JP2024064013A - Fe-Co系軟質磁性材料およびその製造方法 - Google Patents

Fe-Co系軟質磁性材料およびその製造方法 Download PDF

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恭平 早川
Kyohei Hayakawa
貴治 前口
Takaharu Maeguchi
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Abstract

【課題】従来法よりも鉄損を低減しつつ、磁化特性が改善されたFe-Co系軟質磁性材料およびその製造方法を提供する。【解決手段】本開示に係るFe-Co系軟質磁性材料の製造方法では、重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金からなる圧延材を、300℃/hr以上の速度で、不規則相が安定な温度領域の温度まで昇温し、不規則相が安定な温度領域の温度で磁気焼鈍した後、4000℃/hr以上の速度で冷却する。【選択図】図8

Description

本開示は、Fe-Co系軟質磁性材料およびその製造方法に関するものである。
各種モータには、コア材として積層鋼板が使用されている。積層鋼板は、薄板材または電磁鋼板などである。高出力モータでは、通常の電磁鋼板ではなく、より磁化特性に優れたFe-Co系合金(パーメンジュール)の使用が検討されている。
近年、Fe-Co系合金の薄板材は、最終工程において冷間圧延により製造されることが多い。冷間圧延により製造されたFe-Co系合金の薄板材は、所定の形状にラミネート加工された後、焼鈍(磁気焼鈍)により磁化特性を高めてから使用される(特許文献1参照)。
特開平1-255645号公報
Fe-Co系合金に含まれるCoは、高価な材料である。そのため、汎用モータでは、Fe-Co系合金よりも安価な電磁鋼板が主に使用されている。現状、Fe-Co系合金の適用は一部の高出力モータに限られているため、使用実績が乏しく、磁気焼鈍方法などにも改善の余地がある。
従来の磁気焼鈍方法では、規則不規則変態点よりも高い温度域の温度(不規則相が安定な領域の温度)まで昇温し、1-10時間保持した後、100-300℃/hrの速度で炉冷する。このような方法で磁気焼鈍された合金は、kHz帯以下の周波数帯での鉄損が大きい。kHz帯以下の周波数帯での鉄損は、ヒステリシス損が支配的である。ヒステリシス損は、板厚が薄いものほど鉄損に対して支配的となる傾向がある。
鉄損が大きいと、モータ効率が低下する、またはモータにおける発熱量が増大する。モータ効率が低下すると、重量当たりの出力が下がる。その結果、同じ出力を実現するためには製品重量が増加する。
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、従来法よりも鉄損を低減しつつ、磁化特性を損なわないFe-Co系軟質磁性材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本開示のFe-Co系軟質磁性材料の製造方法は以下の手段を採用する。
本開示の一態様は、重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金からなる圧延材を、不規則相が安定な温度領域の温度で磁気焼鈍した後、4000℃/hr以上の速度で冷却するFe-Co系軟質磁性材料の製造方法を提供する。
本開示の一態様は、重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下
Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金の圧延材が焼鈍処理されてなるFe-Co系軟質磁性材料であって、ビッカース硬さが230HV以下であるFe-Co系軟質磁性材料を提供する。
本開示によれば、従来法よりも鉄損を低減しつつ、磁化特性が改善されたFe-Co系軟質磁性材料を製造できる。
