JP2024110078A - 投影画像表示部材 - Google Patents

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雄二 松尾
孝行 宇都
慎 ▲廣▼▲瀬▼
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Abstract

【課題】 本発明は、映像以外の周囲の景色の映り込みを軽減することができる投影画像表示部材を提供することを課題とする。【解決手段】 少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、 前記高屈折率膜の屈折率が、前記高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、前記高屈折率膜側から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であり、投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である、投影画像表示部材。【選択図】なし

Description

本発明は、映像以外の周囲の景色の映り込みを軽減することができる投影画像表示部材、および当該投影画像表示部材を用いたヘッドアップディスプレイ、当該ヘッドアップディスプレイを備える交通機関、建物に関する。
合わせガラス等の投影画像表示部材に映像を投影し、投影画像表示部材を通して視認する背景と投影した映像を重ねて表示するヘッドアップディスプレイにおいて、投影画像表示部材の内面と外面の2つの面からの反射によって発生する2重像が課題となっている。
その課題に対して、合わせガラスの中に偏光反射フィルムを配置してP波の映像をガラスのブリュースター角で入射することで2重像を解決する方法が提案されている(特許文献1)。また、当該課題を解決する別の方法として、合わせガラスの中に正面方向は透過し斜め方向のP波のみ反射するフィルムを配置して、P波の映像を合わせガラスのブリュースター角で入射させることで2重像を解決する方法(特許文献2)が提案されている。
しかしながら、上記方法には、合わせガラスのブリュースター角以外の入射角度で映像を投影した際には2重像が視認される課題がある。この課題に対して、ガラスの表面にガラスより高い屈折率を持つ膜を配置することで、ガラスのブリュースター角以上の入射角度における2重像の視認を解決する方法(特許文献3)が提案されている。
WO2005/017600号公報 WO2019/198635号公報 特開平10-148787号公報
しかしながら、特許文献3に開示された方法で用いる投影画像表示部材はガラス表面に高屈折率の膜を配置するため、P波についてはブリュースター角以外での反射率がガラスより高くなり、S波については全ての入射角での反射率がガラスよりも高くなる。そのため、映像以外の周囲の景色の映り込みが大きくなってしまう課題がある。
本発明は、上記の課題を解決せんとするものである。すなわち本発明は、少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、前記高屈折率膜の屈折率が、前記高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、前記高屈折率膜側から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であり、投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である、投影画像表示部材。
また、本発明の投影画像表示部材は以下の態様とすることもでき、以下に示すように、これを用いてヘッドアップディスプレイや交通機関や建物とすることもできる。
(1) 少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、
前記高屈 折率膜の屈折率が、前記高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、前記高屈折率膜側から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であり、投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である、投影画像表示部材。
(2) 前記基材の高屈折率膜側の表面の屈折率、前記中間屈折率膜の屈折率、前記高屈折率膜の屈折率をそれぞれ順にNm、Ni、Nhとした場合に、Nm<Ni<Nhの関係を満足する、(1)記載の投影画像表示部材。
(3) 前記中間屈折率膜の厚みが30nm以上130nm以下である、(1)または(2)に記載の投影画像表示部材。
(4) 前記中間屈折率膜の厚みが50nm以上110nm以下であり、前記高屈折率膜の厚みが30nm以上90nm以下である、(1)~(3)の何れかに記載の投影画像表示部材。
(5) 前記投影画像表示部材の表面の法線に対して20°、40°、60°、70°の角度で入射したときの波長400nm~700nmのP波の平均反射率(%)をそれぞれ順にRp20、Rp40、Rp60、Rp70とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60<Rp70の関係を満足する、(1)~(4)の何れかに記載の投影画像表示部材。
(6) 前記Rp70の方位角ばらつきが10%以下である、(1)~(5)の何れかに記載の投影画像表示部材。
(7) 前記投影画像表示部材の表面の法線に対して70°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が20以下である、(1)~(6)の何れかに記載の投影画像表示部材。
(8) 前記基材が少なくとも透明支持体と反射層を含む、(1)~(7)の何れかに記載の投影画像表示部材。
(9) 前記反射層が、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の少なくとも1つを含む、(8)に記載の投影画像表示部材。
(10) 映像を投影する光源と投影画像表示部材を備え、前記光源からの投影像を反射することで利用者に映像を視認させるヘッドアップディスプレイであって、前記光源から前記投影画像表示部材の入射面に入射される光の強度に占めるP波の強度(P波の強度/(P波の強度+S波の強度))が51%以上であり、前記投影画像表示部材が、少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、前記高屈折率膜の屈折率が、高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、前記高屈折率膜側から前記投影画像表示部材に入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上である、ヘッドアップディスプレイ。
(11) 前記光源からの投影像の入射角度が、前記投影画像表示部材の法線に対して50°以上75°以下である、(10)に記載のヘッドアップディスプレイ。
(12) (10)または(11)に記載のヘッドアップディスプレイを具備する、交通機関。
(13) (10)~(12)の何れかに記載のヘッドアップディスプレイを具備する、建物。
本発明によれば、広い入射角度範囲に渡って2重像を抑制し、かつ映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制する投影画像表示部材、および当該投影画像表示部材を用いたヘッドアップディスプレイ、当該ヘッドアップディスプレイを備える交通機関、建物を提供することができる。
本発明の一実施態様に係る投影画像表示部材の基材の断面を示す模式図である。 本発明の一実施態様に係る投影画像表示部材の基材の断面を示す模式図である。 本発明の一実施態様に係る投影画像表示部材の基材の断面を示す模式図である。 本発明の一実施態様に係る投影画像表示部材の基材の断面を示す模式図である。 ガラスのP波の波長400nm~700nmの平均反射率の入射角度依存性を示すグラフである。 ガラスA、ガラスB、ガラスCそれぞれについてP波の波長400nm~700nmの平均反射率の入射角度依存性を示すグラフである。 本発明の投影画像表示部材の方位角を説明する模式図である。 本発明の多層積層フィルムの層Aと層Bの層厚みを説明する模式図である。 従来の透明樹脂フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。 従来の光を反射する多層積層フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。 本発明の投影画像表示部材が含む反射層が含む多層積層フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。 本発明の一実施態様に係るヘッドアップディスプレイを説明する模式図である。 ガラスや透明樹脂フィルムを用いた従来の投影画像表示部材、本発明の投影画像表示部材それぞれについて、斜め方向の反射特性を示す模式図である。 本発明のヘッドアップディスプレイを実装する効果を説明する概略図である。
以下、本発明の投影画像表示部材について具体的に説明する。本発明の投影画像表示部材は、少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、前記高屈折率膜の屈折率が、前記高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、前記高屈折率膜側から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であり、投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である、投影画像表示部材。
以下に本発明の実施の形態について述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施の形態に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲内においての種々の変更は当然あり得る。また、説明を簡略化する目的で一部の説明は、本発明の好ましい態様の一つである、異なる2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有する多層積層フィルムを含む投影画像表示部材を例にとり説明するが、3種以上の熱可塑性樹脂を用いた多層積層フィルムを含む場合においても、同様に理解されるべきものである。
本発明の投影画像表示部材の態様の具体例を説明する。本発明の投影画像表示部材は少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含むことが必要である。ここで「少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含む」とは、基材、中間屈折率膜、高屈折率膜がこの順に配置された構成全てを含むことを意味し、これらが直接接する態様の他、基材と中間屈折率膜の間や中間屈折率膜と高屈折率膜の間、その両方に別の部材が存在する態様も当該要件を満たす。
<基材>
基材は投影画像表示部材に、高い支持性、及び入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上である光学特性を持たせる役割を担う。基材の態様の例としては、透明支持体と反射層を含む構成(図1)、2つの透明支持体間に反射層を含む構成(図2)、2つの透明支持体間に反射層と接着層を含む構成(図3A、図3B)、2つの透明支持体間に反射層と2つの接着層を含む構成(図4)などが挙げられる。なお、図1~4において、符号1~6は順に、透明支持体、反射層、基材、中間屈折率膜、高屈折率膜、接着層を表す。
