JP2746919B2 - 温間および熱間加工用工具鋼 - Google Patents

温間および熱間加工用工具鋼

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は常温強度、耐摩耗性が良好で、かつ十分な焼
入性を備えており、特に高温強度、靭性が優れているこ
とを特徴とする温間および熱間加工用工具鋼に関するも
のである。
〔従来の技術〕
温間鍛造、熱間精密プレス鍛造用の金型など鍛造製品
の寸法精度が特に優れていることが要求される用途の金
型に対しては、従来高温強度の特に高い熱間工具鋼SKD8
や常温〜高温強度の高い高速度工具鋼系型材(例えばSK
H51)が使用されている。
しかし、SKD8の場合、低〜中C量のため高い常温強度
(初期硬度)が得難いため、加工温度が低い場合、へた
り、摩耗を早期に生ずる場合があり、また加工温度が高
い場合でも、表面層を支える内層の強度が十分でない場
合があった。
一方従来の高速度工具鋼(例えばSKH51)を本分野の
金型に適用した場合、靭性不足による大割れが生じやす
い、高温下での軟化抵抗が十分でないため、ヒートクラ
ックが発生し易いなどの問題点より十分な型寿命が必ず
しも得られていない。
また、従来鋼は炭化物形成元素を多量に含むため鋼材
に熱間加工方向に沿う炭化物の紐状分布を生じ、上記の
大割れ、ヒートクラックの発生を助長していた。
〔発明が解決しようとする課題〕
これらの従来鋼SKD8、SKH51の問題点の改善について
特公昭55−2466号、特公昭57−26342号、特開昭62−112
761号、特公昭55−49148号、特公昭58−17250号等、種
々提案がなされ、一定の改善効果が得られているもの
の、未だ、型寿命に対する要求を十分満たしたものでは
なかった。前記提案のそれぞれの問題点は実施例の項に
て述べる。
本発明鋼は従来鋼の問題点である高温強度、靭性を改
善し、かつ炭化物の紐状分布を抑え、高温でのへたりに
強く、かつクラックの熱間加工方向への進展しにくい型
材を開発し、問題点を解決しようとするものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明鋼の化学組成は炭化物形成元素の量、バランス
について系統的な検討を行ない、高温強度、靭性の両面
からの最適化をはかり、かつ素材の炭化物の紐状分布の
形成傾向を減じ、適量の炭化物を分散分布させたもので
ある。
また温、熱間での耐摩耗性付与と耐肌荒れ性の改善の
ためにCoを添加する。Coは金型の使用時の昇温により型
表面に緻密で固着性の大きい酸化皮膜を形成することに
寄与し、この酸化皮膜による潤滑作用および断熱効果に
より母材の強度、適量の炭化物分布とあいまって、温間
および熱間での耐摩耗性、耐肌荒れ性を大幅に改善する
ことができる。
併せて、N添加による結晶粒の微細化に特徴を有す
る。すなわち、特に型材の昇温温度が高い場合、軟化抵
抗を高めるために焼入温度を高くすることが有効である
が、液晶粒粗大化により靭性が低下する。これを抑える
ために本発明ではNを添加せしめる。この効果は、Niを
含有せしめることにより更に顕著となる。すなわち、Ni
添加による基地の本質的な靭性改善とあいまって、特に
優れた靭性付与を可能とするのである。
すなわち本発明は、重量%でC0.50%を越え0.61%未
満、Si0.60%以下、Mn1.50%以下、Cr3.00〜5.50%、W
およびMoの1種または2種が1/2W+Moで2.00〜3.50%、
V0.80〜1.60%、Co0.30〜5.00%、S0.005%以下、およ
び場合によってはNi1.8%以下、N0.10%以下を適宜含有
し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴と
する温間および熱間加工用工具鋼である。
〔作用〕
次に本発明鋼の成分範囲の限定理由について述べる。
Cは、本発明の優れた焼入性、焼もどし硬さ、および
高温硬さを与えるために添加するものである。多すぎる
と靭性を低下させ、また紐状の炭化物分布を生じさせる
ので0.61%未満とし、少なすぎると上記添加の効果が得
られないので、含有量を0.5%を越えるものとする。
Siは、使用中の昇温による保護性酸化皮膜を形成させ
にくくし、また靭性、熱伝導性を低下させるので0.60%
以下とする。更に望ましくは0.30%以下である。
Mnは、焼入性を向上させるが、多すぎるとA1変態点を
過度に低下させ、焼なまし硬さを過度に高くし、被切削
性を低下させるので1.50%以下とする。
Niは、C、Cr、Mn、Mo、Wなどとともに本発明に優れ
た焼入性を付与し、緩やかな焼入冷却速度の場合にも、
