の無電解ニッケルリンめっきオーバーコート膜を形成した。なお、オーバーコート膜の成膜前後で表面粗さは変化していないことを確認した。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様の希土類磁石素体、前処理、無電解成膜、予備浸積の後に、200g/Lの硫酸銅(5水和物)と、85g/Lの硫酸(98%)と、300ppmのポリエチレングリコールと、3ppmのSPS(ビス(3−スルフォプロピル)ジスルフィド2ナトリウム塩)とに、50ppmの塩素および30ppmのヤヌスグリーンBを添加した電気めっき浴を用い、13μm厚の銅めっき保護膜を形成した。その後、実施例1と同様に無電解ニッケルリンめっきオーバーコート膜を形成した。
【0055】
(実施例3)
実施例1と同様の希土類磁石素体、前処理、無電解成膜、予備浸積の後に、200g/Lの硫酸銅(5水和物)と、85g/Lの硫酸(98%)のみからなる光沢剤未添加の電気めっき浴を用い、10μm厚の銅めっき保護膜を形成した。その後、実施例1と同様に無電解ニッケルリンめっきオーバーコート膜を形成した。
【0056】
(実施例4)
実施例1と同様の希土類磁石素体、前処理の後に、希土類磁石素体を予備浸漬浴に浸漬させた。この際、270g/Lの硫酸ニッケル(6水和物)と、50g/Lの塩化ニッケル(6水和物)と、40g/Lの硼酸と、15g/Lの1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムとを含むものを使用し、pH=4.5、浴温=50℃、浸漬時間=1分間とし、浸漬処理の前半において30秒間に渡って超音波攪拌した。その後、電気めっき浴として、予備浸漬浴に0.5mg/Lのクマリンをさらに添加した浴を用い、浴温=50℃、pH=4.5、電流密度=1A/dmにて9μm厚の電解ニッケルめっき保護膜を成膜した。なお、めっき時間は45分間としたが、途中、15分毎に、電気めっき浴から磁石を引き上げ、予備浸積浴にて1分間の浸積を行った。
【0057】
(実施例5)
実施例4において、電解めっき時間を2時間とし、膜厚を厚くした(25μm厚)以外は同様に試作した。なお、途中引き上げ、予備浸積の回数は8回であった。
【0058】
(比較例1)
実施例1、2,3に対する比較例として、予備浸漬浴を使用せずに通常の電気めっき浴、すなわち実施例2で用いた浴を用いて成膜した以外は実施例1と同様の工程で15μm厚の保護膜を形成した。
【0059】
(比較例2)
実施例1、2,3に対する比較例として、硫黄を含まない光沢剤である300ppmのポリエチレングリコールに、50ppmの塩素および30ppmのヤヌスグリーンBを添加した予備浸漬浴を用い、電気めっき浴に硫黄を含む光沢剤である3ppmのSPS(ビス(3−スルフォプロピル)ジスルフィド2ナトリウム塩)を添加した以外は実施例1と同様の工程で20μm厚の保護膜を形成した。
【0060】
(比較例3)
実施例4、5に対する比較例として、予備浸漬浴を使用せずに通常の電気めっき浴、すなわち実施例4で用いた浴を用いて成膜した以外は実施例4と同様の工程で32μm厚の保護膜を形成した。
【0061】
(比較例4)
実施例4,5に対する比較例として、硫黄を含まない光沢剤である0.5mg/Lのクマリンを予備浸積浴に添加し、電気めっき浴には硫黄を含む光沢剤である15g/Lの1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムを添加した浴を用いて成膜した以外は実施例4と同様の工程で15μm厚の保護膜を形成した。
【0062】
(比較例5)
また、下地膜やオーバーコート膜を形成するために使用したニッケル系の無電解めっき用めっき浴を使用して、希土類磁石素体に10μm厚のニッケルリンめっき保護膜を形成した点を除いて、実施例1の場合と同様の手順で希土類磁石を製造した。
【0063】
(比較例6)
なお、上記した一連の比較例1〜4以外に、保護膜が設けられていない希土類磁石素体を比較例6とした。
【0064】
(比較例7)
