JP2023178085A - 片面サブマージアーク溶接方法、支持フラックス及び裏当てフラックス - Google Patents

片面サブマージアーク溶接方法、支持フラックス及び裏当てフラックス Download PDF

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航太郎 畑本
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Abstract

【課題】裏ビードの高さが安定しており、良好な裏ビード外観を得ることができる片面サブマージアーク溶接方法、支持フラックス及び裏当てフラックスを提供する。【解決手段】片面サブマージアーク溶接方法は、一対の鋼板1a,1bを突合せて開先を構成し、開先の裏面側に裏当てフラックス10を接触させて配置し、開先の表面側から溶接を行う方法である。裏当てフラックス10は、上層を構成するスラグ形成フラックス2と下層を構成する支持フラックス3とを有する。また、スラグ形成フラックス2及び支持フラックス3には、いずれも樹脂が含有されており、支持フラックス3は、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の成分を合計で43質量%以上含有し、スラグ形成フラックス2は、上記成分が43質量%未満である。【選択図】図1

Description

本発明は、鋼板に対して片面側から溶接するための片面サブマージアーク溶接方法、並びにこの溶接方法に用いられる支持フラックス及び裏当てフラックスに関する。
鋼板に対して片面側から溶接する片面サブマージアーク溶接は、板継溶接として、造船を中心に広い分野に適用されている高能率の溶接施工法である。このような施工法においては、良好な裏ビードを得るために、鋼板に形成された開先の裏面側に裏当てフラックスを配置する方法が適用されている。
例えば、特許文献1には、フラックス原料及び熱硬化性樹脂を有し、嵩密度が1.20乃至1.45(g/cm)である片面溶接用溶融型裏当てフラックスが開示されている。また、フラックス原料は、フラックス原料全重量あたり、CaF:5.0乃至20.0重量%、ZrO:5.0乃至25.0重量%、MgO:20.0乃至40.0重量%、SiO:30.0乃至50.0重量%、TiO:1.0乃至5.0重量%、MnO:0.5乃至5.0重量%、CaO:0.3乃至5.0重量%及びAl:0.3乃至5.0重量%を含有し、残部が総量で1重量%以下の微量成分及び不可避的不純物からなるものであることが記載されている。
さらに、CaF、ZrO、TiO、MnOの含有量を重量%で、夫々、[CaF]、[ZrO]、[TiO]、[MnO]としたとき、数式A=([CaF]+[ZrO])/([TiO]+[MnO])によって算出されるAが、2.0乃至9.0重量%であり、上記熱硬化性樹脂は、裏当てフラックス全重量あたり、0.5乃至15重量%含有されていることが記載されている。
特開平10-314983号公報
しかしながら、近年は効率化及び強度の向上を目的として、溶接対象の鋼板が厚板化しており、厚板になるほど入熱を大きくする必要がある。そのため、熱影響によって、裏ビードの高さが不安定になる傾向がある。
上記特許文献1に記載の裏当てフラックスを使用しても、厚板の鋼板を溶接対象とする場合には、十分に良好な裏ビード形状を得ることが困難であり、より一層安定した裏ビード高を得ることができる溶接方法について、要求が高まっている。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、厚板を溶接する場合であっても、裏ビードの高さが安定しており、良好な裏ビード外観を得ることができる片面サブマージアーク溶接方法、支持フラックス及び裏当てフラックスを提供することを目的とする。
本発明者らは、安定した裏ビードの高さ及び良好な裏ビード外観を得るための片面サブマージアーク溶接方法について、鋭意検討を行った。その結果、従来使用していた裏当てフラックスを2層構造とし、上層として溶融しやすい樹脂付きフラックスを使用し、下層として溶融しにくいか、多少溶融しても溶融スラグの粘性が高い樹脂付きフラックスを使用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
本発明の上記目的は、片面サブマージアーク溶接方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 一対の鋼板を突合せて開先を構成し、前記開先の裏面側に裏当てフラックスを接触させて配置し、前記開先の表面側から溶接を行う片面サブマージアーク溶接方法であって、
前記裏当てフラックスは、上層を構成するスラグ形成フラックスと、下層を構成する支持フラックスと、を有し、
前記スラグ形成フラックス及び前記支持フラックスには、いずれも樹脂が含有されており、
前記スラグ形成フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が43質量%未満(0%を含む)であり、
前記支持フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上を含有する、片面サブマージアーク溶接方法。
また、片面サブマージアーク溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[8]に関する。
[2] 前記スラグ形成フラックス全質量に対して、粒径が400μm以上であるスラグ形成フラックスの総量をFU400(質量%)とし、粒径が212μm以下であるスラグ形成フラックスの総量をFU212(質量%)とする場合に、
U400/FU212により算出される値が0.30以下であり、
前記支持フラックス全質量に対して、粒径が400μm以上である支持フラックスの総量をFL400(質量%)とし、粒径が212μm以下である支持フラックスの総量をFL212(質量%)とする場合に、
