JP2023542516A - アルツハイマー病の前駆フェーズにおける新規な神経保護治療ターゲットとしてのアストロサイトtrpa1チャネル抑制 - Google Patents

アルツハイマー病の前駆フェーズにおける新規な神経保護治療ターゲットとしてのアストロサイトtrpa1チャネル抑制 Download PDF

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Abstract

本発明は、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防における神経保護剤として、および、アルツハイマー病における神経炎症過程の治療および/または予防における抗炎症剤として使用するためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤に関する。本発明は、特に、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防における神経保護剤として、および、アルツハイマー病における神経炎症過程の治療および/または予防における抗炎症剤として使用するためのTRPA1カルシウムチャネルの抑制剤HC030331に関する。本発明は、少なくとも、本発明の上記抑制剤と、少なくとも1つの薬学的に許容な賦形剤とを包含する薬学的組成物に関する。

Description

本発明の背景
本発明は、神経変性疾患、特に、アルツハイマー病の治療および予防の分野に関し、特に、アルツハイマー病に対する神経保護に関する。
アルツハイマー病は、ヒトにおける認知症の主な原因であり、主要な認知および記憶機能の深刻な喪失を伴う。現在、アルツハイマー病は、不治の疾患であり、近年のさまざまな治療戦略が失敗しているので、有効な治療ターゲットが喫緊に必要であることが明らかになってきた。
この病変は、記憶障害が現れるかなり前から開始している。この長い無症状フェーズは、将来の治療が神経変性の機構を防止するためにターゲットにすべきものである。最近の研究により、アルツハイマー病のヒトおよび動物モデルの海馬内の特定回路における異常に高い神経細胞活動を特徴とする前駆的警告症状が明らかになってきた。この神経活動過多は、日常の活動に著しい変化を与えない程度の記憶障害に関連づけられてきた(非特許文献1)。本願発明者らは、本願においてこの初期フェーズに注目する。
中枢神経系のレベルでは、アストロサイトは、単なる支持細胞であるとはもはや考えることができず、現在では、その周囲に影響を与え、近傍の神経細胞の機能を調整すると認められている。特に、アストロサイトは、神経変性疾患の進行に大きく寄与する可能性がある。
アルツハイマー病におけるアストロサイトの役割が主に観察されてきたのは、アストロサイト炎症表現型およびアストログリオーシス(astrogliosis)が老人班の形成に関連づけられてきた病変の進行した段階である(非特許文献2)。
驚くべきことに、アルツハイマー病の初期段階のおけるアストロサイトの関与や役割は、ほとんど調べられていないままである。しかし、アストログリオーシスや炎症の他に、毒性物質のクリアランスの低減、アンバランスな局所神経細胞活動、グルタミン酸作動性恒常性不全などの、いくつかのアストロサイト機能における変化は、神経細胞に対する有害なシナプス毒性を増幅または誘導さえし得る。
本願発明者らは、これらの細胞がアルツハイマー病のネズミモデルにおける海馬ネットワークの初期の神経細胞活動過多の成立に関与することを明らかにしてきた。本願発明者らは、この活動過多の成立に重要な役割を有する、これらのアストロサイトによって発現されたチャネル、すなわち、TRPA1チャネルを特定するに至った。
TRPA1チャネルは、脊髄の後根、三叉神経核および結節(nodosum)の知覚神経節からの侵害受容性神経細胞のサブ集団において最初に明らかにされた(非特許文献3)。TRPA1チャネルは、特に、急性炎症疼痛の侵害受容性伝達に関与する。三叉神経核において、TRPA1の発現は、いくつかの侵害受容性神経細胞において見られてきたが、アストロサイトの微細な伸長部においても見られてきた。このアストロサイト発現は、炎症時に増大する(非特許文献4)。中枢神経系のレベルにおいては、TRPA1チャネルの発現の記述はあまりない。しかし、アストロサイト特異的発現は、ラットおよびマウスの海馬において報告されてきた。ラットにおいて、このアストロサイトTRPA1チャネルは、海馬における細胞外GABAのレベルの調整およびしたがってGABA作動性介在神経細胞の抑制性伝達の調整に関与するとされてきた(非特許文献5)。マウスにおいて、同じ研究チームが、アストロサイトDセリンの放出を介した長期増強現象におけるアストロサイトTRPA1の関与を明らかにしてきた(非特許文献6)。
アルツハイマー病の病理学において、アルツハイマー病の後期段階(マウスモデルにおける8か月目)のおけるTRPA1チャネルの抗炎症の役割が記載されてきた。この抗炎症の役割は、アストロサイトの炎症性サイトカインの放出に関係づけられてきた(非特許文献7)。
HC030031は、TM4およびTM5膜貫通ドメイン間のTRPA1チャネルの細胞内部分である「リンカー」において特定されている結合部位を有するTRPA1特異的抑制剤(IC50:~6.2μM)(非特許文献8、非特許文献9)。HC030031の経口投与(100mg/kg)は、ラットにおける神経障害性疼痛および炎症疼痛のモデルにおいて著しい鎮痛効果を示した(非特許文献10)。また、HC030031の皮下投与(100μg/10μl)または胃内投与(300mg/kg)は、マウスにおいて三叉神経の神経障害様疼痛挙動を止めた(非特許文献11)。これらの研究は、この薬理的物質をげっ歯動物における研究に使用することの有効性を示す。
本願発明者らは、アルツハイマー病の初期段階、特に、ヒトにおいてますます研究されている、いわゆる「前駆(prodromal)段階」に注目してきた。この先触れ段階は、最初の症状よりも数年早く現れる。
アルツハイマー病の前駆段階において、患者は、軽度記憶障害を呈し、行動や気分に変化が生じる。これらの障害には、医用イメージングによって検出される海馬ネットワーク(記憶の場所)の活動過多が関わっており、この活動過多は、新たな記憶の正確なコーディング(coding)を妨げ得る(非特許文献12)。しかし、この段階において、神経心理学テストの成績は、維持され得るので、この疾患の警告徴候を検出できないことがある。神経生物学的には、アミロイドβペプチドなどのバイオマーカーが既に存在する。
Haberman et al.,Neurotherapeutics 2017 Osborn et al.,Prog.Neurobiol.2016;Kuchibhotla et al.,Science 2009 Lee et al.,J.Chem.Neuroanat.2012 Lee SM et al.,J.Chem.Neuroanat.2012 Shigetomi et al.,Nat.Neurosci.2012 Shigetomi et al.,J.Neurosci.2013 Lee KI et al.,J.Neuroinflammation 2016 McNamara et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2007 Gupta et al.,Sci.Rep.2016 Eid et al.,Mol.Pain.2008 Trevisan et al.,Brain 2016 Haberman et al.,Neurotherapeutics 2017
したがって、本発明の主題は、臨床上の発現、特に、記憶障害が現れる前の事象に関係する。
本発明の簡単な説明
本願発明者らは、TRPA1チャネルがアルツハイマー病のネズミモデル(1か月齢のAPP/PS1-21動物)の海馬のCA1領域における初期のアストロサイトのカルシウム活動過多の原因であることを明らかにしてきた。
このアストロサイトの活動過多は、TRPA1チャネル抑制剤であるHC030031を40μMで海馬の急性スライスに適用することによって抑制される(インビトロ)。また、本願発明者らは、このTRPA1チャネルを抑制すると、アルツハイマー病の初期フェーズを特徴づける、記憶症状の前兆である海馬神経細胞の活動過多が修復されることを示してきた。
このように、このTRPA1チャネルは、最初の老人班(マウスにおいて、>3か月)、炎症過程(マウスにおいて、>4か月)または記憶および認知障害(マウスにおいて、>8か月)が現れるかなり前に、シナプス毒性および神経細胞機能不全の成立に関与する可能性がある。
本願発明者らによって観察された結果によれば、TRPA1がアルツハイマー病の初期段階における治療ターゲットとして重要であると考えることが可能になる。実際に、アルツハイマー病のマウスモデルにおいて、インビボで、TRPA1特異的抑制剤であるHC030031を動物に投与すると、海馬の神経細胞活動が前駆段階での基底レベルに回復する。
HC030031などのTRPA1チャネル抑制剤による薬理学的抑制は、アミロイドβペプチドの神経細胞毒性の開始を防止すると考えられ、したがって、アルツハイマー病の初期フェーズにおいて神経保護の役割を有すると考えられる。
したがって、血液脳関門を通り抜けるTRPA1チャネル抑制剤を用いた長期的な治療を行えば、有害な神経細胞効果の成立を防止し、したがって、アルツハイマー病のより進行した段階に伴う記憶障害および認知低下の発生を予防するであろう。
HC030031などのTRPA1チャネル抑制剤のこの神経保護効果や、アルツハイマー病の初期段階の予防および/または治療においてそれを使用することは、前駆段階がほとんど研究されていないままであることを考慮すると、特に革新的である。
また、本願発明者らは、TRPA1チャネルの抑制によって、若干より後期の段階における急激な病理的悪化の原因である中枢神経系の炎症のいくつかの現象が修復されることを明らかにしてきた。
さらに、TRPA1チャネルは、攻撃事象(特に、アミロイドβペプチドの存在によって特徴づけられる毒性によるもの)の極めて初期において利用されるがアストロサイト機能にはほとんど生理学的影響を与えないと思われるので、特に注目すべきターゲットである。抑制剤HC030031または任意の他の適切な抑制剤によってTRPA1チャネルを特異的に抑制すれば、攻撃による神経細胞への影響(機能不全、そして神経細胞死)を、場合によっては、ほとんど悪影響なく、阻止することが可能になるであろう。これは、臨床の視点からは大きな利点になる。
実際に、本願発明者らによって得られたデータは、健康なWT(野生型)マウスにおいてTRPA1チャネルを長期に遮断しても、アストロサイトの活動、神経細胞の機能、シナプスの構造、および記憶成績に影響がないことを示した。これは、TRPA1チャネルが治療ターゲットとして適切であることを補強する。
症状発現前の海馬の活動過多が疾患進行の原因とされる初期の神経機能不全であるという知見は、アルツハイマー病を理解する上での大きな概念的変化である。特に、この初期段階において海馬の活動過多に影響を与えれば、海馬の活動過多を修復することが可能であるように思われるからである。
