JP2659309B2 - 熱電変換素子 - Google Patents

熱電変換素子

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば、恒温水槽の温
度コントロールユニットに使用されるペルチェ効果を利
用した熱電変換素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ペルチェ効果を利用した熱電変換
素子が広く使用されている。ここで、熱電変換素子の材
料の特性は、一般に性能指数Zで示される。 Z=α2/(ρ*K) ここで、α:ゼーベック係数[μ・V/K] ρ:比抵抗[Ω・m] K:熱伝導率[W/m・K] である。
【0003】従来、ゼーベック係数αは、結晶粒度にあ
まり影響されないが、熱伝導率Kは、一般に結晶粒度が
細かくなる程小さくなると考えられている。従って、一
般に結晶粒度を細かくする程、性能指数Zが大きくなる
ため、結晶粒度を細かくするための発明が提案されてい
る。
【0004】そして、粉末を成形し焼結して熱電材料を
製造する方法であるプレスシンター法やホットプレス法
は、粉末が機械的粉砕により作製されるため、長時間粉
砕すると不純物の混入量が増加するため、平均粒度は、
数ミクロン程度までしか微細化できなかった。
【0005】そこで、平均結晶粒度をさらに微細化しな
がらも不純物の混入の無い方法が必要とされ、種々提案
されている。例えば、特開昭63−36583号公報に
おいては、溶融状態の熱電合金を冷却ロール表面に接触
させることにより、サブミクロンの結晶粒度をもつ薄膜
を製造する方法が提案されている。
【0006】さらに、この様にして製造された熱電合金
を熱電変換素子として利用する方法が提案されている。
すなわち、同公報には、「この薄膜を束ね冷間成形し、
膜厚方向に垂直に電気を流せば優れた性能をもつ熱電材
料として使用できる。」と記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、溶融状
態の熱電合金を冷却ロール表面に接触させることによ
り、サブミクロンの結晶粒度をもつ薄膜を製造した場
合、溶融していた熱電合金の凝固は、薄膜の膜厚方向に
順次冷却されるため、結晶も薄膜の膜厚方向に成長す
る。従って、冷却ロール法で製造された薄膜の内部結晶
構造は、膜厚方向に方向性をもつように結晶が整列する
構造となっている。
【0008】さらに、この薄膜が層状に積み重ねられ
て、薄膜の膜厚方向と平行に冷間プレスにより押圧成形
され焼結されて熱電材料が製造されるので、熱電材料の
内部結晶構造は、全体としても薄膜の膜厚方向に方向性
をもつように結晶が整列する構造となっている。
【0009】これは、従来の一方向性凝固で製造された
結晶インゴットを、冷間プレス成形し焼結して製造した
熱電材料が、内部結晶構造にプレス軸方向と垂直に方向
性を有していたのと、大きく異なる点である。また、一
般に結晶粒度が小さいほど比抵抗ρが大きくなるが、反
面熱伝導率が小さくなるため、全体として性能指数Zが
大きくなることが期待されるからである。
【0010】従って、冷却ロール法で製造された薄膜を
積み重ねて、冷間プレス成形し焼結して製造した熱電材
料を熱電変換素子として使用する場合に、電流を膜厚方
向に平行方向に流すか、垂直方向に流すかは、性能指数
Zの値を大きく変動させる重要な要因であった。
【0011】しかしながら、従来の方法では、薄膜の結
晶構造の方向性に対する考慮があまりなされていなかっ
た。特開昭63−36583号公報で提案されている従
来技術においては、電流を膜厚方向に垂直に流すことが
提案されているが、電流を膜厚方向と平行に流すことに
ついては、全く言及されていなかった。
【0012】ところで、本出願人の実験によれば、冷却
ロール法で製造した熱電材料を利用して製造した熱電変
換素子を使用する場合、膜厚方向と平行に電流を流した
方が性能指数Zが大きくなることが判明している。
【0013】一方、従来、冷却ロール法で使用される熱
電合金の組成を変化させて性能指数Zを大きくしようと
する試みは、あまり行われていなかった。本出願人は、
冷却ロール法で使用される熱電合金の組成を変化させる
ことにより、性能指数Zが大きく向上することを実験に
より確認している。