L400/FL212により算出される値が0.50以上3.80以下である、[1]に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[3] 前記スラグ形成フラックスは、スラグ形成フラックス全質量に対して、樹脂を1.0質量%以上5.0質量%以下含有する、[1]又は[2]に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[4] 前記支持フラックスは、支持フラックス全質量に対して、樹脂を1.0質量%以上5.0質量%以下含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[5] 前記鋼板の板厚方向に平行な方向における前記上層の厚さは、1mm以上7mm以下であり、
前記鋼板の板厚方向に平行な方向における前記下層の厚さは、3mm以上20mm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[6] フラックスバッキング法を用いる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[7] 前記鋼板の板厚は、20mm超である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[8] 支持フラックス全質量に対して、粒径が850μm以上である支持フラックスの総量は、18質量%以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の片面サブマージアーク溶接方法。
本発明の上記目的は、支持フラックスに係る下記[9]の構成により達成される。
[9] 一対の鋼板を略水平に突合せて開先を構成し、前記開先の上側から溶接を行う片面サブマージアーク溶接方法に用いられ、前記開先の裏面側に配置される、上層及び下層を有する裏当てフラックスのうち、前記上層を構成するスラグ形成フラックスの下側に配置され、前記スラグ形成フラックスを支持する支持フラックスであって、
樹脂が含有されており、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が43質量%未満であるスラグ形成フラックスの下側に配置され、
樹脂が含有されており、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上を含有する、支持フラックス。
本発明の上記目的は、裏当てフラックスに係る下記[10]の構成により達成される。
[10] 一対の鋼板を略水平に突合せて開先を構成し、前記開先の上側から溶接を行う片面サブマージアーク溶接方法に用いられ、前記開先の裏面側に配置される裏当てフラックスであって、
前記開先の裏面側に接触させて配置されるスラグ形成フラックスと、前記スラグ形成フラックスの下側に配置される支持フラックスとを有し、
前記スラグ形成フラックス及び前記支持フラックスには、いずれも樹脂が含有されており、
前記スラグ形成フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が43質量%未満であり、
前記支持フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上を含有する、裏当てフラックス。
本発明によれば、厚板を溶接する場合であっても、裏ビードの高さが安定しており、良好な裏ビード外観を得ることができる片面サブマージアーク溶接方法、支持フラックス及び裏当てフラックスを提供することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る片面サブマージアーク溶接方法を模式的に示す断面図である。 図2は、従来の裏当てフラックスを用いた片面サブマージアーク溶接方法を模式的に示す断面図である。 図3は、フラックスバッキング法により本実施形態に係る片面サブマージアーク溶接を実施する様子を示す模式図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
[片面サブマージアーク溶接方法]
図1は、本発明の実施形態に係る片面サブマージアーク溶接方法を模式的に示す断面図である。まず、一対の鋼板1a、1bを略水平に突合せて開先を構成し、開先の裏面側に裏当てフラックス10を接触させて配置する。
本実施形態においては、裏当てフラックス10は、上層を構成するスラグ形成フラックス2と、下層を構成する支持フラックス3と、により構成されている。
下層を構成する支持フラックス3は、溶融しにくいか、多少溶融しても溶融スラグの粘性が高いフラックスであり、樹脂が含有されている。また、上層を構成するスラグ形成フラックス2は、下層を構成する支持フラックス3と比較して溶融しやすいフラックスであり、支持フラックス3と同様に樹脂が含有されている。支持フラックス3及びスラグ形成フラックス2については、後に詳述する。
さらに、裏当てフラックス10の下には下敷きフラックス4を配置するとともに、開先に、表フラックス(図示せず)を散布する。
その後、開先の上側から表フラックスの中に向けて溶接ワイヤを送給し、鋼板1a、1bと溶接ワイヤとの間にアークを発生させる。
このとき、裏当てフラックス10において、溶融金属の熱の影響を受ける領域は熱分解されて溶融スラグとなり、この溶融スラグが、溶接裏面側の溶融金属を覆う。その後、溶融金属及び溶融スラグが冷却されて固まることにより、溶接金属5及びスラグ6が形成される。
ここで、本実施形態との比較のため、従来の裏当てフラックスを用いた片面サブマージアーク溶接方法を、図面を参照して説明する。
図2は、従来の裏当てフラックスを用いた片面サブマージアーク溶接方法を模式的に示す断面図である。図2に示すように、一対の鋼板11a、11bを略水平に突合せて開先を構成し、開先の裏面側に裏当てフラックス12を接触させて配置する。
さらに、裏当てフラックス12の下には下敷きフラックス14を配置するとともに、開先に、表フラックス(図示せず)を散布する。
その後、開先に散布された表フラックスの中に溶接ワイヤを送給し、鋼板1a、1bと溶接ワイヤとの間にアークを発生させることにより、片面サブマージアーク溶接を実施する。
このように、従来の溶接方法においても、裏当てフラックスにおいて、溶融金属等の熱の影響を受ける領域が溶融スラグとなり、また、溶融金属及び溶融スラグが冷却され、溶接金属15及びスラグ16が形成される。
