JP2590139B2 - 被覆切削工具 - Google Patents

被覆切削工具

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千尋 河合
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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、耐摩耗性・耐欠損性に優れた被覆切削工具
に関するものであり、主として耐欠損性が必要とされる
フライス切削に適する被覆切削工具に関するものであ
る。
[従来の技術] 従来、たとえば、フライス用被覆切削工具として、CV
D(化学蒸着)被覆工具やPVD(物理蒸着)被覆工具など
が用いられている。しかし、両者とも、十分な性能を発
揮するに至っていないのが現状である。これは、主とし
て次の理由によるとされている。すなわち、前者では被
覆直下に脆弱な脱炭相(η相)が生成され、後者では被
覆と基材との密着強度不足のため被覆が剥離しやすいの
である。
上記問題を解決するため、最近、高温で行なう従来の
HT-CVD法に比べて被覆温度を低下させたMT-CVD法が用い
られるようになった。これにより、脆弱な脱炭相が存在
せず強固な密着強度を有する被覆切削工具が得られるよ
うになった。
[発明が解決しようとする問題点] しかしながら、MT-CVD法によって作製された被覆切削
工具であっても、フライス切削において相変わらず工具
刃先の欠損が目立ち、HT-CVD法と比較した場合に耐欠損
性はほとんど向上していない。
発明者等は、この原因が、皮膜中に残存する塩素(C
l)量に起因すると推察した。すなわち、被覆温度と残
留塩素量とは密接に関連しており、被覆温度の低下とと
もに残留塩素量は著しく増大する。このため被覆強度が
著しく低下し、断続切削時において被覆にクラックが発
生しやすくなる。これが基材に伝播して欠損に至ること
になり、上記MT-CVD法の利点を相殺するのではないかと
いう結論を、発明者等は得たのである。
そこで、本発明は、残留塩素量の少ない被覆層を得
て、強靱で優れた耐欠損性を有する被覆切削工具を提供
することを目的とする。
[問題点を解決するための手段] 本発明に係る被覆切削工具は、超硬合金またはサーメ
ットからなる基体に、IVa族金属の炭窒化物を含む被覆
層を被覆した被覆切削工具である。
さらに、本発明に係る被覆切削工具は、前記被覆層
が、IVa族金属の金属源としてのIVa族金属塩化物と、炭
素、窒素源としての有機窒素化合物とを、H2をキャリア
ガスとし化学蒸着法で700〜900℃で反応させて、基体表
面に未処理被覆層を形成し、さらに500〜900℃、50torr
以下の条件で真空熱処理を10分〜10時間行なうことによ
って得られた、塩素含有量の少ない被覆層であることを
特徴としている。
なお、好ましくは、炭素,窒素源としてアセトニトリ
ル(CH3CN)を用いる。
[作用] 本発明に係る被覆切削工具では、被覆層は700〜900℃
という比較的低い温度で化学蒸着法によって形成される
ので、被覆層の下には脆弱な脱炭相が存在せず、しかも
被覆層は強固に基材に密着している。
また、上述の条件で真空熱処理を被覆層に施すことに
よって、被覆層の塩素含有量は従来に比べて少なくなっ
ている。このため、被覆層中に含有される残留塩素に起
因する被覆層の強度低下が、低減あるいは防止できる。
その結果、断続切削時に被覆層に生じるクラックの数が
減少して、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。
さらに、本発明に係る被覆切削工具の耐欠損性の向上
は、次のような作用によってももたらされると発明者等
は考えている。すなわち、真空熱処理において被覆層中
より塩素が外部に除去されるときに、被覆層中に微小な
ピンホールが生じる。これにより、熱処理後に室温まで
冷却する際に被覆層中に生じる引張り応力が緩和され
る。故に、被覆層中のクラック数が減少して、工具の耐
欠損性がさらに向上するものと考えられる。
[実施例] 実施例1 超硬合金製の基体に、TiCl4,H2,CH3CNを原料とし、
850℃でTi(CN)を3μm被覆して被覆切削工具を得
た。次に、850℃、0.1torr、2時間の条件で真空熱処理
を施した。
得られた試料および真空熱処理を行なわなかった同膜
厚の試料について、E.P.M.A.(X線マイクロアナライザ
ー)により、被覆層中のCl濃度を測定した。その結果、
