JP2546839B2 - 転がり軸受要素 - Google Patents

転がり軸受要素

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JP2546839B2 JP62118654A JP11865487A JP2546839B2 JP 2546839 B2 JP2546839 B2 JP 2546839B2 JP 62118654 A JP62118654 A JP 62118654A JP 11865487 A JP11865487 A JP 11865487A JP 2546839 B2 JP2546839 B2 JP 2546839B2
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博光 近藤
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Description

【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 この発明は、転がり軸受(ボールベアリング、ローラ
ーベアリングのほか、ボールねじやリニアボールベアリ
ングその他の同等物を包含するものとする)を構成する
軌道輪、転動体といった転がり軸受要素に関するもの
で、宇宙機器や医療機器、半導体製造設備など主として
真空中で使用される転がり軸受に利用することができ
る。
従来の技術 真空中で使用される転がり軸受の潤滑には、通常の油
脂類潤滑剤はその蒸発減量が著しく、満足な潤滑機能を
発揮し得ないため、蒸気圧が低いという点から銀(A
g)、鉛(Pb)、二硫化モリブデン(MoS2)などからな
る軟質の固体金属膜が用いられる。固体金属膜の形成方
法は種々知られているが、一例として、蒸着の一種であ
るイオンプレーティングにより球表面に銀被膜を形成す
る技術が特開昭60−110870号公報に記載されている。
銀は、鉛や二硫化モリブデンのような他の固体潤滑剤
に比べて転移性が高いため、銀被膜のみかけ上摩耗速度
が遅く、寿命が長いという利点を有する。すなわち、転
がり軸受要素に銀被膜を形成して潤滑能力をもたせるこ
とにより、固体潤滑剤を含有した保持器の使用に頼らず
とも軸受に耐久性を付与することができ、総玉型式を採
用することが可能となる。これは、摩耗粉を嫌う環境で
使用する軸受としては特に有利な点である。
発明が解決しようとする問題点 銀被膜は、しかしながら、銀の高い転移性の故に、軸
受の回転に伴って転動体相互間もしくは転動体と軌道輪
のレースとの間で銀の転移ないし転着が起こり易いとい
う問題がある。すなわち、被膜の銀の一部が母相から離
れて軌道体からレースへ、あるいはまたその逆へと転着
し、ボールの転走領域外へ散逸することなくこの領域内
に長く保持される。これを通常の固体潤滑剤の摩耗する
速度にならった見方をすれば、銀被膜のみかけ上摩耗速
度は遅いということができる。
しかして転着の結果、レースや転動体の形状変化、特
に鋼球の真球度が損なわれるに至ると、鋼球とレースと
の間に異物を噛み込んだ状態となってトルクの上昇とか
異音の発生を生じ、ひいては、比較的早期に回転不能に
陥る虞がある。これではせっかくの寿命の長い潤滑能力
が活用されないことになる。
そこで、この発明は、摩耗速度が遅く、それでいてな
お高い付着性を有し、長期にわたって良好な潤滑能力を
発揮しうる固体潤滑膜を追究したものである。
問題点を解決するための手段 この発明は、転がり軸受要素の表面に酸化銀の固体潤
滑膜を形成することによって、かかる課題を達成した。
イオンプレーティングにおいて、銀はAg+とAg++の2
種類にイオン化し得、酸素の存在下10-5Torrオーダーで
蒸発させると次の反応が起こりうる: 2Ag++O--→Ag2O Ag+++O--→AgO 通常の条件では殆どの反応で占められるが、後述す
るように条件を調整することによりの反応比率を高め
ることができる。
第1図は上記の式によるAg2O被膜の走査電子顕微鏡
(SEM)写真および酸素の線分析結果を示すが、被膜の
欠落した部分(黒色部分)で酸素レベルが下がってお
り、被膜中に酸素が存在することが判る。第2図はイオ
ン化を高めて式の比率を増した場合の被膜のSEM写真
であるが、白色の小さな島が点在する。これは酸素分析
結果を併せて示す第3図からわかるとおり、AgOであ
る。素地の酸素濃度より白点部の方が高いレベルにあ
る。本発明で酸化銀というときは、酸化第二銀(AgO)
および、これと酸化第一銀(Ag2O)とが混在したものの
両方を含むものとする。
実施例 一般に、イオンプレーティングは抵抗加熱方式(Matt
ox法)、アーク放電方式などによりおこなわれる。従
来、アーク放電方式はチタン(Ti)、クローム(Cr)な
どの高融点金属のイオンプレーティングに用いられ、銀
のような低融点金属のイオンプレーティングは抵抗加熱
方式でおこなわれるのが通常であった。
抵抗加熱方式は、前掲の特開昭60−110870号公報にも
記載されているように、真空槽内にアルゴン(Ar)ガス
を流し、10-3〜10-1Torrの圧力下で、基板をマイナス
(−)、蒸着物質をプラス(+)にしてグロー放電し、
その状態で蒸着物質を加熱・蒸発させると、グロー放電
域中で蒸着物質がイオン(+)化してマイナス(−)の
基板表面に電気力線の作用で付着する。このようにMatt
ox法ではアルゴンガスを用いるため反応性生成物はつく
れず、銀のイオン化率も10%未満である。
アーク放電方式は、イオン化源としてアルゴンガスを
使用する代わりに、蒸着物質を熱電子によりイオン化さ