ここで透明支持体としては、ガラスや透明樹脂などが挙げられ、高い支持性を持たせるためにその厚みは1mm以上が好ましい。ガラスは板ガラス、強化ガラスなどを用いることができる。透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などが好ましい。これらの透明樹脂は、単一の成分でも、複数種を混合したものであってもよい。また、図2~4に示すような、透明支持体を複数備える態様においては、これらの透明支持体は同一の物であっても互いに異なるものであってもよい。
接着層の成分(接着剤)としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ニトリルゴム系、スチレン・ブダジエンゴム系、天然ゴム系、クロロプレンゴム系、ポリアミド系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、セルロース系、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン等の成分が挙げられる。
これらの接着剤は、単独で用いても複数種を混合して用いてもよく、また、必要に応じて接着性調整剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、架橋剤等を添加してもよい。これら接着剤の加工前の形態としては、液状、ゲル状、塊状、粉末状、フィルム状などが挙げられる。接着層の固化方法としては、溶剤揮散、湿気硬化、加熱硬化、硬化剤混合、嫌気硬化、紫外線硬化、熱溶融冷却、感圧などが挙げられる。また、積層方法としてはラミネート成形、インジェクション成形、真空成型、圧空成形、真空・圧空併用成形、オートクレーブ成形などが挙げられ、加熱、加圧、上述した接着層の固化方法を用いることで基材を作製することができる。
本発明の投影画像表示部材は入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であることが必要であり、当該条件は反射層によってP波を反射することで達成することができる。反射層の具体的な様態については後述する。
<高屈折率膜>
本発明の投影画像表示部材においては、高屈折率膜の屈折率が、基材表面の屈折率より0.2以上高いことが必要である。基材表面よりも高い屈折率の膜を配置することで、本発明の投影画像表示部材の高屈折率膜側の基材表面から高屈折率膜によって発生するP波の反射について、ガラスのブリュースター角よりも高い角度においてP波の反射率の極小値を持たせることが出来る。ここでP波の反射率の極小値について図5を用いて説明する。図5は波長633nmの屈折率が1.52であるガラスにおいて、入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率(入射面と反対面側の反射率は考慮しない。)を示した図であり、入射角度56.7°がガラスのP波の反射率の極小値を持つ角度である。
本発明の投影画像表示部材における高屈折率膜として好適な材料としては、例えばIn、LaTiO、Nb、Nd、PbCl、Sb、SnO、Ta、TiO、WO、ZnO、ZnS、ZrOなどが挙げられ、これらは単独で用いることも複数組み合わせて用いることもできる。高屈折率膜の形成方法としては、例えば蒸着やスパッタリングが挙げられる。
<中間屈折率膜>
本発明の投影画像表示部材は、基材と高屈折率膜の間に中間屈折率膜を配置することが必要である。中間屈折率膜によって、高屈折率膜によって引き起こされる、ブリュースター角以外でのP波の反射率がガラスより高くなり、全ての入射角でのS波の反射率がガラスよりも高くなる現象(以下、P波S波の反射率増大と略す。)を抑制し、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制することが出来る。
この中間屈折率膜による効果について図6を用いて説明する。図6は波長633nmの屈折率が1.52であるガラス(ガラスA)、該ガラス表面に波長633nmの屈折率が2.34である高屈折率膜を80nmの厚みで配置したガラス(ガラスB)、該ガラス表面に波長633nmの屈折率が1.84である中間屈折率膜を80nmの厚みで配置し、更に中間屈折率膜表面に波長633m、の屈折率が2.34である高屈折率膜を80nmの厚みで配置したガラス(ガラスC)それぞれについて、入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率(入射面と反対面側の反射率は考慮しない。)を示した図である。より具体的には、図6の符号7がガラスAの入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率、符号8がガラスBの入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率、符号9がガラスCの入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率を示す(いずれも、入射面と反対面側の反射率は考慮しない。)。
高屈折率膜を配置したガラスBはP波の反射率の極小値がガラスAのブリュースター角よりも高い角度にシフトしている。一方で、P波の反射率が極小値となる角度以外では反射率が非常に高く、これは映り込みの原因となる。また、そのP波の反射率の極小値もガラスAがほぼ0%であるのに対してガラスBは1%程度であり、わずかではあるが反射が発生している。これに対してガラスCは、P波の反射率が極小値となる角度がガラスAのブリュースター角よりも高い角度にシフトする一方で、P波の反射率が極小値となる角度以外においてもガラスBより反射率が低いため、映り込みを抑制することができる。更にP波の反射率の極小値もガラスAと同様にほぼ0%である。以上の様に、本発明は基材表面に中間屈折率膜と高屈折率膜を配置することでガラスのブリュースター角以上の角度におけるP波の反射率抑制と映り込みの抑制を両立することができる。
中間屈折率膜の屈折率は、基材表面の屈折率と高屈折率膜の屈折率の中間の値であり、かつ基材表面の屈折率との差及び高屈折率膜の屈折率との差が共に0.05以上である。なお、ここでいう屈折率とは、波長633nmにおける屈折率をいい、測定方法の詳細は後述する。中間屈折率膜として好適な材料としては、例えばAl、CeF、HfO、HoF、LaF、MgO、SiO、ThO、V、Y、Ybなどが挙げられる。なお、これらの材料は単独で使用しても、複数を組み合わせて用いてもよい。中間屈折率膜の形成方法としては蒸着やスパッタリングが挙げられる。
本発明の投影画像表示部材は前記高屈折率膜側から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であることが必要である。このP波の反射率(%)は、分光光度計で入射角度θ=60°、70°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することで測定することができる。詳細な測定条件は後述する。
透明ガラスや透明樹脂フィルムなどの一般的な透明基板の場合、フィルム面の法線に対して20°から徐々に入射角度を大きくしていくに従い、偏光の一つであるP波の反射率は低下し、ブリュースター角と呼ばれる角度で反射率は0%となる。したがって、一般的な透明基板では正面方向からのP波を透過し、斜め方向からのP波を反射することは困難である。一方で、映像の表示性を高くする観点から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率は大きいことが好ましく、20%以上であることが好ましい。
入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率を共に5%以上とするには基材に反射層を含む構成を採用することが好ましく、反射層が、後述する異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の少なくとも1つを含む態様とする方法がより好ましい。なお、入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率の上限は特に制限されないが、実現可能性の観点から99%となる。
本発明の投影画像表示部材は、投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下であることが必要である。ここで「投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である」とは、具体的には、投影画像表示部材面に垂直に入射した波長400~700nmの光の平均透過率が50%以上100%以下であることを示す。このように波長400~700nmの可視光領域の光の透過率が高いことにより、投影画像表示部材は、透明ガラスや透明樹脂フィルムのような透明性を具備する。そのため、このような態様の投影画像表示部材面に垂直な方向から、投影画像表示部材を通して背景を観察した際に、背景の良好な視認性を得ることができる。上記観点から当該透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。当該透過率が80%以上であれば、利用者は投影画像表示部材の存在を感じることなく背景を視認することができる。なお、当該透過率の上限は実現可能性の観点から99%が好ましい。また、波長400~700nmの可視光領域の光の透過率が高いことにより映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制し、さらに投影画像表示部材を通して背景を観察した際に背景の良好な視認性を得ることが出来る。
投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下となる具体的な様態の例としては、本発明の投影画像表示部材が含む基材が透明支持体と反射層を含む構成であり、その反射層が異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の少なくとも1つを含むことが好ましい。なお、多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の詳細は後述する。投影画像表示部材面に垂直に入射する光の透過率は、分光光度計で入射角度θ=0°における波長400~700nmの光の透過率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することにより測定することができる(詳細な測定条件は後述)。
本発明の投影画像表示部材は、基材の高屈折率膜側の表面の屈折率、中間屈折率膜の屈折率、高屈折率膜の屈折率をそれぞれ順にNm、Ni、Nhとした場合に、Nm<Ni<Nhの関係を満足することが好ましい。このような態様とすることにより、投影画像表示部材の最表層に位置する高屈折率膜によって発生する高い反射率を、Nm<Ni<Nhの関係を満足する中間屈折率膜の存在によって抑制することができるため、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制し、さらに投影画像表示部材を通して背景を観察した際に背景の良好な視認性を得ることが出来る。Niの値が(Nmh-Nmh×0.05)<Ni<(Nmh+Nmh×0.05)の範囲に含まれる場合、高屈折率膜によって発生する反射率の抑制効果が高くなるため、Niの値は上記範囲であることが好ましい。ここでNmhは(Nm×Nh)の1/2乗である。なお、ここでいう屈折率とは、波長633nmにおける屈折率をいう。
