JP2771826B2 - ピストンリングの製造方法 - Google Patents

ピストンリングの製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明はリン酸塩化成処理被膜を有する鋳鉄製又は鋼
製の内燃機関用ピストンリングの製造方法に関し、特に
アルミニウム合金製ピストンに装着した場合に、ピスト
ンのリング溝の表面からピストンリング表面にアルミニ
ウム粒子が凝着するのを防止した内燃機械用ピストンリ
ングの製造方法に関する。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕
自動車等の内燃機関は近年出力の増大及び高速回転化
の傾向にあり、このため内燃機関、とりわけピストンの
ヘッド部及びヘッド部に近い第一ピストンリングの熱負
荷が増大し、油温も上昇している。このような苛酷な条
件下でアルミニウム合金製ピストンを作動させると、ピ
ストンのリング溝の表面からピストンリング表面へアル
ミニウムの粒子が融合転移する現象(アルミニウム凝着
現象)が生じる。この凝着現象は、ピストンのリング溝
の局部的摩耗、ピストンリングの焼付き及び折損を引き
起し、これは、ブローバイの増加や内燃機関の出力の低
下といったエンジントラブルの原因となっている。
このようなアルミニウム凝着現象は、最も苛酷な条件
下で作動している第一圧力ピストンリングにおいて、運
転初期に最も多く発生する。第一圧力ピストンリングに
おけるアルミニウムの凝着を防止する方法として、リン
酸マンガン被膜等の化成処理被膜をピストンリング上下
面等に形成することが行われている。
しかし、従来のリン酸マンガン被膜においては、第6
図に示すように結晶が尖鋭な多角体となっている。その
ため、結晶体が不安定な状態であるとともに、エンジン
が回転してピストンリングとピストンのリング溝とが衝
突、摺動する過程において、結晶の先端部に衝撃が集中
してしまう。その結果、エンジンの回転の初期段階で被
膜の結晶が、ピストンリングの母材から脱落してしまっ
たり、エンジンの高回転時に被膜の結晶がピストンリン
グの母材から脱落してしまったりする。
そこで被膜の結晶の脱落を防止するために、上記被膜
を厚くすると、膜厚のばらつきが大きくなり、ピストン
リングの装着不能、ピストンのリング溝とピストンリン
グとの固着(ステック)等の問題が生じる。
さらに、上記被膜は第7図に示すように結晶粒子間の
隙間を狭くして耐食性を向上させているので、アルミニ
ウムの凝着防止に効果のある潤滑油の浸透を妨げるとと
もに、潤滑油の保持性も低い。
以上のように、従来のリン酸マンガン被膜等のリン酸
塩化成処理被膜では、苛酷な条件下で十分にアルミニウ
ムの凝着を防ぐことはできなかった。
従って、本発明の目的は、高圧で熱的負荷の大きい苛
酷な条件で使用しても、ピストンリング溝の表面からピ
ストンリング表面へのアルミニウム粒子の凝着を防止す
ることができる内燃機関用ピストンリングの製造方法を
提供することである。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的に鑑み、鋭意研究の結果、本発明者は、リン
酸マンガン被膜等のリン酸塩化成処理被膜を有するピス
トンリングにおいて、前記被膜を構成する結晶粒子の改
良することによって、苛酷な条件下でのアルミニウムの
凝着を効果的に防止することができることを発見し、本
発明に相致した。
すなわち、アルミニウム凝着のない鋳鉄製又は鋼製の
内燃機関用ピストンリングを製造する本発明の方法は、
前記ピストンリングの少なくとも上下の表面にアルミニ
ウムの凝着を防止するリン酸塩化成処理を行い、次いで
クロム酸及び硫酸を含有する処理液を用いて化成処理を
行うことを特徴とする。
〔実施例〕
本発明の方法により製造したピストンリングを以下の
実施例により添付図面を参照して詳細に説明する。
第1図は、本発明の方法により製造した内燃機関用ピ
ストンリングをピストンのリング溝に装着した状態を示
す端面図である。
第1図に示すように、アルミニウム合金製ピストン1
は外周囲面に複数のリング溝2、2′を有し、各リング
溝2、2′にはピストンリング3、3′が収容されてい
る。各ピストンリング3、3′はシリンダ4の内壁に摺
接している。
なお、ピストンリング3、3′の内で、最もピストン
1のヘッド部の近くに装着されているピストンリング3
が第一圧力リングであり、ピストン1のヘッド部ととも
に、エンジン回転時に圧力及び熱負荷が最も多くかかる
部分である。また、ピストンリング3、3′の母材は鋳