しかしながら、従来の溶接方法を用いて、厚板の鋼板11a、11bに対して溶接を実施する場合に、大入熱溶接とする必要があるため、裏当てフラックス12が大量に溶融して、溶融スラグの生成量が増えてしまう。その結果、裏当てフラックス12が溶融した空間に溶融金属が流れ込み、裏ビード15aの高さが所望の高さを超えることになり、また、裏ビード15aの高さが不安定になる傾向がある。
また、溶融スラグの生成量の増加を抑制するために、溶融しにくい裏当てフラックス12を使用する場合、裏当てフラックス12があまり溶融せずに、溶融スラグも少量しか生成されないことになる。したがって、溶融金属が流れ込む空間ができず、裏ビード15aが十分に形成されないことや、裏面の開先が溶けずに融合不良が発生すること、裏ビード15aの外観が不良となること等の問題点が発生する。
一方、図1に示す本実施形態に係る溶接方法によると、裏ビード5aの外観を良好にするためのスラグ形成フラックスと、裏ビード5aの高さを一定に保つための支持フラックスとの2種類のフラックスを使用しているため、良好な裏ビード外観と安定した裏ビード高さとを得ることができる。
本発明において、鋼板1a、1bの裏面側に裏当てフラックス10を接触させて配置する方法としては、特に限定されない。例えば、以下に示すフラックスバッキング法及びカッパーバッキング法を使用することができる。
図3は、フラックスバッキング法により本実施形態に係る片面サブマージアーク溶接を実施する様子を示す模式図である。なお、図3において、図1と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。
図3に示すように、一対の鋼板1a、1bを略水平に配置して開先を構成し、この開先の下側に、スラグ形成フラックス2及び支持フラックス3からなる裏当てフラックス10を配置する。裏当てフラックス10は、不定形の袋状容器8に充填された下敷きフラックス4を介してエアホース20内の気体の圧力によって、鋼板1a、1bの裏面側に押圧される。
なお、エアホース20及び袋状容器8に充填された下敷きフラックス4は、上面側が解放された金属ケース9に収納されている。
このように、フラックスバッキング法を使用すると、エアホース20によって、スラグ形成フラックス2及び支持フラックス3を所定の位置に保持することができるとともに、これらを確実に鋼板1a、1bの裏面側に押圧することができる。
鋼板1a、1bの裏面側に裏当てフラックス10を接触させて配置する方法として、他に、カッパーバッキング法を使用することもできる。
図示は省略するが、カッパーバッキング法は、図3に示すフラックスバッキング法における下敷きフラックスを銅板に代えて、裏当てフラックス10を鋼板1a、1bの裏面側に押圧し、溶接を実施する方法である。
フラックスのみを用いるフラックスバッキング法は、鋼板の板厚差がある場合や、目違いがある場合であっても、鋼板裏面側に生じる段差に沿って、裏当てフラックス及び下敷きフラックスを配置することができるため、鋼板の板厚差や目違いの有無にかかわらず、溶接することが可能であるという利点を有する。
一方、上記フラックスカッパーバッキング法は、裏当てフラックスの下に銅板を配置しているため、裏ビードの高さを安定させやすいという利点を有する。
本実施形態に係る片面サブマージアーク溶接方法によると、裏当てフラックス10として、上層のスラグ形成フラックス2と下層の支持フラックス3とを積層しており、支持フラックス3により溶融金属を押さえることができる。したがって、銅板を使用することなく、裏ビードの高さを安定させることができる。
また、フラックスバッキング法を使用することにより、鋼板の板厚差がある場合や、目違いがある場合であっても、裏ビード高さを安定させつつ、良好な裏ビード外観を得ることができる。
このため、本実施形態において、フラックスバッキング法を適用すると、フラックスバッキング法とカッパーバッキング法の両者の利点を同時に得ることができるため、特に好適である。
本実施形態に係る片面サブマージアーク溶接方法において、特定の裏当てフラックス10を使用すること以外の溶接条件については特に制限されず、通常の片面サブマージアーク溶接方法における条件を使用することができる。電極については、1電極で実施する方法、2電極以上の多電極で実施する方法のいずれも選択することができる。
以下、裏当てフラックス10、並びに裏当てフラックス10を構成するスラグ形成フラックス2及び支持フラックス3等について、さらに詳細に説明する。
[1.裏当てフラックス]
裏当てフラックス10は、上層を構成するスラグ形成フラックス2と、下層を構成する支持フラックス3と、を有する。本実施形態において、スラグ形成フラックス2は、開先の裏面側に接触させて配置され、支持フラックス3は、スラグ形成フラックス2の下側に接触させて配置されていればよく、例えば、支持フラックス3の下側には、他の機能を有するフラックスを配置してもよい。
〔1-1.支持フラックス〕
下層の支持フラックスには安定した裏ビードの高さを得られるようにする効果が求められる。安定した高さの裏ビードを得ることができるようにするためには、支持フラックス自体が溶融しにくいこと、又は、支持フラックスが多少溶融したとしても溶融スラグの粘性が高いことが重要であると考えた。溶融スラグの粘性が高ければ、溶融スラグが支持フラックス3を構成する下層の下方まで深く入り込むことはなく、下層の上端で留まってスラグ化すると想定した。
そこで、本発明者らが種々検討した結果、粘性及び融点に着目し、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物や、融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物が、支持フラックスに求められる要求を満たす物質として有力であると考えた。
すなわち、本発明者らは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計を43質量%以上に調整した支持フラックスを用いることにより、安定した高さの裏ビードを得ることができることを見出した。