実施例1と同様の希土類磁石素体を、さらに高精度機械加工を行い表面粗さを0.52μmとした。なお、加工コストは実施例1の5倍を要した。この希土類磁石素体に、アルカリ脱脂処理、0.5%硝酸溶液を使用した表面酸化膜除去処理(酸洗浄処理)、1%グルコン酸溶液を使用した超音波洗浄処理(スマット除去処理)をこの順に施した。この処理後に表面粗さは、0.55μmとなった。この希土類磁石素体に、ニッケル系の電解めっき用めっき浴を使用して、10μm厚の保護膜を形成した。この際、めっき浴としては、50g/Lの塩化ニッケル(6水和物)と、300g/Lの硫酸ナトリウムと、45g/Lの硼酸と、2g/Lのサッカリンナトリウムと、0.1g/Lのブチンジオールと、10ppmの酢酸鉛とを含むものを使用すると共に、pH=4.0、浴温=55℃、電流密度=2A/dmとした。
【0065】
これらの実施例1〜5および比較例1〜7の希土類磁石の表面粗さ(すなわち保護膜の表面粗さ)を測定したのち、各希土類磁石をボイスコイルモータに適用してハードディスク装置を構成し、その装置内の清浄度と保護膜の表面粗さとの関係を調べた。また、希土類磁石素体と保護膜との密着性も調べた。その結果は、表1に示した通りである。
【0066】
なお、清浄度の評価は、以下の手順で行った。すなわち、希土類磁石がヨークに貼り付けられたボイスコイルモータをハードディスク装置に搭載したのち、そのハードディスク装置に設けられた換気口にパーティクルカウンタの吸入チューブを差し込み、装置内の清浄度を評価可能とした。そして、第1の評価として、試験用のハードディスクを回転させながらハードディスク装置を150時間に渡って連続稼働させ、その間の総粒子数(粒径=0.48μm以上)を測定し、その測定粒子数を「粒子数1」とした。また、第2の評価として、50cmの高さ位置からハードディスク装置を板張りの床に落下させる工程を10回繰り返し、上記した第1の評価と同様にその間の総粒子数を測定し、その測定粒子数を「粒子数2」とした。
【0067】
一方、密着性の評価は、以下の手順で行った。すなわち、ワイヤーソーを使用して、希土類磁石の表面に少なくとも保護膜が切断されるまで5mm四方の切れ目を入れたのち、その希土類磁石の表面に粘着テープを貼り付け、その粘着テープを剥がしたときの保護膜の剥離状況を目視にて確認した。この際、保護膜の剥離が目視にて確認されたものを「剥離有」と判断した。
【0068】
【表1】
Figure 0003724739
【0069】
表1に示した結果から判るように、本発明に係る希土類磁石(実施例1〜5)では、いずれも表面粗さが0.4μm以下であり、粒子数1,2が1桁であった。これに対して、従来の方法で作成した希土類磁石(比較例1〜5)では、保護膜の材質(銅またはニッケル)やめっき手法(電解めっきまたは無電解めっき)に関係せず、いずれも膜厚を厚くしても表面粗さが0.4μm以下には達しておらず、粒子数1,2が3桁であった。なお、保護膜を設けていない希土類磁石(比較例6)では、粒子数1,2がいずれも10000以上であった。また、希土類磁石素体を精密機械加工した希土類磁石(比較例7)では、表面粗さが0.55μmと小さいため、粒子数1,2がいずれも2桁まで減少しているが、前記のように極めてコスト高となっており実用性に乏しいことが判明した。
【0070】
また、密着性を見ると、実施例1〜4では保護膜の剥離が無かったのに対して、実施例5では一部剥離が生じた。これは、膜厚が25μmと比較的厚かったため、膜応力の影響と考えられる。また、実施例5では強磁性金属であるニッケルを保護膜とし、その膜厚が厚いため、膜厚分布の問題もあり、ヨークに貼り付けた際の磁気回路における磁力は、実施例4に比べて実質的に3%低下していることがシミュレーションから計算された。一方、比較例1,2,4では剥離が生じなかったが、比較例3では剥離が生じた。このことから、本発明の希土類磁石の製造方法を使用して希土類磁石を製造すれば、希土類磁石素体と保護膜との密着性が確保されることが確認された。
【0071】
なお、比較例1,3について更に長時間の電解めっきを行い、膜厚を40μmにした希土類磁石を作成し、その表面粗さを測定したところ、銅めっき膜(比較例1)では0.55μm、ニッケルめっき膜(比較例3)では0.97μmであり、なお0.4μmを超えていた。
【0072】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、光沢剤として1次光沢剤、2次光沢剤、キャリヤー、ブライトナーまたはレベラーと呼ばれている光沢剤などを列挙したが、必ずしもこれらに限られるものではなく、光沢剤の機能として上記した所望の特性を確保し得る限り、光沢剤の種類は自由に選定可能である。具体的には、例えば、光沢剤としては市販のめっき処理用添加剤を使用することが可能であり、奥野製薬工業社製のアクナB250S(商品名)や、荏原ユージライト社製のマーベライトM(商品名)などが挙げられる。
