JP2953663B2 - 熱間加工用工具鋼 - Google Patents

熱間加工用工具鋼

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【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は常温強度、高温強度に優れ、かつ十分な焼入
性を備えており、実用上十分な靭性を備えていることを
特徴とする熱間加工用工具鋼に関するものである。さら
に詳しくは、近年のアルミダイカスト技術における鋳造
合金溶湯温度の上昇または、寸法精度向上のための熱間
鍛造型のシャープコーナー化など使用条件の過酷化に耐
えるための高温域の強度が優れ、かつ大割れを生ぜず長
寿命の金型に代表される熱間加工用工具鋼に関する。
〔従来の技術〕
従来、アルミダイカスト型材としては、SKD61が広く
使用されてきた。しかし近年、ダイカスト製品が複雑形
状化し、寸法精度、耐摩耗性も向上させたいという製品
側からの要請に応じて、鋳造合金の溶湯温度を上昇させ
たり、成形圧力を高めるなど型材に負荷される応力が過
酷化している。このため、SKD61では高温域での強度や
軟化抵抗が不足し、ヒートクラックが発生し易く早期に
型寿命に至るので、SKD61での対応は困難であった。
また、熱間鍛造技術の分野でも、成形品の歩留向上の
ため、成形品の寸法精度の高い閉塞鍛造の技術が進み、
金型に対する負荷が増し、やはりSKD61での対応は困難
である。
これらの分野には、SKD61より強度の優れたSKD7、SKD
8が使用されてきたが、焼入性の不足に伴う靭性面や、
鋼材の熱間加工方向に整列する炭化物の紐状分布に沿う
縦方向の耐割れ性に問題があった。
〔発明が解決しようとする課題〕
これらの従来鋼SKD7、SKD8の問題点の改善について特
公昭56−54379号、特開昭54−50421号、特開昭62−1498
52号等、種々提案がなされ、一定の改善効果が得られて
いるものの、未だ、型寿命を十分満たしたものではなか
った。これらの問題点は主に高温下で強度、耐力および
軟化抵抗が十分でないため、ヒートクラックが発生しや
すいことにあった(具体的には後述の実施例で示す)。
本発明は従来鋼の問題点である高温強度、靭性を改善
し、かつ炭化物の紐状分布を少なくし、高温でのヒート
クラックの発生伸展を抑え、かつクラックが熱間加工方
向へ伸展しにくい型材を提供しようとするものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明鋼の化学組成は、炭化物形成元素の量、成分間
のバランスについて系統的な検討を行ない、高温強度、
靭性の両面からの最適化をはかり、かつ素材の炭化物の
紐状分布の形成傾向を減じ、適量の炭化物を分散分布さ
せることから決定されたものである。
本発明鋼は、併せて、N添加による結晶粒の微細化効
果が、Ni添加による基地の本質的な靭性改善とあいまっ
て、特に優れた靭性が付与されている。
また、熱間での耐摩耗性付与のためにCoを添加し、使
用時の昇温により型表面に緻密で固着性の大きい酸化皮
膜を形成させ、これによる潤滑作用および断熱効果によ
り母材の強度、適量の炭化物分布とあいまって、温間お
よび熱間での耐摩耗性、耐肌あれ性を大幅に改善したも
のである。
すなわち本発明は、重量%でC0.36〜0.43%、Si1.00
%以下、Mn1.00%以下、Cr2.60〜4.00%、WとMoの1種
または2種が1/2W+Moで2.60〜3.50%、V0.71〜1.5%、
Ni1.20%以下、および場合によっては、Co0.50〜5.00
%、N0.10%以下を適宜含有し、残部Feおよび不可避的
不純物からなり、前記不可避的不純物のうちのSは0.00
5%以下であることを特徴とする熱間加工用工具鋼であ
る。
〔作用〕
次に本発明鋼の成分範囲の限定理由について述べる。
Cは、本発明鋼の優れた焼入性、焼もどし硬さ、およ
び高温硬さを維持し、またW、Mo、VおよびCrなどの炭
化物形成元素と結合して炭化物を形成し、結晶粒の微細
化、耐摩耗性、焼もどし軟化抵抗、高い高温硬さを与え
るために添加するものである。Cは多すぎると靭性を低
下させ、また紐状の炭化物分布を過度に生じさせるので
0.43%以下とし、少なすぎると上記添加の効果が得られ
ないので、含有量を0.36%以上とする。
Siは、A3変態点を高めることと用途に応じた耐酸化性
を付与するために添加されるが、過剰の添加は、使用中
の昇温による保護性酸化皮膜を形成させにくくし、また
靭性、熱伝導性を低下させるので1.00%以下とする。
Mnは、焼入性を向上させるが、多すぎるとA1変態点を
過度に低下させ、焼なまし硬さを過度に高くし、被切削
性を低下させるので1.00%以下とする。
NiはC,Cr,Mn,Mo,Wなどとともに、本発明鋼に優れた焼
入性を付与し、緩やかな焼入冷却速度の場合にも、マル
テンサイト主体の組織を形成し、靭性の低下を防ぐため