本実施形態においては、支持フラックス中に、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上含有させる。これにより、安定した裏ビードの高さを得ることができる。融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物としては、例えばSiOを用いることが好ましい。融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物としては、例えばAl、ZrOを用いることが好ましい。
支持フラックスの残部は特に限定されず、融点が1600℃未満かつ金属元素を1種のみ含む化合物、融点が1600℃未満かつ複数の金属元素を含む複合化合物、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物、融点が1600℃以上2000℃未満かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物、融点が1600℃以上かつ複数の金属元素を含む複合化合物、Fe、Si、Mn、Ti等の1種又は2種以上の金属粉、不可避的不純物を含んでもよい。
融点が1600℃未満かつ金属元素を1種のみ含む化合物は、例えば、CaF、MnO、NaO、KO、FeO、Feである。融点が1600℃未満かつ複数の金属元素を含む複合化合物は、例えば、CaO-MgO-SiO系の溶融フラックスである。融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物は、例えば、MgO、CaO、BaO、MnOである。融点が1600℃以上2000℃未満かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物は、例えば、TiOである。融点が1600℃以上かつ複数の金属元素を含む複合化合物は、例えば、BaTiO、CaTiO、MgAlである。
融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計が43質量%未満であると、支持フラックス3が溶融しやすくなり、溶融スラグの粘性も低下するため、後述するスラグ形成フラックスにより生成された溶融スラグ及び溶融金属を、支持フラックス3(下層)の上端でせき止めることができない。その結果、溶融スラグ及び溶融金属が、支持フラックス3層の中間あるいは下方まで入り込むことがあり、裏ビード5aの高さが不安定となる。
したがって、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計は43質量%以上とし、55質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく80質量%以上であることがさらに好ましい。また、これらの含有量の合計は、90質量%以上であっても、93質量%以上であっても、95質量%以上であってもよい。上限は100質量%とするが、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下である。なお、支持フラックス3には、樹脂が含有されている。
融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物は、フラックス中での形態について特に限定されない。酸性酸化物単体を粉砕したものや、酸性酸化物を含む鉱石原料をフラックスとして用いたものでもよい。同様に、融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物も、フラックス中での形態について特に限定されない。両性酸化物単体を粉砕したものや、両性酸化物を含む鉱石原料をフラックスとして用いたものでもよい。
ここで、本実施形態における酸性酸化物、両性酸化物及び複合酸化物について、より詳細に説明する。
酸化物はその反応性によって3つのタイプに分類されており、塩基と反応する酸性酸化物、酸と反応する塩基性酸化物、酸・塩基両方と反応する両性酸化物がある。金属元素を1種のみ含む酸性酸化物としては、例えばSiO、MoO、V等が挙げられ、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物としては、SiO等が挙げられる。
金属元素を1種のみ含む両性酸化物としては、Al、TiO、B、ZrO、Fe、Cr等が挙げられ、融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物としては、Al、ZrO、Cr等が挙げられる。
複合酸化物は複合化合物の一種である。複合酸化物は、複数の金属元素と酸素Oからなる酸化物をいう。例えば、CaO-MgO-SiO系の溶融フラックスは複合酸化物である。
(支持フラックスにより構成される下層の厚さ:3mm以上20mm以下)
本実施形態においては、上記支持フラックスにより形成される溶融スラグの融点が比較的高いものとなるため、裏ビードの高さが高くなりすぎないように制御することができる。
支持フラックスにより構成される下層の厚さが3mm以上であれば、裏ビードの高さを安定させることができる。したがって、下層の厚さは3mm以上とすることが好ましい。
一方、下層の厚さは特に限定されないが、実用上、20mm以下とすることが好ましい。なお、下層の厚さとは、鋼板の板厚方向に平行な方向における厚さを示す。
<1-1-1.支持フラックスに含有されている樹脂>
本実施形態において、支持フラックス3は、その表面に樹脂を有する。この樹脂としては、熱硬化性樹脂が含まれたものであり、熱により一旦溶融した後に硬化する特性を有しているものであればよい。支持フラックスがこのような樹脂を有していると、溶接トーチの溶接進行方向側において、溶融金属や溶融スラグの熱により溶融した樹脂は、その後に硬化し、支持フラックス3同士を接着させる。その結果、支持フラックス3の流動性を低下させ、溶融金属の流動性を低下させることができる。特に、支持フラックス3に含有された樹脂は、溶接方向に対して縦方向、すなわち上下方向の溶融金属の流動性を低下させることができる。したがって、支持フラックス3に樹脂が含有されていることにより、裏ビード5aの高さを一定に保つことができる。
樹脂の種類として、具体的には、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ樹脂、尿素系樹脂、キシレン系樹脂等を用いることができる。