図1Aは、それぞれ1か月齢のWT対照(野生型、淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1トランスジェニック(濃い灰色)マウス(6匹のAPP/PS1マウスからのn=8個の神経細胞、および5匹のWTマウスからのn=7個の神経細胞)、2か月齢(5匹のAPP/PS1マウスからのn=8個の神経細胞、および4匹のWTマウスからのn=7個の神経細胞)、および3か月齢(7匹のAPP/PS1マウスからのn=14個の神経細胞、および5匹のWTマウスからのn=10個の神経細胞)のCA1錐体神経細胞のsEPSC(自発興奮性後シナプス電流)の周波数を表すグラフである。 図1Bは、それぞれ1か月齢のWT(淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1(濃い灰色)マウス(6匹のAPP/PS1マウスからのn=8個の神経細胞、および5匹のWTマウスからのn=7個の神経細胞)、2か月齢(5匹のAPP/PS1マウスからのn=8個の神経細胞、および4匹のマウスWTからのn=7個の神経細胞)、および3か月齢(7匹のAPP/PS1マウスからのn=14個の神経細胞、および5匹のWTマウスからのn=10個の神経細胞)のCA1錐体神経細胞のsEPSC振幅を表すグラフである。 図1Cは、それぞれ1か月齢のWT(淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1(濃い灰色)マウス(7匹のAPP/PS1マウスからのn=8個のアストロサイト、および6匹のWTマウスからのn=8個のアストロサイト)、および3か月齢(4匹のAPP/PS1マウスからのn=10個のアストロサイト、および3匹のWTマウスからのn=8個のアストロサイト)におけるアストロサイトの樹状分岐のレベルでのマイクロドメインの活動を表すグラフである。 図1Dは、1か月齢のWT(淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1(濃い灰色)マウス(APP/PS1マウスにおける8個のアストロサイトからのn=650個のマイクロドメイン、およびWTマウスにおける8個のアストロサイトからのn=454個のマイクロドメイン)、および3か月齢(APP/PS1マウスにおける10個のアストロサイトからのn=1504個のマイクロドメイン、およびWTマウスにおける8個のアストロサイトからのn=840個のマイクロドメイン)における各活性マイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度を表すグラフである。各点は、各個別のアストロサイトにおいて記録された平均頻度に対応する。 図1Eは、Thy1-eYFP-H-APP/PS1-21トランスジェニックマウスおよび同腹のWTマウスにおいてeYFPを発現するCA1錐体神経細胞樹状突起の部分の、1か月目および3か月目における、蛍光顕微鏡法で撮影した画像に対応する。スケールバーは、2μmである。 図1Fは、1か月齢のWT(淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1(濃い灰色)マウス(3匹のAPP/PS1マウスからのn=32個の樹状突起、および3匹のWTマウスからのn=28個の樹状突起)、および3か月齢(3匹のAPP/PS1マウスからのn=23個の樹状突起、および3匹のWTマウスからのn=22個の樹状突起)における1μmあたりの樹状突起スパイン密度を表すグラフである。 図1Gは、1か月齢のWT(淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1(濃い灰色)マウス(3匹のAPP/PS1マウスからのn=32個の樹状突起、および3匹のWTマウスからのn=28個の樹状突起)、および3か月齢(3匹のAPP/PS1マウスからのn=23個の樹状突起、および3匹のWTマウスからのn=22個の樹状突起)における樹状突起スパイン形態の分布を表すグラフである。 図1Hは、3か月齢のWTマウスおよびAPP/PS1マウスにおける放射状層の電子顕微鏡法によって撮影された画像に対応し、WTマウスにおけるアストロサイトのシナプス周囲突起によって囲まれたシナプスの存在(白色の矢印)、およびAPP/PS1動物におけるこれらのアストロサイト伸長部の欠如を示す。近似のスケールバー:0.5μm。 図1Iは、3か月齢のWT(淡い灰色)マウスおよびAPP/PS1(濃い灰色)マウス(3匹のAPP/PS1マウスからのn=480個のシナプス、および3匹のWTマウスからのn=441個のシナプス)における、アストロサイトによって囲まれたシナプスの割合を表すグラフである。各点は、各個別のマウスにおいて測定された平均割合に対応する。*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001(マン・ホイットニーまたはフィッシャー検定) 図2Aは、1か月齢のWTマウス(HC030031で処置した2匹のマウスからのn=4個の神経細胞、および担体で処置した4匹のマウスからのn=7個の神経細胞)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置した5匹のマウスからのn=11個の神経細胞、および担体で処置した5匹のマウスからのn=7個の神経細胞)におけるCA1錐体神経細胞のsEPSC(自発興奮性後シナプス電流)の周波数を表すグラフである。 図2Bは、1か月齢のWT(HC030031で処置した2匹のマウスからのn=4個の神経細胞、および担体で処置した4匹のマウスからのn=7個の神経細胞)、およびAPP/PS1-21(HC030031で処置した5匹のマウスからのn=11個の神経細胞、および担体で処置した5匹のマウスからのn=7個の神経細胞)におけるCA1錐体神経細胞のsEPSC振幅を表すグラフである。 図2Cは、1か月齢のWTマウス(HC030031で処置した2匹のマウスからのn=7個のアストロサイト、および担体で処置した3匹のマウスからのn=8個のアストロサイト)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置した3匹のマウスからのn=10個のアストロサイト、および担体で処置した3匹のマウスからのn=8個のアストロサイト)におけるアストロサイトの樹状分岐のレベルでのマイクロドメインのカルシウム活動を表すグラフである。 図2Dは、1か月齢のWTマウス(HC030031で処置したマウスにおける7個のアストロサイトからのn=816個のマイクロドメイン、および担体で処置したマウスにおける8個のアストロサイトからのn=995個のマイクロドメイン)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置したマウスにおける10個のアストロサイトからのn=771個のマイクロドメイン、および担体で処置したマウスにおける8個のアストロサイトからのn=1303個のマイクロドメイン)における各活性マイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度を表すグラフである。各点は、各個別のアストロサイトにおいて記録された平均頻度に対応する。*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001(クラスカル・ウォリス検定) 図3Aは、3か月齢のWTマウス(HC030031で処置した6匹のマウスからのn=11個の神経細胞、および担体で処置した9匹のマウスからのn=10個の神経細胞)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置した7匹のマウスからのn=11個の神経細胞、および担体で処置した8匹のマウスからのn=12個の神経細胞)におけるCA1錐体神経細胞のsEPSC振幅を表すグラフである。 図3Bは、3か月齢のWTマウス(HC030031で処置した6匹のマウスからのn=11個の神経細胞、および担体で処置した9匹のマウスからのn=10個の神経細胞)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置した7匹のマウスからのn=11個の神経細胞、および担体で処置した8匹のマウスからのn=12個の神経細胞)におけるCA1錐体神経細胞のsEPSC振幅を表すグラフである。 図3Cは、3か月齢のWTマウス(HC030031で処置した4匹のマウスからのn=8個のアストロサイト、および未処置の3匹のマウスからのn=8個のアストロサイト)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置した3匹のマウスからのn=7個のアストロサイト、および未処置の3匹のマウスからのn=10個のアストロサイト)におけるアストロサイトの樹状分岐のレベルでのマイクロドメインのカルシウム活動を表すグラフである。 図3Dは、3か月齢のWTマウス(HC030031で処置したマウスにおける8個のアストロサイトからのn=1267個のマイクロドメイン、および未処置のマウスにおける8個のアストロサイトからのn=840個のマイクロドメイン)、およびAPP/PS1-21マウス(HC030031で処置したマウスにおける7個のアストロサイトからのn=1052個のマイクロドメイン、および未処置のマウスにおける10個のアストロサイトからのn=1504個のマイクロドメイン)におけるアストロサイトのサブ領域内のカルシウム事象の頻度を表すグラフである。各点は、各個別のアストロサイトにおいて記録された平均頻度に対応する。 図3Eは、担体またはHC030031で処置した、3か月齢のThy1-eYFP-H-APP/PS1-21トランスジェニックマウスおよび同腹のWTマウスにおいてeYFPを発現するCA1錐体神経細胞樹状突起の部分の、蛍光顕微鏡法で撮影した画像に対応する。スケールバーは、2μmである。 図3Fは、3か月齢のWTマウス(HC030031で処置した3匹のAPP/PS1マウスからのn=24個の樹状突起、および担体で処置した2匹のマウスからのn=14個の樹状突起)、およびThy1-eYFP-H-APP/PS1-21マウス(HC030031で処置した3匹のAPP/PS1マウスからのn=21個の樹状突起、および担体で処置した2匹のマウスからのn=14個の樹状突起)における1μmあたりの樹状突起スパイン密度を表すグラフである。 図3Gは、3か月齢のWTマウスおよびThy1-eYFP-H-APP/PS1-21マウスにおける樹状突起スパイン形態の分布を表すグラフである。 図3Hは、HC030031で処置した3か月齢のAPP/PS1マウスにおける放射状層の電子顕微鏡法による形態分析を表し、アストロサイトのシナプス周囲突起によって囲まれたシナプス(矢印)の例を示す。近似のスケールバー:0.5μm。ヒストグラムは、3か月齢のマウス(未処置の3匹のマウスからのn=441個のシナプス、およびHC030031で処置した3匹のマウスからの124個のシナプス)、およびAPP/PS1-21マウス(未処置の3匹のマウスからのn=480個のシナプス、およびHC030031で処置した3匹のマウスからの122個のシナプス)における、囲まれたシナプスの割合に対するHC030031の腹腔内注射剤の影響を示す。*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001、n.s.有意でない(クラスカル・ウォリスまたはフィッシャー検定) 図4Aは、6か月齢の担体で処置したWTマウス(n=6匹のマウス)、担体で処置したAPP/PS1-21マウス(n=10匹のマウス)、HC030031で処置したWTマウス(n=9匹のマウス)、およびHC030031で処置したAPP/PS1-21マウス(n=11匹のマウス)において、空間タスク学習を評価するためのバーンズ迷路テスト(6か月間毎日行った)の結果を表すグラフである。 図4Bは、図4Aにおける条件下に、6か月齢のマウスがバーンズ迷路エスケープ・ボックスに到達するまでの遅延曲線の下の面積を表すグラフである。 図4Cは、図4Aにおける条件下に、6か月齢のマウスがバーンズ迷路を通るマウス移動速度を表すグラフである。 図4Dは、図4Aにおける条件下に、6か月齢のマウスがテスト期間中に目標に到達するまでの遅延を表すグラフである。*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001、n.s.有意でない(クラスカル・ウォリスまたは二元Anova検定)