Fe-Co二元系の状態図である。 圧延材の挟み込み模式図である。 従来法で磁気焼鈍したFe-Co系軟質磁性材料の(光学顕微鏡による)ミクロ組織断面写真である。 従来よりも速い昇温速度で磁気焼鈍したFe-Co系軟質磁性材料の(光学顕微鏡による)ミクロ組織断面写真である。 第1実施形態に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(A)の結晶粒径情報を示す図である。 鉄損(W)の理論式を示す図である。 ビッカース硬さ試験(試験荷重:0.1kgf)の結果を示す図である。 Fe-Co系軟質磁性材料の結晶粒径の逆数の平均値(μm-1)と鉄損(W/kg)との関係を示す図である。 第1実施形態に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(A)の磁化力と、磁束密度との関係を示す図である。
以下に、本開示に係るFe-Co系軟質磁性材料およびその製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。本開示に係るFe-Co系軟質磁性材料は、モータに適用されるのが好適である。
〔第1実施形態〕
本実施形態では、Fe-Co系合金からなる圧延材を不規則相が安定な温度領域の温度で磁気焼鈍した後、4000℃/hr以上の速度で冷却してFe-Co系軟質磁性材料を製造する。
(圧延材)
Fe-Co系合金(パーメンジュール)は、重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含む。Fe-Co系合金は、必要に応じて、Cr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下(重量%)含む。残部は、Feおよび不可避的不純物である。
上記成分のうち、V、Si、Al、Cは必須成分であるので、0%である場合を含まない。 「不可避的」とは、素材の溶製から塑性加工に至る製造過程において、意図した添加元素ではないものの、混入が避けられずに、素材中に合金成分含有されることを意味する。
圧延材は、原料となるFe-Co系合金を溶融させ、熱間圧延および/または冷間圧延により所定の厚さに成形されたストリップ材である。ストリップ材の組成は、原料のFe-Co系合金と実質的に同じである。所定の厚さは、0.35mm以下であってよい。圧延材は、単体または、複数枚積層された状態で、後の磁気焼鈍に供され得る。
(磁気焼鈍)
熱処理炉内に圧延材を配置し、不規則相が安定な温度領域の温度まで圧延材を昇温させた後、昇温後の温度で所定時間保持して磁気焼鈍する。
磁気焼鈍中、熱処理炉内は大気、窒素、不活性ガス、水素または真空環境であってもよい。磁気焼鈍中、熱処理炉内は水素環境であることが好ましい。昇温速度は、300℃/hr以上の速度である。保持時間は、1時間以上10時間以下である。
図1にFe-Co二元系の状態図(出典:ASM Alloy Phase Diagram Database Volume 2)を例示する。図1によれば、重量%で、Co含有量が49%である場合、規則相(図1のα)から不規則相(図1のαFe)への相変態温度(規則不規則変態点)は730℃である。図1によれば、重量%で、Co含有量が54%である場合、不規則相からγFe相(図1のαCo,γFE)への相変態温度は985℃である。
Vが添加されたFe-Co-V三元系における相変態温度は、Fe-Co二元系よりも20-30℃低くなる。以上を踏まえ、不規則相領域の温度(不規則相が安定な温度領域の温度)は、Co含有量が54%である場合は710-700℃付近、Co含有量が49%である場合は965-955℃付近となる。
(冷却)
磁気焼鈍後、圧延材を4000℃/hr以上の速度で冷却する。当該冷却速度は、磁気焼鈍後に圧延材を熱処理炉から取り出して、空冷または水冷すること、あるいは、窒素、水素または不活性ガス吹き冷却等で実現可能である。
なお、本実施形態では、挟み込み部材で圧延材を両面から挟み込み、挟み込み部材と圧延材との位置を固定し、挟み込み部材に固定された状態の圧延材を熱処理炉内に配置してもよい。
圧延材の冷却速度は、圧延材の厚さまたは積層数を調整して制御してもよい。
図2に、圧延材の挟み込み模式図を例示する。図2では、板状の第1挟み込み部材1と第2挟み込み部材2との間に圧延材3を挟み込んだ後、周囲に固定部材4を巻き付けて、挟み込み部材1,2と圧延材3との位置を固定する。