また、上記のような支持フラックスを得る方法としては、原料となるフラックスと上記樹脂とを、エタノール、メタノール、アセトン等の溶媒と共に添加、混練した後、樹脂の溶融温度以下で乾燥する方法が挙げられる。なお、支持フラックスとしては、原料となるフラックスに樹脂がコーティングされたフラックスを使用することができるが、樹脂は原料となるフラックスの全表面にコーティングされている必要はなく、表面の少なくとも一部に付着されていればよい。
(樹脂の含有量:1.0質量%以上5.0質量%以下)
支持フラックスに含有されている樹脂の量、すなわち支持フラックス中の樹脂の含有量が1.0質量%以上であると、溶接時に、粉粒状のフラックスを適切に硬化させることができ、上述のとおり裏ビード外観をより良好にする効果を得ることができる。したがって、支持フラックス中の樹脂の含有量は、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましく、2.5質量%以上であることが特に好ましい。
一方、支持フラックスに含有されている樹脂の量が5.0質量%以下であると、溶接時に粉粒状のフラックスが硬化する程度を適切に調整することができ、上述のとおり裏ビード外観をより良好にすることができる。したがって、支持フラックス全質量に対する樹脂の含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましく、3.5質量%以下であることが特に好ましい。
〔1-2.スラグ形成フラックス〕
上述のとおり、スラグ形成フラックス2は、下層を構成する支持フラックス3と比較して溶融しやすいフラックスであり、上記支持フラックス3に43質量%以上含有される、溶融しにくいか、多少溶融しても溶融スラグの粘性が高いフラックス成分が43質量%未満に規制されている。具体的には、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計を43質量%未満に制限する。
言い換えると、スラグ形成フラックス2は、融点が1600℃未満かつ金属元素を1種のみ含む化合物と、融点が1600℃未満かつ複数の金属元素を含む複合化合物と、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物と、融点が1600℃以上2000℃未満かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物と、融点が1600℃以上かつ複数の金属元素を含む複合化合物と、金属粉と、樹脂のうち、1種または2種以上を合計で57質量%以上含有する。これらの合計の含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。上限は100質量%とするが、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下である。スラグ形成フラックス2にも、支持フラックス3と同様に、表面に樹脂が含有されている。残部は不可避的不純物が含まれていても良い。
前記融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物は、融点が1600℃以上2900℃以下かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物であると好ましい。前記融点が1600℃以上かつ複数の金属元素を含む複合化合物は、融点が1600℃以上2900℃以下かつ複数の金属元素を含む複合化合物であると好ましい。
融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計が43質量%を超えると、上述の支持フラックス3と同様の成分となり、溶融しにくいか、多少溶融しても溶融スラグの粘性が高いものとなる。その結果、十分な量の溶融スラグを生成させることができなくなり、裏ビードの外観が不良となる。さらに、スラグ形成フラックスの下方まで溶融しにくくなるため、鋼板1a、1bの裏面の下方に溶融金属が流れ込まないことで、鋼板の開先が溶融せず、融合不良が発生する。
融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計を43質量%未満に制限することにより、スラグ形成フラックス2の下方まで溶融スラグに変化し、十分な溶融スラグの量を生成することができる。その結果、溶融スラグが溶融金属を十分に覆うことができるので、裏ビードの外観を良好にすることができる。融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。なお、下限は特に限定されず、0質量%でもよい。
スラグ形成フラックス2において、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の含有量の合計が43質量%未満に制限されていれば、サブマージアーク溶接に用いる裏当てフラックスを用いることができる。サブマージアーク溶接用裏当てフラックスであれば、溶融フラックスや、焼結フラックス、ボンドフラックス、混合フラックスを用いることができる。溶融フラックスとボンドフラックスの混合物や、溶融フラックスと焼結フラックスの混合物であっても用いることができる。
(スラグ形成フラックスにより構成される上層の厚さ:1mm以上7mm以下)
本実施形態においては、上記スラグ形成フラックスによる溶融スラグの融点が比較的低いものとなるため、スラグ形成フラックスにより構成される上層の厚さを適切に調整することにより、より一層所望の高さの裏ビードを得ることができる。なお、上層の厚さとは、鋼板の板厚方向に平行な方向における厚さを示す。
上層の厚さが1mm以上であれば、溶融金属が流れ込む高さとスラグ量が適切となり、より一層良好な裏ビード外観を得ることができる。一方、上層の厚さが7mm以下であれば、裏ビードの高さをより一層一定に保つことができる。
したがって、上層の厚さは、1mm以上7mm以下とすることが好ましく、1.5mm以上、5mm以下とすることがさらに好ましい。
<1-2-1.スラグ形成フラックスに含有されている樹脂>