【0014】本発明は、上述した問題点を解決するため
になされたものであり、冷却ロール法で製造された熱電
材料を利用して製造されるものであって、性能指数Zが
高い熱電変換素子を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため
に、本発明の熱電変換素子は、溶融状態の熱電合金を回
転する金属ロール表面に噴射することにより急速に冷却
して作られた薄膜を焼結して製造される熱電変換素子で
あって、薄膜が層状に重ね合わされ、薄膜の膜厚方向に
平行に押圧され焼結されると共に、前記薄膜の膜厚方向
と平行に電流が流れるように、電極が取り付けられてい
る。
【0016】また、本発明の熱電変換素子は、溶融状態
の熱電合金を回転する金属ロール表面に噴射することに
より急速に冷却して作られた薄膜を焼結して製造される
熱電変換素子であって、熱電合金が基本組成BiTe6
Sb3に1乃至5重量%のTeを添加された材質であ
る。
【0017】また、本発明の熱電変換素子は、溶融状態
の熱電合金を回転する金属ロール表面に噴射することに
より急速に冷却して作られた薄膜を焼結して製造される
熱電変換素子であって、薄膜が層状に重ね合わされ、薄
膜の膜厚方向に平行に押圧され焼結されると共に、前記
薄膜の膜厚方向と平行に電流が流れるように、電極が取
り付けられており、かつ、熱電合金が基本組成BiTe
6Sb3に1乃至5重量%のTeを添加された材質であ
る。
【0018】
【作用】上記の構成よりなる本発明の熱電変換素子は、
電極間に電流を流すことで、ペルチェ効果により熱の発
生または吸収が起こる。ペルチェ効果は、電流の方向を
逆にすると発熱と吸収が逆になる。このとき、結晶成長
方向である膜厚方向に平行に電流が流されるため、比抵
抗ρが小さくなり、性能指数Zが大きくなる。すなわ
ち、急冷薄膜を用いることにより結晶を膜厚方向に整列
させることができ、また、整列した結晶を有する薄膜を
膜厚方向にプレス焼結させることで、各薄膜間の界面を
消失させることができる。このため結晶が薄膜界面を越
えて膜厚方向に成長し、比抵抗ρが小さくなると考えら
れる。
【0019】また、熱電合金が基本組成BiTe6Sb3
に1乃至5重量%のTeを添加された材質であるので、
焼結を促進し、結晶の結合や成長を促進することができ
る。結晶の成長が促進されると、比抵抗ρが小さくな
る。そして、Teを添加してもゼーベック係数αは、変
化しないので、性能指数Zは大きくなる。
【0020】従って、熱電合金として基本組成BiTe
6Sb3に1乃至5重量%のTeを添加された材質を用い
て、かつ、膜厚方向に平行に電流を流せば、比抵抗ρが
より小さくなり、性能指数Zが大きくなる。すなわち、
結晶が整列され、また、整列された結晶が膜厚方向にプ
レスされ焼結され、結晶が膜厚方向に結合や成長するた
め、かつ、Teの添加が結晶の結合や成長を促進するた
め、比抵抗ρが小さくなり、性能指数Zを大きくする。
【0021】
【実施例】以下、本発明を具体化した一実施例である熱
電変換素子7について説明する。まず、熱電変換素子7
の製造方法を説明する。表1に本実施例で熱電材料であ
る薄膜を製造するときに使用した冷却ロール法の条件を
示す。
【0022】ここで、冷却ロール法とは、高速で回転し
ている金属ロールの周囲に、溶融した状態の熱電材料を
ノズルで噴射して熱電材料を急速に冷却して薄膜を製造
する方法である。
【表1】
【0023】次に、薄膜を重ね合わせて冷間プレス成形
し、ホットプレス装置により、加熱し焼結して熱電変換
素子を製造する。図3に、上記条件で製造された熱電変
換素子の内部結晶構造を撮影した顕微鏡写真を示す。写
真に写っている横線は、薄膜1の構成を示しており、薄
膜1が重ね合わされた状態でプレスされ、焼結されたこ
とを示している。
【0024】また、横線の間にある縦線は、薄膜1の内
部結晶構造を示している。すなわち、結晶2が薄膜1の
膜厚方向に規則的に整列していることがわかる。さら
に、結晶2が、薄膜1の膜厚方向に結合し成長し、膜厚
方向に長く伸びていることがわかる。
【0025】ここで、薄膜1は、結晶を結合させるため
に、冷却ロール法で製造された薄膜1をそのまま重ね合
わせて焼結している。次に、プレス上下面にメッキ等の
導電材処理を施し電極6を形成する。そして、プレス上