発明の詳細な説明
本発明は、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防における神経保護剤として、および、アルツハイマー病における神経炎症過程の治療および/または予防における抗炎症剤として使用するためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤に関する。
本明細書において、アルツハイマー病の「初期段階」という用語は、前駆フェーズ、すなわち、ヒトにおける、最初の症状よりも数年早く現れる先触れ段階を意味する。アルツハイマー病の前駆段階において、患者は、軽度記憶障害を呈し、行動や気分に変化が生じる。これらの障害には、医用イメージングで検出される海馬ネットワーク(記憶の場所)の活動過多が関わっている。しかし、この段階において、神経心理学テストの成績は、維持され得るので、この疾患の警告徴候を検出できないことがある。神経生物学的には、アミロイドβペプチドなどのバイオマーカーが既に存在する。
アルツハイマー病の遺伝子的な家族性形態は、散発性形態と区別される。家族性形態は、遺伝性であり、アルツハイマー病の症例のおよそ1%を占め、この病変の初期形態によって顕在化する。そのような初期形態は、アルツハイマー病患者において40歳あたりで引き起こされる。他方の形態である散発性形態は、より後に引き起こされる。この疾患が現れる平均年齢は、約70~80歳である。世界人口の中でこの散発性形態を患う割合は、増大している。
アルツハイマー病患者における前駆段階は、以下の手段によって明らかにできる。
-家族性形態の対する変異(特に、PSEN1、PSEN2およびAPP)を有する患者を特定可能な遺伝子テスト(これらのテストは、遺伝子に関するアドバイスを実施した上で特定された家族に提供される)
-海馬における神経細胞の活動過多を明らかにするMRI型神経イメージング。CT、PET(陽電子放出断層撮影法)またはEEG(脳波記録法)を用いてもよい。また、血液バイオマーカー(例えば、アイソフォームAβ-42、総タウタンパク質のt-タウ、p-タウ、複数の代謝産物(コリン、L-カルニチン、クレアチニン、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴミエリン、C22:0およびC24:0セラミド、アミノ酸)、Wang et al.,July 2021,Frontiers in Pharmacology,Volume 12、Henriques de Aquino,Aug.2021,Frontiers in Neurology,Volume 12を参照)の検出。これらにより、散発性形態の症状が現れる前に、極めて早期にこの疾患を検出することができる。これらの診断方法は、十分に開発されており、血液バイオマーカーを特定することで、おそらく短/中期間で大規模な早期診断が可能になる。
本発明の抑制剤による神経保護は、前駆段階において、アルツハイマー病の最初の症状が現れる前に、極めて早期に確保できる。この段階は、詳細に説明されており、「軽度認知障害」(MCI)として知られている。さまざまなアルツハイマー病評価スケールが開発されている(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive(ADAS-Cog)型、Clinical Dementia Rating Scale sum of boxes(CDR-SB)型)。これらのスケールは、点数を介して、患者において特定された障害と、疾患の段階を相関づける。本発明によって提案される前駆段階から作用させることがこの疾患に対処するために必須である。この疾患は、ひとたび症状が現れたら、不可逆的な神経変性を伴う。
「神経炎症過程」は、アストログリオーシスおよびミクログリオーシスに対応する。アストログリオーシスおよびミクログリオーシスは、アルツハイマー病のより進行した段階において生じ、特に、炎症性分子の産生を生じさせるグリア機能の変化によって顕在化する。これらの有害な神経炎症過程は、アミロイド斑の形成が関わっており、アルツハイマー病の病原に関与する。
「アストロサイト」は、中枢神経系のグリア細胞であり、神経細胞の支持および保護に重要な役割を有する。アストロサイトは、細胞間のカルシウム波、すなわち、近傍のアストロサイトへ送られる「カルシウム事象」に基づいて、ある形態のコミュニケーションを与えることができる。生理学的条件(健康な脳)下に、アストロサイトは、シナプスの構造および機能完全性の維持に寄与する基底(basal)自発カルシウム活動を有する。アルツハイマー病の初期段階において、アミロイドベータペプチド(Aβ)が可溶性のオリゴマー形態で存在すると、アストロサイトの機能が破壊される。TRPA1カルシウムチャネルの活性化作用を介して、アストロサイトは、活動過多になり、その結果、近傍の神経細胞の活動過多が誘発される。これらの組み合わさった現象は、いずれは、シナプス毒性の現象を引き起こし、その結果、神経細胞の活動過多、樹状突起スパインの崩壊、シナプスからのアストロサイトの剥落、および神経細胞コミュニケーションの機能不全(後期発症前段階)が生じる。これは、最終的に、神経細胞死、すなわち、記憶障害および認知症の前触れ(アルツハイマー病の症候段階)を引き起こす。
本発明の抑制剤は、HC030031、Chembridge-5861528、A-967079、AP-18、GRC-17536、CB-625、ODM-108、GSK205、GDC-0334およびそれらの誘導体からなる群から選択可能である。以下の文献において提示された、主にその鎮痛性によって知られる他の抑制剤を使用してもよい。Algomedixが出願人のPCT特許出願WO2015103060、Almirallが出願人のWO2015155306、WO2017060488、WO2017064058、Duke University/The Regents of the University of Californiaが出願人のWO2016028325、WO2017177200、EA Pharmaが出願人のWO2015115507、WO2017018495およびWO2017135462、Eli Lilly Companyが出願人のWO2019152465、Galdermaが出願人のWO2018109155、Genetech、Inc.が出願人のWO2014049047、WO2015052264、WO2016128529、WO2018015410、WO2018015411、WO2018029288、WO2018096159、WO2018162607およびWO2019182925、Glenmark Pharmaceuticalsが出願人のWO2015056094およびWO2016042501、Hydra Biosciencesが出願人のWO2015164643およびWO2016044792、花王株式会社が出願人のWO2015002095、Mandom Corporationが出願人のWO2018180460、Orion Corporationが出願人のWO2015144976およびWO2015144977、Pfizer、Incが出願人のWO2016067143である。
また、本発明において、上記化合物の塩および誘導体、ならびにそれらの薬学的に許容な形態が考えられる。
好適な実施形態において、本発明の抑制剤は、下記式のHC030331である。
HC030331は、2007年にHydra Bioscienceによって発見されたTRPA1チャネル特異的抑制剤である。
一実施形態において、TRPA1カルシウムチャネル抑制剤は、脳イメージングによって検出可能である海馬における神経細胞の活動過多および軽度記憶障害によって特徴づけられるか、または、リスクのある特定家族におけるアルツハイマー病の遺伝性遺伝子形態に関連づけられるアルツハイマー病の前駆フェーズから、TRPA1カルシウムチャネル抑制剤を必要とする患者に投与されることが意図され得る。脳イメージングの代替として、または、それに加えて、この前駆フェーズをより良好に特定するために使用可能な、ヒトにおける早期バイオマーカーを特定する研究が行われている。
したがって、リスクのある患者(家族性アルツハイマー病)において、または、診断方法が進展(早期バイオマーカーの開発)している状況において、または、脳イメージングによる診断が行われ(機能的磁気共鳴イメージング(fMRI、Habermann et al.,Neurotherapeutics 2017)、海馬における神経細胞の活動過多が明らかにされるならば、上記抑制剤を早期に投与し、不可逆的な神経変性過程を停止することが可能になるであろう。
早期バイオマーカーに関して、診断を容易にし、拡張させ得る、血液中で検出可能なバイオマーカーを特定しようと多くの研究が進行中である(参考のため、Scheltens et al.,The Lancet, 2016を参照)。その際、大きな集団における予防のために上記抑制剤の使用が可能になる。
「海馬」は、記憶および空間ナビゲーションにおいて重要な役割を有する終脳の構造を意味する。海馬は、アルツハイマー病において影響を受ける最初の構造のうちの1つであり、この神経変性疾患の発症を特徴づける記憶障害および見当識障害の原因になる。この構造の活動過多は、記憶の正確なコーディングを妨げ、既存の結合を進行的に破壊する。次いで、これは、不可逆的な変性を引き起こす有害な悪循環を生じさせる。したがって、この初期フェーズは、ターゲット対象になる。
一特定の実施形態において、上記抑制剤は、当該抑制剤を必要とする患者に薬学的に有効な量で投与することが意図され得る。
「患者」という用語は、両方の性別の動物またはヒトの患者を指す。
本明細書において、「必要である」という表現は、アルツハイマー病の前駆段階を示す患者を指す。これは、軽度記憶障害の形態で顕在化可能であり、行動や気分に変化が生じる。これらの障害には、医用イメージングによって、または、血液バイオマーカーを使用して検出される海馬ネットワーク(記憶の場所)の活動過多が関わっているか、または、リスクのある特定家族におけるアルツハイマー病の遺伝性遺伝子形態が関わっている。
「薬学的に有効な量」は、治療または予防を必要とする患者に投与される場合に、当該治療または予防を行うのに十分な量を意味する。治療的に有効な量は、患者、治療および/または予防対象の疾患の段階、および投与方式に依存し、当業者による慣用手段によって決定できる。したがって、当該量は、患者の年齢および性別によって変化し得る。