鉄材又は鋼材であれば特に限定されない。
また、第2図及び第3図は、それぞれ本発明の実施例
によるピストンリングである。
第2図に示す実施例においては、ピストンリングの母
材5の上下及び内周面にはリン酸マンガン被膜6が形成
されており、また、この被膜6にはクロム酸化成処理が
施されている。なお、シリンダとの摺動面の耐摩耗性を
向上させるために、ピストンリングの外周摺動面にクロ
ムめっき層7が形成されている。
また、第3図に示す別の実施例においては、耐摩耗性
を向上させるためにピストンリングの母材8の表面に窒
化処理による拡散層9が形成されており、さらにその上
にクロム酸化成処理を施したリン酸マンガン被膜10が形
成されている。
なお、クロム酸処理後のリン酸マンガン被膜7、10の
膜厚は、3〜14μmが好ましい。3μm未満の場合はア
ルミニウムの凝着防止にほとんど効果がなく、14μmを
超えると厚みのばらつきが大きくなり、ピストンリング
の装着不能、ピストンのリング溝とピストンリングとの
固着(ステック)といった問題が生じる。また、表面粗
さRZは1.6〜8.0が好ましい。RZが1.6未満の場合は保油
性が低く、8.0を超えると結晶粒子の脱落が多くなる。
次に、本発明のピストンリングの製造方法を説明す
る。
ピストンリングの母材に必要に応じて摺動面にクロム
めっき処理又は窒化処理等を行った後に、以下の処理を
行う。
(1)アルカリによる脱脂処理 処理液:水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合
液、例えばアイソレート(株)製 CPクリーナ 処理液の濃度:15〜30pt 処理温度:50〜90℃ 処理時間:3〜7分 (2)酸処理による洗浄 処理液:硫酸等の酸とリン酸(H3PO4)との混液 なお、塩酸は、ピストンリングの母材にクロムめっき
層が形成されている場合にクロムを溶解し、クロムめっ
き層をエッジングするので使用しない方が好ましい。
処理液の濃度:15〜30pt 処理温度:15〜35℃ 処理時間:20〜90秒 (3)表面調整処理 処理液:リン酸マンガン液、例えば日本パーカーライ
ジング(株)製 P.P=MVA,B 処理液の濃度:6g/ 処理温度:25〜50℃ 処理時間:30〜90秒 (4)リン酸マンガン化成処理 処理液:リン酸マンガン液、例えば日本パーカーライ
ジング(株)製 PF=M1A−R.M 処理液の濃度:全酸度(TA) 100〜140pt 遊離酸度(FA) 20〜35pt 酸比 4〜7 鉄分 0.4〜3g/ 上記濃度条件は通常の使用濃度を大きく外れている
が、濃度を高くすることにより、下記クロム酸化成処理
後の被膜の厚みのばらつきを小さくすることができる。
さらに、濃度を高くすることにより、処理量が多くても
処理液の管理の頻度を少なくすることができる。
処理温度:85〜97℃ 処理時間:2〜5分 処理時間が5分を超えると、被膜の結晶粒子の隙間が
狭くなり、被膜の潤滑油の浸透性及び保持性が低下す
る。
(5)クロム酸化成処理 処理液:クロム酸1〜5g/及び硫酸0.1〜0.8g/を
含有する水溶液 処理温度:15〜40℃ 処理時間:20〜60秒 上記(1)〜(5)の処理を行うことにより、被膜の
結晶粒子が丸みを帯びた形状であるとともに、結晶粒子
間の大きいリン酸マンガン被膜を有するピストンリング
を得ることができる。
〔作 用〕
本発明の方法により製造したピストンリングにおいて
は、リン酸塩の被膜が、ピストンリング溝の表面からピ
ストンリング表面へのアルミニウム粒子の凝着(融合転
移)を防止している。
さらに、リン酸塩被膜にクロム酸化成処理を施すこと
により、被膜の結晶粒子が丸みを有する形状となってい
るので、被膜の耐摩耗性及び密着性が向上している。そ
の理由として、結晶粒子の形状が丸みを有するためにピ
ストンリングの母材との密着性が向上してエンジンの回
転初期における結晶の脱落が防止されたこと、及び高回
転するエンジンにおいてピストンリングがピストンのリ
ング溝と激しく衝突、摺動することを繰り返す過程で、
その衝撃を結晶の角部が集中的に受けることがなくな
り、結晶の破壊及び脱落が防止されたことが考えられ
る。
さらに、被膜の結晶粒子間の隙間が大きくなっている
ので、被膜の潤滑油の浸透性及び保持性が向上してい
る。
以上の性質を有するため、本発明の方法により製造し
たピストンリングのリン酸塩化成処理被膜はほぼ完全に
アルミニウムの凝着を防止することができる。
本発明を以下の実施例により、さらに具体的に説明す
る。
