JP2707267B2 - 新規なアゾキシ化合物、その製法及び生産菌 - Google Patents

新規なアゾキシ化合物、その製法及び生産菌

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久克 伊藤
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Description

【発明の詳細な説明】 本発明は新規なアゾキシ化合物に関する。
深在性真菌症は、抗生物質、免疫抑制剤、抗腫瘍剤、
副腎皮質ホルモン等の頻用で、増加の一途をたどつてい
る。しかしながら、この真菌症に対する化学療法に系統
的に使用し得る薬剤としては、ポリエン系抗生物質であ
るアンホテリシンB及びピリミジン類縁体であるフルシ
トシン(5-FC)があるに過ぎない。しかも、前者は毒性
の点で、後者は抗菌スペクトルが比較的狭いうえに、耐
性菌が容易に出現する点で、それぞれ問題がある。最
近、アゾール系抗真菌剤が開発され、新しい展開をみせ
ているが、この化合物は劇症肝炎等の毒性が報告され、
使用も限定されている。
本発明者らは真菌に対してより強い抗菌力を有する新
しい抗真菌剤の開発を目的として、土壌より分離した微
生物についてその生産物の研究を進めた結果、島根県の
土壌から分離したストレプトミセス属の1菌株(KC-736
7)が、真菌に対して強い抗菌力を示す抗真菌性物質を
生産することを見い出し、更にその培養液より2種の物
質(まずA物質、次いでB物質)を単離することに成功
した。
本発明は、一般式 で表わされる化合物である。式中のXは 又は を示す。
本発明のアゾキシ化合物は、ストレプトミセス属に属
するこの化合物の生産菌を培養し、その培養液からこの
化合物を単離することにより得られる。
この物質はその物理的、化学的及び生物学的性状が、
既知物質のそれと異なることから新規物質であることが
認められ、KA-7367物質と命名され、更にXが である式Iの化合物はKA-7367A、Xが である式Iの化合物はKA-7367Bと命名された。
本発明のKA-7367物質の生産菌であるKC-7367株は、島
根県新庄村で採取された土壌試料を、例えば減菌水に懸
濁させ、ポテト浸出液(ポテト10%、トマトぺースト0.
5%、オートミル1%)に肉エキス0.1%、マイコスタチ
ン50μg/ml、ペニシリンG0.4μg/ml、ポリミキシンB2μ
g/ml、ナリジキシン酸8μg/ml及び寒天1.5%を加えた
培地(pH7.0)に塗沫し、27℃で7日間培養を行い、生
じた集落を採取することによつて得られた。
このKC-7367株は下記の菌学的性質を有する。各種培
地上の性質は特に記載のない限り、27℃で14日間培養
し、常法によつて観察したものであり、色調の表現はカ
ラー・ハーモニー・マニユアル第4版(コンテナー・コ
ーポレーシヨン・オブ・アメリカ)の分類に従つた。
I 形態学的性質 本菌株は数種の培地上で真性気菌糸を着生する。菌糸
は長く、単純分枝し、胞子柄は気菌糸上に枝状に生じ、
その先端は直状あるいは部分的に波状を呈する。
胞子は卵形ないし短円筒形で1.1〜1.3μm×1.3〜1.5
μmの大きさを示し、10個ないし50個程度の連鎖をな
す。胞子表面は毛状である。鞭状胞子、胞子のう、菌核
形成及び基生菌糸の分断は認められなかつた。
II 各種培地上の性状 1.シユクロース・硝酸塩寒天培地 生育:良好 気菌糸の着生:貧弱 気菌糸の色:白色(a) 基生菌糸の色:クリーム色(2ca) 可溶性色素:認められない 2.グルコース・アスパラギン寒天培地 生育:貧弱 気菌糸の着生:貧弱 気菌糸の色:白色(a) 基生菌糸の色:白色(a) 可溶性色素:認められない 3.グリセリン・アスパラギン寒天培地 生育:中程度 気菌糸の着生:貧弱 気菌糸の色:薄紫色(10cb) 基生菌糸の色:暗黄褐色(2ge) 可溶性色素:認められない 4.スターチ・無機塩寒天培地 生育:中程度 気菌糸の着生:貧弱 気菌糸の色:薄緑色(24ig) 基生菌糸の色:暗オリーブ色(11/2nl) 可溶性色素:認められない 5.