の重要な添加元素である。また基地の本質的な靭性改善
を与える。
Niは上記効果を得るために添加されるが、多すぎると
A1変態点を過度に高くして機械加工性を低下させるの
で、1.20%以下とする。
Crは、適正な添加量の設定により焼もどし軟化抵抗、
および高温強度、Cと結合して炭化物を形成することに
よる耐摩耗性および焼入性をそれぞれ向上させ、また迅
速窒化性を付与する効果を有するものである。Crは低す
ぎると耐酸化性が不足し、使用時に肌あれを生じやす
く、上記の添加効果と共に本発明鋼の特徴である優れた
靭性を得るために2.60%以上添加する。高すぎると昇温
時凝集しやすい炭化物を形成し、軟化抵抗、高温強度を
低下させるので4.00%以下とする。
W、Moは、焼入加熱時、基地に固溶しにくい炭化物を
形成して耐摩耗性向上に効果をもたらすものであり、ま
た焼もどし時に微細な炭化物を析出して軟化抵抗、高温
強度を増加させる効果を有するものである。
W、Moは上記の効果を得るために添加されるものであ
り、WとMoは1種または2種から選ばれて添加できる。
これは1/2WとMoの量がその添加効果において等価である
からである。Wおよび/またはMoの添加量は多すぎる
と、C量の関係において、炭化物量が多くなりすぎて、
これが熱間加工方向に紐状に整列し、熱間加工方向への
クラックが伸展しやすくなり、また焼もどし時析出する
微細炭化物量が過度に増え靭性を低下させるため、1/2W
+Moで3.50%以下とし、低すぎると上記添加の効果が得
られないので2.60%以上とする。
Vは昇温時にも固溶しにくい炭化物を形成して耐摩耗
性および耐焼付性の向上に効果を有するものであり、焼
入加熱時に基地に固溶して焼もどし時に微細な凝集しに
くい炭化物を析出し、高い温度域における軟化抵抗を大
とし、大きな高温耐力を与えるための重要な元素であ
る。
また、Vは結晶粒を微細化して靭性を向上させるとと
もに、A1変態点を上げるので、優れた高温耐力とあいま
って耐ヒートクラック性を向上させる効果をもたらすも
のである。
本発明鋼の特徴である優れた靭性と高温強度の兼備の
ためにV量の適量の設定は非常に重要である。Vは多す
ぎると巨大な炭化物を生成し、熱間加工方向に沿う紐状
炭化物の分布傾向を増大させ、熱間加工方向に沿うクラ
ックの伸展を助長するため、1.50%以下とし、低すぎる
と型表面部の早期軟化をまねくなど上記添加の効果が得
られないので0.71%以上とする。
Coは、使用中の昇温時、極めて緻密で密着性の良い保
護酸化皮膜を形成し、これにより金型表面と相手材との
間の金属接触がなくなり、金型表面の温度上昇を防ぐと
共に優れた耐摩耗性をもたらすものである。
また、この保護酸化皮膜形成により断熱効果が高ま
り、面と相手材との間の金属接触がなくなり、金型表面
を保護することによる耐ヒートクラック性の向上および
クラック発生の起点の生成の抑制などの効果が得られる
ものである。
Coは上記効果を付与するために添加するが、多すぎる
と靭性を低下させるので5.00%以下とし、低すぎると上
記添加の効果が得られないので0.50%以上とする。
Nは結晶粒の微細化効果をもたらし、本発明鋼の靭性
向上をもたらすもので、この目的のために添加を行な
う。
多量の添加は必要なく、溶製、造塊時の製造性を考慮
して、0.10%以下とする。
SはMnと硫化物を形成し、熱間加工方向に伸びて分布
し、熱間加工方向の靭性を低下させるので少ない方がよ
い。これに及ぼすSの影響は、0.005%以下でその効果
が大きくなり、さらにS0.003%以下でその効果が際立っ
て大きくなることを見出したものでSの上限を0.005%
とし、一層望ましい範囲を0.003%以下とする。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
第1表に本発明鋼および従来鋼の化学組成を示す。
第2表に本発明鋼および従来鋼の標準的な熱処理条件
における高温強度を示す。
高温強度は650℃、700℃における引張強さで示す。
本発明鋼(A〜F)は従来鋼G(SKD61)に対し高温
強度が明らかに優れている。
また、本発明鋼を従来鋼J(特公昭56−54379号に開
示される鋼)、従来鋼L(特開昭62−149852号に開示さ
れる鋼)と比較すると650℃では強度の差は比較的小さ
いが、700℃で比較すると強度が明らかに優れている。
これは本発明鋼の大きな特徴であり、金型表面が650℃
以上に昇温する用途の金型に本発明鋼が使用されると
き、金型表面のヒートクラックや塑性流動が起こりにく
いことを示している。
次に、本発明鋼の高温強度と従来鋼H(SKD7)、従来
鋼I(SKD8)、従来鋼K(特開昭54−50421号)の高温
強度とを比較すると同等ないしは従来鋼の方が若干優れ
た値を示す。
第3表は、第1表に示す本発明鋼および従来鋼の試料
を半冷時間30min(焼入温度と室温との中間温度まで降
温するまでの所要時間が30minとなるような冷却速度)
