JP2658210B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼の熱処理方法 - Google Patents

マルテンサイト系ステンレス鋼の熱処理方法

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明はマルテンサイト系ステンレス鋼の改良に関
し、より具体的には、腐食環境下にて高い疲労強度が要
求される用途、例えば製紙用サクションロール、海水ポ
ンプ、その他各種化学装置に用いられる材料として好適
なマルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
(従来技術とその問題点) 例えば製紙工業におけるサクションロールは白水環境
のもとで使用されるため、優れた耐食性と高い腐食疲労
強度が必要とされる。これらの特性に優れた材料とし
て、フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼、析
出硬化型ステンレス鋼等が挙げられるが、これらの材料
は一般的に切削性、特にドリル加工性が悪く、例えばツ
イストドリルによる切削は非常に困難である。
このため、製紙用サクションロールにはJIS SCS1材に
代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼が広く使用さ
れている。この材料はドリル加工性にすぐれ、しかも安
価であるからである。しかし乍ら、従来のマルテンサイ
ト系ステンレス鋼は、腐食環境下での疲労強度に劣るた
め、短期間の使用でロールの折損事故が発生し、部材と
しての安定性に欠ける問題があった。
特に製紙ミルの場合、近年における操業条件の高速化
や、pH値の低下、S2O3 2-イオンの増加等による白水の腐
食性環境が苛酷となるにつれ、腐食環境下での疲労強度
の改善が強く要請されている。
本発明はかかる要請を満たした新規な材料を提供する
ものである。即ち、腐食疲労強度は耐食性と耐力とに密
接な関係を有するとの知見に基づき、これらの両特性の
改善によって腐食疲労強度を向上させたものである。
(技術的手段及び作用) 本発明にかかるマルテンサイト系ステンレス鋼は、重
量%にて、C:0.06%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以
下、Cr:14〜17%、Ni:4.5〜7.0%、Mo:1〜3%、Cu:0.5
〜1.5%を含有し残部実質的にFeからなる。
また、本発明にかかるマルテンサイト系ステンレス鋼
にすぐれた耐食性と十分な耐力を付与し、高い腐食疲労
強度を具備させるためには適切な熱処理が必要である。
そこで、本発明では鋼の焼戻しを、Ac1変態点よりも20
℃乃至80℃低い温度範囲にて行なうものである。本発明
のステンレス鋼のAc1変態点は約610乃至620℃であると
考えられるから、本発明鋼の場合、約530乃至600℃の温
度範囲にて焼戻しを行なうことにより、常に一定して高
い腐食疲労強度を具備した部材を得ることができる。
本発明のステンレス鋼の成分限定理由は次のとおりで
ある。
C:0.06%以下 Cは、オーステナイト相に固溶されて素地を強化する
働きを有する。しかし、含有量が多くなると、Cr炭化物
を形成し、耐食性改善に有効なCrが消費されることによ
って耐食性の低下を招く。又、Cr炭化物が多量に析出す
ると靭性が悪化する。よって、0.06%を上限とする。
Si:2.0%以下 Siは、溶製時の脱酸剤としての役割を有する。しか
し、多量に含むと脆化等の材料特性の劣化を招くので、
2.0%を上限とする。
Mn:2.0%以下 Mnは上記Siと同様に脱酸剤として作用する他、溶製中
のイオウ(S)を固定する役割を有する。しかし、多量
に含まれると耐食性が低下するので、上限は2.0%とす
る。
Cr:14〜17% Crは、高強度化と、ステンレス鋼としてのすぐれた耐
食性を得るために必要であり、本発明の目的とする腐食
疲労強度の向上に欠くことの出来ない基本元素である。
これらの効果を発揮させるため、少なくとも14%含有さ
せる必要がある。しかし、多量に含有するとミクロ組織
におけるフェライト相が増加し、耐食性及び靭性が低下
する。従って上限は17%とする。
Ni:4.5〜7.0% Niは、鋳造性を改善させる作用があり、凝固時の凝固
形態に良好に作用することにより、鋳造工程における割
れ等の欠陥を防止できる。また、Niはミクロ組織中に残
留オーステナイト相を生成させ、靭性の改善に有効であ
る。このため、4.5%以上含有する必要がある。しかし
乍ら、Niを多量に含有すると残留オーステナイト量が過
度に増加し、却って好ましくない。更にNiは高価な元素
であるから、コストアップともなる。従って、7.0%を
上限とする。
Mo:1〜3% Moは、耐食性、特に孔食に対する抵抗性の改善に大き
な効果を有する。含有量が1%に満たないとその効果が
十分でなく、一方3%を超えると靭性が低下し、又コス
トアップにもなるため、上限は3%とする。
Cu:0.5〜1.5% Cuは、全面腐食に対する抵抗性の改善に効果があり、
耐力を向上させ、腐食疲労強度の向上に著しく寄与す
