JP2744303B2 - 耐疲労性に優れた高強力高弾性率繊維 - Google Patents

耐疲労性に優れた高強力高弾性率繊維

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【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、耐疲労性に優れた高強力高弾性率繊維に関
する。
(従来の技術) 従来、有機系の高強度高弾性率繊維を得る技術が種々
検討され、強度や弾性率を高くするためにはポリマー分
子鎖を繊維軸方向に高度に配向させることが効果的であ
ることは知られている。例えば、ナイロン繊維、ポリエ
ステル繊維の紡糸において、延伸工程での延伸倍率を高
くすることにより、得られる延伸糸の引張強度、引張弾
性率を大きくすることが可能である。これは延伸によ
り、繊維を構成する結晶部、非晶部の分子配向度が増加
するためである。
またパラ配向型のアラミド繊維(ケプラー等)は紡糸
口金から吐出し、脱溶媒してそのまま巻取るだけで、延
伸工程を経ずして、高い弾性率と強度に達することがよ
く知られている(例えば、特公昭47−2489号公報)。こ
れも紡糸原液が特定条件下で液晶構造を形成し、口金の
孔から吐出される際、ずり応力により液晶が繊維軸方向
に配列するため(ポリマー分子鎖が高配向する)と考え
られている。
最近では、加熱溶融時に液晶を形成させる芳香族系の
共重合ポリエステル(ポリアリレート)を溶融紡糸し、
配向度の高い繊維を形成せしめた後、長時間の加熱で固
相重合を進めることにより、高強度高弾性率の繊維が得
られることも知られている(例えば、特開昭61−174408
号公報)。
(発明が解決しようとする課題) 前述の繊維化方法、特に液晶からの紡糸によると従来
の汎用合成繊維に比べ著しく高い強度と弾性率を有する
有機繊維を得ることができるが、これらの繊維は何ずれ
もポリマー分子鎖が繊維軸方向に高度に配向している。
一方、繊維軸に対し直角の断面方向では、弱い分子間力
が働くだけで力学的に弱い繊維構造となる。このよう
に、繊維の強度、弾性率を上げるため、ポリマー分子鎖
の配向度を極度に向上させると、繊維軸方向にフイブリ
ルが発達する。フイブリル間の相互作用は小さいため、
繰返し屈曲変形や摩擦の負荷がかかるようなところで使
用される用途分野においては耐久性の点で問題となる。
ナイロン繊維、ポリエステル繊維は比較的屈曲変形、
摩擦に対して優れた耐久性を示すが、引張強度、弾性率
等の力学的性質が液晶繊維等と比較すると著しく低い。
ロープ、ホース、コード、ベルト、縫糸、漁網等の産
業資材分野で、従来の汎用ポリマー繊維(ビニロン、ア
クリル、ナイロン、ポリエステル等)よりも高い強度、
弾性率の繊維素材が要求され、これに応じた各種高性能
繊維素材が開発されているが、何れも疲労に関する耐久
性の点で問題があつた。
本発明者らは、上述した高強度高弾性率を保持させた
まま、屈曲変形、摩擦等の耐疲労性に優れた繊維につい
て鋭意研究を進めて本発明を見出したものである。
以下、本発明をさらに詳細かつ具体的に説明する。
(課題を解決するための手段) 本発明は芯成分Aが異方性溶融相を形成し得る芳香族
ポリエステル、鞘成分Bがその80重量%以上が下記構造
(I)のくり返し単位よりなるポリマーからなる複合繊
維であつて、該繊維の横断面に占めるB成分の面積比B/
(A+B)が0.05〜0.4であることを特徴とする耐疲労
性に優れた高強力高弾性率繊維である。
本発明に言う異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエ
ステルとは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳
香族ヒドロキシカルボン酸等より得られるポリマーであ
り、溶融相で光学的異方性(液晶性)を示すものであ
る。このような特性はホツトステージ上の試料を窒素雰
囲気下で昇温しその透過光を観察することにより容易に
認定することができる。
本発明に用いられる異方性溶融成分Aは下記に示す反
復成分の組合せからなるものである。
特に好ましくは、次に示す(II),(III)の反復構
成単位から成る部分が65重量%以上であるポリマーであ
り、特に(III)の成分が5〜45%である 芳香族ポリエステルが好ましい。