さらに、任意の患者に対する具体的な治療的に有効な用量は、治療中の障害およびその障害の重篤度、使用される特定化合物の活性度、患者に使用される特定組成物や、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別および食餌、使用される特定化合物の投与期間、投与経路、および排出速度、治療期間、使用される特定化合物と併用または同時に使用される薬剤、ならびに医療分野において周知の類似の要因などのさまざまな要因に依存し得る。例えば、化合物の用量や頻度を所望の治療効果を得るために必要な用量や頻度よりも少ない用量や頻度で開始し、そして、所望の効果が得られるまで、徐々に用量や頻度を増やすことは、十分に当業者の技術範囲内である。
一例として、動物において、上記抑制剤は、経口投与の場合、100mg/kg体重(mg/kg of body mass)のオーダーの濃度で、または、腹腔内または皮下投与経路の場合、5mg/kg体重のオーダーの濃度で投与できる。上記抑制剤の濃度および投与方式は、当業者による慣用手段によって決定できる。
一特定の実施形態において、上記抑制剤は、経口経路、静脈内経路、動脈内経路、皮内経路、腹腔内経路、心臓内経路、脳室内経路、経皮経路、局所経路、皮下経路、経鼻経路または肺経路からなる群から選択される投与経路のうちのいずれか1つによって投与されることを意図される。
したがって、投与方式は、注射または徐々の注入によって行うことができる。注射は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または経皮で行うことができる。
好ましくは、上記抑制剤は、経口または静脈内で投与されることが意図される。
経口投与に適切な形態の例としては、錠剤、口内分散性錠剤、発泡性錠剤、粉末、顆粒、丸薬(甘味丸薬を含む)、糖衣丸薬、カプセル(ソフトゼラチンカプセルを含む)、シロップ、液体、ゲルまたは他の溶液、懸濁液、スラリー、リポソームおよび類似の形態などがあるが、それらに限定されない。
注射に適切な形態の例としては、溶液、例えば、滅菌水溶液、分散液、乳濁液、懸濁液、使用前に液体を加えることによって溶液または懸濁液を調製する際の使用に適する固体形態(例えば、粉末、リポソームまたは類似の形態)などがあるが、それらに限定されない。
HC030031などの抑制剤は、大きさが小さくかつ親油性であるので、血液脳関門を通り抜け、したがって容易に脳に運ばれることが可能である。
本発明は、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防ならびにアルツハイマー病の神経炎症過程の治療および/または予防において使用するための薬学的組成物であって、少なくとも本発明の抑制剤と、少なくとも1つの薬学的に許容な賦形剤とを含む薬学的組成物に関する。
「薬学的に許容な賦形剤」は、組成物の活性原理の生物学的活動の有効性を妨害せず、かつ、細胞、細胞培養、組織または生物などの生物学的システムと整合する非毒性材料を意味する。賦形剤の特性は、投与方式に依存する。賦形剤は、任意の溶剤、分散媒体、被覆剤、抗菌および抗カビ剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に許容な担体または賦形剤は、任意のタイプの、非毒性固体、半固体または液体充填剤、希釈剤、カプセル化材または補助調製物を指す。
一特定の実施形態において、上記組成物は、当該組成物を必要とする患者に薬学的に有効な量で投与することが意図される。
別の特定実施形態において、上記組成物は、経口経路、静脈内経路、動脈内経路、皮内経路、腹腔内経路、心臓内経路、脳室内経路、経皮経路、局所経路、皮下経路、経鼻経路または肺経路からなる群から選択される投与経路うちのいずれか1つによって、当該組成物を必要とする患者に投与されることが意図される。
好ましくは、上記組成物は、経口または静脈内で投与可能である。
一特定の実施形態において、上記組成物は、脳イメージングによって検出可能である海馬における神経細胞の活動過多および軽度記憶障害によって特徴づけられるか、または、リスクのある特定家族におけるアルツハイマー病の遺伝性遺伝子形態に関連づけられるアルツハイマー病の前駆フェーズから、上記組成物を必要とする患者に投与されることが意図される。
また、本発明は、上記抑制剤または上記組成物を使用してアルツハイマー病の初期段階を治療および/または予防するための方法、および、上記抑制剤または上記組成物を使用してアルツハイマー病の神経炎症過程を治療および/または予防するための方法に関する。
この目的のために、本発明の抑制剤または組成物は、脳イメージングによって、または、血液バイオマーカーを使用して検出可能である海馬における神経細胞の活動過多および軽度記憶障害によって特徴づけられるか、または、リスクのある特定家族におけるアルツハイマー病の遺伝性遺伝子形態に関連づけられるアルツハイマー病の前駆フェーズから上記組成物を必要とする患者に投与されることが意図される。
以下に、本発明の目的をより良好に例示するために、添付の図面とともに以下の例を例示することによって説明するが、これに限定されない。
図1Aを参照すると、1か月齢のAPP/PS1-21マウスにおけるCA1神経細胞のsEPSCの周波数がWT対照マウスと比較して増大することが分かる。これに対して、3か月齢のAPP/PS1-21マウスでは、活動過多が徐々に低活動(hypoactivity)に変化する。変異PS1と併せて変異APPを過剰に発現するトランスジェニックマウスは、高レベルのアミロイドβを生成し、そして、ヒトの脳において見られるアミロイド病変と類似したアミロイド病変を生じさせる(Radde et al.,EMBO Rep.,2006)。
図1Bにおいて、APP/PS1マウスでは、sEPSCの振幅が1か月齢において影響を受けないが、3か月齢においては低減することが分かる。これは、明白なCA1神経細胞の低活動を示している。
図1Cにおいて、蛍光カルシウムプローブFluo-4によって、アストロサイトの活性マイクロドメインを明らかにすることができた。活性マイクロドメインの割合は、1か月齢のAPP/PS1マウスにおいて増大し、3か月齢のマウスにおいて高いままであった。同様に、図1Dにおいて、それぞれの活性マイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度が1か月齢で増大し、3か月齢で高いままであったことが分かる。これは、アストロサイトのカルシウム活動過多が経時的に安定であることを示す。
したがって、Aβの過剰生成は、神経細胞およびアストロサイトの活動に早期に影響を与え、1か月齢および3か月齢マウスにおいてアストロサイトの長期の活動過多を引き起こし、併せて、3か月齢において低活動に変化する1か月齢における一時的な神経細胞の活動過多を引き起こす。
図1Eを参照すると、撮像画像は、1か月齢において、対照マウスとAPP/PS1-21マウスとの間に樹状突起スパイン密度または形態の差異がないことを示している。他方、3か月齢においては、樹状突起スパイン密度がAPP/PS1マウスにおいて、同じ月齢の対照マウスに比較して低減していることが分かる。
これらの知見は、図1Fおよび1Gにおける定量化によって確認され得る。ここで、1か月齢において、APP/PS1マウスまたは対照マウスのいずれにおいても樹状突起スパインの密度または形態に差異はないが、3か月齢においては、樹状突起スパイン密度の低減が見られると同時に、細い未成熟なスパインの割合が増大し、成熟したマッシュルーム形状のスパインの割合が低減する。「芽」と呼ばれる形態は、非常に未成熟で無機能なスパインに対応し、「マッシュルーム」と呼ばれる形態は、成熟した機能可能なスパインに対応する。
図1Hに提示された電子顕微鏡法イメージングは、対照マウスにおいては、APP/PS1マウスと異なり、三者間(tripartite)シナプス(アストロサイトがシナプスコンパートメントに密接に関与する)が支配的であることを示している。
図1Iは、同腹の対照マウスと比較して、3か月齢のAPP/PS1マウスでは、三者間シナプスの割合が低減していることを実質的に例示している。
図2を参照すると、1か月齢のWT対照マウスおよびAPP/PS1-21マウスに対して、TRPA1チャネル抑制剤(HC030031)を用いた長期処置の効果が分かる。
図2Aにおいて、トランスジェニックマウスにおいては、HC030031を用いた処置が海馬神経細胞の活動過多の発生を防止し、1か月齢においてsEPSCの周波数を生理学的値に回復させることが分かる。HC030031を用いた処置は、同腹の対照マウスに対しては、効果がなかった。図2Bによると、sEPSCの振幅は、1か月齢のトランスジェニックマウスにおいて影響がなく、HC030031を用いた処置は、このパラメータに対して影響を与えなかった。
図2Cおよび2Dは、APP/PS1-21マウスにおいて、HC030031を用いた処置が海馬アストロサイトのカルシウム活動過多の発生を防止し、活性マイクロドメインの割合およびカルシウム事象の頻度の両方に影響を与え、これら2つのパラメータがWT+担体条件によって表される生理学的値に回復したことを示す。
図3を参照すると、3か月齢の対照マウスおよびAPP/PS1-21マウスに対する、TRPA1チャネル抑制剤(HC030031)を用いた長期処置の効果が分かる。
図3Aにおいて、sEPSCの周波数がWTマウス+担体において得られる生理学的レベルに回復することから明らかなように、HC030031を用いた長期処置が神経細胞低活動の発生を防止することが分かる。図3Bは、sEPSCの振幅もまたその生理学的レベルに回復したことを示す。HC030031で処置したAPP/PS1-21マウスにおける神経細胞の活動レベルは、同腹の対照マウスと同様であった。
図3Cおよび3Dに示すように、APP/PS1-21マウスにおいて、HC030031を用いた長期処置によって、3か月齢においてアストロサイトのカルシウム活動過多の低減が持続した。なぜなら、活性マイクロドメインの割合およびこれらのマイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度の両方が生理学的レベルの近くに低減されたからである。HC030031を用いた長期処置は、同腹の残りの対照マウスにおいては、活性マイクロドメインの割合に対する効果がなく、これらのマイクロドメイン内においてカルシウム事象の頻度を若干増大させた。
図3Eおよび3Fにおいて、長期TRPA1抑制を行った結果、樹状突起スパイン密度が対照動物において見られる密度に正常化したことが分かる。
最後に、図3Gにおいて、APP/PS1-21マウスに対してHC030031を用いた長期処置を行った後の樹状突起スパインの成熟度は、対照動物の成熟度に近づくこと、かつ、細い樹状突起スパインまたはマッシュルーム形状の樹状突起スパインの割合が長期処置によって回復することが分かる。担体で処置したマウスAPP/PS1-21において見られる形態学的変化は、図3Aにおいて記載した機能の変化の帰結(神経細胞の低活動)であり、神経細胞死の前触れである。HC030031を用いた処置を毎日行うと、これらのパラメータは、密度およびシナプス形態の両方について、対照動物(WT)において測定される値に近い値に回復する。
図3Hに示すように、この樹状突起スパインの完全性の保護とともに、電子顕微鏡法分析によって、HC030031で処置したトランスジェニックマウスにおいて、海馬放射状層シナプスのアストロサイト被覆欠陥(coating defect)が完全に回復することが示された。さらに、HC030031を用いた処置は、対照マウスにおいては、アストロサイト被覆に対して影響を与えなかった。