実施例1 ピストンリングの母材として、普通鋳鉄、球状黒鉛鋳
鉄、17−Cr銅、SKD−鋼及びSWOSC−V鋼を用い、各々に
下記に示す処理を施した。
(1)アルカリによる脱脂処理 処理液:アイソレート(株)製 CPクリーナ 処理液の濃度:25pt 処理温度:85℃ 処理時間:4分 (2)酸処理による洗浄 処理液:硫酸とリン酸(H3PO4)との混液 処理液の濃度:20pt 処理温度:30℃ 処理時間:70秒 (3)表面調整処理 処理液:日本パーカーライジング(株)製 P.P=MV
A,B 処理液の濃度:6g/ 処理温度:45℃ 処理時間:70秒 (4)リン酸マンガン化成処理 処理液:日本パーカーライジング(株)製 PF=M1A
−R.M 処理液の濃度:全酸度(TA) 120pt 遊離酸度(FA) 20pt 酸比 6 鉄分 0.6g/ 処理温度:94℃ 処理時間:3分 (5)クロム酸化成処理 処理液:クロム酸1〜5g/及び硫酸0.1〜0.8g/を
含有する水溶液 処理温度:25℃ 処理時間:20秒 さらに、クロム酸化成処理によるリン酸マンガン被膜
の結晶の形状の変化を確認するために、クロム酸化成処
理の前及び後の被膜表面の写真を撮影した。第4図は処
理前の結晶粒子の形状を示す電子顕微鏡写真であり、第
5図は処理後の結晶粒子の形状を示す電子顕微鏡写真で
ある。第4図と第5図を比較することにより、リン酸マ
ンガン被膜の結晶粒子はクロム酸化成処理により角がと
れ丸味を帯びた形状となっていることが確認できる。
実施例2、3及び比較例1、2 下記第1表に示す母材と被膜の組み合わせで、呼び径
×幅×厚さが76mm×1.5mm×3.1mmのピストンリングを作
成した。
得られたピストンリングを、AC8Aアルミニウム合金製
ピストンに装着し、水冷4気筒エンジンに第一圧力リン
グとして組み込み、下記の運転条件で実機テストを行っ
た。
燃料 :無鉛ハイオクガソリン 回転数 :6000rpm 全負荷 出力 :95PS 水温 :110℃ 油温 :130℃ テスト時間:100時間 テスト後のピストンリングのアルミニウムの凝着状態
を目視で評価した。なお、評価基準は次の通りである。
評価基準:凝着のないものを0、最も凝着のひどいもの
を5として、凝着の程度を0〜5の6段階で評価した。
上記テストを毎回新しいピストンリングを用いて3回
繰り返した。結果を第2表に示す。
上記第2表から明らかなように、本発明の方法により
製造したピストンリング(実施例2、3)にはアルミニ
ウムの凝着は生じていない。なお、比較例1のピストン
リングにおいては、運転開始後4〜5時間でアルミニウ
ムの凝着が生じた。
〔発明の効果〕
以上に詳述したように、本発明の方法により製造した
ピストンリングには、耐摩耗性及び密着性とともに潤滑
油の浸透性及び保持性に優れたクロム酸化成処理を施し
たリン酸塩化成処理被膜が形成されているので、アルミ
ニウム合金製ピストンに装着して苛酷な条件下で使用し
ても、アルミニウムの凝着をほぼ完全に防止することが
できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の方法により製造したピストンリング
をピストンのリング溝に装着した状態を示す端面図であ
り、 第2図は、本発明の一実施例によるピストンリングを示
す断面図であり、 第3図は、本発明の別の実施例によるピストンリングを
示す断面図であり、 第4図は、本発明の一実施例によりピストンリングに形
成されたリン酸マンガン被膜(クロム酸化成処理前)の
結晶構造を示す電子顕微鏡写真であり、 第5図は、第4図のリン酸マンガン被膜をクロム酸処理
した後の結晶構造を示す電子顕微鏡写真であり、 第6図及び第7図は、それぞれ通常のリン酸マンガン被
膜の結晶構造を示す電子顕微鏡写真である。 1……アルミニウム合金製ピストン 2、2′……リング溝 3、3′……ピストンリング 4……シリンダ 5、8……ピストンリングの母材 6、10……リン酸マンガン被膜 7……クロムめっき層 9……拡散層

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】アルミニウム凝着のない鋳鉄製又は鋼製の
    内燃機関用ピストンリングの製造方法において、前記ピ
    ストンリングの少なくとも上下の表面にアルミニウムの
    凝着を防止するリン酸塩化成処理を行い、次いでクロム
    酸及び硫酸を含有する処理液を用いて化成処理を行うこ
    とを特徴とする方法。
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