下方向に平行にチップ状に切断する。この上下の導電材
処理を施した面が各々電極6を構成し、図1に示すよう
に、熱電変換素子7が完成される。
【0026】次に、熱電変換素子7に対して電流を流す
方向を変えた場合について説明する。実験結果を図4に
示す。プレス軸すなわち膜厚方向と垂直に電流を流した
場合の比抵抗ρの値を線4で示し、膜厚方向と平行に電
流を流した場合の比抵抗ρの値を線5で示す。すなわ
ち、膜厚方向と平行に電流を流した場合の比抵抗ρが、
膜厚方向と垂直に電流を流した場合の比抵抗ρよりも常
に小さい値となっている。
【0027】本実施例では、熱電変換素子に対して電流
が薄膜1の膜厚方向に平行に流されるので、比抵抗ρは
小さくなり、その結果、性能指数Zが大きくなり、熱電
変換素子の性能が良くなっている。ここで、膜厚方向と
平行に電流を流した方が、薄膜1の膜厚方向に垂直に電
流を流した場合と比べて、比抵抗ρが小さくなるのは、
同じ長さを採れば、通過する結晶の数が少ないため、電
流が流れやすくなるためと考えられる。
【0028】次に、第二の実施例について説明する。従
来より、BiTe6Sb3の基本組成をもつP型半導体素
子が熱電変換素子として使用されている。本実施例で
は、この基本組成に対して、テルルTeを重量比率で1
乃至5%添加することにより、熱電材料をプレス成形し
焼結するときに、焼結が促進されることを実験で確認し
た。
【0029】基本組成にTeを重量比で1%,3%,5
%添加して溶融し、冷却ロール法で熱電材料である薄膜
1を製造し、その薄膜1を重ね合わせて膜厚方向に平行
に押圧して冷間プレス加工する。ここで、薄膜1は、結
晶を結合させるために、冷却ロール法で製造された薄膜
1をそのまま重ね合わせて焼結している。
【0030】次に、プレス上下面にメッキ等の導電材処
理を施し、プレス上下方向に平行にチップ状に切断す
る。この導電材処理を施した面に各々電極を取付け、熱
電変換素子が完成される。
【0031】基本組成にTeを重量比で1%,3%,5
%添加して製造した熱電変換素子の特性値を表2に示
す。
【表2】 表2より明らかなように、Teの添加量を増加すると、
結晶の粒子サイズが増大し、比抵抗ρが減少する。しか
し、Teの添加量を増加すると、熱伝導率Kは増加す
る。
【0032】表2の比抵抗の変化を図4にグラフで示
す。この様に、Teの添加率を3重量%以上とすると比
抵抗ρが大きく減少することが実験で確かめられた。
【0033】次に、Teの添加率が増加するとき、比抵
抗ρが減少する理由を説明する。Teの添加率を3%と
して製造した熱電変換素子の顕微鏡写真を図2に示す。
この写真により、結晶2が図3のものと比べて大きく成
長しているのがわかる。結晶2の中心部に点線3が薄く
観察されるが、点線3は、図3の結晶2が複数合体して
図2の結晶2が作られたことをしめしていると考えられ
る。
【0034】特に、結晶2は、薄膜1の膜厚方向に大き
く成長しているため、図2上下方向に電流を流したとき
に、図3の場合と比較して、通過する結晶の数が少ない
ため、電流が流れやすく、比抵抗ρが小さくなると考え
られる。
【0035】また、熱伝導率Kの変化を図6に示す。こ
の様に、Teの添加率が1%と3%とでは変化しない
が、5%になると少し増加することが実験で確かめられ
た。熱伝導率Kも比抵抗ρと同様に、通過する結晶の数
が少ないため、熱が伝わりやすくなり、熱伝導率Kが大
きくなると考えられる。
【0036】従って、性能指数Zは、比抵抗ρと熱伝導
率Kの効果の相殺により図5に示すように、Teの添加
率が3%の時に最高値となる。その結果、Teの添加率
が3%の時に最性能指数Zが最大となり、熱電変換素子
の性能が良くなる。
【0037】一方、結晶粒の成長は、プレス成形し焼結
するときの焼結温度の影響を大きく受けることが実験に
より確認されている。すなわち、図7に示すように、焼
結温度が340度を越える付近からプレス軸方向の結晶
粒の大きさが急速に大きくなる。これは、焼結温度の上
昇により焼結が促進されるからである。
【0038】しかし、焼結温度を上げて結晶を粗大化し
た場合は、ゼーベック係数αが変化するため、性能指数
Zは減少してしまう。この点、本実施例では、焼結温度
を上昇することなく、Teの添加量を増加させて結晶を
