JP2022179920A - 多層積層フィルム - Google Patents

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孝行 宇都
Takayuki Uto
慎 ▲廣▼▲瀬▼
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Abstract

【課題】本発明は、本発明は、従来の透明部材のS波とP波の反射特性を逆転させた多層積層フィルムおよび多層積層フィルムを用いた表示装置、ヘッドアップディスプレイに関するものであり、ヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合に、投影した映像の高い表示性を得られる一方で、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制した投影画像表示部材、投影画像表示装置を提供する。【解決手段】異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合にRp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのS波の反射率(%)をRs20、Rs60とした場合に、Rs60-Rs20が25%以下である、多層積層フィルム。【選択図】なし

Description

本発明は、従来の透明部材のS波とP波の反射特性を逆転させた多層積層フィルム、および当該多層積層フィルムを用いた表示装置、ヘッドアップディスプレイに関する。
一般的に、透明ガラスや透明樹脂フィルムなどは正面方向から光の透過率が高い。そして、斜め方向からの光については、P波であれば入射角度が増大するとともに反射率が低下して0%となった後に再度増大する傾向を示し、S波であれば入射角度が増大するとともに反射率も増大する傾向を示す。一方、正面方向からの光の透過率が高く、かつ斜め方向からの光についても、入射角度が増大するとともにP波とS波の両方の反射率が増大するフィルムも提案されている(特許文献1、2)。
特表2006-512622号公報 WO2019/198635号公報
特許文献1、2に開示されたフィルムは、入射角度が増大するとともにP波とS波両方の反射率が増大する。そのため、ガラスや透明樹脂フィルムのようにP波とS波の2つの偏光のうち、一方は入射角度が増大するとともに反射率が低下して0%となった後に再度増大する傾向を示し、もう一方は入射角度が増大するとともに反射率も増大する傾向を示すような特性を実現できない課題があった。そのため、特許文献1、2に開示されたフィルムをヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合は、高い斜め反射特性により投影した映像の高い表示性を得られる一方で、映像以外の周囲の景色の映り込みも大きくなってしまう課題がある。
本発明は、上記の課題を解決せんとするものである。すなわち、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合にRp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのS波の反射率(%)をRs20、Rs60とした場合に、Rs60-Rs20が25%以下である、多層積層フィルム、である。
本発明によれば、従来の透明部材のS波とP波の反射特性を逆転させた新しい光学特性を持つ多層積層フィルム、及びヘッドアップディスプレイ(HUD)などの投影部材に用いた際に投影映像の高い表示性と周囲の景色の映り込みを抑えた表示装置を得ることができる。
従来の透明樹脂フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフ。 従来の光を反射する多層積層フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフ。 特許文献1、特許文献2に記載された多層積層フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフ。 本発明の多層積層フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフ。 本発明の多層積層フィルムが含む凹凸構造の一例を示す模式図。 本発明の多層積層フィルムの層Aと層Bの層厚みを説明する模式図。 本発明の多層積層フィルムの方位角を説明する模式図。 本発明の投影画像表示装置を説明する模式図。 ガラスや透明樹脂フィルムを用いた従来の投影画像表示部材、特許文献1、2に開示されたフィルムを用いた投影画像表示部材、本発明の多層積層フィルムを用いた投影画像表示部材それぞれについて、斜め方向の反射特性を示す模式図。
本発明の多層積層フィルムは、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合にRp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのS波の反射率(%)をRs20、Rs60とした場合に、Rs60-Rs20が25%以下である、多層積層フィルムである。
以下に本発明の実施の形態について述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施の形態に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲内においての種々の変更は当然あり得る。また、説明を簡略化する目的で一部の説明は、本発明の好ましい態様の一つである、異なる2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有する多層積層フィルムを例にとり説明するが、3種以上の熱可塑性樹脂を用いた場合においても、同様に理解されるべきものである。
本発明の多層積層フィルムは、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した構成を有することが必要である。本発明においては、組成の異なる熱可塑性樹脂層が多層積層フィルムに複数種存在し、かつこれらの熱可塑性樹脂層の屈折率がフィルムの面内で任意に選択される直交する2方向および該面に垂直な方向のいずれかにおいて、0.01以上異なる場合に「熱可塑性樹脂層が複数種存在する。」とみなすことができる。また、交互に積層したとは、異なる熱可塑性樹脂からなる層が厚み方向に規則的な配列で積層されていることをいう。
このような態様の具体例としては、多層積層フィルムが第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)と第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)からなる場合であれば、A(BA)n、B(AB)n(nは自然数、以下同じ。)のように順に積層されたものが挙げられる。また、多層積層フィルムが第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)、第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)、及び第三の熱可塑性樹脂からなる層(層C)からなる場合であれば、その配列は特に限定されるものではないが、C(BA)nCやC(ABC)n、C(ACBC)nのように一定の規則性をもって順に積層されたものが挙げられる。このように屈折率等の光学的性質の異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に積層することにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係より所望の波長帯域の光を反射させる干渉反射を発現させることが可能となる。
また、多層積層フィルムの層数が50層以下の場合には、所望する波長帯域において高い反射率を得られない。前述の干渉反射は、層数が増えるほどより広い波長帯域の光に対して高い反射率を達成できるようになり、所望する波長帯域の光を反射する多層積層フィルムが得られるようになる。上記観点から、多層積層フィルムの層数は好ましくは400層以上であり、より好ましくは800層以上である。また、層数に上限はないものの、層数が増えるに従い製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、フィルム厚みが厚くなることでのハンドリング性の悪化が生じるために、現実的には10000層程度が実用範囲となる。
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルム面に垂直(多層積層フィルム面の法線に対して0°の角度を意味する。)に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である必要がある。ここで「多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下である」とは、具体的には、多層積層フィルム面に垂直に入射した波長400~700nmの光の平均透過率が50%以上100%以下であることを示す。このように波長400~700nmという可視光領域の光の透過率が高いことにより、透明ガラスや透明樹脂フィルムのような透明性を持ち、多層積層フィルム面に垂直な方向から多層積層フィルムを通して背景を観察した際に、背景の良好な視認性を得ることができる。上記観点から当該透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。当該透過率が90%以上であれば、利用者は多層積層フィルムの存在を感じることなく背景を視認することができる。なお、当該透過率の上限は実現可能性の観点から99%が好ましい。多層積層フィルム面に垂直に入射する光の透過率は、分光光度計で入射角度θ=0°における波長400~700nmの光の透過率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することにより測定することができる(詳細な測定条件は後述)。
このような多層積層フィルムは、2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に平行な方向の屈折率差を小さくすることで得ることができる。フィルム面に平行な方向の屈折率差が0.06以下であれば当該透過率を50%以上に、0.04以下であれば当該透過率を70%以上に、屈折率差が0.02以下であれば当該透過率を80%以上に、屈折率差が0.01以下であれば当該透過率を90%以上とすることが容易となる。なお、「フィルム面に平行な方向の屈折率差」とは、2種類の熱可塑性樹脂層間の面内屈折率の差(2種類の層を層A、層Bとした場合は、層Aと層Bの面内屈折率の差)の絶対値をいう。また、フィルム面に平行な方向の屈折率差を小さくすることで、後述のRs60-Rs20を小さくできるため好ましい。