チロシン寒天培地 生育:良好 気菌糸の着生:中程度 気菌糸の色:白(a)〜薄緑色(24ig) 基生菌糸の色:暗褐色(3nl) 可溶性色素:認められない 6.栄養寒天培地 生育:中程度 気菌糸の着生:貧弱 気菌糸の色:白(a) 基生菌糸の色:淡黄色(11/2ea) 可溶性色素:微黄色(2ia) 7.イースト・麦芽寒天培地 生育:良好 気菌糸の着生:中程度 気菌糸の色:薄緑色(24ig) 基生菌糸の色:灰褐色(3ig)〜黄褐色(3ea) 可溶性色素:微黄色(2ia) 8.オートミール寒天培地 生育:中程度 気菌糸の着生:中程度 気菌糸の色:淡青灰色(13dc) 基生菌糸の色:暗褐色(3nl) 可溶性色素:黄褐色(4gc) III 生理的性質 1.生育温度範囲:18〜40℃ 至適生育温度:26〜38℃ 2.ゼラチンの液化:陰性 3.スターチの加水分解:陽性 4.脱脂牛乳の凝固:陰性 脱脂牛乳のペプトン化:陽性 5.メラニン様色素の生成:陰性 IV 炭素源の資化性(プリドハム・ゴドリーブ寒天培地
上) 利用するもの:L−アラビノース、D−キシロース、D−
グルコース、D−フラクトース、イノシトール、L−ラ
ムノース、D−マンニトール。
利用しないもの:シユクロース、ラフイノース。
V 細胞壁生成 細胞壁加水分解物中にL,L−2,6−ジアミノピメリン酸
が認められた。
以上の諸性質より、KC−7367株はストレプトミセス属
に属するものと考えられる。
本発明者らはこの菌株をストレプトミセスsp.KC−736
7と命名し、工業技術院微生物工業技術研究所に、微工
研条寄第1277号(FERM BP-1277)の受託番号により寄託
した。
本発明においては、前記ストレプトミセスsp.KC−736
7の自然変異株及び人工変異株のほか、ストレプトミセ
ス属に属する菌株で、KA-7367の生産能を有する微生物
も当然使用することができる。
本菌株の培養には通常の放線菌に培養方法が用いられ
る。培地の炭素源としては種々のものが用いられるが、
殿粉、ぶどう糖、グリセリン、マルトース、デキストリ
ン、シユクロース、果糖、糖蜜などを単独で又は組み合
せて用いることが好ましい。さらに菌の資化性によつて
は炭素水素、有機酸、植物油なども用いられる。窒素源
としては例えば、大豆粉、酵母エキス、乾燥酵母、ペプ
トン、ポリペプトン、肉エキス、コーンステイープリカ
ー、カザミノ酸、デイステイラーズソリユブル、塩化ア
ンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム
などが単独又は組み合せて用いられる。その他必要に応
じ、食塩、燐酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カル
シウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化コバ
ルト、硫酸亜鉛、塩化鉄、硫酸鉄などの無機塩、ならび
に微量の金属を添加することができる。さらに菌の発育
を助け、KA-7367物質の生産を促進する有機及び無機物
質を適宜に添加することができる。通気培養法を用いる
場合には、さらに脂肪油、シリコーン油、パラフイン、
界面活性剤などの消泡剤が用いられる。
培養方法としては、固体培地上での培養も可能である
が、一般抗生物質生産の方法と同様に液体培養法、特に
深部培養法を用いることが好ましい。培養は好気的条件
下で、20〜35℃好ましくは25〜35℃で行われる。
KA-7367物質の生産は、振盪培養又はタンク培養で行
われ、いずれの場合も1〜5日間培養を行うと、活性物
質が培養液中に生産蓄積される。培養液中の生産量が最
大に達した時点で培養を停止し、培養液よりKA-7367物
質を単離精製する。
KA-7367物質は培養液より常法、例えば過助剤を用
いる過操作、遠心分離などによつて得られる培養液
から、例えば吸着剤を用いる方法又は溶媒で抽出する方
法により単離できる。吸着剤を用いる方法においては、