挟み込み部材は、熱応力による圧延材の変形に応じて自身が変形しない剛性を有する。例えば、挟み込み部材は、ステンレス鋼、ニッケル基合金等の板材である。ステンレス鋼は、熱伝導率が非常に低く、断熱作用のある素材である。挟み込み部材は、圧延材よりも厚い。挟み込み部材としてステンレス鋼を用いる場合、挟み込み部材の厚さは、100mm以下であってよい。厚さ100mmのステンレス鋼製の挟み込み部材は、圧延材の変形を抑え込むのに十分な重量であり、厚さを変化させることによる断熱作用の調整も可能である。
挟み込み部材の熱容量を調整することで、圧延材の冷却速度を制御してもよい。熱容量は、挟み込み部材の素材の種類および/または厚さを変えることで調整できる。例えば、周囲温度が高い環境で空冷する場合、挟み込み部材を薄くして熱容量を小さくする。それにより、厚い挟み込み部材を用いた場合と比べて、速やかに圧延材を冷却できる。
本実施形態に係る製造方法で製造されたFe-Co系軟質磁性材料は、ビッカース硬さが230HV以下である。
本実施形態に係る製造方法で製造されたFe-Co系軟質磁性材料の組織中の結晶粒径の逆数の平均値が0.13μm-1以下である。
(作用効果)
本実施形態によれば、300℃/hr以上の速度で不規則相が安定な温度領域の温度まで昇温させることで、不規則相が安定な温度領域での再結晶が期待でき、結晶粒を粗大化できる。
規則相では活性化エネルギーが高くなる。そのため、規則相が安定な温度領域では、結晶成長の駆動力が回復によって失われ、結晶粒の粗大化制御が困難である。従来法による磁気焼鈍では、200℃/hr以下の速度で昇温するのが一般的である。200℃/hrでゆっくりと昇温させた場合、規則相の安定な温度域内の温度で保持される時間が長くなるため、微細組織になりやすい。一方、本実施形態では、従来よりも昇温速度を速くすることで、結晶粒の粗大化を達成できる。
本実施形態によれば、磁気焼鈍後に圧延材を急冷することで、規則相および金属間化合物相の形成を抑制できる。それにより、鉄損が低減され、磁化特性の劣化が抑制される。
圧延材を急冷すると、温度勾配が付き、熱応力などで圧延材に変形が生じ得る。本実施形態によれば、挟み込み部材で圧延材を挟み込み、固定することで、急冷時の変形を防げる。
空冷または水冷による圧延材の冷却速度は、環境温度にも依存する。挟み込み部材の熱容量を調整して、空冷(または水冷)時の冷却速度を制御することで、4000℃/hrでの冷却をより確実に実行できる。
≪昇温速度と結晶粒の粗大化≫
図3に、従来の昇温速度(160℃/hr)で昇温させたFe-Co系軟質磁性材料の断面写真を示す。図4に、従来よりも速い昇温速度(300℃/hr)で昇温させたFe-Co系軟質磁性材料の断面写真を示す。図3では、微細な結晶粒が多くみられた。これに対し、図4で見られる結晶粒は図3よりも大きく、微細な結晶粒は少なかった。図3,4から、昇温速度を上げることで、結晶粒径が大きくなり、微細な粒子が少なくなる傾向が確認された。
≪昇温速度と結晶粒径≫
図5に、昇温速度300℃/hr以上で製造したFe-Co系軟質磁性材料(A)の結晶粒径情報を示す。図5には、比較として、従来法(昇温速度75℃/hr)で製造したFe-Co系軟質磁性材料(B)の結晶粒径情報も記載する。図5中に記載の数値は全て概数である。
本実施形態に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(A)は、結晶粒径の逆数の平均0.05(μm-1)、結晶粒径の逆数の平均値0.04(μm-1)、結晶粒径の平均35μm、結晶粒径の中央値28μm、結晶粒径の対数平均1.4μm、結晶粒径の対数中央値1.5μm、結晶粒径の対数標準偏差0.330であった。
従来法に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(B)は、結晶粒径の逆数の平均0.17(μm-1)、結晶粒径の逆数の平均値0.14(μm-1)、結晶粒径の平均10μm、結晶粒径の中央値7μm、結晶粒径の対数平均0.87μm、結晶粒径の対数中央値0.86μm、結晶粒径の対数標準偏差0.286であった。