図4を参照すると、TRPA1チャネル抑制剤(HC030031)を用いた長期処置の6か月齢のWT対照マウスおよびAPP/PS1-21マウスの記憶障害に対する効果が分かる。
図4Aは、マウスがバーンズ迷路から脱出するまでの遅延を測定するテストの学習フェーズを示す。このテストによって、動物の空間作業記憶をテストすることができる。3日間の学習期間および8回の試行の終了時において、トランスジェニックマウスおよびWT対照マウスの両方において、マウスがエスケープ・ボックスに到達するまでの時間遅延は、経時的に低減した。しかし、APP/PS1-21マウスは、この学習フェーズにおいて、エスケープ・ボックスに到達にかかる総時間が増大した。これは、これらのトランスジェニックマウスのおける空間作業記憶欠陥を示唆する。HC030031を用いた長期処置は、空間作業記憶をWT対照マウスと同様のレベルに回復させる。図4Bは、遅延曲線の下の面積を示し、HC030031を用いた長期処置を介して、APP/PS1-21マウスの空間作業記憶が回復へと向かうという同じ傾向を特徴づけている。
図4Cに示すように、3日間にわたってマウス速度によって測定された運動機能は、すべてのテストされた群において同様である。
図4Dにおいて、上記テストは、目標エリアに到着するまでの遅延を示すことができる。予想されるように、目標エリアを最初に見つけるまでの遅延は、APP/PS1-21マウスにおいて増大した。したがって、6か月齢のAPP/PS1-21マウスにおいて、参照空間記憶および空間作業記憶の両方が同腹のWT対照マウスと比較して損なわれた。アミロイドβペプチド過剰生成の開始からのHC030031を用いた処置によって、これらの記憶欠陥は、部分的に修復したが、作業記憶と違い、参照記憶は、向上しなかった。
このように、これらの結果のすべては、HC030031などのTRPA1チャネル抑制剤を用いた早期の処置によって、Aβペプチドの毒性から神経細胞が保護され、かつ、初期および後期発症前フェーズの神経細胞機能障害特性の発生が防止されることを示唆する。この機能保護は、シナプスの構造の維持を伴う。シナプスの構造変化に関連した、これらの神経細胞活動過多およびその後の機能低下は、上記病変の記憶および認知症状に関連した神経細胞死の前触れである。
実施例
以下の実施例は、本発明を例示する。
材料および方法
動物
使用したモデルは、神経プロモーターThy1の制御下にアミロイド前駆体タンパク質(変異APP KM670/671NL)の変異ヒト形態およびプレセニリン1(変異PS1L166P)の変異ヒト形態を共発現する、C57BL/6J遺伝子的背景において得られたトランスジェニックネズミモデルである。これらの2つの変異が存在することによって、生後14日目からAβペプチドの生成が増大することが可能にされる。これにより、生後約8週目で最初の老人班が現れる大脳アミロイドーシスが引き起こされる。このアミロイド病変は、炎症グリオーシス(4か月目から検出可能になるマイクログリオーシスおよびアストログリオーシス)、樹状突起スパインジストロフィーおよびタウ過剰リン酸化(約8か月目)を伴う。認知行動障害、特に学習および空間記憶の認知行動障害は、約6~8か月目で起きる。このモデルは、2006年にRebecca Raddeによって確立および記載され(Radde et al.,EMBO reports,2006)、そして、科学界において広く使用されている。このモデルは、Institut des Neurosciences de Grenobleの動物施設から入手可能であり、2014年以来、本願発明者らによって繁殖されてきた。
このモデルは、ヘテロ接合であり、本願発明者らは、同腹であるがAPP/PS1導入遺伝子を発現しないマウス(野生型マウス、WT)を健康な対照群として使用する。雌雄動物の両方を使用し、性別に基づいて処置効果を比較する。
処置プロトコルは、地元の倫理委員会に提出され、承認が得られた。処置プロトコルは、2019年3月3日から5年の期限で高等教育研究省から認可を受けている(APAFIS#19142-2018121715504298)。
いくつかの実験において、APP/PS1-21マウスを、特定の神経細胞サブ集団において蛍光タンパク質eYFPを発現するThy1-eYFP-Hネズミトランスジェニック系統と交雑させた。
処置
HC030031
下記式の[2-(1,3-ジメチル-2,6-ジオキソ-1,2,3,6-テトラヒドロ-7H-プリン-7-イル)-N-(4-イソプロピルフェニル)アセトアミド]は、2007年にHydra Bioscienceによって発見された特定TRPA1チャネル抑制剤である。
HC030031は、ヒトおよびげっ歯類形態のTRPA1をそれぞれ6.2および7.6μMのIC50で抑制する、キサンチン構造を有するアルカロイドである(McNamara et al.,PNAS,2007、Eid et al.,2008)。その固体形態は、Tocris Bioscienceによって供給され(50mg、品番#2896)、そして、DMSOに10mg/mlの濃度で溶解させる。
次いで、この溶液を1%プルロニックF-127および0.9%NaClを含む等張溶液で1μg/μlに希釈する。上記動物に対して、5mg/kg体重の用量で毎日腹腔内注射する。30G(0.3mm)針を備えた、デッドボリュームのない滅菌0.5ml BD MicroFine注射器を注射のために使用する。
担体(10%DMSO、1%プルロニックF-127、0.9%NaCl)を対照として使用し、また、同じ手順にしたがって、WT対照動物およびAPP/PS1動物(担体群)に毎日注射する。
注射は、生後14日目(APP/PS1-21ネズミモデルにおいて、海馬内でThy1遺伝子プロモーターの発現が現れ、Aβの過剰発現が引き起こされる)から開始する。
急性脳スライスの調製
海馬の冠状切片(厚み300μm)をAPP/PS1-21トランスジェニックマウス(1か月および3か月齢)または同腹のWTマウスから調製した。マウスは、除脳および断頭術によって屠殺した。脳をすばやく取り出し、VT1200Sビブラトーム(Leica、独国)を用いて、95%のOおよび5%のCOで泡立てた氷冷のACSF(2.5mMのKCl、7mMのMgCl、0.5mMのCaCl、1.2mMのNaHPO、25mMのNaHCO、11mMのDグルコースおよび234mMのスクロースを含む)中で切片を切り出した。海馬を含む切片を、回復期間中、95%のOおよび5%のCOで泡立て、1mMのナトリウムピルベートを補ったACSF(126mMのNaCl、2.5mMのKCl、1.2mMのMgCl、2.5mMのCaCl、1.2mMのNaHPOを含む)中に室温で置いた。
個々のアストロサイトに蛍光カルシウムプローブFluo-4を投入
300μmの冠状切片を、60x(NA:1.0)水浸対物レンズと、CCDカメラ(Optronis VX45、独国)を有する赤外線干渉コントラスト光学システムとを備えた正立顕微鏡のステージ(Eclipse E600FN、Nikon、仏国)上で、ACSFを室温で、95%のOおよび5%のCOで泡立てながら、用いて一定の灌流を可能にするチャンバに移した。8~11MΩのガラスピペット(Harvard Apparatus)に、105mMのグルコン酸カリウム、30mMのKCl、10mMのホスホクレアチン、10mMのHEPES、4mMのATP-Mg、0.3mMのGTP-Tris、0.2mMのFluo-4-ペンタカリウム塩(Life Technologies)を含み、KOHでpH7.2に調整された細胞内溶液を充填した。信号は、Axopatch200Bによって増幅し、Digidata1440Aインタフェースによってサンプリングし、pClamp8ソフトウエア(Molecular Devices、米国)によって記録した。アストロサイトは、その形態、放射状層における位置および負静止電位(-70~-80mV)に基づいて同定した。膜電位は、-80mVに維持した。入力抵抗は、電圧コマンドの終了近くで、長さ80msの10mVパルスに応答する電流を測定することによって計算した。線形のI/V関係および低い入力抵抗(約50MΩ)を有するパッシブなアストロサイトのみを記録した。全細胞構成(whole-cell configuration)を構築した後、アクセス抵抗を常にモニタし、実験中にこのパラメータが20%よりも大きく変化した場合に、アストロサイトをこの研究から除外した。蛍光プローブの十分な分散を可能にし、かつ、アストロサイトの透析を回避するために、全細胞構成を5分未満に限定した。次いで、パッチピペットを優しく取り外し、アストロサイトが回復できるようにした。アストロサイトの伸長部内でのプローブの分散を最大化するために、本願発明者らは、5分以上待ってからカルシウムイメージングを行った。
カルシウムイメージング
個々のアストロサイトを含む切片に対して、60x(NA 1.0)の水浸対物レンズおよび共焦点ヘッド(C1共焦点ヘッド、Nikon、仏国)を備えた正立顕微鏡(Eclipse E600、Nikon、仏国)のステージ上の常時灌流チャンバにおいて記録を行った。488nmのレーザ光を用いて励起を行い、515±15nmのフィルタに発光を通した。EZ-C1ソフトウエア(Nikon、仏国)を用いて、単一共焦点面において1.2秒間隔で5分間にわたり画像を取得した。
分離されたアストロサイトの形状に対応するサブ領域における過渡カルシウム事象を、二次元画像内で経時的に測定した。対象領域ROI(約1μm)を焦点面内に位置するアストロサイトの伸長部に沿って設定した。また、アクセス可能ならば、細胞体(soma)からもROIを選択した。分析の前に、ImageJのTemplate Matchingプラグインを使用して原画像を安定化し(必要に応じて)、そして、3D Hybrid Median Filterを用いてフィルタリングした。CalSignalソフトウエアを使用して、細胞内Ca2+活動を測定し、各ROIにおけるF蛍光信号の変化を分析した。計算されたΔF/F比に基づいて、顕著な蛍光変化を検出した。F0は、各ROIについて記録期間にわたり計算した。ΔF/F比に基づいて、顕著な蛍光変化を検出し、カルシウム事象を、信号における顕著なかつ継続的な低減の前の、設定された閾値を超える顕著なかつ継続的な増大として定義した。したがって、ROIは、蛍光が基底の蛍光から標準偏差の少なくとも2個分だけ増大した場合に活性であると定義した。ピークの検出後、各過渡カルシウム電流がオペレータによって目視で調べられた。
電気生理学的記録
目視で特定したCA1錐体神経細胞体に対して全細胞記録を行った。パッチピペット(4~6MΩ)に、KOHでpH7.2に調整された内部溶液(105mMのグルコン酸カリウム、30mMのKCl、10mMのホスホクレアチン、10mMのHEPES、4mMのATP-Mg、0.3mMのGTP-Tris、0.3mMのEGTAを含む)を充填した。自発興奮性後シナプス電流(sEPSC)を、GABA逆電位に近い-60mVの膜保持電位において収集した。すべての記録は、室温(22~24℃)で行い、1切片あたり1つの神経細胞のみを調べた。sEPSCおよびその動態は、10分間の安定化期間の後、記録から5分後に分析した。アクセス抵抗を常時モニタし、実験中にこのパラメータが20%よりも大きく変化した場合に、記録をこの研究から除外した。記録は、pClamp8ソフトウエアのClampfitモジュール(Molecular Devices、米国)を使用して20pA刻みで分析し、小さなsEPSCを除外した。
免疫化学