ダイヤイオンHP-10、同HP-20、同HP-50等(三菱化成社
製)、アンバーライトXAD-2、同XAD-4、同XAD-7等(ロ
ーム・アンド・ハース社製)などの吸着用樹脂、活性炭
などの吸着剤に培養液を通して目的物を吸着させたの
ち、これを酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノ
ールなどで溶出し、溶出液を常法によつて処理すること
によりKA-7367を単離することができる。溶媒抽出方法
としては、クロロホルム、ジクロムメタン、酢酸エチ
ル、酢酸ブチル、n−ブタノールなどを単独もしくは組
み合せて用いる通常の抽出法を利用できる。
単離されたKA-7367物質は普通は多量のA物質中にB
物質が混在しているもので、好ましくはセフアデツクス
LH-20(フアルマシア社製)、トヨパールHW-40(東洋曹
達社製)などを用いるゲル過法などで精製したのち、
シリカゲル、アルミナなどを用いる吸着クロマトグラフ
イ、例えばプレパラテイブ薄層クロマトグラフイ等、高
速液体クロマトグラフイなどを適用することによつて精
製し、KA-7367AとKA-7367Bを分離することができる。例
えばシリカゲルを用いるプレパラテイブ薄層クロマトグ
ラフイ〔展開溶媒:ベンゼン−酢酸エチル(10:1)〕で
展開すると、両物質が容易に分離される。更に、これら
は前記の精製手段を単独で又は組み合わせて適用するこ
とによつて精製することができる。
KA-7367A及びKA−7367Bの理化学的及び生物学的性質
は下記のとおりである。
14.構造式 以上の理化学的性質により、KA-7367A及びKA−7367B
は下記の構造式を有するものと考えられる。
15.抗菌スペクトル: 本物質の真菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)の次
表のとおりである。
培地:サブロー寒天プレート 培養:27℃、2〜4日 以上の諸性状を既知物質のそれと比較したところ、一
致するのは見い出されず、KA-7367A及びKA-7367Bは新規
化合物であることが認められた。
本発明のKA-7367AとKA-7367Bは互いに化学的に変換す
ることができる。すなわち、KA-7367Aに還元剤を作用さ
せるとKA-7367Bが、KA-7367Bに酸化剤を作用させるとKA
-7367Aが得られる。
還元剤としては水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ
素カリウム、水素化ホウ素リチウム、ジボランなどが用
いられる。還元反応は、KA-7367Aと1〜10当量の還元剤
を用い、有機溶媒中で0〜100℃で数分間ないし数時間
攪拌しながら反応させることによつて完了する。有機溶
媒としては例えばアルコール、エーテル、炭化水素、ハ
ロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキサイド、ジメチル
ホルムアミド等が用いられる。
酸化剤としては、ピリジニウムジクロメート、ピリジ
ニウムクロロクロメート、クロム酸類、二酸化マンガン
などが用いられる。酸化反応は、KA-7367Bと1〜10当量
の酸化剤を用い、前記の有機溶媒中で、好ましくは触媒
例えばピリジニウムトリフルオロアセテートの存在下、
0〜100℃で1時間ないし数日間攪拌しながら反応させ
ることによつて完了する。
実施例1 ポテト・デキストロース寒天斜面培地に生育したスト
レプトミセスsp.KC-7367株を、可溶性殿粉1%、グルコ
ース1%、大豆粉1%、コーンステイープリカー0.5
%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05%、炭酸カルシウム
0.3%、塩化コバルト・6水塩0.0005%の組成を有し、p
H7.5に調整した液体培地に接種し、28℃で2日間培養し
て、種培養液とした。
可溶性殿粉1%、ポリペプトンS0.5%、酵母エキス0.