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合にRp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつRp60が10%以上である必要がある。ここでいう反射率とは、波長400~700nmの範囲におけるP波の平均反射率とする。このP波の反射率(%)は、分光光度計で入射角度θ=20°、40°、60°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することで測定することができる(詳細な測定条件は後述)。透明ガラスや透明樹脂フィルムなどの一般的な透明基板の場合、フィルム面の法線に対して20°から徐々に入射角度を大きくしていくに従い、偏光の一つであるP波の反射率は低下し、ブリュースター角と呼ばれる角度で反射率は0%となる。したがって、一般的な透明基板では正面方向を透過し、斜め方向のP波を反射することは困難である。
フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で入射したときのそれぞれのP波の反射率をRp20、Rp40、Rp60としたときに、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつRp60が10%以上である態様は、ブリュースター角に相当する角度を備えていない態様である。そのため、このような態様とすることによりフィルム面に対して斜め方向から入射するP波の反射が可能となる。Rp60は好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上であり、Rp60が高くなるに従い、多層積層フィルムにP波の映像を投影した際の投影映像の表示性が高くなる。なお、Rp60の上限は特に制限されないが、実現可能性の観点から99%となる。
Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつRp60が10%以上である多層積層フィルムを得るためには、2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に垂直な方向の屈折率差と層数を調整する方法を用いることができる。このときフィルム面に垂直な方向の屈折率差を大きくするほど、そして層数を増やすほど、Rp60を大きくすることができる。例えば、層数が400層に達する場合、フィルム面に垂直な方向の屈折率差が0.08以上であれば当該反射率を30%以上に、屈折率差が0.12以上であれば当該反射率を50%以上にすることが容易となる。また、屈折率差が上記水準に達していなくとも、層数をさらに増やすことで当該反射率を高めて上記水準に到達させることもできる。
多層積層フィルムの反射波長を波長400~700nmの範囲に調整する方法は、2つの熱可塑性樹脂層の面直屈折率差、積層数、層厚み分布、製膜条件(例えば延伸倍率、延伸速度、延伸温度、熱処理温度、熱処理時間)の調整等が挙げられる。ここで面直屈折率とは多層積層フィルム面に垂直な方向の屈折率をいう。
本発明の多層積層フィルムは、2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有し、第一の熱可塑性樹脂からなる層を層Aとし、第二の熱可塑性樹脂からなる層を層Bとしたときに、層Aが結晶性の熱可塑性樹脂を含み、層Bが非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。より好ましくは、層Aが結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とし、層Bが非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることである。さらに好ましくは、層Aが結晶性の熱可塑性樹脂からなり、層Bが非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることである。ここで主成分とは、層を構成する全成分を100質量%としたときに、70質量%以上100質量%以下含まれる成分をいう。また、反射率が高くなり積層数が少なく済むことから、層Aと層Bの面直屈折率差は高い方が好ましい。層厚み分布は隣接する層Aと層Bの光学厚みが下記(A)式を満たすことが好ましい。
Figure 2022179920000001
ここでλは反射波長、nは層Aの面直屈折率、dは層Aの厚み、nは層Bの面直屈折率、dは層Bの厚みである。
層厚みの分布は、多層積層フィルム面の一方から反対側の面へ向かって一定の層厚み分布とすること、多層積層フィルム面の一方から反対側へ向かって増加または減少する層厚み分布とすること、多層積層フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後減少する層厚み分布とすること、多層積層フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後増加する層厚み分布とすること、及びこれらの分布を組み合わせたものとすることが好ましい。層厚み分布の変化の仕方としては、線形、等比、階差数列といった連続的に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものが好ましい。
多層積層フィルムの両表層には、保護層として厚みが多層積層フィルム自体の厚みの1%以上である層を好ましく設けることができ、保護層の厚みは好ましくは多層積層フィルムの厚み全体に対して4%以上である。保護層の厚みが厚くなることで、製膜時のフローマークの抑制や設計に対する実際の各層の層厚みの精度向上、他のフィルムや成形体とのラミネート工程及びラミネート工程後における多層積層フィルム中の薄膜層の変形抑制、耐押圧性などに繋がる。本発明の多層積層フィルムの厚みは、特に限られるものではないが、例えば20μm~300μmであることが好ましい。20μm以上であると、多層積層フィルムの腰が強くなりハンドリング性が確保できる。また、300μm以下であると、多層積層フィルムの腰が過度に強くならず、成形性が向上する。
また、多層積層フィルムの少なくとも一方の表面にプライマー層、ハードコート層、耐磨耗性層、傷防止層、反射防止層、色補正層、紫外線吸収層、光安定化層、熱線吸収層、印刷層、ガスバリア層、粘着層などの機能性層を形成してもよい。これらの層は単層構成でも多層構成でもよく、また、1つの層に複数の機能を持たせてもよい。また、多層積層フィルム中に、紫外線吸収剤、光安定化剤(HALS)、熱線吸収剤、結晶核剤、可塑剤などの添加剤を含んでいてもよい。なお、これらの成分は、本発明の効果を損なわない範囲で、組み合わせて用いることも可能である。
本発明の多層積層フィルムに用いる熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリアセタールなどの鎖状ポリオレフィン、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体,付加重合体,他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。この中で、強度・耐熱性・透明性および汎用性の観点から、特にポリエステルを用いることがより好ましい。これらは、共重合体であっても、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
ポリエステルとは、ジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繋がった分子構造を有する樹脂をいう。ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体からの重合により得られるポリエステルが好ましい。ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも高い屈折率を発現するテレフタル酸と2,6ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明の多層積層フィルムの各層の主成分となる熱可塑性樹脂としては、例えば、上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体などから選択することが好ましい。
本発明の積層体が有する多層積層フィルムの各層の主成分となる熱可塑性樹脂の好ましい組み合わせとしては、各熱可塑性樹脂のSP値の差の絶対値が1.0以下である組み合わせが好ましい。SP値の差の絶対値が1.0以下であると層間剥離が生じにくくなる。より好ましくは、異なる光学的性質を有するポリマーは同一の基本骨格を供えた組み合わせとすることが好ましい。ここでいう基本骨格とは、熱可塑性樹脂を構成する繰り返し単位であって最も多く含まれるものことであり、具体例を挙げると、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートであれば、その基本骨格はエチレンテレフタレート骨格となる。例えば、一方の熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いる場合は、高精度な積層構造が実現しやすい観点から、ポリエチレンテレフタレートと同一の基本骨格であるエチレンテレフタレート骨格を含むことが好ましい。異なる光学的性質を有する熱可塑性樹脂が同一の基本骨格を含む樹脂であると、積層精度が高くなり、さらに積層界面での層間剥離も生じにくくなる。
また、熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、および核剤などを、その特性を悪化させない程度に単独で又は複数成分を組み合わせて添加させることができる。
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルム面の法線に対して20°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのS波の反射率(%)をRs20、Rs60とした場合に、Rs60-Rs20が25%以下であることが必要である。Rs60-Rs20は20%以下が好ましく、より好ましくは10%以下である。Rs60-Rs20が小さくなるほど、S波の斜め反射が抑制されるため、本発明の多層積層フィルムをヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合において、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制することができる。
P波及びS波は以下のように定義することができる。電磁波(光)が物体の表側の面に対し斜め方向から入射した際において、P波とは電界成分が入射面に平行な電磁波(入射面に平行に振動する直線偏光)、S波とは電界成分が入射面に垂直な電磁波(入射面に垂直に振動する直線偏光)を表す。このP波とS波の反射特性について、図面を参照しながら説明する。図1に従来の透明樹脂フィルム(一般的な透明基板)について、図2に従来の光を反射する多層積層フィルムについて、図3に特許文献1や2に記載された多層積層フィルムについて、図4に本発明の多層積層フィルムについて、空気中から各フィルムに波長550nmのP波とS波の光が入射した際の反射率の角度依存性を表したグラフ(一例)を示す。ここでは一例として波長550nmで示したが、他の可視光の波長においても、各フィルムはそれぞれ図1~4で示したのと概ね同様の関係性を有する。なお、図1~4において符号1、2はそれぞれP波の反射率、S波の反射率を表す。