大きくしているので、ゼーベック係数αが変化しないた
め、性能指数Zを大きくすることが可能となったのであ
る。
【0039】以上説明したように、冷却ロール法で製造
した薄膜1を層状に積み重ねてプレス成形し焼結して熱
電変換素子7を製作し、薄膜1の膜厚方向と平行に電流
を流せば、性能指数Zを向上させることができる。ま
た、熱電合金にTeを1乃至5重量%添加すると、ゼー
ベック係数αを変化させずに結晶粒を大きくできるの
で、性能指数Zを向上させることができる。
【0040】本実施例では、冷却ロール法で製造した薄
膜1を層状に積み重ねてプレス成形し焼結して熱電変換
素子7を製作し、薄膜1の膜厚方向と平行に電流を流す
方法と、熱電合金にTeを1乃至5重量%添加する方法
とを別々に説明したが両者を組み合わせて実施すれば、
さらに性能指数Zを向上させることができる。
【0041】
【発明の効果】以上説明したことから明かなように、本
発明の熱電変換素子7は、溶融状態の熱電合金を回転金
属ロール表面に噴射することにより急速に冷却して作ら
れた薄膜1が層状に重ね合わされ、薄膜1の膜厚方向に
平行に押圧され焼結されると共に、薄膜1の膜厚方向と
平行に電流が流れるように、電極6が取り付けられてい
るので、比抵抗ρを減少させることができ、性能係数Z
を向上させることができる。
【0042】また、本発明の熱電変換素子7は、熱電合
金が基本組成BiTe6Sb3に1乃至5重量%のTeを
添加された材質であるので、焼結温度を上昇させなくて
も結晶を大きくできるため、比抵抗ρを減少させること
ができ、熱伝導率Kの増加を相殺しても、性能係数Zを
向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である熱電変換素子の拡大断
面図である。
【図2】本発明の第一の実施例である熱電変換素子の断
面を200倍で顕微鏡で観察した金属組織を示す写真で
ある。
【図3】本発明の第二の実施例である熱電変換素子の断
面を200倍で顕微鏡で観察した金属組織を示す写真で
ある。
【図4】比抵抗値の実験結果を示すデータ図である。
【図5】性能指数の実験結果を示すデータ図である。
【図6】熱伝導率の実験結果を示すデータ図である。
【図7】結晶粒サイズの実験結果を示すデータ図であ
る。
【符号の説明】
1 薄膜 2 結晶 6 電極 7 熱電変換素子
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田中 義和 兵庫県姫路市飾磨区中島字一文字3007番 地 山陽特殊製鋼株式会社内 (72)発明者 柳谷 彰彦 兵庫県姫路市飾磨区中島字一文字3007番 地 山陽特殊製鋼株式会社内 (72)発明者 桝田 哲智 兵庫県姫路市飾磨区中島字一文字3007番 地 山陽特殊製鋼株式会社内 (72)発明者 西川 俊一郎 兵庫県姫路市飾磨区中島字一文字3007番 地 山陽特殊製鋼株式会社内 (72)発明者 伊藤 永勝 愛知県春日井市堀ノ内町850番地 シー ケーディ株式会社内 (72)発明者 河合 良彦 愛知県春日井市堀ノ内町850番地 シー ケーディ株式会社内 (72)発明者 林本 茂 愛知県春日井市堀ノ内町850番地 シー ケーディ株式会社内 (56)参考文献 特開 昭63−36583(JP,A) 特開 平1−106478(JP,A)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶融状態の熱電合金を回転金属ロール表
    面に噴射することにより急速に冷却して作られた薄膜を
    焼結して製造される熱電変換素子において、前記薄膜が
    層状に重ね合わされ、薄膜の膜厚方向に平行に押圧され
    焼結されると共に、 前記薄膜の膜厚方向と平行に電流が流れるように、電極
    が取り付けられていることを特徴とする熱電変換素子。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載する熱電変換素子におい
    て、 前記熱電合金が基本組成BiTe6Sb3に1乃至5重量
    %のTeを添加された材質であることを特徴とする熱電
    変換素子。
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