ここで、高屈折率膜、中間屈折率膜、基材の屈折率の測定方法について説明する。屈折率の測定装置としてはプリズムカプラが挙げられる。高屈折率膜の屈折率は、投影画像表示部材の高屈折率膜側においてはプリズムカプラによって測定することができる。中間屈折率膜や高屈折率膜側の基材表面の屈折率は、蒸着膜剥離剤などを用いて最表層の膜を剥離させた後、剥離後の表面をプリズムカプラによって測定することができる。
膜の剥離が困難な場合は、高屈折率膜側の基材表面の屈折率については、高屈折率膜側と反対側の基材表面の屈折率や、基材中に含まれる高屈折率膜側の基材表面と同組成の材料の屈折率をプリズムカプラで測定することによって、高屈折率膜側の基材表面の屈折率を確認することが出来る。ここで同組成か否かの判定はEDX(エネルギー分散型X線分光法)やIR(赤外吸収分光法)による組成分析で行うことが出来る。中間屈折率膜の屈折率についても、EDX(エネルギー分散型X線分光法)やIR(赤外吸収分光法)による組成分析を行った後に、同組成の材料の屈折率をプリズムカプラで測定することによって確認することができる。なお、プリズムカプラによる屈折率測定の詳細については後述する。
Nm<Ni<Nhの関係を満足するには、基材、高屈折率膜、中間屈折率膜を構成する材料を、前述したものからNm<Ni<Nhとなるように適宜選定すればよい。
本発明の投影画像表示部材は、中間屈折率膜の厚みが30nm以上130nm以下であることが好ましい。中間屈折率膜の厚みが30nm以上130nm以下であることによって、高屈折率膜によって発生するP波やS波の反射率増大の抑制効果が高くなるため、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制し、さらに投影画像表示部材を通して背景を観察した際に背景の良好な視認性を得ることが出来る。
本発明の投影画像表示部材は、中間屈折率膜の厚みが50nm以上110nm以下であり、高屈折率膜の厚みが30nm以上90nm以下であることが好ましい。このような態様とすることによって、高屈折率膜によって発生するP波やS波の反射率増大の抑制効果が更に高くなり、二重像や映り込みの低減に繋がるため好ましい。
高屈折率膜、中間屈折率膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって膜の厚み方向(フィルム面と垂直な方向)の断面を撮影することで確認することができる。高屈折率膜や中間屈折率膜の膜厚の制御方法としては、蒸着やスパッタリングなどで膜を形成し、膜を形成する材料とその膜を積層する基材との距離、膜を形成する材料の量、膜の積層時間などを調整する方法が挙げられる。
本発明の投影画像表示部材は、投影画像表示部材の表面の法線に対して20°、40°、60°、70°の角度で入射したときの波長400nm~700nmのP波の平均反射率(%)をそれぞれ順にRp20、Rp40、Rp60、Rp70とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60<Rp70の関係を満足することが好ましい。このような態様は、ブリュースター角に相当する角度を備えていない態様である。そのため、投影画像表示部材をこのような態様とすることにより、投影画像表示部材面に対して正面から入射するP波の反射率よりも、斜め方向から入射するP波の反射率を相対的に高くすることが可能となり、映像を照射する光源としてP波を発するものを用いた場合、映像をより鮮明に映し出すことができる。なお、波長400~700nmの範囲のP波の平均反射率は、分光光度計で当該帯域におけるP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することにより測定することができる(測定方法の詳細は後述する。)。
投影画像表示部材の表面の法線に対して20°、40°、60°、70°の角度で入射したときの波長400nm~700nmのP波の平均反射率(%)をそれぞれ順にRp20、Rp40、Rp60、Rp70とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60<Rp70の関係を満足する方法の一例として、例えば異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムを含む態様とする方法が挙げられ、詳細は後述する。
本発明の投影画像表示部材は、何れの方位から映像を投影してもその情報の明るさ等の表示性を同じレベルに保つ観点から、Rp70の方位角ばらつきが10%以下であることが好ましい。ここで方位角とは、図7に示すように投影画像表示部材10の長辺方向の方位角を0°としたときの各方位角(0°、45°、90°、135°、180°)のことを表す。方位角ばらつきとは上記方位角(0°、45°、90°、135°、180°)において測定したRp70(0°)、Rp70(45°)、Rp70(90°)、Rp70(135°)、Rp70(180°)の値の最大値と最小値の差をいう。なお、上記観点からRp70の方位角ばらつきは小さいほど好ましく、その下限は0%(すなわち、方位角ばらつきが全くない状態)である。
Rp70(0°)、Rp70(45°)、Rp70(90°)、Rp70(135°)、Rp70(180°)は、分光光度計で入射角度θ=70°における波長400~700nmのP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。ここで傾斜方向である方位角は投影画像表示部材10の長辺方向の方位角を0°として、これを基準に右回りに0°、45°、90°、135°、180°の5つを採用する。Rp70の方位角ばらつきが10%以下であることで、何れの方位から映像を投影してもその情報の明るさ等の表示性を同じレベルに保つことができる。
Rp70の方位角ばらつきを小さくするためには、例えば、本発明の投影画像表示部材が含む反射層が、後述する異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであり、その多層積層フィルムの面内方向の屈折率ムラを小さくすることが挙げられ、フィルムの面内方向の屈折率ムラを小さくするにはフィルムの二軸延伸時にフィルム長手方向と幅方向の配向状態の差を小さくするように延伸することが挙げられる。この効果は本発明の投影画像表示部材の特徴の一つであり、偏光反射フィルムでは達成することが困難な効果である。
本発明の投影画像表示部材は、投影画像表示部材の表面の法線に対して70°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が20以下であることが好ましく、より好ましくは5以下である。以下、「投影画像表示部材の表面の法線に対して70°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度」を「P波の反射光の彩度」ということがある。P波の反射光の彩度が20以下であることは、可視光の波長域全般に渡ってより均一な反射を実現できていることを意味しており、このような態様とすることで反射光の色づきを抑制することができる。よって、このような態様の投影画像表示部材をヘッドアップディスプレイなどの投影画像表示装置に用いた場合において、投影映像をP波で投影した場合に表示される投影映像の色が、ディスプレイから照射された映像とほぼ同じ色として再現される。なお、70°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度は小さければ小さいほど好ましく、その下限は0である。P波の反射光の彩度が0であることは、反射光の色づきが存在しないことを意味する。
当該彩度は、JIS-Z-8781-3(2016)に基づき算出したCIE1931表色系の3刺激値X、Y、Zと特定の白色光の3刺激値Xn、Yn、Znを用いて、JIS-Z-8781-4(2013)に基づいて測定することができ、その詳細は後述する。P波の反射光の彩度を20以下とする方法の一例として、反射層に、後述する異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムを用いる方法が挙げられる。以下、この方法を採用した場合について図8を用いて説明する。なお、図8における層Aと層Bは多層積層フィルムにおいて交互に積層された層である。
図8に示すように下記式(A)に従って、本発明の投影画像表示部材が含む多層積層フィルムの波長400nm~700nmの範囲を反射する層Aの厚みと層Bの厚みを均一に配置することにより、当該波長帯域における反射率の標準偏差を10%以下とすることができる。ここで、図8は層数401層の多層積層フィルムで層Aの面直屈折率(nA)を1.5、層Bの面直屈折率(nB)を1.6とし、フィルム表面の層の位置を1とし反対のフィルム表面の層の位置401までの層Aと層Bの理想的な層厚み分布の一例を示したものである。ここでいう面直屈折率とは、波長633nmにおける面直方向の屈折率をいう。実際には装置の設計精度やフィルム製膜装置の稼働安定性などが影響して図8のような理想的な層厚みからの誤差が発生するが、層の位置1から層の位置401までのそれぞれの層の位置での誤差を層1から層401まで平均した誤差が±10%程度以内であれば、多層積層フィルムの法線に対して70°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度を20以下にすることができる。
Figure 2024110078000001
ここでλは反射波長、nは層Aの面直屈折率、dは層Aの厚み、nは層Bの面直屈折率、dは層Bの厚みである。
ここで厚みの誤差を抑える方法として、2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を例に説明する。2種の熱可塑性樹脂それぞれを溶融させ、積層装置を用いて交互に積層し、その溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出することで多層積層構造を得ることができるが、この溶融積層体の層の乱れを抑制することが厚みの誤差の抑制につながる。その方法としては、溶融積層体の最表層に厚い層を設けることが挙げられる。その最表層の厚さは溶融積層体全体の厚みに対して、1%以上であることが好ましく、より好ましくは4%以上である。ここでいう「最表層の厚さ」は一方の最表層の厚さを意味し、両側の最表層の合計厚みを意味するものではない。また、片方の最表層のみでなく両方の最表層の厚みを厚くする方がより好ましい。なお、最表層の厚さが厚くなりすぎてフィルム全体に占める最表層の割合が多くなると、多層積層フィルムの反射に寄与する薄膜層の割合が減るため最表層の厚さの上限は20%が好ましい。
本発明の投影画像表示部材は、反射層が異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の少なくとも1つを含むことが好ましい。反射層が上記の多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の少なくとも1つを含むことによって、本発明の投影画像表示部材は入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上となる光学特性の達成が容易になる。
<多層積層フィルム>
本発明の投影画像表示部材は、反射層が異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムを含むことが好ましい。本発明においては、組成の異なる熱可塑性樹脂層が多層積層フィルムに複数種存在し、かつこれらの熱可塑性樹脂層の屈折率がフィルムの面内で主配向軸方向とその直交する方向の2方向および該面に垂直な方向のいずれかにおいて、0.01以上異なる場合に「異なる複数の熱可塑性樹脂層が存在する。」とみなすことができる。また、交互に積層したとは、異なる熱可塑性樹脂からなる層が厚み方向に規則的な配列で積層されていることをいう。厚み方向とは、フィルム面に垂直な方向である(面直方向と同義である。)。なお、積層構成の有無や各層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した画像の解析により測定することができ、詳細は後述する。
