JP2699758B2 - セラミックス溶射皮膜 - Google Patents

セラミックス溶射皮膜

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば熱処理炉内ロー
ル等、高温での耐摩耗性が要求される部位に施される、
セラミックス溶射皮膜に関する。
【0002】
【従来の技術】イットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO) 、
又はカルシア(CaO) を添加した安定化ジルコニア(ZrO2)
は、断熱性、耐熱衝撃性が良好で、特にイットリア添加
材が優れており、ガスタービン部品の遮熱コーティング
用材料として実用化されている。しかし、安定化ジルコ
ニアは耐摩耗性が低く、この耐摩耗性が改善されると、
熱処理炉内ロール等、高温で使用され、しかも耐摩耗性
が要求される分野での用途が拡大する。
【0003】安定化ジルコニアの粉末に他の高硬度材料
の粉末を混合した粉末を溶射材料として用いることによ
り、皮膜の耐摩耗性が向上することは既に知られてい
る。例えば、日本溶射協会第51回学術講演大会講演論文
集(1990、25〜30頁)には、イットリアを添加した安定
化ジルコニアの粉末に炭化タングステン(WC)又はWC−
12wt%Coの粉末を混合した粉末を溶射材料として用いる
と、溶射皮膜の硬度が上昇することが示されている。
【0004】しかし、耐熱衝撃性については不明であ
り、通常は、高硬度材料の添加量の増加とともに耐摩耗
性は向上するが、逆に耐熱衝撃性が劣化する。このよう
に、高硬度材料の添加によって安定化ジルコニアが有す
る本来の優れた耐熱衝撃性が損なわれることになれば改
善とはならず、用途は著しく制限されることとなるの
で、耐熱衝撃性と耐摩耗性とを同時に備えた溶射皮膜の
開発が期待されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、安定化ジル
コニアの粉末に他の高硬度材料の粉末を添加した溶射材
料を使用することにより得られるセラミックス溶射皮膜
であって、安定化ジルコニアが有している耐熱衝撃性の
劣化を伴うことなく、優れた耐摩耗性を備えた溶射皮膜
を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、本発明者は安定化ジルコニアの粉末に添加する高硬
度材料の組成および添加量について検討を重ね、この発
明を完成した。
【0007】本発明の要旨は、下記およびのセラミ
ックス溶射皮膜にある。
【0008】 イットリア、マグネシア又はカルシア
の添加により安定化されたジルコニアの粉末と、重量%
で30〜60%のジルコニアを含み残部がアルミナである硬
質セラミックスの粉末との混合粉末の溶射により形成さ
れるセラミックス溶射皮膜であって、前記の硬質セラミ
ックスが体積%で10〜40%含まれる安定化ジルコニアか
らなるセラミックス溶射皮膜。
【0009】 イットリア、マグネシア又はカルシア
の添加により安定化されたジルコニアの粉末と、重量%
で30〜60%のジルコニアを含み残部がアルミナとチタニ
アからなり、チタニア/アルミナ(重量比)が0.75以下
である硬質セラミックスの粉末との混合粉末の溶射によ
り形成されるセラミックス溶射皮膜であって、前記の硬
質セラミックスが体積%で10〜40%含まれる安定化ジル
コニアからなるセラミックス溶射皮膜。
【0010】
【作用】以下に、本発明のセラミックス溶射皮膜の構成
要件とその作用効果について説明する。
【0011】本発明の溶射皮膜を形成する溶射材料は、
耐熱衝撃性に優れる安定化ジルコニアを基本成分とする
セラミックスである。ジルコニアの安定化のためには、
通常用いられているイットリア、マグネシア、又はカル
シアを重量%で10%程度添加する。これらの添加材料の
中で、特にイットリアが最も効果的である。
【0012】この安定化ジルコニアに硬質セラミックス
を添加し、溶射皮膜の耐摩耗性を向上させる。添加量の
増加とともに耐摩耗性は向上するが、逆に耐熱衝撃性が
劣化するので、耐摩耗性と耐熱衝撃性とを両立させるた
めに、硬質セラミックスの添加量は、溶射皮膜としたと
きに、硬質セラミックスの溶射皮膜全体に対して占める
割合が体積%で10〜40%になる量とする。すなわち、後
述する実施例から明らかなように、10%未満では耐摩耗