A成分中には、その強力が実質的に低下しない範囲で
他のポリマーあるいは添加剤等を含んでいても良い。
B成分とはその80重量%以上を下記構造(I)のくり
返し単位よりなるポリマーである。
R1,R2,R3,R4の具体的な例としては、−CH3,−CH2
CH3,−CH2CH2CH3−F,−Cl,Br,−Hが挙げられる。特に好ましくはR1〜R4
が−Hの場合である。
B成分には20重量%以下の他のポリマー、共重合物、
添加物を含んでいても良いが、その融点は180〜320℃で
あることが好ましい。
本発明に言う複合繊維とは、芯成分が前述のA成分か
らなり、鞘成分が前述のB成分から成るものであり、横
断面における鞘成分(B成分)の面積比B/(A+B)が
0.05〜0.4好ましくは0.05〜0.3の範囲にあるものであ
る。面積比は、繊維横断面の顕微鏡写真から求めた芯、
鞘部の面積から求める。ここで面積比が0.05未満では鞘
成分による被覆が十分でなく、一部芯が露出したり、摩
擦、摩耗により容易に鞘成分が剥れたりする。
逆に0.4を越えると芯成分の比率が減少し、結果とし
て強度、弾性率が低下し本発明の主旨からはずれる。
複合繊維を得るには、公知の方法、例えば、第1図の
装置で紡糸される。芯成分の好ましい条件は、紡糸温度
は、A、B各成分の融点の高い方より更に10℃以上高い
温度で、また、芯成分は、高配向度を得るため吐出時の
剪断速度()を103sec-1以上にすることが好ましい。
本発明に言う剪断速度()とは、ノズル径をr(c
m)、単孔当りのポリマー吐出量をQ(cm3/sec)とする
とき で計算される。
複合繊維の断面形状は、単純な芯鞘型の他、第2図に
示す如き、各種のものが可能である。
本発明の複合繊維は、紡糸押出時に分子鎖が繊維軸方
向に配列し既に十分な強度、弾性率を発現するが、熱処
理、延伸熱処理により性能をさらに向上することもでき
る。熱処理は窒素等の不活性雰囲気や空気の如き酸素含
有の活性雰囲気中または減圧下で行なえる。
好ましい温度条件は、A成分の融点をMPとするときMP
−60℃からMP+20℃の範囲で、MP−40℃以下から順次昇
温して行くパターンがより好ましい。処理時間は、目的
の性能により数秒から数十時間行うことが出来る。
熱の供給は、気体等の媒体を行う場合、加熱板、赤外
ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラ、プレ
ート等に接触して行う方法、高周波等を利用した内部加
熱方法等がある。
処理は、目的により、緊張下あるいは無緊張下で行な
われる。処理の形状は、カセ状、チーズ状、トウ状(例
えば金網等にのせて行う)、あるいはローラ間の連続処
理によつて行なわれる。繊維の形態は、フイラメント、
カツトフアイバーいずれも可能である。
延伸はA成分の融点より60℃以上低い温度で、切断伸
度の10〜60%行うことが好都合である。この処理により
弾性率が向上する。
本発明は、芯成分に溶融液晶ポリマー、鞘成分に前記
構造式(I)のポリマーを用いることにより、芯成分で
ある溶融液晶ポリマーからなる繊維の最大の特徴であ
る、高強度、高弾性率、寸法安定性、耐熱性をそのまま
保持し、最大の欠点である表面フイブリル化、耐圧縮疲
労性、耐磨耗性を著しく改良したものである。
本発明繊維を用いた産業上の利用例としては次の様な
ものが挙げられる。
1.樹脂補強用(カーボン、ガラス繊維との複合化)に使
用されるもの スキー板、ゴルフクラブやゲートボールのヘツドおよ
びシヤフト、テニスやバトミントンのラケツトフレー
ム、ヘルメツト、バツト、メガネフレーム、プリント基
盤、モーター回転子のスロツト、絶縁物、パイプ、高圧
容器、自動車、自動二輪車、二輪車、列車、船、飛行
機、宇宙船等の一次あるいは二次構造体 2.ゴム補強用に使用されるもの タイヤ、ベルト、各種タイミングベルト、ホースのゴ
ム補強用資材 3.パルプ状で使用されるもの 1)摩耗材(他繊維との混合使用、樹脂の補強)、ブレ
ーキライニング、クラツチフエーシング、軸受け 2)その他 パツキン材、ガスケツト、ろ過材、研磨材 4.カツトフアイバー、チヨツプドヤーン状で使用される
もの 紙(絶縁紙、耐熱紙)、スピーカー用振動材、セメン
ト補強材、樹脂補強材 5.フイラメント、紡績糸ヤーン状で使用されるもの テンシヨンメンバー(光フアイバー等)ロープ、コー