せるもので、高真空下(10-5Torr台)でおこなうことが
できる。このため、抵抗加熱方式におけるようにアルゴ
ンガス中に含まれる微量の不純物を巻き込むことがな
く、結晶性の良い膜が得られる。
第4図を参照してアーク放電方式のイオンプレーティ
ングの原理を説明すると、真空槽(2)内において、蒸
発源(4)から蒸発した銀は、フィラメント(6)と電
極(8)との間でイオン化し、このイオン化した銀が、
回転するメッシュバレル(10)内の被処理物(この場合
鋼球)(12)に引き寄せられて鋼球表面に被膜を形成す
る。
なお、酸素の供給は、真空槽(2)外部から注入する
ことも考えられるが、被処理物を活性化するための前処
理過程において、真空槽(2)内のカーボンヒーター
(14)で加熱する際、このカーボンヒーター(14)に吸
蔵されている酸素(空気)が放出されることによってお
こなわれるようにすれば、真空槽(2)内部の高真空を
保持することができるので有利である。
上述の原理に基づく市販のアーク放電型高真空イオン
プレーティング装置を使用し、蒸着物質として銀を用
い、φ4.0の鋼球(SUJ 2)に異なる条件下で形成した被
膜についてのデータを下表に示す。なお、表中↑は「上
に同じ」の意である。
上の表中の制御因子およびその作用は次のとおりであ
る。
(イ)予備加熱条件 通常これはイオンプレーティング処理前におこなうイ
オンクリーニングを指すが、本実施例では鋼球(12)を
メッシュバレル(10)に入れて回転させるため、Arイオ
ンによるクリーニングは困難である。したがって、ここ
にいう予備加熱条件とはカーボンヒーター(14)による
加熱の温度、時間であり、鋼球表面の活性度に影響す
る。
(ロ)イオン化条件 蒸発原子(Ag)をイオン化するために熱電子(フィラ
メント(6))条件、イオン化電極(8)条件の2つの
因子がある。熱電子電流、イオン化電圧を増すにつれて
イオン化電流は増加する、すなわちイオン化率が高くな
る関係にある。
(ハ)基板条件 ここに基板とは、第4図の場合、メッシュバレル(1
0)を指す。
基板電圧は負電圧であり、高電圧になるほどAgイオン
を引きつける力は大きくなるが、処理時間中通して高電
圧を保持させると、Agイオンの自己スパッタすなわちAg
付着膜にAgイオンが衝突して付着膜のAgをはじきとばす
現象を招き、付着膜を剥離させてしまう原因となる。
上記(ロ)のイオン化条件は、フィラメントを加熱す
ることにより熱電子を放出させて蒸発原子をイオン化す
るという、アーク放電方式のイオンプレーティングに特
有のものである。付着性の良否については引掻テストに
より判定した。すなわち、尖端が鋭利で硬い注射針等を
用いて被膜を引掻き、被膜が母相界面から剥離するかど
うかを試験した。
試験1〜4では、被膜が全面に一様に形成されず、付
着性の良好な被膜が得られなかった。試験5〜8は鋼球
表面を活性化するためのヒーターによる加熱をおこなう
ことにより、付着力の良好な被膜が得られることを示し
ている。すなわち、イオン化条件、基板条件を制御する
だけでは付着性のある被膜を形成することは難しく、鋼
球表面を加熱して活性化するための前処理をおこなうこ
とが、良好な被膜を得るうえで不可欠である。なお、こ
の加熱は寸法変化等特性に影響を及ぼさない程度とし、
鋼球のマス(サイズ)によって加熱条件を考慮する必要
はあるが、概ね150℃以下で5分間程度の加熱とするの
が好ましい。
発明の効果 銀被膜を形成した鋼球を組み込んだ軸受と、酸化銀被
膜を形成した鋼球を組み込んだ軸受を第5図に示す真空
試験機にセットして耐久試験をおこなった。その結果は
それぞれ第6図および第7図に示す通りである。ただ
し、両試験軸受の摩擦トルクの和が10-2Nmに達した時点
をトルク寿命とする。なお、第5図において、(16)は
試験軸受、(18)は内部ローター、(20)は外部ロータ
ー、(22)はヒーター、(24)はスラスト負荷バネ、
(26)(28)は回転速度検出用の磁石とホールICを示し
ている。
従来の銀被膜の場合の摩擦トルク値を示す第6図を参
照すると、摩擦トルクの変動が大きく、耐久性もさほど
良好ではない。
これに比べて酸化銀の被膜を形成した鋼球を採用する
軸受では、第7図から了解できるように、摩擦トルクも
低く、かつ、安定しており、10倍を越える寿命が得られ
た。
要するに、酸化銀被膜は鉛等の他の固体潤滑剤より摩
耗速度が低く、しかも銀膜と異なり転移性を抑えた固体
潤滑膜であり、真空中で使用される特殊用途軸受におい
て優れた潤滑能力を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図乃至第3図は酸化銀被膜のSEM写真で、第1図及
び第3図は酸素量の線分析結果を併せて表示している。 第4図はアーク放電方式のイオンプレーティングの原理
を説明する模式図、 第5図は軸受の耐久試験を行うための真空試験機の縦断
面図、 第6図および第7図は縦軸に摩擦トルク、横軸に時間を
とったグラフであり、それぞれ銀膜の場合および酸化銀
膜の場合を示す。 2……真空槽、4……蒸発源、 6……フィラメント、8……電極、 10……メッシュバレル、12……鋼球(転がり軸受要
素)、 14……カーボンヒーター。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】表面に酸化第二銀および酸化第一銀からな
    る固体潤滑膜を形成したことを特徴とする転がり軸受要
    素。
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