図1に示すように一般的な透明基板はフレネルの式に従い、P波の反射率は入射角度が増大するとともに低下して0%となった後、再度増大する傾向を示す。S波の反射率は入射角度が増大するとともに増大する。図2に示すように従来の光を反射する多層積層フィルムは、P波もS波も入射角度0度で一定の反射率を持ち(=透過率が低く)、入射角度増大とともにP波、S波両方の反射率が増大する。図3に示すように特許文献1や2に記載された多層積層フィルムは、入射角度0度ではP波とS波両方の反射率が低く(=透過率が高く)、入射角度増大とともにP波とS波両方の反射率が増大する特徴を持つ。一方、図4に示すように本発明の多層積層フィルムは入射角度0°では、P波、S波両方の反射率が低く(=透過率が高く)、P波の反射率が入射角度増大とともに増大し、S波の反射率は入射角度60°程度までは増大しても殆ど変わらない又は減少し、入射角度70°程度から増大する傾向を示す。このように、本発明の多層積層フィルムは透明基盤のS波とP波の反射特性が逆転した特徴を持つ。ここで、本発明の多層積層フィルムの斜め方向の反射において、P波の反射は多層積層フィルム内部の干渉反射によって発現し、S波の反射は多層積層フィルムの表面反射によって発現している。よって、透明基板のS波とP波の反射特性を逆転させる方法として、多層積層フィルムの表面反射を抑制することが挙げられる。
本発明の多層積層フィルムが図4のような反射特性を持つためには多層積層フィルム表面の反射を抑制し、特に多層積層フィルム表面における斜め方向のS波の反射を抑制させることで達成される。その方法としては本発明の多層積層フィルム表面に反射防止層として屈折率1.5以下の低屈折率層を少なくとも一つ有することや、多層積層フィルムの少なくとも一方の表面に凸部間の平均間隔と凸部の平均高さが、共に10nm~400nmの範囲である凹凸構造を含むことが好ましい。ここでいう屈折率は、面内方向と面直方向の平均屈折率である(等方性の樹脂を用いている場合はいずれか一方の方向の屈折率で代用できる。)。これら反射防止層は多層積層フィルム両面に有することで、多層積層フィルム表面における斜め方向のS波の反射を更に抑制することができる。多層積層フィルム表面に上述した反射防止層を有することによってRs60-Rs20を小さくでき、本発明の多層積層フィルムをヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合において、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制することができる。
屈折率1.5以下の低屈折率層としては、低屈折率材料の塗布や金属酸化物の蒸着、スパッタリングなどで形成することができる。屈折率の下限としては実現可能性の観点から1.2となる。低屈折率材料の塗布における材料としては、バインダー樹脂中に中空アクリル、中空酸化ケイ素、コロイダル酸化ケイ素、中空シリカ、LaF、MgFなどの微粒子を混合したものや、含フッ素化合物などがあげられる。含フッ素化合物としては含フッ素メタアクリレートや含フッ素多官能メタアクリレートなどが挙げられ、含フッ素化合物をバインダー樹脂として用いることも挙げられる。微粒子の1次粒子の平均粒子径はヘイズ抑制の観点から20nm~200nmが好ましく、より好ましくは20nm~100nmである。また、微粒子は表面処理を行うことで粒子同士の凝集を抑制してヘイズを抑制することが好ましい。表面処理の方法としてはバインダー樹脂との親和性が高いシランカップリング剤を用いることが好ましい。蒸着、スパッタリングに用いる金属酸化物としては、LiF、MgF、SiO、NaAl14、NaAlFなどが挙げられる。低屈折率層の屈折率nと層厚みdの積n×dは150nm以上250nm以下が好ましく、より好ましくは170nm以上220nm以下である。低屈折率材料を用いた一般的な反射防止層は入射角度0°の反射を軽減するように設計しており、n×dの値は120nm前後である。そのため入射角度が大きくなると斜め方向の反射防止効果が小さくなる。一方で、本発明の多層積層フィルムではn×dの値を150nm以上250nm以下とすることで入射角度が増大しても斜め方向の反射防止効果を持たせることができる。
本発明の多層積層フィルムは、表面と屈折率1.5以下の低屈折率層の間に屈折率1.7以上の高屈折率層を設けることも好ましい。この高屈折率層としては高屈折率材料の塗布や金属酸化物の蒸着、スパッタリングなどで形成することができる。高屈折率材料としてはNb、Sb、ZrO、TiO、Y、SiO、ZnO、In、Ta、CeO、SnO、ITO、ATOなどが挙げられる。これら高屈折率材料の微粒子をバインダー樹脂中に混合して塗布することや、蒸着、スパッタリングによって高屈折率層を形成することが挙げられる。上記高屈折率材料の金属酸化物を微粒子として用いた場合の1次粒子の平均粒子径はヘイズ抑制の観点から20nm~200nmが好ましく、より好ましくは20nm~100nmである。また、微粒子は表面処理を行うことで粒子同士の凝集を抑制してヘイズを抑制することが好ましい。表面処理の方法としてはバインダー樹脂との親和性が高いシランカップリング剤を用いることが好ましい。高屈折率層の屈折率nHと層厚みdHの積nH×dHは150nm以上250nm以下が好ましく、より好ましくは170nm以上220nm以下である。高屈折率材料を用いた一般的な反射防止層は入射角度0°の反射を防止するように設計しており、nH×dHの値は120nm前後である。そのため入射角度が大きくなると斜め方向の反射防止効果が小さくなる。また、nH×dHの値は300nm以上500nm以下も好ましく、より好ましくは340nm以上440nm以下である。
凸部間の平均間隔と凸部の平均高さが、共に10nm~400nmの範囲である凹凸構造はモスアイ構造とも呼ばれ、波長400nm~700nmの範囲である可視光の波長以下の凹凸構造を持つことで多層積層フィルム表面の反射を軽減することができる。図5に本発明の多層積層フィルムが含む凹凸構造の一例を示す。図5の中で符号3は凹凸構造を含む多層積層フィルム、符号4は凹凸構造付近の拡大断面図、符号5は凹凸構造側から見た拡大上面図、符号6は凹凸構造のない多層積層フィルムである。凹凸構造7は凸部9と基材10からなる構成が凹凸構造のない多層積層フィルム(符号8に表面付近の断面図を示す。)の表面に形成された態様が挙げられるが、基材10が無く凸部9が多層積層フィルム8に直接形成される構成も取り得る。凸部9の形状は凸部の根元14から凸部の先端15に向かって凸部の径が小さくなっていく形状が好ましい。凸部の根元14から凸部の先端15に向かって凸部の径が小さくなることで、凸部の先端15から凸部の根元14に向かって屈折率が連続的に変化していくため反射が軽減され、多層積層フィルムの表面反射を抑制することができる。
また、このような形状は斜め方向のS波の反射の抑制効果も大きい。図5では凸部9の断面形状を釣鐘形状で示したが、凸部の根元14から凸部の先端15に向かって凸部9の径が小さくなるのであれば、円錐形状や三角錐形状などの形状でもよい。また、図5では各凸部の根元の間隔13が離れているが、接触していてもよい。凸部9の充填態様として図5の符号5では6方格子で示しているが、4方格子やランダムな充填態様でもよい。但し、凸部間の間隔11が狭くなる充填態様が表面反射軽減の観点から好ましい。凸部間の平均間隔と凸部の高さ12の平均(平均高さ)は、走査型プローブ顕微鏡で凹凸構造の表面の形状を測定し得られた粗さ曲線から求めることができる。凸部間の平均間隔はJIS B 601(2013年)に従い、基準長さにおいて輪郭曲線要素の長さの平均値の半分から求めることができる。凸部の平均高さはJIS B 601(2013年)に従い、基準長さにおいて輪郭曲線要素の高さの平均値から求めることができる。
凸部9や凸部10の材料は通常は樹脂が用いられ、例えば、紫外線、可視光、赤外線などで硬化する光硬化樹脂や熱で硬化する熱硬化樹脂が挙げられる。光硬化樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びそれらの共重合樹脂が挙げられる。また、光硬化を促進するため光重合開始剤を光硬化樹脂に添加することも好ましく、光重合開始剤としてはアセトフェノン系、アシルオキシム系、ベンゾフェノン系、ベンゾインエーテル系、チオキサントン系、スルホニウム塩系、ヨードニウム塩系などが挙げられる。熱硬化樹脂としては、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、尿素樹脂、アルキッド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチロール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂、スチレンイソプレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イソシアネート系樹脂が挙げられる。
凹凸構造の形成方法としては、凹凸形状を形成するための金型に上述の樹脂を充填させ、多層積層フィルム面に押し当てることで金型内の樹脂を表面に転写したり、多層積層フィルム面に上述した樹脂の硬化前の層を形成して金型を押し当てたりした上で、さらに用いた樹脂の特性に応じて紫外線、可視光、赤外線などの光や熱を加えて樹脂を硬化させる方法を用いることができる。
本発明の多層積層フィルムは、Rp60とRs60の比Rp60/Rs60が1.0より大きいことが好ましく、2.0より大きいことがより好ましく、3.0より大きいことがさらに好ましい。多層積層フィルムをヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合において、投影映像をP波で投影することで映像の輝度が高くなり、またRs60-Rs20が低いことで映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制することができるため、結果として投影映像のコントラストを高くすることができる。換言すると、Rp60/Rs60が大きくなるほど、コントラストをより高くすることができる。多層積層フィルムの2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に垂直な方向の屈折率差を大きくするほど、そして層数を増やすほど、Rp60を大きくすることができ、多層積層フィルム表面に反射防止層を設けることでRs60を小さくすることができる。