このような態様の具体例としては、多層積層フィルムが第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)と第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)からなる場合であれば、A(BA)n、B(AB)n(nは繰り返し単位の数を表す自然数、以下同じ。)のように順に積層されたものが挙げられる。また、多層積層フィルムが第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)、第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)、及び第三の熱可塑性樹脂からなる層(層C)からなる場合であれば、その配列は特に限定されるものではないが、例えば、C(BA)nCやC(ABC)n、C(ACBC)nのように一定の規則性をもって厚み方向に積層されたものが挙げられる。このように屈折率等の光学的性質の異なる複数の熱可塑性樹脂層を規則的な配列で積層することにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係より所望の波長帯域の光を反射させる干渉反射を発現させることが可能となる。
また、多層積層フィルムの層数が51層以上であることにより、所望する波長帯域において高い反射率を得ることができる。前述の干渉反射は、層数が増えるほどより広い波長帯域の光に対して高い反射率を達成できるようになるため、層数を増やすことで所望する波長帯域の光を反射する多層積層フィルムが得られるようになる。上記観点から、多層積層フィルムの層数は好ましくは401層以上であり、より好ましくは801層以上である。また、層数に上限はないものの、層数が増えるに従い製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、フィルム厚みが厚くなることでのハンドリング性の悪化が生じるために、現実的には10001層程度が実用範囲となり、好ましくは2001層程度である。
多層積層フィルムに垂直に入射する可視光の透過率は、2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に平行な方向の屈折率差を小さくすることで高くすることができる。例えば、多層積層フィルムの層数が前述の範囲であれば、中間屈折率膜や高屈折率膜の成分や厚み等の影響はあるものの、フィルム面に平行な方向の屈折率差が0.06以下であれば当該透過率を70%以上に、屈折率差が0.02以下であれば当該透過率を80%以上にすることが容易となる。なお、「フィルム面に平行な方向の屈折率差」とは、隣接する熱可塑性樹脂層間の面内屈折率の差(2種類の層を層A、層Bとした場合は、層Aと層Bの面内屈折率の差をいい、3種類の層を層A、層B、層Cとした場合は、層Aと層Bの面内屈折率の差、層Bと層Cの面内屈折率の差、層Cと層Aの面内屈折率の差)の絶対値をいう。なお、3種類の層を層A、層B、層Cとした場合は、層Aと層B、層Bと層C、層Cと層Aの全てにおいて、面内屈折率差が上記範囲にある必要がある。
投影画像表示部材に用いた際に、Rp20≦Rp40<Rp60<Rp70の関係を満足し、かつ入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上とすることができる多層積層フィルムを得るためには、2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に垂直な方向の屈折率差と層数を調整する方法を用いることができる。このときフィルム面に垂直な方向の屈折率差を大きくするほど、そして層数を増やすほど、入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率を大きくすることができる。例えば、層数が801層に達する場合、フィルム面に垂直な方向の屈折率差が0.08以上であれば当該反射率を30%以上に、屈折率差が0.12以上であれば当該反射率を50%以上にすることが容易となり、その結果、Rp20≦Rp40<Rp60<Rp70の関係を満足し、かつ入射角60°、70°にて入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率を共に5%以上にすることが容易となる。また、屈折率差が上記水準に達していなくとも、層数をさらに増やすことで当該反射率を高めて上記水準に到達させることもできる。
多層積層フィルムの反射波長を波長400~700nmの範囲に調整する方法は、2つの熱可塑性樹脂層の面直屈折率差、積層数、層厚み分布、製膜条件(例えば延伸倍率、延伸速度、延伸温度、熱処理温度、熱処理時間)の調整等が挙げられる。
本発明の投影画像表示部材においては、多層積層フィルムが、2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有し、第一の熱可塑性樹脂からなる層を層Aとし、第二の熱可塑性樹脂からなる層を層Bとしたときに、層Aが結晶性の熱可塑性樹脂を含み、層Bが非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。より好ましくは、層Aが結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とし、層Bが非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることである。さらに好ましくは、層Aが結晶性の熱可塑性樹脂からなり、層Bが非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることである。ここで主成分とは、層を構成する全成分を100質量%としたときに、70質量%以上100質量%以下含まれる成分をいう。また、反射率が高くなり積層数が少なく済むことから、層Aと層Bの面直屈折率差は高い方が好ましい。層厚み分布は隣接する層Aと層Bの光学厚みが下記式(A)を満たすことが好ましい。なお、層Aにおける結晶性の熱可塑性樹脂、層Bにおける非晶性の熱可塑性樹脂は、いずれもポリエステルであることが好ましい。
Figure 2024110078000002
ここでλは反射波長、nは層Aの面直屈折率、dは層Aの厚み、nは層Bの面直屈折率、dは層Bの厚みである。
層厚みの分布は、多層積層フィルム面の一方から反対側の面へ向かって一定の層厚み分布とすること、多層積層フィルム面の一方から反対側へ向かって増加または減少する層厚み分布とすること、多層積層フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後減少する層厚み分布とすること、多層積層フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後増加する層厚み分布とすること、又はこれらの分布を組み合わせたものとすることが好ましい。層厚み分布の変化の仕方としては、線形、等比、階差数列といった連続的に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものが好ましい。
多層積層フィルムの両表層には、保護層として厚みが多層積層フィルム自体の厚みの1%以上である層を好ましく設けることができ、各保護層の厚みは好ましくは多層積層フィルムの厚み全体に対して4%以上である。保護層の厚みが厚くなることで、製膜時のフローマークの抑制や設計に対する実際の各層の層厚みの精度向上、他のフィルムや成形体とのラミネート工程及びラミネート工程後における多層積層フィルム中の薄膜層の変形抑制、耐押圧性などに繋がる。なお、当該保護層の厚みの上限は、多層積層フィルムの厚みの増加を抑えつつ干渉反射の発現に必要な積層構成部分を確保する観点から、20%が好ましい。
本発明の投影画像表示部材を構成する多層積層フィルムの厚みは、特に限られるものではないが、例えば20μm~300μmであることが好ましい。20μm以上であると、多層積層フィルムの腰が強くなり良好なハンドリング性が確保できる。また、300μm以下であると、多層積層フィルムの腰が過度に強くならず、成形性が向上する。
また、多層積層フィルムの少なくとも一方の表面にプライマー層、ハードコート層、耐磨耗性層、傷防止層、反射防止層、色補正層、紫外線吸収層、光安定化層、熱線吸収層、印刷層、ガスバリア層、粘着層などの機能性層を形成してもよい。これらの層は単層構成でも多層構成でもよく、また、1つの層に複数の機能を持たせてもよい。また、多層積層フィルム中に、紫外線吸収剤、光安定化剤(HALS)、熱線吸収剤、結晶核剤、可塑剤などの添加剤を含んでいてもよい。なお、これらの成分は、本発明の効果を損なわない範囲で、組み合わせて用いることも可能である。
本発明の投影画像表示部材を構成する多層積層フィルムに用いる熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリアセタールなどの鎖状ポリオレフィン、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体,付加重合体,他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。この中で、強度・耐熱性・透明性および汎用性の観点から、特にポリエステルを用いることがより好ましい。これらは、共重合体であっても、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
ポリエステルとは、ジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繋がった分子構造を有する樹脂をいう。ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸単位または脂肪族ジカルボン酸単位とジオール単位を主たる構成単位とするポリエステルが好ましい。ここで、主たる構成単位とは、ジカルボン酸単位であれば、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸単位を100モル%としたときに50モル%を超えて100モル%以下含まれるジカルボン酸単位をいい、ジオール単位における主たる構成単位についても同様に解釈することができる。
ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも高い屈折率を発現するテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明の多層積層フィルムの各層の主成分となる熱可塑性樹脂としては、例えば、上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体から選択することが好ましい。
また、熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、および核剤などを、その特性を悪化させない程度に単独で又は複数成分を組み合わせて添加させることができる。