マルテンサイト主体の組織を形成し、靭性の低下を防ぐ
ための重要な添加元素である。また基地の本質的な靭性
改善を与える。
Niは上記効果を得るために添加されるが、多すぎると
A1変態点を過度に低下させ、耐へたり寿命の低下をまね
き、焼なまし硬さを過度に高くして機械加工性を低下さ
せるので、含有せしめる場合には1.80%以下とする。
Crは、適正な添加量の設定により焼もどし軟化抵抗お
よび高温強度の向上、Cと結合して炭化物を形成するこ
とによる耐摩耗性の向上、焼入性の向上および迅速窒化
性付与の効果を有するものである。低すぎると耐酸化性
が不足し、使用時肌荒れを生じやすく、上記の添加効果
とともに本発明鋼の特徴である優れた靭性を得るために
3.00%以上添加する。高すぎると昇温時凝集し易い炭化
物を形成し、軟化抵抗、高温強度を低下させるので5.50
%以下とする。
W、Moは単独または複合で添加することができ、焼入
加熱時、基地に固溶しにくい炭化物を形成して耐摩耗性
向上に効果をもたらすものであり、また焼もどし時微細
な炭化物を析出して軟化抵抗、高温強度を増加させる効
果を有するものである。
W、Moは上記の効果を得るために添加されるものであ
るが、多すぎるとC量との関係において炭化物量が過度
に大となり、これが熱間加工方向に紐状に整列し、熱間
加工方向へのクラックが伸展しやすくなり、また焼もど
し時析出する微細炭化物量が過度に大となり靭性を低下
させるため、WおよびMoの1種または2種を1/2W+Moで
3.50%以下とし、低すぎると上記添加の効果が得られな
いので、2.00%以上とする。
W添加はMo添加の場合よりも高温強度、耐摩耗性を高
める効果が大きく、一方靭性面ではMoの方が有利であ
る。
Vは炭化物を形成して耐摩耗性および耐焼付性に向上
効果を有するものであり、焼入加熱時基地に固溶して焼
もどし時微細な凝集しにくい炭化物を析出し、高い温度
域における軟化抵抗を大とし、大きな高温耐力を与える
ための重要な元素である。
また結晶粒を微細化して靭性を向上させるとともに、
A1変態点を上げ、優れた高温耐力とあいまって、耐ヒー
トクラック性を向上させる効果をもたらすものである。
本発明鋼の特徴である優れた靭性と高温強度の兼備の
ためにV量の設定は非常に重要である。
多すぎると巨大な炭化物を生成し、熱間方向に沿う紐
状炭化物の分布傾向を増大させ、熱間方向に沿うクラッ
クの伸展を助長するため、1.60%以下とし、低すぎると
型表面部の早期軟化をまねくなど上記添加の効果が得ら
れないので0.80%以上とする。
Coは、使用中の昇温時、極めて緻密で密着性の良い保
護酸化皮膜を形成し、これにより相手材との間の金属接
触が防止できるので耐肌荒れ性の向上、金属表面の温度
上昇の防止および優れた耐摩耗性をもたらすものであ
る。
また、この酸化皮膜形成による断熱効果と保護作用に
より、耐ヒートクラック性の向上、クラック発生の起点
の生成の抑制などの効果が得られるものである。
Coは上記効果を付与するために添加するが、多すぎる
と靭性を低下させるので5.00%以下とし、低すぎると上
記添加の効果が得られないので0.30%以上とする。
Sは主にMnと硫化物を形成し、熱間加工方向に伸びて
分布し、熱間加工方向の靭性を低下させる。したがっ
て、靭性を向上させるためにはS量は低い方がよい。S
量は0.005%以下で靭性向上の効果が大きくなり、さら
にS0.003%以下でその効果が際立って大きくなることを
見出したものでSの上限を0.005%とし、一層望ましい
範囲を0.003%以下とする。
Nは結晶粒の微細化効果をもたらし、本発明鋼の一層
の靭性向上をもたらすもので、この目的のために添加を
行なってもよい。
多量の添加は必要なく、溶製、造塊時の製造性を考慮
して0.10%以下とする。
〔実施例〕
以下本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
第1表に本発明鋼、比較鋼および従来鋼の化学組成を
示す。第2表は本発明鋼および従来鋼の標準的な熱処理
条件における高温強度とT方向(鍛伸方向に直角方向)
の靭性を示す。
高温強度は120mmφ鋼材からL方向(鍛伸平行方向)
に採取した試料による700℃における引張強さで示し、
T方向の靭性は120mmφ鋼材からT方向に採取した試料
による10mmRシャルピー衝撃試験の結果で示す。
本発明鋼は従来鋼および比較鋼H,Iに対しT方向の靭
性が明らかに優れている点に大きな特徴がある。
これは本発明鋼は基地の靭性が高いのに加え、残留炭
化物の紐状分布の形成傾向や縞状偏析の傾向が小さいた
めである。従来鋼を用いた工具では紐状に分布した炭化
物に沿った大割れが早期に起ったり、熱応力により発生