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が20以下であることが好ましく、より好ましくは5以下である。以下、「多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度」を「P波の反射光の彩度」ということがある。P波の反射光の彩度が20以下であることは、可視光の波長域全般に渡って均一な反射を実現できていることを意味しており、このような態様とすることで反射光の色づきを抑制することができる。よって、多層積層フィルムをヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合において、投影映像をP波で投影した場合に表示される投影映像の色が、ディスプレイから照射された映像とほぼ同じ色として再現される。
P波の反射光の彩度を20以下とする方法の一例を、図6を用いて説明する。図6に示すように式(A)に従って、波長400nm~700nmの範囲を反射する層Aの厚みと層Bの厚みを均一に配置することにより、当該波長帯域における反射率の標準偏差を10%以下とすることができる。ここで、図6は層数401層の多層積層フィルムで層Aの面直屈折率(nA)を1.5、層Bの面直屈折率(nB)を1.6とし、フィルム表面の層の位置を1とし反対のフィルム表面の層の位置401までの層Aと層Bの理想的な層厚み分布の一例を示したものである。実際には装置の設計精度やフィルム製膜装置の稼働安定性などが影響して図6のような理想的な層厚みからの誤差が発生するが、層の位置1から層の位置401までのそれぞれの層の位置での誤差を層1から層401まで平均した誤差が±10%程度以内であれば、多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度を20以下にすることができる。
ここで厚みの誤差を抑える方法として、2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を例に説明する。2種の熱可塑性樹脂それぞれを溶融させ、積層装置を用いて交互に積層し、その溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出することで多層積層構造を得ることができるが、この溶融積層体の層の乱れを抑制することが厚みの誤差の抑制につながる。その方法としては、溶融積層体の最表層に厚い層を設けることが挙げられる。その最表層の厚さは溶融積層体全体の厚みに対して、1%以上であることが好ましく、より好ましくは4%以上である。また、片方の最表層のみでなく両方の最表層の厚みを厚くする方がより好ましい。
本発明の多層積層フィルムは、Rp60の方位角ばらつきが10%以下であることが好ましい。ここで方位角とは、図7に示すように本発明の積層体を構成する多層積層フィルム6(凹凸構造を有する場合は符号3と解釈する。)の主配向軸方向の方位角を0°としたときの各方位角(0°、45°、90°、135°、180°)のことを表し、主配向軸方向とはフィルム面内で最も配向度の大きい方向をいう。なお、配向度は公知の分子配向計により測定することができ、分子配向計としては、例えばKSシステムズ(株)製(現王子計測機器(株))の分子配向計MOA-2001等を用いることができる。方位角ばらつきとは上記方位角(0°、45°、90°、135°、180°)において測定したRp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)の値の最大値と最小値の差をいう。
Rp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)は、分光光度計で入射角度θ=60°における波長400~700nmのP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。ここで傾斜方向である方位角は多層積層フィルムの主配向軸方向の方位角を0°として、これを基準に右回りに0°、45°、90°、135°、180°の5つを採用する。Rp60の方位角ばらつきが10%以下であることで、何れの方位から映像を投影してもその情報の明るさ等の表示性を同じレベルに保つことができる。Rp60の方位角ばらつきを小さくするためには、例えば本発明の積層フィルムの面内方向の屈折率ムラを小さくすることが挙げられ、フィルムの面内方向の屈折率ムラを小さくするにはフィルムの二軸延伸時にフィルム長手方向と幅方向の配向状態の差を小さくするように延伸することが挙げられる。この効果は本発明の多層積層フィルムの特徴の一つであり、偏光反射フィルムでは達成できない効果である。
本発明の多層積層フィルムは、2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有し、第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)が結晶性ポリエステルを主成分とし、第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)が非晶性ポリエステルを主成分とし、かつ前記層Aと前記層Bの面内屈折率の差が0.04以下であることが好ましい。ここで、「第一の熱可塑性樹脂」とは層Aを構成する樹脂成分全体をいい、「第二の熱可塑性樹脂」とは層Bを構成する樹脂成分全体をいう。「層Aが結晶性ポリエステルを主成分とする」とは、第一の熱可塑性樹脂中に70質量%以上100質量%以下の結晶性ポリエステルが含まれることをいう。「層Bが非晶性ポリエステルを主成分とする」とは、第二の熱可塑性樹脂中に70質量%以上100質量%以下の非晶性ポリエステルが含まれることをいい、以下、主成分については同様に解釈することができる。なお、交互に積層された2種の熱可塑性樹脂層のうち、どちらを層Aとするかについては、面直屈折率の比較によって決定するものとする。より具体的には、面直屈折率が相対的に小さい方を層Aとし、これを構成する熱可塑性樹脂を「第一の熱可塑性樹脂」とするものとする。
ここでいう面内屈折率とはフィルム面に対して平行な方向の屈折率のことをいい、面直屈折率とはフィルム面に対して垂直な方向の屈折率のことをいう。また非晶性とは、結晶融解熱量ΔHmが5J/g以下であることをいい、より好ましくは結晶融解に相当するピークを示さない態様である。結晶融解熱量ΔHmは、以下の手順で測定することができる。先ず、JIS K7122(1987)に準じて、樹脂を昇温速度20℃/分で樹脂を25℃から300℃の温度まで20℃/分の昇温速度で加熱し(1stRUN)、その状態で5分間保持後、温度が25℃以下となるように樹脂を封止したアルミニウムパンの周囲に液体窒素ガスを流すことで急冷し、再度室温から20℃/分の昇温速度で300℃の温度まで昇温を行う。こうして得られた2ndRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、融解ピークのピーク面積から結晶融解熱量ΔHmを求める。熱可塑性樹脂の一方に結晶性の熱可塑性樹脂、もう一方に非晶性の熱可塑性樹脂を用いた場合には、多層積層フィルムとした場合においても、融点を一つしか示さないものとなる。さらには多層積層フィルムとしての融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
多層積層フィルム面に対して平行な方向の屈折率の差を小さく、フィルム面に対して垂直な方向の屈折率差を大きくするためには、一方の熱可塑性樹脂はフィルム面に平行な方向に強く配向されている状態(フィルム面に平行な方向の屈折率が大きく、フィルム面に垂直な方向の屈折率が小さい)とする一方、他方の熱可塑性樹脂は等方性を維持している(フィルム面に平行な方向と垂直な方向の屈折率が同じ)とすることが重要である。
融点が一つであるということは、多層積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂のうち、配向・結晶化された熱可塑性樹脂は一種のみであり、他の熱可塑性樹脂は配向の生じていない非晶性の状態であることを示している。このように面内屈折率差が小さくなるように熱可塑性樹脂を選択すると、面直屈折率差を大きくすることが容易となる。また、融解エンタルピーが20J/g以上であることは融点を備えた樹脂の配向・結晶化が進んでいることを示しており、このような態様とすることで、多層積層フィルム面に垂直な方向の屈折率差を大きくすることが容易となる。
さらに好ましくは、多層積層フィルムを構成する最表層の面内屈折率を1.61以上とすることである。多層積層フィルムの最表層の面内屈折率が大きくなることにより、多層積層フィルム面に垂直な方向の屈折率差を容易に高めることができるようになる。上記観点から、多層積層フィルムを構成する最表層の面内屈折率は、より好ましくは1.63以上である。ここで2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成の多層積層フィルムを例に、屈折率差の調整について説明する。最表層の層を構成する熱可塑性樹脂が第一の熱可塑性樹脂であり、もう一方の層を構成する熱可塑性樹脂を第二の熱可塑性樹脂であるとすると、第一の熱可塑性樹脂は面内屈折率が高く面直屈折率が小さく、第二の熱可塑性樹脂は面内屈折率と面直屈折率ともに第一の熱可塑性樹脂の面内屈折率に近い値を用いる構成が挙げられる。このとき、第一の熱可塑性樹脂の面内屈折率をさらに大きくし、その面内屈折率に近い面内屈折率と面直屈折率を持つ第二の熱可塑性樹脂を用いることによって、両者の面直屈折率差を大きくすることができ、さらに両者の面内屈折率差は小さく抑えられるため、正面方向は高い透過性を持つことができる。
本発明の積層体が有する多層積層フィルムは、非晶性の熱可塑性樹脂として多環芳香族化合物を共重合成分として含んでいることが好ましい。ナフタレンやアントラセンのような多環芳香族化合物を含むことで、面内屈折率と面直屈折率を共に高めることが容易となる。さらに好ましくは、3種類以上のジカルボン酸およびジオールを含む共重合体であることである。1種類のジカルボン酸と1種類のジオールからなる熱可塑性樹脂の場合、その高い対称性のために延伸時に配向・結晶化が促進され、非晶状態を維持できないことがあるが、3種類以上のジカルボン酸およびジオールを含む共重合体を含むことで、延伸された際に配向・結晶化が進行することなく非晶状態を維持することが容易になる。
本発明の積層体が有する多層積層フィルムは、多層積層フィルムを構成するいずれかの層に、数平均分子量200以上のアルキレングリコールに由来する構造を含んでなることが好ましい。上述のとおり屈折率を高めるためには芳香族を多く含む必要があるが、さらにアルキレングリコールに由来する構造を含むことにより屈折率を維持しつつもガラス転移温度を効率的に低下させることが容易となる。その結果として、当該構造を含む層の面内屈折率が1.61以上であり、かつガラス転移温度が90℃以下である態様とすることが容易となる。なお、アルキレングリコールの分子量は1H-NMRのスペクトルより計算することができ、測定条件等の詳細については後述する。