本実施形態に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(A)では、従来法に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(B)よりも結晶粒が粗大化していることが確認された。
≪冷却速度と電気抵抗率≫
従来、磁性材料の磁気焼鈍では、熱ひずみおよびそれによる変形を避けるため、冷却速度を遅くすることが一般的である。例えば、市販のFe-Co系合金であるヴァキュームシュメルツ社製のVACOFLIX(登録商標)またはVACODUR(登録商標)のカタログでは、100-300℃/hrで冷却することを推奨している。当該冷却速度は、磁気焼鈍後、熱処理炉の電源をオフにして、炉内に圧延材を放置して炉冷することで実現可能である。
冷却速度が遅い場合、冷却過程において圧延材が規則相の温度領域に保持される時間が長くなる。規則相の温度領域では、規則相が安定となる。そのため、従来法による炉冷では、冷却中に規則構造が形成される。規則相は、不規則相に比べて電気抵抗率が低い。よって、規則相が多く形成されると、Fe-Co系軟質磁性材料の電気抵抗率は低下する。
磁気焼鈍してなるFe-Co系軟質磁性材料の電気抵抗率を電気抵抗率計で測定した。冷却速度180℃/hrで炉冷したFe-Co系軟質磁性材料の電気抵抗率は、42.8μΩcmであった。冷却速度4000℃/hrで空冷したFe-Co系軟質磁性材料の電気抵抗率は、43.6μΩcmであった。この結果から、磁気焼鈍後に急冷(空冷)することで、従来(炉冷)よりも電気抵抗率の高いFe-Co系軟質磁性材料を得られることが確認された。
図6に、鉄損(W)の理論式を示す。図6の理論式(1)では、周波数f、飽和磁束密度Bm、板厚t、電気抵抗率ρおよび磁壁移動速度Vから鉄損を算出する。鉄損の理論式に基づくと、電気抵抗率が大きくなると、鉄損は小さくなる。
≪ビッカース硬さ≫
サンプル:
試験No.1_本実施形態に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料
(保持温度850℃、保持時間:4hr、冷却速度4000℃/hr)
試験No.2_試験No.1の冷却速度を100℃/hrに変更
試験No.3_試験No.1の保持温度を600℃、保持時間を4hrに変更
試験No.4_冷間圧延後の圧延材(磁気焼鈍なし)
測定方法(JIS Z 2244-1に準拠):
サンプル表面に、正四角錐のダイヤモンド圧子を押込み、その試験荷重F(0.1kgf)を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さを測定し、硬度を算出した。
結果:
図7に、結果を示す。試験No.1~4の硬度(HV0.1)は、それぞれ228,248,507,427であった。磁気焼鈍しなかったサンプル(試験No.4)に比べ、850℃で磁気焼鈍したサンプル(試験No.1,2)の硬度は低かった。この結果から、不規則相が安定な温度領域の温度(850℃)での磁気焼鈍によって、サンプルの硬度が初期状態よりも低下することが確認された。
600℃で保持したサンプル(試験No.3)は、磁気焼鈍しなかったサンプル(試験No.4)よりも硬度が高くなった。金属間化合物相は、不規則相よりも硬い。試験No.3のサンプルでは、不規則相が安定な温度領域の温度よりも低い温度(600℃)で保持したことで、金属間化合物相が生成され、硬度が高くなったものと考えられる。
試験No.2のサンプルは、試験No.1のサンプルよりも硬度が高かった。試験No.2のサンプルは、試験No.1のサンプルと比べ、冷却速度が遅い。試験No.2では冷却速度が遅いため、冷却工程の間に原子拡散が進み、金属間化合物相が形成されたものと考えられる。試験No.1のサンプルでは、磁気焼鈍後に急冷して、サンプルが規則相領域の温度(規則相が安定な温度領域の温度)に保持される時間を短くすることで、金属間化合物相の生成が抑制され、その結果、硬度が低くなったものと考えられる。
上記から、本実施形態に記載のFe-Co系合金の組成では、規則不規則変態点以下の領域(規則相の温度領域)に保持されている間、金属間化合物相が生じることがわかる。金属間化合物相は、冷却過程においても僅かに形成される。本実施形態に記載された組成の合金と比べ、金属間化合物相は、磁化特性が低く、電気抵抗率も小さい。そのため、金属間化合物相の生成量が増えると、鉄損が大きくなる。