る。その効果を十分なものとするために、少なくとも0.
5%の含有を必要とするが、あまり多くなると靭性の低
下を招くので1.5%を上限とする。
本発明のステンレス鋼は上記成分元素を含有し、残部
は実質的にFeからなる。不純物は、P、Sその他、鋼の
溶製時に不可避的に混入するものであって、この種の鋼
に通常許容される範囲内であれば存在しても構わない。
本発明のステンレス鋼は、900℃〜1100℃の温度にて
加熱後焼入れ処理し、その後Ac1変態点よりも20〜80℃
低い温度にて焼戻し処理することによって、すぐれた耐
食性と高い腐食疲労強度を確実に具備させることができ
る。
次に、実施例を挙げて本発明にかかるマルテンサイト
系ステンレス鋼の改善効果を具体的に説明する。
(実施例) 高周波誘導加熱炉で2種類の合金を溶製し、遠心力鋳
造にて供試材を製造した。供試材の化学成分組成を第1
表に示す。
なお、従来鋼とはJIS SCS1相当材、発明鋼とは特許請
求の範囲に規定された成分範囲に含まれる本発明の一実
施例である。
第7図に示す形状の試験片(1)を用いて腐食疲労強
度について発明鋼と従来鋼との比較を行なった。腐食疲
労強度は、小野式回転曲げ試験機(試験機回転数3000rp
m)を用い、標準液(Cr-イオン1000ppm、SO4 2-イオン10
00ppm、pH3.5)の中で荷重条件を種々設定し、破断に要
したサイクル数を調べた。その結果を第1図に示す。
次に、発明鋼について、焼戻し温度と機械的性質との
関係を調べた。その結果を第2図乃至第5図に示す。第
2図は、引張強度及び耐力と、焼戻し温度との関係を示
す。第3図は絞り及び伸びと、焼戻し温度との関係を示
す。第4図は硬度と焼戻し温度、第5図なシャルピー衝
撃値と焼戻し温度との関係を夫々示している。
更に、第8図に示す形状の試験片(2)を用いて焼戻
し温度と腐食減量との関係を発明鋼について調べた。腐
食減量はJIS G0591に基づく全面腐食試験に準拠し、5
%沸騰硫酸中に各供試材を6時間浸漬し、浸漬後の1m2
当たりの腐食減量を調べたものである。その結果を第6
図に示す。
第1図の結果から明らかな如く、本発明のステンレス
鋼は、従来鋼に比べてすぐれた腐食疲労強度を備えてい
ることがわかる。
なお、腐食疲労強度は、前述したように耐食性及び耐
力と密接な関係を有しており、これらの両特性のバラン
スを考慮する必要がある。第2図の耐力と第6図の腐食
減量のデータを比較すると、焼戻し温度が低いとき(53
0℃)、耐力は大きいが腐食減量は多くなり、焼戻し温
度が高いとき(600℃)、耐力は小さいが腐食減量は少
なくなる。なお、第6図において、530℃の焼戻し温度
では腐食減量が約100g/m2hであるが、従来鋼の場合だと
約1000g/m2hであるので、この数値でも十分にすぐれた
耐食性を具備していると考えられる。耐食性と耐力のバ
ランスを考慮した場合、本発明鋼の場合、焼戻し温度は
約570℃前後が最適であると考えられる。
本発明のステンレス鋼は、第2図乃至第5図の結果か
らも明らかなように、前述した温度範囲にて焼戻しを実
施することによって、一定してすぐれた機械的性質を具
備させることがえきる。具体的には、引張強さ約90kg/m
m2以上、耐力約60kg/mm2以上、伸び約15%以上、絞り約
35%以上、硬度約295HB以上、シャルピー衝撃吸収エネ
ルギー約10kgf・m以上を確保できる。更に、第6図の
結果から明らかなように、腐食減量は約100g/m2以下を
確保することができる。
(発明の効果) 本発明のステンレス鋼は、安定した機械的特性を備え
ると共に、耐食性及び腐食疲労強度に優れている。従っ
て、これ等の特性が要求される製紙用ロール、化学装
置、ポンプ部品、海水機器等の材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
第1図は腐食疲労強度の試験結果を示すグラフ、第2図
は本発明鋼の引張強度、降伏強さと焼戻し温度との関係
を示すグラフ、第3図は本発明鋼の絞り、伸びと焼戻し
温度との関係を示すグラフ、第4図は本発明鋼の硬度と
焼戻し温度との関係を示すグラフ、第5図は本発明鋼の
シャルピー衝撃値と焼戻し温度との関係を示すグラフ、
第6図は本発明鋼の腐食減量と焼戻し温度との関係を示
すグラフ、第7図は腐食疲労試験片の正面図、第8図は
腐食試験片の斜視図である。 (1)……試験片、(2)……試験片

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%にて、C:0.06%以下、Si:2.0%以
    下、Mn:2.0%以下、Cr:14〜17%、Ni:4.5〜7.0%、Mo:1
    〜3%、Cu:0.5〜1.5%、残部実質的にFeからなるマル
    テンサイト系ステンレス鋼を、焼入れ後、530〜600℃の
    温度で焼戻しを行なうことを特徴とするマルテンサイト
    系ステンレス鋼の熱処理方法。
JP63170170A 1988-07-07 1988-07-07 マルテンサイト系ステンレス鋼の熱処理方法 Expired - Lifetime JP2658210B2 (ja)

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