特に好ましくは第二の熱可塑性樹脂が非晶性であり、かつ数平均分子量200以上のアルキレングリコールに由来する構造を含んでなることであり、さらに好ましくは第二の熱可塑性樹脂が数平均分子量200以上のアルキレングリコールに由来する構造を含む非晶性の熱可塑性樹脂のみからなることである。数平均分子量200以上のアルキレングリコールに由来する構造を含んでなる熱可塑性樹脂を他の非晶性樹脂と少量混合して用いることで、非晶性樹脂の面内屈折率を維持しつつさらにガラス転移温度を効率的に低下させることが可能となる。さらに、熱可塑性樹脂そのものをアルキレングリコールに由来する構造を含む共重合体とすることで、高温条件下で加工などを実施した際にも多層積層フィルム表面にアルキレングリコールに由来する構造を含む熱可塑性樹脂が析出することを抑制できる。
アルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができる。また、アルキレングリコールの分子量は200以上2000以下であることが好ましい。アルキレングリコールの分子量が200以上であることにより、アルキレングリコールの揮発性が低く抑えられるため、熱可塑性樹脂を合成する際にアルキレングリコールが十分にポリマー中に取り込まれ、その結果、ガラス転移温度を低下させる効果が十分に得られる。また、アルキレングリコールの分子量が2000以下であることにより、熱可塑性樹脂を製造する際の反応性の低下が抑えられ、熱可塑性樹脂がより多層積層フィルムの製造に適したものとなる。
さらに好ましくは、本発明の積層フィルムは、第二の熱可塑性樹脂が、2種類以上の芳香族ジカルボン酸と2種類以上のアルキルジオールに由来する構造を含んでおり、数平均分子量200以上のアルキレングリコールに由来する構造を含んでいることである。第二の熱可塑性樹脂は、非晶性でありながら、配向した結晶性熱可塑性樹脂に匹敵する高い面内屈折率と面直屈折率を実現し、かつ結晶性の熱可塑性樹脂と共延伸可能なガラス転移温度を示すことが好ましい。単一のジカルボン酸やアルキレンジオールでは、この要件をすべて満足することは難しいが、2種類以上の芳香族ジカルボン酸と2種類以上のアルキルジオールを含むことにより、芳香族ジカルボン酸での高屈折率化を、複数のアルキルジオールで低ガラス転移温度化を、4種類以上のジカルボン酸とジオールを含むことでの非晶化を達成できる。
以下、本発明の多層積層フィルムを用いた投影画像表示装置について説明する。本発明の画像表示装置は、本発明の多層積層フィルムを投影画像表示部材として用い、その表示面に対して光を照射する光源を備える投影画像表示装置であり、図8にその一実施態様を示す。図8の左側の図に示す本発明の投影画像表示装置は、光源17から映像のもととなる光18を投影画像表示部材16に照射し、投影画像表示部材16上に映像を投影させる。さらに、周囲の景色の情報となる光19を、投影画像表示部材16を通過させることで、利用者20は映像と周囲の景色を重ね合わせて視認することができる。
ここで投影画像表示部材16としては、例えば、多層積層フィルム6(凹凸構造を有する場合は符号3と解釈する。以下、図8において同じ。)単体(図8の中央図)や、透明支持体21と多層積層フィルム6を積層した積層体(図8の右側の図)を用いることができる。透明支持体21としては、例えばガラスや透明樹脂基材などが挙げられ、支持性を持たせるためにその厚みは1mm以上が好ましい。透明支持体21の厚みの上限は特に限定されないが、厚みが過度に大きくなると投影画像表示部材16の重量が不必要に増えるため、10mmが好ましい。投影画像表示部材16におけるガラスとしては、単層ガラスだけでなく自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラスなどで用いられる合わせガラスや強化ガラス、ガラス建材の板ガラス、強化ガラス、複層ガラス、真空ガラスなどが挙げられる。投影画像表示部材16における透明樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などが好ましい。
透明支持体21と多層積層フィルム6との積層方法としては、粘着剤や接着剤などを用いて接着層を形成することによる貼り合わせ等が挙げられ、粘着剤や接着剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ニトリルゴム系、スチレン・ブダジエンゴム系、天然ゴム系、クロロプレンゴム系、ポリアミド系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、セルロース系、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン等が挙げられる。また、これらの粘着剤や接着剤には、粘着性調整剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、架橋剤等を添加してもよい。これら接着剤の加工前の形態としては液状、ゲル状、塊状、粉末状、フィルム状などが挙げられる。接着層の固化方法としては、溶剤揮散、湿気硬化、加熱硬化、硬化剤混合、嫌気硬化、紫外線硬化、熱溶融冷却、感圧などが挙げられる。積層方法としてはラミネート成形やインジェクション成形などが挙げられ加熱、加圧、上述した接着層の固化方法を用いることで投影画像表示部材16が作製される。
投影画像表示部材16として、透明支持体21と多層積層フィルム6を積層した構成を用いる場合において、多層積層フィルムの透明支持体と積層していない側の表面22(以下表面22ということがある。)に反射防止層を設けることが好ましく、より好ましくは表面22と透明支持体の多層積層フィルムと積層していない側の表面23両方に反射防止層を設けることである。透明画像表示部材16に反射防止層を設けることによって、本発明の多層積層フィルムをヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合において、映像以外の周囲の景色の映り込みを抑制することができる。
光源17としては液晶プロジェクター、RGBレーザー、DLP(Digital Light Processing)、LCOS(Liquid crystal on silicon)、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどが挙げられる。光源17から出射された光(情報)は投影画像表示部材16に直接投影してもよく、ミラーでの反射や、レンズを通した集光、拡散や偏光反射部材を通すことなどを経て投影画像表示部材に投影してもよい。このミラーとしては可視光のみを反射するコールドミラーが好ましい。通常の可視光から赤外線までを反射するミラーでは投影画像表示装置内部に侵入した太陽光などをミラーで反射して光源に照射した際に赤外線による温度上昇を招くが、コールドミラーは赤外線を反射しないため光源17の温度上昇を抑制することができる。偏光反射部材はその面に対して一方の方位方向の光を反射(反射軸方位)してその方向に直交する方向の光を透過する(透過軸方位)ため、太陽光などの外部から侵入し投影画像表示装置内部の温度上昇を招く光を約半減することができる。一方で、偏光反射部材の透過軸方位と合うように光源からの光の偏光を調整することで、光源から投影される光の明るさの減衰を抑制することができる。
本発明の投影画像表示装置は、二重像の発生軽減の観点から、投影画像表示部材の表示面に入射される光の強度に占めるP波の強度(P波の強度/(P波の強度+S波の強度))が51%以上であることが好ましい。なお、投影画像表示部材の表示面に入射される光の強度に占めるP波の強度を単に「P波の強度」ということがある。以下ヘッドアップディスプレイの課題として、表示画像の二重像と偏光サングラス着用時の視認性低下の問題がある。図9に示すようにガラスや透明樹脂フィルムを用いた従来の投影画像表示部材は斜めから入射したS波を反射しP波を透過する。そのため、投影画像表示部材の表示面に入射される投影映像の光としてS波を用いている。表示画像の二重像は、画像表示部材16の表側と裏側の表面それぞれの面で光を反射し、その光線がズレて表示画像が二重に見えることによって生じる。また、偏光サングラス着用時の視認性低下は、投影画像表示部材に映る投影映像がS波由来であるため、S波を吸収する偏光サングラス越しに投影映像を視認すると、偏光サングラスで投影映像の光が吸収されることにより生じる。
特許文献1、2に開示されたフィルムを用いた投影画像表示部材は、斜めから入射したP波を反射するため、投影画像表示部材の表示面に入射される投影映像の光としてP波を用いることができる。P波はフィルム内部でのみ反射し、表側と裏側の表面では反射しないため二重像の問題が軽減される。また、P波は偏光サングラスを透過するため、偏光サングラスによる投影映像の視認性の低下も軽減される。しかし、特許文献1、2に開示されたフィルムを用いた投影画像表示部材を用いた場合、S波については表側と裏側の表面それぞれの面で反射するため、映像以外の周囲の景色が映り込んでしまう課題がある。一方、本発明の多層積層フィルムを用いた投影画像表示部材は、斜めから入射したP波を反射し、S波の斜め方向の反射を抑制する。そのため、投影画像の表示にP波を用いる利点を享受しつつ、斜め方向からのS波の反射を抑制することによる映像以外の周囲の景色の映り込みも軽減される。
上記観点から、P波の強度は51%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、偏光制御精度の観点から上限は99%程度である。本発明の投影画像表示装置は、P波の強度を51%以上とした場合、映像のもととなる光の入射角度24は30°以上が好ましく、より好ましくは50°~70°の範囲である。図1に示すとおりP波は入射角度30°以上から反射率が低下し、特に50°~70°の範囲で大きく低下する。そのため、上記入射角度でP波の投影映像を投影画像表示部材に入射させることで二重像の抑制効果が大きくなる。
本発明の投影画像表示装置は、光源の内部または投影画像表示部材と光源の間に、通過する偏光の方位を10%以上変換する偏光変換素子を備えることが好ましい。前述の通り、光源から照射する投影映像はP波であることが好ましいが、光源の設計によってはP波の照射が難しくS波を照射しか出来ない場合が存在する。そのため、偏光の方位を10%以上変換する偏光変換素子を備えることによって、光源から照射する投影映像の光の強度に占めるP波の強度を高めることができる。上記観点から、より好ましくは偏光の方位を40%以上変換すること、更に好ましくは90%以上の変換であり、偏光制御精度の観点から上限は99%程度である。
偏光変換素子としては、位相差が100nm以上である位相差板が好ましい。位相差が100nm以上の位相差板は通過する光の偏光状態を変化させる特徴を有する。そのため、位相差板の面内方向における主配向軸方位を0°としたとき、その主配向軸方位0°に対して投影映像の偏光の振動方向の方位φが0°<φ<90°の範囲で位相差板を偏光が通過すると、その偏光の偏光特性が変化する。つまりS波がその振動の方位角φSを0°<φS<90°として位相差板を通過すると、その一部または全成分がP波に変換される。