P波及びS波は以下のように定義することができる。電磁波(光)が物体の表側の面に対し斜め方向から入射した際において、P波とは電界成分が入射面に平行な電磁波(入射面に平行に振動する直線偏光)、S波とは電界成分が入射面に垂直な電磁波(入射面に垂直に振動する直線偏光)を表す。このP波とS波の反射特性について、図面を参照しながら説明する。図9に従来の透明樹脂フィルム(一般的な透明基板)について、図10に従来の光を反射する多層積層フィルムについて、図11本発明の投影画像表示部材の反射層が含む多層積層フィルムについて、空気中から各フィルムに波長550nmのP波とS波の光が入射した際の反射率の角度依存性を表したグラフ(一例)を示す。ここでは一例として波長550nmで示したが、他の可視光の波長においても、各フィルムはそれぞれ図9~11で示したのと概ね同様の関係性を有する。なお、図9~11において符号11、12はそれぞれ順にP波の反射率、S波の反射率を表す。
図9に示すように一般的な透明基板はフレネルの式に従い、P波の反射率は入射角度が増大するとともに低下して0%となった後、再度増大する傾向を示す。一方、S波の反射率は入射角度が増大するとともに増大する。図10に示すように従来の光を反射する多層積層フィルムは、P波もS波も入射角度0°で一定の反射率を持つため透過率が低く、さらに入射角度増大とともにP波、S波両方の反射率が増大する。図11に示すように本発明の投影画像表示部材の反射層が含む多層積層フィルムは、入射角度0°ではP波とS波両方の反射率が低く(透過率が高く)、入射角度増大とともにP波とS波両方の反射率が増大する特徴を持つ。このような光学特性を持つ多層積層フィルムを本発明の投影画像表示部材の反射層に用いることで、投影画像表示部材面に垂直な方向から、投影画像表示部材を通して背景を観察した際の背景の良好な視認性と、投影画像表示部材面にP波の映像を投影した際の投影映像の良好な表示性を得ることができる。
<金属層>
本発明の投影画像表示部材は、反射層が金属層を含むことが好ましい。ここで金属層とは、層を構成する全成分中の80質量%以上100質量%以下が金属である層をいい、金属とは金属元素のみからなる成分をいう。金属層として好適な材料はAg、Au、Cu、Al及び、これらを含む合金が挙げられる。これら金属層の膜厚の好ましい厚みとしては5nm~30nmが挙げられ、厚みを5nm~30nmの範囲とすることで、入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率を5%以上とすることや、垂直に入射する可視光の透過率の透過率を50%以上とすることが容易となる。金属層を含む反射層は透明支持体上やフィルム上に形成することが好ましく、その方法としては蒸着やスパッタリングが挙げられる。
また、上記の金属層に対する擦傷、酸化・窒化、錆などの保護や波長400nm~700nmのP波の反射率スペクトルの制御として、金属層の片側、又は両側に誘電体層を1層以上含むことも好ましい。誘電体層として好適な材料はZn、Ti、Nb、Zr、In、Si、Sb、Snの酸化物やZr、Siの窒化物などが挙げられる。これら誘電体層の厚みは、5nm~150nmの範囲が好ましい。
<ホログラム層>
本発明の投影画像表示部材は、反射層がホログラム層を含むことが好ましい。ホログラム層は干渉縞が記録された層であり、本発明のホログラム層としては青色波長(例えば460nm)、緑色波長(例えば550nm)、赤色波長(例えば650nm)に対応した干渉縞を記録することによって、光源からホログラム層に映像を投影し、その映像の青色波長、緑色波長、赤色波長に対応した干渉縞による回折を発生させることで、利用者は映像を視認することができる。ホログラムの特性としては反射型ホログラムや透過型ホログラムが挙げられる。また、回折効率を高くする観点から体積ホログラムが好ましい。
ホログラム層の作製方法の一例として、透明支持体上やフィルム上に光重合性モノマー、マトリクスポリマー、光重合開始剤を含む層を形成し、青色波長、緑色波長、赤色波長に対応したレーザー光を記録させたい方向と回折させたい方向の2方向から照射することによって、マトリクスポリマー中に干渉縞を形成させ、必要に応じて熱や紫外線によってマトリクスポリマーを硬化させる方法が挙げられる。ホログラム層の回折効率を制御する方法として、ホログラム層中の屈折率変調の大きさやホログラム層の厚みを変えることで、入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率を5%以上とすることや、垂直に入射する可視光の透過率の透過率を50%以上とすることが容易となる。
以下、本発明の投影画像表示部材を用いたヘッドアップディスプレイについて説明する。本発明のヘッドアップディスプレイは、映像を投影する光源と投影画像表示部材を備え、光源からの投影像を反射することで利用者に映像を視認させるヘッドアップディスプレイであって、その光源から投影画像表示部材の入射面に入射される光の強度に占めるP波の強度(P波の強度/(P波の強度+S波の強度))が51%以上であり、前記投影画像表示部材が、少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、高屈折率膜の屈折率が、高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、高屈折率膜側から投影画像表示部材に入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上である、ヘッドアップディスプレイである。
図12に本発明のヘッドアップディスプレイの一実施態様を示す。図12に示す本発明の投影画像表示装置は、光源13から映像のもととなる光14を投影画像表示部材10に照射し、投影画像表示部材10上に映像を投影させる。さらに、周囲の景色の情報となる光15を、投影画像表示部材10を通過させることで、投影画像表示装置の利用者16は映像と周囲の景色を重ね合わせて視認することができる。光源13としては液晶プロジェクター、レーザープロジェクター、DLP(Digital Light Processing)プロジェクター、LCOS(Liquid crystal on silicon)プロジェクター、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどが挙げられる。
光源13から出射された光(情報)は投影画像表示部材10に直接投影してもよく、ミラーでの反射や、レンズを通した集光、拡散や偏光反射部材を通すことなどを経て投影画像表示部材に投影してもよい。このミラーとしては可視光のみを反射するコールドミラーが好ましい。通常の可視光から赤外線までを反射するミラーでは投影画像表示装置内部に侵入した太陽光などをミラーで反射して光源に照射した際に赤外線による温度上昇を招くが、コールドミラーは赤外線を反射しないため、光源13の温度上昇や、それに伴う光源13の故障を抑制することができる。偏光反射部材はその面に対して一方の方位方向の光を反射(反射軸方位)してその方向に直交する方向の光を透過する(透過軸方位)ため、太陽光などの外部から侵入し投影画像表示装置内部の温度上昇を招く光を約半減することができる。一方で、偏光反射部材の透過軸方位と合うように光源からの光の偏光を調整することで、光源から投影される光の明るさの減衰を抑制することができる。
本発明のヘッドアップディスプレイは、2重像の発生軽減の観点から、投影画像表示部材の表示面に入射される光の強度に占めるP波の強度(P波の強度/(P波の強度+S波の強度))が51%以上である。なお、投影画像表示部材の表示面に入射される光の強度に占めるP波の強度を単に「P波の強度」ということがある。ヘッドアップディスプレイの課題として、2重像の発生と偏光サングラス着用時の視認性低下の問題がある。図13に示すようにガラスや透明樹脂フィルムを用いた従来の投影画像表示部材(図13A 符号18)は斜めから入射したS波を反射しP波を透過する。そのため、投影画像表示部材の表示面に入射される投影映像の光としてS波を用いている。2重像は、画像表示部材18の表側と裏側の表面それぞれの面で光を反射し、その光線がズレて表示画像が二重に見えることによって生じる。また、偏光サングラス着用時の視認性低下は、投影画像表示部材に映る投影映像がS波由来であるため、S波を吸収する偏光サングラス越しに投影映像を視認すると、偏光サングラスで投影映像の光が吸収されることにより生じる。
本発明の投影画像表示部材(図13B 符号10)は、斜めから入射したP波を反射するため、投影画像表示部材の表示面に入射される投影映像の光としてP波を用いることができる。P波はフィルム内部でのみ反射し、表側と裏側の表面では反射しないため2重像の問題が軽減される。また、P波は偏光サングラスを透過するため、偏光サングラスによる投影映像の視認性の低下も軽減される。
上記観点から、P波の強度は51%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、偏光制御精度の観点から上限は99.9%程度である。本発明の投影画像表示装置においては、P波の強度を51%以上とした場合、光源からの投影像の入射角度(図12 符号17)が、投影画像表示部材の法線に対して30°以上が好ましく、より好ましくは50°~75°の範囲である。
本発明の投影画像表示部材を用いたヘッドアップディスプレイの例としては頭部に装着する眼鏡型の形態や、屋内や屋外又は建物の窓や自動車などの窓に用いることによって背景を透過しながら情報を投影する透明スクリーン装置が挙げられる。
以下、本発明の交通機関について説明する。本発明の交通機関は、本発明のヘッドアップディスプレイを備える。交通機関としては自動車、鉄道車両、航空機などが好ましい例として挙げられる。特に、フロントガラス、サイドガラス、リアガラスの何れか一つ又は複数に本発明の投影画像表示部材として用いたヘッドアップディスプレイを備える自動車が好ましい。
以下、本発明の建物について説明する。本発明の建物は、本発明のヘッドアップディスプレイを備える。建物の窓や、建物内の透明サイネージや空間演出などに用いることが好ましい。
以下、本発明の投影画像表示部材を構成する反射層の多層積層フィルムの製造方法について、一例を挙げて具体的に説明する。本発明の投影画像表示部材を構成する反射層の多層積層フィルムが前述の構成をとる場合、51層以上の積層構造は、次のような方法で作製することができる。まず、層Aに対応する押出機Aと層Bに対応する押出機Bの2台から第一の熱可塑性樹脂及び第二の熱可塑性樹脂を溶融した状態で供給し、それぞれの流路からの溶融熱可塑性樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサー、もしくはコームタイプのフィードブロックのみにより51層以上に積層する。次いでその溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出し、その後、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸多層積層フィルムを得る。層Aと層Bの積層精度を高める方法としては、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されている方法が好ましい。また、必要であれば、層Aに用いる熱可塑性樹脂と層Bに用いる熱可塑性樹脂を乾燥することも好ましい。
続いて、この未延伸多層積層フィルムに延伸及び熱処理を施す。延伸方法としては、公知の逐次二軸延伸法、もしくは同時二軸延伸法が好ましい。延伸温度は未延伸積層フィルムのガラス転移点温度以上~ガラス転移点温度+80℃以下の範囲とすることが好ましい。延伸倍率は、長手方向、幅方向それぞれ2.0倍~8.0倍の範囲が好ましく、より好ましくは3.0~6.0倍の範囲であり、長手方向と幅方向の延伸倍率差を小さくすることが好ましい。長手方向の延伸は、縦延伸機のロール間の周速差を利用して行うことが好ましい。また、その後の幅方向の延伸は、公知のテンター法を利用することが好ましい。すなわち、一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、対向するクリップの間隔を幅方向に広げることで幅方向に延伸することができる。