別の試験において、試験No.1のように磁気焼鈍後に急冷したサンプルは、試験No.2のようにゆっくりと冷却したサンプルと比較して、10-15W/kg程度、1kHzにおける鉄損を低減できることが確認されている。
本実施形態に記載された組成のFe-Co系合金からなる圧延材では、冷却の過程で相変態が生じる。相変態により残留応力が生じ、磁化特性(鉄損特性)が劣化することは避けられないが、本実施形態に係る製造方法によれば、磁気焼鈍後に圧延材を急速に冷却することで、金属間化合物相の析出を抑制するため、従来と比べて磁化特性の劣化を避けられる。
≪鉄損≫
図8に、様々な昇温速度および冷却方法(AC/FC)で磁気焼鈍したFe-Co系軟質磁性材料の結晶粒径の逆数の平均値(μm-1)と鉄損との関係を示す。同図において、横軸は結晶粒径の逆数の平均値(μm-1)、縦軸は1kHzにおける鉄損(規格値)である。縦軸の規格値は、150W/kgを1とした値である。
サンプル(板厚0.15mm)の製造条件
●:従来法で昇温+炉冷(FC)
昇温速度180℃/hr~270℃/hr、保持時間4時間
冷却速度180℃/hr
◎:従来法で昇温+空冷(AC)
昇温速度70℃/hr~200℃/hr、保持時間4時間
冷却速度4000℃/hr以上
〇:上記実施形態に係る方法で昇温+AC
昇温速度300℃/hr以上730℃以下、保持時間4時間
冷却速度4000℃/hr以上
図8において、従来法にて昇温および冷却したサンプル(●)の結晶粒径の逆数の平均値は、いずれも0.13(μm-1)より大きかった。上記実施形態に係る方法で昇温および冷却したサンプル(〇)の結晶粒径の逆数の平均値は、いずれも0.13(μm-1)以下となった。一方、同様に空冷で冷却したサンプルであっても、昇温速度が上記実施形態の範囲外であるサンプル(◎)の結晶粒径の逆数の平均値は、0.13(μm-1)より大きかった。
この結果から、結晶粒径の粗大化には、冷却速度はあまり影響せず、昇温速度が要となることが示唆された。組織中の結晶粒径の逆数の平均値を0.13μm-1以下とするためには、300℃/hr以上で昇温し、かつ、4000℃以上で冷却する必要がある。
図8によれば、結晶粒径の逆数の平均値が小さいほど、鉄損は小さくなった。結晶粒径の逆数の平均値(μm-1)が小さいほど、結晶粒径が大きいことを意味する。すなわち、結晶粒径が大きいほど、鉄損が小さくなる傾向が確認された。
市販の合金を従来法で磁気焼鈍し冷却したサンプル(●)の1kHzにおける鉄損の平均は1である。冷却速度のみ上記実施形態に係る方法で製造したサンプル(◎)の1kHzにおける鉄損は従来法で製造したサンプルと同程度であった。これに対して昇温速度300℃/hr以上で磁気焼鈍し4000℃以上の速度で冷却したサンプル(〇)の1kHzにおける鉄損は、従来法(●)に対して10%以上改善されていた。
≪磁束密度および透過率≫
図9に、本実施形態に従って製造したFe-Co系軟質磁性材料(A)の磁化力と、磁束密度との関係を示す。同図において、横軸は磁化力H(A/m)、右縦軸は磁束密度B(T)である。
Fe-Co系軟質磁性材料(A)では、磁化力が5000A/mの時の磁束密度(B50)が2.25T以上であった。一般的な電磁鋼板のB50は、1.70程度であるから、本実施形態に係るFe-Co系軟質磁性材料は、電磁鋼板よりも電磁密度が高いといえる。
〔第2実施形態〕
本実施形態は、昇温と保持とを別の環境下で実施する点が第1実施形態と異なる。以下では、第1実施形態と異なる点について説明する。
本実施形態では、まず、第1熱処理炉で圧延材を所定温度まで昇温させ、30分以内の時間、所定温度で保持する。昇温中の第1熱処理炉内は、大気環境である。所定温度は、不規則相領域の温度である。第1熱処理炉における圧延材の昇温速度は、300℃/hr以上である。