【0073】
また、例えば、上記実施の形態および実施例では、本発明の希土類磁石をハードディスク装置のボイスコイルモータに適用する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ボイスコイルモータ以外の他の機器に適用するようにしてもよい。この場合においても、上記実施の形態および実施例と同様の効果を得ることができる。
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の希土類磁石によれば、保護膜が0.4μm以下の表面粗さを有するので、保護膜の表面に極微細な凸部しか存在せず、その凸部が振動や衝撃等に起因して脱離しにくくなる。しかも、保護膜の凸部が脱離しにくいため、希土類磁石素体の酸化物が振動や衝撃等に起因して脱離することもない。したがって、保護膜が0.4μmよりも大きな表面粗さを有する場合とは異なり、希土類磁石の発塵性が抑制され、その希土類磁石を搭載した機器の動作不良発生を防止することができる。また同時に生産性、コスト、寸法精度も確保できる。
【0075】
また、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、保護膜の表面粗さが0.4μm以下となるように、希土類磁石を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る希土類磁石の断面構成を拡大して表す断面イメージ図である。
【図2】図1に示した希土類磁石の製造工程を説明するための断面イメージ図である。
【図3】本発明に対する比較例としての希土類磁石の製造方法により製造された希土類磁石の問題点を説明するための断面イメージ図である。
【図4】図3に示した希土類磁石の問題点を説明するための他の断面イメージ図である。
【図5】保護膜の表面粗さの厚さ依存性を表す図である。
【符号の説明】
1…希土類磁石素体、1A,2A…凹部、1B,2B…凸部、2…保護膜、10…希土類磁石、20…予備浸漬浴、30…電気めっき浴。

Claims (5)

  1. 希土類磁石素体に電解めっきにより保護膜が形成されてなる希土類磁石の製造方法であって、硫黄を有する有機化合物を含む予備浸漬浴中において、未通電の状態で希土類磁石素体に浸漬処理を施す工程の後、前記予備浸漬浴とは別に準備された電気めっき浴を使用して希土類磁石素体に電解めっき処理を施し保護膜を形成する工程を有することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  2. 前記硫黄を有する有機化合物が、スルホン構造を有する有機化合物であることを特徴とする請求項記載の希土類磁石の製造方法。
  3. 前記硫黄を有する有機化合物が、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,5−、1,6−または2,5−ナフタレンジスルホン酸、アリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サッカリン、チアントレンスルホン酸、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドナトリウム、ビス(2−スルホエチル)ジスルフィド、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸、これらの有機化合物の塩、誘導体、誘導体の塩のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項または請求項に記載の希土類磁石の製造方法。
  4. 0.4μm以下の表面粗さを有する保護膜を形成することを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
  5. 前記保護膜が、ニッケルまたは銅を含んで構成されていることを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
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