で焼入後、HRC45に焼もどした場合の破壊靭性値(KIC)
を示す。
従来鋼H(SKD7)、従来鋼K(特開昭54−50421号に
開示される鋼)の場合は、半冷時間30minの焼入で上部
ベイナイト主体の組織となるため、焼もどし後十分な靭
性が得られない。また従来鋼I(SKD8)の場合は、組織
中に存在する炭化物が多すぎ靭性が低い。そのうえ、金
型でテスト使用した結果では紐状に分布した炭化物にそ
った大割れが早期に起こる頻度が多かった。
これに対し、本発明鋼は従来鋼Jに準ずる靭性値を備
えている。
すなわち、従来鋼(G〜L)は高温強度が優れる場合
には、靭性が劣り(従来鋼H,I,K)、逆に靭性が優れる
場合には、高温強度が劣る(従来鋼G,J,L)のに対し、
本発明鋼は高温強度、靭性の両者を兼備していることが
わかる。
第4表に本発明鋼の耐ヒートクラック性試験結果を示
す。この試験は、15mmφ×25mmの試験片の表面を680℃
に急熱し、水中で20℃に急冷する操作を1500回繰り返し
た結果である。
本発明鋼は、従来鋼G、Jに比べヒートクラック個数
が少ない。これは本発明鋼の大きな特色の一つであり、
ヒートクラックが発生しにくいことを示すものである。
ヒートクラックの深さは従来鋼と大差がない。
第5表は、本発明鋼の高温焼付試験における焼付臨界
荷重(比)を示す。この試験は、試料を円柱状試料と
し、熱処理、研磨仕上後あらかじめ550℃における空気
酸化処理を行なったのち、700℃に加熱した鋼材(相手
材)に高速で回転しながら端面を押しつけた場合の焼付
が起こらない最大荷重(臨界荷重)を求め、従来鋼H
(SKD7)の焼付臨界荷重を100として指数で示したもの
である。
本発明鋼は、従来鋼より明らかに焼付臨界荷重が高い
ことがわかる。
これは、本発明鋼は高温強度が高く、炭化物の適正な
分布などによる耐摩耗性付与効果に加えて、上記酸化処
理により本発明鋼の試料表面に形成された緻密で剥離し
にくい酸化皮膜による保護作用、ならびに潤滑作用によ
るものであり、本発明鋼の大きな特色の一つである。
〔発明の効果〕
以上説明したように本願発明鋼は、ダイカスト型、熱
間鍛造型などの熱間加工用工具に使用されるのに十分な
焼入性を備えつつ、高温域の強度に優れた特性を有し、
また優れた酸化皮膜特性を備えている。そのため、工具
のへたり、ヒートクラック、大割れ、摩耗が生じにくく
工具寿命を延ばすことができるので、その効果は非常に
大きい。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 - 38/56

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%でC0.36〜0.43%、Si1.00%以下、M
    n1.00%以下、Cr2.60〜4.00%、WとMoの1種または2
    種が1/2W+Moで2.60〜3.50%、V0.71〜1.5%、Ni1.20%
    以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、前記不可
    避的不純物のうちのSは0.005%以下であることを特徴
    とする熱間加工用工具鋼。
  2. 【請求項2】重量%でC0.36〜0.43%、Si1.00%以下、M
    n1.00%以下、Cr2.60〜4.00%、WとMoの1種または2
    種が1/2W+Moで2.60〜3.50%、V0.71〜1.5%、Ni1.20%
    以下、Co0.50〜5.00%、残部Feおよび不可避的不純物か
    らなり、前記不可避的不純物のうちのSは0.005%以下
    であることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
  3. 【請求項3】重量%でC0.36〜0.43%、Si1.00%以下、M
    n1.00%以下、Cr2.60〜4.00%、WとMoの1種または2
    種が1/2W+Moで2.60〜3.50%、V0.71〜1.5%、Ni1.20%
    以下、N0.10%以下、残部Feおよび不可避的不純物から
    なり、前記不可避的不純物のうちのSは0.005%以下で
    あることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
  4. 【請求項4】重量%でC0.36〜0.43%、Si1.00%以下、M
    n1.00%以下、Cr2.60〜4.00%、WとMoの1種または2
    種が1/2W+Moで2.60〜3.50%、V0.71〜1.5%、Ni1.20%
    以下、Co0.50〜5.00%、N0.10%以下、残部Feおよび不
    可避的不純物からなり、前記不可避的不純物のうちのS
    は0.005%以下であることを特徴とする熱間加工用工具
    鋼。
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