マウスを320mg/kgのペントバルビタールナトリウムを腹腔内注射することによって十分に麻酔し、25mLの0.1M PBSを用いて心臓内灌流し、その後に、pH7.3の0.1M PBSにおける25mLの4%パラホルムアルデヒドによって心臓内灌流した。脳をすばやく取り出し、4%パラホルムアルデヒド中で4℃にて、一晩、後固定し、pH7.5の0.1M PBSにおける20%スクロース中に一晩浸漬し、冷却された(-35℃)イソペンタン中で冷凍し、そして-30℃で保存した。連続前頭切片(serial frontal section)(厚み:30μm)をクリオスタットミクロトーム(HM500M、Microm、仏国)を用いて切り出した。切片は、TBS-Tween-Triton(TBSTT)(0.1M Trisベースの0.15M NaCl、0.1%Tween、0.1%Triton X-100)における3%のウシ血清アルブミンを用いた30分間のインキュベーション(希釈/ブロッキング緩衝液)によってブロックした。次いで、組織切片を、抗GFAP抗体(Molecular Probes、米国、マウスモノクロナール、1:1000)、抗TRPA1(Novus、米国、ウサギポリクロナール、1:100)または抗Iba-1(Wako、米国、ウサギポリクロナール、1:500)のいずれかを用いて4℃で一晩インキュベートした。組織切片をTBSTTで洗浄し、Cynanine3(Jackson ImmunoReseach Laboratories、米国、1:1000)またはAlexa488(Life Technology、米国、1:1000)に結合させた二次抗体を用いて室温で2時間インキュベートした。切片をTBS緩衝液(0.1M Trisベースの0.15M NaCl)で洗浄し、1%水性Thioflavin S(Sigma、仏国)を用いて、暗所で8分間室温にてインキュベートし、そして、TBS緩衝液で数回洗浄した。
樹状突起スパインの分析
100x(NA:1.4)Plan Apochromat油浸対物レンズを備えたZeiss Airyscanモジュールを使用して、Thy1-eYFP-H-APP/PS1-21マウスからの海馬切片を画像化した。0.041×0.041×0.2μmのボクセルサイズで、共焦点画像スタック(増分:200nm)を行った。NeuronStudioソフトウエア(Icahn School of Medicine at Mount Sinai、米国)を使用して、スパイン密度、スパイン体積およびスパイン特性の3D分析を行った。個々の樹状突起の長さは、対応する樹状突起スパインの個数および体積とともに、自動的に測定された。樹状突起スパインは、自動化3D形状分類を使用して、芽、細い、またはマッシュルームに分類した。各条件に対して、10個の樹状突起を画像化し、700個の樹状突起スパインを分析した。
イムノブロッティング
1か月齢、3か月齢および6か月齢のAPP/PS1-21マウスから切り出した海馬を0.32Mのスクロースおよび10mMのHEPESを含むpH7.4の冷緩衝液でホモジナイズした。サンプルは、実験のすべての段階において4℃に保たれた。10分間1000gにかけてホモジェネートを浄化して、核や大きなデブリを除去した。充填緩衝液内のサンプルを10分間煮沸し、および等量のタンパク質(20μg、マイクロ-BCAアッセイ(Pierce)によって二度繰り返して定量)を、変性条件下に、4~20%のBis-Trisポリアクリルアミド(Bio-Rad)勾配上の非標識プレキャストゲル上に置いた。タンパク質は、4℃で30分間、ポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)に転写した。膜は、室温で1時間、0.1%のTweenを含むTris緩衝生理食塩水(TBS:10mM Tris、150mM NaCl、pH7.4)内の3%の粉ミルクによってブロックした。膜は、4℃で一晩、0.1%Tween TBS内の3%の脱水ミルクにおいて希釈された抗GFAP(Molecular Probes、米国、マウスモノクロナール、1:1000)抗体または抗TRPA1(Novus、米国、1:2000)抗体で標識した。膜は、0.2%Tween TBSで洗浄し、そして、室温で45分間、HRP結合抗ウサギIgG抗体(Fab’)(Interchim、仏国、1:40000)で標識した。洗浄後、増強化学発光を有するECL検出システム(Bio-Rad)、およびChemiDocシステム(Bio-Rad)によって、特定タンパク質を表示させた。化学発光信号は、非標識プレキャストゲル(Bio-Rad)を使用して取得されたタンパク質電荷(charge)信号に対して正規化した。
電子顕微鏡法
海馬を切り出し、室温で48時間、pH7.4の0.1Mリン酸塩緩衝液内の1.7%のグルタルアルデヒドで固定した。CA1領域を双眼拡大鏡の下で切り出し、そして、同じ溶液中で2時間再度固定した。次いで、サンプルを緩衝液で洗浄し、そして、4℃で1時間、1%の四酸化オスミウムおよびpH7.2の0.1Mリン酸塩緩衝液で後固定した。水で洗浄した後、次いで、細胞を、4℃で1時間、水中のpH4の1%の酢酸ウラニルで染色し、その後、連続アルコール浴(30%-60%-90%-100%-100%-100%)によって脱水し、そして、1:1エポン/エタノールを用いて100%混合で1時間インキュベートし、そして数回の新鮮なエポキシ樹脂(Sigma-Aldrich、仏国)浴を3時間行った。最後に、サンプルは、樹脂で充填されたカプセル内に入れた。樹脂は、60℃で72時間重合させた。ウルトラミクロトーム(Leica、米国)を用いて、サンプルから超薄切片(60nm)を切り出した。切片は、5%の酢酸ウラニルおよび0.4%のクエン酸鉛で後染色した。デジタルカメラ(Veleta、SIS、Olympus、独国)を使用し、透過型電子顕微鏡(JEOL 1200EX、日本)を80kVで用いて画像を取得した。倍率は、50,000Xに設定した。1条件あたり3匹のマウスからのランダムに選択された42個の切片から、放射状層においてシナプスに接触するアストロサイト伸長部の存在を推定した。アストロサイト突起は、その相対的にクリアな細胞質、より平滑な神経細胞形状と比較して角張った形状、およびグリコーゲン顆粒の存在によって、同定した。
バーンズ迷路実験
明るく照らされた、開放型プラットホーム(BioSeb、直径120cm)の中心にマウスを配置した。プラットホームは、20個の穴(直径5cm)を含む。いずれの穴の下にもエスケープ・ボックス(目標)が装着されている。トレーニングの初日に、マウスをまずプラットホームの中央に配置し、そして5分間自由に動かせた後、目標にやさしく誘導した。一旦マウスがエスケープ・ボックスに入ったら、マウスを1分間その場に滞在させ、その後、ケージに戻した。トレーニング/獲得フェーズの3日間において、マウスは、1日あたり3回の試行を行った。試行の間隔は、20分であった。マウスは、エスケープ・ボックスを見つけるための持ち時間として180秒を与えられるか、または、エスケープ・ボックスにやさしく誘導された。4日目(テスト日)において、エスケープ・ボックスを取り除き、マウスは、60秒間、自由に迷路を動き回れるようにした。目標に到達するのにかかった時間(遅延)、および目標エリア(目標の穴±1)の探索時間を分析した。EthoVision XT9(Noldus)を用いて、すべてのデータを記録および分析した。
統計分析
図面の記載において、異なるデータセットに対する試料サイズが言及されている。結果は、実験ポイントの分布を伴う独立した生物学的サンプルからの平均±標準偏差として表される。データは、GraphPad Prism6.0ソフトウエアを使用して分析した。2つの群の比較は、二変数マン・ホイットニー検定を使用して行った。多重比較については、クラスカル・ウォリス検定と、それに続くダン多重比較検定を使用した。三者間シナプスの割合は、フィッシャー正確確率検定を用いて比較した。本願発明者らは、処置群における神経細胞活動、アストロサイト活動および記憶成績の性別間の差異の可能性を調べ、有意な違いがないことが分かったので、結果は、1つにまとめて分析した。有意差のレベルは、以下の通りである。*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001、およびn.s.有意でない。
結果
アルツハイマー病の初期および中間段階における神経細胞およびアストロサイトの構造および機能変化
本願発明者らは、APP/PS1-21マウスの海馬における神経細胞およびアストロサイトの活動の進行を調べた。変異PS1とともに変異APPを過剰発現するトランスジェニックマウスは、高レベルのアミロイドβを生成し、ヒトの脳において見られるものと同様のアミロイド病変を生じさせる。著しいレベルのAβがこのモデルにおいて1か月齢から検出され、約3~4か月齢で最初のアミロイド斑が海馬に現れる。これらの年齢は、アルツハイマー病の進行の初期および中間段階に対応づけられ得る。
本願発明者らは、1、2および3か月齢のマウスにおけるCA1神経細胞の細胞体に対して全細胞パッチクランプ記録を行って、自発興奮性後シナプス電流(sEPSC)を記録した。結果は、1か月齢のAPP/PS1-21マウスにおけるCA1神経細胞のsEPSCの周波数(WTマウスにおける0.08±0.03Hzに対して、APP/PS1マウスにおける0.20±0.06Hz、p=0.0266、図1A)が増大することを示した。この活動過多は、3か月齢のAPP/PS1-21マウスにおける低活動に徐々に変化した(WTマウスにおける0.08±0.02Hzに対して、APP/PS1マウスにおける0.03±0.01Hz、p=0.0029、図1A)。sEPSCの振幅は、1か月齢では影響されず(WTマウスにおける33.0±2.3pAに対して、APP/PS1マウスにおける33.7±1.9pA、p=0.9551、図1B)、3か月齢において低減した(WTマウスにおける35.2±1.9pAに対して、APP/PS1マウスにおける28.9±1.0pA、p=0.0038、図1B)。これにより、顕著なCA1神経細胞の低活動が明白に示された。
アストロサイトのカルシウム活動を調べるために、本願発明者らは、個々のアストロサイトに蛍光カルシウムプローブFluo-4を投入した。蛍光カルシウムプローブFluo-4によって、アストロサイト領域全体におけるマイクロドメインの活動へのアクセスが、特に細胞の伸長部のレベルにおいて、可能になる。活性マイクロドメインの割合は、1か月齢のAPP/PS1マウスにおいて増大し(WTマウスにおける56.2±2.9%に対して、APP/PS1マウスにおける67.9±3.3%、p=0.0145、図1C)、3か月齢のマウスにおいて高いままであった(WTマウスにおける53.3±4.1%に対して、APP/PS1マウスにおける66.2±2.5%、p=0.0266、図1C)。各活性マイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度は、1か月齢において増大し(WTマウスにおける0.49±0.05事象/分に対して、APP/PS1マウスにおける0.65±0.10事象/分、p<0.001、図1D)、3か月齢において高いままであった(WTマウスにおける0.50±0.05事象/分に対して、APP/PS1マウスにおける0.68±0.06事象/分、p<0.001、図1D)。これは、経時的に安定なアストロサイトのカルシウム活動過多を示す。このように、Aβの過剰生成は、神経細胞およびアストロサイトの活動に初期の影響を与え、1および3か月齢のマウスにおいて長期のアストロサイトの活動過多を引き起こすとともに、3か月齢において低活動になる1か月齢における一時的な神経細胞の活動過多を引き起こす。