2%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05%、塩化コバルト
・6水塩0.0005%、綿実油0.2%の組成を有し、pH7.5に
調整した液体培地10lを30l容のジヤーフアーメンター中
に仕込み、この培地中に前記の種培養液100mlを接種
し、通気量5l/分、攪拌数300rpm、培養温度28℃の条件
で2日間培養した。
培養終了後、培養液を過し、液(40l)をダイヤ
イオンHP-20のカラム(6×70cm)に吸着させ、このカ
ラムを少量の50%メタノール水で洗浄したのち、メタノ
ールで溶出した。キヤンデイダ・アルビカンスに対して
抗菌活性を有する区分を集め、減圧下に濃縮乾固して残
査を酢酸エチル200mlに溶解し、5%炭酸水素ナトリウ
ム水溶液100ml、0.02N塩酸100ml、次いで水100mlで洗浄
した。
酢酸エチル層を減圧下に濃縮乾固し、残査を少量のメ
タノールに溶解して、トヨパールTSKHW-40を用いるゲル
クロマトグラフイ(カラム:2×90cm、展開溶媒:メタノ
ール)で精製した。活性区分を集め、減圧下に濃縮した
のち、キーゼルゲル60F254(メルク社製)を用いるプレ
パラテイブ薄層クロマトグラフイ〔展開溶媒:ベンゼン
−酢酸エチル(10:1)〕で展開し、Rf0.53(KA-7367A)
及びRf0.22(KA-7367B)の活性区分を集めて、それぞれ
酢酸エチルで溶出し、溶出液を減圧下に濃縮し、残査を
メタノールに溶解した。これをセフアデツクスLH-20を
用いるゲルクロマトグラフイ(カラム:1.5×90cm、展開
溶媒:メタノール)で精製した。活性区分を集め、減圧
下に濃縮すると、無色油状物として、KA-7367Aが30mg及
びKA-7367Bが3mg得られた。
実施例2 KA-7367A 500mgをメタノール10mlに溶解し、水素化ホ
ウ素ナトリウム160mgを加えて室温で30分間攪拌した。
反応液を減圧下に濃縮し、濃縮物を酢酸エチル20mlと水
20mlの混液に溶解した。酢酸エチル層を分取し、減圧下
に濃縮乾固して油状物質を得た。この油状物質をシリカ
ゲルカラムクロマトグラフイ〔展開溶媒:ベンゼン−酢
酸エチル(10:1)〕で精製すると、KA-7367B及びその異
性体(約1:1の混合物)340mgが得られた。1 H‐NMR値:δCDCl3 1.86(t)、2.30(d)、2.37(d)、2.46(d) 実施例3 KA-7367B 78mgを塩化メチレン3mlに溶解し、ピリジニ
ウムトリフルオロアセテート37mg及びピリジニウムジク
ロメート243mgを加えて室温で攪拌した。5時間後にピ
リジニウムクロメート247mgを追加し、更に室温で15時
間攪拌した。反応液にジエチルエーテル20mlを加え、セ
ライトを用いた吸引過により不純物を除去し、液を
減圧下に濃縮すると、粗油状物質101mgが得られた。こ
のものをシリカゲルカラムクロマトグラフイ〔展開溶
媒:ベンゼン−酢酸エチル(50:1)〕で精製すると、無
色油状物質19mgが得られた。
このものの物理化学的及び生物学的性質は実施例1で
得られたKA-7367Aと一致した。
【図面の簡単な説明】
第1図はKA-7367Aの紫外線吸収スペクトル、第2図は赤
外線吸収スペクトル、第3図は1H‐NMRスペクトル、第
4図は13C‐NMRスペクトル、第5図はKA-7367Bの紫外線
吸収スペクトル、第6図は赤外線吸収スペクトル、第7
図は1H‐NMRスペクトル、第8図は13C‐NMRスペクトル
を示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C12R 1:465) (C12P 13/00 C12R 1:465)

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】一般式 で表される化合物。
  2. 【請求項2】ストレプトミセス属に属する化合物Iの生
    産菌を培養し、その培養液より化合物Iを採取すること
    を特徴とする、第1請求項に記載の化合物(I)の製造
    法。
  3. 【請求項3】ストレプトミセス属に属する化合物Iの生
    産菌を培養し、その培養液より化合物Iを含有する粗生
    成物を採取し、これにより式IにおいてXが である化合物及び/又はXが である化合物を単離することを特徴とする、第2請求項
    に記載の方法。
  4. 【請求項4】式IにおいてXが である化合物に還元剤を作用させることを特徴とする、
    次式 の化合物の製造法。
  5. 【請求項5】式IにおいてXが である化合物に酸化剤を作用させることを特徴とする、
    次式 の化合物の製造法。
  6. 【請求項6】ストレプトミセス属に属する化合物Iの生
    産菌であるKC-7367。
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