したヒートクラックが紐状に分布した炭化物に沿って伸
展し易く工具表面の損傷が早く、十分な工具寿命が必ず
しも得られていなかったが、本発明鋼を用いることによ
り、大割れの発生が無くなり、また工具表面の損傷によ
る工具寿命も向上した。また高温強度についても従来鋼
の場合と同等以上の強さを備えている。
次に、本発明鋼と従来鋼の特性を比較し、それぞれの
問題点を指摘しておく。
従来鋼L(特公昭55−2466号)は、T方向の靭性が低
い。これはV量に対しC量が高すぎ、VC炭化物が鍛伸方
向に紐状に分布しているためである。
従来鋼M(特公昭57−26342号)も、同様にT方向の
靭性が低い。V、C量が高すぎ、VC炭化物の鍛伸方向へ
の紐状分布傾向が強いのに加え、W、Mo量が多すぎ、焼
もどし時の析出炭化物量が多すぎるためである。
従来鋼N(特開昭62−112761号)は、残留炭化物の紐
状分布は無いものの、W、Mo量が多すぎ、本発明鋼より
靭性が下回ることと、高温強度に寄与するV量が低す
ぎ、この面でも本発明鋼より下回っている。
従来鋼O(特公昭55−49148号)は靭性が低い。これ
は含有Si量が高すぎるためである。
従来鋼P(特公昭58−17250号)は、高温強度が低
い。これは高温下の加熱で炭化物の凝集を促進するCrを
多量に含むためである。
第3表は本発明鋼の高温焼付試験における焼付臨界荷
重(比)を示す。試料は円柱状試料で、熱処理、研磨仕
上後あらかじめ550℃における空気酸化処理を行なった
のち、700℃に加熱した鋼材(相手材)に高速で回転し
ながら、端面を押しつけた場合の焼付が起らない最大荷
重(臨界荷重)を求め、従来鋼(SKH51)の焼付臨界荷
重を100として指数で示したものである。
本発明鋼は従来鋼より明らかに焼付臨界荷重が高いこ
とがわかる。
これは、高温強度、炭化物分布などによる耐摩耗性付
与に加えて上記酸化処理により本発明鋼の試料表面に形
成された緻密で剥離しにくい酸化皮膜による保護作用な
らびに潤滑作用によるものであり、本発明鋼の大きな特
色の一つである。
〔発明の効果〕 以上説明したように本願発明鋼は、高強度材における
問題点であった、鋼材のT方向の靭性が大きく改善さ
れ、優れた高温強度と酸化皮膜特性を備え、温間および
熱間加工用工具として使用し、へたり、ヒートクラッ
ク、大割れ、摩耗を生じにくく優れた工具寿命をもたら
すものであり、その効果は非常に大きい。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%でC0.50%を越え0.61%未満、Si0.6
    0%以下、Mn1.50%以下、Cr3.00〜5.50%、WおよびMo
    の1種または2種が1/2W+Moで2.00〜3.50%、V0.80〜
    1.60%、Co0.30〜5.00%、S0.005%以下、残部Feおよび
    不可避的不純物からなることを特徴とする温間および熱
    間加工用工具鋼。
  2. 【請求項2】重量%でC0.50%を越え0.61%未満、Si0.6
    0%以下、Mn1.50%以下、Cr3.00〜5.50%、WおよびMo
    の1種または2種が1/2W+Moで2.00〜3.50%、V0.80〜
    1.60%、Ni1.8%以下、Co0.30〜5.00%、S0.005%以
    下、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴と
    する温間および熱間加工用工具鋼。
  3. 【請求項3】重量%でC0.50%を越え0.61%未満、Si0.6
    0%以下、Mn1.50%以下、Cr3.00〜5.50%、WおよびMo
    の1種または2種が1/2W+Moで2.00〜3.50%、V0.80〜
    1.60%、Co0.30〜5.00%、S0.005%以下、N0.10%以
    下、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴と
    する温間および熱間加工用工具鋼。
  4. 【請求項4】重量%でC0.50%を越え0.61%未満、Si0.6
    0%以下、Mn1.50%以下、Cr3.00〜5.50%、WおよびMo
    の1種または2種が1/2W+Moで2.00〜3.50%、V0.80〜
    1.60%、Ni1.8%以下、Co0.30〜5.00%、S0.005%以
    下、N0.10%以下、残部Feおよび不可避的不純物からな
    ることを特徴とする温間および熱間加工用工具鋼。
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