また、テンターで同時二軸延伸を行うことも好ましい。同時二軸延伸を行う場合について説明する。冷却ロール上にキャストされた未延伸多層積層フィルムを、同時二軸テンターへ導き、その幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。長手方向の延伸は、同一サイドのクリップ間の距離を広げることで、また、幅方向の延伸はクリップが走行するレールの間隔を広げて対向するクリップの間隔を広げることで達成される。本発明における延伸・熱処理を施すテンタークリップは、リニアモータ方式で駆動することが好ましい。その他、パンタグラフ方式、スクリュー方式などがあるが、中でもリニアモータ方式は、個々のクリップの自由度が高いため延伸倍率を自由に変更できる点で優れている。
さらに延伸後に熱処理を行うことも好ましい。熱処理温度は、延伸温度以上~層Aの熱可塑性樹脂の融点-10℃以下の範囲にて行うことが好ましく、熱処理後に熱処理温度-30℃以下の範囲にて冷却工程を経ることも好ましい。また、フィルムの熱収縮率を小さくするために、熱処理工程中又は冷却工程中にフィルムを幅方向および/または、長手方向に縮める(リラックス)ことも好ましい。リラックスの割合としては1%~10%の範囲が好ましく、より好ましくは1~5%の範囲である。最後に巻取り機にてフィルムを巻き取ることによって本発明の多層積層フィルムが製造される。
本発明の投影画像表示部材の作製方法について、図4に示す構成を例に挙げて説明する。最初に透明支持体1の表面に中間屈折率膜4の層を形成する。その形成方法としては真空蒸着やスパッタリングが挙げられる。真空蒸着の場合は、真空チャンバー上部に透明支持体を設置し、その反対側に中間屈折率膜4の材料を設置する。材料の設置方法としてはるつぼやタングステンバスケット内に顆粒状や線状の材料を入れる方法が挙げられる。材料設置後に真空チャンバー内を減圧する。材料の蒸発温度を下げることや蒸発した材料の酸化を防ぐ観点から1.0×10-3Pa以下まで減圧することが好ましい。減圧完了後に材料を蒸発させることで透明支持体1の表面に中間屈折率膜4の層を形成させる。材料の蒸発方法としては、抵抗加熱蒸着法や電子線蒸着法が挙げられ、蒸着速度の制御や高融点材料の蒸発に向いていることから電子線蒸着法が好ましい。
スパッタリングの場合は、真空チャンバー上部に透明支持体を設置し、その反対側に中間屈折率膜4の材料を設置する。材料の設置方法としては、バッキングプレートの上にボンディング材を用いて板状の材料を設置する方法が挙げられる。材料設置後に真空チャンバー内を減圧する。スパッタリングで飛ばした材料を透明支持体に付着する際に不純物に妨害されないこと、透明支持体表面に形成した層の中の不純物を減らすこと、アルゴンガスをイオン化させる観点から1.0×10-3Pa以下まで減圧することが好ましい。減圧完了後に1.0×10-1Pa程度まで真空チャンバー内にアルゴンガスを導入して、真空チャンバー側を陽極とし、材料側を陰極として、数百ボルトの電圧を印可し、放電しプラスイオンとなったアルゴンを材料に衝突させる。その衝突によって材料表面が分子レベルで弾き飛ばされ、反対側の透明支持体の表面に付着することで、透明支持体1の表面に中間屈折率膜4の層が形成される。
透明支持体1の表面に中間屈折率膜4の層を形成した後に、同様の方法にて更に中間屈折率膜4の表面に高屈折率膜5の層を形成させる。続いて接着層6を介して透明支持体1と反射層2を積層する。架橋剤、溶媒、およびアクリル化合物やシリコン化合物などの接着材料からなる接着材塗液を反射層2の表面又は透明支持体1の表面に塗布する(中間屈折率膜4/高屈折率膜5を積層している透明支持体1は、中間屈折率膜4/高屈折率膜5が積層されていない側の表面に塗布する)。塗布方式としては連続式又はバッチ式のものを用いることができ、連続式の塗布方式としては、例えばダイやグラビアロールを用いて搬送フィルムに塗液を塗布する方式や、ファウンテンを用いて滴下した塗液をメタバーで塗り広げる方式が挙げられる。また、バッチ式の塗布方式としては、例えばスポイト等で滴下した塗液をメタバーで塗り広げる方式が挙げられる。続いて、塗布後に加熱することで溶媒を揮発させる。このときの加熱温度は溶媒の沸点-10℃~溶媒の沸点+50℃が好ましく、特に好ましくは溶媒の沸点以上~溶媒の沸点+30℃である。
さらに、溶媒揮発後に紫外線の照射による紫外線硬化又は加熱によって硬化材料を硬化させる熱硬化によって接着層を形成させる。この紫外線照射は、減圧下や窒素雰囲気下のような酸素を除去した雰囲気で行うことが硬度を高める点で好ましい。紫外線照射強度は積算光量が100mJ/cm~1500mJ/cmであることが好ましい。熱硬化の加熱条件としては温度120℃~200℃が好ましい。接着層6形成後に、透明支持体1と反射層2を接着させる。その接着方法としてはラミネート成形、真空成型、圧空成形、真空・圧空併用成形などの各種成形方法が挙げられる。透明支持体1と反射層2を積層後に、透明支持体1を積層していない側の反射層2の表面と残る透明支持体1を同様の方法で接着させることで、図4に示す構成の投影画像表示部材を作製することができる。
以下、本発明の投影画像表示部材について実施例を用いてより詳細に説明する。但し、本発明の投影画像表示部材は以下の態様に限定されない。
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
(1)中間屈折率膜の厚み、高屈折率膜の厚み、多層積層フィルムの積層数、表層の厚み、多層積層フィルム内部の層厚み
ミクロトームを用いて厚み方向(フィルム面と垂直な方向)と平行な断面を切り出したサンプルを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより、中間屈折率膜の厚み、高屈折率膜の厚み、多層積層フィルムの積層数、表層の厚み、多層積層フィルム内部の層厚みを確認した。なお、断面写真の撮影は、透過型電子顕微鏡JEM1400Plus(日本電子(株)製)を用い、加速電圧100kVの条件で行った。多層積層フィルムの表層の厚みは、得られたTEM画像を画像処理ソフトImage-Pro ver.10を用いて測定した。画像解析処理は、垂直シックプロファイルモードで、厚み方向位置と幅方向の2本のライン間で挟まれた領域の平均明るさとの関係を数値データとして読み取り、表計算ソフト“Excel”(登録商標)(Microsoft社 Office365)を用いて、位置(nm)と明るさのデータに対して5点移動平均の数値処理を施した。さらに、この得られた周期的に明るさが変化するデータを微分し、VBA(ビジュアル・ベーシック・フォー・アプリケーションズ)プログラムにより、その微分曲線の極大値と極小値を読み込み、隣り合うこれらの間隔を1層の層厚みとして層厚みを算出した。この操作を画像毎に行い、全ての層について層厚みを算出することにより、多層積層フィルム内部の層厚みを求めた。
(2)垂直に入射する可視光の透過率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)の標準構成(固体測定システム)にて、入射角度θ=0°における波長400~700nmの透過率を1nm刻みで測定し、その平均透過率を求めた(測定条件:スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)、ゲインは2、走査速度は600nm/分)。
(3)Rp20、Rp40、Rp60、Rp70、Rs60、Rs70、70°で入射したP波の反射光の彩度、70°で入射したP波の反射光の標準偏差
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、入射角度θ=20°、40°、60°、70°における波長380~780nmの範囲のP波とS波の反射率をそれぞれ1nm刻みで測定した。得られた反射率から入射角度20°、40°、60°、70°における波長400nm~700nmの範囲におけるP波の平均反射率としてRp20、Rp40、Rp60、Rp70を、入射角度60°、70°における波長400nm~700nmの範囲におけるS波の平均反射率としてRs60、Rs70を求めた。20°、40°、60°、70°の傾斜方向は多層積層フィルムと金属層フィルムはフィルムの主配向軸に沿う方向とし、投影画像表示部材は長辺方向とした。高屈折率膜や中間屈折率膜を表面に形成したサンプル(ガラス2~ガラス5)は高屈折率膜や中間屈折率膜を形成した面側より光を入射させて測定を行った。また、ガラス1~ガラス5はサンプルの入射面と反対側の裏面からの反射を防止してサンプル入射面側の反射率のみを測定する目的で、サンプルの入射面と反対側面に日東エルマテリアル製の黒色塩化ビニルテープ(51LS-50BK)を貼り付けて測定した。
70°で入射したP波の反射光の彩度は、JIS-Z-8781-3(2016)に基づき、CIE1931表色系の3刺激値X、Y、Zと特定の白色光の3刺激値Xn、Yn、Znを計算し、得られたX、Y、ZとXn、Yn、ZnからJIS-Z-8781-4(2013)に基づき、CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*を求め、彩度C値としてaとbの二乗和の平方根をもって算出した。
70°で入射したP波の反射光の標準偏差は、入射角度70°における1nm刻み波長400nm~700nmの範囲におけるP波の反射率の標準偏差を求め、10%以下か否かを判定した(○:10%以下、×:10%より大きい。)。
<3刺激値X、Y、Z、特定の白色光の3刺激値Xn、Yn、Znの算出>
JIS-Z-8781-3(2016)における相対色刺激関数(φ(λ))は、分光反射率係数(R(λ))と照明光の相対分光分布(S(λ))の積φ(λ)=R(λ)×S(λ)とした。ここで、分光反射率係数はP波の反射光の彩度を求めるサンプルの入射角度70°における波長380nm~780nmのP波の反射率であり、傾斜方向は多層積層フィルムと金属層フィルムはフィルムの主配向軸に沿う方向とし、投影画像表示部材は長辺方向とした。相対分光分布はJIS-Z-8720(2012)の補助イルミナントCを用いた。相対色刺激関数を用いてJIS-Z-8781-3(2016)の式(2)に基づき波長380nm~760nm、波長間隔5nmで、相対色刺激関数と下記のCIE1931等色関数(B)それぞれの積の総和に標準化係数kを掛けることで、3刺激値X、Y、Zを算出した。特定の白色光の3刺激値Xn、Yn、Znは相対分光分布とCIE1931等色関数(B)それぞれの積の総和に標準化係数kを掛けることで算出した。
Figure 2024110078000003
(4)(Rp70(0°)、Rp70(45°)、Rp70(90°)、Rp70(135°)、Rp70(180°)、方位角ばらつき)
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、サンプル長辺方向の方位角0°を基準に右回りに0°、45°、90°、135°、180°の5点それぞれの方位角方向に対して、入射角度θ=70°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率を1nm刻みで測定した。得られた反射率から各方位角方向における入射角度70°における波長400nm~700nmの範囲のP波の平均反射率として、Rp70(0°)、Rp70(45°)、Rp70(90°)、Rp70(135°)、Rp70(180°)を求めた。さらに、求めたRp70(0°)、Rp70(45°)、Rp70(90°)、Rp70(135°)、Rp70(180°)の最大値と最小値の差を方位角ばらつきとした。