構造レベルにおいて、本願発明者らは、APP/PS1-21マウスと交雑させたThy1-eYFP-Hトランスジェニックマウスにおける錐体CA1神経細胞の樹状突起スパイン密度およびそれらの形態を分析した(図1E)。1か月齢において、APP/PS1マウスまたはWTマウスのいずれにおいても樹状突起スパインの密度または形態に差異はなかった(図1F、図1G)が、3か月齢において、樹状突起スパイン密度の低減が見られる(WTマウスにおける1.54±0.08スパイン/μmに対して、APP/PS1マウスにおける1.13±0.05スパイン/μm、p<0.001、図1F)。同時に、未成熟な細いスパインの割合が増大する(WTマウスにおける21.9±1.6に対して、APP/PS1マウスにおける40±2.5%、p<0.001、図1G)、かつ、成熟したマッシュルーム形状のスパインの割合が低減する(WTマウスにおける62.4±2.0%に対して、APP/PS1マウスにおける45.7±2.5%、p<0.001、図1G)。このスパインのジストロフィーは、放射状層のシナプスのアストロサイト被覆の欠損を伴う(図1H)。3か月齢のトランスジェニックマウスにおいて、三者間シナプスの割合の低減が見られる(WTマウスにおける三者間シナプスの54.3±3.7に対して、APP/PS1マウスにおける三者間シナプスの41.7±2.8%、p<0.0001、図1I)。このように、CA1神経細胞のsEPSCの周波数および振幅における低減の成立には、APP/PS1マウスにおける3か月齢での樹状突起スパインの密度および成熟度の著しい低減と、シナプスのアストロサイト被覆の低減とが付随する。
以下の例は、本発明を例示するが、その範囲を限定しない。
実施例1:長期TRPA1抑制が1か月齢のAPP/PS1-21マウスにおけるCA1アストロサイトの活動過多および神経細胞の活動過多を完全に修復する
本願発明者らは、アストロサイトがアミロイドβ(Aβ)ペプチドの毒性に寄与し、TRPA1カルシウムチャネルの関与を介した初期の神経細胞の活動過多の成立に関わることを示した。
急性マウス脳スライスのモデルにおいて、Aβによって誘導された、急激かつ広がったカルシウム活動過多は、炎症過程が生じるだいぶ前に、海馬(放射状層)のアストロサイトの樹状分岐において発生することが示された(APP/PS1-21マウス、1か月齢)。このアストロサイトの活動過多は、HC030031によってTRPA1チャネルを急性遮断することによって完全に修復される。
本願発明者らは、このTRPA1チャネル依存活動過多が近傍の神経細胞に影響を与え、海馬のCA1領域における神経細胞活動の増大を引き起こすことを観察してきた。最近、この神経細胞の活動過多は、アルツハイマー病の前駆フェーズの特徴であり、かつ、前駆記憶欠陥に関わることが特定されてきた。
アストロサイトの活動過多と同様に、この神経細胞の活動過多は、1か月齢のAPP/PS1-21トランスジェニック動物において、HC030031の急性インビトロ適用によって完全に修復される。これらの結果から、TRPA1チャネルを早期に抑制することによって神経細胞の活動過多の成立が防止され得るという仮説が導かれ、そして、これをインビボでテストした。
特定のTRPA1抑制剤をAPP/PS1-21マウスに生後14日目から1か月目まで毎日腹腔内投与した(5mg/kg体重)。対照として、同じ体積の担体を年齢および性別を一致させた対照マウス群に投与した。本願発明者らは、HC030031を用いた薬学的処置が、APP/PS1-21マウスにおける海馬のアストロサイトのカルシウム活動過多の発生を防止し、活性マイクロドメインの割合(対照マウスにおける71.8±2.5%に対して、APP/PS1-21マウスにおける56.1±3.9%、p=0.0439、図2C)、およびカルシウム事象の頻度(担体で処置した対照マウスにおける0.79±0.04カルシウム事象/分に対して、HC030031で処置したマウスにおける0.48±0.02カルシウム事象/分、p<0.001、図2D)の両方に影響を与えることを観察した。これらの2つのパラメータは、生理学的値に近い値に回復した(担体で処置したWTマウスにおける活性マイクロドメインの56.9±3.6%および0.56±0.03%カルシウム事象/分、それぞれp=0.7211および0.1456)。
反対に、HC030031は、同腹のWT対照マウスにおいて、活性マイクロドメインの割合に対して影響を与えず(担体で処置したマウスにおける56.9±3.6%に対して、HC030031で処置したマウスにおける53.0±2.7%、p=0.8627、図2C)、かつ、マイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度を若干低減させた(担体で処置したマウスにおける0.56±0.03カルシウム事象/分に対して、HC030031で処置したマウスにおける0.51±0.02カルシウム事象/分、p=0.031、図2D)。
同時に、HC030031を用いた処置は、トランスジェニックマウスにおける海馬神経細胞の活動過多の発生を防止し(担体で処置したマウスにおける0.24±0.04Hzに対して、HC030031で処置したマウスにおける0.10±0.02Hz、p=0.0311、図2A)、1か月目において、sEPSCの周波数を生理学的値に近い値に回復させた(担体で処置したWTマウスにおける0.10±0.02Hz、p=0.7213)。HC030031を用いた処置は、同腹のWTマウスに対しては影響を与えなかった(担体を用いた処置の0.10±0.02Hzに対して、HC030031を用いた処置の0.10±0.04Hz、p>0.999、図2A)。sEPSCの振幅は、1か月齢のトランスジェニックマウスにおいて影響を受けず(図2B)、かつ、HC030031を用いた処置は、このパラメータに影響を与えなかった(p>0.999、図2B)。
これらのデータによって、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおいて、Aβの過剰生成が成立した後にTRPA1を抑制しても1か月目において海馬神経細胞の活動過多を防止するのに十分であることが示唆され、アストロサイトがこの初期のβ-アミロイドペプチド依存毒性に重要な役割を有することが確認された。これらの条件下において、1か月目における動物の神経細胞活動が健康な動物と同じ基底値に完全に回復する。このように、HC030031によってTRPA1を早期に抑制することによって、これらのAPP/PS1-21マウスにおいて神経細胞の活動過多の発生が防止される。これは、神経保護の役割を示唆する。
実施例2:長期TRPA1抑制によって、3か月齢のAPP/PS1-21マウスにおいて、CA1神経細胞の低活動、アストロサイトのカルシウム活動過多、および樹状突起スパインの形態学的変化が完全に修復される
3か月目のこのトランスジェニックモデルにおいて、本願発明者らは、海馬のCA1エリアにおけるいくつかの同時現象の成立を観察した。すなわち、CA1神経細胞の樹状突起スパイン(シナプス)の密度の低減、残存シナプスのアストロサイト被覆の低減、神経細胞の活動の低減(低活動)、アストロサイトの活動過多の持続、および最初の老人班の進行性発現である。これらの現象は、これらのトランスジェニックマウスにおいて、約6か月目で生じる記憶および認知行動障害よりも先行する。本願発明者らは、HC030031を生後14日目から90日目まで毎日注射することによって、神経細胞の低活動の成立が防止され、かつ、海馬のCA1領域における自発後シナプス電流の周波数および振幅の両方が回復されることを示した。この機能保護は、シナプスの構造完全性(樹状突起スパインの密度、形態およびアストロサイト被覆)の保護を伴う。非常に興味深いのは、HC030031の注射がWT対照動物に対して、機能レベルおよび構造レベルのいずれにおいても、影響を与えないことである。
神経細胞の活動過多は、アルツハイマー病の初期段階における重要な要素であり、ネットワーク全体の調整不全につながる悪循環を引き起こすと推定される。本願発明者らは、Aβ誘導TRPA1活性化を遮断することによってこの悪循環から神経細胞を保護することが可能かどうかを検討した。
本願発明者らは、TRPA1チャネル特異的抑制剤(HC030031)または担体をAPP/PS1-21マウスに生後14日目から3か月目まで腹腔内投与した(5mg/kg体重)。これらの実験によって、APP-PS1-21マウスにおいて、TRPA1を長期抑制すると、sEPSCの周波数(担体を用いた処理に対する0.04±0.01Hzに対して、HC030031を用いた処置に対する0.10±0.01Hz、p=0.01、図3A)または振幅(担体を用いた処理に対する28.5±1.2pAに対して、HC030031を用いた処置に対する33.4±1.4pA、p=0.0358、図3B)のいずれにおいても、神経細胞低活動の発生が防止されることが示された。HC030031で処置したAPP/PS1-21マウスにおける神経細胞の活動レベルは、同腹のWTマウスと同様であった(担体で処置したWTマウスにおいて、0.11±0.01Hzおよび32.2±1.1pA、それぞれp=0.386および0.6362)。この長期処置は、WTマウスにおけるsEPSCの周波数および振幅に対して影響を与えなかった(両方に対して、p>0.999、図3A、図3B)。
同時に、APP/PS1-21マウスにおけるHC030031を用いた長期処置は、3か月目においてもアストロサイトのカルシウム活動過多の低減を持続した。なぜなら、活性マイクロドメインの割合(未処置のマウスにおける66.2±2.5%に対して、HC030031で処置したマウスにおける49.4±6.4%、p=0.033、図3C)、およびこれらのマイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度(未処置のマウスにおける0.68±0.06事象/分に対して、処置したマウスにおける0.50±0.06事象/分、p<0.0001、図3D)が生理学的レベルに低減されたからである。HC030031を用いた長期処置は、残りの同腹WTマウスにおける活性マイクロドメインの割合に影響を与えず(未処置のマウスにおける53.2±4.1%に対して、HC030031で処置したマウスにおける60.2±3.8%、p=0.2786、図3E)、かつ、これらのマイクロドメイン内のカルシウム事象の頻度を若干増大させた(未処置のマウスにおける0.50±0.05に対して、HC030031で処置したマウスにおける0.62±0.04カルシウム事象/分、p=0.001、図3F)。
長期処置が樹状突起スパインの密度および形態に与える影響を評価するために、本願発明者らは、Thy1-eYFP-H-APP/PS1-21トランスジェニックマウスに、生後14日目から3か月目まで、TRPA1抑制剤または担体を投与した。TRPA1を長期抑制することによって、樹状突起スパイン密度(担体で処置したマウスにおける1.01±0.04スパイン/μmに対して、HC030031で処置したマウスにおける1.32±0.08スパイン/μm、p=0.0019、図3F)、およびその成熟度(担体で処置したマウスにおける32.0±1.6%の細いスパインに対して、HC030031で処置したマウスにおける26.7±2.0%の細いスパイン、および担体で処置したマウスにおける57.3±1.5%のマッシュルーム形状のスパインに対して、HC030031で処置したマウスにおける64.0±1.7%のマッシュルーム形状のスパイン、それぞれp=0.05および0.0117、図3G)が正常化された。