性が不十分であり、40%を超えると熱衝撃割れが生じ易
くなる。溶射皮膜中で、硬質セラミックスの粒子は安定
化ジルコニアの中に分散した状態となる。
【0013】硬質セラミックスとしては、ジルコニアを
主体とし、それに硬質のアルミナ(Al2O3 )を添加した
もの(前記の発明に相当する)、又は、ジルコニアを
主体とし、それに硬質のアルミナ及びチタニアを添加し
たもの(前記の発明に相当する)を用いる。ジルコニ
アを主体とするのは、硬質セラミックスの物性、特に熱
膨張率が安定化ジルコニアの熱膨張率と大きく異なる
と、熱衝撃割れが起こりやすくなるからである。
【0014】硬質セラミックスにおいて、ジルコニアに
添加するアルミナの量、又はアルミナ及びチタニアの量
は、多いほど溶射皮膜としたときの硬度が上昇するが、
同時に安定化ジルコニアの物性(特に熱膨張率)との差
が大きくなり、耐熱衝撃性が劣化するので、溶射皮膜と
したときの物性が安定化ジルコニアと大きく異ならない
範囲で、しかも硬さが確保される量とする。すなわち、
アルミナの含有量、又はアルミナ及びチタニアの合計の
含有量は、重量%で40%未満では硬度が不十分であり、
70%を超えると硬質セラミックスの物性、特に熱膨張率
が大きくなるので、重量%で40〜70%(ジルコニアの含
有量としては30〜60%)とする。
【0015】図1は、 Al2O3−TiO2−ZrO2系3元状態図
である。この図に見られるように、Al2O3−TiO2系では
Al2TiO5の組成を有する化合物が生成する。このときのT
iO2/Al2O3(重量比) は 0.8で、この比が 0.8以上であ
れば Al2O3は生成せず、アルミナを添加することによる
硬質化の効果を期待することができない。 Al2O3−TiO2
−ZrO2系に拡大して考えると、ZrO2を表す点と Al2TiO5
を表す点を結ぶ直線イがTiO2/Al2O3(重量比) が 0.8の
線で、TiO2/Al2O3(重量比) が少なくとも 0.8以上、す
なわち、この直線イを含んでその左側では Al2O3は生成
せず、溶射皮膜の耐摩耗性を向上させることはできな
い。この直線イと、前記の硬質セラミックス中のジルコ
ニアの含有量の範囲(重量%で30〜60%)の下限および
上限を示す直線ロおよびハで囲まれた部分(図中の斜線
を施した部分)が本発明の溶射皮膜を構成する硬質セラ
ミックスの組成範囲になる。なお実際には、後述する実
施例で示すように、TiO2/Al2O3(重量比) は0.75以下と
しなければならない。TiO2/Al2O3(重量比) が0の場合
が、アルミナを単独で添加する場合(の発明)に相当
する。
【0016】安定化ジルコニアおよび硬質セラミックス
は粉末で使用されるが、その粒径は、いずれも通常の溶
射材料と同じく53〜10μm とするのが望ましい。これら
の粉末を機械的に混合して溶射材料として用いる。ある
いは、安定化ジルコニアおよび硬質セラミックスの粉末
を原料として混合造粒したものを用いてもよく、その場
合も、混合造粒後の粒径を53〜10μm とするのが望まし
い。
【0017】本発明の溶射皮膜は、上記の溶射材料を用
いて形成される、硬質セラミックスが体積%で10〜40%
含まれた安定化ジルコニアからなるセラミックス溶射皮
膜で、耐摩耗性を有するとともに、耐熱衝撃性にも優れ
た特性を有する。
【0018】
【実施例1】硬質セラミックスとして図2のA点(三元
共晶点)の組成を有する粉末(ZrO2:46%、 Al2O3:42
%、TiO2:12%)を用い、これを8重量%のイットリア
を含む安定化ジルコニアの粉末に種々の割合で混合した
溶射材料を JIS G 4312 に規定された耐熱鋼板 SUH310
に溶射して、溶射皮膜を形成させた。この溶射皮膜につ
いて硬さ試験と熱衝撃試験を行い、ビッカース硬さと耐
熱衝撃性を調査した。
【0019】なお、試験は JIS H 8666 に規定されたセ
ラミックス溶射試験方法に基づいて行い、硬さ試験にお
いては、試験荷重を 300gfとし、熱衝撃試験において
は、試験温度は1000℃とし、水中で急冷した。
【0020】試験結果を図3に示す。この図の横軸は溶
射皮膜中の硬質セラミックスの含有量を表し、図中の●
印は熱衝撃試験で割れが発生したことを、○印は割れが
発生しなかったことを表す。図3から、溶射皮膜中に硬
質セラミックスが体積%で10〜40%の範囲で含まれてい