(5)P波反射率の極小値を取る入射角度とその反射率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、入射角度θ=20°、40°、50°、60°、70°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率をそれぞれ1nm刻みで測定した。得られた反射率から各角度における波長400nm~700nmの範囲におけるP波の平均反射率を求め、そのP波の平均反射率が最小となる入射角度を求めた。更に、P波の平均反射率が最小となる入射角度±5°の範囲で入射角度を1°毎に変更してP波の平均反射率を求め、最もP波の平均反射率が低くなる入射角度における平均反射率をP波の極小値とした。高屈折率膜や中間屈折率膜を表面に形成したサンプル(ガラス2~ガラス5)は、高屈折率膜や中間屈折率膜を形成した面側より光を入射させて測定を行った。また、測定したサンプルはサンプルの入射面と反対側の裏面からの反射を防止してサンプル入射面側の反射率のみを測定する目的で、サンプルの入射面と反対側面に日東エルマテリアル製の黒色塩化ビニルテープ(51LS-50BK)を貼り付けて測定した。
(6)高屈折率膜側の基材表面、中間屈折率膜、高屈折率膜の屈折率
サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-400を用いて測定レーザー波長633nmで屈折率測定を行った。中間屈折率膜と高屈折率膜の屈折率は、板ガラスに中間屈折率膜、高屈折率膜をそれぞれ形成して測定した。
(7)多層積層フィルム最表層(層A)の面内屈折率と面直屈折率
サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-400を用いて測定レーザー波長633nmで屈折率測定を行った。フィルムの主配向軸方向、主配向軸方向に垂直な方向それぞれの面内屈折率と面直屈折率を求めた。面直屈折率は主配向軸方向側から測定した値と主配向軸方向に垂直な方向側から測定した値の平均値とした。なお、ここで得た屈折率は層Aの屈折率を示す。
(8)主配向軸方向
現王子計測機器(株)製の分子配向計MOA-7015を用いて配向度を測定し、最も配向度の大きい方向を主配向軸方向とした。
(9)熱可塑性樹脂のガラス転移点温度、融点
熱可塑性樹脂ペレットを電子天秤で5mg計量し、アルミニウムパンで挟み込み(株)リガク製DSCvesta Smart Loaderを用いて、JIS-K-7122(2012年)に従い、25℃から300℃まで20℃/分で昇温して測定を行った。得られたDSCデータからガラス転移点温度(Tg)、融点(Tm)を求めた。
(10)熱可塑性樹脂の屈折率
サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-400を用いて屈折率を測定した。熱可塑性樹脂の屈折率は、70℃48時間にわたり真空乾燥した熱可塑性樹脂ペレットを280℃で溶融した後、プレス機でプレスして急冷することにより厚み200μmのシートを作製し、得られたシートを用いて測定した。
(11)多層積層フィルムの層Bの屈折率
層Bは多層積層フィルム内部の層であるため多層積層フィルムではなく、多層積層フィルムと同じ延伸条件・熱処理条件で作製した層B樹脂単体のフィルムについて、サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-400を用いて屈折率測定を行った。測定に用いたレーザーの波長は633nmであり、面内屈折率は主配向軸方向、主配向軸方向に垂直な方向それぞれの方向においてフィルムの両方の面で求めた値の平均値を求め、面直屈折率は主配向軸方向側から測定した値と主配向軸方向に垂直な方向側から測定した値の平均値それぞれにおいて、フィルムの両方の面で求めた値の平均値を求めた。
(12)多層積層フィルムの層Bの屈折率の検証
(1)項で求めた多層積層フィルムの層厚みと(7)項で求めた多層積層フィルムの層Aの屈折率と(11)項で求めた層Bの屈折率を用いて反射率の光学シミュレーションを行い、その光学シミュレーション結果と(3)項で測定した反射率の比較を行い、両者の差が±3%以下の場合(11)項で求めた層Bの屈折率は多層積層フィルムの層Bの屈折率であるとみなした。光学シミュレーションは、光学薄膜の特性マトリクス法(小檜山光信(2006).光学薄膜フィルターデザイン 株式会社オプトロニクス社)を用いてVBAプログラムにて計算を行うことにより実施した。
(13)IV(固有粘度)
溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、温度100℃で20分溶解した後、温度25℃でオストワルド粘度計を用いて測定した溶液粘度から算出した。
(14)ヘッドアップディスプレイ評価
光源にドリームメーカー社製ディスプレイ(SP-133CM)を用い、光源に対して投影画像表示部材を45°の角度で設置(光源から垂直に出た光は投影画像表示部材の面に対して法線方向に対して入射角度45°の角度を取る。)した。さらに、投影画像表示部材に向かって照射させる情報がP波となるように偏光板(エドモンド・オプティクス・ジャパン:可視用偏光フィルム(XP38))を光源の上に設置し、光源から投影画像表示部材に対してP波の情報を投影した。このとき、投影画像表示部材の表面に高屈折率膜や中間屈折率膜を形成している場合は、高屈折率膜や中間屈折率膜を形成している面が利用者側となるように設置した。図14に示す通り、拡張現実装置利用者は少なくとも入射角20°から70°の範囲で投影された映像を視認した。なお、図14では背景の透過を示す矢印は省略している。この目視評価により入射角度60°、70°の投影映像の表示性、入射角度60°、70°の投影映像の二重像視認性、背景の視認性、外光の映り込み性を評価した。なお、外光の映り込み性の評価は投影画像表示部材の利用者側のガラスとして後述するガラス2を用いた構成と比較した。
(入射角度60°、70°の投影映像の表示性の評価基準)
A:投影映像が非常に明るかった。
B:投影映像が明るかった。
C:投影映像が暗かった。
D:投影映像が見えなかった。
(入射角度60°、70°の投影映像の2重像視認性の評価基準)
A:2重像が見えなかった。
B:映像視認性には影響を与えない程度の2重像が観察された。
C:Bの水準を超える2重像が観察された。
ここで言う2重像とは投影した映像が2つ以上に分裂して見える現象を言い、2重だけでなく3重以上の多重に見える場合も2重像と呼ぶ。
(背景の視認性の評価基準)
A:背景が鮮明に見えた。
B:実用上問題ない程度に背景が暗く見えた。
C:Bの水準を超える程度に背景が暗く見えた、又は背景が見えなかった。
(外光の映り込み性の評価基準)
A:投影画像表示部材の利用者側のガラスとしてガラス2を用いた構成と比較して、外光の映り込みが小さかった。
B:投影画像表示部材の利用者側のガラスとしてガラス2を用いた構成と比較して、外光の映り込みが僅かに小さかった。
C:投影画像表示部材の利用者側のガラスとしてガラス2を用いた構成と比較して外光の映り込みが同等であった。
D:投影画像表示部材の利用者側のガラスとしてガラス2を用いた構成と比較して外光の映り込みが強かった。
[フィルムに用いた熱可塑性樹脂]
各実施例及び各比較例に用いたフィルムの製造には以下の樹脂を用いた。なお、これらは全て熱可塑性樹脂である。
樹脂A:IV=0.65のポリエチレンテレフタレート、屈折率=1.58、Tg=78℃、Tm=254℃。
樹脂B:IV=0.64のポリエチレンナフタレートの共重合体(イソフタル酸成分を酸成分全体に対して20mol%、分子量400のポリエチレングリコールをジオール成分全体に対して5mol%共重合したポリエチレンナフタレート)屈折率=1.63、Tg=85℃、Tm=215℃。
樹脂C:IV=0.64のポリエチレンテレフタレートの共重合体(2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して20mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)屈折率=1.58、Tg=90℃、樹脂ペレットではTmは観測されなかったが、100℃で長手方向と幅方向にそれぞれ3.3倍延伸を行った層B樹脂単体のフィルムはTm=220℃であった。
樹脂D:IV=0.73のポリエチレンテレフタレートの共重合体(シクロヘキサンジメタノール成分をジオール成分全体に対して33mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.57、Tg=80℃、Tmは観測されなかった。
樹脂E:IV=0.64のポリエチレンナフタレート、屈折率=1.65、Tg=120℃、Tm=265℃。
樹脂F:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して50mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.62、Tg=105℃、Tmは観測されなかった。なお、樹脂Hは酸成分中における2,6-ナフタレンジカルボン酸成分とテレフタル酸成分が等しい樹脂であるが、ポリエチレンテレフタレートの共重合体として扱う。
[高屈折率膜に用いた材料]
高屈折率膜の材料として屈折率=2.23のTiOを用いた。
[中間屈折率膜に用いた材料]
中間屈折率膜の材料として屈折率=1.84のLaを用いた。
(ガラス1)
厚み2mm、A4サイズのフロートガラス板をガラス1とした。ガラス1の構成と評価結果を表1に示す。
(ガラス2の製造)
マグネトロンスパッタ装置を用いて、ガラス板にTiOを厚み80nmで積層したものをガラス2とした。ガラス2は以下の手順により製造した。まず、マグネトロンスパッタ装置にガラス板とTiOを設置して1.0×10-3Paまで減圧し、その後2.0×10-1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入した。次いで、直流電流により投入電力3000Wをマグネトロンスパッタリングカソードに印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングによりガラス板の表面上に厚み80nmの高屈折率膜(TiO)を形成した。ガラス2の構成と評価結果を表1に示す。なお、ここで用いたガラス板はガラス1である。
(ガラス3~5の製造)
マグネトロンスパッタ装置を用いて、ガラス板/厚み80nmのLa膜/厚み80nmのTiO膜の構成となるように、ガラス板に厚み80nmのLa膜と厚み80nmのTiO膜を積層したものをガラス3とした。ガラス3の製造において、厚み80nmのLa膜(中間屈折率膜)の形成、厚み80nmのTiO膜(高屈折率膜)の形成は、いずれもガラス2の製造の項に記載の方法により行った。ガラス4とガラス5も、中間屈折率膜の厚みを表1の通りとした以外はガラス3と同様の方法で作製した。なお、ガラス4とガラス5における中間屈折率膜の厚みの調整はスパッタリング時間の調整により行った。ガラス3~5の構成と評価結果を表1に示す。
Figure 2024110078000004
(多層積層フィルム、フィルムの製造)
以下の通り多層積層フィルムとフィルムを作製し、その製膜条件を表2に評価結果を表3に示す。
(多層積層フィルム1)