樹状突起スパイン構造完全性の上記保護に加えて、電子顕微鏡法分析によって、放射状層シナプスのアストロサイトによる被覆がHC030031で処置したトランスジェニックマウスにおいて完全に回復することが示された(未処置のAPP/PS1マウスにおいて囲まれた41.7±2.7%のシナプスに対して、APP/PS1HC030031で処置したマウスにおいて囲まれた64.0±1.5%のシナプス、p<0.0001、図3H)。さらに、HC030031を用いた処置は、WTマウスにおけるアストロサイト被覆に影響を与えなかった(未処置のWTマウスにおいて囲まれた54.3±3.7%のシナプスに対して、HC030031で処置したWTマウスにおいて囲まれた62.7±2.7%のシナプス、p=0.08、図3H)。
総合すると、これらのデータは、早期にTRPA1チャネルを長期抑制することによって、機能性樹状突起スパインの欠損および神経細胞の低活動を引き起こす初期の進行性欠陥の原因になると考えられる神経細胞の活動過多の発生が防止されることを示した。
実施例3:長期TRPA1抑制によって、6か月齢のAPP/PS1-21マウスにおける作業記憶欠陥が予防される
作業記憶は、おそらく、アルツハイマー病における記憶障害の最も研究されている側面のうちの1つである。本願発明者らは、APP/PS1-21マウスおよび野生型WTマウスに、生後14日目から6か月目まで、TRPA1チャネル特異的抑制剤(HC030031)または担体を毎日腹腔内投与した(5mg/kg体重)。
バーンズ迷路パラダイムテストを使用して、6か月齢のマウスにおいて、海馬依存空間参照および作業記憶タスク実験を行った。3日間の獲得期間(8回の試行)において、マウスがエスケープ・ボックスに到達するまでの時間遅延は、トランスジェニックマウスおよびWT対照マウスの両方において経時的に低減した。これは、すべてのマウスがエスケープ・ボックスを見つけるために空間指標を使用することを学習したことを示す(図4A)。しかし、APP/PS1-21マウスは、この学習フェーズにおいて、エスケープ・ボックスに到達するのにかかる時間が増大した。これは、これらのトランスジェニックマウスにおける空間作業記憶欠陥を示唆する(遅延曲線の下の面積によって明らかにされる:担体で処置したWTマウスにおける554.1±78.9に対して、担体で処置したAPP/PS1-21マウスにおける731.8±91.1、p=0.0012、図4B)。
3日間にわたってマウス速度によって測定された運動機能は、すべての群において同様であった(p=0.1718、図4C)。参照記憶を評価するために、獲得の最終日の24時間後に、エスケープ・ボックスを取り除いて、マウスに試行を行わせた。予想されるように、最初に目標エリアを見つけるまでの遅延は、APP/PS1-21マウスにおいて増大した(担体で処置したWTマウスにおける4.8±2.7秒に対して、担体で処置したトランスジェニックマウスにおける13.74±2.1秒、p=0.0057、図4D)。したがって、6か月齢のAPP/PS1-21マウスにおいては、同腹のWT対照マウスと比較して、参照空間記憶および空間作業記憶の両方が損なわれた。アミロイドβペプチド過剰生成の開始からのHC030031を用いた処置によって、これらの記憶欠陥が部分的に修復された。実際に、トランスジェニックマウスにおいて学習フェーズ中に明らかにされた作業記憶欠陥は、完全に修復され(AUC:担体で処置したAPP/PS1-21マウスにおける731.8±91.1に対して、HC030031で処置したAPP/PS1-21マウスにおける595.9±77.2、p=0.0089、図4Aおよび図4B)、WTマウスと同様になった(554.1±78.9、p=0.8054)。反対に、HC030031を用いた長期処置は、参照記憶を改善しなかった。なぜなら、試行において目標エリアに最初に到達する遅延は、HC030031で処置したトランスジェニックマウスにおいても同様に増大したからである(担体で処置したAPP/PS1-21マウスにおける13.74±2.1秒に対して、HC030031で処置したAPP/PS1-21マウスにおける18.5±4.2秒、p=0.6109、図4D)。HC030031を用いた長期処置は、WT対照マウスにおける参照および作業記憶の成績に影響を与えなかった(図4A、図4D)。
上記提示の結果は、TRPA1チャネル抑制剤を用いた予防処置によって、アストロサイト活動が野生型動物において通常検出されるレベルに正常化されることを示す。この正常化によって、海馬神経細胞の活動過多の発生が防止される。これにより、アストロサイトがシナプス完全性を保存するのに重要な役割を有することが確認される。したがって、TRPA1チャネルを遮断することは、アルツハイマー病において現れる神経変性の悪循環を防止するのに十分であると考えられる。
加えて、本願発明者らは、処置をしなければ、3か月齢のトランスジェニックマウスにおいて、神経細胞の低活動およびアストロサイトの活動過多がTRPA1チャネルの活性化に依存しなくなることを観察した。このアストロサイトの機能リモデリング(functional remodeling)は、これらの細胞内の形態学的リモデリングおよび炎症表現型の成立の帰結である。アルツハイマー病が進行した段階におけるアストロサイトの役割は、良く知られている。なぜなら、アストロサイトの炎症表現型およびアストログリオーシスは、斑(plaque)の形成に長らく関連づけられており、おそらく斑の密集におけるアミロイドβ種の毒性効果を抑えるが、有害な神経炎症を誘導するからである。
アルツハイマー病の老齢ネズミモデルにおいて、アストロサイトのカルシウム活動が劇的に増大し、近傍の皮質Aβ斑と同期するようになることが示されてきた(Kuchibhotla,K.V.et al.,Science 2009 Feb 27;323(5918)、Delekate,A.et al.,Nat.Commun.5,5422(2014))。興味深いことに、このアストロサイトの活動過多には、皮質および海馬エリアの両方において、アストロサイトP2YRが関与し、プリン作動性経路を含む後期病原性段階においてアストロサイトのカルシウム・シグナリングが再構成されることを示唆する。実際に、炎症反応性アストロサイトは、アストロサイトのマイクロドメイン内の分子シグナリング機構に影響を与える可能性のある構造変化を伴う。したがって、より後期の段階において、TRPA1の関与は、アストロサイトにおけるAβ介在炎症応答の調整を示唆する。なぜなら、TRPA1の遺伝子が欠落すると、アルツハイマー病の後期段階におけるアストロサイト由来の炎症過程が弱められるからである。
したがって、TRPA1チャネルの抑制は、いくつかの手段を介してアルツハイマー病の進行を阻止することができる。そのような手段の1つは、神経保護であり、別の1つは、抗炎症である。
このように、本発明は、アルツハイマー病の予防および治療のためにTRPA1チャネル抑制剤を、特に初期の無症候段階から、使用することを示唆する。本発明に係る抑制剤は、アルツハイマー病に関与する神経変性および炎症機構を防止するための神経保護剤および消炎剤の両方としての役割を有する。

Claims (10)

  1. アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防における神経保護剤として、および、アルツハイマー病における神経炎症過程の治療および/または予防における抗炎症剤として使用するためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤。
  2. 前記抑制剤は、HC030031、Chembridge-5861528、A-967079、AP-18、GRC-17536、CB-625、ODM-108、GSK205、GDC-0334およびそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤。
  3. 前記抑制剤は、HC030331である、請求項1および2のいずれか1つに記載の使用のためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤。
  4. 脳イメージングによって検出可能な海馬における神経細胞の活動過多および軽度記憶障害によって特徴づけられるアルツハイマー病の前駆フェーズから、前記TRPA1カルシウムチャネル抑制剤を必要とする患者に投与されることが意図される、請求項1~3のいずれか1つに記載の使用のためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤。
  5. 前記TRPA1カルシウムチャネル抑制剤を必要とする患者に薬学的に有効な量で投与するための、請求項1~4のいずれか1つに記載の使用のためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤。
  6. 前記抑制剤は、経口経路、静脈内経路、動脈内経路、皮内経路、腹腔内経路、心臓内経路、脳室内経路、経皮経路、局所経路、皮下経路、経鼻経路または肺経路からなる群から選択される投与経路のうちのいずれか1つによって投与される、請求項1~5のいずれか1つに記載の使用のためのTRPA1カルシウムチャネル抑制剤。
  7. アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防、ならびに、アルツハイマー病の神経炎症過程の治療および/または予防において使用するための薬学的組成物であって、
    少なくとも、請求項1~6のいずれか1つに記載の抑制剤と、
    少なくとも1つの薬学的に許容な賦形剤と
    を包含する薬学的組成物。
  8. 前記薬学的組成物は、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防、ならびに、アルツハイマー病の神経炎症過程の治療および/または予防に使用するため薬学的組成物であり、前記組成物は、前記組成物を必要とする患者に薬学的に有効な量で投与されることが意図される、請求項7に記載の薬学的組成物。
  9. 前記薬学的組成物は、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防、ならびに、アルツハイマー病の神経炎症過程の治療および/または予防に使用するための薬学的組成物であって、前記組成物は、経口経路、静脈内経路、動脈内経路、皮内経路、腹腔内経路、心臓内経路、脳室内経路、経皮経路、局所経路、皮下経路、経鼻経路または肺経路からなる群から選択される投与経路のうちのいずれか1つによって、前記組成物を必要とする患者に投与されることが意図される、請求項7および8のいずれかに記載の薬学的組成物。
  10. 前記薬学的組成物は、アルツハイマー病の初期段階の治療および/または予防、ならびに、アルツハイマー病の神経炎症過程の治療および/または予防に使用するための薬学的組成物であって、脳イメージングによって検出可能な海馬における神経細胞の活動過多および軽度記憶障害によって特徴づけられるアルツハイマー病の前駆フェーズから、前記組成物を必要とする患者に投与されることが意図される、請求項5~7のいずれかに記載の薬学的組成物。
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