本実施形態において、スラグ形成フラックス2も、その表面に樹脂を有する。この樹脂としては、熱により一旦溶融した後に硬化する特性を有しているものであればよい。スラグ形成フラックスがこのような樹脂を有していると、溶接トーチの溶接進行方向側において、溶融金属や溶融スラグの熱により溶融した樹脂は、その後に硬化し、スラグ形成フラックス2同士を接着させる。その結果、スラグ形成フラックス2の流動性を低下させ、溶融金属の流動性を低下させることができる。特に、スラグ形成フラックス2に含有された樹脂は、溶接方向に対して横方向、すなわち左右方向の溶融金属の流動性を低下させることができる。したがって、スラグ形成フラックス2に樹脂が含有されていることにより、上記支持フラックスに含有されている樹脂との相乗効果により、裏ビード5aの高さを一定に保つことができる。
樹脂の種類、スラグ形成フラックスを得る方法及び樹脂が含有されている形態については、上記支持フラックスの場合と同様である。
(樹脂の含有量:1.0質量%以上5.0質量%以下)
スラグ形成フラックスに含有されている樹脂の量、すなわちスラグ形成フラックス中の樹脂の含有量が1.0質量%以上であると、溶接時に、粉粒状のフラックスを適切に硬化させることができ、上述のとおり裏ビード外観をより良好にする効果を得ることができる。したがって、スラグ形成フラックス全質量に対する樹脂の含有量は、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましく、2.5質量%以上であることが特に好ましい。
一方、スラグ形成フラックスに含有されている樹脂の量が5.0質量%以下であると、溶接時に粉粒状のフラックスが硬化する程度を適切に調整することができ、上述のとおり裏ビード外観をより良好にすることができる。したがって、スラグ形成フラックス全質量に対する樹脂の含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましく、3.5質量%以下であることが特に好ましい。
<1-2-2.スラグ形成フラックスの組成>
本実施形態において、スラグ形成フラックスの組成については〔1-2.スラグ形成フラックス〕で述べた条件を満たす限り、特に限定されない。CaF、SiO、TiO、ZrO、MgOの1種又は2種以上を含有してもよい。さらに、Fe、Si、Mn、Ti等の1種又は2種以上の金属粉を含有してもよい。
本実施形態において、CaFは、融点が1600℃未満であって、金属元素を1種のみ含む化合物である。本実施形態において、SiOは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物である。本実施形態において、TiOは、融点が1600℃以上2000℃未満かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物である。である。本実施形態において、MgOは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物である。本実施形態において、ZrOは、融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物である。
[2.下敷きフラックス]
本実施形態においては、裏当てフラックス10の下側に、下敷きフラックス4を配置したが、本発明において、下敷きフラックス4は必ずしも必要なものではない。例えば、裏当てフラックス10の下側に銅板を配置する場合であっても、下敷きフラックス4と同様の作用を得ることができる。
下敷きフラックスを用いる場合に、その原料としては、耐吸湿性に優れる原料を用いることができる。
[3.その他の条件]
<3-1.スラグ形成フラックス及び支持フラックスの粒度構成>
(FU400/FU212により算出される値:0.30以下)
スラグ形成フラックス全質量に対して、粒径が400μm以上であるスラグ形成フラックスの総量をFU400(質量%)とし、粒径が212μm以下であるスラグ形成フラックスの総量をFU212(質量%)とする場合に、FU400/FU212により算出される値を0.30以下とすると、スラグ形成フラックスの粒同士の隙間が多くなり、密度が低くなる。また、本実施形態においては、スラグ形成フラックスは比較的溶融しやすい材料により構成されているため、溶融スラグ化するスラグ形成フラックスの見かけ上の体積が大きくなるとともに、スラグ形成フラックスが溶融スラグ化したことにより生じる空きスペースも大きくなる。そして、上記のようにして得られた十分な空きスペースに、溶融金属が流れ込むため、適度な裏ビード高さを得ることができる。
したがって、FU400/FU212により算出される値は、0.30以下とすることが好ましい。なお、特に下限はないが、FU400/FU212より算出される値は0.01以上とすることが好ましい。
(FL400/FL212により算出される値:0.50以上3.80以下)
支持フラックス全質量に対して、粒径が400μm以上である支持フラックスの総量をFL400(質量%)とし、粒径が212μm以下である支持フラックスの総量をFL212(質量%)とする場合に、FL400/FL212により算出される値を0.50以上3.80以下とすると、支持フラックスの粒同士の隙間が少なくなり、密度が高くなる。また、本実施形態においては、支持フラックスは比較的溶融しにくい材料により構成されているため、溶融スラグ化する支持フラックスの見かけ上の体積が小さくなり、また、支持フラックスが溶融スラグ化しても大きな空きスペースは形成されない。その結果、支持フラックスにより構成される下層の高さは大きく変化せず、溶融スラグ及び溶融金属の位置も大きく変化しないため、裏ビード高さをより安定させることができる。
したがって、FL400/FL212により算出される値は、0.50以上とすることが好ましく、0.55以上とすることがより好ましい。また、FL400/FL212により算出される値は、3.80以下とすることが好ましい。
(粒径が850μm以上である支持フラックスの総量:18質量%以下(0質量%を含む))
上述のとおり、支持フラックスの粒同士の隙間を減らし、支持フラックスの密度を上げるためには、大きい粒径(FL400)を有する支持フラックスと、小さい粒径(FL212)を有する支持フラックスとをバランスよく配合することが重要である。