ド、ザイル、命綱、釣糸、延網 6.織物あるいは編物状で使用されるもの 防弾チヨツキ、安全手袋、安全ネツト、耐熱耐炎服、
前掛け等保護具、自動車、列車、船、飛行機、宇宙船等
の内張等が挙げられる。
本発明に言うフイブリル化とは、ヤーンを100gの張力
下で三点のチタンガイドに通し、100m/minで1時間走行
させた時のガイドに付着するフイブリルの量により、多
いものを×、全く出ないものを○、中間を△として評価
した。
本発明に言う耐疲労性強力保持率とは、1500dr(500d
r×3本)のヤーンを、下撚280T/m、上撚280T/mの双糸
とし、コードをつくり、ゴム中に包埋して行うベルト屈
曲テスト法で25万回処理した後の強力保持率で評価し
た。
本発明に言う摩耗性とは、試料ヤーンを10本引揃え、
反転回転体と他端の滑車とに1.5回ヨリ合せ、8の字状
にセツトし滑車に3kgの荷重をかけ、反転回転体でヤー
ンを往復ヨリ合せ摩耗させ切断までの回数を求める繊維
間摩耗と、1/10g/dの荷重をかけ、直径10cmの丸砥石
(回転数:100回/分、接触角:100度)で接断までの回数
で示すグラインダー摩耗テストの両者で評価した。以
下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本
発明は、これにより限定されるものではない。
実施例1 A成分として前記構成単位(II)と(III)が73/27モ
ル%比である全芳香族ポリエステルポリマーを用いた。
このポリマーの物性は、 である。
対数粘度(ηinh)は次のようにして求めた。
試料をペンタフルオロフエノールに0.1重量%溶解し
(60〜80℃)、60℃の恒温槽中でウベローデ型毛管粘度
計(例えば高分子学会編“高分子科学実験法”東京化学
同人P179(1986)東京で測定する。溶媒の流下時間は10
7秒である。
またAポリマーの融点(Mp)は、メトラー製TA−3000 D
SCで求めた吸熱ピーク温度である。
B成分としては、前記した(I)の構造単位のうち、
R1〜R4が−Hの構造からなる280℃、=1000sec-1時の
粘度が400ポイズのポリマーを使用した。
A成分とB成分の複合比率(重量比)は、7/3で第1
図に示す100ホールの口金より紡糸温度320℃で吐出し
た。巻取速度は500m/minで500dr/100fのフイラメントを
得た。
この紡糸原糸を穴あきアルミボビンに巻き密度0.62g/
ccで巻き、240℃で3時間、260℃から280℃まで4時
間、280℃から285℃まで10時間熱処理をした。
得られた繊維の物性を第1表に示した。
実施例2〜5 実施例1のA、Bポリマーの複合割合を種々変更した
こと、およびヤーンデニールを変更したこと以外、本質
的に実施例1と同様の方法で各種の熱処理糸を得た。結
果を第1表にまとめる。
比較例1 実施例1のA成分を単独(B成分0%)に用い同一紡
糸条件で紡糸し、熱処理したものである。得られた繊維
の物性を第1表に示した。
本発明の例は何れもフイブリル化が全く生じず、繊維
表面の改良が著しいことを示す。
本発明の効果が最も顕著に現われているのは耐疲労性
である。これは、鞘成分の存在が芯成分の圧縮疲労を抑
えていると推定される。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の複合繊維を得るための紡糸口金の一例
を示す要部断面図、第2図は本発明の複合繊維の断面形
状を示す例である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 杉田 幸男 岡山県倉敷市酒津1621番地 株式会社ク ラレ内 審査官 松縄 正登

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】芯成分Aが異方性溶融相を形成し得る芳香
    族ポリエステル、鞘成分Bがその80重量%以上が下記構
    造(I)のくり返し単位よりなるポリマーからなる複合
    繊維であつて、該繊維の横断面に占めるB成分の面積比
    B/(A+B)が0.05〜0.4であることを特徴とする複合
    繊維。
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