れば、溶射皮膜は硬く耐摩耗性に優れ、しかも熱衝撃割
れにも強いことがわかる。
【0021】
【実施例2】硬質セラミックスとして、図2のZrO2を表
す点とA点を結ぶ直線上の組成を有するセラミックス、
すなわち、チタニア/アルミナ(重量比)がおよそ 0.3
であって、ジルコニアの含有量を変化させたセラミック
スを用い、これを8重量%のイットリアを含む安定化ジ
ルコニアの粉末と混合した溶射材料を実施例1と同じく
SUH310 に溶射して、硬質セラミックスを30体積%含
み、残りが安定化ジルコニアである溶射皮膜を形成させ
た。この溶射皮膜について、実施例1の場合と同様に、
硬さ試験と熱衝撃試験を行い、ビッカース硬さと耐熱衝
撃性を調査した。
【0022】試験結果を図4に示す。この図の横軸は硬
質セラミックス中のジルコニアの含有量を表す。図中の
●印および○印は、図3の場合と同様である。図4か
ら、硬質セラミックス中のジルコニアの含有量が30〜60
重量%の範囲内であれば、溶射皮膜は耐摩耗性に優れ、
熱衝撃割れにも強いことがわかる。
【0023】
【実施例3】硬質セラミックスとして、図2のA点を通
り、 Al2O3とTiO2の組成比を表す辺に平行な直線上の組
成を有するセラミックス、すなわち、ジルコニアの含有
量が一定(46重量%)で、チタニア/アルミナ(重量
比)を変化させたセラミックスを用い、実施例2の場合
と同様に、これを8重量%のイットリアを含む安定化ジ
ルコニアの粉末と混合した溶射材料を実施例1と同じく
SUH310 に溶射して、硬質セラミックスを30体積%含
み、残りが安定化ジルコニアである溶射皮膜を形成させ
た。この溶射皮膜について、実施例1の場合と同様に、
硬さ試験と熱衝撃試験を行い、ビッカース硬さと耐熱衝
撃性を調査した。
【0024】試験結果を図5に示す。この図の横軸は硬
質セラミックス中のチタニア/アルミナ(重量比)を表
す。図中の●印および○印は、図3の場合と同様であ
る。図5から明らかなように、チタニア/アルミナ(重
量比)が0.75以下であれば、溶射皮膜の耐摩耗性が確保
される。
【0025】
【発明の効果】本発明の溶射皮膜は、安定化ジルコニア
に特定の組成の硬質セラミックスを添加した溶射材料に
より形成される溶射皮膜で、耐摩耗性を有するとともに
耐熱衝撃性も優れ、熱処理炉内ロールなど、高温環境下
で使用され、耐摩耗性が要求される部材の保護皮膜とし
て好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al2O3−TiO2−ZrO2系3元状態図で、本発明の
溶射皮膜を得るために必要な硬質セラミックスの組成範
囲を示す図である。
【図2】実施例で用いた硬質セラミックスの組成範囲の
説明図である。
【図3】実施例の結果を示す図で、溶射皮膜中の硬質セ
ラミックスの含有比率と、ビッカース硬さ及び熱衝撃割
れの有無の関係を示す図である。
【図4】実施例の結果を示す図で、硬質セラミックス中
のジルコニアの含有比率と、ビッカース硬さ及び熱衝撃
割れの有無の関係を示す図である。
【図5】実施例の結果を示す図で、硬質セラミックス中
のチタニア/アルミナ(重量比)とビッカース硬さの関
係を示す図である。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】イットリア、マグネシア又はカルシアの添
    加により安定化されたジルコニアの粉末と、重量%で30
    〜60%のジルコニアを含み残部がアルミナである硬質セ
    ラミックスの粉末との混合粉末の溶射により形成される
    セラミックス溶射皮膜であって、前記の硬質セラミック
    スが体積%で10〜40%含まれる安定化ジルコニアからな
    るセラミックス溶射皮膜。
  2. 【請求項2】イットリア、マグネシア又はカルシアの添
    加により安定化されたジルコニアの粉末と、重量%で30
    〜60%のジルコニアを含み残部がアルミナとチタニアか
    らなり、チタニア/アルミナ(重量比)が0.75以下であ
    る硬質セラミックスの粉末との混合粉末の溶射により形
    成されるセラミックス溶射皮膜であって、前記の硬質セ
    ラミックスが体積%で10〜40%含まれる安定化ジルコニ
    アからなるセラミックス溶射皮膜。
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