層Aを構成する熱可塑性樹脂として樹脂Aを、層Bを構成する熱可塑性樹脂として樹脂Bを用いた。樹脂Aおよび樹脂Bを、それぞれ押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂A/樹脂B=1.5になるように計量しながら、入射角70°でのP波の反射波長が400nm~1000nmの範囲になるように設計した201層フィードブロック(層Aが101層、層Bが100層)にて交互に合流させた。次いで、溶融した積層体をTダイに供給してシート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印加電圧をかけながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化して未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸多層積層フィルムを、温度90℃、延伸倍率3.3倍で縦延伸し、その両面に空気中でコロナ放電処理を施した後、その両面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)と(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)を50質量部/50質量部で混合し更に混合樹脂に対して1次粒子の平均粒子径100nmのシリカ粒子を3質量部混合した易接着層形成膜塗液を塗布した。ここでいう1次粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した値である。その後、得られた一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、温度100℃、延伸倍率3.6倍で横延伸した。さらに、横延伸後の多層積層フィルムに220℃で熱処理及び3%の幅方向リラックスを施し、100℃で冷却して、厚み20μm(両表層の厚み1.0μm)の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの評価結果を表2、3に示す。なお、フィルム厚み、積層数や表層厚み、積層比は、それぞれキャスティングドラムの引き取り速度、フィードブロックのスリット数、フィードブロックのスリット幅、吐出量の調整により行った(以下、他の実施例及び比較例においても同じ。)。
(多層積層フィルム2、3、5~9、フィルム1)
各層の樹脂、層数、表層の厚み、全体厚み、積層比、製膜条件を表2のとおりとした以外は多層積層フィルム1と同様にして多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの評価結果を表2、3に示す。なお、多層積層フィルムの層構成はいずれも層Aと層Bの交互積層であり、かつ両側の最表層が層Aである態様とした。また、各層の厚みは入射角70°でのP波の反射波長が400nm~1000nmの範囲になるように設計したフィードブロックで制御した。
(多層積層フィルム4)
2枚の多層積層フィルム3を厚み10μmのアクリル系接着剤によって2枚貼り合わせて作製した。得られた多層積層フィルムの評価結果を表2、3に示す。
(層Bの屈折率の検証)
多層積層フィルム1~8について、(12)項の多層積層フィルムの層Bの屈折率の検証をとして、光学シミュレーション結果と(3)項で測定した反射率の比較を行い、両者の差は何れも±3%以下であった。そのため、(11)項で求めた層Bの屈折率は多層積層フィルムの層Bの屈折率と見なした。
(フィルム1)
熱可塑性樹脂として樹脂Aを用いた。押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、Tダイに供給してシート状に成形した。その後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で溶融シート状物を急冷固化し、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、温度90℃、延伸倍率3.3倍で縦延伸し、フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、そのフィルム両面の処理面に実施例1で用いた易接着層形成膜塗液を塗布した。その後、一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、温度100℃、延伸倍率3.6倍で横延伸した後、230℃で熱処理及び3%の幅方向リラックスを実施し、100℃で冷却して厚み50μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2、3に示す。
(金属層フィルム1の製造)
フィルム1を基材としマグネトロンスパッタ装置を用いて、フィルム1に厚み5nmのZnO層、厚み8nmのAg層、及び厚み5nmのZnO層をこの順に積層した。なお、ZnO層やAg層の形成はいずれもガラス2と同様の製造方法により行った。製造した金属層フィルム1の評価結果を表3に示す。
Figure 2024110078000005
多層積層フィルム4は、同じ多層積層フィルム3を厚み10μmのアクリル系接着剤によって2枚貼り合わせて作製したものであり、製膜条件は貼り合わせる前の多層積層フィルムのものを記載した(なお、多層積層フィルム4の層数には、2枚の多層積層フィルムを貼り合わせる接着材層はカウントしない。)。
Figure 2024110078000006
(投影画像表示部材の製造)
(実施例1~12、比較例1~5)
ガラス1~6と多層積層フィルム1~9、フィルム1、金属層フィルム1について、厚み10μmのアクリル系接着剤を用いて表4に示す構成となるように貼り合わせて投影画像表示部材を作製した。ガラス2~5は高屈折率膜や中間屈折率膜/高屈折率膜が形成されていない側のガラス表面を貼り合わせた(高屈折率膜や中間屈折率膜/高屈折率膜が投影画像表示部材の表面に位置するように貼り合わせた。)。作製した投影画像表示部材の構成と評価結果、ヘッドアップディスプレイ評価結果を表4に示す。
比較例1はガラスに中間屈折率膜/高屈折率膜を形成していない従来の構成であり、入射角度60°では2重像が視認されなかったが、入射角度70°では2重像が視認された。比較例2は特許文献3に記載されたガラスに高屈折率膜を形成した従来の構成であり、入射角度70°では2重像が視認されないが、入社角度60°では2重像が視認され、更に外光の映り込みも強かった。
各実施例は何れも入射角度60°、70°に対する投影映像の表示性に優れ、2重像が視認されず、背景の視認性も良好であり、投影画像表示部材の利用者側のガラスとしてガラス2を用いた場合と比較して外光の映り込みも抑制されていた。実施例1は実施例2、実施例3と比較すると中間屈折率膜の膜厚を好ましい膜厚に設計しているため、入射角度60°の2重像がより視認されず、背景の視認性がより良好であり、外光の映り込みもより抑制されていた。
Figure 2024110078000007
本発明の投影画像表示部材は、ヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合に、投影した映像の高い表示性を得られる一方で、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制することが可能な投影画像表示部材である。本発明の多層積層フィルムを用いた投影画像表示装置は自動車等の車両、航空機、電子看板、ゲーム機器などに用いられるヘッドアップディスプレイ(HUD)やヘッドマウントディスプレイ(HMD)などに好適に用いることができる。
1:透明支持体
2:反射層
3:基材
4:中間屈折率膜
5:高屈折率膜
6:接着層
7:ガラスAの入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率(入射面と反対面側の反射率は考慮しない)。
8:ガラスBの入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率(入射面と反対面側の反射率は考慮しない)。
9:ガラスCの入射角度0°から80°の範囲のP波の波長400nm~700nmの平均反射率(入射面と反対面側の反射率は考慮しない)。
10:投影画像表示部材
11:P波の反射率
12:S波の反射率
13:光源
14:映像のもととなる光
15:周囲の景色の情報となる光
16:投影画像表示装置の利用者
17:映像のもととなる光の入射角度
18:ガラスや透明樹脂フィルムを用いた従来の投影画像表示部材
19:入射角20°の投影映像
20:入射角45°の投影映像
21:入射角70°の投影映像

Claims (13)

  1. 少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、
    前記高屈折率膜の屈折率が、前記高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、
    前記高屈折率膜側から入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上であり、投影画像表示部材面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である、投影画像表示部材。
  2. 前記基材の高屈折率膜側の表面の屈折率、前記中間屈折率膜の屈折率、前記高屈折率膜の屈折率をそれぞれ順にNm、Ni、Nhとした場合に、Nm<Ni<Nhの関係を満足する、請求項1に記載の投影画像表示部材。
  3. 前記中間屈折率膜の厚みが30nm以上130nm以下である、請求項1または2に記載の投影画像表示部材。
  4. 前記中間屈折率膜の厚みが50nm以上110nm以下であり、前記高屈折率膜の厚みが30nm以上90nm以下である、請求項1または2に記載の投影画像表示部材。
  5. 前記投影画像表示部材の表面の法線に対して20°、40°、60°、70°の角度で入射したときの波長400nm~700nmのP波の平均反射率(%)をそれぞれ順にRp20、Rp40、Rp60、Rp70とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60<Rp70の関係を満足する、請求項1または2に記載の投影画像表示部材。
  6. 前記Rp70の方位角ばらつきが10%以下である、請求項1または2に記載の投影画像表示部材。
  7. 前記投影画像表示部材の表面の法線に対して70°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が20以下である、請求項1または2に記載の投影画像表示部材。
  8. 前記基材が少なくとも透明支持体と反射層を含む、請求項1または2の何れかに記載の投影画像表示部材。
  9. 前記反射層が、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルム、金属層、ホログラム層の少なくとも1つを含む、請求項9に記載の投影画像表示部材。
  10. 映像を投影する光源と投影画像表示部材を備え、前記光源からの投影像を反射することで利用者に映像を視認させるヘッドアップディスプレイであって、
    前記光源から前記投影画像表示部材の入射面に入射される光の強度に占めるP波の強度(P波の強度/(P波の強度+S波の強度))が51%以上であり、
    前記投影画像表示部材が、少なくとも基材/中間屈折率膜/高屈折率膜の順で配置された構成を含み、
    前記高屈折率膜の屈折率が、高屈折率膜側の基材表面の屈折率より0.2以上高く、
    前記高屈折率膜側から前記投影画像表示部材に入射角60°、70°で入射する波長400nm~700nmのP波の平均反射率が共に5%以上である、ヘッドアップディスプレイ。
  11. 前記光源からの投影像の入射角度が、前記投影画像表示部材の法線に対して50°以上75°以下である、請求項10に記載のヘッドアップディスプレイ。
  12. 請求項10または11に記載のヘッドアップディスプレイを具備する、交通機関。
  13. 請求項10または11に記載のヘッドアップディスプレイを具備する、建物。
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