さらに、粗大な粒を一定量以下に抑制することにより、より一層安定して粒同士の隙間を減らすことができ、その結果、裏ビードの高さをより安定させることができる。
したがって、支持フラックス全質量に対して、粒径が850μm以上である支持フラックスの総量は、18質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがさらに一層好ましい。また、粒径が850μm以上である支持フラックスの総量は、0質量%であることが特に好ましい。
(鋼板の厚さ:20mm超)
上述のとおり、従来の片面サブマージアーク溶接方法によると、厚板になるほど入熱を大きくする必要があり、熱影響によって、裏ビードの高さが不安定になる傾向があった。本実施形態においては、厚板を溶接する場合であっても、裏ビードの高さを安定させることができるとともに、良好な裏ビード外観を得ることができる。したがって、溶接対象とする鋼板の厚さは特に限定されないが、例えば、20mm超の厚さの鋼板にも好適に使用することができる。溶接対象とする鋼鈑の厚さの上限は、例えば、55mm以下が好ましい。
なお、本実施形態に係る支持フラックスは、上記〔1-1.支持フラックス〕で説明したとおりである。
また、本実施形態に係る裏当てフラックスは、上記[1.裏当てフラックス]で説明したとおりである。
(スラグ形成フラックス、支持フラックスの製造方法)
本実施形態に係るスラグ形成フラックス及び支持フラックスを製造する方法としては、従来の方法を用いることができる。例えば、前述した組成となるように原料粉を配合し、樹脂と共に混練することで製造することが可能である。
支持フラックス及びスラグ形成フラックスを目的とする粒度に調整する方法としては、特に制限されず、例えば以下の方法を使用することができる。予め篩などにかけて粒度を調整した原料粉を用いる方法、混練後のフラックスを篩にかけることで粒度分布を調整する方法等、いずれの方法を用いて調整してもよい。
以下、発明例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[片面サブマージアーク溶接]
被溶接材として、厚さが25mmである鋼板を2枚準備するとともに、第1電極~第4電極の4電極を準備した。また、含有される成分や、粒度構成が異なるスラグ形成フラックス及び支持フラックスを準備した。
次に、図3に示すフラックスバッキング法に適用できるように、準備した上記の鋼板、表フラックス、スラグ形成フラックス及び支持フラックスを配置し、溶接速度を800(mm/分)として、片面サブマージアーク溶接を実施した。
第1電極~第4電極の溶接電流、アーク電圧、及びこれらの電極で使用したワイヤのワイヤ径を以下に示す。
(第1電極)溶接電流:1400A、アーク電圧:35V、ワイヤ径:4.0mm
(第2電極)溶接電流:1000A、アーク電圧:32V、ワイヤ径:4.8mm
(第3電極)溶接電流:1200A、アーク電圧:44V、ワイヤ径:4.8mm
(第4電極)溶接電流:1150A、アーク電圧:44V、ワイヤ径:6.4mm
[評価]
得られた溶接金属について、裏ビードの高さ安定性及び裏ビードの外観を評価した。
(裏ビードの高さ安定性の評価方法及び評価基準)
鋼板の始端から600mm~900mmの範囲に対して、0.10mm間隔でレーザ変位計を用いて計測し、標準偏差を算出することにより、裏ビードの高さ安定性を評価した。
評価基準としては、標準偏差が0.55mm未満であったものを◎(優良)とし、0.55mm以上1.00mm未満であったものを○(良好)とし、1.00mm以上であったものを×(不良)とした。
(裏ビードの外観の評価方法及び評価基準)
裏ビードを目視で観察することにより、裏ビードの外観を評価した。
評価基準としては、良好であったものを○、不良であったものを×とした。
被溶接材としての鋼板の種類及び組成を下記表1に示し、使用したワイヤの組成を下記表2に示し、表フラックスの組成を下記表3に示す。また、発明例のスラグ形成フラックス及び支持フラックスの組成を、それぞれ下記表4及び表5に示し、比較例のスラグ形成フラックス及び支持フラックスの組成を、それぞれ下記表6及び表7に示す。さらに、粒度分布を下記表8に示し、スラグ形成フラックス及び支持フラックスの粒度構成、樹脂量(質量%)及び散布の高さ(mm)、並びに評価結果を下記表9に示す。表4~7において、数値が記載されているものは、スラグ形成フラックス及び支持フラックスに意図的に含有されている組成を示している。表4~7における「-」は、スラグ形成フラックス及び支持フラックスに意図的に含有されていないことを示している。表4~7における合計の残部は、スラグ形成フラックス及び支持フラックスに意図的に含有されていない不可避的不純物である。不可避的不純物には、意図的に含有されていない融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む塩基性酸化物及び融点が1600℃以上2000℃未満かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物、融点が1600℃未満かつ金属元素を1種のみ含む化合物、融点が1600℃未満かつ複数の金属元素を含む複合化合物、及び、Fe、Ti、Mn及びSiの少なくとも1種を含む金属粉のうち、1種または2種類以上が微量含まれる。
Figure 2023178085000002
Figure 2023178085000003
Figure 2023178085000004
Figure 2023178085000005
Figure 2023178085000006
Figure 2023178085000007
Figure 2023178085000008
Figure 2023178085000009
Figure 2023178085000010
上記表4~9に示すように、発明例No.1~18は、裏当てフラックスの上層として、樹脂が含有され、本発明において規定する特定の性質を有するスラグ形成フラックスを配置し、下層として、樹脂が含有され、本発明において規定する特定の性質を有する支持フラックスを配置して、片面サブマージアーク溶接を実施している。したがって、裏ビードの高さが安定しており、良好な外観を有する裏ビードを得ることができた。特に、発明例No.1~15、発明例No.17及び18は、支持フラックスの粒度構成(FL400/FL212)の値が、本発明において規定するより好ましい下限値よりも大きい値であるため、裏ビードの高さ安定性がより一層優れた結果となった。