次に、所定温度で保持した後の圧延材を、第2熱処理炉へ移し、所定温度で1-10時間保持する。第2熱処理炉内は、水素環境または真空環境である。第2熱処理炉に移す前後の圧延材の温度は、同じであることが好ましいが、これに限定されず、圧延材の温度が不規則相領域の温度内にある限り、移動前後の温度変動は許容される。圧延材の第2熱処理炉への移動は、圧延材の温度の低下幅が小さくなるよう速やかに実施する。第2熱処理炉へ移動後の圧延材の温度は、規則不規則相変態点以上を維持されていればよい。
本実施形態によれば、磁気焼鈍を水素環境中または真空環境中で行うことで、圧延材表面での酸化反応を抑制できる。既存の熱処理炉では、炉内を水素環境または真空環境にすることはできるが、300℃/hr以上の昇温速度を達成するのが困難な場合もある。本実施形態は、300℃/hr以上の昇温速度を達成できる熱処理炉がない場合に好適である。
大気環境での圧延材の昇温は、汎用の第1熱処理炉で実施可能である。よって、昇温速度300℃/hrの達成も容易である。30分以内の高温保持で、結晶粒を粗大化できる。大気環境、高温で保持された圧延材の表面には酸化被膜が形成されるが、この酸化被膜は、圧延材を水素環境または真空環境で高温保持することで、還元除去され得る。
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のFe-Co系軟質磁性材料およびその製造不法は、例えば以下のように把握される。
本開示の第1態様に係るFe-Co系軟質磁性材料の製造方法では、重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金からなる圧延材を、300℃/hr以上の速度で、不規則相が安定な温度領域の温度まで昇温し、該不規則相が安定な温度領域の温度で磁気焼鈍した後、4000℃/hr以上の速度で冷却する。
本開示の第1態様によれば、上記組成の圧延材を不規則相が安定な温度領域の温度で磁気焼鈍することで、圧延時に生じた熱ひずみを取り除くことができる。
300℃/hrとの昇温速度は、従来と比べて速い。従来よりも速く昇温させることで、規則相が安定な温度領域の温度で保持される時間を短縮し、不規則相が安定な温度域での再結晶が期待でき、結晶粒を粗大化させることができる。Fe-Co系軟質磁性材料の組織において、結晶粒の粗大化は、鉄損の低減につながる。
本態様によれば、不規則相が安定な領域の温度で磁気焼鈍された圧延材を、4000℃/hr以上の速度で冷却することにより、規則相および金属間化合物相の形成を抑制できる。
圧延材は、不規則相が安定な温度領域から規則相が安定な温度領域を経て室温まで冷却される。4000℃/hrとの冷却速度は、従来に比べて速い。従来よりも冷却速度を上げることで、規則相が安定な温度領域の温度に圧延材が保持される時間を短縮できる。これにより、規則相の形成が抑制される。規則相の形成が抑制されることで、相変態による残留応力の発生が低減されるため、磁化特性の劣化を避けられる。Fe-Co系軟質磁性材料における室温での規則度を下げることで、電気抵抗率の低下を抑制できる。結果として鉄損の低いFe-Co系軟質磁性材料を得られる。
金属間化合物相は、圧延材が規則不規則変態点以下(規則相が安定な温度領域)の温度に保持されている間に形成され得る。本開示によれば、上記速度で急速冷却して、形成可能時間を短縮することで、金属間化合物相の形成を抑制できる。金属間化合物相は、上記合金成分に比べて磁化特性が低い。金属間化合物相の形成が抑制されることで、磁化特性の高いFe-Co系軟質磁性材料を得られる。
本開示の第2態様に係るFe-Co系軟質磁性材料の製造方法では、第1態様に記載の製造方法において、挟み込み部材で前記圧延材を両面から挟み込み、前記挟み込み部材と前記圧延材との位置を固定した後、前記挟み込み部材に挟み込まれた状態で前記圧延材を磁気焼鈍する。
一般的に、冷却速度が速いと、圧延材に温度勾配がつき、熱応力などで変形することがある。本態様によれば、挟み込み部材で圧延材を挟み込んで固定することで、挟み込み部材が物理障壁として作用して、圧延材の変形を抑制できる。
本開示の第3態様に係るFe-Co系軟質磁性材料の製造方法では、第2態様に記載の製造方法において、前記挟み込み部材の熱容量を調整して、前記圧延材の冷却速度を制御する。