位相差板を通過することによるS波からP波への変換は、位相差板の位相差(Re)と、位相差板の面内方向における主配向軸方位と入射したS波の振動の方位がなす方位角(φS)によって決定される。
位相差板の位相差は、波長590nmにおける位相差(Re(590))が100nm以上であることが好ましい。S波をP波とS波に変換する効果を持つλ/4板としては、Re(590)がより好ましくは100nm~180nmの範囲である。S波をP波に変換する効果を持つλ/2板としては、Re(590)がより好ましくは240nm~320nm(280±40nm)の範囲である。すなわち、偏光変換素子の波長590nmにおける位相差が、240nm以上320nm以下、または100nm以上180nm以下であることが好ましい。
次に、位相差とS波の偏光変換の一例を説明する。Re(590)が280nmの位相差板に対して、S波の振動の方位が位相差板の主配向軸方位に対して方位角φS=45°で通過するとS波の振動の方位は90°変換されP波となる。また、Re(590)が140nmの複屈折層に対して、S波の振動の方位が位相差板の主配向軸方位に対して方位角φS=45°で通過するとS波は1/2がP波に変換される。この変換効率は方位角φS=45°が最大であり45°から離れるにつれて効果が低くなるため、S波の振動方向の方位と位相差板の配向軸の方位がなす角φSは0°<φS<90°、90°<φS<180°の範囲であることが好ましく、より好ましくは15°<φS<75°、105°<φS<165°の範囲であり、更に好ましくは30°<φS<60°、120°<φS<150°の範囲である。
位相差板は熱可塑性樹脂または液晶を主成分とすることが好ましく、熱可塑性樹脂としてはポリビニルアルコール、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリメチルメタクリレートのいずれかを主成分とすることが好ましい。ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリメチルメタクリレートはフィルムまたはシート状で少なくとも一方向に延伸することで複屈折を持たせることが好ましい。液晶としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、および、スチリル基等のエチレン性不飽和基、エポキシ基、および、オキセタン基等のカチオン性重合性基などが好ましい。液晶の形状としては、棒状、円盤状などが挙げられる。マトリクス中に液晶を分散させた後、基材や多層積層フィルムに塗布し一方方向に配向させることが好ましい。配向方法としては、ローラーを押し付けた後ローラーを回転させるラビング法や、紫外線や可視光線などの光を直線偏光で照射する光配向法などが挙げられる。
位相差板は一軸配向されていることが好ましい。一軸配向されていると入射角度や方位角に対する位相差の変化量が小さくなるため、入射角度や方位角に対するS波の偏光変換の依存性が小さくなり好ましい。位相差板の厚みは特に限られるものではないが、例えば1μm~200μmであることが好ましい。位相差板が熱可塑性樹脂を主成分とする場合は5μm~100μmであることがより好ましく、液晶を主成分とする場合は、1μm~20μmであることがより好ましい。また、支持性を持たせるために位相差が0nmに近い透明支持体と位相差板を積層することも好ましい。
以下、本発明の交通機関について説明する。本発明の交通機関は、本発明の投影画像表示装置を備える。交通機関としては自動車、鉄道車両、航空機などが好ましい例として挙げられる。特に自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラスの何れか一つ又は複数を本発明の投影画像表示部材として用いた投影画像表示装置(ヘッドアップディスプレイ)が好ましい。
本発明の多層積層フィルムが前述の多層積層フィルム構成をとる場合、51層以上の積層構造は、次のような方法で作製することができる。まず、層Aに対応する押出機Aと層Bに対応する押出機Bの2台から第一の熱可塑性樹脂及び第二の熱可塑性樹脂を溶融した状態で供給し、それぞれの流路からの溶融熱可塑性樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサー、もしくはコームタイプのフィードブロックのみにより51層以上に積層する。次いでその溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出し、その後、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸多層積層フィルムを得る。層Aと層Bの積層精度を高める方法としては、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されている方法が好ましい。また、必要であれば、層Aに用いる熱可塑性樹脂と層Bに用いる熱可塑性樹脂を乾燥することも好ましい。なお、このとき第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)が結晶性ポリエステルを含み、第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)が非晶性ポリエステルを主成分とし、かつ層Aと層Bの面内屈折率の差が0.04以下となるように、各熱可塑性樹脂を選定することが好ましい。
続いて、この未延伸多層積層フィルムに延伸及び熱処理を施す。延伸方法としては、公知の逐次二軸延伸法、もしくは同時二軸延伸法が好ましい。延伸温度は未延伸積層フィルムのガラス転移点温度以上~ガラス転移点温度+80℃以下の範囲とすることが好ましい。延伸倍率は、長手方向、幅方向それぞれ2倍~8倍の範囲が好ましく、より好ましくは3~6倍の範囲であり、長手方向と幅方向の延伸倍率差を小さくすることが好ましい。長手方向の延伸は、縦延伸機のロール間の周速差を利用して行うことが好ましい。また、その後の幅方向の延伸は、公知のテンター法を利用することが好ましい。すなわち、一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、対向するクリップの間隔を幅方向に広げることで幅方向に延伸することができる。
また、テンターで同時二軸延伸を行うことも好ましい。同時二軸延伸を行う場合について説明する。冷却ロール上にキャストされた未延伸積層フィルムを、同時二軸テンターへ導き、その幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。長手方向の延伸は、同一サイドのクリップ間の距離を広げることで、また、幅方向の延伸はクリップが走行するレールの間隔を広げて対向するクリップの間隔を広げることで達成される。本発明における延伸・熱処理を施すテンタークリップは、リニアモータ方式で駆動することが好ましい。その他、パンタグラフ方式、スクリュー方式などがあるが、中でもリニアモータ方式は、個々のクリップの自由度が高いため延伸倍率を自由に変更できる点で優れている。
さらに延伸後に熱処理を行うことも好ましい。熱処理温度は、延伸温度以上~層Aの熱可塑性樹脂の融点-10℃以下の範囲にて行うことが好ましく、熱処理後に熱処理温度-30℃以下の範囲にて冷却工程を経ることも好ましい。また、フィルムの熱収縮率を小さくするために、熱処理工程中又は冷却工程中にフィルムを幅方向および/または、長手方向に縮める(リラックス)ことも好ましい。リラックスの割合としては1%~10%の範囲が好ましく、より好ましくは1~5%の範囲である。最後に巻取り機にてフィルムを巻き取ることによって本発明の多層積層フィルムが製造される。
以下、本発明の多層積層フィルムについて実施例を用いて説明する。
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
(1)多層積層フィルムの積層数、積層構成、屈折率1.5以下の低屈折率層の厚み
多層積層フィルムの層構成は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより、多層積層フィルムの積層数と表層の厚み、屈折率1.5以下の低屈折率層の厚みを確認した。なお断面写真の撮影は、透過型電子顕微鏡H-7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVの条件で行った。
(2)多層積層フィルムの可視光の透過率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)の標準構成(固体測定システム)にて、入射角度θ=0°における波長400~700nmの透過率を1nm刻みで測定し、その平均透過率を求め、得られた値を多層積層フィルムの可視光の透過率とした。測定条件:スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)とし、ゲインは2と設定し、走査速度を600nm/分とした。
(3)多層積層フィルムの反射率(Rp20、Rp40、Rp60、Rs20、Rs60、Rp60/Rs60)、60°で入射したP波の反射光の彩度
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、入射角度θ=20°、40°、60°における波長400~700nmの範囲のP波とS波の反射率をそれぞれ1nm刻みで測定した。得られた反射率から入射角度20°、40°、60°における波長400nm~700nmの範囲におけるP波の平均反射率としてRp20、Rp40、Rp60を、S波の平均反射率としてRs20、Rs60を求め、Rp60とRs60からRp60/Rs60を算出した。20°、40°、60°の傾斜方向はフィルムの主配向軸に沿う方向とした。また、60°で入射したP波の反射光の彩度は、JISZ8781-4(2013)に基づき、CIE1976色空間Lのうちa、bについてθ=60°のP波の反射スペクトルとC光源の分光分布とXYZ系の等色関数を用いてC光源下でのXYZ値、およびXYZ値を用いて算出し、彩度C値としてaとbの二乗和の平方根をもって算出した。
(4)多層積層フィルムの反射率(Rp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)、方位角ばらつき)
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、フィルム面の主配向軸方向の方位角0°を基準に右回りに0°、45°、90°、135°、180°の5点それぞれの方位角方向に対して、入射角度θ=60°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率を1nm刻みで測定した。得られた反射率から各方位角方向における入射角度60°における波長400nm~700nmの範囲のP波の平均反射率として、Rp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)を求めた。さらに、求めたRp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)の最大値と最小値の差を方位角ばらつきとした。