一方、比較例No.1~4は、表7に示す支持フラックス中の融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が、本発明で規定する範囲から外れている。特に、表6及び表7に示すように、比較例No.1は、支持フラックスとして、スラグ形成フラックスと同じものを使用しており、1層の構造となっている。したがって、いずれも、裏ビードの高さが不安定となり、裏ビードの外観も不良となった。
また、比較例No.5~7は、表6に示すスラグ形成フラックス中の融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が本発明で規定する範囲から外れており、特に、比較例No.6は、スラグ形成フラックスとして、支持フラックスと同じものを使用しており、1層の構造となっている。したがって、裏ビードの外観が不良となった。
1a,1b,11a,11b 鋼板
2 スラグ形成フラックス
3 支持フラックス
4,14 下敷きフラックス
5,15 溶接金属
6,16 スラグ
10,12 裏当てフラックス

Claims (10)

  1. 一対の鋼板を突合せて開先を構成し、前記開先の裏面側に裏当てフラックスを接触させて配置し、前記開先の表面側から溶接を行う片面サブマージアーク溶接方法であって、
    前記裏当てフラックスは、上層を構成するスラグ形成フラックスと、下層を構成する支持フラックスと、を有し、
    前記スラグ形成フラックス及び前記支持フラックスには、いずれも樹脂が含有されており、
    前記スラグ形成フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が43質量%未満(0%を含む)であり、
    前記支持フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上を含有する、片面サブマージアーク溶接方法。
  2. 前記スラグ形成フラックス全質量に対して、粒径が400μm以上であるスラグ形成フラックスの総量をFU400(質量%)とし、粒径が212μm以下であるスラグ形成フラックスの総量をFU212(質量%)とする場合に、
    U400/FU212により算出される値が0.30以下であり、
    前記支持フラックス全質量に対して、粒径が400μm以上である支持フラックスの総量をFL400(質量%)とし、粒径が212μm以下である支持フラックスの総量をFL212(質量%)とする場合に、
    L400/FL212により算出される値が0.50以上3.80以下である、請求項1に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  3. 前記スラグ形成フラックスは、スラグ形成フラックス全質量に対して、樹脂を1.0質量%以上5.0質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  4. 前記支持フラックスは、支持フラックス全質量に対して、樹脂を1.0質量%以上5.0質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  5. 前記鋼板の板厚方向に平行な方向における前記上層の厚さは、1mm以上7mm以下であり、
    前記鋼板の板厚方向に平行な方向における前記下層の厚さは、3mm以上20mm以下である、請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  6. フラックスバッキング法を用いる、請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  7. 前記鋼板の板厚は、20mm超である、請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  8. 支持フラックス全質量に対して、粒径が850μm以上である支持フラックスの総量は、18質量%以下である、請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  9. 一対の鋼板を突合せて開先を構成し、前記開先の上側から溶接を行う片面サブマージアーク溶接方法に用いられ、前記開先の裏面側に配置される、上層及び下層を有する裏当てフラックスのうち、前記上層を構成するスラグ形成フラックスの下側に配置され、前記スラグ形成フラックスを支持する支持フラックスであって、
    樹脂が含有されており、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が43質量%未満であるスラグ形成フラックスの下側に配置され、
    樹脂が含有されており、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上を含有する、支持フラックス。
  10. 一対の鋼板を突合せて開先を構成し、前記開先の上側から溶接を行う片面サブマージアーク溶接方法に用いられ、前記開先の裏面側に配置される裏当てフラックスであって、
    前記開先の裏面側に接触させて配置されるスラグ形成フラックスと、前記スラグ形成フラックスの下側に配置される支持フラックスとを有し、
    前記スラグ形成フラックス及び前記支持フラックスには、いずれも樹脂が含有されており、
    前記スラグ形成フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上の合計の含有量が43質量%未満であり、
    前記支持フラックスは、融点が1600℃以上かつ金属元素を1種のみ含む酸性酸化物と融点が2000℃以上かつ金属元素を1種のみ含む両性酸化物のうち、1種又は2種以上を合計で43質量%以上を含有する、裏当てフラックス。
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