上記態様は、空冷または水冷により4000℃/hr以上の冷却速度で圧延材を冷却できるが、周囲温度が高いなど、周囲環境の影響で4000℃/hr以上の冷却速度を達成できない可能性がある場合に好適である。
本開示の第4態様に係るFe-Co系軟質磁性材料の製造方法では、第1態様~第3態様のいずれかに記載の製造方法において、前記磁気焼鈍において、大気環境、300℃/hr以上の速度で不規則相が安定な温度領域の温度まで昇温した後、30分以内の時間保持し、その後、前記圧延材を水素環境または真空環境に移し、不規則相が安定な温度領域の温度で保持する。
昇温を大気環境で行うことで、昇温時に、熱処理炉内を水素環境または真空環境にする必要がない。そのため、昇温に使用できる熱処理炉の選択肢が増え、300℃/hr以上の昇温速度の実現が容易となる。不規則相が安定な温度領域の温度で30分以内の時間保持することで、結晶粒を粗大化できる。
大気環境で焼鈍した圧延材の表面には酸化被膜が形成され得るが、大気環境で焼鈍した圧延材を水素環境下または真空環境下に置き、不規則相が安定な温度領域の温度で保持することで酸化被膜を還元除去できる。
本開示の第5態様に係るFe-Co系軟質磁性材料は、重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金の圧延材が焼鈍処理されてなり、ビッカース硬さが230HV以下である。
金属間化合物相が形成されると、Fe-Co系軟質磁性材料の硬度が高くなる。ビッカース硬さが230HV以下のFe-Co系軟質磁性材料は、従来法で製造したFe-Co系軟質磁性材料よりも柔らかい。すなわち、ビッカース硬さが230HV以下のFe-Co系軟質磁性材料では、従来よりも金属間化合物相が少ない。このようなFe-Co系軟質磁性材料は、Fe-Co系合金の成分と近い磁化特性および電気抵抗率を有する。
本開示の第6態様に係るFe-Co系軟質磁性材料は、第5態様に記載のFe-Co系軟質磁性材料において、組織中の結晶粒径の逆数の平均値が0.13μm-1以下である。
従来法で製造したFe-Co系軟質磁性材料の組織中の結晶粒径の逆数の平均値は、0.15-0.20である。上記態様によれば、従来よりも粗大な結晶粒を有する。このようなFe-Co系軟質磁性材料は、従来よりも鉄損が小さい。
1 (第1)挟み込み部材
2 (第2)挟み込み部材
3 圧延材
4 固定部材

Claims (6)

  1. 重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金からなる圧延材を、300℃/hr以上の速度で、不規則相が安定な温度領域の温度まで昇温し、該不規則相が安定な温度領域の温度で磁気焼鈍した後、4000℃/hr以上の速度で冷却するFe-Co系軟質磁性材料の製造方法。
  2. 挟み込み部材で前記圧延材を両面から挟み込み、前記挟み込み部材と前記圧延材との位置を固定した後、前記挟み込み部材に挟み込まれた状態で前記圧延材を磁気焼鈍する請求項1に記載のFe-Co系軟質磁性材料の製造方法。
  3. 前記挟み込み部材の熱容量を調整して、前記圧延材の冷却速度を制御する請求項2に記載のFe-Co系軟質磁性材料の製造方法。
  4. 前記磁気焼鈍において、大気環境、300℃/hr以上の速度で不規則相が安定な温度領域の温度まで昇温した後、30分以内の時間保持し、その後、前記圧延材を水素環境または真空環境に移し、不規則相が安定な温度領域の温度で保持する請求項1に記載のFe-Co系軟質磁性材料の製造方法。
  5. 重量%で、Co:40~60%、V:5.0%以下、Si:3.0%以下
    Al:3.0%以下、C:0.1%以下を含み、さらに必要に応じてCr,Ni、Mn、Ti、Mo、Nb、W,Zrから選択された1種以上を合計で10%以下含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系合金の圧延材が焼鈍処理されてなるFe-Co系軟質磁性材料であって、
    ビッカース硬さが230HV以下であるFe-Co系軟質磁性材料。
  6. 組織中の結晶粒径の逆数の平均値が0.13μm-1以下である請求項5に記載のFe-Co系軟質磁性材料。
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