(5)多層積層フィルム最表層の面内屈折率と面直屈折率
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計を用いてフィルムの主配向軸方向、主配向軸方向に垂直な方向それぞれの面内屈折率と面直屈折率を求めた。面直屈折率は主配向軸方向側から測定した値と主配向軸方向に垂直な方向側から測定した値の平均値とした。なお、ここで得た屈折率は層Aの屈折率を示す。
(6)主配向軸方向
サンプルサイズを10cm×10cmとし、フィルム幅方向中央において、サンプルを切り出した。KSシステムズ(株)製(現王子計測機器(株))の分子配向計MOA-2001を用いて配向度を測定し、最も配向度の大きい方向を主配向軸方向とした。
(7)凹凸構造の測定
多層積層フィルムの凹凸構造を形成した側の表面について、Bruker社製走査型プローブ顕微鏡NanoScopeV DimensionIconを用いて凹凸構造の形状を測定した。探針はSiカンチレバー(バネ定数40N/m程度)、走査モードはタッピングモード、走査範囲は5μm四方(走査ライン:512)とした。得られた粗さ曲線から、凸部間の平均間隔は、JIS B 601(2013年)に従い基準長さにける輪郭曲線要素の長さの平均値の半分から求め、凸部の平均高さは、JIS B 601(2013年)に従い基準長さにおける輪郭曲線要素の高さの平均値から求めた。
(8)樹脂のガラス転移点温度、融点
樹脂ペレットを電子天秤で5mg計量し、アルミニウムパンで挟み込みセイコーインスツルメント社(株)製ロボットDSC-RDC220示差走査熱量計を用いて、JIS-K-7122(2012年)に従い、25℃から300℃まで20℃/分で昇温して測定を行った。データ解析は同社製ディスクセッションSSC/5200を用いた。得られたDSCデータからガラス転移点温度(Tg)、融点(Tm)を求めた。
(9)熱可塑性樹脂の屈折率
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計を用いて樹脂ペレットの屈折率を測定した。樹脂ペレットの屈折率の測定は、70℃48時間、真空乾燥した樹脂ペレットを280℃で溶融後、プレス機を用いてプレスし、その後急冷することで、厚み200μmのシートを作成し、そのシートの屈折率を測定した。
(10)アルキレングリコールの分子量
フィルムをHFIP-d2(ヘキサフロロー2-プロパノール・2重水素化物)に溶解させ、1H-NMRを測定した。得られたスペクトルについて、ケミカルシフト3.8ppmのピークをもつシグナルの面積をS1、ケミカルシフト3.9ppmにピークをもちシグナルの面積をS2とした際に、S1/S2×44(44:エチレングリコールの繰り返し単位の式量)をもってアルキレングリコールの分子量とした。
(11)IV(固有粘度)の測定方法
溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、温度100℃で20分溶解した後、温度25℃でオストワルド粘度計を用いて測定した溶液粘度から算出した。
(12)ヘッドアップディスプレイ評価
光源にドリームメーカー社製ディスプレイ(SP-133CM)を用い、光源に対して投影画像表示部材を30°の角度で設置(光源から垂直に出た光は投影画像表示部材の面に対して法線方向に対して入射角度60°の角度を取る。)し、光源から投影画像表示部材に対してP波またはS波の情報を投影し、目視により投影映像の表示性、投影映像の二重像視認性、背景の視認性、外光の映り込み性を評価した。
(投影映像の表示性の評価基準)
◎:投影映像が非常に明るい。
○:投影映像が明るい。
×:投影映像が暗い。
(投影映像の二重像視認性の評価基準)
◎:投影映像が二重に見えず鮮明に見える。
×1:投影映像が二重に見える。
×2:投影映像は二重に見えないが非常に暗い。
(背景の視認性の評価基準)
◎:背景が鮮明に見える
×:背景が暗く見える
(外光の映り込み性の評価基準)
◎:外光の映り込みが小さい。
〇:外光が映り込むが使用上問題ない。
×:外光の映り込みが強い。
[フィルムに用いた熱可塑性樹脂]
各実施例及び各比較例に用いたフィルムの製造には以下の樹脂を用いた。なお、これらは全て熱可塑性樹脂であり、樹脂A、樹脂B、樹脂Gが結晶性樹脂であり、樹脂C、樹脂D、樹脂E、樹脂F、樹脂H、樹脂Iが非晶性樹脂である。
樹脂A:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(イソフタル酸成分を酸成分全体に対して10mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.57、Tg=75℃、Tm=230℃、ΔHm=32J/g。
樹脂B:IV=0.65のポリエチレンテレフタレート、屈折率=1.58、Tg=78℃、Tm=254℃、ΔHm=41J/g。
樹脂C:IV=0.67のポリエチレンナフタレートの共重合体(テレフタル酸成分を酸成分全体に対して40mol%共重合したポリエチレンナフタレート)と、数平均分子量2000である、テレフタル酸、ブチレン基、エチルヘキシル基を有する芳香族エステルを、90:10(質量比)でブレンドしたポリエステル。屈折率=1.62、Tg=90℃、Tm、ΔHmは観測されなかった
樹脂D:IV=0.64のポリエチレンナフタレートの共重合体(イソフタル酸成分を酸成分全体に対して20mol%、分子量400のポリエチレングリコールをジオール成分全体に対して5mol%共重合したポリエチレンナフタレート)屈折率=1.63、Tg=85℃、Tm=215℃、ΔHm=2J/g。
樹脂E:IV=0.64のポリエチレンナフタレートの共重合体(イソフタル酸成分を酸成分全体に対して20mol%、分子量200のポリエチレングリコールをジオール成分全体に対して8mol%共重合したポリエチレンナフタレート)屈折率=1.63、Tg=98℃、Tm、ΔHmは観測されなかった。
樹脂F:IV=0.73のポリエチレンテレフタレートの共重合体(シクロヘキサンジメタノール成分をジオール成分全体に対して33mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.57、Tg=80℃、Tm、ΔHmは観測されなかった。
樹脂G:IV=0.64のポリエチレンナフタレート、屈折率=1.65、Tg=120℃、Tm=265℃、ΔHm=31J/g。
樹脂H:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して50mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.62、Tg=105℃、Tm、ΔHmは観測されなかった。なお、樹脂Hは酸成分中における2,6-ナフタレンジカルボン酸成分とテレフタル酸成分が等しい樹脂であるが、ポリエチレンテレフタレートの共重合体として扱う。
樹脂I:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して40mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)と、数平均分子量2000である、テレフタル酸、ブチレン基、エチルヘキシル基を有する芳香族エステルを、90:10(質量比)でブレンドしたポリエステル。屈折率=1.60、Tg=88℃、Tm、ΔHmは観測されなかった。
(低屈折率層に用いた材料:材料A)
中空シリカであるスルーリアTR-113(触媒化成工業株式会社製:固形分濃度20質量%)20gに、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4.4gと5質量%蟻酸水溶液1.8gを混合し、70℃にて1時間撹拌した。ついで、H2C=CH-COO-CH2-CF2-CF(CF3)27.8g及び2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.2gを加えた後、30分間70℃にて加熱撹拌した。その後、イソプロピルアルコールを333g加え希釈し、固形分3.8質量%の低屈折率層に用いた材料(材料A、屈折率1.38)とした。
(凹凸構造に用いた材料:材料B)
紫外線硬化型アクリル系樹脂である“アロニックス”(登録商標)UV3701(東亞合成株式会社製)を用いた。
(多層積層フィルムの製造)
以下の通り多層積層フィルムとフィルムを作成しその条件を表1に、比較例1~15を表6に示す。
(多層積層フィルム1)
層Aを構成する熱可塑性樹脂として樹脂Aを、層Bを構成する熱可塑性樹脂として樹脂Cを用いた。樹脂Aおよび樹脂Cを、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂A/樹脂C=1.5になるように計量しながら、入射角70°でのP波の反射波長が400nm~1000nmの範囲になるように設計した401層フィードブロック(層Aが201層、層Bが200層)にて交互に合流させた。次いで、Tダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸多層積層フィルムを、温度95℃、延伸倍率3.6倍で縦延伸し、その両面に空気中でコロナ放電処理を施した後、その両面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/平均粒径100nmのシリカ粒子からなる易接着層形成膜塗液を塗布した。その後、得られた一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、温度115℃、延伸倍率3.8倍で横延伸した後、220℃で熱処理及び3%の幅方向リラックスを実施し、100℃で冷却した後、厚み50μm(両表層の厚み5μm)の多層積層フィルムを得た。
(多層積層フィルム2~5、8~12、14、15)
各層の樹脂、層数、表層の厚み、全体厚み、積層比、製膜条件を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にして多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムと積層体の評価結果を表2に示す。なお、層構成はいずれもA層とB層の交互積層であり、かつ両側の最表層がA層である態様とした。また、各層の厚みは入射角70°でのP波の反射波長が400nm~1000nmの範囲になるように設計したフィードブロックで制御した。
(多層積層フィルム6)
多層積層フィルム4について2枚を厚み10μmのアクリル系接着剤で貼り合わせて多層積層フィルムを作製した。
(多層積層フィルム7)
多層積層フィルム5について2枚を厚み10μmのアクリル系接着剤で貼り合わせて多層積層フィルムを作製した。
(フィルム13)