真空熱処理した試料のCl濃度は非熱処理試料の約1/2に
減少していた。
なお、熱処理温度が500℃以下では被覆層中の塩素含
有量を減少させるに十分な効果がなく、900℃以上では
皮膜粒子の粒成長が生じて工具の切削性能に悪影響を与
えた。また、熱処理時の気圧が50torr以上となれば、被
覆層中の塩素含有量を減少させるに十分な効果が生じな
かった。真空度は、現実の真空装置の性能によって左右
されるのではあるが、高い方がより望ましい。真空熱処
理時間は、10分間以下では十分な効果が認められず、10
時間以上では効果が飽和した。
上記真空熱処理によって被覆層中の残留塩素量が減少
する現象は、被覆時に被覆層中に大量の塩素が含有され
てしまうMT-CVD法において特に顕著である。但し、従来
のHT-CVD法においても、比較的低温域で処理した試料に
ついては十分効果があった。したがって、特に効果が顕
著な被覆温度は、900℃以下である。また、被覆温度が7
00℃以下では、切削工具として実用に耐える被覆層の接
着強度が得られなかった。
実施例2 出発原料としてTiCl4,H2,CH3CNを用い、超硬合金
(材質A30N;型番SPMN422)上にTi(CN)を850℃で2μ
m被覆した試料と、同条件で被覆後、第1表に示すよう
な温度および圧力で2時間真空熱処理した試料とを、次
の条件で断続切削したところ、第1表に示す結果が得ら
れた。
カッタ:DPG4160R 速度:220m/min 送り:0.14mm/刃 切削油:なし 被削材:SCM435 第1表から明らかなように、本発明に係る切削工具で
は、欠損に至るまでの切削時間および逃げ面摩耗幅に関
し、従来の被覆切削工具よりも優れた性能を発揮するこ
とがわかる。
実施例3 出発原料としてTiCl4,HfCl4,H2,CH3CN,CH3(NH)2C
H3を用い、サーメット(型番SNG432)上にTi(CN),Hf
(CN)を750℃で2μm被覆した試料と、同条件で被覆
した後、第2表に示す温度および圧力の条件で4時間真
空熱処理を施した試料とを、次の条件で断続切削し、耐
欠損性を明らかにするための4溝靱性テストを行なっ
た。その結果を第2表に示す。
速度:150m/min 送り:0.18〜0.25mm/rev. 被削材:SCM435 切削時間:30sec 繰返し数:8回 切削油:なし この第2表から明らかなように、比較品に比べて本発
明に係る被覆切削工具は、優れた耐欠損特性を有してい
ることがわかる。
実施例4 超硬合金(SNMG432)基体上にTiNを1μm(出発原料
TiCl4、H2、N2)、TiCNを4μm(出発原料TiCl4、H2
CH3CN)、TiCを3μm(出発原料TiCl4、CH4、H2)の順
に、それぞれ900℃で被覆した試料(B)と、同じ条件
で被覆後、900℃、30TORRで10時間真空熱処理を施した
試料(A)を作製し、実施例3と同じ断続切削条件(4
溝靱性)で耐欠損性評価を行なった。その結果は次のと
おりであった。
試料A:欠損率12% 試料B:欠損率85% 上記結果より、試料Aでは試料Bに比べ、耐欠損性が
大きく向上していることがわかる。なお、試料Aの膜中
の塩素量は試料Bに比べ、約1/4に減少していること
は、EPMA分析により確認された。
[発明の効果] 以上説明したように、本発明によれば、被覆層中の残
留塩素量を減少させることにより、比較的低温で化学蒸
着法を採用した場合の利点である被覆切削工具の耐欠損
性および耐摩耗性を最大限に発揮することができ、強靱
で優れた耐欠損性を有する被覆切削工具が得られる。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】超硬合金またはサーメットからなる基体
    に、IVa族金属の炭窒化物を含む被覆層を被覆した被覆
    切削工具において、 前記被覆層は、 前記IVa族金属の金属源としてのIVa族金属塩化物と、炭
    素、窒素源としての有機窒素化合物とを、H2をキャリア
    ガスとし化学蒸着法で700〜900℃で反応させて、前記基
    体表面に未処理被覆層を形成し、 さらに500〜900℃、50torr以下の条件で、真空熱処理を
    10分〜10時間行なうことによって得られた、 塩素含有量の少ない被覆層であることを特徴とする被覆
    切削工具。
  2. 【請求項2】特許請求の範囲第1項において、炭素、窒
    素源としてアセトニトリル(CH3CN)を用いた被覆切削
    工具。
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