熱可塑性樹脂として樹脂Bを用いた。押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、Tダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、温度90℃、延伸倍率3.3倍で縦延伸を行い、フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、そのフィルム両面の処理面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/平均粒径100nmのシリカ粒子からなる易接着層形成膜塗液を塗布した。その後、一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、温度100℃、延伸倍率3.5倍で横延伸した後、220℃で熱処理及び3%の幅方向リラックスを実施し、100℃で冷却した後、厚み50μmのフィルムを得た。
(実施例1~4、比較例16~18)
順に多層積層フィルム3、4、6、10、フィルム13、多層積層フィルム14、15について、一方の表面に材料Aをバーコーター(#4)を用いて塗布後、100℃にて1分間乾燥し、160W/cmの高圧水銀灯ランプを用いて、照度600W/cm、積算光量800mJ/cmの紫外線を、酸素濃度0.1体積%の下で照射し、一方の表面に反射防止層を備えた多層積層フィルムを作製した。評価結果を表2に示す。
(実施例5~16)
順に多層積層フィルム1~12について、一方の表面に材料Aをバーコーター(#6)を用いて塗布後、100℃にて1分間乾燥し、160W/cmの高圧水銀灯ランプを用いて、照度600W/cm、積算光量800mJ/cmの紫外線を、酸素濃度0.1体積%の下で照射し、一方の表面に低屈折率層の反射防止層を備えた多層積層フィルムを作製した。評価結果を表3に示す。
(実施例17~28)
多層積層フィルム1~12ついて、一方の表面に反射防止層を設けた後、もう一方の表面にも同様に反射防止層を設けたこと以外は、実施例5~16と同様の方法にて両方の表面に低屈折率層の反射防止層を備えた多層積層フィルムを作製した。評価結果を表3に示す。
(実施例29~32)
多層積層フィルム3、4、6、10について、一方の表面に材料Bを厚さ1μmになるように塗工し、凹凸構造を形成する金型として株式会社イノックス製モスアイ構造Ni電鋳(HT-AR-09C)を用いて、材料B側に金型を押し当てた。その後、160W/cmの高圧水銀灯ランプを用いて、金型と反対側の多層積層フィルム面側から照度600W/cm、積算光量800mJ/cmの紫外線を、酸素濃度0.1体積%の下で照射し、一方の表面に凹凸構造の反射防止層を備えた多層積層フィルムを作製した。評価結果を表4に示す。
(実施例33~36)
多層積層フィルム3、4、6、10ついて、一方の表面に凹凸構造の反射防止層を設けた後、同様にもう一方の表面にも凹凸構造の反射防止層を設けたこと以外は、実施例29~32と同様の方法にて両方の表面に凹凸構造の反射防止層を備えた多層積層フィルムを作製した。評価結果を表4に示す。
(比較例1~12)
多層積層フィルム1~12は何れも垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下の範囲であり、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上であったが、多層積層フィルム表面に反射防止層を設けていないため、Rs60-Rs20は25%より大きい値を示した。
(比較例13)
フィルム13は垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下の範囲であるが、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足せず、前記Rp60が10%未満であった。また、フィルム表面に反射防止層を設けていないため、Rs60-Rs20は25%より大きい値を示した。
(比較例14、15)
多層積層フィルム14、15は垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下の範囲外であり、Rs60-Rs20も25%より大きい値を示した。
(比較例16)
フィルム13の表面に反射防止層を設けたためRs60-Rs20は25%以下の値を示したが、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足せず、前記Rp60が10%未満であった。
(比較例17、18)
多層積層フィルム表面に反射防止層を設けたが、Rs60-Rs20は25%より大きい値を示した。
(実施例37、38、比較例20~24)
表6に示すフィルムを厚さ2mm、A4サイズのガラス板に厚み10μmのアクリル系接着剤で貼り合わせて投影画像表示部材を作成した。ガラス板と貼り合わせるフィルムの面は反射防止層を設けていない面とした。作成した投影画像表示部材を用いてヘッドアップディスプレイ評価を実施した。この時フィルム面が視認側となるように投影画像表示部材を設置した。評価結果を表6に示す。
(実施例39、40)
実施例37、38に用いた投影画像表示部材のガラス板側の表面に材料Aをバーコーター(#6)を用いて塗布後、100℃にて1分間乾燥し、160W/cmの高圧水銀灯ランプを用いて、照度600W/cm、積算光量800mJ/cmの紫外線を、酸素濃度0.1体積%の下で照射し、ガラス板側の表面にも低屈折率層の反射防止層を備えた投影画像表示部材を作成した。作成した投影画像表示部材を用いてヘッドアップディスプレイ評価を実施した。この時フィルム面が視認側となるように投影画像表示部材を設置した。評価結果を表6に示す。
Figure 2022179920000002
多層積層フィルム6、7は、同じ多層積層フィルムを2枚貼り合わせて作製したものであり、製膜条件は貼り合わせる前の多層積層フィルムのものを記載した(なお、多層積層フィルム6、7の層数には、2枚の多層積層フィルムを貼り合わせる接着材層はカウントしない。)。B層は非晶性樹脂で構成されるため、多層積層フィルムとした際にも配向が変化しないため、B層の面内屈折率及びB層の面直屈折率は、B層樹脂の屈折率に等しい。
Figure 2022179920000003
Figure 2022179920000004
Figure 2022179920000005
Figure 2022179920000006
Figure 2022179920000007
本発明は、従来の透明部材のS波とP波の反射特性を逆転させた新しい光学特性を持つ多層積層フィルムである。本発明の多層積層フィルムを用いた表示装置は自動車等の車両、航空機、電子看板、ゲーム機器などに用いられるヘッドアップディスプレイ(HUD)やヘッドマウントディスプレイ(HMD)などに好適に用いることができる。
1:P波の反射率
2:S波の反射率
3:凹凸構造を含む多層積層フィルム
4:凹凸構造付近の拡大断面図
5:凹凸構造側から見た拡大上面図
6:凹凸構造のない多層積層フィルム
7:凹凸構造
8:凹凸構造のない多層積層フィルムの表面付近の断面図。
9:凸部
10:基材
11:凸部間の間隔
12:凸部の高さ
13:凸部の根元の間隔
14:凸部の根元
15:凸部の先端
16:本発明の多層積層フィルムを用いた投影画像表示部材
17:光源
18:映像のもととなる光
19:周囲の景色の情報となる光
20:投影画像表示装置の利用者
21:透明支持体
22:多層積層フィルムの透明支持体と積層していない側の表面
23:透明支持体の多層積層フィルムと積層していない側の表面
24:映像のもととなる光の入射角度
25:ガラスや透明樹脂フィルムを用いた従来の投影画像表示部材
26:特許文献1、2に開示されたフィルムを用いた投影画像表示部材

Claims (15)

  1. 異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、
    多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合にRp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのS波の反射率(%)をRs20、Rs60とした場合に、Rs60-Rs20が25%以下である、多層積層フィルム。
  2. 前記Rp60と前記Rs60の比Rp60/Rs60が1.0より大きい、請求項1に記載の多層積層フィルム。
  3. 前記多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が20以下である、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
  4. 前記Rp60の方位角ばらつきが10%以下である、請求項1~3の何れかに記載の多層積層フィルム。
  5. 前記多層積層フィルムが2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有し、第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)が結晶性ポリエステルを主成分とし、第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)が非晶性ポリエステルを主成分とし、かつ前記層Aと前記層Bの面内屈折率の差が0.04以下である請求項1~4の何れかに記載の多層積層フィルム。
  6. 前記層Bを構成する熱可塑性樹脂が、数平均分子量200以上のアルキレングリコールに由来する構造を含んでなる、請求項5に記載の多層積層フィルム。
  7. 前記多層積層フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率1.5以下の低屈折率層を少なくとも一つ有する、請求項1~6の何れかに記載の多層積層フィルム。
  8. 前記低屈折率層の屈折率nと層厚みdの積n×dが150nm以上250nm以下である、請求項7に記載の多層積層フィルム。
  9. 前記多層積層フィルムの少なくとも一方の表面に凸部間の平均間隔と凸部の平均高さが、共に10nm~400nmの範囲である凹凸構造を含む、請求項1~6の何れかに記載の多層積層フィルム。
  10. 請求項1~9の何れかに記載の多層積層フィルムを投影画像表示部材として用い、その表示面に対して光を照射する光源を備える、投影画像表示装置。
  11. 前記投影画像表示部材の表示面に入射される光の強度に占めるP波の強度(P波の強度/(P波の強度+S波の強度))が51%以上である、請求項10に記載の投影画像表示装置。
  12. 前記光源の内部または前記投影画像表示部材と前記光源の間に、通過する偏光の方位を10%以上変換する偏光変換素子を備える、請求項10または11に記載の投影画像表示装置。
  13. 前記偏光変換素子の波長590nmにおける位相差が100nm以上である請求項12に記載の投影画像表示装置。
  14. 前記偏光変換素子の波長590nmにおける位相差が、240nm以上320nm以下、または100nm以上180nm以下である、請求項12または13に記載の投影画像表示装置。
  15. 請求項10~14の何れかに記載の投影画像表示装置を備える、交通機関。
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